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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08K
管理番号 1229595
審判番号 不服2007-13260  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-07 
確定日 2011-01-04 
事件の表示 特願2004-205589「カーボンナノチューブ含有分散体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月13日出願公開、特開2005- 8893〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年3月26日を国際出願日とする特許出願(特願2002-575217号(パリ条約に基づく優先権主張 2001年3月26日 同年8月14日(3件) いずれもアメリカ合衆国))の一部を、平成16年7月13日に特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成18年3月1日付けで拒絶理由が通知され、同年9月14日に意見書及び手続補正書が提出され、平成19年2月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月7日に拒絶査定不服審判が請求され、同年6月5日に手続補正書が提出され、同年8月20日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年10月26日に前置報告がなされ、当審において平成21年2月17日付けで審尋がなされ、同年7月2日に回答書が提出された。さらに、当審において、同年12月28日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、平成22年7月2日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成22年7月2日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の記載からみて、その請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「ポリマー材料をさらに含み、前記ポリマー材料が、熱可塑性樹脂、熱硬化性ポリマー、エラストマー、導電性ポリマーおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される材料を含む、溶媒に外径が0.5nm以上3.5nm未満のカーボンナノチューブを分散させた分散体であって、基板表面に塗布し、前記溶媒を除去した後、樹脂を被覆してコーティングフィルムを形成する際に適用することを特徴とするカーボンナノチューブ含有コーティングフィルム形成用分散体。」(当審注:請求項3は、請求項1を引用して記載する引用形式請求項であるが、独立形式請求項に変更すれば、本願発明は上記のとおりのものである。)

第3.当審で通知した拒絶の理由の概要
当審で通知した平成21年12月28日付けの拒絶理由通知書に記載した理由1の概要は、平成18年9月14日に提出された手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲における請求項1?4及び6?11に係る発明は、下記の刊行物1、2又は3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。



刊行物1:特開平9-115334号公報
刊行物2:特開2000-26760号公報
刊行物3:特開2001-11344号公報

第4.当審の判断
[1]刊行物の記載事項
(1)刊行物2の記載事項
<摘示コ>「【請求項1】 被膜形成性成分に、カーボンナノチューブおよびカーボンマイクロコイルのいずれか一方又は双方を配合したことを特徴とする機能性コーティング剤組成物。
【請求項2】 被膜形成性成分が下記(a)?(d)から選ばれた一のものであることを特徴とする請求項1記載の機能性コーティング剤組成物。
(a)オルガノポリシロキサンを主剤とし、それに架橋剤として官能性側鎖を有するオルガノシロキサンおよび硬化触媒が配合された組成物。
(b)セラミックス粒子に高熱用溶媒が配合された組成物。
(c)ペルヒドロポリシラザンの有機溶媒溶液。
(d)金属酸化物粉末の存在下に低分子量のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を触媒を用いて反応させ、調製されたプレポリマー。」(特許請求の範囲)

<摘示サ>「上記従来の状況に鑑み、本発明の目的は、優れた抵抗発熱性、静電気防止性、電磁波シールド性、電界シールド性等の諸機能を備えた、カーボンナノチューブあるいはカーボンマイクロコイルを利用した機能性コーティング剤組成物を提供することにある。」(段落【0003】)

<摘示シ>「カーボンナノチューブおよびカーボンマイクロコイルのいずれか一方又は双方を配合する被膜形成性成分としては、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノアルキド樹脂、メラミン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等の通常使用される有機系ポリマーや、無機系ポリマー等を用いることができ、特に限定されるものではない。」(段落【0008】)

<摘示ス>「本発明で用いるカーボンナノチューブあるいはカーボンマイクロコイルとしては、公知の種々カーボンナノチューブおよびカーボンマイクロコイルを用いることができる。カーボンナノチューブは、一般に、炭素からなる、外径2?70nmで、長さが直径の10^(2) 倍以上である円筒状の中空繊維状のものであって、炭素含有ガスの気相分解反応や、炭素棒・炭素繊維等を用いたアーク放電法等によって得られるものである。」(段落【0013】)

<摘示セ>「本発明の機能性コーティング剤組成物の調製は、上記各種被膜形成性成分のいずれかと、カーボンナノチューブおよびカーボンマイクロコイルのいずれか一方又は双方とを、ヘンシェルミキサー、オープンロールミキサー、バンバリー混合機等の公知の混合手段を用いて適宜混合して行うことができる。
得られた機能性コーティング剤組成物は、スピンコート法、ディッピングコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、印刷法など公知の塗布方法により、所望の基体表面に、所望の厚さの均一な塗膜を容易に設けることができる。本発明の機能性コーティング剤組成物を塗布する基体は、特に制限する必要はなく、種々の材質の基体を適宜選択することができる。
また、基体に塗布された本発明の機能性コーティング剤組成物の塗膜は、硬化あるいは乾燥させて、コーティング被膜とされる。この硬化あるいは乾燥の条件は、用いる被膜形成性成分の種類等に応じて適宜選択できる。」(段落【0014】?【0016】)

<摘示ソ>「本発明の機能性コーティング剤組成物を硬化あるいは乾燥させて形成された被膜は、優れた抵抗発熱性、静電気防止性、電磁波シールド性、電界シールド性等の諸特性を有する。したがって、本発明の機能性コーティング剤組成物は、抵抗発熱材、静電気防止材、電磁波シールド材、電磁波吸収材等として種々の分野に好適に用いることができる。」(段落【0018】)

<摘示タ>「実施例1
ヒートレスガラス GS600A1(ホ-マーテクノロジー(株)販売;商品名;オルガノポリシロキサンを主剤とし、それに架橋剤として官能性側鎖を有するオルガノシロキサンおよび硬化触媒が配合された組成物)100重量部、イソペンチルアルコール20重量部およびカーボンナノチューブ(ハイペリオン・カタリシス・インターナショナル社製Graphite Fibrils・Grades BN)5重量部とを、ボールミルで6時間混合してコーティング剤組成物を調製した。」(段落【0019】)

(2)刊行物3の記載事項
<摘示チ>「【請求項1】 有機高分子材料を含む溶液中に単層ナノチューブを分散させてなることを特徴とする塗料。
【請求項2】 前記単層ナノチューブは単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1記載の塗料。
・・・
【請求項4】 前記有機高分子材料はポリメチルメタクリレートであることを特徴とする請求項1、2または3記載の塗料。
・・・
【請求項6】 有機高分子材料を含む溶液中に、超音波を用いて単層ナノチューブを分散させる工程を備えたことを特徴とする塗料の製造方法。
【請求項7】 基体上に請求項1、2、3または4記載の塗料を用いて膜を形成する膜の製造方法であって、前記塗料をスプレー法により前記基体上に塗布する工程を備えたことを特徴とする膜の製造方法。」(特許請求の範囲)

<摘示ツ>「単層ナノチューブとしては、以下の方法で合成された単層カーボンナノチューブが好適に用いられる。この単層カーボンナノチューブを合成するには、まず、ターゲットとしてニッケル(Ni)およびコバルト(Co)を0.3atmic%づつ含有する炭素棒を用意し、このターゲットを電気炉内で、例えば1200℃の高温で加熱し、アルゴン(Ar)などの不活性ガスを流しながら、このターゲットにパルスレーザーを照射する。これにより、単層カーボンナノチューブを得ることができる。
この単層カーボンナノチューブは、上記の合成法の他、アーク放電法やCVD法など、他の合成法により合成したものを用いてもよい。」(段落【0014】?【0015】)

<摘示テ>「この塗料をスプレー法を用いて基板上に塗布することにより、凝集の無い均一な膜を得ることができる。」(段落【0016】)

<摘示ト>「まず、ナノチューブを合成し、得られたナノチューブをポリメチルメタクリレート溶液に加え撹拌する。ここでは、上述した合成法により合成した単層カーボンナノチューブを用い、得られた単層カーボンナノチューブをポリメチルメタクリレート溶液に加え撹拌した。
具体的には、ポリメチルメタクリレート液10mlに対し、単層カーボンナノチューブを60mg加えた。ポリメチルメタクリレート溶液の溶媒としては、例えばモノクロロベンゼン等が好適である。」(段落【0017】?【0018】)

<摘示ナ>「本発明の塗料の製造方法によれば、有機高分子材料を含む溶液中に、超音波を用いて単層ナノチューブを分散させる工程を備えたので、有機高分子材料を含む溶液中に、単層ナノチューブを均一に分散させることができ、高均一性の塗料を製造することができる。
本発明の膜の製造方法によれば、前記塗料をスプレー法により前記基体上に塗布する工程を備えたので、塗料が微粒子の状態で基板上に付着することにより凝集を最小限に抑制することができ、凝集の無い均一な膜を得ることができる。」(段落【0026】?【0027】)

[2]刊行物に記載された発明
(1)刊行物2に記載された発明
摘示コ、シ及びタには被膜形成性成分として、具体的なポリマーを溶媒とともに用いることが記載されている。
したがって、摘示コ?セ及びタからみて、刊行物2には、「有機系ポリマー又は無機系ポリマーと溶媒からなる被膜形成性成分に外径2?70nmのカーボンナノチューブを配合した組成物であって、基板表面に塗布し、乾燥させて、被膜を形成する際に適用することを特徴とするカーボンナノチューブ含有コーティング剤組成物」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

(2)刊行物3に記載された発明
摘示チ、テ及びナには、摘示チに記載の塗料をスプレー法により基体上に塗布して膜を形成することが記載されており、出願時の技術常識からみて、該膜の形成に際し溶媒が除去されることは明らかである。
したがって、摘示チ及びテ?ナからみて、刊行物3には、「ポリメチルメタクリレート溶液に単層カーボンナノチューブを分散させた塗料であって、基板表面に塗布し、前記溶媒を除去して、膜を形成する際に適用することを特徴とするカーボンナノチューブ分散塗料」の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。

[3]本願発明の容易想到性
1.引用発明2
(1)対比・判断
引用発明2における「有機系ポリマー又は無機系ポリマー」は、本願発明における「ポリマー材料」に相当する。
また、引用発明2における「カーボンナノチューブ含有コーティング剤組成物」は、「被膜」を形成する際に適用するものであり、該「被膜」は、本願発明における「コーティングフィルム」に相当する。
そして、摘示セには、引用発明2の組成物の調製は、被膜形成性成分とカーボンナノチューブとをヘンシェルミキサー、オープンロールミキサー、バンバリー混合機等の公知の混合手段を用いて適宜混合して行う旨記載されており、該混合手段によって、組成物中に被膜形成性成分及びカーボンナノチューブが分散されることは、出願時の技術常識からみて明らかである。
したがって、引用発明2における「カーボンナノチューブ含有コーティング剤組成物」は、本願発明における「カーボンナノチューブ含有コーティングフィルム形成用分散体」に相当する。
また、引用発明2における「乾燥させて」は、本願発明における「溶媒を除去した後」に相当する。
そこで、本願発明と引用発明2とを対比すると、両者は、「有機系ポリマー又は無機系ポリマーであるポリマー材料をさらに含み、溶媒に外径が2nm以上3.5nm未満のカーボンナノチューブを分散させた分散体であって、基板表面に塗布し、前記溶媒を除去して、コーティングフィルムを形成する際に適用することを特徴とするカーボンナノチューブ含有コーティングフィルム形成用分散体」である点で一致し、相違点1及び2で相違する。

<相違点1>
分散体の「適用」すなわち分散体の用途としてのコーティングフィルムの形成において、本願発明では「基板表面に塗布し、溶媒を除去」した後、「樹脂を被覆」すると特定されているのに対し、引用発明2では「基板表面に塗布し、溶媒を除去」するのみで「樹脂を被覆」するとの特定がない点。

<相違点2>
ポリマー材料が、本願発明では、「熱可塑性樹脂、熱硬化性ポリマー、エラストマー、導電性ポリマーおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される材料を含む」と特定されているのに対し、引用発明2では、「有機系ポリマー又は無機系ポリマー」とだけ特定されている点。

<相違点1について>
摘示ソからみて、引用発明2の組成物は、抵抗発熱材、静電気防止材、電磁波シールド材、電磁波吸収材等の種々の用途において被膜を形成する際に適用するものである。
そして、上記用途において、引用発明2の組成物を基板表面に塗布し、乾燥させた被膜上に、さらに樹脂を被覆することは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。
すなわち、引用発明2の組成物の「適用」において、基板表面に塗布し、溶媒を除去した後、樹脂を被覆してコーティングフィルムを形成することは、当業者が適宜なし得たことである。
また、本願明細書の記載をみても、本願発明の分散体が、基板表面に塗布し、溶媒を除去した後、樹脂を被覆することによって、格別の効果を奏するものであるとはいえない。

<相違点2について>
摘示シには、引用発明2における「ポリマー材料」としての「有機系ポリマー又は無機系ポリマー」について、「熱可塑性樹脂」や「熱硬化性ポリマー」に該当する具体的な「有機系ポリマー」が挙げられるとともに、「通常使用される有機系ポリマーや、無機系ポリマー等を用いることができ、特に限定されるものではない。」と記載されているから、該「有機系ポリマー」として、摘示シに挙げられた「有機系ポリマー」や、必要に応じて、その他の周知慣用の熱可塑性樹脂、熱硬化性ポリマー、エラストマー又は導電性ポリマーを採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)請求人の主張
請求人は、平成22年7月2日に提出された意見書において、「引用文献2は、被膜形成性成分に、外径が2?70nmのカーボンナノチューブおよびカーボンマイクロコイルのいずれか一方又は双方を配合したことを特徴とする機能性コーティング剤組成物を開示します。しかし、この文献の実施例で使用されているのはハイペリオン・カタリシス・インターナショナル社製Graphite Fibrils Grades BNのみであり、その外径は15nmと引用文献1(段落0040)に記載されています。しかもこのチューブは物理的に片に切らなければそれらを分離できないようにもつれさせたチューブであるので、本願発明とは異なりチューブの各々が分散された分散体を形成せず、溶媒に添加された場合でも塊状のままです。これに対し、本願発明では、カーボンナノチューブは外径が0.3?3.5nmと細く、溶媒に個別に分散されています。また、該溶媒は塗布後、蒸発留去され基板にはカーボンナノチューブのみが残り、カーボンナノチューブが塗布された基板は樹脂で被覆されるものであり、被膜形成性成分は本願分散体では必要ではありません。」と主張する。(なお、上記「引用文献2」は、「刊行物2」と同一の文献である。)
請求人は、上記のとおり、本願発明と引用発明2の差異は、1)刊行物2に記載の実施例で使用するカーボンナノチューブの外径が15nmである点、2)引用発明2におけるカーボンナノチューブが塊状である点、及び、3)本願発明では被膜形成性成分が必要でない点にある旨主張しているので、検討する。

1)カーボンナノチューブの外径について
刊行物2のいずれの記載をみても、引用発明2におけるカーボンナノチューブが、刊行物2に記載の実施例で使用されている「ハイペリオン・カタリシス・インターナショナル社製Graphite Fibrils Grades BN」に限定されると解する根拠はない。
したがって、請求人の主張するとおり上記「ハイペリオン・カタリシス・インターナショナル社製Graphite Fibrils Grades BN」の外径が15nmであるとしても、引用発明2におけるカーボンナノチューブの外径が2?70nmと記載され、そのような外径のカーボンナノチューブは刊行物2の頒布時にすでに存在していたことから、刊行物2には外径が15nmのカーボンナノチューブだけではなく、外径2?70nmのカーボンナノチューブも記載されていたといえる。
そうすると、本願発明と引用発明2におけるカーボンナノチューブの外径は、2nm以上3.5nm未満において一致すると解するのが相当である。

2)カーボンナノチューブが塊状であることについて
請求人の主張するとおり、刊行物2に記載の実施例で使用されている「ハイペリオン・カタリシス・インターナショナル社製Graphite Fibrils Grades BN」が物理的に片に切らなければそれらを分離できないようにもつれさせたチューブであって、チューブの各々が分散された分散体を形成せず、溶媒に添加された場合でも塊状のままであるとするならば、該実施例(摘示タ)においてボールミルで6時間混合して調製したコーティング剤組成物中には、塊状の「ハイペリオン・カタリシス・インターナショナル社製Graphite Fibrils Grades BN」が不均一に存在するものと解される。
一方、本願明細書には、本願発明におけるカーボンナノチューブの分散について、「分散体は、好ましくは2種類以上の異種材料が均一または不均一に分散した組成物であるが、これに限定されるものではない。・・・異種とは、化学組成を指す場合もあるし、分散体の材料の形態または寸法を指す場合もある。」(段落【0017】)と記載され、「ナノチューブは、ポリマー材料全体に実質的に均一に分散する場合もあるが、外面から材料の中央部に向かって、または一方の面からもう一方の面までなどで量の増加または減少(例えば濃度)の勾配がある状態で存在してもよい。あるいは、ナノチューブは外部スキン層または内部層として分散してもよく、この場合には内部積層構造が形成される。」(段落【0019】)と記載され、実施例においては「表1のナノチューブを、Titanium SI-DETA(セラマー(ceramer)複合樹脂、この実施例はエポキシやウレタンのような他の樹脂系でも繰り返した)中で8分間超音波処理して、ガラスまたはポリカーボネートのスライド上にキャストした。1組のハイペリオンMWNTはトルエン中で超音波処理した後、IPAで洗浄し、Titanium SI-DETAに加えて、それをさらに4分間超音波処理した。」(段落【0022】)と記載されている。
該実施例においては、超音波処理されていることからみて、請求人の主張するとおりカーボンナノチューブが「溶媒に個別に分散」されている蓋然性が高いと解されるが、本願明細書には、本願発明の分散体を該実施例に限定する記載はなく、本願発明の分散体においてカーボンナノチューブを「溶媒に個別に分散」することの技術的意義を説明する記載もなく、また、カーボンナノチューブの外径を0.5nm以上3.5nm未満に特定することと、カーボンナノチューブが「溶媒に個別に分散」することとの因果関係を説明する記載もない。
そして、段落【0017】及び【0019】には、上記のとおり、本願発明の分散体は形態又は寸法の異なるカーボンナノチューブが不均一に分散した組成物である旨記載されており、また、出願時の技術常識からみて、いわゆる分散体における分散粒子には、数μm以上の粗大粒子から分子まで広範囲の形態又は寸法の異なる粒子が該当し、また、形態又は寸法の異なる各々分離していない種々の塊からなるカーボンナノチューブは、周知慣用のカーボンナノチューブである。
そうすると、本願発明における「分散」には、カーボンナノチューブが「溶媒に個別に分散」された状態のみならず、分散処理を施しても「溶媒に個別に分散」できずに塊状のままのカーボンナノチューブが不均一に存在する状態をも包含されると解するのが相当である。
したがって、引用発明2における「カーボンナノチューブ」が塊状であるとしても、該「カーボンナノチューブ」は、引用発明2の組成物中に、本願発明3における「カーボンナノチューブ」と同様に「分散」されているというべきである。
よって、先に検討したとおり、引用発明2における「組成物」は、本願発明における「分散体」に相当する。

3)被膜形成性成分について
本願発明は、溶媒に外径が0.5nm以上3.5nm未満のカーボンナノチューブを分散させた分散体がさらにポリマー材料を含むものであるから、被膜形成性成分を含有するものであることは明らかである。
したがって、本願発明では被膜形成性成分が必要でないと解する根拠はない。

4)小括
以上のとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。

(3)まとめ
よって、本願発明は、刊行物2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.引用発明3
(1)対比・判断
引用発明3における「ポリメチルメタクリレート」は、本願発明における「ポリマー材料」及び「熱可塑性樹脂」に相当する。
そして、引用発明3の塗料は、「膜」を形成する際に適用するものであり、該「膜」は本願発明における「コーティングフィルム」に相当する。
したがって、引用発明3における「カーボンナノチューブ分散塗料」は、本願発明における「カーボンナノチューブ含有コーティングフィルム形成用分散体」に相当する。
そこで、本願発明と引用発明3とを対比すると、両者は、「ポリマー材料をさらに含み、前記ポリマー材料が熱可塑性樹脂であり、溶媒にカーボンナノチューブを分散させた分散体であって、基板表面に塗布し、前記溶媒を除去して、コーティングフィルムを形成する際に適用することを特徴とするカーボンナノチューブ含有コーティングフィルム形成用分散体」である点で一致し、相違点1及び2で相違する。

<相違点1>
分散体の「適用」すなわち分散体の用途としてのコーティングフィルムの形成において、本願発明では「基板表面に塗布し、溶媒を除去」した後、「樹脂を被覆」すると特定されているのに対し、引用発明3では「基板表面に塗布し、溶媒を除去」するのみで「樹脂を被覆」するとの特定がない点。

<相違点2>
本願発明ではカーボンナノチューブの外径が0.5nm以上3.5nm未満に特定されているのに対し、引用発明3では該外径が特定されていない点。

<相違点1について>
一般に、塗料を基板表面に塗布し、溶媒を除去して形成した膜に、さらに樹脂を被覆することは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。
すなわち、引用発明3の塗料の「適用」において、基板表面に塗布し、溶媒を除去した後、樹脂を被覆してコーティングフィルムを形成することは、当業者が適宜なし得たことである。
また、本願明細書の記載をみても、本願発明の分散体が、基板表面に塗布し、溶媒を除去した後、樹脂を被覆することによって、格別の効果を奏するものであるとはいえない。

<相違点2について>
摘示ツには、引用発明3における「単層カーボンナノチューブ」が「ターゲットとしてニッケル(Ni)およびコバルト(Co)を0.3atmic%づつ含有する炭素棒を用意し、このターゲットを電気炉内で、例えば1200℃の高温で加熱し、アルゴン(Ar)などの不活性ガスを流しながら、このターゲットにパルスレーザーを照射する」方法及び「アーク放電法やCVD法など」の方法によって合成されることが記載されている。
また、上記方法によって、外径が0.5nm以上3.5nm未満との範囲に含まれる単層カーボンナノチューブが合成されることは周知である(周知例:特開2001-48510号公報(特に、段落【0003】?【0005】)、特開平11-116218号公報(特に、特許請求の範囲、実施例1?12)、特開2000-95509号公報(特に、特許請求の範囲、段落【0001】、段落【0015】、実施例1、図3?5))。
そして、刊行物3には、引用発明3における「単層カーボンナノチューブ」の外径の好ましい範囲も、該外径を特定することの技術的意義も記載されていないから、該「単層カーボンナノチューブ」が上記方法によって合成されるものである以上、該「単層カーボンナノチューブ」として上記「外径が0.5nm以上3.5nm未満との範囲に含まれる単層カーボンナノチューブ」を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。
また、本願明細書の記載をみても、本願発明は、カーボンナノチューブの外径を0.5nm以上3.5nm未満に特定したことによって格別の効果を奏するものであるとはいえない。

(2)請求人の主張
請求人は、平成22年7月2日に提出された意見書において、「引用文献3は、有機高分子材料を含む溶液中に単層ナノチューブを分散させてなることを特徴とする塗料を開示します。この文献では、有機高分子材料と単層ナノチューブの組み合わせが皮膜を形成します。従って、皮膜は単層ナノチューブ単独で形成されるものではなく、このためオーバーコートも設けておりません。これに対し、本願発明では分散体は溶媒とカーボンナノチューブのみで形成され得、この分散体で形成された皮膜の上に樹脂が被覆されてオーバーコートが形成されます。よって、本願発明は引用文献1?3から容易に想到し得るものではありません。」と主張する。(なお、上記「引用文献3」は、「刊行物3」と同一の文献である。)
しかしながら、本願発明の分散体は、「ポリマー材料をさらに含み、前記ポリマー材料が、熱可塑性樹脂、熱硬化性ポリマー、エラストマー、導電性ポリマーおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される材料を含む」ものであるから、該分散体は、請求人が言うところの「溶媒とカーボンナノチューブのみで形成され得」るものではなく、また、引用発明3と同様に、「ポリマー材料」を含むものである。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(3)まとめ
よって、本願発明は、刊行物3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5.むすび
したがって、本願は、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-30 
結審通知日 2010-08-03 
審決日 2010-08-18 
出願番号 特願2004-205589(P2004-205589)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C08K)
P 1 8・ 536- WZ (C08K)
P 1 8・ 121- WZ (C08K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智辰己 雅夫  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 内田 靖恵
松浦 新司
発明の名称 カーボンナノチューブ含有分散体  
代理人 小野 誠  
代理人 坪倉 道明  
代理人 川口 義雄  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 金山 賢教  
代理人 大崎 勝真  

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