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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1229627 |
審判番号 | 不服2008-698 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-01-10 |
確定日 | 2011-01-04 |
事件の表示 | 特願2004-187368「窒化物半導体エピタキシャルウェハの製造方法及び窒化物半導体エピタキシャルウェハ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年1月6日出願公開,特開2005-5723〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成12年12月5日に出願した特願2000-370391号(以下「原出願」という。)の一部を分割して,平成16年6月25日に新たな特許出願としたものであって,平成19年8月23日付けの拒絶理由通知に対して,同年9月21日に手続補正書及び意見書が提出されたが,同年12月7日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成20年1月10日に審判請求がされるとともに,同日に手続補正書が提出されたものである。 第2 平成20年1月10日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明を補正するものであり,特許請求の範囲については,以下のとおりである。 (1)請求項1について ・補正前の「サファイア基板の表面からイオンを打ち込むことによって」との記載を,補正後の「サファイア基板の表面から水素イオン,又は窒素イオンのうち少なくとも1種類のイオンを打ち込むことによって」と補正し,補正前の「前記サファイア基板中に前記サファイア基板より機械的強度の弱い中間層を形成し」との記載を,補正後の「前記サファイア基板中に前記サファイア基板より機械的強度の弱いアモルファス的構造の中間層を形成し」と補正し,補正前の「前記エピタキシャル成長中の加熱により前記中間層中にボイドを生じさせる」との記載を,補正後の「前記エピタキシャル成長中の加熱により前記中間層中にボイドを生じさせ,前記中間層が,前記サファイア基板と前記デバイス用窒化物半導体層との熱膨張差を緩和する」と補正する。 (2)請求項3,5について ・補正前の請求項3と請求項5を,削除する。 (3)請求項4?9について ・補正前の請求項4を,補正後の請求項3に繰り上げるとともに,補正前の請求項4の「請求項3に記載の」を,補正後の請求項3の「請求項2に記載の」と補正する。 ・補正前の請求項6を,補正後の請求項4に繰り上げるとともに,補正前の請求項6の「請求項1から5のいずれか1項に記載の」を,補正後の請求項4の「請求項1から3のいずれか1項に記載の」と補正する。 ・補正前の請求項7を,補正後の請求項5に繰り上げるとともに,補正前の請求項7の「請求項6に記載の」を,補正後の請求項5の「請求項4に記載の」と補正する。 ・補正前の請求項8を,補正後の請求項6に繰り上げるとともに,補正前の請求項8の「請求項7に記載の」を,補正後の請求項6の「請求項5に記載の」と補正する。 ・補正前の請求項9を,補正後の請求項7に繰り上げるとともに,補正前の請求項9の「請求項6から8のいずれか1項に記載の」を,補正後の請求項7の「請求項4から6のいずれか1項に記載の」と補正する。 2 補正目的の適否 (1)請求項1についての補正内容は,補正前の請求項1に,「イオンを打ち込むこと」とあるのを,補正後の「水素イオン,又は窒素イオンのうち少なくとも1種類のイオンを打ち込むこと」と技術的に限定するもの,及び「中間層」とあるのを,補正後の「アモルファス的構造の中間層」と技術的に限定し,さらに,「前記中間層が,前記サファイア基板と前記デバイス用窒化物半導体層との熱膨張差を緩和する」ものであることを限定するものである。 したがって,請求項1についての補正は,特許請求の範囲を減縮する補正に当たる。 (2)特許請求の範囲についての他の補正内容は,請求項を削除する補正及び請求項の削除に伴う引用関係の不整合を解消するための補正に該当する。 (3)したがって,特許請求の範囲についての本件補正は,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項1号(請求項の削除),2号(限定的減縮)及び4号(明りょうでない記載の釈明)に掲げる事項を目的とするものである。 3 独立特許要件を満たすかどうかの検討 (1)以上のとおり,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正内容を含むので,補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する独立特許要件を満たすか)について,以下,検討する。 (2)本願補正発明 特許請求の範囲に記載された発明のうち,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は,次のとおりである。 【請求項1】 「サファイア基板の表面から水素イオン,又は窒素イオンのうち少なくとも1種類のイオンを打ち込むことによって,前記表面の近傍に単結晶層を維持すると共に,前記サファイア基板中に前記サファイア基板より機械的強度の弱いアモルファス的構造の中間層を形成し, 前記中間層を形成した前記サファイア基板の上にデバイス用窒化物半導体層をエピタキシャル成長させ,前記エピタキシャル成長中の加熱により前記中間層中にボイドを生じさせ, 前記中間層が,前記サファイア基板と前記デバイス用窒化物半導体層との熱膨張差を緩和することを特徴とする窒化物半導体エピタキシャルウェハの製造方法。」 (3)引用例の記載と引用発明 (3-1)引用例の記載 原査定の拒絶の理由に引用された,原出願の出願日前に外国において頒布された刊行物である,国際公開第99/39377号(以下「引用例」という。)には,「特にヘテロエピタキシャル堆積用のコンプライアント基板」(発明の名称)に関して,図1とともに,次の記載がある(なお,訳文は,国際公開第99/39377号の対応日本出願の公表公報である特表2002-502121号公報を参考にした。)。 ア 発明の背景等 ・「本発明は,コンプライアント基板,すなわち,最小可能応力を受けるようにヘテロエピタキシーによって基板表面上に堆積された層でもよい,付着された構造によって誘起された応力を受容することができる基板に関するものである。本発明は,また,このような基板を得るための方法に関するものである。」(1頁5?12行の訳文) ・「しかしながら,層と基板との間に形成した界面における格子パラメータに適合しなければならないという制限は,所望の層に適合する格子網を有する基板を見つけることはまれであるので,成長する層の数及びその多様性を厳しく制限する。例えば,GaN,AlN及びInNのヘテロエピタキシャル成長に完全に適合する固体基板はない。 適合の悪い基板の使用は非常に質の悪い層の成長につながる。特に,層厚が,格子網の適合悪さが大きくなるほど減少する臨界値を越えるや否や,構造欠陥(特に転位)の生成を通して,ヘテロエピタキシャル層における応力が開放される。」(1頁28行?2頁10行の訳文) ・「この問題を改善するため,コンプライアント基板についての様々な研究が行われてきた。一例として例えば,Y.H.LOによってAppl.Phys.Lett. 59(18)(1991年10月28日)において発表された論文“New Approach to Grow Pseudomorphic Structures over the Critical Thickness”が挙げられる。この分野では,コンプライアント基板とは本質的にその結晶格子(格子パラメータ)が層に適合されることが必要とされない結晶基板であり,ヘテロエピタキシャル層が成長したとき,層の成長に関係した応力の緩和が,ヘテロエピタキシャル層で生ずるのではなく,コンプライアント基板自体あるいは界面において生ずる性質を有するように成長することが望まれているものである。この場合,非常に品質の高いヘテロエピタキシャル層を得ることができ,原理的にはコンプライアント基板は結晶格子網上でいかなる種類の層の成長も可能にする。」(2頁30行?3頁15行の訳文) ・「半導体材料,あるいは結晶か否かを問わない固体材料(フランス特許出願公開第2748850号を参照)への希ガスあるいは水素のボンバードによる注入は,注入種の平均侵入深さに近い深さに微小キャビティあるいは微小板を形成することが可能であることもまた,例えば,フランス特許出願公開第2681472号の記載により,知られている。これらの欠陥の形態(サイズ,形状等)は熱処理の間に変化するかもしれないし,特にこれらのキャビティがこれらのサイズを成長させるかもしれない。材料のタイプ特にその機械的性質に依存して,これらのキャビティは,熱処理の条件に従って,“膨れ(blister)”と呼ばれる表面変形を誘起する。このような変形を得るために制御を必要とする最も重要なパラメータは,注入中に入れた気体のドーズ,気体種の注入深さ,及び注入中に加えられる加熱スケジュールである。例として,エネルギー40keVの3×10^(16)H^(+)/cm^(2)のドーズでシリコンウェーハに水素を注入すると,平均深さ330nmでおよそ150nm厚さの微小キャビティの連続埋め込み層が形成される。連続層によって,ある厚さにわたって一様に分散した微小キャビティを含む層を意味する。これらの微小キャビティは細長い形状をしている(従って,“微小板”ともいう)。これらのサイズは,例えば,長さ6nmのオーダーで,厚さ2原子面である。熱処理を700℃で30分間行うと,微小キャビティは拡大し,そのサイズは例えば長さが6nmから50nmまで,厚さで4-6nmの数原子面まで増加する。一方,注入面に乱れがないことは注目されたい。キャビティサイズ及びこれらのキャビティ内での圧力は表面変形を誘起するには十分の大きさではない。これによって,微小亀裂(あるいは微小キャビティあるいは微小板)を含むが表面劣化がないゾーンを有する埋め込み欠陥の連続層が形成される。」(7頁15行?8頁25行の訳文) イ 発明の開示 ・「従来技術の欠点を改善するため,本発明は,他の材料のヘテロエピタキシャル成長を始めるため使用すべき材料の薄膜を供給するコンプライアント基板を提案するものである。薄層及び/又は結合手段がエピタキシャル材料のエピタキシャル成長の間に生ずる応力の全てあるいはその一部を受容して,その結果,エピタキシャル材料においてこれらの応力が生ずるのを防ぐように,埋め込み領域と呼ばれる結合手段によって基板の残部にその薄層を結合する。 次に堆積する材料に相対するこのような構造のコンプライアント特性は,格子パラメータ,熱膨張係数,及び埋め込み領域の存在の差に関係するものである。定義によって,このコンプライアント基板の目的は,埋め込み領域,薄層でも可能であるが,応力の緩和によって堆積材料の膜の応力を適合される。」(9頁16?24行の訳文) ・「特別な一応用では,薄層が第1の結晶材料から成り,前記構造を形成する第2の結晶材料に対してヘテロエピタキシャル成長の種として用いられることが意図されている。この薄層は,前記基板のコンプライアンスを促進するために,前記第1の結晶材料に異種原子を入れることを通しての応力付与の前の層であってもよい。異種物質がボンバードによる注入及び/又は拡散による挿入を介して入れられてもよい。この注入は犠牲層を介して行われてもよい。この異種原子は薄層のドーピング剤であってもよい。この第1の結晶材料は特に半導体であって,例えば,SiあるいはGaAsあってもよい。このようなコンプライアント基板は,GaN,SiGe,AlN,InN及びSiCの中から選択された結晶材料のヘテロエピタキシャル成長に対して有利に用いてもよい。」(12頁10?26行の訳文) ウ 発明の実施の形態 ・「場合によっては,表面層,例えば,シリコン酸化物層を介して注入することは有利であるかもしれない。この場合には,もはや非常に低いエネルギーを用いることは必要ない。犠牲層の除去で非常に薄い表面層を得るには十分であるかもしれない。 図1(a)から図1(c)はこの最後の例を示している。図1(a)は,単結晶シリコンからなる基板1であって,例えば,犠牲層として働くシリコン酸化物層2によって被覆されたもの側面図を示している。図1(b)は,酸化物層2を介して基板1に水素イオンを用いてイオン注入している段階を示している。注入は上述の条件で行った。微小キャビティあるいは微小板の層3が得られ,酸化物層2に隣接する薄膜4の層を決定する。この酸化層の存在のため,薄層4の膜厚は減少して,非常に正確に調整してもよい。次に酸化物層2を化学衝撃によって除去し,かつ,コンプライアント基板5が図1(c)に示したように得られる。すなわち,微小キャビティの層3と(エピタキシーされる材料の種として用いられる)薄層4とから形成されたアセンブリがコンプライアント層を形成する。場合によっては,層3の微小キャビティのサイズを増加するために熱処理を実施する。」(15頁18行?16頁13行の訳文) エ 請求の範囲 ・「1.キャリヤ(1,14,21,31)と該キャリヤの表面上に形成した少なくとも一つの薄層(4,13,23,34)とを備え,一体の形で応力供給構造を受けることが意図されているコンプライアント基板(5,20,30)であって,そのキャリヤとその薄層とが結合手段(3;11,15,16;24,25)によって互いに結合され,前記構造によってもたらされた応力の全てあるいはその一部が薄層及び/又は結合手段に吸収されているコンプライアント基板において,前記結合手段が結合ゾーン,すなわち,微小キャビティの層及び/又は結合エネルギーが前記応力の吸収を可能にするように制御される結合界面,の中から選択された少なくとも一つの結合ゾーンを備えていることを特徴とするコンプライアント基板。 2.微小キャビティの層が一あるいは二以上の気体種のボンバードによる注入を通して形成されることを特徴とする請求項1に記載のコンプライアント基板の製造方法。」(25頁3?22行の訳文) オ 図面の記載 ・図1C(FIG.1C)を参照すると,単結晶シリコンからなる基板1に微小キャビティあるいは微小板の層3を形成し,前記微小キャビティあるいは微小板の層3の上に単結晶シリコンからなる基板1の一部からなる薄膜4の層を形成したコンプライアント基板5が,示されている。 (3-2)引用発明 上記ア?オによれば,引用例には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「単結晶シリコンからなる基板1に水素イオンを注入し,微小キャビティあるいは微小板の層3を形成することにより,前記微小キャビティあるいは微小板の層3の上に前記基板1の一部からなる薄膜4の層を決定し,前記薄膜4の層の上にGaNをヘテロエピタキシャル成長することにより,前記微小キャビティあるいは微小板の層3が前記基板1と前記GaNとの熱膨張係数の差に関係する応力を緩和することを特徴とするコンプライアント基板の製造方法であって,場合によっては,前記微小キャビティあるいは微小板の層3のサイズを増加するために熱処理が実施される方法。」 (4)対比 (4-1)次に,本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「単結晶シリコンからなる基板1」は,本願補正発明の「基板」に対応する。 本願補正発明の「水素イオン,又は窒素イオンのうち少なくとも1種類のイオンを打ち込むこと」は,「水素イオン」「を打ち込むこと」と「窒素イオン」「を打ち込むこと」の択一的な記載であるから,「水素イオン」「を打ち込むこと」と「窒素イオン」「を打ち込むこと」のいずれか一つを選択すれば足りるので,引用発明の「水素イオンを注入」することは,本願補正発明の「水素イオン,又は窒素イオンのうち少なくとも1種類のイオンを打ち込むこと」に対応する。 引用発明の「微小キャビティあるいは微小板の層3を形成すること」は,本願補正発明の「基板中に」「中間層を形成」することに対応し,引用発明の「前記微小キャビティあるいは微小板の層3の上に前記基板1の一部からなる薄膜4の層を決定」することは,本願補正発明の「前記表面の近傍に単結晶層を維持する」ことに対応する。 したがって,引用発明の「単結晶シリコンからなる基板1に水素イオンを注入し,微小キャビティあるいは微小板の層3を形成することにより,前記微小キャビティあるいは微小板の層3の上に前記基板1の一部からなる薄膜4の層を決定」することは,本願補正発明の「基板の表面から水素イオン,又は窒素イオンのうち少なくとも1種類のイオンを打ち込むことによって,前記表面の近傍に単結晶層を維持すると共に,前記」「基板中に」「中間層を形成」することに相当する。 イ 引用発明において,ヘテロエピタキシャル成長した「GaN」は,本願補正発明の「デバイス用窒化物半導体層」に対応するから,引用発明の「前記薄膜4の層の上にGaNをヘテロエピタキシャル成長する」ことは,本願補正発明の「前記中間層を形成した前記」「基板の上にデバイス用窒化物半導体層をエピタキシャル成長させ」ることに対応し,また,引用発明の「場合によっては,前記微小キャビティあるいは微小板の層3のサイズを増加するために熱処理が実施され」ることは,本願補正発明の「加熱により前記中間層中にボイドを生じさせ」ることに対応する。 したがって,引用発明の「前記微小キャビティあるいは微小板の層3のサイズを増加するために熱処理が実施され」「前記薄膜4の層の上にGaNをヘテロエピタキシャル成長する」ことは,本願補正発明の「前記中間層を形成した前記」「基板の上にデバイス用窒化物半導体層をエピタキシャル成長させ」「加熱により前記中間層中にボイドを生じさせ」ることに相当する。 ウ 引用発明の「前記微小キャビティあるいは微小板の層3が前記基板1と前記GaNとの熱膨張係数の差に関係する応力を緩和すること」は,本願補正発明の「前記中間層が,前記」「基板と前記デバイス用窒化物半導体層との熱膨張差を緩和すること」に相当する。 エ 引用発明は,「GaNをヘテロエピタキシャル成長」しているから,引用発明の「コンプライアント基板の製造方法」は,本願補正発明の「窒化物半導体エピタキシャルウェハの製造方法」に相当する。 (4-2)そうすると,本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は,次のとおりとなる。 〔一致点〕 「基板の表面から水素イオン,又は窒素イオンのうち少なくとも1種類のイオンを打ち込むことによって,前記表面の近傍に単結晶層を維持すると共に,前記基板中に中間層を形成し, 前記中間層を形成した前記基板の上にデバイス用窒化物半導体層をエピタキシャル成長させ,加熱により前記中間層中にボイドを生じさせ, 前記中間層が,前記基板と前記デバイス用窒化物半導体層との熱膨張差を緩和することを特徴とする窒化物半導体エピタキシャルウェハの製造方法。」 〔相違点〕 〔相違点1〕 本願補正発明は,「サファイア基板」を用いるのに対し,引用発明は,「単結晶シリコンからなる基板1」を用いている点。 〔相違点2〕 本願補正発明は,「基板より機械的強度の弱いアモルファス的構造の中間層を形成」しているのに対して,引用発明は,本願補正発明の「中間層」に対応する「微小キャビティあるいは微小板の層3を形成」しているものの,引用発明の「微小キャビティあるいは微小板の層3」が「基板より機械的強度の弱いアモルファス的構造」であるかどうか不明である点。 〔相違点3〕 本願補正発明は,「前記エピタキシャル成長中の加熱により前記中間層中にボイドを生じさせ」るのに対して,引用発明は,「場合によっては,前記微小キャビティあるいは微小板の層3のサイズを増加するために熱処理が実施され」るものではあるが,本願補正発明のように,「前記中間層中にボイドを生じさせ」る熱処理を,「前記エピタキシャル成長中の加熱により」行うものどうか不明である点。 (5)相違点についての判断 (5-1)相違点1について ア 窒化物半導体層をヘテロエピタキシャル成長させるための基板として,サファイア基板を用いることは,当業者に普通に知られている(例えば,以下の周知例1?3を参照)。 (ア)周知例1:特開平8-222812号公報(原審の拒絶理由通知で引用されたもの) 段落【0002】には,次の記載がある。 ・「【従来の技術】窒化ガリウム系化合物半導体[Ga_(X)Al_(1-X)N(但し0≦X≦1)]は,最近,常温における優れた発光特性が発表され,青色発光素子等への応用が期待されている。この窒化ガリウム系化合物半導体を有する半導体装置は,基本的に,サファイアよりなる基板の上に一般式がGa_(X)Al_(1-X)N(但し0≦X≦1)で表される窒化ガリウム系化合物半導体のエピタキシャル層がn型,i型,あるいはp型に成長させてそれらを積層することによって得られる。」 (イ)周知例2:特開平11-135889号公報(原審の拒絶理由通知で引用されたもの) 段落【0003】には,次の記載あがる。 ・「そのような基板材料の中で,結晶構造が同じ6回対称で,耐熱性に優れ,比較的大面積の単結晶が入手しやすいことから,サファイア(α-Al_(2) O_(3) )が最も広く用いられている。しかしながら,GaNとサファイア基板との間には大きな格子定数差(約13.8%)及び熱膨張係数差(約25.5%)があるため,1980年代前半までは欠陥の多い結晶しか得られていなかった。」 (ウ)周知例3:特開2000-195798号公報(原審の拒絶理由通知で引用されたもの) 段落【0002】には,次の記載あがる。 ・「【従来の技術】GaN材料系のようなIII-V族材料は,青色及び緑色波長のレーザ及びLEDを造るのに特に有効である。これらの材料をベースにした光学デバイスの製作は,一般に,サファイアまたはSi(シリコン)のような基板にIII-V族材料層を堆積させることから開始される。」 イ 加えて,引用例には,「半導体材料,あるいは結晶か否かを問わない固体材料(フランス特許出願公開第2748850号を参照)への希ガスあるいは水素のボンバードによる注入は,注入種の平均侵入深さに近い深さに微小キャビティあるいは微小板を形成することが可能である」(7頁15?22行の訳文)と記載されており,半導体材料(例えば,引用発明の「単結晶シリコンからなる基板1」)のほかに,基板材料として他の「固体材料」を用いることができることが示唆されている。 ウ そうすると,窒化物半導体層をヘテロエピタキシャル成長させるための基板として,引用発明の「単結晶シリコンからなる基板」に代えて,「サファイア基板」を用いることは,当業者が容易に着想し得たものといえる。 エ したがって,相違点1は,当業者が容易に想到し得たものである。 (5-2)相違点2について ア 引用例には,「薄層及び/又は結合手段がエピタキシャル材料のエピタキシャル成長の間に生ずる応力の全てあるいはその一部を受容して,その結果,エピタキシャル材料においてこれらの応力が生ずるのを防ぐ」(9頁8?15行の訳文)との記載があり,この記載から,「薄層」は,引用発明の「薄膜4の層」に相当し,「結合手段」は,引用発明の「微小キャビティあるいは微小板の層3」に相当するものであることが分かる。 イ そうすると,上記の「結合手段」,すなわち,引用発明の「微小キャビティあるいは微小板の層3」は,「エピタキシャル材料のエピタキシャル成長の間に生ずる応力の全てあるいはその一部を受容」するものであるから,機械的に硬くはなく,引用発明の「単結晶シリコンからなる基板1」よりも,機械的な強度が弱いことは明らかである。そして,引用発明の「微小キャビティあるいは微小板の層3」は,「微小キャビティあるいは微小板」を有するのであるから,結晶構造(結晶のような規則正しい秩序)に欠けた部分を有するものとなっていることが明らかであるから,「アモルファス的構造」であるといえる。 ウ 以上のとおり,引用発明の「微小キャビティあるいは微小板の層3」は,「単結晶シリコンからなる基板1」よりも機械的な強度が弱く,かつ,「アモルファス的構造」となっているから,本願補正発明の「基板より機械的強度の弱いアモルファス的構造の中間層」と実質的に相違しない。 エ したがって,相違点2は,実質的なものでない。 (5-3)相違点3について ア 引用発明に限らず,基板上へのGaNなどの半導体層のヘテロエピタキシャル成長は,加熱した状態で行われる。 そして,引用発明は,「場合によっては,微小キャビティあるいは微小板の層3のサイズを増加するために熱処理が実施され」るものであるから,その熱処理を,ヘテロエピタキシャル成長時の加熱により行うようにすること(相違点3のようにすること)は,当業者が適宜なし得たものといえる。 イ なお,ヘテロエピタキシャル成長は,加熱した状態で行われるから,引用発明においても,程度の差こそあれ,ヘテロエピタキシャル成長の過程において,前記微小キャビティあるいは微小板の層3のサイズは必然的に増加するものと理解できる。このように考えると,相違点3は実質的なものでないともいえる。 (6)以上のとおり,上記相違点1?3は,当業者が容易に想到し得たもの,あるいは,実質的に相違しないものである。 したがって,本願補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4 以上の次第で,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により,却下すべきものである。 第3 本願発明 1 以上のとおり,本件補正(平成20年1月10日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正前の請求項1(平成19年9月21日に提出された手続補正書により補正された請求項1)に記載された,次のとおりのものである。 【請求項1】 「サファイア基板の表面からイオンを打ち込むことによって,前記表面の近傍に単結晶層を維持すると共に,前記サファイア基板中に前記サファイア基板より機械的強度の弱い中間層を形成し, 前記中間層を形成した前記サファイア基板の上にデバイス用窒化物半導体層をエピタキシャル成長させ,前記エピタキシャル成長中の加熱により前記中間層中にボイドを生じさせることを特徴とする窒化物半導体エピタキシャルウェハの製造方法。」 2 引用例の記載と,引用発明については,前記第2,3,(3-1),(3-2)において認定したとおりである。 3 対比・判断 前記第2,1(1),2,(1)で検討したように,本願補正発明は,補正前の発明に,「イオンを打ち込むこと」とあるのを,補正後の「水素イオン,又は窒素イオンのうち少なくとも1種類のイオンを打ち込むこと」と技術的に限定し,「中間層」とあるのを,補正後の「アモルファス的構造の中間層」と技術的に限定し,さらに,「前記中間層が,前記サファイア基板と前記デバイス用窒化物半導体層との熱膨張差を緩和する」ものであることを限定したものである。 逆に言えば,本件補正前の発明(本願発明)は,本願補正発明から,上記の限定をなくしたものである。 そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,前記第2,3において検討したとおり,引用発明及び引用例の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 結言 以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。 したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-10-19 |
結審通知日 | 2010-10-26 |
審決日 | 2010-11-08 |
出願番号 | 特願2004-187368(P2004-187368) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 和瀬田 芳正 |
特許庁審判長 |
相田 義明 |
特許庁審判官 |
市川 篤 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 窒化物半導体エピタキシャルウェハの製造方法及び窒化物半導体エピタキシャルウェハ |