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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1229657
審判番号 不服2008-24453  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-03 
確定日 2011-01-04 
事件の表示 特願2003-297931「バッテリーを電源としたアーク溶接機」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月10日出願公開、特開2005- 34903〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年7月18日の出願であって、その主な手続の経緯は、以下のとおりである。
平成18年 9月26日 拒絶理由通知書発送
平成18年11月 6日 面接
平成18年11月24日 意見書及び手続補正書提出
平成19年 3月20日 拒絶理由通知書発送
平成19年 5月14日 手続補正書提出
平成19年 7月31日 拒絶理由通知書発送
平成19年 9月27日 意見書提出
平成19年11月27日 拒絶理由通知書発送
平成20年 1月25日 手続補正書提出
平成20年 8月 5日 拒絶査定書発送
平成20年 9月 3日 審判請求書提出
平成22年 4月 6日 拒絶理由通知書(平成22年 3月26日付け)発送
平成22年 6月 3日 意見書提出
2.本願発明
本願請求項1に係る発明は、上記の平成20年 1月25日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりであると認める。
「バツテリーを電源とした直流アーク溶接機のバツテリーの充電と溶接時にバツテリーを補助するために用いる直流電源を商用電源から変換するのに高周波の絶縁型断続制御回路を、定電圧,定電流特性を得るために、使用した直流アーク溶接機。」
3.引用例の記載事項及び引用発明
当審で通知した平成22年 3月26日付け拒絶理由通知書で引用した、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-235473号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。
(ア) 第3欄第33?39行
「図1に本発明のアーク加工用電源装置の実施の形態を接続図にて示す。同図において、1は交流電源であり、例えば電灯線用AC100V電源から供給される。2は第1の整流回路であり、3は第1の整流回路を数KHZないし数10KHZの交流に変換するインバータ回路、4はインバータ回路3の出力をアーク加工に適した電圧に変換する変圧器である。」
(イ) 第3欄第39行?第4欄第1行
「5a,5bはサイリスタ、6a,6bはダイオードであり、サイリスタ5a,5bおよびダイオード6a,6bは混合ブリッジ式整流回路を構成するように接続されており、変圧器4の出力を両波整流して直流としてアーク加工負荷に供給する第2の整流回路を構成している。7a,7bはサイリスタであり、ダイオード6a,6bとともに別の混合ブリッジ式両波整流回路を構成するように接続されており、8は電気2重層コンデンサのような数10Fないし1000F程度の巨大容量のコンデンサまたは蓄電池などの電力蓄積器であり、サイリスタ7a,7b、ダイオード6a,6bとともに変圧器4の出力を整流して蓄積する電力蓄積手段を構成している。」
(ウ) 第4欄第8?14行
「10は出力平滑用直流リアクトル、11はアーク溶接機、アーク切断機などのアーク加工負荷であり、例えば電極11aと被加工物11bとを有する。12は出力電流設定器、13は電力蓄積器8への充電電流を設定する充電電流設定器、14は入力電流制限値設定器、15は出力電流検出器、16は充電電流検出器、17は入力電流検出器である。」
(エ) 第4欄第15?27行
「18は比較器であり出力電流設定器12の設定値Iroと出力電流検出器15の検出値Ifoとを入力とし、差信号ΔIo =Iro-Ifoを出力する。19は充電電流設定器13の設定値Ircと充電電流検出器16の検出値Ifcとを入力とし差信号ΔIc =Irc-Ifcを出力する比較器である。・・・・・22はインバータ回路3に駆動信号を供給するパルス幅制御回路であり、入力信号に対応した導通時間率のパルス信号を出力する。」
(オ) 第5欄第1?28行
「図1の装置において、開閉器Sが閉じられた後、起動指令スイッチ33が閉路されるまでは、・・・・・アーク加工負荷11には電力は供給されない。・・・・・一方、起動指令スイッチ33の出力が直接供給されるアナログスイッチ25は遮断状態にあり、・・・・・インバータ回路3が起動する。・・・・・インバータ回路3の出力は変圧器4にて適宜電圧が変換された後に導通しているサイリスタ7a,7bとダイオード6a,6bとからなる混合ブリッジ回路によって両波整流されて電力蓄積器8に蓄えられる。この電力蓄積器8に対する充電電流は充電電流検出器16にて検出されて信号Ifcとなり、比較器19にて充電電流設定器13の設定値Ircと比較されて差信号ΔIc =Irc-Ifcとなってパルス幅制御回路22に供給される。この結果、充電電流は設定値Ircに対応した値に保つように制御される。」
(カ) 第6欄第6?20行
「電力蓄積器8が充分に充電された後に、アーク加工の開始を指令するための起動指令スイッチ33を閉路すると、・・・・・電力蓄積器8に対する電力の蓄積は中断される。またアナログスイッチ25は導通し、・・・・・DC/DC変換回路9はこれによって電力蓄積器8に蓄えられた電力をアーク加工に適した電力に変換して直流リアクトル10を通してアーク加工負荷11に供給する。」
(キ) 第6欄第21?25行
「アーク加工負荷11にはまた、インバータ回路3の出力を変圧器4およびサイリスタ5a,5b、ダイオード6a,6bからなる混合ブリッジ回路によって変換された電力が直流リアクトル10を通して供給される。」
(ク) 第6欄第41?44行
「図1において、増幅器38,39の増幅率を異なる値とすることによってアーク加工時の出力の負担割合を交流電源側と電力蓄積手段側とにおいて、異なる割合にすることができる。」
(ケ) 第8欄第27?32行
「なお、図1および図3の実施例においては、電力蓄積手段4に対する充電電流を検出し、この充電電流を設定値に保つようにした定電流充電回路の例を示したが、充電電流検出器16にかえて電力蓄積手段4の端子電圧を検出し、この端子電圧が設定値になるまで充電するようにした定電圧充電回路を用いてもよい。」
なお、上記(ケ)には、「電力蓄積手段4」との記載があるが、上記(ケ)でいう「充電電流」とは、電力蓄積器8に対する充電電流であるから、「電力蓄積手段4」という記載は、「電力蓄積器8」の誤記と認める。
上記(ウ)には「アーク溶接機11」が「出力平滑用直流リアクトル10」に接続されていることの開示があるから、当該「アーク溶接機11」が直流の「アーク溶接機11」であることは、明らかである。
また、(カ)には、「電力蓄積器8」に蓄えられた電力が「直流リアクトル10」を通して「アーク加工負荷11」、すなわちに「アーク溶接機11」に供給されることの開示があるから、当該「アーク溶接機11」は、「電力蓄積器8」を電源としているといえるし、上記の(イ)には、「巨大容量のコンデンサまたは蓄電池などの電力蓄積器であり」と記載されているように、「電力蓄積器8」として、「蓄電池」が例示されている。
また、上記(ア)には、「交流電源1」について、「電灯線用AC100V電源」が示されており、さらに上記の(ア)には、「交流電源1」を「第1の整流回路2」で整流し、さらに「インバータ回路3」で「数KHZないし数10KHZの交流に変換」した後に「変圧器4」で電圧を変換することの開示があり、上記の(イ)には、「変圧器4」の出力を「別の混合ブリッジ式両波整流回路7a,7b,6a,6b」で整流して「電力蓄積器8」に蓄積することの開示がある。
また、上記(エ)?(オ)には、「パルス幅制御回路22」によりパルス信号を出力し、「インバータ回路3」への駆動信号とすることが示されている。
また、上記の(イ)には、「変圧器4」の出力を「第2の整流回路5a,5b,6a,6b」で整流して「アーク加工負荷11」、すなわち「アーク溶接機11」に供給することの開示があり、(キ)?(ク)を参照すると、その供給は、「アーク加工時」に「電力蓄積手段8」を補助していることにあたるといえる。
そして、上記の(エ)?(オ)には、「電力蓄積器8に対する充電電流」を「設定値Ircに対応した値に保つ」「定電流充電回路」が示されており、また、上記の(ケ)には、そのような「定電流充電回路」に代えて、「電力蓄積器8」の端子電圧を端子電圧が設定値となるように「定電圧充電回路」を選択することが示されている。
以上の開示や、図面の図示を考慮し、引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認める。
「蓄電池などの電力蓄積器8を電源とした直流アーク溶接機11の電力蓄積器の充電とアーク加工時に電力蓄積器8を補助するために用いる直流電源を電灯線用AC100V電源から変換するのに数KHZないし数10KHZの周波数でインバータ回路3を駆動するパルス幅制御回路22と変圧器4を電力蓄積器8の端子電圧が設定値になる特性、又は電力蓄積器に対する充電電流を設定値Ircに対応した値に保つ特性のいずれか一方を得るために使用した直流アーク溶接機11。」
4.対比
本願請求項1に係る発明と、引用発明とを対比すると、引用発明の「蓄電池」などの「電力蓄積器」が本願請求項1に係る発明のバッテリーに相当することや、「電灯線用AC100V電源」が商用電源に相当すること、「アーク加工時」が溶接時に相当することは明らかである。
また、引用発明の「パルス幅制御回路22」は、パルス信号、すなわち断続的な信号を出力して「インバータ回路3」を駆動させており、それにより、直流を「数KHZないし数10KHZ」の周波数の交流に変換しているから、本願請求項1に係る発明の断続制御回路に相当するといえるし、「数KHZないし数10KHZ」の周波数は、一般的に高周波に相当する。
また、引用発明の「変圧器4」は、絶縁の機能を有しているといえることは明らかである。
さらに、引用発明の「電力蓄積器8」の「端子電圧が設定値になる」特性は、定電圧の特性といえるし、引用発明の「電力蓄積器8」に対する「充電電流」を「設定値Ircに対応した値に保つ」特性は、定電流の特性といえる。
以上から、本願請求項1に係る発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
一致点:バッテリーを電源とした直流アーク溶接機のバッテリーの充電と溶接時にバッテリーを補助するために用いる直流電源を商用電源から変換するのに高周波の絶縁型断続制御回路を使用した直流アーク溶接機。
相違点:本願請求項1に係る発明の高周波の絶縁型断続制御回路は、「定電圧、定電流特性」を得るために使用しているところ、引用発明の「パルス幅制御回路」は、「電力蓄積器8」の「端子電圧が設定値になる」特性、又は「電力蓄積器」に対する「充電電流」を「設定値Ircに対応した値に保つ」特性のいずれか一方を得るため、すなわち、定電圧又は定電流の特性のいずれか一方を得るために使用している点。
5.相違点についての検討及び判断
バッテリーに充電を行うにあたり、充電の初期に定電流での充電を行い、所定の電圧まで充電された後に、定電圧での充電を行う特性、すなわち、「定電圧、定電流特性」は、例えば特開2000-348778号公報の【0018】段落や、実願平4-35075号(実開平5-84188号)のCD-ROMの【0010】段落、特開2002-354708号公報の【0008】-【0009】段落に示すように、本願の出願前に周知の技術的事項であるから、引用発明の制御回路を、「定電圧、定電流特性」を得るために使用して制御することは、当業者にとって格別に困難な事項ではない。
また、本願請求項1に係る発明を全体構成でみても、引用発明及び周知の技術的事項から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。
6.意見書における請求人の主張の検討
平成22年6月3日付けの意見書において、本願請求項1に係る発明と引用発明との差異について、「請求項1は拒絶理由文献1(特開平10-235473)
に本発明と同じような回路を使用しているため拒絶理由としているが多くの相違点があるし、図1 変圧器(4)の出力を整流と溶接する時と充電時の切り変え?にサイリスタ(5a,5b,7a,7b)を使用している、点弧回路の詳細な説明がない、S3により制御している5a,5b、のサイリスターが同時ONになり変圧器(4)の2次側は短絡して焼損するでしょう、本発明はフォワード方式のD.C/D.Cコンバータを使用して定電圧、定電流特性、をえている。」と主張しているが、いずれも請求項1で特定された具体的な記載に基づく主張とはいえないから、採用できない。
また、請求人は、「本発明は蓄電池をフローティング方式で使用している」点での構成上の差異を主張しているところ、やはり請求項1には、「フローティング方式」についての特定がないから、当該主張も採用できない。
なお付言すると、本願の図1を参照すると、「バッテリー」として示された図形が、フローティング方式のようにブロック図に図示されていると看取できるところ、仮に当該図1の図示を根拠として、請求項1を「フローティング方式」と限定して解釈したとしても、バッテリーをフローティング方式で設けることは、例えば特開2002-66737号公報の図1の「バッテリーユニットU3」に示すように周知の技術的事項にすぎない。したがって、仮に請求項1に「フローティング方式」と特定して、引用発明との構成上の差異を主張したとしても、バッテリーを「フローティング方式」で設けることは、当業者にとって格別に困難な事項ではないから、当該主張は採用できない。
7.むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、上記引用発明、及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-18 
結審通知日 2010-10-26 
審決日 2010-11-09 
出願番号 特願2003-297931(P2003-297931)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福島 和幸中島 昭浩  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 刈間 宏信
菅澤 洋二
発明の名称 バッテリーを電源としたアーク溶接機  

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