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審決分類 |
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 F02D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D |
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管理番号 | 1229660 |
審判番号 | 不服2008-26443 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-10-15 |
確定日 | 2011-01-04 |
事件の表示 | 特願2006-158858「内燃機関の制御装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月20日出願公開、特開2007-327406〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成18年6月7日の出願であって、平成20年4月22日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対し同年6月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年10月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年10月30日付けで手続補正書が提出されて明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものであり、その後、当審において平成21年9月24日付けで書面による審尋がなされ、これに対し同年11月18日付けで回答書が提出されたものである。 第2.平成20年10月30日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年10月30日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 平成20年10月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件補正により補正される前の(すなわち、平成20年6月24日付けで提出された手続補正書により補正された)の下記(a)を下記(b)と補正するものを含んでいる。 (a)本件補正前の特許請求の範囲 「【請求項1】 内燃機関のクランクにおける、角加速度、又は角速度を算出する算出手段と、 前記角加速度、又は前記角速度に基づいて、前記内燃機関の運転状態を判定する運転状態判定手段と、 前記角加速度と目標となる目標角加速度との偏差、又は、前記角速度と目標となる目標角速度との偏差に応じて、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させるゲインを設定するゲイン設定手段と、 (i)判定された前記運転状態が、第1運転状態の場合、前記角加速度と前記目標角加速度との偏差に応じて、前記ゲインを設定し、(ii)前記運転状態が、第2運転状態の場合、前記角速度と前記目標角速度との偏差に応じて、前記ゲインを設定するように、前記ゲイン設定手段を制御する制御手段と、 を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。 【請求項2】 前記制御手段は、前記第1運転状態が、前記内燃機関の始動の際、前記角速度が、目標となる目標角速度に到達するまでの、前記目標角速度より小さい第1始動運転状態の場合、前記角加速度が、目標値になるフィードバック制御に基づいて、前記ゲインを設定するように、前記ゲイン設定手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項3】 前記制御手段は、前記第1運転状態が、前記内燃機関の定常駆動の際、前記角速度が、目標となる目標角速度を中心とした所定範囲外にある第1回転変化運転状態の場合、前記角加速度が、略ゼロになるフィードバック制御に基づいて、前記ゲインを設定するように、前記ゲイン設定手段を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項4】 前記制御手段は、前記第1運転状態が、前記内燃機関の定常駆動の際、前記角速度が、目標となる目標角速度を中心とした所定範囲外にある第1回転変化運転状態の場合、前記角加速度の積分値が、略ゼロ、又は、一定値になるフィードバック制御に基づいて、前記ゲインを設定するように、前記ゲイン設定手段を制御することを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項5】 前記制御手段は、前記第2運転状態が、前記内燃機関の定常駆動の際、(i)前記角加速度が、ゼロを中心とした所定範囲内に収まる運転状態である場合、又は、(ii)前記角速度が、目標となる目標角速度を中心とした所定範囲内にある運転状態である場合、前記角速度が、一定値になるフィードバック制御に基づいて、前記ゲインを設定するように、前記ゲイン設定手段を制御することを特徴とする請求項1から4のうちいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項6】 前記角速度から求められる角加速度、又は前記角速度に基づいて、前記クランクの回転エネルギーを算出するエネルギー算出手段と、 前記ゲイン設定手段は、(i)前記角加速度を入力情報として、前記ゲインを設定する第1設定手段と、(ii)前記角速度を入力情報として、前記ゲインを設定する、第2設定手段を含み、 前記制御手段は、算出された前記回転エネルギーに基づいて、前記第1設定手段の制御、及び、前記第2設定手段の制御のうちいずれか一方から他方へと切り替えることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項7】 前記エネルギー算出手段は、前記クランクのクランク角度によって規定される所定区間の単位で、前記回転エネルギーを算出し、 前記制御手段は、(i-1)前記角速度が所定角速度より大きく、且つ、(i-2)前記所定区間の単位で算出された前記回転エネルギーの変化率が、所定変化率より小さい場合、前記第1設定手段の制御から前記第2設定手段の制御へと切り替え、(ii-1)前記角速度が所定角速度より小さく、且つ、(ii-2)前記所定区間の単位で算出された前記回転エネルギーの変化率が、所定変化率より大きい場合、前記第2設定手段の制御から前記第1設定手段の制御へと切り替えることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項8】 前記所定区間は、前記クランクの慣性運動に基づく、慣性トルクの平均値が一定となるように規定されることを特徴とする請求項7に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項9】 前記所定区間は、前記内燃機関に有される気筒数に基づいて、規定されることを特徴とする請求項7又は8に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項10】 前記所定区間は、720度を、気筒数で割った商の値の前記クランク角度に基づいて、規定されることを特徴とする請求項7から9のうちいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項11】 内燃機関のクランクにおける、角加速度、又は角速度を算出する算出手段と、 前記角加速度、又は角速度に基づいて、前記クランクの回転エネルギーを算出するエネルギー算出手段と、 前記角加速度を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクのゲインを設定する第1設定手段と、 前記角速度を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクのゲインを設定する第2設定手段と、 算出された前記回転エネルギーに基づいて、前記第1設定手段の制御、及び、前記第2設定手段の制御のうち、一方から他方へと切り替える制御手段と、 を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。 【請求項12】 内燃機関のクランクにおける、角加速度、又は角速度を算出する算出工程と、 前記角加速度、又は前記角速度に基づいて、前記内燃機関の運転状態を判定する運転状態判定工程と、 前記角加速度と目標となる目標角加速度との偏差、又は、前記角速度と目標となる目標角速度との偏差に応じて、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させるゲインを設定するゲイン設定工程と、 (i)判定された前記運転状態が、第1運転状態の場合、前記角加速度と前記目標角加速度との偏差に応じて、前記ゲインを設定し、(ii)前記運転状態が、第2運転状態の場合、前記角速度と前記目標角速度との偏差に応じて、前記ゲインを設定するように、前記ゲイン設定工程を制御する制御工程と、 を備えることを特徴とする内燃機関の制御方法。 【請求項13】 内燃機関のクランクにおける、角加速度、又は角速度を算出する算出工程と、 前記角加速度、又は角速度に基づいて、前記クランクの回転エネルギーを算出するエネルギー算出工程と、 前記角加速度を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクのゲインを設定する第1設定工程と、 前記角速度を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクのゲインを設定する第2設定工程と、 算出された前記回転エネルギーに基づいて、前記第1設定手段の制御、及び、前記第2設定手段の制御のうち、一方から他方へと切り替える制御工程と、 を備えることを特徴とする内燃機関の制御方法。」 (b)本件補正後の特許請求の範囲 「【請求項1】 内燃機関のクランクにおける、角加速度、又は角速度を算出する算出手段と、 前記角加速度、又は前記角速度に基づいて、前記内燃機関の運転状態を判定する運転状態判定手段と、 前記クランクの回転エネルギーを算出するエネルギー算出手段と、 前記角加速度を一定値とならせるフィードバック制御により、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させるゲインを設定する第1設定手段と、 前記角速度を一定値とならせるフィードバック制御により、前記ゲインを設定する第2設定手段と、 判定された前記運転状態としての、算出された前記回転エネルギーの変化に基づいて、前記第1設定手段による前記ゲインの設定、及び、前記第2設定手段による前記ゲインの設定のうちいずれか一方から他方へと切り替えるように前記第1設定手段及び前記第2設定手段を制御する制御手段と、 を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。 【請求項2】 前記制御手段は、前記運転状態が、前記内燃機関の始動の際、前記角速度が、目標となる目標角速度に到達するまでの、前記目標角速度より小さい第1始動運転状態の場合、前記角加速度を、目標値にならせるフィードバック制御により、前記ゲインを設定するように、前記第1設定手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項3】 前記制御手段は、前記運転状態が、前記内燃機関の定常駆動の際、前記角速度が、目標となる目標角速度を中心とした所定範囲外にある第1回転変化運転状態の場合、前記角加速度を、略ゼロにならせるフィードバック制御により、前記ゲインを設定するように、前記第1設定手段を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項4】 前記制御手段は、前記運転状態が、前記内燃機関の定常駆動の際、前記角速度が、目標となる目標角速度を中心とした所定範囲外にある第1回転変化運転状態の場合、前記角加速度の積分値を、略ゼロ、又は、一定値にならせるフィードバック制御により、前記ゲインを設定するように、前記第1設定手段を制御することを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項5】 前記制御手段は、前記運転状態が、前記内燃機関の定常駆動の際、(i)前記角加速度が、ゼロを中心とした所定範囲内に収まる運転状態である場合、又は、(ii)前記角速度が、目標となる目標角速度を中心とした所定範囲内にある運転状態である場合、前記角速度を、一定値にならせるフィードバック制御により、前記ゲインを設定するように、前記第2設定手段を制御することを特徴とする請求項1から4のうちいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項6】 前記エネルギー算出手段は、前記クランクのクランク角度によって規定される所定区間の単位で、前記回転エネルギーを算出し、 前記制御手段は、(i-1)前記角速度が所定角速度より大きく、且つ、(i-2)前記所定区間の単位で算出された前記回転エネルギーの変化率が、所定変化率より小さい場合、前記第1設定手段による前記ゲインの設定から前記第2設定手段による前記ゲインの設定へと切り替え、(ii-1)前記角速度が所定角速度より小さく、且つ、(ii-2)前記所定区間の単位で算出された前記回転エネルギーの変化率が、所定変化率より大きい場合、前記第2設定手段による前記ゲインの設定から前記第1設定手段による前記ゲインの設定へと切り替えることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項7】 前記所定区間は、前記クランクの慣性運動に基づく、慣性トルクの平均値が一定となるように規定されることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項8】 前記所定区間は、前記内燃機関に有される気筒数に基づいて、規定されることを特徴とする請求項6又は7に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項9】 前記所定区間は、720度を、気筒数で割った商の値の前記クランク角度に基づいて、規定されることを特徴とする請求項6から8のうちいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。 【請求項10】 内燃機関のクランクにおける、角加速度、又は角速度を算出する算出工程と、 前記クランクの回転エネルギーを算出するエネルギー算出工程と、 前記角加速度を一定値とならせるフィードバック制御により、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させるゲインを設定する第1設定工程と、 前記角速度を一定値とならせるフィードバック制御により、前記ゲインを設定する第2設定工程と、 算出された前記回転エネルギーの変化に基づいて、前記第1設定手段による前記ゲインの設定、及び、前記第2設定手段による前記ゲインの設定のうちいずれか一方から他方へと切り替える制御工程と、 を備えることを特徴とする内燃機関の制御方法。」(アンダーラインは、請求人が付したものである。) 2.本件補正の目的 本件補正後の請求項1に関する本件補正は、 (A)本件補正前の請求項1を基にし、かつ、本件補正前の請求項6を削除したもの (B)本件補正前の請求項1を引用する本件補正前の請求項6を基にし、かつ、本件補正前の請求項1を削除したもの のいずれかと解される。 ここで、本件補正前の請求項1と本件補正後の請求項1を対比すると、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項であった「前記角加速度と目標となる目標角加速度との偏差、又は、前記角速度と目標となる目標角速度との偏差に応じて、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させるゲインを設定するゲイン設定手段」、「前記角加速度と前記目標角加速度との偏差に応じて、前記ゲインを設定し、」及び「前記角速度と前記目標角速度との偏差に応じて、前記ゲインを設定する」が、本件補正後の請求項1に係る発明の発明特定事項として「前記角加速度を一定値とならせるフィードバック制御により、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させるゲインを設定する第1設定手段と、前記角速度を一定値とならせるフィードバック制御により、前記ゲインを設定する第2設定手段」と補正されている。上記補正事項は、本件補正前の請求項1に係る発明の「前記内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させるゲインを設定するゲイン設定手段」の限定事項である「前記角加速度と目標となる目標角加速度との偏差、又は、前記角速度と目標となる目標角速度との偏差に応じて」を本件補正後の請求項1に係る発明の「前記角加速度を一定値とならせるフィードバック制御により」及び「前記角速度を一定値とならせるフィードバック制御により」に変更するものである。したがって、上記補正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。 また、上記(B)と解した場合は、さらに、本件補正前の請求項6に係る発明の発明特定事項であった「前記角速度から求められる角加速度、又は前記角速度に基づいて、前記クランクの回転エネルギーを算出するエネルギー算出手段」が本件補正後の請求項1に係る発明の発明特定事項として、単に「前記クランクの回転エネルギーを算出するエネルギー算出手段」と補正されていることになる。すなわち、本件補正前の請求項6に係る発明の「前記クランクの回転エネルギーを算出するエネルギー算出手段」の限定事項である「前記角速度から求められる角加速度、又は前記角速度に基づいて、」が削除されたことになる。したがって、上記補正事項も、特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。 そうすると、上記(A)又は(B)のいずれと解しても、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。なお、当該補正事項が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除、同第3号に掲げる誤記の訂正、同第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものでないことは明らかである。 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 第3.原査定の理由について 1.特許法第29条第2項違反 (1)本願発明 平成20年10月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年6月24日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された図面の記載からみて、平成20年6月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2.[理由]1.(a)の【請求項1】に記載されたとおりのものである。 (2)原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-125264号公報(平成18年5月18日公開。以下、「引用例」という。) (2)-1.引用例の記載事項 引用例には、次の事項が図面とともに記載されている。なお、アンダーラインは、発明の理解の一助として当審において付したものである。 (ア)「【0001】 本発明は内燃機関の始動制御装置に関し、詳しくは、吸入空気量の制御によって始動時の燃焼状態の安定化を図るようにした内燃機関の始動制御装置に関する。」(段落【0001】) (イ)「【0013】 図2は、本実施形態においてECU50により実行される内燃機関の始動制御の内容をフローチャートで示したものである。図2に示す始動制御ルーチンは、イグニッションスイッチのオン後、内燃機関の1サイクル(180°CA)毎に周期的に実行される。本ルーチンの最初のステップ100では、現在が内燃機関の始動時か否か判定される。ステップ100の判定にかかる始動時とは、イグニッションスイッチがオンとなって内燃機関が始動されてから、具体的には、初燃が検出されてから、所定期間(例えば、数秒の期間)が経過するまでの期間内を意味している。 【0014】 現在が内燃機関の始動時にある場合には、ステップ102において各気筒の膨張行程の期間におけるクランク角の平均角加速度が算出される。 …(中略)… 【0024】 次のステップ104では、ステップ102で算出されたクランク軸24の平均角加速度と所定の目標値との比較が行われる。目標値は、良好な燃焼状態が得られる場合に実現される膨張行程の期間の平均角加速度に設定されている。平均角加速度と目標値との差が基準値内に収まっていれば、その気筒の燃焼状態は安定していると判断することができ、平均角加速度が目標値から基準値を超えて乖離している場合には、その気筒の燃焼状態は不安定になっていると判断することができる。…(中略)… 【0025】 ステップ104の判定の結果、平均角加速度が目標値から基準値を超えて乖離していると判定された場合には、ステップ106において角加速度のずれを補償するのに必要なスロットル開度の補正量が算出される。そして、ステップ108では、ステップ106で算出されたスロットル開度の補正量に基づいてスロットルバルブ36の作動が制御される。これにより、現在吸気行程にある気筒の吸入空気量が補正されることになり、その気筒における燃焼の改善により角加速度のずれは補償される。 …(中略)… 【0030】 なお、ステップ100で判定される始動期間の経過後は、吸入空気量による制御から燃料噴射量による制御に切り替えるのが望ましい。」(段落【0013】ないし【0030】) (ウ)図2には、ECU50により実行される図2に示された「始動制御ルーチン」において、「ステップ100」で始動時ではないと判定された場合には、「始動制御ルーチン」を終了することが記載されている。 (エ)「【図面の簡単な説明】 【0038】 【図1】本発明の実施の形態1としての内燃機関の始動制御装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。 【図2】本発明の実施の形態1において実行される始動制御ルーチンのフローチャートである。 …(後略)…」 (2)-2.上記(2)-1.からわかること 上記(2)-1.(イ)及び(ウ)並びに図2を総合すると、「ECU50」によって「始動期間の経過後は、角加速度のずれを補償する吸入空気量による制御から燃料噴射量による制御に切り替える」ことがわかる。 (2)-3.引用例に記載された発明 上記(2)-1.及び(2)-2.並びに図面の記載を総合すると、引用例には、 「内燃機関の各気筒の膨張行程の期間におけるクランク角の平均角加速度を算出するECU50と、 イグニッションスイッチがオンとなって内燃機関が始動されてから、所定期間が経過するまでの期間内であるか否かに基づいて、前記内燃機関の始動時か否かを判定するECU50と、 前記平均角加速度が目標値から基準値を超えて乖離している場合には、角加速度のずれを補償するのに必要なスロットル開度の補正量を算出するECU50と、 (i)始動時は、前記角加速度のずれから算出されたスロットル開度の補正量に基づいてスロットルバルブ36の作動を制御し、(ii)始動期間の経過後は、角加速度のずれを補償する吸入空気量による制御から燃料噴射量による制御に切り替えるECU50と、 を備える内燃機関の始動制御装置。」 の発明(以下、「引用例に記載された発明」という。)が記載されている。 (3)対比 本願発明と引用例に記載された発明を対比すると、引用例に記載された発明における「内燃機関の各気筒の膨張行程の期間におけるクランク角の平均角加速度」は、その技術的意義からみて、本願発明における「内燃機関のクランクにおける角加速度」に相当し、以下同様に、「前記内燃機関の始動時か否かを判定する」は「前記内燃機関の運転状態を判定する」に、「始動時」は「第1運転状態」に、「始動期間の経過後」は「第2運転状態」に、「ECU50」は「算出手段」及び「運転状態判定手段」に、それぞれ相当する。 そして、引用例に記載された発明における「前記平均角加速度が目標値から基準値を超えて乖離している場合には、角加速度のずれを補償するのに必要なスロットル開度の補正量を算出するECU50」は、「前記角加速度と目標となる目標角加速度との偏差に応じて、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させる制御量を設定する制御量設定手段」という限りにおいて、本願発明における「前記角加速度と目標となる目標角加速度との偏差」「に応じて、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させるゲインを設定するゲイン設定手段」に相当する。 また、引用例に記載された発明における「前記角加速度のずれから算出されたスロットル開度の補正量に基づいてスロットルバルブ36の作動を制御するECU50」は、「前記角加速度と前記目標角加速度との偏差に応じて、前記制御量を設定する制御量設定手段」という限りにおいて、本願発明における「前記角加速度と前記目標角加速度との偏差に応じて、」「前記ゲインを設定するように、前記ゲイン設定手段を制御する制御手段」に相当する。 さらに、引用例に記載された発明における「始動期間の経過後は、角加速度のずれを補償する吸入空気量による制御から燃料噴射量による制御に切り替える」は、「前記運転状態が、第2運転状態の場合は、前記第1運転状態の場合とは異なる制御をする」という限りにおいて、本願発明における「前記運転状態が、第2運転状態の場合、前記角速度と前記目標角速度との偏差に応じて、前記ゲインを設定するように、前記ゲイン設定手段を制御する」に相当する。 してみると、本願発明と引用例に記載された発明は、 「内燃機関のクランクにおける、角加速度を算出する算出手段と、 前記内燃機関の運転状態を判定する運転状態判定手段と、 前記角加速度と目標となる目標角加速度との偏差に応じて、前記内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させる制御量を設定する制御量設定手段と、 (i)判定された前記運転状態が、第1運転状態の場合、前記角加速度と前記目標角加速度との偏差に応じて、前記制御量を設定するように、前記制御量設定手段を制御し、(ii)前記運転状態が、第2運転状態の場合は、前記第1運転状態の場合とは異なる制御をする制御手段と、 を備える内燃機関の制御装置。」 の点で一致し、次の(A)及び(B)の点で相違している。 (A)「内燃機関の運転状態を判定する」のに、本願発明においては、「角加速度、又は角速度に基づ」くのに対して、引用例に記載された発明においては、「イグニッションスイッチがオンとなって内燃機関が始動されてから、所定期間が経過するまでの期間内であるか否かに基づ」く点(以下、「相違点1」という。)。 (B)「前記運転状態が、第2運転状態」の場合、本願発明においては、「前記内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させる」ために、「前記角速度と目標角速度との偏差に応じて」、「内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させる」「ゲインを設定する」のに対し、引用例に記載された発明においては、「加速度のずれを補償する吸入空気量による制御から燃料噴射量による制御に切り替える」ものである点(以下、「相違点2」という。)。 (4)当審の判断 (ア)相違点1について 内燃機関の運転状態が始動時からアイドル運転時(始動期間の経過後)に移ると、角加速度がゼロを中心とした所定範囲内に収まる運転状態となること、及び角速度が目標となる目標角速度を中心とした所定範囲内にある運転状態となることは、当該技術分野の技術常識というべきものである。 そうすると、引用例に記載された発明において、内燃機関の運転状態を判定するに際し、「角加速度」又は「角速度」に着目することにより、上記相違点1に係る本願発明における発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて適宜選択可能な設計的事項にすぎない。 (イ)相違点2について 例えば、内燃機関の始動後の運転状態(本願発明における「第2運転状態」に相当)において、角速度が目標角速度となるように、算出された角速度と目標角速度との偏差に応じて、内燃機関を駆動するために必要なトルクを変化させる燃料噴射量などを制御することは、周知技術である(必要であれば、例えば、特開2005-120866号公報(段落【0014】ないし【0018】及び図3に注意されたい。)を参照されたい。以下、「周知技術」という。)。 なお、制御において、「ゲイン」を設定することは、ごく普通に行われていることである(必要であれば、原査定において、例示された特開平6-213033号公報及び特開平6-227291号公報を参照されたい。)。 そうすると、引用例に記載された発明において、上記周知技術を適用し、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別困難なく想到し得るものである。 そして、本願発明を全体としてみても、その作用効果は、引用例に記載された発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号違反 (1)原査定の拒絶の理由となった特許法第36条違反についての指摘事項の概要は、次のとおりである。 「イ.特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に記載の「フィードバック制御に基づいて・・・(トルクの)ゲインを設定する」ことの意味が不明確である。また「トルクのゲイン」自体の意味も不明確である。 ・・(略)・・ ホ.請求項6記載の「角加速度・・・に基づいて・・・回転エネルギーを算出する」事項は発明の詳細な説明に記載されていない(発明の詳細な説明には角速度に基づいて(1)式より回転エネルギを算出することのみが記載されている。)。」 (2)当審の判断 上記(1)指摘事項イ.については、平成20年6月24日付けで提出された手続補正書の記載を参照すると、何らの補正もなされていない個所(例えば、請求項11、請求項13、参照。)が複数ある。そして、上記(1)指摘事項イ.が不明確であることに変わりはない。 上記(1)指摘事項ホ.についても、平成20年6月24日付けで提出された手続補正書の記載を参照すると、何らの補正もなされていない個所(例えば、請求項6、請求項13、参照。)が複数ある。そして、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載をもってしては、角加速度に基づいて、どのようにしてクランクの回転エネルギーを算出するのか、不明確である。 したがって、本件出願は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 また、本件出願は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-10-28 |
結審通知日 | 2010-11-02 |
審決日 | 2010-11-15 |
出願番号 | 特願2006-158858(P2006-158858) |
審決分類 |
P
1
8・
57-
Z
(F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 寺川 ゆりか、畔津 圭介 |
特許庁審判長 |
深澤 幹朗 |
特許庁審判官 |
金澤 俊郎 鈴木 貴雄 |
発明の名称 | 内燃機関の制御装置及び方法 |
代理人 | 江上 達夫 |