• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1229735
審判番号 不服2009-4094  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-25 
確定日 2011-01-04 
事件の表示 平成11年特許願第342018号「ゲーム装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月 5日出願公開、特開2001-149648〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年12月1日の出願(特願平11-342018号)であって、平成20年4月28日付けで手続補正がなされ、平成21年1月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年2月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年3月27日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成22年7月16日付けで当審から審尋をし、平成22年9月21日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成21年3月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定について

[補正の却下の決定の結論]
平成21年3月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成20年4月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「複数の敵キャラクタと、遊技者の操作対象キャラクタが登場するゲーム装置において、前記各キャラクタのコリジョン判定に用いるヒットレンジの大きさを、ゲームの状況に応じて変更することを特徴とするゲーム装置。」が

「複数の敵キャラクタと、遊技者の操作対象キャラクタが登場するゲーム装置において、前記各キャラクタのコリジョン判定に用いるヒットレンジを設定し、複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時に応じて、前記ヒットレンジの大きさを変更することを特徴とするゲーム装置。」と補正された。

そして、この補正は、本件補正前の請求項1において、ヒットレンジの大きさを変更するための「ゲームの状況」について、「複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時」と特定して限定する補正であるから、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正であるといえる。
すなわち、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものを含む。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成21年3月27日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記「第2 平成21年3月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。)

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-113471号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。(後述の「イ 引用例に記載された発明の認定」において発明の認定に直接関係する記載に下線を付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ビデオゲーム機及びビデオゲームプログラムを記録した媒体に関し、特に、サッカーやバスケットボール等の球技のビデオゲームを行うためのビデオゲーム機及びビデオゲームプログラムを記録した媒体に関する。」

「【0053】本実施形態におけるCD-ROMディスク81に記録されているビデオゲームプログラムは、サッカー場のフィールドを想定したゲーム空間内においてゲームプレーヤが操作する側のサッカーチーム(自チーム)とCPU51が操作する側のサッカーチーム(敵チーム)とがサッカーの試合を行うサッカーゲームプログラムである。このサッカーゲームでは、サッカーの試合中において、自チームを構成する複数のサッカー選手(自キャラクタM(図3参照))は、CPU51によって適宜操作されるとともに、ボールBに最も近い自キャラクタMがCPU51によって自動的に選択され、ゲームプレーヤがその自キャラクタMを操作可能となっている。
【0054】ここに、上述したコントローラ92における十字キー92gは、自キャラクタMをゲーム空間内において前後左右に移動させる方向キーとして設定される。また、自キャラクタMがボールB(図3参照)を保持している場合には、第1ボタン92bは、サッカー場のタッチライン外から場内にボールBを投げ込むスローイングボタンとして設定されるとともに、第2,第3ボタン92c、92dは、ボールBを蹴り出すキックボタン(パスボタン,シュートボタン)として設定される。また、敵チームを構成する複数のサッカー選手(敵キャラクタE(図3参照))のいずれかがボールBを保持し、ゲームプレーヤが操作可能な自キャラクタMが防御を行う場合には、第4ボタン92fは、ボールBを保持している敵キャラクタに対してゲームプレーヤが操作可能な自キャラクタMがタックル動作を行うタックルボタンとして設定される。」

「【0060】タックル位置判定部40は、ゲームプレーヤによって操作可能な自キャラクタMがボールBを保持している敵キャラクタに対して前方,サイドあるいは後方からタックルをするに適正な位置に存しているか否かを判定する。この位置判定は、以下のようにして行われる。すなわち、図3の説明図に示されるように、敵キャラクタEの中心からボールBの直径の3倍の距離範囲,または、敵キャラクタEの中心からその背面方向へ向けて延出する仮想の軸線L1を基準とした各120゜?180゜の角度範囲であって敵キャラクタEの中心からボールBの直径の9倍の距離範囲内に自キャラクタMが存している場合には、タックル位置判定部40は、自キャラクタMが敵キャラクタEに対してタックルをするに適正な位置に存していると判定し、その旨を敵キャラクタ位置判定部41に対して通知する。これに対し、上述した範囲内に自キャラクタMが存していない場合には、タックル位置判定部40は、その旨を動作決定部44に対して通知する。
【0061】敵キャラクタ位置判定部41(相対位置検出手段に相当)は、タックル位置判定部40からの通知を受けて起動し、自キャラクタMと敵キャラクタとの相対的な位置関係を判定する。この相対位置判定は、以下のようにして行われる。すなわち、図3に示されるように、敵キャラクタEの中心からその背面方向へ向けて延出する仮想の軸線L1を基準とした各45゜の角度範囲であって敵キャラクタEの中心からボールBの直径の3倍の距離範囲内に自キャラクタMが存している場合には、自キャラクタMが敵キャラクタEの後方に存していると判定される。また、軸線L1を基準とした各45゜?120゜の角度範囲であって敵キャラクタEの中心からボールBの直径の3倍の距離範囲内に自キャラクタMが存している場合には、自キャラクタMが敵キャラクタEの側方に存していると判定される。さらに、軸線L1を基準とした120゜?180゜の角度範囲であって敵キャラクタEの中心からボールBの直径の9倍の距離範囲内に自キャラクタMが存している場合には、自キャラクタMが敵キャラクタEの前方に存していると判定される。そして、敵キャラクタ位置判定部41は、上述した判定結果をタックル動作処理部42に対して通知する。
【0062】タックル動作処理部42(動作制御手段に相当)は、敵キャラクタ位置判定部41による判定結果を受け取って起動し、その判定結果に応じて自キャラクタMを敵キャラクタに対して前方,側方又は後方からタックルさせる場合の動作処理や画像処理等を行う。すなわち、自キャラクタMが敵キャラクタEに対して近づきタックルする画像処理命令をGPU62に与える等の処理を行う。」

「【0066】次に、上述した本実施形態におけるビデオゲーム機の動作例を、図5?7に示されたフローチャートを用いて説明する。前提として、ゲーム実行部31によって上述したサッカーゲームの通常処理が行われているものとする。
【0067】図5に示されるように、通常処理時におけるボール保持判定部33は、ゲーム実行部31から割り込み処理開始信号を受け付ける状態,すなわちボール奪取動作処理待ち状態となっている〈ステップS101〉。
【0068】そして、自キャラクタMがボールBを保持していない状態において、第4ボタン92f(ボール奪取動作開始ボタン)が押されると、ボール奪取動作開始信号がゲーム実行部31に入力される。続いて、ゲーム実行部31から、割り込み処理開始信号がボール保持判定部33に入力される。ボール保持判定部33は、割り込み処理開始信号を受け取ると、ボールBがフリー状態(敵キャラクタのいずれにも保持されていない状態)であるか否かを判定する〈ステップS102〉。そして、ボール保持判定部33は、ボールBがフリー状態でない(敵キャラクタEのいずれかがボールを保持している)と判定すると、その旨をタックル位置判定部40に通知し、動作をステップS103に進める。これに対し、ボール保持判定部33は、ボールBがフリー状態であると判定すると、その旨をボール位置判定部43に通知し、動作をステップS107に進める。
【0069】ステップS103では、タックル位置判定部40が、自キャラクタMの位置がボールBを保持している敵キャラクタEに対してタックルを行うに適正か否かを判定する。そして、タックル位置判定部40は、自キャラクタMの位置が適正であると判定すると、その旨を敵キャラクタ位置判定部41に通知し、動作をステップS104に進める。これに対し、タックル位置判定部40は、自キャラクタMの位置が適正でないと判定すると、その旨を動作決定部40に対して通知し、動作をステップS105に進める。
【0070】ステップS104では、タックルの処理動作が行われる。このタックルの処理動作は、具体的には以下のように行われる。すなわち、図6に示されるように、ステップS201において、敵キャラクタ位置判定部41が、自キャラクタMと敵キャラクタEとの角度差が120゜以上か,すなわち、図3に示された軸線L1を基準とした各120゜?180゜の角度範囲に自キャラクタMが存しているか否かを判断する。そして、その角度範囲に自キャラクタMが存している場合には、敵キャラクタ位置判定部41は、ステップS202に動作を進める。これに対し、上述した角度範囲に自キャラクタMが存している場合(当審注:「存していない場合」の誤り)には、敵キャラクタ位置判定部41は、ステップS204に処理を進める。
【0071】ステップS202では、敵キャラクタ位置判定部41が、自キャラクタMと敵キャラクタEとの間の距離が以下の式1によって算出される値以内か否かを判断する。
(ボールの直径×9)+(自キャラクタの速度+敵キャラクタの速度)・・・(式1)
そして、敵キャラクタ位置判定部41は、自キャラクタMと敵キャラクタEとの間の距離が式1の算出結果以内であると判断すると、その旨をタックル動作処理部42に対して通知し、動作をステップS203に進める。これに対し、敵キャラクタ位置判定部41は、自キャラクタMと敵キャラクタEとの間の距離が式1の算出結果以内でないと判断すると、その旨を動作決定部44に対して通知し、動作をステップS105に進める。
【0072】ステップS203では、タックル動作処理部42が、敵キャラクタ位置判定部41からの通知を受け取って起動し、自キャラクタMにボールBを保持している敵キャラクタEに対して近づき前方からタックル動作を行わせる処理を行う。なお、ステップS203の動作が終了すると、割り込み処理が終了し、ゲーム実行部31による通常処理に戻る。
【0073】一方、ステップS201からステップS204へ動作が進んだ場合には、敵キャラクタ位置判定部41が、敵キャラクタEが自キャラクタMよりもボールBに近い位置に存し、且つ自キャラクタMと敵キャラクタEとの間の距離がボールBの直径の3倍以内であるという条件を満たすか否かを判断する。このような判断を行うのは、上述した条件を満たさない場合におけるタックル動作が、ファウルとして判定される可能性を回避するためである。敵キャラクタ位置判定部41は、上述した条件が満たされると判断すると、ステップS205へ処理を進める。これに対し、敵キャラクタ位置判定部41は、上述した条件が満たされないと判断すると、その旨を動作決定部44に対して通知し、動作をステップS105に戻す。
【0074】ステップS205では、敵キャラクタ位置判定部41は、自キャラクタMと敵キャラクタEとの角度差が45゜以内か,すなわち、図3に示された軸線L1を基準とした各45゜の角度範囲に自キャラクタMが存しているか否かを判断する。そして、その角度範囲に自キャラクタMが存している場合には、敵キャラクタ位置判定部41は、その旨をタックル動作処理部42に対して通知し、動作をステップS206に進める。これに対し、上述した角度範囲に自キャラクタMが存していない場合には、敵キャラクタ位置判定部41は、その旨をタックル動作処理部42に対して通知し、動作をステップS207に進める。
【0075】ステップS206では、タックル動作処理部42が、敵キャラクタ位置判定部41からの通知を受け取って起動し、自キャラクタMにボールBを保持している敵キャラクタEに対して近づき後方からタックルを行わせる処理を行う。なお、ステップS206の動作が終了すると、割り込み処理が終了し、ゲーム実行部31による通常処理に戻る。
【0076】一方、ステップS207では、タックル動作処理部42が、敵キャラクタ位置判定部41からの通知を受け取って起動し、自キャラクタMにボールBを保持している敵キャラクタEに対して近づき側方(サイド)からタックルを行わせる処理を行う。このステップS207の動作が終了すると、割り込み処理が終了し、ゲーム実行部31による通常処理に戻る。
【0077】次に、ステップS105に動作が進んだ場合には、自キャラクタMが敵キャラクタEの保持するボールBに向かって走る処理動作が行われる。この処理動作は具体的には以下のように行われる。すなわち、図7に示されるように、ステップS301において動作決定部44が、自キャラクタMが図4に示した範囲に存しているか否かを判断する。そして、動作決定部44は、自キャラクタMが上述した範囲に存していると判断した場合には、動作をステップS302に進める。これに対し、自キャラクタMが上述した範囲に属していないと判断した場合には、動作をステップS304に進める。
【0078】ステップS302では、動作決定部44が、ボールの20分の3秒後の位置α(本実施形態では1秒20フレームで構成されるので画像の3フレーム目におけるボールBの位置に相当:図4参照)を算出する。続いて、動作決定部44は、自キャラクタMがステップS302にて算出した位置αへ向かって走るための処理を行う〈ステップS303〉。そして、この処理が終了すると、動作がステップS106に戻る。
一方、ステップS301からステップS304へ動作が進んだ場合には、動作決定部44は、ボールBを敵キャラクタEが保持しているか否かを判断する。そして、動作決定部44は、敵キャラクタEがボールBを保持していると判断すると、動作をステップS305に進める。これに対し、動作決定部44は、敵キャラクタEがボールBを保持していないと判断すると、動作をステップS306に進める。」

「【図3】(敵キャラクタ位置判定部の判定方法の説明図)



イ 引用例に記載された発明の認定
上記【図3】も参酌して総合判断すれば、引用例1には、
「ゲームプレーヤが操作する側のサッカーチーム(自チーム)とCPU51が操作する側のサッカーチーム(敵チーム)とがサッカーの試合を行うサッカーゲームであって、自チームを構成する複数のサッカー選手(自キャラクタM)は、CPU51によって適宜操作されるとともに、ボールBに最も近い自キャラクタMがCPU51によって自動的に選択され、ゲームプレーヤがその自キャラクタMを操作可能となっているサッカーゲームのビデオゲーム機に関して、
タックル位置判定部40が、自キャラクタMの位置がボールBを保持している敵キャラクタEに対してタックルを行うに適正か否かを判定するにあたり、
自キャラクタMの位置が
(1)敵キャラクタEにおける軸線L1を基準とした各120゜?180゜の角度範囲であって敵キャラクタEからの距離が
(ボールの直径×9)+(自キャラクタの速度+敵キャラクタの速度)・・・(式1)
の算出結果以内の距離の範囲内にあれば、ボールBを保持している敵キャラクタEに対して近づき前方からタックル動作を行わせる処理を行い、
(2)上記軸線L1を基準とした各45゜の角度範囲であって敵キャラクタEからの距離がボールBの直径の3倍以内の距離の範囲内であれば、ボールBを保持している敵キャラクタEに対して近づき後方からタックルを行わせる処理を行い、
(3)上記軸線L1を基準とした各120゜?180゜の角度範囲又は各45゜の角度範囲以外の角度範囲であって敵キャラクタEからの距離がボールBの直径の3倍以内の距離の範囲内であれば、保持している敵キャラクタEに対して近づき側方(サイド)からタックルを行わせる処理を行い、
(4)上記(1)ないし(3)の範囲にないならば、自キャラクタMが敵キャラクタEの保持するボールBに向かって走る処理動作が行われるサッカーのビデオゲーム機。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)本願補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ゲームプレーヤが操作する側のサッカーチーム(自チーム)とCPU51が操作する側のサッカーチーム(敵チーム)とがサッカーの試合を行うサッカーゲームであって、自チームを構成する複数のサッカー選手(自キャラクタM)は、CPU51によって適宜操作されるとともに、ボールBに最も近い自キャラクタMがCPU51によって自動的に選択され、ゲームプレーヤがその自キャラクタMを操作可能となっているサッカーゲームのビデオゲーム機」が本願補正発明の「複数の敵キャラクタと、遊技者の操作対象キャラクタが登場するゲーム装置」に相当する。

本願補正発明の「各キャラクタのコリジョン判定に用いるヒットレンジ」については、その具体的事項が明確でないので、明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌してその具体的事項を特定する。明細書の発明の詳細な説明(【0024】?【0026】)及び図面(【図2】)には次の事項が記載されている。
「【0024】
コリジョン判定には、図2に示すような、ヒットレンジと呼ばれる円形の判定領域を用いる。このヒットレンジは、ゲーム装置の内部で仮想的に設定されるもので、ゲーム中の画面には表示されない。また、ヒットレンジは、各選手キャラクタについて、その選手キャラクタを中心として設定される円形の領域であり、選手キャラクタが移動するとそれに伴って移動する。コリジョン判定の処理は、このヒットレンジを用いて、移動するボールがヒットレンジを通らないと判定したときはボールを捕捉させず、ボールがいずれかのヒットレンジを通ったと判定したときはそのヒットレンジの選手キャラクタにボールを捕捉さるという処理である。
【0025】実際のフットサルやサッカーでも、味方からパスを受ける場合や相手のパスを奪う場合は、選手が移動するボールにタイミングよく近づくことが必要なことから、コリジョン判定は、実際の球技スポーツにおける動作と比較しても合理的なものであることが分かる。
【0026】図2の例では、攻撃側の選手キャラクタ30が、味方の選手キャラクタ31にパスを出したときに、このボール35を奪おうとして相手側(守備側)の選手キャラクタ32及び33がボール35の移動経路に迫ってきた状況を示している。この場合、パスとして蹴り出されたボール35は守備側の選手キャラクタ32のヒットレンジに入ったため、ボール35は守備側の選手キャラクタ32に捕捉され、攻撃側のパスは不成功に終わっている。なお、本明細書では、「攻撃側」とは、ボールをキープしている側のチームであって、センターラインを超えて相手チームの陣地内に攻め入っている側のチームを指するものとする。この場合、反対のチームは「守備側」となる。」

「【図2】(コリジョン判定に一定の大きさのヒットレンジを用いた場合を示した図)


本願の上記の発明の詳細な説明及び図面の記載から、ヒットレンジは、移動するボールが選手キャラクタを中心として設定された特定の領域を通った(入った)か否かを判定するための当該特定の領域のことであることがわかり、この特定の領域を請求項1においては「各キャラクタのコリジョン判定に用いるヒットレンジ」と特定している。よって、請求項1の上記「各キャラクタのコリジョン判定に用いるヒットレンジ」は、ゲーム上の特定キャラクタを中心とする領域であって、そのキャラクタ以外の他の対象物の位置がその領域内にあるかか否かを判定するための領域のことをいうものと認められる。
一方、引用発明の
「(1)敵キャラクタEにおける軸線L1を基準とした各120゜?180゜の角度範囲であって敵キャラクタEからの距離が
(ボールの直径×9)+(自キャラクタの速度+敵キャラクタの速度)・・・(式1)
の算出結果以内の距離の範囲内」、
「(2)上記軸線L1を基準とした各45゜の角度範囲であって敵キャラクタEからの距離がボールBの直径の3倍以内の距離の範囲内」、及び、
「(3)上記軸線L1を基準とした各120゜?180゜の角度範囲又は各45゜の角度範囲以外の角度範囲であって敵キャラクタEからの距離がボールBの直径の3倍以内の距離の範囲内」
は、敵キャラクタEにとっては他の対象物である「自キャラクタM」の位置がその範囲内にあるか否かを判定するための領域であるから、本願補正発明の「前記各キャラクタのコリジョン判定に用いるヒットレンジ」に相当することが明らかである。

引用発明における上記(1)ないし(3)の範囲の大きさが自キャラクタの速度+敵キャラクタの速度によって変化することから、引用発明の
「自キャラクタMが
(1)敵キャラクタEにおける軸線L1を基準とした各120゜?180゜の角度範囲であって敵キャラクタEからの距離が
(ボールの直径×9)+(自キャラクタの速度+敵キャラクタの速度)・・・(式1)
の算出結果以内の距離の範囲内にあれば、ボールBを保持している敵キャラクタEに対して近づき前方からタックル動作を行わせる処理を行い、
(2)上記軸線L1を基準とした各45゜の角度範囲であって敵キャラクタEからの距離がボールBの直径の3倍以内の距離の範囲内であれば、ボールBを保持している敵キャラクタEに対して近づき後方からタックルを行わせる処理を行い、
(3)上記軸線L1を基準とした各120゜?180゜の角度範囲又は各45゜の角度範囲以外の角度範囲であって敵キャラクタEからの距離がボールBの直径の3倍以内の距離の範囲内であれば、保持している敵キャラクタEに対して近づき側方(サイド)からタックルを行わせる処理を行」
うことと、本願補正発明の「複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時に応じて、前記ヒットレンジの大きさを変更する」こととは、「ゲームの状況に応じて、前記ヒットレンジの大きさを変更する」点で一致する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「複数の敵キャラクタと、遊技者の操作対象キャラクタが登場するゲーム装置において、前記各キャラクタのコリジョン判定に用いるヒットレンジを設定し、ゲームの状況に応じて、前記ヒットレンジの大きさを変更するゲーム装置。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
両者は「ゲームの状況に応じてヒットレンジの大きさを変更する」ものであることで共通するものではあるが、本願補正発明においては、上記「ゲームの状況」が「複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時」であり、「複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時に応じて、前記ヒットレンジの大きさを変更する」ものであるのに対して、引用発明においては、その点の限定がない点。

(4)当審の判断
ア 上記相違点について検討する。
まず、本願補正発明における「複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時」における「攻撃」及び「守備」は、本願の明細書の詳細な説明及び図面の記載を参酌すると、明細書の【0025】段落及び【0026】段落(上記「(3)本願補正発明と引用発明との対比」の「ア 対比」における記載参照)の記載から、ゲームのルールに基づくものであり、「攻撃」であるか「守備」であるかの区別自体は、何らの技術的な特徴をも含有するものではない。

そして、上記請求項1の「複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時に応じて、前記ヒットレンジの大きさを変更する」について、本願の明細書の発明の詳細な説明(【0027】?【0031】)及び図面(【図3】)には、次の事項が記載されている。

「【0027】
ところで、球技スポーツをシミュレートするこれまでのスポーツゲーム装置では、上のようなコリジョン判定を行う際に用いるヒットレンジの大きさは、ゲーム装置ごとに一定だった。この場合、ヒットレンジを大きくすると、味方チームから出されたパスを受けるときにボールを捕捉しやすくはなるが、ボールが移動する途中で相手チームの選手キャラクタに奪われやすくもなる。一方、ヒットレンジを小さくすると、パスの途中に相手チームによってボールを奪われる危険性は少なくなる反面、味方チームの選手キャラクタがパスを受けるときにボールをうまく捕捉するのが難しくなる。
【0028】このため、これまでは、ヒットレンジをどのような大きさにしても、パスをうまくつなげることが難しく、特に、センターラインを境にして相手側の陣地に攻め込んでいるときには、相手チームのマークが厳しくなってなかなかパスが通らなくなる。また、たとえ相手チームにボールを奪われなくても、うまく味方からのパスを受けることができずにボールを後逸してしまい、そのボールを追いかけて取りに行っている間に、限られたゲーム時間が無駄に過ぎてしまうことうことが多かった。
【0029】
そこで、本実施形態では、ヒットレンジとして「通常のヒットレンジ」、「攻撃時のヒットレンジ」、「守備時のヒットレンジ」という、三つを用意する。「攻撃時のヒットレンジ」は最も大きく、「守備時のヒットレンジ」は最も小さく、「通常のヒットレンジ」は、「攻撃時のヒットレンジ」と「守備時のヒットレンジ」の間の大きさである。本実施形態では、ゲームの状況に応じて、これら三つのヒットレンジを適当なタイミングで切り替える。
【0030】
図3は、図2と同様に、ボールをキープして相手側の陣地に攻め入っている側(攻撃側)の選手キャラクタ40が、味方の選手キャラクタ41にパスを出したときに、このボール45を奪おうとして相手側(守備側)の選手キャラクタ42及び43がボール45の移動経路に迫ってきた状況を示している。本実施形態では、このような状況において、攻撃側の選手キャラクタ41には、大きな「攻撃時のヒットレンジ」を適用し、守備側の選手キャラクタ42,43には、小さな「守備時のヒットレンジ」を適用する。
【0031】
図3のように大きさの異なるヒットレンジが適用されると、選手キャラクタ40?43の位置やボール45の移動経路は図2の場合と同じであるが、図3の場合は、パスとして蹴り出されたボール45は守備側の選手キャラクタ42、43のヒットレンジには入らず、このため守備側の選手キャラクタには捕捉されない。また、攻撃側の選手キャラクタ41のヒットレンジが大きいため、選手キャラクタ41は味方の選手キャラクタ40から蹴り出されたパスを受るときに、ボール45を捕捉しやすくなる。このため、図3では、最終的に攻撃側のパスが成功している。
【0032】
図3の例はパスが成功しいる場合であるが、もしもパスが成功せず、ボール45が守備側の選手キャラクタに奪われると、その時点から、これまで守備側だったチームが攻撃に転じる。これに合わせて、各選手キャラクタのヒットレンジは、「通常のヒットレンジ」が適用しなおされる。その後、ボールを奪った側が、センターラインを超えて相手側の陣地に攻め入ると、その時点で、選手キャラクタ40、41には「守備時のヒットレンジ」が適用され、選手キャラクタ42、43には「攻撃時のヒットレンジ」が適用される。
【0033】
さらに、ボールがいずれかの陣地にある場合でも、ボールがいずれのチームにもキープされていないフリー状態のときは、各選手キャラクタには、「通常のヒットレンジ」が適用される。
【0034】
このように、「通常のヒットレンジ」、「攻撃時のヒットレンジ」、「守備時のヒットレンジ」という、大きさの異なる三つのヒットレンジを用意し、上で説明したように、それぞれの状況に合わせて適用するヒットレンジを切り替えるようにすると、ヒットレンジの大きさが常に一定の場合に比べて、パスが通り易くなる。このため、ゲーム装置の操作に慣れていない初心者が、相手チームの選手キャラクタがボールを奪おうとする中でもパスを通し易くなり、組織的な攻撃につなげ易くなる。このため、これまでのゲーム装置に比べて、よりスポーツゲーム本来の楽しみを味わうことができるようになる。」

「【図3】(コリジョン判定において、攻撃側の選手キャラクタには大きな「攻撃時のヒットレンジ」を適用し、守備側の選手キャラクタには小さな「守備時のヒットレンジ」を適用した場合を示した図)




上記記載から、本願補正発明のゲームにおいてはパスをうまくつなげることが難しく、ゲーム本来の楽しみを味わうことが困難であったところ、ヒットレンジとして「通常のヒットレンジ」、「攻撃時のヒットレンジ」、「守備時のヒットレンジ」という、三つを用意し、「攻撃時のヒットレンジ」は最も大きく、「守備時のヒットレンジ」は最も小さく、「通常のヒットレンジ」は、「攻撃時のヒットレンジ」と「守備時のヒットレンジ」の間の大きさとし、適用するヒットレンジを切り替えるようにして、パスが通り易くし、特定のルールに基づくスポーツゲーム本来の楽しみをより味わうことができるようにしたものであることがわかる。
そして、上記の「攻撃時のヒットレンジ」と「守備時のヒットレンジ」に切り替えることを、本が補正発明の請求項1において「複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時に応じて、前記ヒットレンジの大きさを変更する」と特定したものと認められるから、上記の「複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時に応じて、前記ヒットレンジの大きさを変更する」は、「複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時」の区別によって、ボールを補足する能力を変更することを取り決めたものであるといえる。
ところで、実世界の各種スポーツ等の対戦型の競技において、ルールによって攻撃者や守備者の能力(行動範囲や行為自体)を制限することは通常のこと(例えば、サッカーにおけるオフサイドなど)であり、これは、競技本来の趣旨に沿うようにルールとして人為的に取り決められたものであって、これが技術的事項ではないことは言うまでもない。同様にバーチャルのゲームの世界でも、対戦型ゲームにおいて、種々の理由(攻撃力と守備力のバランス調整、難易度の選択・調整、競技者の能力に応じたハンディの設定等)から、攻撃者と守備者の能力に差をつけるなどのことは通常行われていることであり、そして、このこと自体に技術的困難性はない。
すなわち、上記相違点に係る「複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時に応じて、前記ヒットレンジの大きさを変更する」点は、上記のように「複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時」の区別によって、ボールの補足能力を変更することを人為的に取り決めたものに過ぎず、このこと自体に技術的困難性はなく、当業者が適宜になし得る事項であり、この点に発明の進歩性を認めることはできない。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年3月27日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年4月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成21年3月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成21年3月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 平成21年3月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明に対して、ヒットレンジの大きさを変更するための「ゲームの状況」について、「複数の各キャラクタの攻撃時、もしくは、守備時」と特定して限定したものが本願補正発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成21年3月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)本願補正発明と引用発明との対比」及び「(4)当審の判断」において記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-26 
結審通知日 2010-11-01 
審決日 2010-11-17 
出願番号 特願平11-342018
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 仁之  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 森林 克郎
樋口 信宏
発明の名称 ゲーム装置  
代理人 半田 昌男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ