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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B60T |
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管理番号 | 1229747 |
審判番号 | 不服2009-9177 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-04-28 |
確定日 | 2011-01-04 |
事件の表示 | 特願2003- 59318「電磁弁の制御方法および制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月25日出願公開、特開2003-267204〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成15年3月6日の出願(パリ条約による優先権主張2002年3月12日、2002年6月21日、ドイツ連邦共和国)であって、平成21年1月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。)は、平成20年11月26日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 電気的制御値(i)を用いて、ブレーキ系統における少なくとも1つの弁を制御する方法であって、該方法は、 前記弁における圧力低下(Δp)と前記電気的制御値(i)との関係を表す特性曲線を提供する段階であって、前記特性曲線は、前記電気的制御値(i)の変化が前記圧力低下(Δp)の変化をもたらす少なくとも1つの領域を有する、段階と、 前記弁の制御中に、前記電気的制御値(i)の始動値を選択する段階であって、前記始動値は、前記少なくとも1つの領域内にあるか、または、前記少なくとも1つの領域の境界にあるように選択される、段階と、 を備え、 少なくとも1つの調整サイクルにおける前記始動値は、先行する調整サイクルにおける弁の電気的制御値の関数として選択され、 先行する調整サイクルにおける前記弁の電気的制御値は、ホイールのブレーキ滑りにより所定値を超えるような、前記弁のコイルを流れる電流である、 ことを特徴とする方法。 【請求項2】 請求項1に記載の方法において、前記始動値は、前記弁に関連するホイールブレーキ・シリンダ内で圧力発生段階が開始されるような電気的制御値であることを特徴とする方法。 【請求項3】 請求項2に記載の方法において、第1段階では前記電気的制御値が一定値をとり、前記第1段階が、時間的に前記圧力発生段階に先行することを特徴とする方法。 【請求項4】 請求項2に記載の方法において、前記圧力発生段階において、前記ホイールブレーキ・シリンダ内のブレーキ圧(p)は、ホイールの前記ブレーキ滑りが所定値を超えるまで上昇されることを特徴とする方法。 【請求項5】 請求項1に記載の方法において、前記弁の電気的制御値は、バルブ・コイルを流れる電流であることを特徴とする方法。 【請求項6】 電気的制御値を用いて、ブレーキ系統における少なくとも1つの弁を制御する装置であって、該装置は、 前記弁の制御中に前記電気的制御値(i)の始動値を選択する手段であって、前記始動値は、弁制御領域内にあるか、または、前記弁制御領域の境界にあるように選択され、前記弁制御領域内では、電気的制御値(i)の変化が前記弁における圧力低下(Δp)の変化をもたらす、手段を備え、 少なくとも1つの調整サイクルにおける前記始動値は、先行する調整サイクルにおける弁の電気的制御値の関数として選択され、 先行する調整サイクルにおける前記弁の電気的制御値は、ホイールのブレーキ滑りにより所定値を超えるような、前記弁のコイルを流れる電流である、 ことを特徴とする装置。 【請求項7】 請求項6に記載の装置において、該装置は、吸込弁を制御するために使用されることを特徴とする装置。 【請求項8】 請求項6に記載の装置において、前記制御される少なくとも1つの弁は、圧力差調整弁を含むことを特徴とする装置。」 3.原審の拒絶理由について (1)平成20年5月30日付け拒絶理由通知書の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。 「【理由1】この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1、2、4、8の「始動値」とはどのような値であるのか不明である。 よって、請求項1-10に係る発明は明確でない。 【理由2】この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 発明の詳細な説明に「電流の始動値(図5の503)が検出されなければならない(【0037】」とあるが、電流の始動値の検出方法が不明である。特に、「Δp abbau」が、あらかじめ設定する固定値であるのか、何らかの手段で演算して求める値であるのか、不明である。なお、後者の場合、どのような手段であるのかも不明である。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」 (2)平成21年1月26日付け拒絶査定の備考には、次のように記載されている。 「備考 (請求項1-8について) ・理由1(第36条第6項第2号) 補正後の請求項1-8においても、「始動値」とは何か依然として不明である。請求項1-8では、「始動」とは、何の「始動」であるのか(どのような状態からどのような状態へ移行することであるのか。)、特定できず、「始動値」の技術上の意義が把握できない。 よって、請求項1-8に係る発明は、明確でない。 ・理由2(第36条第4項第1号) 発明の詳細な説明において、「Δp_abbau」を求める方法が不明であり、そのため、「Δ_start」及び「電流の始動値」を決定する方法も不明である。出願人は、平成20年11月26日付けの意見書において「Δp_abbauは…前回のサイクルから得られた値を用いるものである」と述べているが、「前回のサイクルから得られた値」とは具体的に何か不明であり、それをどのように「用いる」のかも不明である。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」 4.当審の判断 上記の拒絶理由で指摘した特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載不備についての当審の判断は、次のとおりである。 4-1.本願発明2に関する発明の詳細な説明の記載について (1)請求項2の記載事項 請求項2には、「前記始動値は、前記弁に関連するホイールブレーキ・シリンダ内で圧力発生段階が開始されるような電気的制御値であること」と記載されているとともに、その引用する請求項1には、「少なくとも1つの調整サイクルにおける前記始動値は、先行する調整サイクルにおける弁の電気的制御値の関数として選択され、 先行する調整サイクルにおける前記弁の電気的制御値は、ホイールのブレーキ滑りにより所定値を超えるような、前記弁のコイルを流れる電流である、」と記載されている。 (2)発明の詳細な説明の記載 請求項2に特定されている上記記載事項に関して、発明の詳細な説明には、次のように記載されている。 (あ)「【0009】 ホイールのブレーキ滑りが所定値を超える時点は、予め従来のABS制御装置(アンチロックブレーキ制御システム)によって検知される。有利な実施形態の特徴は、電気的制御値の始動値が、弁に関連するホイールブレーキ・シリンダ内で圧力発生段階が開始されるような制御値であることにある。それによって、圧力発生の精密な制御が可能になる。すなわち、始動値とは圧力発生段階を開始する値である。」 (い)「【0027】 i-Δp特性曲線を介した前述の調整を利用する際に、圧力発生の時点の他に、圧力発生の開始時に弁がどのような電流で制御されるかという問題が生ずる。それには、以下のような2つの可能性がある。 1.(例えば、ESPのような)多くの走行動特性調整システムにおいては、ブレーキ系統内の吸気圧は自動車内にあるセンサ装置を介して分かる。吸気圧とホイールブレーキ・シリンダ内の実際のブレーキ圧とが判明することで、吸込弁における圧力低下を計算することができる。そこから、i-Δp特性曲線を介して必要な開放電流を算定できる。 2.(例えば、多くのABSシステムのような)多くのシステムの場合、ブレーキ系統内の吸気圧は分からない。このような場合に備えられた、(同様に吸気圧が判明していない)吸込弁の圧力差調整特性を利用することによる補助手段を以下に説明する。 【0028】当該のESPシステムおよびABSシステムでは、圧力発生は常に圧力保持段階から行われる。すなわちホイールブレーキ・シリンダ内に一定の圧力を有する段階は、(ホイールブレーキ・シリンダ内の)圧力発生段階に常に先行する。圧力保持段階では、弁を流れる電流は、これが吸込弁を遮断するのに充分である程度に留まる限り、重要ではない。圧力発生を直ぐに開始するためには、実際にかかる圧力低下に相当するように弁電流が調整されなければならない。この電流値が間違っていると、以下の2つの事例が発生する。 【0029】 事例1:電流が小さすぎる場合(すなわち、吸込弁において低下する圧力差が過度に急速に低下する場合)は、不要に大きい発生勾配を伴う圧力発生が起きる。それによって調整が不安定になり、引き続いてホイールの滑りも大きくなり、また自動車のステアリングが困難となる。この事態は図4の上方の図に示されている。この図では、時間tが横軸方向に記載されており、縦軸方向には弁電流iと、ホイール周速vと、対応するホイールブレーキ・シリンダ内の圧力pとが記載されている。電流がスイッチオンされると直ちに、ポイント401で示されているように、急激な圧力発生が起きる。それによってホイールの周速が対応して急激に下落し(402)、その結果としてABS制御装置が応答する。ABS制御装置は、吸込弁を流れる電流を飛躍的に上昇させる(404)。それによって吸込弁が閉じられる。その結果、ホイールブレーキ・シリンダ内の圧力はそれ以上は増大しない。ホイールブレーキ・シリンダ内での(極めて緩やかな)圧力発生は、対応する吐出弁を開くことによって行われる。 【0030】 事例2:電流が大きすぎる場合は、弁電流(ひいては遮断可能な最大圧力低下)と圧力低下とが平衡状態になるまで圧力の発生は遅延される。この時点でブレーキ力は小さすぎ、自動車は最適には減速されない。このことは図4の下方の図に示されており、その軸と、記載された曲線とには上方の図と同様の符号が付されている。電流iは大きすぎ(矢印410)、したがって圧力低下Δpは過度に長く保持され、直ちには低減されない。したがって、ホイールブレーキ・シリンダ内でのブレーキ圧は極めて遅い時点でようやく上昇する(矢印411を参照)。」 (う)「【0031】 吸込弁の可能な代替制御方法が図5に示されている。軸には図4と同様の符号が付されている。この場合、制御方法の経過は、以下に記載するステップをたどる。 【0032】 ステップ1:圧力保持段階から、電流値は当初は高すぎる値を基点に傾斜状に低下する。時間軸に(1)で示された時点で、弁における力の平衡に達し、ここで圧力発生が始まる。このことは、記載した最も下の曲線の、ホイールブレーキ・シリンダ内の圧力pの増大で分かる。 【0033】 ここで強調すべきは、ホイール圧力センサ装置がないシステムでは、上記の時点が検知され得ないことである。 ステップ2:(i-Δp特性曲線を介して調整されて)ABS制御装置の圧力発生の要求には応じるが、吸込弁が(前述したように)常に静的な定常状態にあるようにゆっくりとしか応じないような勾配で、電流が再び低下される。この段階は、時間軸に沿って、記載された時点(1)と(3)との間で行われる。 【0034】 ステップ3:電流の低下によって、(前述したように)ホイールブレーキ・シリンダ内の圧力が上昇し(図5のpの増大を参照)、かつホイールの不安定さが高まる。このことは、vを付した曲線で図5に示されているように、ホイールの周速が急激に低下することを表している。それによって、ホイールの周速(v)曲線は、例えばポイント501に見られるように、(点線で示された直線である)車両の前進速度のカーブからますます遠ざかる。ホイールの周速vは車両の前進速度と比較してますます低くなり、このことは明らかに、ホイールのブレーキ滑りが増大することを意味している。時点(3)で前進力が最大のポイントに達し、ホイールブレーキ・シリンダにはロック圧p_blockが作用する。同時に吸込弁では圧力低下Δp_instabが低下する。ロック圧p_blockの値は分からないが、時点(3)での、吸込弁における圧力低下Δp_instabには以下の関係式が当てはまる。 【0035】 Δp_instab=p_hz - p_blockただし、p_hzは、主ブレーキ・シリンダ内の圧力である。圧力低下Δp_instabに相当する電流が判明し、またそれによって、i-Δp特性曲線を介して圧力低下Δp_instabが判明する。 【0036】 ステップ4:引き続いて、ホイールが不安定であるため、圧力の低減が行われる。この圧力低減は、観察されるホイール動特性によって、ホイールが再び安定状態になったこと、すなわちスリップの閾値を下回ったことが示されるまで継続する。圧力の低減は、(図5の急速な電流上昇504によって達成される大きい弁電流により)吸込弁が閉じられ、また、吐出弁が開かれることによって行われる。引き続いて、新たな圧力発生のための所望の時点に達するまで、時点(3)と(4)との間で、圧力保持段階(吸込弁と吐出弁とが閉じられる)が実行される。それは図5の時点(4)である。この時点で再び安定したホイール状態になる。 【0037】 ステップ5:新たな圧力発生のためには先ず、電流の始動値(図5の503)が決定されなければならない。この始動値の決定に際しては下記が仮定される。 【0038】 -道路の摩擦値、ひいてはロック圧が最後の調整サイクル内でほぼ一定であった。 -最後の調整サイクル内の吸気圧がほぼ一定であった。 【0039】 -吸込弁における圧力低下をホイールの安定化に必要な数値Δp_abbauだけ低減させた値は、摩擦値に関わりなく常にほぼ一定である。数値Δp_abbauは(図5に示されるように)、吸込弁の静的な駆動が始まる時点と、吸込弁の静的な駆動が終わる時点との間の圧力差を表している。図5において、数値Δp_abbauは電流曲線iに関連している。このことは、吸込弁の駆動が静的である場合に、電流iと弁における圧力低下Δpとの直線的な関係が生ずることによって明らかになる。 【0040】 それによって、圧力発生の開始時の吸込弁における圧力低下は、以下の方程式によって算定することができる。 Δp_start=Δp_instab + Δp_abbau この公式は明らかに、下記のコンセプトから理解される。すなわち、 -Δp_instabは、弁が不安定状態に入った際の圧力低下であり、かつ、 -Δp_abbauは、調整サイクルの開始時の弁における圧力低下を低減するための圧力差であり、弁の開放プロセスの結果として、圧力低下をその圧力差分だけ低減するためのものである。 【0041】 この場合も、圧力発生時の電流の始動値は、i-Δp特性曲線から明らかになる。それによって、記載している方法により、ホイールブレーキ・シリンダ内での圧力発生の開始時に、引き続いてその数値が減少すると、弁において低下する圧力差が直ぐに減少するような数値まで、非常に正確に電流を飛躍的に上昇させることが可能になる。」 (え)「【0042】 本発明による装置の構造と、自動車環境へのその組込みは、図6に示されている。この図において、ブロック600は、例えばメインブレーキ・シリンダ内の圧力p_hz、またはホイール回転速度を検出するセンサ手段を含んでいる。ブロック602は、ブレーキ系統、特に制御される弁の起動手段を含んでいる。弁制御装置はブロック601に含まれている。ブロック601には始動値選択手段603が含まれている。 【0043】 センサ手段600の出力信号は弁制御装置601に送られる。弁制御装置601の出力信号は起動手段602に送られる。例えば弁のコイルを流れる電流が検知されることによって、起動手段602からセンサ手段600へのフィードバックが行われる。」 (3)検討 電流値が不適切な例として、段落【0029】には「事例1:電流が小さすぎる場合(すなわち、吸込弁において低下する圧力差が過度に急速に低下する場合)は、不要に大きい発生勾配を伴う圧力発生が起きる。」と記載され、また、段落【0030】には「事例2:電流が大きすぎる場合は、弁電流(ひいては遮断可能な最大圧力低下)と圧力低下とが平衡状態になるまで圧力の発生は遅延される。」と記載されているとともに、一方、「本発明」の説明として、例えば、段落【0032】には「ステップ1:圧力保持段階から、電流値は当初は高すぎる値を基点に傾斜状に低下する。時間軸に(1)で示された時点で、弁における力の平衡に達し、ここで圧力発生が始まる。このことは、記載した最も下の曲線の、ホイールブレーキ・シリンダ内の圧力pの増大で分かる。」と、段落【0037】には「ステップ5:新たな圧力発生のためには先ず、電流の始動値(図5の503)が決定されなければならない。」と、段落【0041】には「この場合も、圧力発生時の電流の始動値は、i-Δp特性曲線から明らかになる。それによって、記載している方法により、ホイールブレーキ・シリンダ内での圧力発生の開始時に、引き続いてその数値が減少すると、弁において低下する圧力差が直ぐに減少するような数値まで、非常に正確に電流を飛躍的に上昇させることが可能になる。」とそれぞれ記載されている。 これらの記載を勘案すると、請求項2の「前記始動値」は、i-Δp特性曲線に基づいて、「圧力発生の開始時の吸込弁における圧力低下」すなわち「Δp_start=Δp_instab + Δp_abbau」に相当する電流の始動値を意味するとともに、請求項2の「前記始動値は、前記弁に関連するホイールブレーキ・シリンダ内で圧力発生段階が開始されるような電気的制御値であること」という事項は、その電流の始動値が、図5の時点(1)、(4)におけるホイールブレーキ・シリンダ内の圧力pの推移で示されているように、ホイールブレーキ・シリンダ内の圧力pの増大が開始する電流値であることを意味すると認められる。 ここで、「Δp_instab」は時点(3)での吸込弁における圧力低下であって、「Δp_instab=p_hz - p_block」である。なお、「p_hz」は、主ブレーキ・シリンダ内の圧力、ロック圧「p_block」は、「時点(3)で前進力が最大のポイントに達」する(段落【0034】)ときのホイールブレーキ・シリンダに作用する圧力である。 しかし、以上の場合、(a)段落【0027】には「2.(例えば、多くのABSシステムのような)多くのシステムの場合、ブレーキ系統内の吸気圧は分からない。このような場合に備えられた、(同様に吸気圧が判明していない)吸込弁の圧力差調整特性を利用することによる補助手段を以下に説明する。」と、段落【0032】には「ステップ1:圧力保持段階から、電流値は当初は高すぎる値を基点に傾斜状に低下する。時間軸に(1)で示された時点で、弁における力の平衡に達し、ここで圧力発生が始まる。このことは、記載した最も下の曲線の、ホイールブレーキ・シリンダ内の圧力pの増大で分かる。」と、続けて段落【0033】には「ここで強調すべきは、ホイール圧力センサ装置がないシステムでは、上記の時点が検知され得ないことである。…」とそれぞれ記載されており、時点(1)は検知し得ないのであるから、時点(3)の電流値がわかっても、時点(3)と時点(1)間の電流値の差は検知し得ない。また、(b)段落【0039】の記載、及び、審判請求の理由における「Δp_abbauは、略一定の値であり(段落〔0039〕参照)、図5の時点(3)と(4)との間の圧力差を表すものである。」との説明等によれば、「Δp_abbau」は略一定の値であると認められるが、その値がどのようにして設定されるのかは不明である。以上を勘案すると、圧力低下「Δp_start」に相当する電流値が、どのようにして、ホイールブレーキ・シリンダ内の圧力pの増大が開始する電流値に一致するように設定され得るのか不明であるといわざるを得ない。 以上に関して次の点を補足する。 (A)スリップ率とタイヤのグリップ力との関係は通常、路面状況や車両の垂直荷重あるいは経時変化により変わり得るから、図5の制動状態時におけるロック圧「p_block」は路面状況等に応じて不断に変わり得る。したがって、例えば、車両の出荷時等にある条件のもとで「Δp_abbau」を設定しておいたとしても、図5のような不特定の制動状態時に、圧力低下「Δp_start」に相当する電流値が、ホイールブレーキ・シリンダ内の圧力pの増大が開始する電流値に一致するように設定されているということは到底できない。段落【0038】等に記載されているように、図5の制動状態時では路面状況が一定であるとしても、路面状況は種々様々であり、時間的場所的に離隔した制動状態時では路面状況が変化し得る以上、上記結論を左右するものではない。もし、ロック圧「p_block」が路面状況等に関係なく一定の値をとるとすると、「Δp_instab」が「p_block」の関数であるといえず、したがって、「Δp_startが「Δp_instab」の関数であるとはいえなくなり、これは、請求項2が引用する請求項1の「少なくとも1つの調整サイクルにおける前記始動値は、先行する調整サイクルにおける弁の電気的制御値の関数として選択され、」という事項と整合しない。 (B)請求項2を引用する請求項3に「第1段階では前記電気的制御値が一定値をとり、前記第1段階が、時間的に前記圧力発生段階に先行すること」と記載されているが、これは、段落【0036】等の記載からみて、時点(3)と(4)との間の状態が「圧力発生段階」に先行することを記載したにすぎず、『請求項2の「前記始動値は、前記弁に関連するホイールブレーキ・シリンダ内で圧力発生段階が開始されるような電気的制御値であること」という事項は、その電流の始動値が、図5の時点(1)、(4)におけるホイールブレーキ・シリンダ内の圧力pの推移で示されているように、ホイールブレーキ・シリンダ内の圧力pの増大が開始する電流値であることを意味すると認められる。』との上記認定を左右するものではない。 (C)図6について、段落【0042】には「ブロック601には始動値選択手段603が含まれている。」と記載されており、また、段落【0043】には「起動手段602からセンサ手段600へのフィードバックが行われる。」と記載されているが、その具体的内容は必ずしも明らかではない。ただ、段落【0042】に「本発明による装置の構造と、自動車環境へのその組込みは、図6に示されている。」と記載されていることからみて、図6は図5の制御方法を行うための装置を示したものにすぎず、段落【0042】及び【0043】の上記事項がそれ以外の特別な事項を示しているとする根拠は特に見当たらない。該事項について念のため推測すると、前者については、路面状況等に応じてロック圧「p_block」が変わり得る以上、それに応じて「Δp_start」も変わり得るから、そのような「始動値」を適宜選択することを意味していると理解することができ、「Δp_abbau」は略一定の値であるという上記認定を左右するものではない。後者については、「起動手段602」の作動に応じて「センサ手段600」の検出値が更新されるというような趣旨に理解することができるが、これも、やはり本審決の結論に影響を及ぼすものではない。 (4)むすび 以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明2の「前記始動値は、前記弁に関連するホイールブレーキ・シリンダ内で圧力発生段階が開始されるような電気的制御値であること」という事項について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。よって、発明の詳細な説明の記載は当業者が本願発明2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、本願は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない。 5.結語 以上に述べたとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 なお、本願発明1の実施可能要件については本審決では検討していないが、これは、原審拒絶理由で指摘した「Δp abbau」が請求項1に明記されていないからであって、本願発明1及びそれに関する発明の詳細な説明の記載について拒絶理由がないという趣旨ではない。例えば、請求項1に「少なくとも1つの調整サイクルにおける前記始動値は、先行する調整サイクルにおける弁の電気的制御値の関数として選択され、」と記載されているが、具体的に「…弁の電気的制御値」のどのような「関数」であるのか、不特定であり、本願発明1と段落【0005】の「車両におけるブレーキ系統の弁を、より精確に制御する」という目的ないし効果との関連が不明確である。 |
審理終結日 | 2010-08-05 |
結審通知日 | 2010-08-06 |
審決日 | 2010-08-23 |
出願番号 | 特願2003-59318(P2003-59318) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(B60T)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 立花 啓 |
特許庁審判長 |
山岸 利治 |
特許庁審判官 |
大山 健 川上 溢喜 |
発明の名称 | 電磁弁の制御方法および制御装置 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 上田 忠 |