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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1229752 |
審判番号 | 不服2009-10868 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-06-09 |
確定日 | 2011-01-04 |
事件の表示 | 特願2007-243055「組換え型ヒトα-フェトプロテインおよびその利用」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月 3日出願公開、特開2008- 73041〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年1月24日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年1月24日 米国)とする特願平8-523001号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成19年9月19日に新たな特許出願としたものであって、平成20年8月13日付で手続補正がなされたが、平成21年3月9日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年6月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月9日付で手続補正がなされたものである。 2.平成21年7月9日付の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成21年7月9日付の手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の本願発明 上記補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1?24のうち請求項20?24が削除されるとともに、特許請求の範囲の請求項1、6、8、16、17が補正され、そのうち請求項1は、補正前の 「【請求項1】哺乳類における乳癌または前立腺癌を阻害するための薬剤であって、組換え型ヒトα-フェトプロテイン(rHuAFP)、または 残基1?197のドメインI(配列番号:6)、 残基198?389のドメインII(配列番号:7)、 残基390?590のドメインIII(配列番号:8)、 残基1?389のドメインI+II(配列番号:9)、 残基198?590のドメインII+III(配列番号:10)、及び 残基266?590のrHuAFP断片I(配列番号:11) からなる群より選択される断片を含み、場合により、化学療法剤単独で使用する場合の標準用量より少ない有効量の化学療法剤を含むか、または、ハイブリッドサイトトキシンを形成するよう細胞傷害剤が、若しくは検出可能な標識がそれに連結される薬剤。」から、 「【請求項1】哺乳類における乳癌を阻害するための薬剤であって、組換え型ヒトα-フェトプロテイン(rHuAFP)、または 残基1?197のドメインI(配列番号:6)、 残基198?389のドメインII(配列番号:7)、 残基390?590のドメインIII(配列番号:8)、 残基1?389のドメインI+II(配列番号:9)、 残基198?590のドメインII+III(配列番号:10)、及び 残基266?590のrHuAFP断片I(配列番号:11) からなる群より選択される断片を含み、場合により化学療法剤を含むか、または、ハイブリッドサイトトキシン形成するよう細胞傷害剤が、若しくは検出可能な標識がそれに連結される薬剤。」へと補正された。 (2)目的要件について 上記請求項1に係る補正は、平成20年8月13日付で補正された請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「哺乳類における乳癌または前立腺癌」について「哺乳類における乳癌」と択一的に記載された要素を削除するものであるが、「場合により、化学療法剤単独で使用する場合の標準用量より少ない有効量の化学療法剤を含むか」については「場合により化学療法剤を含むか」と化学療法剤の量に関する限定を削除するものであるから、この補正は特許請求の範囲を拡張及び変更するものである。 また、拒絶査定時に原審の審査官が留意事項として指摘した「(1)請求項1に記載の「場合により、・・・」は、どのような条件のときにその任意付加的事項が必要になるかが不明である。よって、請求項1に係る発明は明確でない。」とは、「場合により」の「場合」がどのような場合かが明確でないというものであるから、上記補正はこれに対応するものとはいえず、また、「化学療法剤単独で使用する場合の標準用量より少ない有効量」という記載は明確であるから、明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項について)にも相当しない。 そして、このような特許請求の範囲を拡張及び変更しようとする補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、また、請求項の削除、誤記の訂正、又は上記に記載したとおり、明りょうでない記載の釈明の何れかを目的とするものでもないので、よってこの補正は、同法第17条の2第4項の規定に違反するものである。 (3)独立特許要件について 上記(2)に記載した、補正前の請求項1の「場合により、化学療法剤単独で使用する場合の標準用量より少ない有効量の化学療法剤を含むか」を「場合により化学療法剤を含むか」へと補正した点について、審査官の上記留意事項における指摘に対応してなされた、明りょうでない記載の釈明に相当するものであると仮定すると、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することになるので、以下念のため、本願補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、検討する。 本願補正発明1は上記(1)にあるように、全長の組換え型ヒトα-フェトプロテイン(以下、「rHuAFP」という。)のみならず、そのドメインI?IIIの各々、ドメインI+II、ドメインII+III及びその断片(「rHuAFP断片I」と名付けられているので、以下、そのようにいう。)という、rHuAFPの6つの特定の断片をそれぞれ有効成分とする抗乳癌剤に係るものである。 ところで、医薬についての用途発明においては、一般に、物質名、化学構造だけからその用途を予測することは困難であるから、出願時の技術常識及び出願当初の明細書に記載された作用の説明等からでは、含有成分がその医薬用途として機能することが推認できない場合には、明細書に有効量、投与方法、製剤化方法が記載されている場合であっても、それだけでは当業者は当該医薬が実際にその用途として使用できるか否かを知ることはできないので、明細書に特定の薬理試験の結果である薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途を裏付ける必要がある。 これを本願明細書についてみると、段落【0137】?【0140】の実施例において、全長のrHuAFPがin vitroでヒト乳癌細胞MCF-7の増殖を阻害することが確認されているものの、rHuAFPの上記6つの断片については、いずれもそのような阻害作用を有することは確認されていない。一方、全長のrHuAFPと同様な活性がrHuAFPの断片でも確認されているのは、本願明細書の段落【0086】?【0089】に記載の、ドメインI、ドメインIII及びrHuAFP断片Iの自己混合リンパ球反応(AMLR)阻害活性、及び、段落【0091】?【0092】に記載の、rHuAFP断片Iの末梢血リンパ球反応(PBLR)阻害活性という、乳癌細胞増殖阻害活性とは無関係のものにすぎない。 そして、本願出願当時、2以上の活性を有するタンパク質のそれぞれの活性の中心となる領域は異なることが技術常識であり、HuAFPの各ドメインの機能もまだ解明されていなかった。また、細胞の種類によりその増殖阻害機構は異なるから、リンパ球反応を阻害する物質が、癌細胞の増殖も阻害するという技術常識もなかったので、全長のrHuAFP、ドメインI、ドメインIII及びrHuAFP断片IがAMLRまたはPBLRを阻害したからといって、ドメインI、ドメインIII及びrHuAFP断片Iが、全長のrHuAFPと同様のヒト乳癌細胞MCF-7の増殖阻害活性を有すると推認することはできない。さらに、ドメインII、ドメインI+II、及びドメインII+IIIについては、何の活性も確認されていないので、なおさら乳癌細胞増殖阻害活性を有するか不明である。 このように、有効成分としてrHuAFPの6つの断片を用いた場合の本願補正発明1については、本願明細書に薬理データはおろか、試験管内実験についてすら何ら具体的に記載されておらず、しかも、本願出願時の技術常識を考慮しても、これら断片を医薬用途に使用できる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえないから、本願発明の詳細な説明には、本願補正発明1を当業者が実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 したがって、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 (4)むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 さらに仮に、本件補正が、特許法第17条の2第4項の規定に違反しないとした場合であっても、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明 平成21年7月9日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成20年8月13日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】哺乳類における乳癌または前立腺癌を阻害するための薬剤であって、組換え型ヒトα-フェトプロテイン(rHuAFP)、または 残基1?197のドメインI(配列番号:6)、 残基198?389のドメインII(配列番号:7)、 残基390?590のドメインIII(配列番号:8)、 残基1?389のドメインI+II(配列番号:9)、 残基198?590のドメインII+III(配列番号:10)、及び 残基266?590のrHuAFP断片I(配列番号:11) からなる群より選択される断片を含み、場合により、化学療法剤単独で使用する場合の標準用量より少ない有効量の化学療法剤を含むか、または、ハイブリッドサイトトキシンを形成するよう細胞傷害剤が、若しくは検出可能な標識がそれに連結される薬剤。」 (1)特許法第36条第4項 本願発明1は、全長のrHuAFP、各ドメインI?III、ドメインI+II、ドメインII+III及びrHuAFP断片Iのそれぞれを有効成分とする抗乳癌剤または抗前立腺癌剤という医薬用途に係るものであり、2.(3)で記載したように、明細書に特定の薬理試験の結果である薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途を裏付ける必要がある。 しかしながら、前立腺癌の増殖阻害活性について、その薬理試験の方法は、本願明細書段落【0133】に「本発明の抗癌剤(例えば、rHuAFPまたはその断片もしくはアナログ、またはrHuAFPのハイブリッド細胞毒)は、新生組織、例えば乳ガンや前立腺ガンを抑制するのに有用である。当業者は、インビトロであってもインビボであっても、本発明の方法において有用な抗癌剤の効果を調べるために何種類の方法を用いてもよいことを理解できるであろう。例えば、被検化合物を投与した後で腫瘍の成長が減少することを、前立腺ガン(例えば、LNCaPアンドロゲン受容体陽性なヒト前立腺ガン細胞系からなる腫瘍異種移植片)を発症しているマウスまたはラットでモニターすることができる。実施例では、この培養で増殖中のヒト腫瘍細胞系(例えば、MCF-7(ATCC HTB22)、T-47D(ATCC HTB133)、MDA-MB-231(ATCC HTB26)、BT-20(ATCC HTB19)、NIH:OV-CAR-3(ATCC HT161)、LnCaP.FGC(ATCC CRL1740)、およびDu-145(ATCC HTB81)のような細胞系)をトリプシン作用によって単層から放出させ、単一細胞懸濁液に希釈してから、遠心分離を行ってペレットへと固体化し、それを続いて15μlのフィブリノーゲン(50mg/ml)と10μlのトロンビン(50ユニット/ml)に37℃で30分間さらす。次に腫瘍を含むフィブリン塊を直径が約1.5mmの断片に切る。続いてそれぞれの腫瘍断片を、常法にしたがってマウスの腎臓被膜下に埋め込む。必要に応じて、従来法にしたがって腫瘍を移植する直前に、マウスの体重1kgあたり60mgのシクロスポリンA(Sandimmune IV)を毎日皮下注射(s.c.)することによって免疫抑制してもよい。必要に応じて、マウスのエストロゲンとアンドロゲンの補充を、標準的な方法によって、例えばエストラジオールを含むシラスティックチューブを移植することによって、またはプロピオン酸テストステロンを注射することによって行う。通常、ホルモンの補充は、腫瘍を移植した日に開始する。一般的に、被検分子の投与は、腫瘍を移植する前、および/または腫瘍を移植した後に開始する。対照動物にはプラセボ、例えばヒト血清アルブミンまたは希釈液が、rHuAFPもしくは関連する分子について行ったのと同様に投与される。腫瘍成長に対する被検分子の効果は、常法にしたがってモニターする。例えば、腫瘍の成長を接眼マイクロメーターを装着した切開用の顕微鏡を用い、開腹術を行って腫瘍の大きさを毎週測定することによりモニターする。このような移植された腫瘍の成長を停止、減少または阻害することが実験により示された分子は、本発明において有用であると考えられる。」と記載されているものの、その薬理試験の結果である薬理データについては記載されておらず、全長のrHuAFPについてさえその前立腺癌細胞の増殖阻害活性は確認されていない。 一方、乳癌細胞と前立腺癌細胞は、両方ともホルモン依存性ではあるものの、そのホルモンの種類も異なるものであり、本願出願時の技術常識を考慮しても、乳癌細胞の増殖を阻害する物質が前立腺癌細胞の増殖も阻害するとはいえず、たとえ、全長のrHuAFPがヒト乳癌細胞MCF-7の増殖阻害活性を有するとしても、前立腺癌細胞の増殖阻害活性を有すると推認することはできない。さらに、rHuAFPの断片については、なおさら、前立腺癌細胞増殖阻害活性を有するか不明である。 したがって、抗前立腺癌剤に係る本願発明1については、本願明細書に薬理データについて何ら具体的に記載されておらず、しかも、本願出願時の技術常識を考慮しても、これら断片を医薬用途に使用できる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえないから、本願発明の詳細な説明には、本願発明1を当業者が実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 (2)特許法第29条第2項 (2-1)本願発明1について 本願請求項1には、「哺乳類における乳癌または前立腺癌を阻害するための薬剤であって、組換え型ヒトα-フェトプロテイン(rHuAFP)、または…、…、…、…、…、及び…からなる群より選択される断片を含み、場合により…。」のように択一的に記載されており、以下、本願発明1のうち、「rHuAFPを含む、哺乳類における乳癌を阻害するための薬剤」に係るものと引用例に記載された事項とを比較することにする。 (2-2)引用例 原査定で引用文献2として引用された本願優先日前の1990年に頒布された刊行物であるCancer Research(1990)Vol.50,No.2,p.415-420(以下、「引用例2」という。)には、 (i)「ピコモル量のヒトまたは齧歯類のα-フェトプロテイン(AFP)とナノモル量の17β-エストラジオール(E_(2))との反応は、AFP/E_(2)と名付けられた未知の構造の生成物を生じさせ、これはエストロジェンにより刺激されたマウス子宮の成長を阻害する。我々はここで、2つのエストロジェン依存性乳癌、MCF-7ヒト乳癌とMTW9Aラット乳癌の生体内増殖に及ぼす齧歯類AFP/E_(2) の効果を述べる。両方の癌を、シクロスポリンで免疫抑制した雄BDF_(1)マウスの腎臓被膜の下に異種移植して増殖させた。さらに、MTW9A腫瘍は、同系の卵巣摘出されたWister-Furth雌ラットに同種移植して増殖させた。エストロジェンサポートは、s.c.Silastic E_(2)移植により供給した。1.0μgのAFPと0.5μgのE_(2)とを室温で1時間インキュベートして生成させたAFP/E_(2)を注射すると、その結果増殖が停止し、大部分の場合、MCF-7腫瘍異種移植片は退縮した。MTW9A腫瘍の同種移植片も退縮したが、MTW9A腫瘍の異種移植片の増殖が非常に阻害された。AFP単独あるいはE_(2)単独の処置では、これら腫瘍の増殖を阻害しなかった。このデータは、AFP/E_(2) が、エストロジェン依存性腫瘍増殖を媒介する生物学的反応を弱めたり止めるという特有の特性を有することを示す。」(第415頁要約の項) (ii)「AFP/E_(2) 反応混合物は、明らかにエストロジェン依存性乳癌増殖の阻害剤を含んでいた。その阻害剤は、我々が研究に使用したいかなる実験動物においても宿主毒性の証拠は示さなく、かつ本研究におけるエストロジェン依存性乳癌に対する効果は、正常な子宮内膜に対して以前に見出されたものより大きかった。この阻害剤は、エストロジェン依存性ヒト乳癌に対する選択的毒性を産生する、重要な新しい薬剤になるかもしれない。さらなる臨床的可能性及び作用機構の研究が進行中である。」(第419頁右欄下から第10行?最下行)、と記載されている。 そして、第415頁右欄下から第6行?第416頁左欄第14行の「AFPの精製」の項には、マウスまたはラットの羊水から、それぞれマウスAFP及びラットAFPを単離精製したことが記載されている。 また、同じく原査定で引用文献1として引用された本願優先日前の1983年に頒布された刊行物であるProc.Natl.Acad.Sci.USA(1983)Vol.80,No.15,p.4604-4608(以下、「引用例1」という。)は、「ヒトAFPの1次構造とそのmRNA」という表題の学術文献であって、 (iii)「ヒトAFPmRNAのcDNAがプラスミドpBR322中でクローン化された。3つの重複するcDNAのクローンの解析により、AFPmRNAのほとんどのヌクレオチド配列が明らかにされ、残りのmRNAの5´端のヌクレオチドは、クローン化されたゲノムDNA断片から解明された。アミノ酸配列がヌクレオチド配列から推定され、シグナル配列が19アミノ酸で、成熟AFPが590アミノ酸であった。規則的に間隔をあけられた15のジスルフィド架橋があり、それにより3つの繰り返しドメインをもつ折り畳み構造を生じる。アミノ酸配列中に1箇所、可能性のあるN-グリコシル化部位Asn-Phe-Thrがある。マウスAFPと比べると、66%のアミノ酸配列が保存され、最高の同一性(72%)はドメイン3中で、ドメイン2(67%)、ドメイン1(59%)と続く。」(第4604頁要約の項、第1行?第14行)、と記載され、第4605頁の第2図には、ヒトAFPmRNAの全長のヌクレオチド配列と推定アミノ酸配列が記載されている。 (2-3)対比・判断 そこでまず、本願発明1と引用例2に記載された事項を比較すると、上記引用例2記載事項(ii)には、AFP/E_(2) 反応混合物の、エストロジェン依存性乳癌増殖の阻害剤という薬剤としての用途が記載、示唆されており、両者は、AFPを含む、哺乳類における乳癌を阻害するための薬剤に関するものである点で一致するが、前者では、rHuAFPを含むものであるのに対して、後者では、齧歯類(マウスまたはラット)AFPとエストラジオールの反応物であるAFP/E_(2)を含むものである点で、相違する。 しかしながら、哺乳類がヒトの場合、齧歯類AFPでなくヒトAFPを用いることは当然のことであり、その際、上記引用例1に記載のように既に遺伝子がクローニングされたHuAFPを、遺伝子工学的に発現させて得られるrHuAFPを用いることも、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。 また、本願明細書中で、全長のrHuAFPがin vitroでヒト乳癌細胞MCF-7の増殖を阻害することを確認した、唯一の実施例が記載された段落【0139】には、「培養におけるエストロゲンにより刺激されたMCF-7細胞のコンフルエント後増殖 この検定法はエストロゲン含有培地中のMCF-7細胞はコンフルエント状態を越えて成長し、病巣に蓄積するが、エストロゲンが存在しない場合には細胞の増殖は細胞-細胞接触状態になった後で停止し、病巣が形成されないという知見に基づいている(例えば、GierthyらのBreast Cancer Res. Treat. 12:227, 1988参照)。1×107個のMCF-7乳ガン細胞を、24ウェルの組織培養プレートの16mmウェルに載せた。培養培地は、5%のドナーウシ血清(検出可能なエストロゲンが含まれないように予めスクリーニングしたもの)、L-グルタミン(2mM)、非必須アミノ酸(1×、ギブコ)、インシュリン(10ng/ml)、ペニシリン-ストレプトマイシン(1×、ギブコ)および最終濃度が1.8×10-9Mの濃度に希釈したエストラジオールを補充した、フェノールレッドを含まないDMEMである。培養物には、24時間目と、その後4日毎にrHuAFPおよびヒト血清アルブミンを含む培養培地2mlを、1ウェルあたり100μg/mlの最終タンパク質濃度となるように再度与えた。細胞は5日間でコンフルエント状態に達し、そして相当数の病巣がエストロゲンのみを含むウェルにおいて10日以内に出現した。細胞を緩衝化したホルマリンで固定化し、1%のロダミンBを用いて染色した。染色された病巣を、アルテック870マクロ-マイクロ自動コロニーカウンター(Artek 870 Macro-Micro Automated Colony Counter)を用いて定量した。データは、処理を行った群あたりの病巣の平均数で表わした。」と記載され、本願明細書の実施例においても、MCF-7乳ガン細胞は、エストロゲン(引用例1に記載のエストラジオールと同じ物質)含有培地中で、rHuAFPが添加され、その増殖阻害効果が観察されているにすぎない。 そうすると、本願発明1における「AFPを含む」ことは、引用例2における「AFP/E_(2)を含む」ことと区別できず、この点は実質的な相違とはいえないから、本願発明1は、引用例2に記載の薬剤において、AFPとして引用例1に記載されたHuAFPを組換え体で用いたものにすぎず、当業者であれば容易になし得たものである。 あるいは、本願発明1は「rHuAFPを含むもの」であり、エストロジェンも含むことを排除していないので、本願発明1と引用例2に記載された事項は、前者では、rHuAFPを用いるのに対して、後者ではラットまたはマウスのAFPを用いる点でのみ相違しているともいえ、いずれにせよ、この点は、引用例1及び2の記載から、当業者であれば容易に想到し得たものである。 そして、本願発明1において奏せられる効果は、rHuAFPがin vitroにおいてヒト乳ガン細胞MCF-7の増殖を阻害したことにすぎず、上記引用例2に記載の天然型マウスAFPがエストラジオールと相互作用してヒト乳がん細胞MCF-7の増殖を阻害するという記載から、マウスAFPと66%のアミノ酸同一性を有するHuAFPがヒト乳がん細胞MCF-7の増殖を阻害することも、当業者が予測し得ないほどの格別なものとはいえない。 したがって、本願発明1は、引用例1及び2の記載から当業者が容易に発明し得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (3)小括 したがって、本願発明1について、本願発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。 また、本願発明1は、引用例1及び2の記載から当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また、本願請求項1に記載の発明について、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-08-09 |
結審通知日 | 2010-08-11 |
審決日 | 2010-08-25 |
出願番号 | 特願2007-243055(P2007-243055) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N) P 1 8・ 536- Z (C12N) P 1 8・ 575- Z (C12N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 千葉 直紀 |
特許庁審判長 |
鈴木 恵理子 |
特許庁審判官 |
鵜飼 健 加々美 一恵 |
発明の名称 | 組換え型ヒトα-フェトプロテインおよびその利用 |
代理人 | 刑部 俊 |
代理人 | 小林 智彦 |
代理人 | 佐藤 利光 |
代理人 | 井上 隆一 |
代理人 | 山口 裕孝 |
代理人 | 新見 浩一 |
代理人 | 大関 雅人 |
代理人 | 春名 雅夫 |
代理人 | 渡邉 伸一 |
代理人 | 清水 初志 |
代理人 | 川本 和弥 |