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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47J
管理番号 1229757
審判番号 不服2009-12353  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-07 
確定日 2011-01-04 
事件の表示 特願2004-261141号「電気炊飯器」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月23日出願公開、特開2006- 75274号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成16年 9月 8日を出願日とする特許出願であって、平成21年 4月28日付けで拒絶査定がなされ、この拒絶査定を不服として、同年 7月 7日に本件審判請求がなされるとともに、審判請求と同日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明

平成21年 7月 7日付けの手続補正により、補正前の請求項1に記載された発明が削除され、補正前の請求項2乃至6に記載された発明が、補正後の請求項1乃至5に記載された発明となった。
この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号でいう請求項の削除を目的とするものに該当する。
したがって、本願の請求項1乃至5に係る発明は、上記平成21年 7月 7日付けの手続補正に係る特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

【請求項1】
「マイクロコンピュータを有する電気炊飯器において、IPアドレスを付加することによってインターネット通信機能を付与し、その製造メーカーのホストコンピュータ又は他のIPアドレスおよびインターネット通信機能を具備する電気炊飯器その他の電気機器とインターネット通信可能に構成するとともに、上記ホストコンピュータに当該電気炊飯器の異常を判定する機能を設け、同ホストコンピュータが当該電気炊飯器が異常であると判定すると、当該電気炊飯器に対して異常回避の信号を送信すると同時に、ユーザーの携帯電話に対して異常信号を送信するようにしたことを特徴とする電気炊飯器。」

3.引用例及びその記載事項

(1)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-118566号公報(以下、「引用例1」という。)には、「サーバ化された機器の同期化によるネットワーク構成方法、遠隔操作方法及びソリューション」に関し、以下の事項が記載されている。

A:「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、IPアドレスを持ち、インターネットサーバとして稼働する機器同士のネットワーク構成方法及び遠隔操作方法であり、特にインターネット・プロトコル・バージョン6(IPv6)を用いたインターネットサーバを製品に組み込んだ家電製品のネットワーク構成及び遠隔操作法に関する。」

B:「【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、各々が固有のIPアドレスと記録装置、及びTCP/IPを用いインターネットに接続しうる機能を持つ機器(以下、サーバ家電)と、サーバ家電を家庭内で論理的に閉じたネットワークとして同期化する方法(以下、家電同期)と、家電同期及び機器の運用を行なうアプリケーション(以下、本件アプリケーション)と、家電同期されたネットワークに外部より信号を送受信するサーバ(以下、統括サーバ)と、統括サーバ及び家電同期を連携させたソリューションとを発明した。」

C:「【0012】サーバ家電は家電同期により形成された論理的に閉じたネットワーク以外に、独自の経路にて特定の外部サーバ(すなわち、統括サーバ)に接続する機能を持つため、企業や団体による個々のネットワークへの自動化されたサービスを行うことができる。」

D:「【0014】図1は本発明における接続構成を示す概念図である。1Aはサーバ家電であり、本件アプリケーション1B、記録装置1C、入力装置1D、画面表示装置1E、インターネット接続部1F、インターネットブラウザ(以下、ブラウザ)1Gを実装する。1Cは記録装置であり、本件アプリケーション1Bの要求に応じ特定の情報を書き込み/読み出しする。1Dは入力装置であり、利用者の命令を関知し本件アプリケーション1Bに通知する。1Eは画面表示装置であり、サーバ家電1A自身の提供する情報及びブラウザ1Gの内容を表示する。1Fはインターネット接続部であり、無線回線を通じてインターネットに接続される。1Gはブラウザであり、サーバ家電1A自身又は他サーバより提供される信号を視覚的な情報として画面表示装置1Eに出力する。1Hはサーバ家電1A自身を制御する入力装置(以下、本体スイッチ)であり、サーバ家電1A自身の電源管理や時刻設定等を行なう。1Iは別のサーバ家電(以下、他サーバ家電)であり、1Aと同様本件アプリケーション1B、記録装置1C、入力装置1D、画面表示装置1E、インターネット接続部1F、ブラウザ1G、本体スイッチ1Hを持つ。さらにサーバ家電1Aと他サーバ家電1Iの本件アプリケーション1Bは、各々がIPアドレスを持ち、各々のインターネット接続部1Fを通じ常時接続を果たしており、同時に特定IPアドレス以外のアクセスを制限する機能(例えば、周知の技術であるhttaccess等)を持つ。1Iは家電ID番号、1Jはパスワードであり、論理的に閉じたネットワークを形成するための識別子として機能する。1Lは統括サーバであり、サーバ家電同士で形成される論理的に閉じたネットワーク同士及び他の任意のサーバにアクセスする手段を持つ。
【0015】上記実施の形態の動作について説明する。まず利用者はサーバ家電1Aを入手する。サーバ家電1Aは独自のIPアドレスを持ち、TCP/IP回線を用いることで、他の複数のサーバ家電と即時的な連携を果たすものであるため、第三者の不正な利用を防止するための認証を行なう必要がある。
【0016】利用者は初めてサーバ家電1Aを使用するとき、本件アプリケーション1Bの指示に従い、家庭ID番号1J及びパスワード1Kを設定する。この情報は本件アプリケーション1Bにより記録装置1Cに書き込まれる。同時に、インターネットを経由した本件アプリケーション1Bへの接続は、家庭ID番号1J及びパスワード1Kを伴うアクセスのみを許可するようにする。
【0017】・・・。
【0018】サーバ家電1Aが複数台稼働している場合、各サーバ家電1Aの記録装置1Cには、後述する家電同期処理によって全てのサーバ家電1AのIPアドレスが記入される。サーバ家電1Aは、記載されたIPアドレス全てに対し接続を絶えず監視し、いずれかのサーバ家電1Aに障害が起こった際には全てのサーバ家電に対し、障害状況を記録し、警告文を画面表示装置1Eに表示する。
【0019】次に家電同期処理の手順について説明する。利用者が新たに、他サーバ家電1Iを入手する。利用者は他サーバ家電1Iに、家庭ID番号1J、パスワード1K及びサーバ家電1AのIPアドレスを入力する。この時サーバ家電1Aが複数台稼働していたとしても、入力するIPアドレスは任意の一台のものでよい。これによりサーバ家電1Iの認証機能は、サーバ家電1AのIPアドレスだけを受け入れるよう設定が変更される。次にサーバ家電1Aは他サーバ家電1Iに対しアクセスを試みる。サーバ家電1Iはアクセスを関知すると認証機能が働き、サーバ家電1Aでなければ接続を拒否する。サーバ家電1Aであればアクセスを受け入れる。
【0020】サーバ家電1Aの本件アプリケーションは、他サーバ家電1Iの記録装置に記された家庭ID番号1Jおよびパスワード1Kを、サーバ家電1A自身の家庭ID番号1Jおよびパスワード1Kと比較する。比較の結果等しい家庭ID番号及びパスワードであれば、サーバ家電1Aと他サーバ家電1Iは同じ家庭に所属する家電と見なされる。他サーバ家電1Iはサーバ家電1Aに限りアクセスを許可した状態にあるため、サーバ家電1Aの本件アプリケーション1Bは、他サーバ家電1Iの持つサーバ環境変数よりIPアドレスを取得する。取得した他サーバ家電1IのIPアドレスをサーバ家電1Aの記録装置1Cに記述し、同時に他サーバ家電1Iをアクセス制限解除する。
【0021】引き続きサーバ家電1Aは、今現在この家庭にある家電(すなわち、サーバ家電1Aの記録装置1C記載の全てのIPアドレス)の一覧を、他サーバ家電1Iを含めた全てのサーバ家電に対し通知する。一覧表を受けた他サーバ家電1Iはそれを受け、他サーバ家電1I自身の記録装置に一覧表を記録し、記載されているIPアドレス全てに対しアクセス制限を解除する。この作業は、サーバ家電が複数台存在した場合に全サーバ家電を同期させるための処理である。この結果、全てのサーバ家電は論理的に閉じた構成を持つことになり、この作業をもって家電同期処理は完了する。」

E:「【0022】統括サーバ1Lの働きについて説明する。全てのサーバ家電1Aには、家電同期とは別に複数の統括サーバのIPアドレスを記録することができる(サーバ家電製品の製造時に、製造者の統括サーバ1Lを登録するとよい)。統括サーバは、あたかもサーバ家電1Aと家電同期されたかのように、本件アプリケーション1Bに対してアクセスする機能を持つ。これは一種の家電同期であるが、次の点で異なる。
【0023】・・・。
【0024】さらに、利用者は特定のIPアドレスをサーバ家電1Aに入力することで、その家電に他の統括サーバを追加できる。これは、特定の団体が種々の家電製品と連動したサービスを主催するための機能である。なお統括サーバ追加は、IPアドレス入力時点に行うのではなく、前もって追加する統括サーバに対し製品名や種別(掃除機、洗濯機等)を送信することで、サーバ家電1Aがこの統括サーバの期待する製品であるかどうかを検知してから行うと良い。・・・。」

F:「【0037】図3は本発明における家電同期の実例を示す図である。3Aは携帯電話であり、自身のIPアドレス3B「255.255.255.1」及び本件アプリケーション3C及び表示装置を兼ねたブラウザ3Dが既に組み込み済みである。また記録装置3Eを内蔵しており、既に利用者の所持するビデオデッキ3F、浴槽ボイラー3G等、複数のサーバ家電が家電同期済みである。3Hは、利用者が新たに購入したサーバ家電「炊飯器」である。なお、利用者の家庭ID番号3Iは「3210」、パスワード3Jは「SAITO」であり、炊飯器3HのIPアドレス3Kは、「255.255.255.0」と仮定する。
【0038】利用者は炊飯器3Hを家電同期する。炊飯器3Hの電源を入れたのち、家庭ID番号3Iたる「3210」、パスワード3Jたる「SAITO」及び任意の家電同期済みの製品、ここでは携帯電話のIPアドレス3Bである「255.255.255.1」を入力する。この時点で、炊飯器3Hの図示されない本件アプリケーションは、「255.255.255.1」に対してのみアクセスを受け付けるようになる。・・・。
【0039】携帯電話3Aのメニューを表示し、「家電同期」を選択する。引き続き、炊飯器3HのIPアドレス3Kである「255.255.255.0」を入力する。
【0040】携帯電話3Aの本件アプリケーション3Cは、指定されたIPアドレス「255.255.255.0」に対し接続を行い、成功を契機に家庭ID番号3Iである「3210」、パスワード3Jである「SAITO」を送信する。
【0041】炊飯器3Hの本件アプリケーションは、携帯電話3Aより送信された家庭ID番号3I及びパスワード3Jを比較し、等しければ「同期OK」の信号を携帯電話Aに返す。
【0042】携帯電話3Aは記録装置3Eに、炊飯器3HのIPアドレス「255.255.255.0」を追加し、このIPアドレスによるアクセス制限を解除する。さらに、ビデオデッキ3F、浴槽ボイラー3G、そして炊飯器3Hそれぞれの本件アプリケーションに対し、炊飯器3HのIPアドレス3Kの追加された一覧表を送信する。
【0043】各サーバ家電は一覧表を受信し、各々の記録装置内にある一覧表を更新し、炊飯器3HのIPアドレス3Kである「255.255.255.0」に対するアクセス制限を解除する。これにより家電同期が完了する。」

G:上記摘記事項D(特に段落【0018】)、摘記事項F及び図3の記載から、サーバ家電である利用者の携帯電話3Aに、炊飯器のIPアドレスが記入され、携帯電話3Aは記入されたIPアドレスに対し接続を絶えず監視し、炊飯器に障害が起こった際には、携帯電話及び炊飯器を含む家電同期処理によって接続された全てのサーバ家電に対し、障害状況を記録し、警告文を画面表示装置に表示すること、が看取される。

図面とともに、上記摘記事項A?Gを総合すると、引用例1には、

「炊飯器において、固有のIPアドレスを用いインターネットに接続しうる機能を持たせ、製品の製造時に登録された製造者の統括サーバ及び他の固有のIPアドレスを用いインターネットに接続しうる機能を持つサーバ家電とインターネット接続部を通じ接続されるとともに、該サーバ家電である携帯電話には、炊飯器のIPアドレスが記入され、該IPアドレスに対し接続を絶えず監視し、炊飯器に障害が起こった際には、少なくとも携帯電話及び炊飯器に対し、障害状況を記録し、警告文を画面表示装置に表示する、電気炊飯器。」
に関する発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-8822号公報(以下、「引用例2」という。)には、「調理器制御装置」に関し、以下の事項が記載されている。

H:「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、炊飯器等の調理器を制御する調理器制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、炊飯器等の調理器は、一台一台が独立しており、個々の調理器はそれぞれが内蔵するマイクロコンピュータに記憶された制御プログラムに基づいて、所定のメニューフローを実行するようになっていた。そして、同一機種、同一仕様の調理器では、同一の制御プログラムに基づいて共通のメニューフローが実行されるようになっていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、同一機種、同一仕様の調理器であっても、個々の調理器が備える器体やセンサの特性は同一ではないため、共通のメニューフローを実行するにもかかわらず、その性能には個々の調理器間でばらつきがあった。また、メニューフローの開発時に使用した器体やセンサが必ずしも平均的な特性を有するとは限らないため、量産を開始した後に性能に偏りが発見される場合もある。さらに、量産開始後にメニューフローの不具合や性能不足が発見される場合もある。さらにまた、量産開始後に、開発時に想定した使用方法と相違する使用方法が見出されたり、ユーザーの好み等の傾向が変わる場合もある。
【0004】これらの場合、制御プログラムの修正が望まれるが、従来の調理器では、いったん量産が開始されてユーザーの手元に届けられた後に制御プログラムを修正するには、マイクロコンピュータを作り直し交換する必要があり、極めて困難である。
【0005】そこで、本発明は、量産開始後ユーザーの手元に届けられた後であっても、制御プログラムに変更を加えることができるようにすることを課題としている。」

I:「【0012】
【発明の実施の形態】次に、図面に示す本発明の実施形態を説明する。図1に示すように、個々のユーザーが所有する同一機種、同一仕様であり同一のメニューフローを実行する複数の炊飯器1は、それぞれ通信端末として機能するパーソナルコンピュータ2(以下、「パソコン」という。)に接続され、各パソコン2はインターネット3を介して本発明の仮想本体であるメーカーのホストコンピュータ4(以下、「ホスト」という。)に接続されている。また、ホスト4は、工場5における炊飯器の製造ラインのコンピュータ6に接続されている。
【0013】図2に示すように、・・・。炊飯器本体12内に収容されたマイクロコンピュータからなる制御装置15は、中央処理装置(CPU)15a、ROM15b、調理器側記憶手段であるRAM15c、タイマ15dを備えており、内鍋温度センサ17、蓋体温度センサ18の検出信号が入力される。」

J:「【0018】なお、炊飯器1をインターネット3に接続するための端末はパソコン2に限定されず、インターネット端末としての機能を有するテレビ受像機等を使用することができる。また、炊飯器1自体に通信機能を持たせて、インターネット3に直接接続するようにしてもよい。さらに、炊飯器1を、イントラネットを介してインターネット3に接続してもよい。
【0019】上記ホスト4は、演算処理手段である演算処理部41、仮想本体側記憶手段である記憶部42等を備え、インターネット3上にホームページを開設している。
【0020】上記パソコン2及びホスト4は、電話回線45を通じてインターネット3に接続されている。ただし、パソコン2やホスト4は、電話回線を介さずに直接インターネット3に接続してもよい。
【0021】ユーザーがパソコン2を操作し、メーカーのホームページにアクセスすると、所定のメニュー画面がディスプレー23に表示される。このメニュー画面の指示に従ってユーザーがパソコン2を操作すると、そのユーザーの炊飯器1の使用履歴、内鍋温度センサ17の検出温度TNS、蓋体温度センサ18の検出温度TFS等を含む制御情報が、炊飯器1からパソコン2及びインターネット3を介してホスト4に送信される。
【0022】上記ホスト4の記憶部42は、個々の炊飯器1のRAM15cと同じ制御データ、すなわち容量判別閾値A_(H)?D_(H)、内鍋温度センサ17の検出温度TN_(S)を補正するために使用する補正値CR_(H)を含む制御データを記憶している。ホスト4の演算処理部41は、個々の炊飯器1から送信される制御情報に基づいて上記記憶部42に記憶された制御データを修正する。そのため、ホスト4の記憶部42には、複数の炊飯器1から送信される制御情報が加味された最新の制御データが記憶されている。また、ホスト4は、修正後の制御データをパソコン2へ送信し、炊飯器1のRAM15cに記憶されている制御データは、パソコン2がホスト4から受信した修正後の制御データに更新される。」

K:「【0049】このように本実施形態の炊飯器制御装置では、個々の炊飯器1から送信される制御情報に基づいてホスト4の記憶部42に記憶された制御データが修正され、記憶部42には最新の制御データが記憶されることになる。そして、炊飯器1のRAM15cに記憶される制御データは、仮想本体から送信される修正後の制御データ、すなわち最新の制御データに更新される。従って、量産開始後ユーザーの手元に届けられた後であっても個々の炊飯器1の制御プログラムに使用される制御データを修正し、器体やセンサの特性の相違に起因する個々の炊飯器間の性能のばらつきを是正することができ、炊飯を繰り返すに伴って、個々の炊飯器1の性能が向上する。
【0050】また、量産開始後に発見されたメニューフローの不具合や性能不足を是正することができると共に、量産開始後に開発時想定した使用方法と相違する使用方法が見出されたり、ユーザーの好み等の傾向が変わっても、それに対応して個々の炊飯器の制御プログラムを修正することができる。」

図1とともに、上記摘記事項H?Kを総合すると、引用例2には、

「マイクロコンピュータを収容する炊飯器において、通信機能を持たせてインターネットに直接接続するようにし、メーカーのホストコンピュータとインターネットを介して接続されるとともに、上記ホストコンピュータに当該炊飯器の制御情報が送信され、該送信される制御情報に基づいてホストコンピュータに記憶された制御データが修正され、同ホストコンピュータから当該炊飯器に対して修正後の制御データが送信され、量産開始後に発見されたメニューフローの不具合や性能不足を是正することができる、炊飯器。」
に関する発明(以下「引用例2記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-238754号公報(以下、「引用例3」という。)には、「調理器の異常検出装置」に関し、以下の事項が記載されている。

L:「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、炊飯や保温などの調理を行なう調理器の異常検出装置に関する。」

M:「【0010】図1は装置の全体構成をあらわしたブロック図であり、同図において、1は前記保温釜21に備えた制御装置に相当する保温釜コントローラで、ここには保温釜21の制御処理手段に相当するマイコン2と、LCDやLEDなどの表示手段3と、複数のキースイッチからなる操作手段4が各々設けられる。マイコン2は例えばCPUなどの制御処理機能を有する制御手段5の他に、各種プログラムやデータなどを記憶する記憶手段6と、保温釜21の外部とのデータのやり取りを可能にする通信手段7などを備えている。そして、マイコン2の入力側には、前記鍋温度センサ26や蓋温度センサ35などの温度検出手段が各々接続されると共に、マイコン2の出力側には加熱手段25が接続される。
【0011】一方、11は前記保温釜21とは独立して設けられる記録装置に相当するデータロガー(記録器)で、これは具体的にはインターネット上で展開するサーバ(パーソナルコンピュータ)を想定している。このデータロガー11は、例えば家庭内LAN(Local Area Network)やインターネットなどを利用した通信バス12を介在して、前記保温釜コントローラ1の通信手段7と双方向通信が可能なように接続しており、そこには通信バス12に直接接続して外部とのデータのやり取りを可能にする通信手段13と、保温釜コントローラ1から定期的に転送される蓋温度センサ35の温度データを蓄積する記憶手段14と、この記憶手段14に蓄積される温度データの経時変化の傾向を解析して、蓋温度センサ35が異常であるか否か判定する解析手段15と、解析手段15により蓋温度センサ35が異常であると判定したときに、異常信号を送出する異常報知手段16とを備えている。
【0012】通信バス12には、保温釜コントローラ1やデータロガー11の通信手段7,13が接続される他に、メンテナンス業者が保有する携帯電話やパーソナルコンピュータなどの情報端末18が接続される。そして、異常報知手段16からの異常信号が、データロガー11の通信手段13から通信バス12を経由して、情報端末18に転送されるようになっている。なお、前記解析手段15や異常報知手段16は、実際にはサーバ上で動作するアプリケーションプログラムがこれに相当する。」

N:「【0022】解析手段15が蓋温度センサ35の異常(または異常が発生する可能性がある)を判定した場合は、異常報知手段16から通信手段13および通信バス12を経由して、メンテナンス業者が保有する情報端末18に、異常の改善依頼を要請するための異常信号が送出される。これによりメンテナンス業者は、異常の発生した保温釜21に対し、迅速な処置を行なうことが可能になる。」

4.対比

本願発明と引用発明とを対比すると、両者はいずれも「電気炊飯器」に関するものであって、引用発明における「固有のIPアドレスを用いインターネットに接続しうる機能を持たせ」は本願発明における「IPアドレスを付加することによってインターネット通信機能を付与し」に相当し、以下同様に、「製品の製造時に登録された製造者の統括サーバ」は「その製造メーカーのホストコンピュータ」に、「他の固有のIPアドレスを用いインターネットに接続しうる機能を持つサーバ家電」は「他のIPアドレスおよびインターネット通信機能を具備する電気炊飯器その他の電気機器」に、及び「インターネット接続部を通じ接続される」は「インターネット通信可能に構成する」に、それぞれ相当する。
また、上記摘記事項D及び摘記事項Fの記載からみて、引用発明における「炊飯器」が「マイクロコンピュータを有する電気炊飯器」であることは明らかである。
さらに、引用発明における「該サーバ家電である携帯電話には、炊飯器のIPアドレスが記入され、該IPアドレスに対し接続を絶えず監視し、炊飯器に障害が起こった際には、少なくとも携帯電話及び炊飯器に対し、障害状況を記録し、警告文を画面表示装置に表示する」ことと、本願発明の「上記ホストコンピュータに当該電気炊飯器の異常を判定する機能を設け、同ホストコンピュータが当該電気炊飯器が異常であると判定すると、当該電気炊飯器に対して異常回避の信号を送信すると同時に、ユーザーの携帯電話に対して異常信号を送信するようにした」こととは、引用発明における「携帯電話」と「炊飯器」のユーザが同一であることは明らかであるから、「電気炊飯器が異常であると、当該電気炊飯器に対して信号を送信すると同時に、ユーザーの携帯電話に対して異常信号を送信するようにした」ことである限りにおいて、一致する。

そうすると、本願発明と引用発明の一致点、相違点は以下のとおりであると認められる。

<一致点>
「マイクロコンピュータを有する電気炊飯器において、IPアドレスを付加することによってインターネット通信機能を付与し、その製造メーカーのホストコンピュータ又は他のIPアドレスおよびインターネット通信機能を具備する電気炊飯器その他の電気機器とインターネット通信可能に構成するとともに、電気炊飯器が異常であると、当該電気炊飯器に対して信号を送信すると同時に、ユーザーの携帯電話に対して異常信号を送信するようにした電気炊飯器。」

<相違点>
本願発明では、「ホストコンピュータに当該電気炊飯器の異常を判定する機能を設け、同ホストコンピュータが当該電気炊飯器が異常であると判定すると、当該電気炊飯器に対して異常回避の信号を送信すると同時に、ユーザーの携帯電話に対して異常信号を送信するようにした」ものであるのに対し、引用発明では、「サーバ家電である携帯電話には、炊飯器のIPアドレスが記入され、該IPアドレスに対し接続を絶えず監視し、炊飯器に障害が起こった際には、少なくとも携帯電話及び炊飯器に対し、障害状況を記録し、警告文を画面表示装置に表示する」ものである点。

5.相違点の検討

上記相違点について検討する。

引用発明と引用例2記載の発明とは、マイクロコンピュータを有する電気炊飯器において、インターネット通信機能を付与し、その製造メーカーのホストコンピュータとインターネット通信可能に構成する点において共通するものであるから、引用発明において、上記引用例2記載の発明の構成を採用して、ホストコンピュータに当該電気炊飯器の制御情報が送信され、該送信された制御データに基づいて、同ホストコンピュータが当該電気炊飯器に対して不具合や性能不足を是正するための信号を送信するものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、上記ホストコンピュータに「電気炊飯器の異常を判定する機能」を設け、電気炊飯器から送信される制御情報により、ホストコンピュータが「電気炊飯器の異常を判定する」ものとすることは、上記引用発明においても電気炊飯器の障害を監視している点及び上記引用例3の摘記事項M(特に段落【0011】参照のこと)の記載からみて、当業者が適宜なし得たことであり、その際に上記ホストコンピュータから当該電気炊飯器に対して送信される信号を、警告文を表示する程度の信号とするか、異常回避のための信号とするかは、異常のレベルや緊急性などにより、当業者が適宜選択すべき事項である。(参考として、原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-286175号公報には、調理機器に通信機能を設け、該調理機器が異常であると、該調理機器の給電を停止することが記載されている。)
なお、上記のように「ホストコンピュータに電気炊飯器の異常を判定する機能を設け、電気炊飯器から送信される制御情報により、ホストコンピュータが電気炊飯器の異常を判定するもの」とした際に、該ホストコンピュータから、電気炊飯器に対して異常回避の信号を送信すると同時に、ユーザーの携帯電話に対しても異常信号を送信するものとすることは、上記引用例3の摘記事項M及びNに、電気炊飯器の異常を判定したサーバから、メンテナンス業者の携帯電話に対して異常信号が送信されることが記載されていること、及び、引用発明において、炊飯器に障害が起こった際に「ユーザーの携帯電話」に警告文が表示されるものであること、からみて、当業者が適宜なし得たことである。

そして、本願発明の作用・効果について検討しても、引用発明、引用例2乃至引用例3及び上記参考文献に記載の事項から、当業者が予測し得る範囲を超えるものではない。

したがって、本願発明は引用発明、引用例2乃至引用例3及び上記参考文献に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび

以上のとおりであるから、本願発明(請求項1に係る発明)は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-03 
結審通知日 2010-09-28 
審決日 2010-10-19 
出願番号 特願2004-261141(P2004-261141)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎  
特許庁審判長 林 浩
特許庁審判官 小関 峰夫
植前 津子
発明の名称 電気炊飯器  

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