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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D |
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管理番号 | 1229768 |
審判番号 | 不服2009-18030 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-09-25 |
確定日 | 2011-01-04 |
事件の表示 | 特願2003-133003「容器詰め内容物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日出願公開、特開2004-331205〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成15年5月12日の出願であって、その請求項1に係る発明は平成20年12月18日付け手続補正で補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1の記載により特定される次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という)。 「【請求項1】内容物を容器に充填し、密封後容器殺菌する容器詰め内容物の製造方法であって、61℃以上65℃以下に加温された内容物の口部非結晶ポリエステル容器への充填と充填後の密封を外環境制御空間内で行った後、容器を傾斜して内容物を容器口部に接触させることにより殺菌することを特徴とする容器詰め内容物の製造方法。」 2.引用文献及び引用発明 (1)拒絶査定の拒絶の理由で用いられた特開平11-278404号公報(以下、「引用文献1」という。)には図面と共に以下の記載がある。 (a)「【0002】【従来の技術】高温殺菌を必要とする飲料物を樹脂製のボトルに充填する方法には、飲料物を高温に加熱して充填することにより、充填と同時にボトルの殺菌まで行う方法と、飲料物を低温で充填した後、ボトルに熱水シャワーをかけて殺菌する方法とが存在する。これらの方法は例えば内容物の種類等に応じて使い分けられている。 【0003】ところで、上記の充填方法ではボトルが高温に加熱されるため、ボトルに十分な耐熱性が与えられていないとボトルが熱変形するおそれがある。 … 【0006】本発明は、口栓部の白化結晶化を省略しても熱変形を許容範囲に抑えることが可能な充填方法、充填システムおよびそれに適した口栓部の密封構造を提供することを目的とする。 【0007】 【課題を解決するための手段】上述した課題を解決するため、本発明の発明者らはボトルの耐熱性について種々の検討を行い、その結果、樹脂製のボトルの耐熱性はボトルを放置するに従って徐々に低下し、その耐熱性の低下はボトルの水分の吸収と相関関係があることを見いだした。そして、ボトルの成形は高温に加熱された金型内で行われるためにその雰囲気からの水分の吸収は殆どなく、成形後にボトルを金型から取り出して周囲の雰囲気に触れさせると水分の吸収が始まって耐熱性が徐々に低下することを確認した。以上の知見に基づいて、ボトルの成形後の経過時間と耐熱性との関係を検証した結果、ボトルの成形後、すなわち成形後のボトルを金型から取り出して水分を含む周囲の環境に触れさせた後20分以内に内容物の充填を完了すれば、その内容物が95°Cの高温であっても口栓部の変形を許容範囲に抑えられることが判明した。」 (b)「【0021】金型11,12からの取り出し後、厳密には金型11,12から取り出されたボトル20が金型11,12の外の水分を含んだ雰囲気に初めて触れた時点から充填部2にて内容物4の充填が完了するまでの時間は20分以内、好ましくは15分以内、さらに好ましくは10分以内に設定される。これにより、ボトル20の口栓部20aが白化結晶化されていなくても、内容物4を60°C?95°Cに加熱してボトル20に充填することができる。」 (c)「【0014】これらの発明は、成形直後のボトルの含水率が予備成形体の含水率と相関することに着目して、予備成形体の好ましい含水率を検討した結果として得られたものである。すなわち、過剰に水分を吸収している予備成形体から成形されたボトルは、その成形直後に内容物を充填しても変形が免れないことがある。これに対して予備成形体の段階での含水率を2500p.p.m.以下に制限した場合には、口栓部を白化結晶化しなくても高温の内容物を充填できるだけの耐熱性を成形直後のボトルに確実に与えることができ、成形後一定時間(例えば20分以内)に充填を行えばボトルの熱変形を確実に防止できる。」 (d)「【請求項3】 前記ボトルがポリエチレンテレフタレート樹脂製であることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂製ボトルの内容物充填方法。」 ポリエチレンテレフタレート樹脂製のボトルは、ポリエステル容器であるので、以上の記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認めることができる。 「60℃?95℃に加温された内容物を口部非結晶ポリエステル容器へ充填する容器詰め内容物の製造方法。」 (2)拒絶査定の拒絶の理由で用いられた特開平8-301246号公報(以下、「引用文献2」という。)には図面と共に以下の記載がある。 (a)「【0009】封緘後、液体を充填した容器を所定温度まで段階的に冷却するが、本発明では所定温度まで段階的に冷却するにあたり、…本発明では段階的冷却工程の第1段階での設定温度を60?65℃とする。これにより、充填した液体による殺菌力をこの段階まで維持することができる。」 (b)「【0004】…キャップにて密栓した後、該容器を転倒させて20?40秒程度転倒殺菌を行い、…この場合、容器への充填開始から段階的な冷却工程開始までの所要時間を5分以内とすること、さらに第1段階での液温の設定を60?65℃にすることによって、熱収縮性軟質樹脂製容器の熱変形を防止する」 3.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると、両者は「加温された内容物を口部非結晶ポリエステル容器へ充填する容器詰め内容物の製造方法」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 本願発明では、内容物を61℃以上65℃以下に加温するのに対し、引用発明では、60℃?95℃に加温している点。 [相違点2] 本願発明では、容器を傾斜して内容物を容器口部に接触させることにより殺菌するのに対し、引用発明では、このような規定のない点。 [相違点3] 本願発明では、内容物の容器への充填と充填後の密封を外環境制御空間内で行っているのに対し、引用発明では、このような規定のない点。 そこで、上記相違点1について検討すると、加温される設定温度が、60?65℃程度もあれば、これにより、充填した液体による殺菌力を維持することができることは当業者にとって、周知の事項であり(上記2.(2)(a)、特開昭58-112926号公報参照)、また、引用発明は、充填と同時に容器の殺菌を行うことの課題を解決したものと解されるので(上記2.(1)(a)参照)、引用発明が60℃?95℃に加温された内容物を充填するのは、容器の殺菌を目的としたものと認めることができる。 そして、加温による殺菌効果は温度と殺菌時間により異なることは技術常識であって(例えば、上記特開昭58-112926号公報の表1、表2参照)、所望の殺菌効果を得るために、加温する温度を定めることは当業者が適宜なす程度のことにすぎず、引用発明において、加温する温度を61℃以上65℃以下としたことは当業者が容易になし得たことにすぎないと認める。 次に、上記相違点2について検討すると、容器を転倒あるいは傾斜して内容物を容器口部に接触させることにより殺菌する転倒殺菌は当業者にとって周知の技術であり(上記2.(2)(b)参照)、引用発明において、内容物を充填後転倒殺菌することは当業者が容易になし得たものと認める。 次に、上記相違点3について検討すると、一般に容器への内容物の充填密封を外環境制御空間内で行うことは常套手段にすぎず(例えば、上記特開昭58-112926号参照)、内容物の加温充填と前記常套手段とを組合わせて、菌を減少させることは当業者が容易になし得たことである。 また、本願発明の「外環境制御空間」は、客観的に特定できる条件を示したものではなく、これによって本願発明が格別な効果を奏するものとも認められない。 そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び引用文献2に記載された事項並びに周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 なお、出願人は審判請求書において、『原査定が充填温度について引用した引用文献4(注.特開平11ー278404号公報のことであり、上記引用文献1に相当する)は、飲料等の内容物を適用対象とし、口部非結晶化ボトルを用いる点で本願発明と共通点を有するものであるが、口部非結晶化ボトルであっても、ボトル成形後20分以内に内容物を充填すれば、充填温度が95℃の高温であっても口栓部の変形を許容範囲に抑えられるという発明であって(引用文献4[0007])、本願発明と発明思想がまったく異なり、本願発明において61℃以上65℃以下の充填温度を用いる構成およびその効果についての認識がまったくないのである。』(3.本願発明が特許されるべき理由(2)(イ)参照)と主張しているが、本願明細書の段落【0030】には、「本発明の製造方法においては、内容物を口部非結晶ポリエステル容器に充填し、密封後、容器殺菌時における容器口部温度が61℃以上で容器の含水率によって定まるガラス転移温度未満の温度となる温度範囲内で容器殺菌を行う。」と記載され、また、同じく段落【0045】の「この実施形態においては、プリフオームの成形自体を外環境制御空間内において行い、成形されたプリフオームを直ちに直接PETボトル成形装置に移送することにより、成形されたプリフオームが外部環境から湿気を吸収する時間はほとんどなく、こうしてプリフオーム成形からボトル製造を介して内溶液充填までの時間を最大限に短縮することによりボトルの含水率をさらに小さくすることができ、それによってボトルのガラス転移温度を80℃以下の一層高い温度に維持することができる。」の記載は上記2.(1)(a)、(b)の記載事項に、同じく段落【0021】の「本発明の他の側面においては、容器の予備成形物を成形し、成形された予備成形物を容器に成形する前に、予備成形物の含水率を減少させる工程をさらに備えることを特徴とする。容器の予備成形物の含水率を減少させることにより、容器のみの含水率を減少させる場合に比べて容器のガラス転移温度をより高い温度に上昇させることができる。」の記載は上記2.(1)(c)の記載事項にそれぞれ対応するものと認められ、ボトルの含水率を考慮して、殺菌効果のある内容物の温度を設定した引用文献4が本願発明と発明思想がまったく異なったものとはいえない。 また、同じく『表1によれば、本発明の適用の対象となる各種飲料について共通して安全な殺菌価である6D以上を得るためには61℃でボトルを横倒した後3分保持しなければならず、60℃では3分保持しても6D以上の殺菌価は得られないのである。この3分という横倒し保持時間はボトル詰め飲料等の製品を商業的に効率的に量産するためには限界的な長時間である。…この充填温度の下限値61℃は、本発明者等が上記のとおり詳細な実験の結果はじめて見出した温度であって、当業者が周知技術ないし公知技術に基づいて容易に類推できる、すなわち設計的事項であるという原査定認定の根拠はどこにもないのである。 同様に、65℃という充填温度の上限値は、表1から明らかなように、横倒し保持時間が0.5分という最短時間であっても6D以上の殺菌価を得ることができ、製品の効率的な量産もこの充填温度で充分可能であり、…この充填温度の上限値65℃は、本発明者等が上記のとおり詳細な実験の結果はじめて見出した温度であって、当業者が周知技術ないし公知技術に基づいて容易に類推できる、すなわち設計的事項であるという原査定認定の根拠はどこにもないのである。 』(3.本願発明が特許されるべき理由(2)(イ)参照)とも主張しているが、表1に関してこのような説明はなく、このような発明思想は本願明細書の記載中に認めることはできない。 一方、殺菌温度が高いほど、そして、殺菌時間が長いほど、殺菌効果が高くなることは技術常識であって、殺菌時間と殺菌温度を変数にして、殺菌効果を示す表を作成し、例えば、量産に適すると認められるような、所定時間で、所望の殺菌効果を得るために必要な最低の殺菌温度を求めること、または、極めて短時間で、十分な殺菌効果を得ることができる最低の殺菌温度を求めることは当業者が適宜なす程度の設計的事項にすぎないと認められる(例えば、上記特開昭58-112926号公報の表1、表2、第4頁左欄第1行?右欄第5行参照。)。 よって、出願人の上記主張は妥当でない。 4.むすび したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-10-29 |
結審通知日 | 2010-11-02 |
審決日 | 2010-11-17 |
出願番号 | 特願2003-133003(P2003-133003) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B65D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田村 耕作 |
特許庁審判長 |
千馬 隆之 |
特許庁審判官 |
豊島 ひろみ 熊倉 強 |
発明の名称 | 容器詰め内容物の製造方法 |
代理人 | 坂本 徹 |
代理人 | 原田 卓治 |