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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1229775
審判番号 不服2009-19813  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-15 
確定日 2011-01-04 
事件の表示 特願2004-186761「像担持体及びプロセスカートリッジ、並びに画像形成装置及び画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月12日出願公開、特開2006- 10972〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年6月24日の出願であって、平成21年2月12日付けで通知された拒絶理由に対して、同年4月2日付けで意見書のみが提出されたが、同年7月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月15日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、その後、当審における審尋に対する回答書が平成22年3月17日付けで提出されたものである。

2.補正の適否、本願発明
平成21年10月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、補正前の請求項1?3を削除するとともに、請求項1?3を引用していた補正前の請求項4を、新たな請求項1?3に展開したうえで、補正前の請求項4を削除し、補正前の請求項5?10を請求項4?9に繰り上げるものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除を目的としたものに該当するので、本件補正は適法である。

したがって、本願の請求項1?9に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
支持体と該支持体上に少なくとも電荷発生層、電荷輸送層、及び架橋型電荷輸送層をこの順に有してなり、
該架橋型電荷輸送層が電荷輸送性構造を有しない3又は4官能のラジカル重合性化合物と下記構造式(4)で示される電荷輸送性構造を有する1官能のラジカル重合性化合物と光ラジカル重合の重合開始剤とを含み、重合性基を有するシリカを含まない組成物を光照射により硬化させた反応物を含有する感光体と、該感光体を加熱する加熱手段とを有することを特徴とする像担持体。
【化1】

(前記構造式(4)中、R_(1)は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、-COOR_(7)(ただし、R_(7)は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を表す。)、ハロゲン化カルボニル基若しくはCONR_(8)R_(9)(ただし、R_(8)及びR_(9)は、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示し、互いに同一であっても異なっていてもよい)を表す。Ar_(1)、Ar_(2)は、置換もしくは未置換のアリーレン基を表し、同一であっても異なってもよい。Ar_(3)、Ar_(4)は、置換もしくは未置換のアリール基を表し、同一であっても異なってもよい。Xは、単結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基を表す。Zは、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル2価基、アルキレンオキシカルボニル2価基を表す。mは0?3の整数を表す。)」

3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された、特開2001-175016号公報(原査定の引用文献1。以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、該電子写真感光体の表面層が1つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合した化合物を含有し、かつ該電子写真感光体と可撓性の帯電部材とのニップ部に導電性を有する帯電促進粒子を介在させることにより注入帯電されることを特徴とする電子写真感光体。」

(1b)「【0010】(A)ローラ帯電接触帯電装置は、接触帯電部材として導電ローラ(帯電ローラ)を用いたローラ帯電方式が帯電の安定性という点で好ましく、広く用いられている。このローラ帯電の帯電機構は、前記の放電帯電系が支配的である。帯電ローラは、導電あるいは中抵抗のゴム材あるいは発泡体を用いて作製される。更に、これらを積層して所望の特性を得たものもある。
【0011】帯電ローラは、被帯電体(以下、電子写真感光体と記す)との一定の接触状態を得るために弾性を持たせているが、そのため摩擦抵抗が大きく、多くの場合、電子写真感光体に従動あるいは若干の速度差をもって駆動される。従って、直接帯電しようとしても、接触性の不足のため、従来のローラ帯電ではその帯電機構は放電帯電系が支配的である。
・・・(中略)・・・
【0015】この方式においては、帯電部材に印加する電圧にAC成分があるため、感光体表面電位との間に放電しきい値以上の電圧値が印可され、DC帯電のみで帯電を行う方式より、放電を積極的に利用した帯電法となるため、それに伴いオゾン等の放電生成物量は多くなる。
【0016】ローラ帯電方式とコロナ帯電方式を比較すると、ローラ帯電方式は微小空間の放電現象を利用した帯電であるため、放電電流が電子写真感光体表面と帯電ローラ表面の間の空間に流れており、非常に高エネルギーな電子やイオン等の粒子が電子写真感光体表面に衝突を繰り返す。また、放電している空間が狭いため、放電生成物の密度の非常に高い環境に電子写真感光体表面をさらしていることと同義となり、電子写真感光体表面の酸化反応が起こり易い。つまり、この方式では、電子写真感光体表面が受けるダメージは非常に大きく、電子写真感光体は削れ易くなり、傷も入り易くなることで、耐久性が著しく低下するという問題がある。
【0017】また、先記したようにローラ帯電においては、DC帯電方式よりAC帯電方式の方が放電を積極的に利用していることから、AC帯電方式における電子写真感光体表面が受けるダメージは大きい。更に、AC帯電方式の問題点として、AC電圧の電界による接触帯電部材と電子写真感光体の振動騒音(AC帯電音)の発生等の問題があることも確認されている。
・・・(中略)・・・
【0031】上記問題を解決するために特開平10-307454号公報に記載されている様な注入帯電装置が提案されている。すなわち、電子写真感光体の表面と接触帯電部材との相互接触面に導電性を有する帯電促進粒子を存在させた状態で、電子写真感光体の接触帯電を行わせるものであり、帯電部材は電子写真感光体に周速差を持たせて接触させて電子写真感光体の接触帯電を行わせることもできる注入帯電装置である。
【0032】この装置を構成している帯電促進粒子により、電子写真感光体と接触帯電部材との相互接触面において、接触帯電部材は密に電子写真感光体と接触して、その帯電促進粒子が電子写真感光体表面を隙間なく摺擦することで電子写真感光体に電荷を直接注入でき、高効率に電荷注入を行うことが可能となり、更に帯電部材が電子写真感光体と周速差を持つと接触頻度が高くなり、より高効率に電荷を注入できる。
【0033】よって、接触帯電部材による電子写真感光体の帯電は、帯電部材の接触不足が改善され、帯電均一性が飛躍的に向上することになり、注入帯電が支配的となり、帯電部材の性能によらず常に均一な帯電が可能となる。従って、従来のファーブラシ帯電やローラ帯電等では得られなかった高い帯電効率が得られ、印加した電圧とほぼ同等の電位を感光体に与えることができる直接帯電が可能となった。
【0034】かくして、接触帯電部材として比較的に構成が簡単なファーブラシ等を用いた場合でも、接触帯電部材に対する帯電に必要な印加バイアスは電子写真感光体に必要な電位相当の電圧で十分であり、放電現象を用いない安定かつ安全な帯電方式を実現することができる。
・・・(中略)・・・
【0044】先記、電子写真感光体の表面と接触帯電部材との相互接触面に、導電性を有する帯電促進粒子を存在させた状態で、電子写真感光体の接触帯電を行わせ、帯電部材を電子写真感光体に周速差を持たせて接触させて電子写真感光体の接触帯電を行わせることもできる注入帯電装置においては、電子写真感光体表面に対し、摺擦による機械的ストレスが過度にかかることから、電子写真感光体の耐久性に関し、以下に示す問題があることが本発明者らの検討で、最近明らかになった。
・電子写真感光体表面の磨耗量が多く、電子写真感光体の寿命が短い
・電子写真感光体表面に傷が発生し易く、画像上、傷部が表出する
【0045】また、耐久性に関し、別の問題として、先記の装置を用いた場合、耐久での電荷注入性も低下傾向にあることが判明した。これは、電子写真感光体を交換することで電荷注入性が回復してしまうことから、電子写真感光体の耐久性に起因する問題であることがわかっている。
【0046】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、繰り返し使用の耐久においても削れが少なく、傷の入りにくい表面層を有する電子写真感光体を提供することにある。
【0047】本発明の別の目的は、上記電子写真感光体と帯電手段として低印加電圧でオゾンレスが可能で、帯電均一性に優れかつ長期にわたり安定した注入帯電性を有する電子写真装置を提供することにある。」

(1c)「【0114】以下に本発明に係わる、連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物の代表例を挙げるがこれらに限定されるものではない。・・・(中略)・・・
【0116】
(当審注:No.7のみ示す。)

・・・(中略)・・・
【0118】
(当審注:No .16のみ示す。)

・・・(中略)・・・
【0120】
(当審注:No .30のみ示す。)

・・・(中略)・・・
【0159】
(当審注:No .225のみ示す。)

・・・(中略)・・・
【0193】
(当審注:No .394のみ示す。)



(1d)「【0319】本発明において連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物は、熱、可視光や紫外線等の光、更に放射線により重合させることができる。従って、本発明における表面層の形成は、表面層用の塗工液に前記連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物と必要によっては重合開始剤を含有させ、塗工液を用いて形成した塗工膜に熱、光又は放射線を照射することによって該連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合させる。なお、本発明においては、その中でも放射線によって該連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合させることが好ましい。放射線による重合の最大の利点は重合開始剤を必要としない点であり、これにより非常に高純度な3次元表面層の作製が可能となり、良好な電子写真特性が確保される点である。また、短時間でかつ効率的な重合反応であるがゆえに生産性も高く、更には放射線の透過性の良さから、厚膜時や添加剤等の遮蔽物質が膜中に存在する際の硬化阻害の影響が非常に小さいこと等が挙げられる。但し、連鎖重合性官能基の種類や中心骨格の種類によっては重合反応が進行しにくい場合があり、その際には影響のない範囲内での重合開始剤の添加は可能である。この際、使用する放射線とは電子線及びγ線であり、特には電子線が好ましい。」

(1e)「【0326】(実施例1)図1は本発明に従う接触帯電手段を具備した電子写真装置の一例の概略構成の模型図である。本例の電子写真装置は、転写方式電子写真プロセス利用、プロセスカートリッジ着脱方式のレーザービームプリンタである。
【0327】(1)プリンタの全体的概略構成
1は像担持体(被帯電体)としての回転ドラム型の電子写真感光体である。本例は直径30mmの負帯電の有機電子写真感光体であり、矢印の時計方向に100mm/secのプロセススピード(周速度)をもって回転駆動される。2は電子写真感光体1に当接させた接触帯電部材としてのロール状の帯電ブラシ(ファーブラシ帯電器)であり、電子写真感光体1と3mm幅の帯電ニップ部nを形成して接し、帯電ニップ部nにおいて電子写真感光体1の回転方向と逆の矢印の時計方向に500rpmで回転駆動される。すなわち、接触帯電部材としての帯電ブラシ2は、電子写真感光体1に周速差を持って接触し電子写真感光体1を摺擦する。そして帯電バイアス印加電源S1から-700VのDC帯電バイアスが印加されていて、回転電子写真感光体1の外周面がほぼ-680Vに一様に注入帯電される。
・・・(中略)・・・
【0336】(2)電子写真感光体
本例の負帯電の有機電子写真感光体は、図2に層構成図を示したように、φ30mmのアルミニウム製のドラム支持体(アルミニウム支持体)11上に下記の第1?第4の4層の機能層12?15を下から順に設けたものである。
【0337】以下に電子写真感光体の機能層の作製方法について詳細に述べる。
【0338】導電層用の塗料を以下の手順で調製した。10質量%の酸化アンチモンを含有する酸化スズで被覆した導電性酸化チタン粉体50部(質量部、以下同様)、フェノール樹脂25部、メチルセロソルブ20部、メタノール5部及びシリコーンオイル(ポリジメチルシロキサンポリオキシアルキレン共重合体、平均分子量3000)0.002部をφ1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間分散して調製した。この塗料を上記アルミニウム支持体上に浸漬塗布方法で塗布し、140℃で30分間乾燥させることによって、膜厚が20μmの導電層を形成した。
【0339】次に、N-メトキシメチル化ナイロン5部をメタノール95部中に溶解し、中間層用塗料を調製した。この塗料を前記の導電層上に浸漬塗布方法によって塗布し、100℃で20分間乾燥させることによって、膜厚が0.6μmの中間層を形成した。
【0340】次に、CuKαの特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2度)が9.0度、14.2度、23.9度及び27.1度に強いピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを3部、ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBM2、積水化学(株)製)2部及びシクロヘキサノン35部をφ1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間分散して、その後に酢酸エチル60部を加えて電荷発生層用塗料を調製した。この塗料を前記の中間層の上に浸漬塗布方法で塗布して、100℃で15分間乾燥させることによって、膜厚が0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0341】次いで、化合物例No.394の正孔輸送性化合物100部とポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ-800、三菱瓦斯化学(株)社製)10部をモノクロロベンゼン330部の溶媒中に溶解して溶液を作製し、この溶液を電荷発生層表面に浸漬塗布し、加速電圧150KV、線量30Mradの条件で電子線を照射することによって、膜厚が15μmの電荷輸送層の硬化膜を形成した。
・・・(中略)・・・
【0350】しかしながら、電子写真感光体の表面と帯電部材との接触が十分に行われる必要が有るため、既に説明したように接触帯電部材として帯電ブラシを用いた場合、帯電ブラシの毛先が図8に示すように分かれ電子写真感光体表面に接触できないところができ、電子写真感光体表面を均一に帯電することができないという問題点があった。
【0351】そこで本例では、図1に示すように被帯電体としての電子写真感光体1の表面に帯電促進粒子mを塗布する装置8を設け、電子写真感光体表面に帯電促進粒子mを10^(2)個/mm^(2)以上塗布することで、上記の接触不良の問題を解決することが可能になった。帯電促進粒子塗布装置8は、粉体粒子を塗布する一般的な手段、例えば塗布ローラ8a上に一度均一に塗布した後、電子写真感光体上に接触又は電界で飛翔させること等により塗布する構成にすることができる。
・・・(中略)・・・
【0374】また、耐久後の電子写真感光体の削れ量と表面粗さに関しても評価を行った。それらの結果を、表4に示す。表中、黒スジレベルはA?Eまでランク分けされており、Cまでが画像評価上の許容レベルである。ゆえにランクB、Cは軽微ではあるが黒スジが認められるレベルとなり、D、Eは注入不良による黒スジ画像欠陥により電子写真感光体寿命となってしまうレベルである。なお、削れ量は、渦電流式膜厚測定器(FISCHER社製、PERMASCOPE TYREE111)を用いて測定した。また、傷はRz値で記載してあり、10000枚耐久後の電子写真感光体表面の任意な場所の、10点平均面粗さの値を示してある。
【0375】本発明の電子写真装置において、先記電子写真感光体を用いることで、10000枚耐久での繰り返し使用時において、注入帯電均一性の悪化はみられず、耐久後ハーフトーン画像上、黒スジの無い良好な画像を得ることができた。また、耐久後の電子写真感光体の削れや表面粗れも非常に小さく、高耐久な電子写真感光体であることも、確認できた。
・・・(中略)・・・
【0388】(実施例3)図7は本例の電子写真装置の概略構成図である。本例の電子写真装置は、上記実施例2のプリンタ(図6)において、接触帯電部材としての帯電ブラシ2を導電性弾性ローラ帯電器2にしたものである。また、帯電促進粒子を帯電部材に供給する手段を配設してある。
【0389】帯電促進粒子供給は本例では規制ブレードで行っており、規制ブレードを帯電ローラ2に当接し、帯電ローラ2と規制ブレードとの間に帯電促進粒子mを貯留・保持させ、帯電促進粒子mを帯電ローラ2面に塗布して供給する構成をとる。
【0404】これにより、帯電ニップ部nにおいて帯電ローラ2は、帯電促進粒子mを介して密に電子写真感光体1に接触して、つまり帯電ローラ2と電子写真感光体1のニップ部である帯電ニップ部nに存在する帯電促進粒子mが電子写真感光体表面を隙間なく摺擦することで電子写真感光体1に電荷を直接注入できるのである。すなわち帯電ローラ2による電子写真感光体1の帯電は帯電促進粒子mの存在により注入帯電が支配的となる。
【0405】従って、従来のローラ帯電では得られなかった高い帯電効率が得られ、帯電ローラに印加した電圧とほぼ同等の電位を電子写真感光体1に与えることができる。本例では帯電ローラ2に印加した-700Vの直流電圧とほぼ同じ電位-680Vに電子写真感光体1が帯電処理される。
【0406】かくして、接触帯電部材として比較的に構成が簡単な帯電ローラを用いた場合でも、帯電ローラ2に対する帯電に必要な印加バイアスは被帯電体である電子写真感光体1に必要な電位相当の電圧で十分であり、放電現象を用いない安定かつ安全な帯電方式を実現することができる。つまり、接触帯電装置において、接触帯電部材として帯電ローラ等の簡易な部材を用いた場合でも、より帯電均一性に優れかつ長期にわたり安定した注入帯電を実現する、すなわち、低印加電圧でオゾンレスの注入帯電を簡易な構成で実現することができる。」

(1f)「【0409】(実施例7)実施例1と同様に電荷発生層まで形成した。次いで、実施例1の正孔輸送性化合物である化合物例No.394に下記構造式の重合開始剤を1部加え、電荷輸送層用塗工液を作製した。
【0410】
【化195】

【0411】この塗工液を、先記電荷発生層表面に浸漬塗布し、メタルハライドランプを用いて500mW/cm^(2)の光強度で照射し、硬化させることによって、膜厚が15μmの電荷輸送層の硬化膜を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。」

(1g)「【0412】(実施例8)実施例1と同様に電荷発生層まで形成した。次いで、実施例1の正孔輸送性化合物である化合物例No.394に下記構造式の重合開始剤を1部加え、電荷輸送層用塗工液を作製した。
【0413】
【化196】


【0414】この塗工液を、先記電荷発生層表面に浸漬塗布し、140℃で1時間熱硬化及び乾燥することによって、膜厚が15μmの電荷輸送層の硬化膜を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。」

(1h)「【0415】(実施例9?13)実施例1において電子線の照射強度を表5に示した様に代えた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。その結果、耐久試験での、注入帯電均一性や電子写真感光体の耐久による傷や削れは、良好であったが、加速電圧300KV及び線量150、200Mradの条件下では、初期の電子写真感光体の電位特性において、実用画像上で問題はないが、感度悪化等の弊害がみられた。結果を表4に示す。」

ここで、上記表5(【0431】[当審注:【0431】の【表6】は、【表5】の誤記と認められる。])は次のとおり。



(1i)「【0416】(比較例1)実施例1において電荷発生層を形成した後、下記構造式のスチリル化合物を7部、ポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ-800、三菱瓦斯化学(株)社製)10部をモノクロロベンゼン84部/ジクロロベンゼン28部の混合溶媒中に溶解して溶液を作製し、この溶液を電荷発生層表面に浸漬塗布法で塗布して、105℃で1時間熱風乾燥することによって、膜厚が15μmの電荷輸送層を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。
【0417】
【化197】(略)」

(1j)「【0418】(実施例14)比較例1と同様の化合物を用い、膜厚10μmの電荷輸送層まで作製し、更に、この上に第2の電荷輸送層を以下に記載した様にして設けた。化合物例No.394の正孔輸送性化合物10部をプロパノール18部の溶媒中に溶解して第2の電荷輸送層用の塗工液を作製し、この液を先記した、第1の電荷輸送層表面に浸漬塗布し、加速電圧150KV、線量30Mradの条件で電子線を照射し、膜厚2μmの第2の電荷輸送層の硬化膜を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。」

(1k)「【0421】(実施例16)実施例14と同様にして、第1の電荷輸送層を形成した。更に、この上に第2の電荷輸送層を以下に記載した様にして設けた。化合物例No.7の正孔輸送性化合物10部と下記のアクリル樹脂10部をプロパノール20部の溶媒中に溶解して第2の電荷輸送層用の塗工液を作製し、この液を先記した、第1の電荷輸送層表面に浸漬塗布し、加速電圧150KV、線量30Mradの条件で電子線を照射し、膜厚3μmの第2の電荷輸送層の硬化膜を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。
【0422】
【化199】


ここで、実施例16の第2の電荷輸送層用の塗工液は、重合性基を有するシリカを含まないものである。

(1L)「【0430】
【表5】(当審注:【表4】の誤記と認められる。)



これら記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、実施例16を中心に認定した。

「アルミニウム製のドラム支持体上に、少なくとも、電荷発生層、第1の電荷輸送層、第2の電荷輸送層を有する電子写真感光体において、
下記化合物例No.7の正孔輸送性化合物と下記アクリル樹脂を溶媒中に溶解して塗工液を作製し、当該塗工液は重合性基を有するシリカを含まないものであり、当該塗工液を第1の電荷輸送層表面に浸漬塗布した後、電子線を照射して硬化し、表面層となる第2の電荷輸送層を形成した、
電子写真感光体。

化合物例No.7の正孔輸送性化合物

アクリル樹脂




4.対比・判断
本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、
刊行物1記載の発明の「アルミニウム製のドラム支持体」、「第1の電荷輸送層」、重合して硬化している「第2の電荷輸送層」は、それぞれ、本願発明1の「支持体」、「電荷輸送層」、「架橋型電荷輸送層」に相当する。

また、刊行物1記載の発明の「電子写真感光体」は、狭義では、本願発明1の「感光体」、広義では、本願発明1の「像担持体」に相当するといえる。

刊行物1記載の発明における特定の「アクリル樹脂」は、本願発明1の「電荷輸送性構造を有しない3又は4官能のラジカル重合性化合物」に相当する。

刊行物1記載の発明の「化合物例No.7の正孔輸送性化合物」と、
本願発明1の「構造式(4)で示される電荷輸送性構造を有する1官能のラジカル重合性化合物」とは、
「電荷輸送性構造を有する1官能のラジカル重合性化合物」の点で共通する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「支持体と該支持体上に少なくとも電荷発生層、電荷輸送層、及び架橋型電荷輸送層をこの順に有してなり、該架橋型電荷輸送層が電荷輸送性構造を有しない3又は4官能のラジカル重合性化合物と電荷輸送性構造を有する1官能のラジカル重合性化合物とを含み、重合性基を有するシリカを含まない組成物を硬化させた反応物を含有する感光体、を有する像担持体。」

[相違点1]
電荷輸送性構造を有する1官能のラジカル重合性化合物が、
本願発明1は、下記構造式(4)

で示されるものであるのに対し、
刊行物1記載の発明は、下記構造式

のもの(化合物例No.7)であり、上記構造式(4)のAr_(1)(アリーレン基)がない点。

[相違点2]
架橋型電荷輸送層が
本願発明1は、光ラジカル重合の重合開始剤を含み、重合性組成物を光照射により硬化させた反応物を含有するのに対して、
刊行物1記載の発明は、重合性組成物を電子線照射により硬化させたものである点。

[相違点3]
本願発明1は、感光体を加熱する加熱手段を有するのに対して、
刊行物1記載の発明は、有していない点。

そこで、相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物1には、電荷輸送性構造を有する1官能のラジカル重合性化合物で、本願発明1の構造式(4)に該当する化合物も、例示されている(【0315】以降の、No.16,No.30,No225等を参照)から、
刊行物1記載の発明において、化合物例No.7の正孔輸送性化合物に換えて、本願発明1の構造式(4)に該当する正孔輸送性化合物を用いることは、当業者が容易になし得ることである。

(相違点2について)
刊行物1記載の発明は、重合性組成物を「電子線を照射して硬化する」ものであるが、刊行物1の(1d)【0319】には、放射線、特に電子線による重合が好ましいとしつつも、「本発明において連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物は、熱、可視光や紫外線等の光、更に放射線により重合させることができる。従って、本発明における表面層の形成は、表面層用の塗工液に前記連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物と必要によっては重合開始剤を含有させ、塗工液を用いて形成した塗工膜に熱、光又は放射線を照射することによって該連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合させる。」として、可視光や紫外線等の光による重合が利用できる旨の記載があり、また、電子写真感光体の表面層を、ラジカル重合反応の光重合開始剤を用いて光エネルギー照射によるラジカル重合反応により硬化させて、形成することは、本願出願前に周知の技術であり、
当業者であれば、刊行物1記載の発明の重合性組成物に対して、電子線照射によるか、ラジカル重合反応の光重合開始剤を用いて光エネルギー照射によるかは、適宜選択することができる程度のことである。
具体的には、電子線照射を採用するか、光重合開始剤を用いた光照射を採用するかは、当業者であれば、そのメリットとデメリットを勘案して、適宜選択することである。
例えば、刊行物1の【0319】【0320】では、放射線(電子線)照射が好ましい旨が記載されているが、そのメリットと注意点も詳細に説明されている。すなわち、電子線照射のメリットは、重合開始剤を必要としないこと、短時間で生産性が高いこと、透過性がよいので膜中の遮蔽物質による硬化阻害の影響を受けないことで、注意点は、照射条件が非常に重要であり、加速電圧、線量を適切にしないと、硬化が不十分になったり(線量過小の場合)、感光体にダメージを与える(加速電圧・線量過大の場合)ことである(刊行物1の実施例9?13も参照)。そして、膜厚の薄い膜に対しては、加速電圧、線量を適度に小さくすれば、必要な硬化と感光体に対するダメージの軽減をバランスできることは、当業者に自明といえる。また、刊行物1には、光照射のメリットは記載されていないが、感光体にダメージを与えることが少ないことは、示唆されている。
したがって、刊行物1記載の発明において、電子線照射による手法に換えて、ラジカル重合反応の光重合開始剤を用いて光エネルギー照射による手法を採用することは、当業者が容易になし得ることである。

なお、原査定では、この相違点2については、本願発明1と刊行物1との間での「実質的な相違点ではない」とされているが、これは、本審決で認定する刊行物1記載の発明に、刊行物1の【0319】の上記記載事項を加味したうえで、「実質的な相違点ではない」と述べたともいえるから、相違点2は「容易である」とのニュアンスを含んでいる。
また、硬化後に光重合開始剤が残っているか否かの差であり、架橋型電荷輸送層としては、付与する外部エネルギーの違い(電子線、光)は、実質的な差ではないということもできる。
これに関連して、請求人は、審査段階の意見書で、「本願請求項1に係る発明は、耐摩耗性に優れると共に、電荷輸送層と架橋型電荷輸送層との間の界面状態も良好な感光体を得ることができるという格別な効果を奏します。これは、電子線が架橋型電荷輸送層よりも下の層にまで浸透しやすいのに対し、光照射の硬化では表面層のみに光が照射されるようにすることが可能であり、その結果、硬化時における界面へのダメージを防ぐことができるためです。」と主張するが、電子線照射でも、膜厚の薄い膜に対しては、加速電圧、線量を適度に小さくすれば、必要な硬化と感光体に対するダメージの軽減をバランスできるというべきである。

(相違点3について)
一般に、高湿下等において、感光体の表面抵抗が低下して、画像流れが生じることがよく知られており、画像流れを防止するために、感光体を加熱する加熱手段を設けることは、本願出願前に周知の技術である。例えば、特開2000-241998号公報、特開平4-352160号公報(【0009】等)、特開平5-188618号公報(【0004】)、特開2002-258666号公報(【0003】【0004】等)を参照。

そうすると、刊行物1記載の発明は、繰り返し使用の耐久性を求めるもので、それに伴い高品質の画像を提供することを目的としているから、刊行物1記載の発明において、画像流れを防止するために、感光体を加熱する加熱手段を設けることは、当業者が容易に想到し得ることである。

なお、本願明細書には、従来技術の問題として、「【0010】前記加熱装置を設けて感光体を加熱することで、その場の画像流れは防止できる。しかし、この場合、トナーがフィルミングしやすくなり、例えば、フィルミング物質の吸湿による画像形成装置の停止後、翌日に画像流れが発生するという欠点が生じる。また、高耐久及び高耐摩耗性の感光体となるほど、表面層の摩耗量が小さくなり帯電時において発生する表面の劣化、帯電生成物の除去が行われにくくなる。その結果、画像流れが生じたり、ドットの再現性が低下する。このことは、特に、感光体ドラム停止時に帯電極近傍に位置した部位で顕著に見られ、例えば、排風や感光体ドラム近傍に設置した加熱装置では、帯電極下まで十分に画像流れ現象を抑制することは困難である。たとえ、画像形成装置の稼働を停止しても、稼働時に生じた活性酸素等の有害物は、各帯電極近傍に留まり回転を停止した感光体の表面に塗設された感光層に作用するためであると考えられる。しかも、従来の排風の吹き付けや感光体とは別体として近傍に設置した加熱装置では、感光体の表面を均一に加温することができず、高湿環境下における水分子の吸着等を防止するには不十分である。」と説明されている。
つまり、高耐久及び高耐摩耗性の感光体では、表面の劣化、帯電生成物の除去が行われにくくなるので、加熱しても、画像流れを抑制することが難しいということである。
そして、本願の比較例のものは、実施例のものに比べて、摩耗量が相対的に大きいにもかかわらず、加熱手段による加熱の効果が認められないという結果になっており、その反面、実施例のものは、摩耗量が非常に小さいにもかかわらず、画像流れが生じないという効果があるともいえる。
しかし、そうであっても、刊行物1記載の発明において、画像流れを防止するため、感光体を加熱する手段を設けることの容易想到性を覆すものではない。

(まとめ)
したがって、本願発明1は、刊行物1記載の発明、刊行物1の記載事項、および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-28 
結審通知日 2010-11-02 
審決日 2010-11-17 
出願番号 特願2004-186761(P2004-186761)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
磯貝 香苗
発明の名称 像担持体及びプロセスカートリッジ、並びに画像形成装置及び画像形成方法  
代理人 廣田 浩一  

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