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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1229781
審判番号 不服2009-22991  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-25 
確定日 2011-01-04 
事件の表示 特願2004-330043「電子写真感光体、画像形成方法、画像形成装置、画像形成装置用プロセスカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月14日出願公開、特開2005-189828〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年11月15日(優先権主張平成15年12月1日)の出願であって、平成21年6月9日付けで通知された拒絶の理由に対して、同年8月3日付けで手続補正書が提出されたが、同年8月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月25日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、その後、当審において、審尋に対する回答書が平成22年5月13日付けで提出されたものである。


2.本願発明
平成21年11月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、(1)特許請求の範囲について、補正前の請求項1?16を削除するとともに、補正前の請求項1?16を引用していた請求項17を、請求項1?16に展開し、補正前の請求項18?34を、請求項17?33に繰り上げ、(2)それに伴い、発明の詳細な説明の記載を整合させ、また、(3)発明の詳細な説明における「実施例6」は、内容的に実施例とはいえないので、「参考例1」に変更するものである。

そうすると、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除、及び、同項第3号の誤記の訂正あるいは同項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的としたものに該当するといえるので、適法な補正と認める。

したがって、本願の請求項1?33に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?33に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
導電性支持体上に少なくとも下引き層、感光層及び架橋型電荷輸送層を順次積層した電子写真感光体において、該下引き層は無機顔料を含有している層と無機顔料を含有していない層の少なくとも2層からなり、無機顔料を含有していない層が、導電性支持体上に直接形成され、その上に無機顔料を含有する層が積層されており、前記無機顔料を含有している層の膜厚が、1?10μmであり、かつ該架橋型電荷輸送層が少なくとも電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーと1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物とを硬化することにより形成されることを特徴とする電子写真感光体。」


3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された、
特開2001-175016号公報(原査定の引用文献1。以下、「刊行物1」という。)、
特開昭63-289554号公報(原査定の引用文献2。以下、「刊行物2」という。)、
特開平5-80572号公報(原査定の引用文献3。以下、「刊行物3」という。)
には、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付した。

(1)刊行物1
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、該電子写真感光体の表面層が1つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合した化合物を含有し、かつ該電子写真感光体と可撓性の帯電部材とのニップ部に導電性を有する帯電促進粒子を介在させることにより注入帯電されることを特徴とする電子写真感光体。」

(1b)「【0044】先記、電子写真感光体の表面と接触帯電部材との相互接触面に、導電性を有する帯電促進粒子を存在させた状態で、電子写真感光体の接触帯電を行わせ、帯電部材を電子写真感光体に周速差を持たせて接触させて電子写真感光体の接触帯電を行わせることもできる注入帯電装置においては、電子写真感光体表面に対し、摺擦による機械的ストレスが過度にかかることから、電子写真感光体の耐久性に関し、以下に示す問題があることが本発明者らの検討で、最近明らかになった。
・電子写真感光体表面の磨耗量が多く、電子写真感光体の寿命が短い
・電子写真感光体表面に傷が発生し易く、画像上、傷部が表出する
【0045】また、耐久性に関し、別の問題として、先記の装置を用いた場合、耐久での電荷注入性も低下傾向にあることが判明した。これは、電子写真感光体を交換することで電荷注入性が回復してしまうことから、電子写真感光体の耐久性に起因する問題であることがわかっている。
【0046】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、繰り返し使用の耐久においても削れが少なく、傷の入りにくい表面層を有する電子写真感光体を提供することにある。
【0047】本発明の別の目的は、上記電子写真感光体と帯電手段として低印加電圧でオゾンレスが可能で、帯電均一性に優れかつ長期にわたり安定した注入帯電性を有する電子写真装置を提供することにある。」

(1c)「【0114】以下に本発明に係わる、連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物の代表例を挙げるがこれらに限定されるものではない。【0115】(略)
【0116】
(当審注:No.7のみ示す。)

【0117】?【0192】(略)
【0193】
(当審注:No .394のみ示す。)



(1d)「【0319】本発明において連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物は、熱、可視光や紫外線等の光、更に放射線により重合させることができる。従って、本発明における表面層の形成は、表面層用の塗工液に前記連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物と必要によっては重合開始剤を含有させ、塗工液を用いて形成した塗工膜に熱、光又は放射線を照射することによって該連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合させる。なお、本発明においては、その中でも放射線によって該連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合させることが好ましい。放射線による重合の最大の利点は重合開始剤を必要としない点であり、これにより非常に高純度な3次元表面層の作製が可能となり、良好な電子写真特性が確保される点である。また、短時間でかつ効率的な重合反応であるがゆえに生産性も高く、更には放射線の透過性の良さから、厚膜時や添加剤等の遮蔽物質が膜中に存在する際の硬化阻害の影響が非常に小さいこと等が挙げられる。但し、連鎖重合性官能基の種類や中心骨格の種類によっては重合反応が進行しにくい場合があり、その際には影響のない範囲内での重合開始剤の添加は可能である。この際、使用する放射線とは電子線及びγ線であり、特には電子線が好ましい。」

(1e)「【0326】(実施例1)図1は本発明に従う接触帯電手段を具備した電子写真装置の一例の概略構成の模型図である。本例の電子写真装置は、転写方式電子写真プロセス利用、プロセスカートリッジ着脱方式のレーザービームプリンタである。
【0327】(1)プリンタの全体的概略構成
1は像担持体(被帯電体)としての回転ドラム型の電子写真感光体である。本例は直径30mmの負帯電の有機電子写真感光体であり、矢印の時計方向に100mm/secのプロセススピード(周速度)をもって回転駆動される。2は電子写真感光体1に当接させた接触帯電部材としてのロール状の帯電ブラシ(ファーブラシ帯電器)であり、電子写真感光体1と3mm幅の帯電ニップ部nを形成して接し、帯電ニップ部nにおいて電子写真感光体1の回転方向と逆の矢印の時計方向に500rpmで回転駆動される。すなわち、接触帯電部材としての帯電ブラシ2は、電子写真感光体1に周速差を持って接触し電子写真感光体1を摺擦する。そして帯電バイアス印加電源S1から-700VのDC帯電バイアスが印加されていて、回転電子写真感光体1の外周面がほぼ-680Vに一様に注入帯電される。
・・・(中略)・・・
【0336】(2)電子写真感光体
本例の負帯電の有機電子写真感光体は、図2に層構成図を示したように、φ30mmのアルミニウム製のドラム支持体(アルミニウム支持体)11上に下記の第1?第4の4層の機能層12?15を下から順に設けたものである。
【0337】以下に電子写真感光体の機能層の作製方法について詳細に述べる。
【0338】導電層用の塗料を以下の手順で調製した。10質量%の酸化アンチモンを含有する酸化スズで被覆した導電性酸化チタン粉体50部(質量部、以下同様)、フェノール樹脂25部、メチルセロソルブ20部、メタノール5部及びシリコーンオイル(ポリジメチルシロキサンポリオキシアルキレン共重合体、平均分子量3000)0.002部をφ1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間分散して調製した。この塗料を上記アルミニウム支持体上に浸漬塗布方法で塗布し、140℃で30分間乾燥させることによって、膜厚が20μmの導電層を形成した。
【0339】次に、N-メトキシメチル化ナイロン5部をメタノール95部中に溶解し、中間層用塗料を調製した。この塗料を前記の導電層上に浸漬塗布方法によって塗布し、100℃で20分間乾燥させることによって、膜厚が0.6μmの中間層を形成した。
【0340】次に、CuKαの特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2度)が9.0度、14.2度、23.9度及び27.1度に強いピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを3部、ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBM2、積水化学(株)製)2部及びシクロヘキサノン35部をφ1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間分散して、その後に酢酸エチル60部を加えて電荷発生層用塗料を調製した。この塗料を前記の中間層の上に浸漬塗布方法で塗布して、100℃で15分間乾燥させることによって、膜厚が0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0341】次いで、化合物例No.394の正孔輸送性化合物100部とポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ-800、三菱瓦斯化学(株)社製)10部をモノクロロベンゼン330部の溶媒中に溶解して溶液を作製し、この溶液を電荷発生層表面に浸漬塗布し、加速電圧150KV、線量30Mradの条件で電子線を照射することによって、膜厚が15μmの電荷輸送層の硬化膜を形成した。
・・・(中略)・・・
【0350】しかしながら、電子写真感光体の表面と帯電部材との接触が十分に行われる必要が有るため、既に説明したように接触帯電部材として帯電ブラシを用いた場合、帯電ブラシの毛先が図8に示すように分かれ電子写真感光体表面に接触できないところができ、電子写真感光体表面を均一に帯電することができないという問題点があった。
【0351】そこで本例では、図1に示すように被帯電体としての電子写真感光体1の表面に帯電促進粒子mを塗布する装置8を設け、電子写真感光体表面に帯電促進粒子mを10^(2)個/mm^(2)以上塗布することで、上記の接触不良の問題を解決することが可能になった。帯電促進粒子塗布装置8は、粉体粒子を塗布する一般的な手段、例えば塗布ローラ8a上に一度均一に塗布した後、電子写真感光体上に接触又は電界で飛翔させること等により塗布する構成にすることができる。
・・・(中略)・・・
【0374】また、耐久後の電子写真感光体の削れ量と表面粗さに関しても評価を行った。それらの結果を、表4に示す。表中、黒スジレベルはA?Eまでランク分けされており、Cまでが画像評価上の許容レベルである。ゆえにランクB、Cは軽微ではあるが黒スジが認められるレベルとなり、D、Eは注入不良による黒スジ画像欠陥により電子写真感光体寿命となってしまうレベルである。なお、削れ量は、渦電流式膜厚測定器(FISCHER社製、PERMASCOPE TYREE111)を用いて測定した。また、傷はRz値で記載してあり、10000枚耐久後の電子写真感光体表面の任意な場所の、10点平均面粗さの値を示してある。
【0375】本発明の電子写真装置において、先記電子写真感光体を用いることで、10000枚耐久での繰り返し使用時において、注入帯電均一性の悪化はみられず、耐久後ハーフトーン画像上、黒スジの無い良好な画像を得ることができた。また、耐久後の電子写真感光体の削れや表面粗れも非常に小さく、高耐久な電子写真感光体であることも、確認できた。
・・・(中略)・・・
【0388】(実施例3)図7は本例の電子写真装置の概略構成図である。本例の電子写真装置は、上記実施例2のプリンタ(図6)において、接触帯電部材としての帯電ブラシ2を導電性弾性ローラ帯電器2にしたものである。また、帯電促進粒子を帯電部材に供給する手段を配設してある。
【0389】帯電促進粒子供給は本例では規制ブレードで行っており、規制ブレードを帯電ローラ2に当接し、帯電ローラ2と規制ブレードとの間に帯電促進粒子mを貯留・保持させ、帯電促進粒子mを帯電ローラ2面に塗布して供給する構成をとる。」

(1f)「【0409】(実施例7)実施例1と同様に電荷発生層まで形成した。次いで、実施例1の正孔輸送性化合物である化合物例No.394に下記構造式の重合開始剤を1部加え、電荷輸送層用塗工液を作製した。
【0410】
【化195】

【0411】この塗工液を、先記電荷発生層表面に浸漬塗布し、メタルハライドランプを用いて500mW/cm2の光強度で照射し、硬化させることによって、膜厚が15μmの電荷輸送層の硬化膜を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。」

(1g)「【0412】(実施例8)実施例1と同様に電荷発生層まで形成した。次いで、実施例1の正孔輸送性化合物である化合物例No.394に下記構造式の重合開始剤を1部加え、電荷輸送層用塗工液を作製した。
【0413】【化196】

【0414】この塗工液を、先記電荷発生層表面に浸漬塗布し、140℃で1時間熱硬化及び乾燥することによって、膜厚が15μmの電荷輸送層の硬化膜を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。」

(1h)「【0416】(比較例1)実施例1において電荷発生層を形成した後、下記構造式のスチリル化合物を7部、ポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ-800、三菱瓦斯化学(株)社製)10部をモノクロロベンゼン84部/ジクロロベンゼン28部の混合溶媒中に溶解して溶液を作製し、この溶液を電荷発生層表面に浸漬塗布法で塗布して、105℃で1時間熱風乾燥することによって、膜厚が15μmの電荷輸送層を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。
【0417】
【化197】(略)」

(1i)「【0418】(実施例14)比較例1と同様の化合物を用い、膜厚10μmの電荷輸送層まで作製し、更に、この上に第2の電荷輸送層を以下に記載した様にして設けた。化合物例No.394の正孔輸送性化合物10部をプロパノール18部の溶媒中に溶解して第2の電荷輸送層用の塗工液を作製し、この液を先記した、第1の電荷輸送層表面に浸漬塗布し、加速電圧150KV、線量30Mradの条件で電子線を照射し、膜厚2μmの第2の電荷輸送層の硬化膜を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。」

(1j)「【0421】(実施例16)実施例14と同様にして、第1の電荷輸送層を形成した。更に、この上に第2の電荷輸送層を以下に記載した様にして設けた。化合物例No.7の正孔輸送性化合物10部と下記のアクリル樹脂10部をプロパノール20部の溶媒中に溶解して第2の電荷輸送層用の塗工液を作製し、この液を先記した、第1の電荷輸送層表面に浸漬塗布し、加速電圧150KV、線量30Mradの条件で電子線を照射し、膜厚3μmの第2の電荷輸送層の硬化膜を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。
【0422】
【化199】



(1k)「【0430】
【表5】(当審注:【表4】の誤記と認められる。)



これら記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、実施例16を中心に認定した。

「アルミニウム製のドラム支持体上に、少なくとも、電荷発生層、第1の電荷輸送層、第2の電荷輸送層を有する電子写真感光体において、
下記化合物例No.7の正孔輸送性化合物と下記アクリル樹脂を溶媒中に溶解して塗工液を作製し、この塗工液を第1の電荷輸送層表面に浸漬塗布した後、電子線を照射して硬化し、表面層となる第2の電荷輸送層を形成した、
電子写真感光体。

化合物例No.7の正孔輸送性化合物

アクリル樹脂




(2)刊行物2
(2a)「2.特許請求の範囲
導電性支持体上に光導電層を設けた電子写真感光体において、導電性支持体と光導電層の間に樹脂を主成分とする第一の中間層を設け、第一の中間層上に無機顔料と結着剤樹脂とを主成分とし、かつ、無機顔料(P)と結着剤樹脂(R)との比率P/Rが体積比で1/1?3/1の範囲である第二の中間層を設け、更にその上に光導電層を設けたことを特徴とする電子写真感光体。」

(2b)「(従来技術〉
従来帯電性の向上、感光層と基板の接着性の向上、基板欠陥の隠ぺい、モアレ防止等のために、基板と感光層の間に樹脂を主成分とする中間層を設けることが提案されている。このような中間層として、例えば、
(1)樹脂のみの薄い層
(2)樹脂に導電性顔料を分散したもの
(3)樹脂に導電性顔料を分散した層の上に樹脂のみの層を設けたもの
等の提案がある。
しかしながら、(1)、(3)の中間層は樹脂の均一な膜を得るためにある程度の厚さが必要となり、そのため感光体特性に環境依存性が生じ、低湿時に残留電位が上昇し、高湿時に帯電性が低下するという問題があり、(2)の中間層は帯電性が劣り、特に繰り返しの使用で悪くなるという問題があった。
(目的)
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、その目的は、感光体特性の環境依存性が改善され、低湿時の残留電位を小さく抑えることができ、高湿時の帯電性の低下を防ぐことができ、また繰り返しの使用による帯電性の低下を抑制することができ、優れた光感度を発現させることができる電子写真感光体を提供することにある。」(第1頁右下欄第1行?第2頁左上欄第6行)

(2c)「本発明の第一の中間層は、それ単独で完全なバリアー性を持たす必要がなく、第一、第二の中間層で完全なバリアー性を持たせば良いので、非常に薄い膜とすることができる。薄い膜にすることで低湿時の残留電位を小さく押さえることができる。その膜厚は1μm以下で良いが好ましくは0.5μm以下がよい。
第二の中間層に用いる無機顔料は一般に用いられている顔料でよいが可視光及び近赤外光に吸収の殆ど無い白色又はこれに近いものが感光体の高感度化を考えたときに望ましい。
例えば、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、鉛白、リトポン等の白色顔料、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料等であり、特にレーザー光のような可干渉光で、画像の書き込みと行なうレーザープリンター等に用いる感光体の場合は、モアレの発生を防止するために屈折率の大きい白色顔料を用いるほうがよい。
また、第二の中間層の結着剤樹脂としては適宜のものを用いることができるが、その上に感光層を溶剤で塗布することを考え合わせると、一般の有機溶剤に対して耐溶剤性の高い樹脂が望ましい。このような樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂;共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロン等のアルコール可溶性樹脂;ポリウレタン、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の三次元網目構造を形成する硬化型樹脂などが挙げられる。
第二の中間層の膜厚は0.5?30μm程度でよいが好ましくは1?15μmである。」(第2頁左下欄第6行?右下欄第15行)

(2d)「かくして製造された感光体は繰り返し使用に適しており、必要であれば、感光層表面に従来と同様な保護層を設けることが可能である。」(第3頁右上欄第14?16行)

(2e)「実施例1
ポリアミド樹脂(東レ製、アミランCM-8000)5重量部を95重量部のメタノールに溶解し、第一の中間層用塗布液を作成した。これを直径40mm、長さ250mmのアルミニウムドラム表面に浸漬塗布し、120℃で5分間乾燥し、厚さ0.3μmの第一の中間層を設けた。
実施例2
オイルフリーアルキッド樹脂(大日本インキ化学社製ベッコライトH-6401 固形分50重量%)3重量部、メラミン樹脂(大日本インキ化学社製。スーパーベッカミンG-821 固形分60重量%)1重量部をトルエン46重量部に溶解し第一の中間層用塗布液を作成した。これを実施例1と同じアルミニウムドラムに浸漬塗布し、130℃で15分間乾燥し、厚さ0.2μmの第一の中間層を設けた。
比較例1
実施例1と同様の液とアルミニウムドラムを用いて、厚さ1.2μmの第一の中間層を設けた。
比較例2
第一の中間層を設けないが、アルミニウムドラムは実施例1と同様のものを用いた。
次に、オイルフリーアルキッド樹脂(大日本インキ化学社製ベッコライトライトH-6401 固形分50重量%)30重足部、メラミン樹脂(大日本インキ化学社製.スーパーベッカミンG-821 固形分60重量%)10重置部、トルエン80重量部、酸化チタン(富士チタン社製TA-300)88重量部をボールミルで24時間分散し、第二中間層用塗布液を作成してこれを前記実施例1、2、比較例1、2の第一の中間層上に浸漬塗布を行ない130℃で30分間乾燥し、厚さ2μmの第二の中間層を形成した。第二の中間層に用いた樹脂は比重1.4、また、酸化チタンは比重3.9であるため中間層の顔料/樹脂比は体積比で1.5/1となる。
更にポリエステル樹脂(東洋紡績社製)5重量部をシクロへキサノン150重量部に溶解し、これに下記構造式(当審注:構造式は省略)のトリスアゾ顔料10重量部を加え、ボールミルに48時間分散し、更にシクロへキサノン210重量部を加え、3時間分散を行なった。これを容器に取り出し固形分が1.5重量%になるように、攪拌しながらシクロヘキサノンで希釈した。こうして得られた電荷発生層用塗工液を前記中間層上に浸漬塗布し120℃で5分間乾燥を行ない厚さ約0.2μmの電荷発生層を形成した。
次に下記構造式(当審注:構造式は省略)で示される電荷輸送物質8重量部、ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製パンライトK-1300)10重量部、シリコーンオイル(信越化学工業社製KF-50)0.002重量部を塩化メチレン85重量部に溶解し、こうして得られた電荷輸送層用塗布液を前記電荷発生層上に浸漬塗工して塗布し、120℃で15分間乾燥し、厚さ20μmの電荷輸送層を形成し感光体を作成した。
こうして得られた感光体を第1図に示した装置にして感光体特性の測定を行なった。
第1図において、1は帯電器(-20μA)、2は電子写真感光体ドラム(1000ppmで回転)、3は表面電位計、4は露光(20lux)で5のスリット巾は3mmである。
測定は帯電10秒、暗減衰10秒、光減衰15秒の条件で行ない、各測定項目は以下のように定義する。
(1)帯電電位 :帯電10秒後の電位
(2)電位保持率 暗減衰10秒後の電位帯電10秒後の電位
(3)感度 :露光後電位が1/10に低下するのに必要な露光量
(4)残留電位 :露光15秒後の電位また、感光体はレーザープリンター(リコー社製PC LASER-6000)で15万回転の疲労を与える量の画像プリントを行ない、再度感光体特性の測定を行なった。(測定のみ低湿環境下でも行なった。比較例2は低湿で測定せず)結果を表1に示した。
比較例1は低湿時15万回転後の残留電位が大であり、比較例2は帯電性が悪い。

」(第3頁右上欄第17行?第4頁右下欄)

ここで、上記実施例1では、第一の中間層は無機顔料を含まないものである。

これら記載によれば、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「導電性支持体上に光導電層を設けた電子写真感光体において、
導電性支持体と光導電層の間に樹脂を主成分とし無機顔料を含まない第一の中間層を設け、
第一の中間層上に無機顔料と結着剤樹脂とを主成分とし、かつ、無機顔料(P)と結着剤樹脂(R)との比率P/Rが体積比で1/1?3/1の範囲であり、膜厚が1?15μm(実施例1では2μm)である第二の中間層を設け、
更にその上に光導電層を設けた、
電子写真感光体。」

(3)刊行物3
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 導電性基体上に光導電層を設けた電子写真感光体において、導電性基体と光導電層との間に白色顔料と結着剤樹脂を主成分とし、かつ白色顔料と結着剤樹脂の使用割合が容量比で1/1?3/1の範囲にある中間層を設けると共に、導電性基体と該中間層との間に結着剤樹脂による下引き層を設けたことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】 白色顔料が酸化チタン、酸化カルシウム又は弗化カルシウムである請求項1の電子写真感光体。
【請求項3】 下引き層の膜厚が0.03μm以上0.3μm以下である請求項1の電子写真感光体。」

(3b)「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、繰返し使用において耐刷性に優れ、また高感度であり、しかも帯電と露光の繰返し後においても残留電位の小さい電子写真感光体を提供することを目的とする。」

(3c)「【0013】下引き層は結着剤樹脂単層からなり、適宜のものを用いることができる。このような結着剤樹脂としては、ポリアミド、ポリエステル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂例えば、活性水素(-OH基、-NH_(2)基、-NH基等の水素)を複数個含有する化合物とイソシアネート基を複数個含有する化合物及び/又はエポキシ伴を複数個含有する化合物とを熱重合させた熱硬化性樹脂等も使用できる。この場合活性水素を複数個含有する化合物としては、例えばポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ヒドロキシエチルメタアクリレート基等の活性水素を含有するアクリル系樹脂等があげられる。イソシアネート基を複数個含有する化合物としては、たとえば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等とこれらのプレポリマー等があげられ、エポキシ基を複数有する化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等があげられる。
【0014】また、オイルフリーアルキド樹脂とアミノ樹脂例えば、ブチル化メラミン樹脂等を熱重合させた熱硬化性樹脂、さらにまた、不飽和結合を有するポリウレタン、不飽和ポリエステル等の不飽和結合を有する樹脂と、チオキサントン系化合物、メチルベンジルフォルメート等の光重合開始剤との組合せ等の光硬化性樹脂も結着剤樹脂として使用できる。
【0015】また、導電性高分子や、上記樹脂にイオン性樹脂などを加えて下引き層に導電性を持たせてもかまわない。または、アクセプタ性の樹脂などを加えて、基体からの電荷注入を制抑するなどの機能をよく持たせても良い。
【0016】また、下引き層の膜厚は0.01?1μm、好ましくは0.03?3μm程度である。下引き層が厚くなると、帯電と露光の繰返しによって、特に低温低湿で残留電位の上昇が著しく、また、膜厚が薄すぎると接着性の効果がなくなる、また、下引き層に導電性をもたせた場合は0.01?100μm程度である。
【0017】また、下引き層には、必要に応じて硬化(架橋)に必要な薬剤、溶剤、添加剤、硬化促進材等を加えて、常法により、ブレード塗工、浸漬塗工法、スプレーコート、ビートコート、ノズルコート法などにより基体上に形成される。塗布後は乾燥や加熱、光等の硬化処理により乾燥あるいは硬化させる。
【0018】中間層は、少なくとも白色顔料と結着剤樹脂からなり、白色顔料と結着剤との使用割合を容量比で1/1?3/1に規定したものである。白色顔料と結着剤樹脂との容量比が1/1未満では、繰り返し使用後における残留電位の上昇と感度の低下が著しく、また、その容量比が3/1を越えると光導電層に気泡が生じることがあり、このため光導電層の帯電性が低下し複写画像の品質の低下を招来する。
【0019】中間層に用いる白色顔料としては、酸化チタン、フッ化カルシウム、酸化カルシウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等が挙げられ、単独もしくは二種以上を適宜選択して使用することができる。
【0020】結着剤樹脂としては適宜のものを用いることができ、下引き層と同様な結着剤樹脂と同じものが使用できる。ただし、感光層に侵されない様に選択する必要がある。また、中間層の膜厚は0.3?10μm、好ましくは0.5?5μmとするのが適当である。膜厚が0.3μm未満では効果の発現性が小さく、10μmを越えると残留電位の蓄積を生じるので望ましくない。
【0021】白色顔料は溶剤と結着剤樹脂と共に常法により、例えばボールミル、サンドミル、アトライラー等により分散し、また、必要に応じて硬化(架橋)に必要な薬剤、溶剤、添加剤、硬化促進剤等を加えて、常法により、ブレード塗工、浸漬塗工法、スプレーコート、ビートコート、ノズルコート法などにより基体上に形成される。塗布後は乾燥や加熱、光等の硬化処理により乾燥あるいは硬化させる。」

(3d)「【0048】・・・(中略)・・・なお、本発明において、感光層の上にさらに絶縁層や保護層を設けることも可能である。」

(3e)「実施例1
共重合ポリアミド樹脂(商品名:アラミンCM-8000、東レ(株)製)150部をメタノール3395部及びブタノール1455部に溶解させ、下引き層塗工液とした。この下引き層塗工液を電気メッキにより作成された直径146mm、長さ340mm、厚さ約30μmのニッケルシリンダー上に浸漬塗工し、110℃、10分間加熱乾燥して長さ0.1μmの下引き層を形成した。
【0050】次に15cmφの硬質ガラスポットに容積の1/2量の1cmアルミナ焼結ボールと酸化チタン(CR-EL、石原産業(株)製)の微粉414grと固形分濃度50重量%のオイルフリーアルキド樹脂(ベッコライトM6401-50、大日本インキ化学(株)製)を83grと固形分濃度60重量%のブチル化メラミン樹脂(スーパーベッカミンG821-60、大日本インキ化学(株)製)を48grおよびメチルエチルケトン345grとを入れて24時間ミリングし、その後メチルエチルケトン80grで希釈し、50重量%の中間層塗工液とした。これを5ポット分用意した。なお、中間層に用いた樹脂の比重は1.4、また酸化チタンの比重は4.2であるから、中間層の酸化チタン/樹脂は容量比で2/1となる。上記中間層塗工液を前記下引き層上に浸漬塗工し、130℃、20分間乾燥硬化して厚さ2μmの中間層を形成した。
【0051】次に下記構造式化1(当審注:構造式は省略)のジスアゾ顔料13.8部
とポリビニルブチラール(商品名:XYHL、ユニオンカーバイドプラスチック(株))1.38部及びメチルエチルケトン276部をボールミルで120時間分散し、希釈液として、シクロヘキサノン414部とメチルエチルケトン690部をこの分散液に加えて電荷発生層用塗工液とした。これを5ポット分用意した。この塗工液を上記中間層上に浸漬塗工し、120℃、20分間加熱乾燥して膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
【0052】
前記、電荷発生層上に下記構造式化2(当審注:構造式は省略)の化合物 450部
ポリカーボネート樹脂(パンライトC-1400帝人化学(株)製)500部
シリコーンオイル(KF-50、信越シリコーン(株)製) 0.1部
塩化メチレン 4325部
よりなる電荷輸送層塗工液を浸漬塗工し、130℃、20分間乾燥して膜厚20μmの電荷輸送層を形成し、実施例1の電子写真感光体を作成した。
【0053】実施例2(略)
【0056】実施例3(略)
【0059】実施例4(略)
【0061】実施例5(略)
【0064】比較例1
実施例1において、中間層を設けなかった以外は実施例1と同様にして比較例1の電子写真感光体を作成した。
【0065】比較例2
実施例1において、中間層を設けず、下引き層の厚さを1.5μmにした以外は実施例1と同様にして比較例2の電子写真感光体を作成した。
【0066】比較例3
実施例1において、下引き層を設けなかった以外は実施例1と同様にして比較例3の電子写真感光体を作成した。
【0067】以上の様にして作成した各電子写真感光体を静電複写紙試験装置(川口電機製作所SP-428)を用いて、-6KVのコロナ放電を20秒間行なって帯電させて、帯電開始2秒後の表面電位(V_(2))を測定した。また、帯電終了後、20秒間暗所にて減衰させ、電位保持率(Vk)(=暗減衰20秒後の電位/帯電20秒後の電位)を求めた。また、20秒間の暗減衰終了後、色温度2856°kのタングステンランプを150lux・sec照射した後の表面電位Vr(残留電位)を測定した。次に再び-800Vの表面電位まで帯電させた後、前記タングステンランプで5luxで露光して表面電位が-400Vに減衰するに必要な露光量Sを測定した。この測定を22℃/50%と10℃/15%の環境で行った。
【0068】さらに低温低湿下(10℃/15%)における繰り返し疲労特性を知る為に上記装置で、感光体にタングステンランプで45luxの光を当て、さらに感光体に流れる電流が-9.6μAになる様に印加電圧で調節しながら、帯電と露光とを交互に10分間繰り返した疲労後の特性を前記と同様にして測定した。また、感光層と基体との接着性を評価するために、各電子写真感光体をFT2070〔(株)リコー製〕を改造したベルト搬送試験機で50万回転後の感光体の外観を観察した。これらの結果を表2に示す。
【表2】



上記実施例1では、下引き層塗工液に無機顔料を含まないものである。

これら記載によれば、刊行物3には次の発明(以下、「刊行物3記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「導電性基体上に光導電層を設けた電子写真感光体において、
導電性基体と光導電層との間に、白色顔料と結着剤樹脂を主成分とし、かつ白色顔料と結着剤樹脂の使用割合が容量比で1/1?3/1の範囲にあり、中間層の膜厚は0.3?10μm(実施例1では2μm)である中間層を設けると共に、
導電性基体と該中間層との間に、無機顔料を含まず結着剤樹脂による下引き層を設けた、
電子写真感光体。」


4.対比・判断
本願発明1と刊行物2,3記載の発明とを対比する。

まず、刊行物2記載の発明の、
「光導電層」、
「樹脂を主成分とし無機顔料を含まない第一の中間層」、
第一の中間層上で、光導電層下に設けられた「無機顔料と結着剤樹脂とを主成分とし、かつ、無機顔料(P)と結着剤樹脂(R)との比率P/Rが体積比で1/1?3/1の範囲であり、膜厚が1?15μm(実施例1では2μm)である第二の中間層」
は、
それぞれ、本願発明1の、
「感光層」、
導電性支持体上に直接形成された「無機顔料を含有していない層」、
無機顔料を含有していない層の上に積層された、膜厚が1?10μmである「無機顔料を含有している層」
に相当する。

次に、刊行物3記載の発明の、
「導電性基体」、
「光導電層」、
「白色顔料と結着剤樹脂を主成分とし、かつ白色顔料と結着剤樹脂の使用割合が容量比で1/1?3/1の範囲にあり、中間層の膜厚は0.3?10μm(実施例1では2μm)である中間層」、
導電性基体と中間層との間に設けられた「無機顔料を含まず結着剤樹脂による下引き層」、
は、
それぞれ、本願発明1の、
「導電性支持体」、
「感光層」、
無機顔料を含有していない層の上に積層された、膜厚が1?10μmである「無機顔料を含有している層」、
導電性支持体上に直接形成された「無機顔料を含有していない層」、
に相当する。

そうすると、本願発明1と刊行物2記載の発明との一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「導電性支持体上に少なくとも下引き層、感光層を順次積層した電子写真感光体において、該下引き層は無機顔料を含有している層と無機顔料を含有していない層の少なくとも2層からなり、無機顔料を含有していない層が、導電性支持体上に直接形成され、その上に無機顔料を含有する層が積層されており、前記無機顔料を含有している層の膜厚が、1?10μmである、電子写真感光体。」

[相違点]
本願発明1は、感光層の上に架橋型電荷輸送層が積層され、該架橋型電荷輸送層が少なくとも電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーと1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物とを硬化することにより形成されるのに対して、
刊行物2記載の発明は、感光層の上に架橋型電荷輸送層が積層されるものでない点。

また、本願発明1と刊行物3記載の発明との一致点、相違点も、上記と同じである。

(相違点の検討)
そこで、相違点について検討する。

刊行物2,3には、感光層表面に保護層を設けることが可能であることが記載されている。
そして、一般に、電子写真感光体の保護層(表面層)として、繰り返し使用の耐久においても削れが少なく、傷の入りにくいものが、望ましいことは、周知の課題であるから、公知の保護層の中から、その一般的な課題に対応したものを選択することは、当業者が適宜なし得ることである。

ここで、刊行物1をみると、
「アルミニウム製のドラム支持体上に、少なくとも、電荷発生層、第1の電荷輸送層、第2の電荷輸送層を有する電子写真感光体において、
下記化合物例No.7の正孔輸送性化合物と下記アクリル樹脂を溶媒中に溶解して塗工液を作製し、この塗工液を第1の電荷輸送層表面に浸漬塗布した後、電子線を照射して硬化し、表面層となる第2の電荷輸送層を形成した、
電子写真感光体。

化合物例No.7の正孔輸送性化合物

アクリル樹脂


という刊行物1記載の発明が記載されている。

上記「化合物例No.7の正孔輸送性化合物」は、本願発明1の「1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物」に相当し、上記「アクリル樹脂」は、本願発明1の「電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー」に相当するから、
刊行物1記載の発明は、「感光層の上に架橋型電荷輸送層が積層され、該架橋型電荷輸送層が少なくとも電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーと1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物とを硬化することにより形成される」ものを有している。
そして、刊行物1記載の発明の「架橋型電荷輸送層」(第2の電荷輸送層)は、感光体表面と接触帯電部材との間に帯電促進粒子を介在させた状態(これは感光体に対する機械的ストレスが高く、感光体表面の摩耗や傷つきが発生しやすい条件である)で評価したところ、繰り返し使用の耐久においても削れが少なく、傷の入りにくいものであることが明らかにされている(刊行物1の表4を参照)。

そうすると、一般に、繰り返し使用の耐久においても削れが少なく、傷の入りにくい保護層が望ましいと考える当業者が、刊行物1記載の発明に接したときに、刊行物1記載の発明で用いる「表面層となる第2の電荷輸送層」を、刊行物2,3記載の発明の保護層として応用してみようと考えることに、発想の飛躍は特にないものである。
そして、その際、当業者であれば、繰り返し使用の耐久においても削れが少なく、傷の入りにくい保護層に着目するから、保護層の耐久性に影響及ぼすことが少ないとみられる、刊行物1で使用される導電層や中間層の構成については、刊行物2,3記載の発明における中間層とは構成が異なるものであるとしても、当業者は参考にしないといえるので、刊行物1記載の発明の「表面層となる第2の電荷輸送層」を、刊行物2,3記載の発明の保護層として応用してみることを阻害するような要因はないというべきである。

(効果について)
本願発明1によってもたらされる効果について、本願の実施例、比較例をみつつ、検討する。

まず、本願の比較例1?4,12?14は、下引き層の構成が本願発明1と異なるものであるところ、表面観察・溶解試験の結果は良好であり、これは、本願発明1と共通する架橋型電荷輸送層(表面層)を有しているためと考えられ、さらに、画像評価では、モアレ発生、地汚れ、画像濃度低下がみられる。これに対して、本願発明1の「下引き層は無機顔料を含有している層と無機顔料を含有していない層(支持体に直接形成)の少なくとも2層からなる」ところ、本願の明細書では、次のように説明されている。
「【0046】
次に、下引き層について述べる。本発明における下引き層は、無機顔料を含有していない層と無機顔料を含有している層の少なくとも2層の下引き層が積層された構成となっている。下引き層の役割は、感光体の帯電時に導電性支持体に誘起される逆極性の電荷の注入を抑制したり、モアレを防止したり、素管の欠陥を隠蔽したり、感光層の接着性を高めるなど多くの役割を有している。通常の下引き層が一層の場合には、導電性支持体からの電荷注入を抑制すると残留電位が上昇する傾向を示し、逆に残留電位を低減させようとすると地汚れは悪化する。このようなトレードオフの関係を複数の下引き層を形成することによって機能分離した結果、残留電位に大きな影響を与えずに地汚れ抑制効果が顕著に向上できる。
【0047】
まず、本発明の下引き層のうち、導電性支持体からの電荷注入の抑制を主目的とする無機顔料を含有しない下引き層について説明する。・・・(中略)・・・
【0058】
次に、本発明の下引き層のうち、無機顔料を含有する下引き層について説明する。無機顔料を含有する下引き層は、主にモアレ防止を目的とするが、導電性支持体からの電荷注入防止や疲労による残留電位上昇や暗減衰の低減、並びに感光層との接着性を高める機能をも有する。」
ここで、「導電性支持体からの電荷注入の抑制」は、地汚れ発生を抑制するものであり(本願明細書【0004】参照)、残留電位の上昇は、画像濃度低下や階調性の低下を引き起こすものである(同【0005】参照)。
したがって、比較例1?4,12?14の画像評価が劣るのは、実施例との対比から、下引き層が本願発明1の構成をとっていないことが原因である。
一方、刊行物2,3記載の発明は、本願発明1と同様の下引き層を有しており、繰り返し使用後でも残留電位が小さく帯電電位や感度等も良好という評価がされているから、当然、本願発明1の下引き層と同等の効果をもたらすものである。

次に、本願の比較例5?10は、表面層が、本願発明1の「架橋型電荷輸送層」の構成と異なるものであり、そのうち、比較例5,7,8,10は、表面観察・溶解試験の段階で、既にクラックや膜剥がれが観察されたり、有機溶剤に溶解するもので、そして、比較例5?10の画像評価は、初期は良好かやや悪い程度であるが、10万枚印刷後は全て悪化するものであり、比較例5?10の画像悪化は全般に摩耗量が大きいことに起因するものである。これに対し、本願発明1は、耐摩耗性の高い「架橋型電荷輸送層」を有しているために、摩耗が小さく、画像悪化が抑制されるものといえる。
しかし、一般に感光体が摩耗すると、感光体の性能低下(例えば、キズ等による不均一な帯電による白筋や黒筋の発生、暗部電位低下や明部電位上昇による地肌汚れの発生などの画像悪化)を引き起こすことは周知のことであるから、比較例5?10のものが、本願発明1の下引き層の構成を有していても、多数枚印刷後には、当該下引き層の構成による画像品質維持の効果を相殺してしまうことは十分に予測されることである。

したがって、本願発明1によってもたらされる効果は、刊行物1?3に記載された事項や技術常識から当業者が予測し得るものである。また、上記(相違点の検討)で示したように、構成の容易想到性が論理付けられる以上、格別の効果ということもできない。

(請求人の主張について)
審判請求人は、審判請求書や回答書において、刊行物1記載の実施例は、2種の下引き層の順序が、刊行物2,3記載のものと逆であり、刊行物1の実施例の「架橋型電荷輸送層」だけを、刊行物2,3記載のものに適用することは、困難である旨を主張する。
しかし、刊行物1は、下引き層(導電層、中間層)に着目した発明ではなく、「繰り返し使用の耐久においても削れが少なく、傷の入りにくい表面層を有する電子写真感光体を提供すること」を目的とした発明である(【0046】)ので、刊行物1に接した当業者は、下引き層(導電層、中間層)の構成が重要な要素であるとは普通考えないものであり、当業者が着目するのは、「繰り返し使用の耐久においても削れが少なく、傷の入りにくい表面層」であることは明らかである。
したがって、刊行物1の実施例16で示される表面層(架橋型電荷輸送層)の構成を取り出して、刊行物2,3に記載のものに適用することに、阻害要因はなく、上記のとおり組み合わせ容易性が論理付けられるものである。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

(まとめ)
したがって、本願発明1は、刊行物1?3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-28 
結審通知日 2010-10-29 
審決日 2010-11-17 
出願番号 特願2004-330043(P2004-330043)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁科 努  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
磯貝 香苗
発明の名称 電子写真感光体、画像形成方法、画像形成装置、画像形成装置用プロセスカートリッジ  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 酒井 正己  

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