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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16B
管理番号 1229782
審判番号 不服2009-23189  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-26 
確定日 2011-01-04 
事件の表示 特願2000-394382「合成枕木用埋込栓および同埋込栓が埋め込まれてなる合成枕木」拒絶査定不服審判事件〔平成14年7月10日出願公開、特開2002-195232〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年12月26日の出願であって、その請求項1?3に係る発明は特許を受けることができないとして、平成21年8月21日付けで拒絶査定がされたところ、平成21年11月26日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年6月22日付け、及び平成22年7月26日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められる。なお、平成21年11月26日付けの手続補正は、当審において平成22年6月1日付けで決定をもって却下された。
「【請求項1】
ガラス長繊維強化プラスチックで形成されている合成枕木本体に穿設された埋込穴に接着剤を介して埋め込まれる埋込栓であって、
円柱状に形成され、長手方向の一端面から他端に向かってネジ穴が穿設された有底形状であり、
埋め込み時に前記接着剤の硬化層内に入り込む螺旋状の凸部および接着剤の硬化層に一部が入り込む螺旋状の凹部の少なくともいずれかをその外周面に有し、少なくとも前記埋込穴開口端側の端部外周壁面が埋込穴の内壁面にほぼ接する大きさに形成されているとともに、埋め込み時に余剰接着剤および接着剤中の空気を埋込穴の開口方向に逃がす複数の凹溝状部がその外周面に、前記螺旋状の凸部または凹部を軸方向に横切るようにして形成され、かつ、埋込穴開口端側が他の部分より大径に形成されていることを特徴とする埋込栓。」

2.本願の出願前に日本国内において頒布され、当審において平成22年6月1日付けで通知した拒絶理由に引用された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開昭64-1801号公報
(2)刊行物2:特開平7-18602号公報
(3)刊行物3:特開2000-129604号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「電気絶縁特性を有する固定素子」に関して、図面(特に、Fig.1?3を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明は、硬化性物質を用いて受け物質内に係止可能な固定素子に関し、特に結合ねじを有する金属製コア片を具え、該コア片が、固定素子の係止状態で受け物質内に位置する領域で、非導電性合成物質よりなる絶縁カバーを支持する固定素子に係るものである。
上述の構成を有する固定素子は、主として鉄道建設において、電流を導通させるレールを例えばコンクリート製の基盤上に固定するために用いる。その固定に際しては、先ず硬化性物質を、予め混合状態で又は破壊させうるカートリッジにおける独立した室内に各成分を収めた状態で受け孔内に導入し、引続いて固定素子を通常は回転させながら受け孔内に挿入する。固定素子の挿入に際して硬化性物質の成分の混合及び/又は受け孔の内面に沿う均等分配が行われる。なお固定素子は、装着方向側の前端面が受け孔底部に接触するまで深く受け孔内に挿入する。」(第2頁左上欄第3?20行)
(b)「第1図?第3図に示す固定素子は、ねじスリーブとして形成されたコア片lと、このコア片を包囲する非導電性合成物質の絶縁カバー2とを具えている。ねじスリーブ1は、装着方向から見て前端部1aおよび後端部1bを有する。ねじスリーブ1の後端部1bからは、前端部1aに向けて雌ねじ1cを延在させる。絶縁カバー2も装着方向から見て前端部2aおよび後端部2bを有する。絶縁カバー2の外面には矢羽形状のプロフィル部分2cを形成する。絶縁カバー2の前端部2aは、四角錐形状の先端部分2dとして形成する。ねじスリーブ1および絶縁カバー2を具える固定素子は、第3図に示すように、受け物質3内に形成した受け孔3a内に導入する。受け孔3a内には、固定素子の導入に先立って硬化性物質4を導入しておく。この硬化性物質4は、固定素子を受け物質3内に係止するために用いるものである。固定素子は、先端部分2dが受け孔底部3bと接触するまで受け物質3内に導入する。絶縁カバー2の先端部分2dの頂角Aは、受け孔底部3bの頂角Bより小さく設定する。したがって固定素子は、常に受け孔3aの中央部で受け物質3に対し軸線方向に接触する。すなわち、絶縁カバー2の周辺領域と受け孔底部3bとの接触が阻止され、固定素子を回転して挿入する際の絶縁カバー2の破壊が防止されるものである。
硬化性物質4の硬化後に押えボルト5を、固定すべき構造部材6に通して、ねじスリーブ1における雌ねじlcに締結する。押えボルト5は、六角頭部5a並びに所要の長さのねじ部分が形成されたシャンク5bを有する。押えボルト5の頭部5aと構造部材6との間には座金7を配置する。押えボルト5の締結により、構造部材6を受け物質3に対して押圧することができる。絶縁カバー2のプロフィル部分2cは、硬化性物質4と一体的に結合する。したがって受け孔3a内では硬化性物質4と受け物質3との接着結合が行われる。」(第3頁左上欄第19行?左下欄第15行)
(c)Fig.1及び3から、固定素子の前端部2a側において、埋め込み時に硬化性物質4の硬化層内に入り込む矢羽形状の絶縁カバー2のプロフィル部分2cの凸部の構成が、また、固定素子の後端部2b側において、硬化性物質4の硬化層に一部が入り込む矢羽形状の絶縁カバー2のプロフィル部分2cの凹部の構成が看取できる。また、Fig.1及び3から、固定素子の受け孔3a開口端側が他の部分より大径に形成されるとともに、大径の部分が徐々に縮径する円錐台状テーパー面を介して他の部分と連続している構成が看取できる。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
【引用発明】
受け物質3に穿設された受け孔3aに硬化性物質4を介して埋め込まれる固定素子であって、
円柱状に形成され、長手方向の一端面から他端に向かって雌ねじ1cが穿設された有底形状であり、
埋め込み時に前記硬化性物質4の硬化層内に入り込む矢羽形状の絶縁カバー2のプロフィル部分2cの凸部および硬化性物質4の硬化層に一部が入り込む矢羽形状の絶縁カバー2のプロフィル部分2cの凹部の少なくともいずれかをその外周面に有し、少なくとも前記受け孔3a開口端側の端部外周壁面が受け孔3aの内壁面にほぼ接する大きさに形成されているとともに、受け孔3a開口端側が他の部分より大径に形成されている固定素子。

(刊行物2)
刊行物2には、「埋込栓」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(d)「この発明は、例えば枕木の孔に埋め込まれ、ネジ釘等を取着するのに用いられる埋込栓に関する。」(第2頁第1欄第6?8行、段落【0001】参照)
(e)「これらの埋込栓は、枕木にあけられた穴、犬くぎ等の穴跡にエポキシ系接着剤等の反応型接着剤によって固着されるが、埋込栓を打ち込む際、接着剤液にエアーが巻き込まれたり、穴内のエアーが残ったりし易い。このように、エアーが巻き込まれたり、残ったりすると、埋込栓の打ち込みに大きな力を必要としたり、打ち込み後、接着剤が硬化するまでの間に、エアーのために埋込栓が浮き上がってしまうという問題があった。また、エアーが接着剤中に残ると接合力が低下してしまうという問題があった。」(第2頁第1欄第17?26行、段落【0003】参照)
(f)「上記軸方向の溝は複数条設けることができる。筒状体の埋込栓は、通常内面にネジ釘がねじ込まれための雌ねじが刻設されるが、外面にリング状もしくはらせん状の溝が刻設されていてもよい。外周面の溝は接着剤との密着性が向上し埋込栓の回り止めに寄与するので好ましい。」(第2頁第1欄第43?48行、段落【0007】参照)
(g)「図1は、以前にあけられた犬くぎ等の跡を埋めるための棒状の埋込栓の実施例の斜視図であり、図1(イ)は丸棒状の埋込栓、図1(ロ)は丸棒状の埋込栓を示している。図1において、1a、1bは埋込栓本体であり、ガラス長繊維強化硬質ウレタン樹脂発泡体からなる合成木材を素材としている。埋込栓本体1a、1bの外周には、いずれもその軸方向の溝2a、2bがその全長にわたって刻設されている。この溝2a、2bは2条以上刻設されていてもよい。
図2は、レール固定用ネジ釘等をねじ込むため、内面に雌ねじを刻設した筒状の埋込栓の実施例の斜視図である。図2において、1cは筒状の埋込栓本体であり、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、FRPなどのプラスチック等から製せられている。埋込栓本体1cの内面には、ネジ釘が螺合するための雌ねじ3が刻設されている。また、外周には、螺旋状の溝4が刻設されると共に、軸方向にも溝2cがその全長にわたって刻設されている。この溝2cは2条以上刻設されていてもよいことは上記の棒状の埋込栓と同様である。
次に、図2に示した埋込栓の使用態様を説明する。
図3に示すとおり、枕木5の所定個所にあけられた穴6に反応型エポキシ系接着剤7を介して埋込栓本体1cを埋め込む。この時、反応型エポキシ系接着剤7中のエアーは溝2cを通って上方に抜けるのでエアーの巻き込み、エアー残りがなく、接着剤7が硬化して埋込栓本体1cは枕木5に固着されるのである。」(第2頁第2欄第11?37行、段落【0011】?【0014】参照)
(h)「この発明の埋込栓においては、軸方向に刻設された溝により、エアーが残ったり、巻き込まれることがなくなるので、埋込栓の打ち込みに大きな力を必要とせず、接着剤が硬化するまでの間に埋込栓が浮き上がることがない。また、接合力が低下することがなくなり強固に枕木等に固着することができる。」(第2頁第2欄第39?45行、段落【0015】参照)

(刊行物3)
刊行物3には、「合成まくらぎ」に関して、図面(特に、図1?3を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(i)「本発明は、鉄道用のまくらぎに関し、特に母材樹脂をその長手方向に沿って延在する長繊維により強化してなる繊維強化樹脂により形成された合成まくらぎに関するものである。」(第2頁第1欄第26?29行、段落【0001】参照)
(j)「本発明では、母材樹脂をその長手方向に沿って延在するガラス長繊維により強化してなる繊維強化樹脂により形成された合成まくらぎのレール及びレール固定用のくぎと干渉しない部分は、ガラス長繊維に代えて強化用金属細線により強化した。また、ガラス長繊維を、母材樹脂よりも強化繊維同士を結合し易いバインダ樹脂により複数束ねて母材樹脂中に分散させると良い。」(第2頁第2欄第26?32行、段落【0008】参照)
(k)「図1は本発明が適用された合成まくらぎの斜視図であり、図2(a)はそのII-II線について見た拡大断面図である。この合成まくらぎは母材樹脂を硬質発泡ウレタン樹脂1とし、その内部に長手方向に延在するように概ね1800?200本の強化繊維の束2及び/または金属細線5が分散している。この強化繊維の束2は、図3に示すように、ガラス長繊維からなる多数のフィラメント3をバインダ樹脂としての不飽和ポリエステル樹脂4でバインドし、直径2mm程度の円柱状にしたものである。」(第3頁第3欄第13?22行、段落【0013】参照)

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「受け物質3」は本願発明の「合成枕木本体」に相当し、以下同様にして、「受け孔3a」は「埋込穴」に、「硬化性物質4」は「接着剤」に、「固定素子」は「埋込栓」に、「雌ねじ1c」は「ネジ穴」に、「絶縁カバー2のプロフィル部分2cの凸部」は「凸部」に、「絶縁カバー2のプロフィル部分2cの凹部」は「凹部」に、それぞれ相当するので、両者は下記の一致点、及び相違点1?3を有する。
<一致点>
合成枕木本体に穿設された埋込穴に接着剤を介して埋め込まれる埋込栓であって、
円柱状に形成され、長手方向の一端面から他端に向かってネジ穴が穿設された有底形状であり、
埋め込み時に前記接着剤の硬化層内に入り込む凸部および接着剤の硬化層に一部が入り込む凹部の少なくともいずれかをその外周面に有し、少なくとも前記埋込穴開口端側の端部外周壁面が埋込穴の内壁面にほぼ接する大きさに形成されている埋込栓。
(相違点1)
前記合成枕木本体に関し、本願発明は、「ガラス長繊維強化プラスチックで形成されている」のに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。
(相違点2)
前記凸部及び凹部に関し、本願発明は、「螺旋状」であるのに対し、引用発明は、矢羽形状である点。
(相違点3)
本願発明は、「埋め込み時に余剰接着剤および接着剤中の空気を埋込穴の開口方向に逃がす複数の凹溝状部がその外周面に前記螺旋状の凸部または螺旋状の凹部を軸方向に横切るようにして形成され」ているのに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。
そこで、上記相違点1?3について検討をする。
(相違点1について)
合成枕木をガラス長繊維強化プラスチックで形成することは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物3には、「本発明では、母材樹脂をその長手方向に沿って延在するガラス長繊維により強化してなる繊維強化樹脂により形成された合成まくらぎのレール及びレール固定用のくぎと干渉しない部分は、ガラス長繊維に代えて強化用金属細線により強化した。また、ガラス長繊維を、母材樹脂よりも強化繊維同士を結合し易いバインダ樹脂により複数束ねて母材樹脂中に分散させると良い。」[上記摘記事項(j)を参照]、及び「この合成まくらぎは母材樹脂を硬質発泡ウレタン樹脂1とし、その内部に長手方向に延在するように概ね1800?200本の強化繊維の束2及び/または金属細線5が分散している。この強化繊維の束2は、図3に示すように、ガラス長繊維からなる多数のフィラメント3をバインダ樹脂としての不飽和ポリエステル樹脂4でバインドし、直径2mm程度の円柱状にしたものである。」[上記摘記事項(k)を参照]と記載されている。)にすぎない。
してみれば、引用発明の合成枕木に、上記従来周知の技術手段を適用して、ガラス長繊維強化プラスチックで形成されている合成枕木とすることにより、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともに埋込栓に関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「筒状体の埋込栓は、・・・外面にリング状もしくはらせん状の溝が刻設されていてもよい。外周面の溝は接着剤との密着性が向上し埋込栓の回り止めに寄与するので好ましい。」(上記摘記事項(f)参照)、及び「埋込栓本体1cの・・・外周には、螺旋状の溝4が刻設される」(上記摘記事項(g)参照)と記載されている。
してみれば、引用発明における固定素子の「矢羽形状の絶縁カバー2のプロフィル部分2cの凸部」及び「矢羽形状の絶縁カバー2のプロフィル部分2cの凹部」の形状を、刊行物2に記載された螺旋状の溝を刻設した形状とすることにより、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点3について)
引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともに埋込栓に関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「埋込栓本体1a、1bの外周には、いずれもその軸方向の溝2a、2bがその全長にわたって刻設されている。この溝2a、2bは2条以上刻設されていてもよい。・・・外周には、螺旋状の溝4が刻設されると共に、軸方向にも溝2cがその全長にわたって刻設されている。この溝2cは2条以上刻設されていてもよいことは上記の棒状の埋込栓と同様である。・・・反応型エポキシ系接着剤7中のエアーは溝2cを通って上方に抜けるのでエアーの巻き込み、エアー残りがなく、接着剤7が硬化して埋込栓本体1cは枕木5に固着されるのである。」(上記摘記事項(g)参照)、及び「この発明の埋込栓においては、軸方向に刻設された溝により、エアーが残ったり、巻き込まれることがなくなるので、埋込栓の打ち込みに大きな力を必要とせず、接着剤が硬化するまでの間に埋込栓が浮き上がることがない。また、接合力が低下することがなくなり強固に枕木等に固着することができる。」(上記摘記事項(h)参照)と記載されている。
上記記載からみて、刊行物2には、埋め込み時に余剰接着剤および接着剤中の空気を埋込穴の開口方向に逃がす複数の凹溝状部を埋込栓の外周面に螺旋状の凸部または螺旋状の凹部を軸方向に横切るように形成していることが記載又は示唆されている。
一方、刊行物1の「ねじスリーブ1および絶縁カバー2を具える固定素子は、第3図に示すように、受け物質3内に形成した受け孔3a内に導入する。受け孔3a内には、固定素子の導入に先立って硬化性物質4を導入しておく。この硬化性物質4は、固定素子を受け物質3内に係止するために用いるものである。固定素子は、先端部分2dが受け孔底部3bと接触するまで受け物質3内に導入する。」(上記摘記事項(b)参照)の記載からみて、硬化性物質4を受け孔3a内に多めに入れた場合には、引用発明においても、埋め込み時に余剰の硬化性物質4(余剰接着剤)は、受け孔3a(埋込穴)の開口方向に逃げるものと推察されるし、また、刊行物2の「埋込栓は、枕木にあけられた穴、犬くぎ等の穴跡にエポキシ系接着剤等の反応型接着剤によって固着されるが、埋込栓を打ち込む際、接着剤液にエアーが巻き込まれたり、穴内のエアーが残ったりし易い。このように、エアーが巻き込まれたり、残ったりすると、埋込栓の打ち込みに大きな力を必要としたり、打ち込み後、接着剤が硬化するまでの間に、エアーのために埋込栓が浮き上がってしまうという問題があった。また、エアーが接着剤中に残ると接合力が低下してしまうという問題があった。」(上記摘記事項(e)参照)の記載からみて、引用発明においても、埋め込み時に硬化性物質4(接着剤)中の空気を受け孔3a(埋込穴)の開口方向に逃がそうとする技術的課題(動機付け)があることは技術的に自明の事項である。
してみれば、引用発明における固定素子(埋込栓)の外周面に、上記(相違点2について)における判断の前提下において、刊行物2に記載又は示唆された複数の凹溝状部を埋込栓の外周面に螺旋状の凸部または螺旋状の凹部を軸方向に横切るようにして形成し、埋め込み時に余剰接着剤および接着剤中の空気を埋込穴の開口方向に逃がすようにして、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

また、本願発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2に記載された発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、当審における拒絶理由に対する平成22年7月26日付けの意見書において、「刊行物2と刊行物1とは、孔に埋め込んで接着剤で固定する点で共通していますが、上述のように、刊行物1には溝をスリーブに設けて残存空気等を上方に逃がすという技術的思想がなく、刊行物1のスリーブの外周面に溝を設けて残存空気等を上方に逃がすことの記載はおろか示唆も全くありません。従って、当業者といえども、刊行物2を刊行物1に適用したとしても、本願の請求項1に係る発明に想到することはできません。」(「(3)本願と刊行物との対比」の項を参照)と主張している。
しかしながら、上述したように、引用発明においても、埋め込み時に余剰の硬化性物質4(余剰接着剤)は、受け孔3a(埋込穴)の開口方向に逃げるものと推察されるし、また、刊行物2の記載からみて、引用発明には、埋め込み時に硬化性物質4(接着剤)中の空気を受け孔3a(埋込穴)の開口方向に逃がそうとする技術的課題(動機付け)があることは技術的に自明の事項であるし、上記(相違点1について)?(相違点3において)において述べたように、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるところ、本願発明が奏する作用効果は、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の作用効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

4.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-17 
結審通知日 2010-08-25 
審決日 2010-11-16 
出願番号 特願2000-394382(P2000-394382)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 立花 啓小野田 達志  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 藤村 聖子
常盤 務
発明の名称 合成枕木用埋込栓および同埋込栓が埋め込まれてなる合成枕木  

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