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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1229819
審判番号 不服2008-19315  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-30 
確定日 2011-01-06 
事件の表示 特願2002-159394「結晶質薄膜の形成方法、結晶質薄膜の製造装置、薄膜トランジスタ、および光電変換素子」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月 8日出願公開、特開2004- 6487〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年5月31日の出願であって、平成19年8月31日付けの拒絶理由通知に対して、同年11月1日に手続補正書及び意見書が提出されたが、平成20年6月25日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年7月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月28日に手続補正書が提出され、その後、平成22年6月11日付けで審尋がなされたものの、それに対する回答はなされなかったものである。


2.補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成20年8月28日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成20年8月28日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?7を補正後の特許請求の範囲の請求項1?6に補正するものであり、補正後の請求項1は以下のとおりである。
「【請求項1】 基板上に非晶質膜を形成し、前記非晶質膜を形成したあと大気に晒すことなく、前記非晶質膜に向けてレーザを照射して前記非晶質膜を結晶化することによって、前記基板上に結晶質の第1の薄膜を膜厚T_(1)で形成する工程と、
前記第1の薄膜を形成する工程のあと大気に晒すことなく、前記第1の薄膜上に、非晶質の第2の薄膜を膜厚T_(2)で形成する工程と、
膜厚がT_(2)で、かつ前記第2の薄膜と同一材質の膜にレーザを照射し結晶化するときのエネルギ密度と結晶粒径との関係において、エネルギ密度の増加に対して結晶粒径の減少がほぼ飽和するエネルギ密度をE_(c)とし、膜厚がT_(1)+T_(2)で、かつ前記第2の薄膜と同一材質の膜にレーザを照射し結晶化するときのエネルギ密度と結晶粒径との関係において、結晶粒径が最大となるエネルギ密度をE_(d)とするとき、前記第2の薄膜を形成する工程のあと大気に晒すことなく、E_(c)≦E≦E_(d)の関係を満たすエネルギ密度Eで、前記第2の薄膜に向けてレーザを照射する工程とを備え、
前記第1の薄膜の非溶融部を結晶核として、前記第1および第2の薄膜における溶融部を結晶成長させることにより、膜厚方向を横切る結晶粒界のない柱状結晶膜を形成するようにした、結晶質薄膜の形成方法。」

(2)補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると、以下のとおりである。
(2-1)補正事項1
補正前の請求項1を削除すること。

(2-2)補正事項2
補正前の請求項2に「前記非晶質膜を形成したあと大気に晒すことなく、」、「前記第1の薄膜を形成する工程のあと大気に晒すことなく、」及び「前記第2の薄膜を形成する工程のあと大気に晒すことなく、」という事項を追加した上で、補正後の請求項1と補正すること。

(3)補正の目的の適否、及び新規事項の追加の有無について
(3-1)補正事項1について
補正事項1に関する補正は、特許法第17条の2第4項(平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項1に関する補正は適法になされたものである。

(3-2)補正事項2について
補正事項2に関する補正は、以下の3点からなるものである。
a.補正前の請求項2に係る発明の発明特定事項である「基板上に非晶質膜を形成し、前記非晶質膜に向けてレーザを照射して前記非晶質膜を結晶化することによって、前記基板上に結晶質の第1の薄膜を膜厚T_(1)で形成する工程」について、「前記非晶質膜を形成したあと大気に晒すことなく」行うという技術的限定を付加すること。
b.補正前の請求項2に係る発明の発明特定事項である「前記第1の薄膜上に、非晶質の第2の薄膜を膜厚T_(2)で形成する工程」について、「前記第1の薄膜を形成する工程のあと大気に晒すことなく」行うという技術的限定を付加すること。
c.補正前の請求項2に係る発明の発明特定事項である「前記第2の薄膜に向けてレーザを照射する工程」について、「前記第2の薄膜を形成する工程のあと大気に晒すことなく」行うという技術的限定を付加すること。

したがって、補正事項2に関する補正は、補正前の請求項2に係る発明の発明特定事項を限定的に減縮する補正であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、薄膜の形成からレーザ照射に至るまでのプロセスを「大気に晒すことなく」行うことは、本願の最初に添付した明細書の0120?0131段落に記載されているものと認められるから、補正事項2に関する補正は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項2に関する補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項(平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たすものである。

(3-3)以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものであり、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものを含んでいるから、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて、以下において更に検討する。

(4)独立特許要件について
(4-1)補正後の発明
本件補正による補正後の本願の請求項1?6に係る発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される上記2.(1)の補正後の請求項1に記載されたとおりのものである。

(4-2)引用発明
(4-2-1)本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特開平11-40501号公報(以下「引用例」という。)には、図1及び図10と共に以下の記載がある(なお、下線は当合議体にて付加したものである。)。
「【0017】
【発明の実施の形態】
図1A?1Dを参照して、本発明の実施例による多結晶シリコン層の形成方法について説明する。
【0018】
図1Aに示すように、ガラス基板1の表面上に、CVD等によりSiO_(2) 膜2を堆積する。SiO_(2) 膜2の表面上に、アモルファスシリコンからなる厚さ20nmの1層目のシリコン層3を堆積する。この堆積は、原料ガスとしてSiH_(4) とH_(2) を用いたプラズマ励起型CVD(PE-CVD)により行う。例えば、堆積時の基板温度を300℃、SiH_(4) 及びH_(2) の流量をそれぞれ200sccm及び800sccm、印加電力を0.05W/cm^(2) とする。
【0019】
1層目のシリコン層3の堆積後、窒素雰囲気中で450℃まで加熱し、3時間の熱処理を行う。これは、シリコン層3中に含まれる水素を除去するためである。
【0020】
図1Bに示すように、シリコン層3にレーザビーム4を照射する。照射するレーザは、例えば波長308nmのゼノンクロライド(XeCl)エキシマレーザであり、エネルギ密度は約300mJ/cm^(2) 、パルス繰り返し周波数は100Hz、1パルスあたりの照射時間は30nsである。レーザ照射領域は、幅1mm、長さ100mmの細長い形状である。この照射領域を、幅方向に1パルスあたり0.05mm移動させながら広い領域にレーザ照射を行う。このレーザ照射によりシリコン層3が多結晶化する。この程度の厚さであれば、シリコン層3の厚さ方向に関してほぼ1つのグレインのみが形成される。
【0021】
図1Cに示すように、シリコン層3の表面上に、アモルファスシリコンからなる厚さ30nmの2層目のシリコン層5を堆積する。堆積条件は、1層目のシリコン層3の場合と同じである。シリコン層5の堆積後、窒素雰囲気中で450℃まで加熱し、3時間の熱処理を行う。
【0022】
図1Dに示すように、2層目のシリコン層5にレーザビーム6を照射する。照射方法は、図1Bに示した1層目のシリコン層3にレーザビーム4を照射する場合と同様であり、エネルギ密度を265、295、及び335mJ/cm^(2) とした。レーザ照射により、シリコン層5が多結晶化する。このように、アモルファスシリコン層を堆積してレーザ照射し多結晶化する工程を繰り返し行う。なお、繰り返し回数を2回以上としてもよい。」

「【0048】
次に、本発明の他の実施例について説明する。
上記実施例では、図1Dの工程において、基板加熱することなく2回目のレーザビーム照射を行ったが、他の実施例では、レーザビーム照射時に基板加熱を行う。その他の工程は、基本的に図1A?1Dで説明した実施例の場合と同様である。」

「【0057】
結晶粒径を調べるために、他の実施例、及び厚さ45nmのアモルファスシリコン層を堆積した後1回のレーザビーム照射を行った比較例によるシリコン層の表面を、重クロム酸カリウムと弗酸と水の混合液を用いてセコエッチングした後、走査型電子顕微鏡で観察した。なお、観察したシリコン層は、図1Dに示す2回目のレーザビーム照射時及び比較例における1回のレーザビーム照射時のレーザビームのエネルギ密度を297mJ/cm^(2) としたものである。
【0058】
他の実施例によるシリコン層の結晶粒径は、約300nm程度であった。これに対し、比較例によるシリコン層の結晶粒径は、約100nm程度であった。このように、他の実施例の方法により、結晶粒径の大きな多結晶シリコン層を得ることができる。
【0059】
また、他の実施例によるシリコン層の断面構造を、透過型電子顕微鏡で観察したところ、図1Dに示す1層目のシリコン層3と2層目のシリコン層5との間の界面は識別不能であった。これは、図1Dに示す2回目のレーザビーム照射により、シリコン層3及び5が共に溶融し、再結晶化したためと考えられる。なお、この際の溶融は、1層目のシリコン層3内に結晶成長の核を残した不完全溶融であると考えられる。一方、シリコン層5は完全溶融すると考えられる。1層目のシリコン層3内に残った結晶成長核から結晶成長が起こり、大粒径の結晶粒が得られるものと考えられる。
【0060】
このため、図1Dの工程における基板温度と照射レーザビームのエネルギ密度とを、シリコン層3が不完全溶融し、シリコン層5が完全溶融する程度に調節することが好ましいと考えられる。
【0061】
溶融しないで残った結晶成長核が適当な密度で分布している場合に、良好な多結晶シリコン層を得られると推測される。図10に示すように、2回目のレーザビーム照射時のエネルギ密度を高くし過ぎたときに結晶性が悪くなるのは、シリコン層3と5が共に完全溶融するためと考えられる。」

(4-2-2)ここにおいて、0048段落の「上記実施例では、図1Dの工程において、基板加熱することなく2回目のレーザビーム照射を行ったが、他の実施例では、レーザビーム照射時に基板加熱を行う。その他の工程は、基本的に図1A?1Dで説明した実施例の場合と同様である。」という記載から、「他の実施例」は、2回目のレーザビーム照射時に基板を加熱すること以外は、0018段落?0022段落に記載された工程と同様であることが明らかである。

(4-2-3)また、0059段落の「他の実施例によるシリコン層の断面構造を、透過型電子顕微鏡で観察したところ、図1Dに示す1層目のシリコン層3と2層目のシリコン層5との間の界面は識別不能であった。これは、図1Dに示す2回目のレーザビーム照射により、シリコン層3及び5が共に溶融し、再結晶化したためと考えられる。なお、この際の溶融は、1層目のシリコン層3内に結晶成長の核を残した不完全溶融であると考えられる。一方、シリコン層5は完全溶融すると考えられる。1層目のシリコン層3内に残った結晶成長核から結晶成長が起こり、大粒径の結晶粒が得られるものと考えられる」、及び0060段落の「図1Dの工程における基板温度と照射レーザビームのエネルギ密度とを、シリコン層3が不完全溶融し、シリコン層5が完全溶融する程度に調節することが好ましい」という記載からみて、「他の実施例」において「シリコン層5」に照射されるレーザビームのエネルギ密度は、「シリコン層5」が完全に溶融し、かつ「シリコン層3」が不完全溶融するような大きさであり、形成された多結晶シリコンは、シリコン層3内に残った結晶成長核から結晶成長が起こったものであることが明らかである。

(4-2-4)したがって、引用例には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ガラス基板1の表面上にSiO_(2) 膜2を堆積し、前記SiO_(2) 膜2の表面上に、アモルファスシリコンからなる厚さ20nmの1層目のシリコン層3を堆積し、前記シリコン層3にレーザビーム4を照射することにより前記シリコン層3を多結晶化する工程と、
前記シリコン層3の表面上に、アモルファスシリコンからなる厚さ30nmの2層目のシリコン層5を堆積する工程と、
前記シリコン層5が完全に溶融し、かつ前記シリコン層3が不完全溶融するエネルギ密度で、前記シリコン層5にレーザビーム6を照射する工程とを備え、
前記シリコン層3内に残った結晶成長核から結晶成長が起こり、前記1層目のシリコン層3と前記2層目のシリコン層5との間の界面が識別不能であり、粒径が約300nm程度の大粒径の結晶粒を有する多結晶シリコンを形成する方法。」

(4-3)補正発明と引用発明との対比
(4-3-1)引用発明の「ガラス基板1」は、補正発明の「基板」に相当する。
また、引用発明のレーザビーム4の照射前の「シリコン層3」は、「アモルファスシリコン」であるから、補正発明の「非晶質膜」に相当する。
さらに、引用発明のレーザビーム4の照射後の「シリコン層3」は、「多結晶化」しているものであるから、補正発明の「第1の薄膜」に相当する。
そして、引用発明のレーザビーム4の照射後の「シリコン層3」の「20nm」なる厚みは、補正発明の「膜厚T_(1)」に相当するから、引用発明の「ガラス基板1の表面上にSiO_(2) 膜2を堆積し、前記SiO_(2) 膜2の表面上に、アモルファスシリコンからなる厚さ20nmの1層目のシリコン層3を堆積し、前記シリコン層3にレーザビーム4を照射することにより前記シリコン層3を多結晶化する工程」は、補正発明の「基板上に非晶質膜を形成し、」「前記非晶質膜に向けてレーザを照射して前記非晶質膜を結晶化することによって、前記基板上に結晶質の第1の薄膜を膜厚T_(1)で形成する工程」に相当する。

(4-3-2)引用発明のレーザビーム6の照射前の「シリコン層5」は、アモルファスシリコンからなるものであるから、補正発明の「第2の薄膜」に相当する。
また、引用発明の「シリコン層5」の「30nm」なる厚みは、補正発明の「膜厚T_(2)」に相当するから、引用発明の「前記シリコン層3の表面上に、アモルファスシリコンからなる厚さ30nmの2層目のシリコン層5を堆積する工程」及び「前記シリコン層5にレーザビーム6を照射する工程」は、それぞれ補正発明の「第1の薄膜上に、非晶質の第2の薄膜を膜厚T_(2)で形成する工程」及び「第2の薄膜に向けてレーザを照射する工程」に相当する。

(4-3-3)引用発明は、「前記シリコン層3内に残った結晶成長核から結晶成長が起こり、前記1層目のシリコン層3と前記2層目のシリコン層5との間の界面が識別不能であり、粒径が約300nm程度の大粒径の結晶粒を有する多結晶シリコンを形成する」ものであるところ、「1層目のシリコン層3」と「2層目のシリコン層5」の厚さの合計は50nmにすぎないのであるから、引用発明によって得られる「多結晶シリコン」は、補正発明と同様に「膜厚方向を横切る結晶粒界のない柱状結晶膜」であるものと認められる。
そして、引用発明における「多結晶シリコン」は、「シリコン膜5」の全てと「シリコン膜3」の一部が溶融され、「シリコン層3内に残った結晶成長核」から形成されるものであるから、引用発明の「前記シリコン層3内に残った結晶成長核から結晶成長が起こり、前記1層目のシリコン層3と前記2層目のシリコン層5との間の界面が識別不能であり、粒径が約300nm程度の大粒径の結晶粒を有する多結晶シリコンを形成する方法」は、補正発明の「第1の薄膜の非溶融部を結晶核として、前記第1および第2の薄膜における溶融部を結晶成長させることにより、膜厚方向を横切る結晶粒界のない柱状結晶膜を形成するようにした結晶質薄膜の形成方法」に相当する。

(4-3-4)以上を総合すると、補正発明と引用発明とは、
「基板上に非晶質膜を形成し、前記非晶質膜に向けてレーザを照射して前記非晶質膜を結晶化することによって、前記基板上に結晶質の第1の薄膜を膜厚T_(1)で形成する工程と、
前記第1の薄膜上に、非晶質の第2の薄膜を膜厚T_(2)で形成する工程と、
前記第2の薄膜に向けてレーザを照射する工程とを備え、
前記第1の薄膜の非溶融部を結晶核として、前記第1および第2の薄膜における溶融部を結晶成長させることにより、膜厚方向を横切る結晶粒界のない柱状結晶膜を形成するようにした、結晶質薄膜の形成方法。」

である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
補正発明は、薄膜の形成からレーザの照射に至るまでのプロセスを「大気に晒すことなく」行っているのに対して、引用発明においてはそのような特定がない点。

(相違点2)
補正発明は、「膜厚がT_(2)で、かつ前記第2の薄膜と同一材質の膜にレーザを照射し結晶化するときのエネルギ密度と結晶粒径との関係において、エネルギ密度の増加に対して結晶粒径の減少がほぼ飽和するエネルギ密度をE_(c)とし、膜厚がT_(1)+T_(2)で、かつ前記第2の薄膜と同一材質の膜にレーザを照射し結晶化するときのエネルギ密度と結晶粒径との関係において、結晶粒径が最大となるエネルギ密度をE_(d)とするとき、」「E_(c)≦E≦E_(d)の関係を満たすエネルギ密度Eで、前記第2の薄膜に向けてレーザを照射する」るものであるのに対して、引用発明は、レーザのエネルギ密度の下限値及び上限値をそのように特定していない点。

(4-4)相違点についての当審の判断
(4-4-1)相違点1について
一般に、半導体製造プロセスにおいて多結晶シリコン薄膜中への大気からの不純物の混入を可及的に少なくすることは、当業者における周知の課題であり、当該課題を解決すべく、非晶質シリコン薄膜の形成から該非晶質シリコン薄膜へのレーザ照射に至るまでのプロセスにおいて大気に晒すことなく多結晶シリコン薄膜を形成することも、例えば、本願の出願前に日本国内において頒布された以下の周知文献1及び2に記載されているように当業者における周知技術であるから、引用発明において、薄膜の形成からレーザの照射に至るまでのプロセスを「大気に晒すことなく」行うようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

a.周知文献1:特開平11-214307号公報
上記周知文献1には、図4とともに以下の記載がある。
「【0012】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために本発明は、被成膜物品に結晶性シリコン膜を形成するためのシリコン膜形成用真空槽を有し、該真空槽に該被成膜物品の被成膜面に結晶性シリコン膜の前段膜を形成できる成膜部と、該前段膜の結晶化処理のためのエネルギビームの照射を行えるエネルギビーム照射部とを設けてあることを特徴とする成膜装置を提供する。
【0013】前記本発明の成膜装置によると、結晶性シリコン膜の前段膜の形成とその後のエネルギビームの照射とを同一真空槽内で連続して行えるため、被成膜物品の搬送時間、或いはさらに加熱時間を大幅に短縮することができ、スループットを向上させることができる。さらに、前段膜形成とその後のエネルギビーム照射を同一真空槽内で行えるので、不純物の付着等が抑制された状態で良質の結晶性シリコン膜を形成できる。」
「【0042】この間、被成膜物品10を保持部材11により保持してその長さ方向αに移動させ、該物品10の被成膜面全体について、円筒状又は矩形状電極14aの下方の成膜位置を通過させる。成膜位置では、被成膜物品10は保持部材11ごとヒータ9上に載置される。これにより、被成膜物品10の長さ方向の一端から順にその全体に結晶性シリコン前段膜が形成される。
【0043】さらに、物品10を移動させながらレーザ光源19から光学系20、石英窓21及びミラー22を介してレーザ光Lを照射することで、被成膜物品10の前記前段膜形成後の部分に順にレーザ光が照射され、該部分の結晶化処理が行われる。このように、プラズマCVD装置、イオン源、レーザ照射装置が一つの真空槽Cに付設され、且つ、被成膜物品10を水平移動させる手段が備えられていることにより、被成膜物品10が長尺物品である場合にも、その一端から順に前段膜の形成及びその結晶化処理を行うことができ、高いスループットで結晶性シリコン膜を形成することができる。さらに、前段膜形成とその結晶化処理を同一のプラズマ生成室C内で行えるので、不純物の付着等が抑制された状態で良質の結晶性シリコン膜を形成できる。」

b.周知文献2:特開平6-260436号公報
上記周知文献2には、図1とともに以下の記載がある。
「【0004】
【問題を解決する方法】本発明の構成は、以下に示すようなものである。まず、成膜装置(プラズマCVD装置、スパッタリング装置、熱CVD装置、真空蒸着装置等)やエッチング装置、ドーピング装置(プラズマ・ドーピング装置やイオン注入装置等)、熱処理装置(熱拡散装置や熱結晶化装置等)、予備室等の真空装置を、レーザー処理装置(レーザー・エッチング装置、レーザー・アニール装置、レーザー・ドーピング装置等)とともに1つにまとめてマルチ・チャンバー・システムとし、基板を一度も大気にさらすことなく必要な処理をおこなうものである。そのようなシステムにおいては、真空排気の時間が著しく短縮されるばかりではなく、基板の搬送に伴う好ましからざる汚染から基板を守ることができるという特徴がある。」
「【0012】プラズマCVD装置1でアモルファスシリコンが成膜された基板は以下のような順序でレーザー処理装置2に移送される。まず、成膜終了後、成膜装置1の内部を排気して、十分な真空状態とする。一方、予備室9も十分な真空状態に排気する。そして、成膜装置1と予備室の間のゲートを開けて、基板を予備室に移送する。移送後、ゲートは閉じられ、成膜装置には再び反応ガスが導入されて、成膜が開始される。
【0013】一方、今度はレーザー処理装置2の内部を十分な真空状態とする。予備室9の内部は既に十分な真空状態である。そして、予備室とレーザー処理装置の間のゲートを開けて、予備室からレーザー処理装置に基板を移送する。移送後、ゲートは閉じられ、サンプルホルダー15はヒーター16によって適切な温度にまで加熱される。温度が安定し、レーザー処理装置にセットされた基板の精密な位置合わせが完了したら、レーザー処理がおこなわれる。」

(4-4-2)相違点2について
(4-4-2-1)本願の発明の詳細な説明における0015段落の「E_(2)≦E<E_(12)の関係を満たすエネルギ密度E(E_(2):第2の薄膜を完全に溶融するために必要なエネルギ密度の最小値、E_(12):第1および第2の薄膜を完全に溶融するために必要なエネルギ密度の最小値)で、第2の薄膜に向けてレーザを照射することで、第2の薄膜の全部、または第2の薄膜の全部および第1の薄膜の一部が溶融される。」、及び0050段落の「図12を参照して、エキシマレーザ15のエネルギ密度EをE_(b)よりもさらに大きいE_(c)とした場合、非溶融部21bは完全に消滅して溶融部21aのみが存在する。」なる記載から、補正発明における「E_(c)」は、第2の薄膜を完全に溶融するために必要なエネルギ密度の最小値にほぼ相当することが明らかである。そして、引用発明において「シリコン層5」へ照射される「レーザビーム6」は、「前記シリコン層5が完全に溶融し、かつ前記シリコン層3が不完全溶融するエネルギ密度」であるから、当該「レーザビーム6」のエネルギ密度は、補正発明の「第2の薄膜」に相当する「シリコン層5」を完全に溶融するために必要なエネルギ密度の最小値よりも大きいものであることは明らかである。
したがって、引用発明の「レーザビーム6」のエネルギ密度は、補正発明のように「E_(c)」よりも大きいものと認められる。

(4-4-2-2)引用発明は、「大粒径の結晶粒を有する多結晶シリコン」を形成するために「前記シリコン層5が完全に溶融し、かつ前記シリコン層3が不完全溶融するエネルギ密度で、前記シリコン層5にレーザビーム6を照射」するものであるが、一般に、シリコンにレーザを照射して結晶化を行うに際して、該レーザのエネルギ密度が過大であると大粒径の結晶粒を得るための結晶核が残らず、得られる多結晶シリコンの結晶粒径が小さくなってしまうことは、当業者における技術常識である。
したがって、引用発明に接した当業者であれば、「レーザビーム6」の照射に際し、そのエネルギ密度が過大とならないよう、すなわち、引用発明において結晶粒径が最大となるエネルギ密度(以下「E_(α)」という。)を超えないようにしなければならないことは、直ちに想到し得たことである。
そして、一般に、半導体の製造プロセスにおいては誤差が生じることが不可避であるため、製造時の各パラメータを選定する際に、安全を見越して十分なマージンを取ることは当業者における慣用技術であるから、引用発明を実施するに際しては、「レーザビーム6」のエネルギ密度を上記E_(α)よりも十分なマージンを取った小さい値とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(4-4-2-3)ところで、引用発明において、「シリコン層3」及び「シリコン層5」に代えて、両者を合計した膜厚(補正発明の「T_(1)+T_(2)」に相当)を有する非晶質シリコン(以下「膜厚がT_(1)+T_(2)の非晶質シリコン」という。)とした場合を想定すると、この場合においても、レーザのエネルギ密度が過大であると大粒径の結晶粒を得るための結晶核が残らず、得られる多結晶シリコンの結晶粒径が小さくなってしまうことは、上に述べた技術常識に照らして明らかであるから、膜厚がT_(1)+T_(2)の非晶質シリコンにおいても、結晶粒径が最大となるエネルギ密度(以下「E_(β)」という。)が存在することは、当業者にとって自明な事項である。
そして、一般に、非晶質シリコンと多結晶シリコンの溶融特性を比較すると、両者は類似の特性を有し、非晶質シリコンの方が多結晶シリコンよりもやや溶融しやすいことは、当業者における技術常識であるから、E_(α)とE_(β)とを比較すると、両者はほぼ同じであるが、E_(β)の方がやや小さい値となることは当業者にとって自明な事項である。
したがって、引用発明において、「レーザビーム6」のエネルギ密度を上記E_(α)よりも十分にマージンを取った小さい値とすることが当業者が容易になし得たことであることと同様に、当該「レーザビーム6」のエネルギ密度を上記E_(β)以下の値とすること、すなわち、補正発明のように、「膜厚がT_(1)+T_(2)で、かつ前記第2の薄膜と同一材質の膜にレーザを照射し結晶化するときのエネルギ密度と結晶粒径との関係において、結晶粒径が最大となるエネルギ密度をE_(d)とするとき、」「E≦E_(d)の関係を満たすエネルギ密度E」とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(4-4-2-4)以上のとおりであるから、引用発明において、補正発明のように「膜厚がT_(2)で、かつ前記第2の薄膜と同一材質の膜にレーザを照射し結晶化するときのエネルギ密度と結晶粒径との関係において、エネルギ密度の増加に対して結晶粒径の減少がほぼ飽和するエネルギ密度をE_(c)とし、膜厚がT_(1)+T_(2)で、かつ前記第2の薄膜と同一材質の膜にレーザを照射し結晶化するときのエネルギ密度と結晶粒径との関係において、結晶粒径が最大となるエネルギ密度をE_(d)とするとき、」「E_(c)≦E≦E_(d)の関係を満たすエネルギ密度Eで、前記第2の薄膜に向けてレーザを照射する」ことは、当業者が容易になし得たことである。

(4-4-3) 以上検討したとおり、補正発明は、周知技術を勘案することにより、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4-5)独立特許要件についてのまとめ
したがって、本件補正は、補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項をいう。以下同じ。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。

(5)補正の却下についてのむすび
本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
平成20年8月28日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成19年11月1日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項2に記載されている事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項2】 基板上に非晶質膜を形成し、前記非晶質膜に向けてレーザを照射して前記非晶質膜を結晶化することによって、前記基板上に結晶質の第1の薄膜を膜厚T_(1)で形成する工程と、
前記第1の薄膜上に、非晶質の第2の薄膜を膜厚T_(2)で形成する工程と、
膜厚がT_(2)で、かつ前記第2の薄膜と同一材質の膜にレーザを照射し結晶化するときのエネルギ密度と結晶粒径との関係において、エネルギ密度の増加に対して結晶粒径の減少がほぼ飽和するエネルギ密度をE_(c)とし、膜厚がT_(1)+T_(2)で、かつ前記第2の薄膜と同一材質の膜にレーザを照射し結晶化するときのエネルギ密度と結晶粒径との関係において、結晶粒径が最大となるエネルギ密度をE_(d)とするとき、E_(c)≦E≦E_(d)の関係を満たすエネルギ密度Eで、前記第2の薄膜に向けてレーザを照射する工程とを備え、
前記第1の薄膜の非溶融部を結晶核として、前記第1および第2の薄膜における溶融部を結晶成長させることにより、膜厚方向を横切る結晶粒界のない柱状結晶膜を形成するようにした、結晶質薄膜の形成方法。」

一方、本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特開平11-40501号公報(引用例)には、前記2.(4-2)に記載したとおりの事項、及び発明(引用発明)が記載されているものと認められる。
そして、本願発明と引用発明とは、上記2.(4-3)の相違点2に示した点で相違するが、2.(4-4)において検討したとおり、上記相違点2は当業者であれば適宜なし得たことであるから、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-05 
結審通知日 2010-11-09 
審決日 2010-11-22 
出願番号 特願2002-159394(P2002-159394)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和瀬田 芳正太田 一平  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 酒井 英夫
近藤 幸浩
発明の名称 結晶質薄膜の形成方法、結晶質薄膜の製造装置、薄膜トランジスタ、および光電変換素子  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 仲村 義平  
代理人 森田 俊雄  
代理人 酒井 將行  
代理人 堀井 豊  
代理人 野田 久登  
代理人 深見 久郎  

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