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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J |
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管理番号 | 1229832 |
審判番号 | 不服2008-29068 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-11-13 |
確定日 | 2011-01-06 |
事件の表示 | 特願2004- 97065「イオン注入装置およびイオン注入方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月13日出願公開、特開2005-285518〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成16年3月29日に出願された特願2004-97065号であって、平成19年1月31日付けで拒絶理由が通知され、同年4月9日付けで手続補正がなされたものの、平成20年10月6日付けで拒絶査定がなされた。 本件は、前記拒絶査定を不服として平成20年11月13日に請求された拒絶査定不服審判事件であって、同年12月15日付けで手続補正がなされている。その後、当審において平成21年9月11日付けで審尋が行われ、同年11月16日付けで回答書が提出されている。 第2 平成20年12月15日付け手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成20年12月15日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1 補正の内容と目的 平成20年12月15日付け手続補正は特許請求の範囲を補正するものであって、補正前(平成19年4月9日付けで補正。以下同じ。)の請求項1、5について、「前記処理基板の不純物濃度のはらつきを1%以下に抑える」という発明特定事項を追加して減縮するものであるから、前記手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下、単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。 2 本件補正発明 本件補正発明は本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであるが、請求項1に記載された「はらつき」は「ばらつき」の明らかな誤記と認められるから、本件補正発明は次のとおりのものと認める。 「 処理基板の照射領域内の任意の複数の領域に対して、所定の注入角度でイオンビームを照射するイオン照射部と、 前記イオン照射部と前記処理基板との間に配設され、且つ前記注入角度を0.1°以下の精度で観測でき、且つ前記注入角度を計測する注入角度計測部と、 前記注入角度計測部からの情報に応じて、それぞれの前記注入角度の相互間の違いが±0.1°以下となるように前記イオン照射部を制御し、前記処理基板の不純物濃度のばらつきを1%以下に抑える制御部と、 を具備することを特徴とするイオン注入装置。」 3 本願出願前に頒布された刊行物 (1)引用例1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-40855号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の技術的事項の記載がある。 (1a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、掃引したイオンビームをウエハ等の試料に照射して均一注入を行うビームスキャン方式のイオン注入装置に関するものである。」 (1b)「【0004】中電流イオン注入装置においてスキャナによるイオンビームの角度走査を行った場合、ウエハ面上の各点においてイオンビームのウエハへの入射角度が異なり、この注入角度誤差がデバイスの特性に影響を与えることになる。特に、近年は、デバイスの微細化、ウエハの大口径化に伴って、この問題が大きくなっている。そこで、イオンビームがウエハ上のどの位置でもウエハに対して一定の角度で入射するパラレルビームを形成し、この問題を解消している。 【0005】図4に、パラレルビームを用いたハイブリッドスキャン方式の中電流イオン注入装置のビーム輸送系の一例を示す。イオンビームは、図示しないイオン源から引き出された後、所望の質量分析や加速等が行われ、同図のビーム輸送系に導かれる。このビーム輸送系において、スポット状のイオンビームは、ビームスキャニングマグネット(以下、BSMと称する)51で磁気的に水平方向に掃引された後、コリメータ52に入射する。上記BSM51は、波形コントローラ57が出力する三角波状のアナログコントロール信号に従って励磁電流を変化させるBSMアンプ56により駆動される。上記コリメータ52は、コリメータ電源58から供給される電流によって励磁し、一様な静磁界を発生する電磁石であって、掃引されたイオンビームを曲げ戻してパラレルビームを形成する。 【0006】上記のパラレルビームは、磁界クランプ53を通過した後、図5に示すように、エンドステーションで垂直方向に駆動されているウエハWの全面に照射される。ウエハWの上流側にはマスク54が設けられており、その開口54aを通過したイオンビームのみがウエハWへと導かれる。また、上記開口54aの側方にはドースファラデ55が設けられており、イオン注入処理中に当該ドースファラデ55で計測されるビーム電流値に基づいて、イオン注入量の制御が行われる。」 (1c)「【0017】 【発明の実施の形態】本発明の実施の一形態について図1ないし図3に基づいて説明すれば、以下の通りである。 【0018】本実施の形態に係るイオン注入装置は、パラレルビームを用いたハイブリッドスキャン方式であり、パラレルビームの形成に磁界スキャナと静磁界を発生する電磁石からなるコリメータとを使用している。」 (1d)「【0023】図1に示すように、上記BSM2で掃引されたイオンビームは、コリメータ3に入射する。このコリメータ3は、コリメータ電源7から供給される電流によって励磁し、一様な静磁界を発生する電磁石であって、掃引されたイオンビームを曲げ戻してパラレルビームを形成する。 【0024】上記のパラレルビームは、磁界クランプ10を通過してエンドステーション(注入室)の方へ進行する。図3に示すように、エンドステーションでは、ウエハW(試料)が図示しない駆動機構によって上下方向に駆動されるようになっている。ウエハWの上流側にはマスク11が設けられており、その開口11aを通過したイオンビームのみがウエハWへ到達する。 【0025】上記マスク11の開口11aの側方には、イオン注入処理中にビーム電流の計測を行うためのドースファラデ12が設けられている。イオン注入処理中には、掃引ビームの一部がドースファラデ12に入射し、当該ファラデで計測されるビーム電流値に基づいて、イオン注入量の制御が行われる。 【0026】また、上記マスク11の開口11aの上方には、複数の小型ファラデカップ(以下、小ファラデと称する)がビーム掃引方向に所定間隔で並設されてなるフロントファラデ13が設けられている。このフロントファラデ13は、後述のバックファラデ15と共に、ビームの平行度・掃引速度均一性・スイープ幅などを測定するためのビーム計測系として使用される。このフロントファラデ13および上記ドースファラデ12が取り付けられたマスク11は、駆動機構14によって上下移動可能であり、フロントファラデ13の使用時には、掃引ビームがフロントファラデ13に入射する位置までマスク11が下降する。 【0027】また、ウエハWのさらに下流には、複数の小ファラデがビーム掃引方向に所定間隔で並設されてなるバックファラデ15が設けられている。このバックファラデ15の使用時には、掃引ビームがバックファラデ15に直接入射するように、ウエハWおよびそれを保持する図示しないプラテンが退避する。 …(中略)… 【0029】イオン注入装置は、上記の各種ファラデを用いたビーム計測システム17(図1)を利用して、実際のイオン注入処理前に、試料にイオンビームを照射したときの状況を実質的に実測する機能を有する。そして、実処理前のビーム状態の確認処理として、実際のビーム照射領域にどの様なビームがどの様にやってくるか(ビームの掃引速度均一性、ビームの平行度およびスイープ幅など)をビーム計測システム17を用いて実測し、最適なビーム状態になるように必要に応じてビーム輸送系の各種パラメータを調整することができる。」 (1e)「【0033】次に、ビームの平行度・掃引速度均一性の確認について説明する。 【0034】図2に示すように、フロントファラデ13およびバックファラデ15の各小ファラデに入射したビームの電流は、ビーム電流変換器18においてディジタルに変換されて波形コントローラ6へ取り込まれる。 【0035】上記のフロントファラデ13およびバックファラデ15の小ファラデは、スイッチの切り替えにより、それぞれ独立してビーム電流が計測可能である。したがって、これらの小ファラデのうちの1つを選択し、ビームの掃引を行っている際の掃引電流に対応するコントロール信号電圧と当該小ファラデで計測されるビーム電流量を測定することにより、イオンビームがその選択された小ファラデの位置にやってくる時のコントロール信号電圧を測定できる。この測定を全ての小ファラデに対して行うことにより、コントロール信号電圧値とビームの掃引方向位置との関係式が得られる。 【0036】そして、注入位置(ウエハWの位置)を前後に挟んだフロントファラデ13とバックファラデ15とにより、それぞれ上記の関係式を求める。あるコントロール信号電圧値(それに対応する掃引電流値)では、イオンビームは1つのコースを飛行することから、上記の2つの関係式を用いれば、フロントファラデ13とバックファラデ15との間のビームの飛行コースが決定できる。この飛行コースの傾きが平行からのずれ(ビームの平行度)を表す。そこで、もしビームの平行度が悪かったときには、コリメータ電源7の出力電流を調整してコリメータ3の磁束密度を修正する。」 これらの記載および図面の内容からして、引用例1には以下の発明が記載されているといえる。 「ビームスキャニングマグネット2で掃引し、コリメータ3で曲げ戻してパラレルビームとしたイオンビームを、ウエハW上のどの位置でもウエハWに対して一定の角度で入射させて均一注入を行うビームスキャン方式のイオン注入装置であって、 ウエハWを前後に挟んだ位置に配されたフロントファラデ13およびバックファラデ15により、フロントファラデ13とバックファラデ15との間のイオンビームの飛行コースを決定し、その飛行コースからイオンビームの平行度を求め、イオンビームの平行度が悪かったときには、コリメータ電源7の出力電流を調整してコリメータ3の磁束密度を修正するイオン注入装置。」(以下、「引用発明」という。) (2)引用例2 同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-64470号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の技術的事項の記載がある。 (2a)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は半導体製造工程におけるイオン注入装置の走査装置に関する。イオン注入装置は、加速されたイオンビ-ムを半導体ウエハ-などの試料に注入する装置である。イオン源、質量分離器、加速管、走査機構等を含む。 【0002】イオン源は原料ガスを高周波、マイクロ波、直流電界放電などによって励起しプラズマとし、電界の作用によってビームとして引き出す。このビームは所望のイオンだけでなく様々のイオンを含む。そこで磁石によってビームを曲げ所望の質量のイオンだけを選択する。これが質量分離器である。加速管はイオンを所望のエネルギーに加速するものである。走査機構は細いイオンビ-ムを一次元的或いは二次元的に走査して広いウエハ-の全面にイオンビ-ムを注入するようにするものである。本発明はこの走査装置の改良に関する。」 (2b)「【0003】 【従来の技術】走査装置は磁界を用いたものと、電界を用いたものの2種類がある。走査というのは電界または磁界を周期的に変化させ、ビーム経路を左右に振動させるものである。1回曲げるだけでも走査はできる。しかしそれであると試料の端において入射するビームは面に対して傾く。注入密度が面内で均一であることが強く要望される。そこで一回曲げたビームを同じ角度だけ反対方向に曲げて試料面に常に直角に入射するようにする装置が増えてきた。すると磁石にせよ、電極にせよ二組のビーム偏向装置が必要になる。 【0004】本発明は電界を用いてイオンビ-ムを走査するものに関する。従来は単純な平行平板電極を用いてイオンビ-ムの平行走査を行っていた。平行平板電極の間に電圧を掛けると、その間にほぼ一様な電界が形成される。電界を正弦波的に振動させる。これにより電極間で一様にビームを振る事ができる。初めの一組の平行平板電極に周期的に変化する電圧を印加し、ビームを左右に振動させる。次の平行平板電極は反対向きの電圧を同期して印加し、ビームを反対側に曲げる。こうして常に面に対して直角なビームとする。」 (2c)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかし平行平板電極によっては一様な電界が形成されない。中央部と端部では電界、電気力線の分布が異なる。このためにイオンに作用するクーロン力が中央と端において相違する。従ってイオンビームの偏向量が一様にならない。 …(中略)… 【0015】イオンビ-ムの注入量の均一性の要求は厳しく、面内で揺らぎが0.5%以下であることが望まれる。すると平行平板電極を2組のイオンビ-ム経路に並べた従来の走査装置ではその要求を満足する事ができない。」 (2d)「【0037】 【実施例】図4における第2偏向電極を図1のようなコ字型電極とした。すると中央部の 電界強度が増えて、周辺部の強度が相対的に低下し、過偏向の問題が矯正される。より一様な偏向をする事ができる。本発明は、二組の偏向電極を組み合わせたイオンビ-ム走査装置において、特に第2偏向電極にコ字型電極を用いて電界分布を電極垂直方向に一様にしたので、試料入射時のイオンビ-ムの空間分布が一様になり、入射角度が90゜にそろうようになる。ウエハ-に対してドーパントを一様に注入することができる。精度の高い不純物注入を行うことができる。もちろん第1偏向電極もコ字型電極にすることもできる。 …(中略)… 【0041】図8は本発明の実施例に係るコ字型電極を使用した時のウエハ-への入射角度の90゜からのズレ角のX軸に平行な直径に沿う面内分布の測定結果を示すグラフである。図1の寸法において、L:B=0.3:1である。これも行きと帰りによってビームの経路が僅かに異なる。90゜からの負のズレがある。これはウエハ-面内において-0.1゜?-0.2゜の範囲に収まっている。振れの角度は最大で-0.1゜に過ぎない。全体に90゜からずれているがそれはあまり差し支えないことである。面内での角度揺らぎが少なければ良いのである。」 (2e)「【0046】 【発明の効果】本発明は、二組の偏向電極を組み合わせたイオンビ-ム走査装置において、特に第2偏向電極にコ字型電極を用いて電界分布を電極垂直方向に一様にしたので、試料入射時のイオンビ-ムの空間分布が一様になり、入射角度が90゜にそろうようになる。ウエハ-に対してドーパントを一様に注入することができる。精度の高い不純物注入を行うことができる。 【0047】入射ビーム密度の揺らぎの方が、角度揺らぎよりも重大な問題である。ここでは密度揺らぎの代わりに角度の揺らぎを測定している。両者は相関が強く、角度の揺らぎが大きいと密度揺らぎも大きくなるから、後者を前者によって評価することができる。 【0048】この結果を比較すると、本発明はビーム平行度の向上に著しい効果を得られることが確認できる。つまり、ビーム入射密度も一様であるということである。8インチウエハ-において、ビーム入射角の面内の揺らぎを0.1゜以下にすることも可能である。密度揺らぎを0.5%以下にできる。優れた発明である。」 4 対比 本件補正発明と上記引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「ビームスキャニングマグネット2で掃引し、コリメータ3で曲げ戻してパラレルビームとしたイオンビームを、ウエハW上のどの位置でもウエハWに対して一定の角度で入射させて均一注入を行う」という事項と、本件補正発明の「処理基板の照射領域内の任意の複数の領域に対して、所定の注入角度でイオンビームを照射する」との事項を対比する。 引用発明の「ウエハW」が本件補正発明の「処理基板」に相当し、引用発明の「注入」がイオンビームの照射によって行われることは明らかであって、引用発明は、「パラレルビームとしたイオンビームを、ウエハW上のどの位置でもウエハWに対して一定の角度で入射させて均一注入を行う」ことにより、イオンビームを照射可能な範囲内の任意の領域に対して、所定の注入角度でイオンビームを照射可能であるといえるから、両者は、「処理基板の照射領域内の任意の複数の領域に対して、所定の注入角度でイオンビームを照射する」点で一致する。したがって、引用発明の前記事項を行う構成が、本願補正発明の「イオン照射部」に相当することは明らかである。 (2)引用発明の「ウエハWを前後に挟んだ位置に配されたフロントファラデ13およびバックファラデ15により、フロントファラデ13とバックファラデ15との間のイオンビームの飛行コースを決定し、その飛行コースからイオンビームの平行度を求め」るという事項と、本件補正発明の「前記イオン照射部と前記処理基板との間に配設され、且つ前記注入角度を0.1°以下の精度で観測でき、且つ前記注入角度を計測する注入角度計測部」という事項を対比する。 引用発明の「イオンビームの飛行コースを決定し、その飛行コースからイオンビームの平行度を求め」ることが、本件補正発明の「注入角度を計測する」ことに相当するといえるから、引用発明の「フロントファラデ13」が、本件補正発明の「前記イオン照射部と前記処理基板との間に配設」された「注入角度を計測する注入角度計測部」の一部であるといえる。したがって両者は、「少なくとも一部が前記イオン照射部と前記処理基板との間に配設された注入角度を計測する注入角度計測部」である点で一致する。 (3)引用発明の「イオンビームの平行度が悪かったときには、コリメータ電源7の出力電流を調整してコリメータ3の磁束密度を修正する」という事項と、本件補正発明の「前記注入角度計測部からの情報に応じて、それぞれの前記注入角度の相互間の違いが±0.1°以下となるように前記イオン照射部を制御」するという事項を対比する。 引用発明において、「イオンビームの平行度が悪かった」かどうかは、上記(2)で検討したとおり「注入角度を計測する」ことによって判明することは明らかであって、引用発明において、「コリメータ電源7の出力電流を調整してコリメータ3の磁束密度を修正する」ことが、イオンビームの平行度を良好とする、すなわちイオンビーム間の注入角度の差を小さくするためであることも明らかである。そして、上記(1)で検討したとおり、引用発明の「コリメータ3」は、イオン照射部を構成する部材である。したがって両者は、「前記注入角度計測部からの情報に応じて、それぞれの前記注入角度の相互間の差を小さくするように前記イオン照射部を制御」する点で一致する。 以上の対比から、本件補正発明と引用発明とは、 「処理基板の照射領域内の任意の複数の領域に対して、所定の注入角度でイオンビームを照射するイオン照射部と、 少なくとも一部が前記イオン照射部と前記処理基板との間に配設された注入角度を計測する注入角度計測部と、 前記注入角度計測部からの情報に応じて、それぞれの前記注入角度の相互間の差を小さくするように前記イオン照射部を制御する制御部と、 を具備するイオン注入装置。」の点で一致し、次の点で相違する。 〈相違点1〉注入角度計測部について、 本件補正発明は、「イオン照射部と処理基板との間に配設され」、「注入角度を0.1°以下の精度で観測でき」るのに対し、引用発明は、ウエハWを前後に挟んだ位置、すなわち、一部はイオン照射部と処理基板との間に配設されるものの、一部は処理基板の後方に配設されているとともに、観測精度について明らかでない点。 〈相違点2〉イオン照射部を制御する制御部について、 本件補正発明は、「注入角度の相互間の違いが±0.1°以下」となるようにイオン照射部を制御することによって「処理基板の不純物濃度のばらつきを1%以下に抑える」のに対し、引用発明は注入角度の相互間の違いや不純物濃度のばらつきについて言及がない点。 5 検討・判断 上記各相違点について検討する。 (1)最初に、相違点1のうち、注入角度計測部が、本件補正発明では「イオン照射部と処理基板との間に配設され」ている点について検討する。引用発明は、イオンビームの平行度をフロントファラデ13とバックファラデ15との間のイオンビームの飛行コースから、すなわち、フロントファラデ13とバックファラデ15の幾何学的配置位置に基づいて求めていることは明らかであるから、ウエハWを前後に挟んだ位置に配されたフロントファラデ13およびバックファラデ15のうち、ウエハWの後方に配されているバックファラデ15をウエハWの前方に設けても、同様の測定が可能であることは明らかである。また、イオンビーム注入装置の平行度測定のための注入角度計測装置をイオン照射部と処理基板との間に配設することは、例えば特開平2-5346号公報(特に第1図参照)にも示されているように、従来から当業者に周知の事項にすぎない。 してみると、注入角度計測部が「イオン照射部と処理基板との間に配設され」ている点は、単なる設計変更にすぎず、格別の創意工夫を要するものではない。 (2)ここで、引用発明において、イオンビームの平行度の測定に基づいてイオンビームの平行度の修正を行うには、前記平行度の測定精度に前記平行度の修正の精度と同等以上の精度が求められることは明らかであるから、上記相違点1のうち、本件補正発明が「注入角度を0.1°以下の精度で観測でき」る点、および、上記相違点2の「注入角度の相互間の違いが±0.1°以下」となるようにイオン照射部を制御することによって「処理基板の不純物濃度のばらつきを1%以下に抑える」点について、以下まとめて検討する。 引用例2には、半導体製造装置におけるイオン注入の技術分野では、面内での揺らぎが0.5%以下というイオンビ-ムの注入量の均一性が要求されていて、ビーム入射角の面内の揺らぎを0.1゜以下とすることによって前記要求が達成可能であることが記載されており(前記(2a)?(2e)参照)、引用例2の当該記載からすると、本願出願当時、イオンビ-ムの注入量の面内揺らぎを0.5%以下とする均一性を達成するため、注入角度計測部の観測精度として「0.1°以下の精度」とすること、ならびに、「注入角度の相互間の違いが±0.1°以下」でイオン注入を行うという技術的思想は、当業者に既に知られていたといえる。 そうすると、本願出願当時のイオンビ-ムの注入量の均一性の要求水準を勘案し、引用発明において、注入角度計測部を「注入角度を0.1°以下の精度で観測でき」る計測部とするとともに、「注入角度の相互間の違いが±0.1°以下」となるようにイオン照射部を制御できるようなイオン注入装置とすることは当業者が格別の困難なくなし得ることである。そして引用例2の記載事項を参酌すれば、そのようにイオン注入装置を構成することにより、面内での揺らぎが0.5%以下というイオンビ-ムの注入量の均一性が期待できることも明らかである。 してみると、引用発明において「注入角度を0.1°以下の精度で観測でき」るようにするとともに、「注入角度の相互間の違いが±0.1°以下」となるようにイオン照射部を制御することによって「処理基板の不純物濃度のばらつきを1%以下に抑える」ことは、引用例2の記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得ることである。 なお、この点について請求人は「すなわち、上記しましたように従来は注入角度のばらつきを高度に制御できる半導体製造装置は販売されていなかったため、注入角度のばらつきを制御することによってチャネリングの発生量そのものを制御するというアプローチは行われていません。このため、注入角度のばらつきをどの程度にすれば、特性のばらつきの小さな半導体装置を作成できるかは明確ではありませんでした。このように、注入角度のばらつきとチャネリングの発生量や不純物濃度との関係が不明確な状態では、引用文献1乃至11に、平行な軌道のイオンビームを照射することによってチャネリングが防止されるということや均一なチャネリングが得られるといった内容が記載されているとしても、本願の請求項1、5のように注入角度のばらつきが±0.1°以下となるようにイオンビームの軌道を変化させて不純物濃度のはらつきを1%に抑えるという内容は、当業者にとっても容易に想到できるものではありません。」(平成20年12月15日付けの審判請求書についての手続補正書第6頁第1?11行)と主張している。しかしながら、「注入角度のばらつきを高度に制御できる半導体製造装置」の販売の如何にかかわらず、上述のとおり、本願出願当時、イオンビ-ムの注入量の面内揺らぎを0.5%以下とする均一性を達成するため、注入角度計測部の観測精度として「0.1°以下の精度」とすること、ならびに、「注入角度の相互間の違いが±0.1°以下」でイオン注入を行うという技術的思想は、当業者に既に知られていた事項である。また、引用発明のイオン注入装置や引用例2に記載されている事項が、「注入角度のばらつきを制御することによってチャネリングの発生量そのものを制御する」ことを目的としていることは、イオン注入におけるチャネリングの発生原理(必要であれば、例えば特開平3-8323号公報参照)を勘案すれば当業者に明らかであるし、「注入角度のばらつきをどの程度にすれば、特性のばらつきの小さな半導体装置を作成できるか」は、許容可能な特性のばらつきに応じて、当業者が適宜実験的に検証して定め得る事項にすぎない。 したがって、請求人の前記主張を採用することはできない。 (3)以上検討のとおり、上記各相違点は、単なる設計変更、あるいは、引用例2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得た事項であるから、本件補正発明は、引用発明および引用例2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。 6 本件補正についての結び 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものである。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成20年12月15日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成19年4月9日付け手続補正書によって補正された、特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「処理基板の照射領域内の任意の複数の領域に対して、所定の注入角度でイオンビームを照射するイオン照射部と、 前記イオン照射部と前記処理基板との間に配設され、且つ前記注入角度を0.1°以下の精度で観測でき、且つ前記注入角度を計測する注入角度計測部と、 前記注入角度計測部からの情報に応じて、それぞれの前記注入角度の相互間の違いが±0.1°以下となるように前記イオン照射部を制御する制御部と、 を具備することを特徴とするイオン注入装置。」 2 刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物およびその記載事項、ならびに引用発明は、前記「第2〔理由〕3」の「(1)引用例1」、「(2)引用例2」に記載したとおりである。 3 本願発明と引用発明との対比、検討・判断 本願発明は、上記「第2〔理由〕2」に記載した本件補正発明の発明特定事項である、「前記処理基板の不純物濃度のばらつきを1%以下に抑える」という事項を削除したものに相当する。 そうすると、上記「第2〔理由〕5」で検討したとおり、本件補正発明が、引用発明および引用例2に記載された技術的事項に基いて容易に発明することができたものである以上、「前記処理基板の不純物濃度のばらつきを1%以下に抑える」という発明特定事項を削除した本願発明も、同様の理由により、引用発明および引用例2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明および引用例2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-11-04 |
結審通知日 | 2010-11-09 |
審決日 | 2010-11-22 |
出願番号 | 特願2004-97065(P2004-97065) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 堀部 修平 |
特許庁審判長 |
村田 尚英 |
特許庁審判官 |
今関 雅子 樋口 信宏 |
発明の名称 | イオン注入装置およびイオン注入方法 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 村松 貞男 |