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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1229845 |
審判番号 | 不服2009-12762 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-07-14 |
確定日 | 2011-01-06 |
事件の表示 | 特願2006-268561「インク容器用通気フィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月28日出願公開、特開2006-347184〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成12年11月20日(優先日:平成12年4月5日、出願番号:特願2000-103502号)に出願した特願2000-352432号の一部を、平成17年11月22日に新たな特許出願とした特願2005-369915号の一部を、平成18年9月29日に新たな特許出願としたものであって、平成21年3月23日付けで手続補正がなされ、同年4月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月14日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたもので、その請求項1に係る発明は、平成21年3月23日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という。)。 「フッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂から選ばれる少なくとも一方からなる多孔体と、 引張強さが1MPa以上である通気性支持材とをそれぞれ少なくとも一層含む積層体であって、 前記多孔体は、平均孔径が0.01?5μm、気孔率が50?80%、厚さが10?1000μmであり、 前記通気性支持材の通気度が、ガーレー数により表示して0.1秒/100ml?300秒/100mlであることを特徴とするインク容器用通気フィルタ。」 2.引用刊行物記載の発明 これに対して原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された特開平9-141891号公報(以下「刊行物」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 ア.「【請求項1】2つ以上の箇所に通気孔が形成されたケース内にインクが収容され、前記2つ以上の通気孔のそれぞれに、空気は通過させるが,常圧では前記インクを通さないフィルターが取り付けられており、前記ケースがいかなる姿勢で放置されても、前記2つ以上の通気孔のうちの少なくとも1つに取り付けられている前記フィルターのケース内部側面が前記インクに埋没しないようになっているインクカートリッジ。」 イ.「【0007】 本発明において、前記フィルターとしては、空気は通過させるが,常圧ではインクを通過させないのものであれば、その材質及び構造は特に限定されるものでないが、ポリテトラフルオロエチレン,ポリクロロトリフルオロエチレン,テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体,テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体,テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等のフッ素樹脂からなる多孔質膜を用いるのが好ましい。これは、フッ素樹脂からなる多孔質膜は、通気性,耐インク性が長期に亘って劣化せず、インク洩れを長期に亘って確実に防止でき、しかも、低価格であることから製品コストを低減できるためである。フッ素樹脂からなる多孔質膜における平均孔径は一般に0.05?10μm、好ましくは0.1?4μmの範囲にあるのがよい。この平均孔径が0.05μmよりも小さくなると、通気性が低下して、ケース内部の空間に生じた正の圧力を速やかに解消することが困難になる傾向を示し、10μmよりも大きくなると、膜強度が低下し、長期使用による安定性が得られにくい傾向となる。また、気孔率は一般に30?90%、好ましくは60?85%の範囲にあるのがよい。気孔率が30%よりも小さくなると、通気性が低下して、ケース内部の空間に生じた正の圧力を速やかに解消することが困難になる傾向を示し、気孔率が90%よりも大きくなると、膜強度が低下し、長期使用による安定性が得られにくい傾向となる。」 ウ. 「【0008】 【実施例】図1は本発明の一実施例によるインクカートリッジの構成を示す断面図である。図において、ケース1の中にインク2が収容されている。ケース1の上板の所定部分にはインク注入孔31が形成されており、ここからケース1内にインク2が注入された後、インク注入孔31がキャップ32で封鎖される。キャップ32には通気孔34が形成され、この通気孔34にポリテトラフルオロエチレン製多孔質膜からなるフィルター33が取り付けられている。ケース1の下板の所定部分には通気孔42が形成され、この通気孔42にポリテトラフルオロチエチレン製多孔質膜からなるフィルター41が取り付けられている。ここで、通気孔34と通気孔42の形成位置は、それぞれに取り付けられているフィルター33,41のケース1内部側面がカートリッジ(ケース1)をいかなる姿勢にして放置しても同時にインク2中に埋没することがない位置関係になっている。当然のことながら、インク2の収容量はかかる位置関係が得られるに必要な量に調整されている。なお、カートリッジ(ケース1)にはこれをプリンタの所定位置に搭載した状態で、印字ヘッドに接続されるインク供給口(図示せず)が設けられている。また、カートリッジ(ケース1)に特別なインク供給口を設けることなく、インク注入孔31または通気孔34,42をインク供給口として使用されるようにしてもよい。この場合、カートリッジ(ケース1)をプリンタの所定位置に搭載する際にキャップ32が取り外され、インク注入孔31が印字ヘッドに接続される。あるいは、カートリッジ(ケース1)がプリンタの所定位置に搭載された状態で、通気孔34または通気孔42にあるフィルター33(41)が取り外され、通気孔34または通気孔42が印字ヘッドに接続される。 【0009】以下、本発明を実験例により更に詳細に説明する。 【0010】サンプル1 図2に示すインクカートリッジを作成した。図2において、直径2cm,高さ12cmの円筒状のプラスチック製容器11内には、市販の水系インク(表面張力33dyne/cm)12が4cm^(3)充填され、この容器11の両端に、プラスチック製のキャップ21,23が取りつけられている。キャップ21,23のそれぞれの中央には、直径5mmの通気孔22,24が形成され、これの内側面にフィルター33,41が熱溶着されている。ここで、フィルター33,41は厚みが240μm、平均孔径0.6μm、気孔率71%のポリテトラフルオロエチレン製多孔質膜(日東電工株式会社製)である。 【0011】サンプル2 図3に示すインクカートリッジを作成した。図3において、図2と同一符号は同一または相当する部分を示している。このインクカートリッジは前記図2に示したものとは、キャップ21に通気孔22を形成せず、フィルター33を取り付けていない点で相違している。 【0012】以上のサンプル1,2のインクカートリッジを各5本づつ用意し、冷熱サイクル試験機に投入し、最初に-30℃の雰囲気で5時間保ち、その後直ちに70℃の雰囲気で5時間保つサイクルを5サイクル繰り返した。そして、5サイクル終了後に、インクに接したフィルター41を観察した。観察結果は、サンプル1の5本のインクカートリッジは、いずれもフィルター41にインクの漏洩は認められず、サンプル2の5本のインクカートリッジは、いずれもフィルター41にインクの漏洩が認められた。」 エ.「【図1】 【図2】 【図3】 」 オ.上記ア.及びイ.から、以下の事項が把握できる。 フィルターは空気を通過させる通気性のものである。 カ.上記ア.ないしオ.及び図面を含む刊行物全体の記載から、刊行物には、以下の発明が開示されていると認められる。 「ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂からなる多孔質膜であって、前記多孔質膜は、平均孔径が0.6μm、気孔率が71%、厚さが240μmであり、インクカートリッジの通気孔に取り付けられる通気性のフィルター。」 3.対比 (1)本願発明と刊行物記載の発明とを対比すると、 ア 刊行物記載の発明の「平均孔径が0.6μm、気孔率が71%、厚さが240μm」は、本願発明の「平均孔径が0.01?5μm、気孔率が50?80%、厚さが10?1000μm」に包含される。 イ 刊行物記載の発明の「ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂からなる多孔質膜」は本願発明の「フッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂から選ばれる少なくとも一方からなる多孔体」に包含されるから、刊行物記載の発明における「ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂からなる多孔質膜」は、本願発明の「フッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂から選ばれる少なくとも一方からなる多孔体と、引張強さが1MPa以上である通気性支持材とをそれぞれ少なくとも一層含む積層体」と、フッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂から選ばれる少なくとも一方からなる多孔体を含む層である点で一致する。 ウ インクカートリッジはインクを収容するインク容器を有するから、刊行物記載発明の「インクカートリッジの通気孔に取り付けられる通気性のフィルター」は、本願発明の「インク容器用通気フィルタ」に相当する。 エ 上記アないしウから、本願発明と刊行物記載の発明とは、 「フッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂から選ばれる少なくとも一方からなる多孔体を含む層であって、前記多孔体は、平均孔径が0.01?5μm、気孔率が50?80%、厚さが10?1000μmである、インク容器用通気フィルタ。」である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点: インク容器用通気フィルタが、本願発明では「フッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂から選ばれる少なくとも一方からなる多孔体と、引張強さが1MPa以上である通気性支持材とをそれぞれ少なくとも一層含む積層体であって、 前記通気性支持材の通気度が、ガーレー数により表示して0.1秒/100ml?300秒/100mlである」と特定されているのに対して、刊行物記載の発明は、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂からなる多孔質膜を有するものの、通気性支持体を有しているか否か明らかでなく、したがって、通気性支持体の物性についても明らかでない点。 4.判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点について ア フッ素樹脂からなる多孔体を含む層を通気フィルタとする際、積層体を構成することは本願優先日前周知であり、例えば原査定の拒絶理由に引用された特開平5-202217号公報(【0010】?【0014】等)、特開平7-126428号公報(【0036】及び【0038】等)、特開平9-56816号公報(【0012】等)では、フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、単独では機械的強度に劣るPTFE多孔体の層を補強支持するため、不織布、織布、メッシュ、その他の多孔膜等をPTFE多孔体の層に支持材として積層することが示され、他に、例えば特開昭61-139446号公報(第7頁左上欄第19行?右上欄第9行等)、特開平7-137282号公報(【0091】?【0094】等)では、フッ素樹脂がPTFEであって、PTFE多孔体を含む積層体をインク容器の通気フィルタとして用いることが記載されている。また、前記各文献には通気性の支持材の引張強さに関して直接的な記載は無いが、積層体であってみれば各層を接合する作業工程は当然経ており、接合方法としては、例えば前記特開平9-56816号公報、特開平5-202217号公報にも示されるように溶着による接合が周知であって、すると溶着等の作業工程に耐え得る強度は通常備えるものといえる。 刊行物記載の発明において、フッ素樹脂としてポリテトラフルオロエチレンが挙げられており、通気フィルタの膜強度の低下に対する課題意識も認められるから、インク容器用通気フィルタに上記周知技術を採用し、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂からなる多孔質膜に通気性の支持材を積層して補強することは当業者にとっては通常の技術的工夫の範囲内のものである。 本願発明は、さらに通気性支持材について、引張強さを1MPa以上と特定する。しかしながら、必要となる引張強さは、インク容器内の圧力変化、通気フィルタの位置、インクとの接触状態等、具体的使用状況に応じて様々であり、一方、本願発明においては、インク容器の具体的構造も用途も特定されず、通気フィルタがインク容器に取り付けられること以外、通気フィルタの使用状況は一切明らかにされない。すると、本願発明における該数値限定に臨界的意義を見出すことはできない。本願明細書中、【実施例】も、インクカートリッジとしての使用を前提に、加圧・減圧を繰り返す実験等の結果が良好である通気フィルタとして該数値限定に含まれるものを示すのみで、つまり特定のインク容器の構造、特定のインク、特定のインク量等、特定の条件において良好な結果を得ることができたことを示すのみで、インク容器用フィルタとして普遍的に良好であることを示すものではない。他に、【0007】には、「・・多孔体と通気性支持材とを溶着などにより接合する場合の作業性の観点から、引張強さは1MPa?1500MPaが好適であり、より好ましくは3MPa?500MPaである。」と記載されており、このように積層体の各層を接合する作業工程から要される引張強さであれば、上記周知技術のものも通常備える程度である。 イ PTFE多孔質体を用いたフィルタの通気度が、ガーレー数により表示して0.97秒/100ml?10秒/100ml程度であるものは、本願優先日前周知であり(例えば、上記特開平7-126428号公報(【0057】?【0059】の「実施例3」及び「比較例3」、【0061】?【0062】の「実施例4」及び「比較例4」、【0063】等)、特開平9-103662号公報(【0029】?【0037】の実施例1及び2と比較例1等)、特開平3-174452号公報(第1表の実施例1(7頁右下欄)及び第2図(9頁)等参照。)。ここで、ガーレー数とガレー数[秒]又はガレー秒(sec)とが同義であることは、当業者に自明である。)、PTFE多孔質体と支持体とを組み合わせて通気フィルタを構成する場合は、PTFE多孔質体で規定される通気度に影響しないよう、支持体の通気度が十分なものとなり、なおかつ強度不足にならないように、あまりにも通気度が高くなりすぎないよう適宜選択すべきことは、当業者に自明である。 ウ 上記ア及びイから、刊行物記載の発明において、引張強さ及び通気度を考慮して、適切な引張強さ及び通気度を有する通気性支持体を用い、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得たことである。 (2)効果について 本願発明の作用効果も、刊行物記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-11-09 |
結審通知日 | 2010-11-11 |
審決日 | 2010-11-25 |
出願番号 | 特願2006-268561(P2006-268561) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 桐畑 幸▲廣▼ |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 笹野 秀生 |
発明の名称 | インク容器用通気フィルタ |
代理人 | 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ |