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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B
管理番号 1229855
審判番号 不服2009-23718  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-02 
確定日 2011-01-06 
事件の表示 特願2000-170654「圧縮機」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月21日出願公開、特開2001-349284〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年6月7日の出願であって、平成21年10月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年12月2日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)は、平成18年11月30日付け手続補正、及び平成21年6月2日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】固定子および回転子を有する電動機と、前記電動機の駆動力により駆動され、冷媒ガスを圧縮する圧縮要素部とを有する圧縮機であって、前記回転子に嵌挿される嵌挿部と前記嵌挿部の直径より大きい段差部とを有し、前記電動機の駆動力を前記圧縮要素部に伝達するクランクシャフトと、前記嵌挿部が嵌挿され、前記段差部の直径よりも小さい嵌挿孔を有する油分離器とを備え、前記クランクシャフトを締め付けることで前記クランクシャフトに固定された前記回転子と前記段差部とにより前記油分離器を挟持したことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】 固定子および回転子を有する電動機と、前記電動機の駆動力により駆動され、冷媒ガスを圧縮する圧縮要素部とを有する圧縮機であって、前記回転子に嵌挿される嵌挿部と前記嵌挿部の直径より大きい段差部を有し、前記電動機の駆動力を前記圧縮要素部に伝達するクランクシャフトと、前記嵌挿部が嵌挿され、前記段差部の直径よりも小さい嵌挿孔を有するバランスウェイトとを備え、前記クランクシャフトを締め付けることで前記クランクシャフトに固定された前記回転子と前記段差部とにより前記バランスウェイトを挟持したことを特徴とする圧縮機。
【請求項3】 前記嵌挿部の直径よりも大きく、前記段差部の直径よりも小さい嵌挿孔を有し、軸方向に弾性を有する座金を備え、前記座金を前記油分離器と前記段差部の間若しくは前記油分離器と前記回転子の間に挟持し、前記座金の弾性変形により生ずる押付力により前記油分離器を固定したことを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項4】 前記嵌挿部の直径よりも大きく、前記段差部の直径よりも小さい嵌挿孔を有し、軸方向に弾性を有する座金を備え、前記座金を前記バランスウェイトと前記段差部の間若しくは前記バランスウェイトと前記回転子の間に挟持し、前記座金の弾性変形により生ずる押付力により前記バランスウェイトを固定したことを特徴とする請求項2記載の圧縮機。
【請求項5】 前記油分離器の弾性変形により生ずる押付力により前記油分離器を固定したことを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項6】 前記バランスウェイトの弾性変形により生ずる押付力により前記バランスウェイトを固定したことを特徴とする請求項2記載の圧縮機。
【請求項7】 前記クランクシャフトは、潤滑油を排出する排油穴を有し、この排油穴の上部に前記油分離器を配したことを特徴とする請求項1記載の圧縮機。」

3.本願発明2について
(1)本願発明2は、上記2.に記載したとおりである。
(2)引用例
特開昭57-131895号公報(以下、「引用例」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「この発明は、スクロール圧縮機特にこの圧縮機において行なわれるバランスリングのためのバランスウエイトに関するものである。
この発明は、例えば半密閉形圧縮機として構成したスクロール圧縮機において、バランスリングの設置位置、形状を工夫することによって、圧縮機全系の小形化、軽量化を目的としている。」(第1頁右下欄第4?10行参照)
(い)「第2図はスクロール圧縮機を例えば冷凍あるいは空調に応用しようとする場合の具体的な実施例であって、フロン等のガス体の圧縮機として構成したものであり、所謂半密形の形体を有しているものである。」(第2頁左上欄第19行?右上欄第3行参照)
(う)「図において、(1)は固定スクロール、(2)は揺動スクロール、(3)は吐出口、(4)は圧縮室、(55)は揺動スクロール軸、(6)はクランク軸、(7)は軸受、(8)は電動機ロータ、(9)は電動機ステータ、(10)は第一バランス、(11)は第二バランス、(12)はキー、(13)はスペーサ、(14)はキー、(15)はワッシャ、(16)は回り止めワッシャ、(17)はロータ止めナット、(18)はステータ、…(36)は軸受メタル、(37)は軸受メタル、(38)はスラスト受、…(42)はクランク軸偏心穴である。」(第2頁右上欄第4?18行参照)
(え)「第一バランス(10)は、固定部(73)に設けられたキー溝(74)にそう入されるキー(12)によってクランク軸(6)のキー溝(64)に固定される。」(第4頁左下欄第1?3行参照)
(お)「第14図においてまず、クランク軸(6)を軸受(7)に嵌合せしめ、ついでオルダム継手(34)を軸受(7)にそう入する。オルダム継手(34)の上から揺動スクロール(2)を、クランク軸(6)にはめ込み、その上から固定スクロール(1)をボルト(78)によって、軸受(7)に固定する。クランク軸(6)の下部から第一バランス(10)を取りつけ、スペーサ(13)をそう入して電動機ロータ(8)の軸方向の位置を決め、電動機ロータの下部からワッシャ(15)、回り止めワッシャ(16)を入れて、ロータ止めナット(17)で、第一バランス(10)、スペーサ(13)、電動機ロータ(8)を一体としてクランク軸(6)に固定する。第2図からわかるように、第一バランス(10)は、クランク軸(6)の段付部分にあたってストッパの役目を果している。」(第4頁右下欄第19行?第5頁左上欄第12行参照)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例には、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。
「電動機ステータ(9)および電動機ロータ(8)を有する電動機と、前記電動機の駆動力により駆動され、フロン等のガス体を圧縮する揺動スクロール(2)等からなる圧縮要素部とを有する圧縮機であって、前記電動機ロータ(8)に挿入されてキー(14)により相対回動不能にされた挿入部と前記挿入部の直径より大きい段付部分を有し、前記電動機の駆動力を前記圧縮要素部に伝達するクランク軸(6)と、前記挿入部が挿入され、前記段付部分の直径よりも小さい挿入孔を有し、キー(12)を介して前記クランク軸(6)に対して相対回動不能にされた第一バランス(10)とを備え、第一バランス(10)と前記電動機ロータ(8)との間にスペーサ(13)が介装されて電動機ロータ(8)の軸方向の位置が決められ、電動機ロータ(8)のスペーサ(13)側とは反対側にワッシャ(15)、回り止めワッシャ(16)、及びロータ止めナット(17)が設けられ、ロータ止めナット(17)によって第一バランス(10)、スペーサ(13)、電動機ロータ(8)が一体としてクランク軸(6)に固定され、第一バランス(10)がクランク軸(6)の段付部分にあたってストッパの役目を果している圧縮機。」
(3)対比
本願発明2と引用例発明とを対比すると、後者の「電動機ステータ(9)」は前者の「固定子」に相当し、以下同様に、「電動機ロータ(8)」は「回転子」に、「フロン等のガス体」は「冷媒ガス」に、「段付部分」は「段差部」に、「クランク軸(6)」は「クランクシャフト」に、「第一バランス(10)」は「バランスウェイト」に、それぞれ相当する。また、後者の「挿入」と前者の「嵌挿」とは「取付」である限りで一致する。
以上より、本願発明2の用語に倣って整理すると、両者は、
「固定子および回転子を有する電動機と、前記電動機の駆動力により駆動され、冷媒ガスを圧縮する圧縮要素部とを有する圧縮機であって、前記回転子に取付けられる取付部と前記取付部の直径より大きい段差部を有し、前記電動機の駆動力を前記圧縮要素部に伝達するクランクシャフトと、前記取付部が取付けられ、前記段差部の直径よりも小さい取付孔を有するバランスウェイトとを備えた圧縮機」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願発明2は、「クランクシャフト」が「前記回転子に嵌挿される嵌挿部と前記嵌挿部の直径より大きい段差部を有し」、「前記クランクシャフトを締め付けることで前記クランクシャフトに固定された前記回転子と前記段差部とにより前記バランスウェイトを挟持した」のに対して、引用例発明は、「クランク軸(6)」が「前記電動機ロータ(8)に挿入されてキー(14)により相対回動不能にされた挿入部と前記挿入部の直径より大きい段付部分を有し」、「第一バランス(10)と前記電動機ロータ(8)との間にスペーサ(13)が介装されて電動機ロータ(8)の軸方向の位置が決められ、電動機ロータ(8)のスペーサ(13)側とは反対側にワッシャ(15)、回り止めワッシャ(16)、及びロータ止めナット(17)が設けられ、ロータ止めナット(17)によって第一バランス(10)、スペーサ(13)、電動機ロータ(8)が一体としてクランク軸(6)に固定され、第一バランス(10)がクランク軸(6)の段付部分にあたってストッパの役目をしている」点。
[相違点2]
本願発明2は、「バランスウェイト」が「前記嵌挿部が嵌挿され、前記段差部の直径よりも小さい嵌挿孔を有する」のに対して、引用例発明は、「第一バランス(10)」が「前記挿入部が挿入され、前記段付部分の直径よりも小さい挿入孔を有し、キー(12)を介して前記クランク軸(6)に対して相対回動不能にされた」ものである点。
(4)判断
(4-1)相違点1について
まず、引用例発明は「ロータ止めナット(17)によって第一バランス(10)、スペーサ(13)、電動機ロータ(8)が一体としてクランク軸(6)に固定され、第一バランス(10)がクランク軸(6)の段付部分にあたってストッパの役目を果している」のであるから、これは実質的に、「クランク軸(6)に固定された電動機ロータ(8)と段付部分とにより第一バランサ(10)を挟持」しているということができる。なお、本願発明2が「スペーサ」等を介装せず、回転子と段差部とにより直接的に挟持するものであるかどうかは、本願請求項2の記載からは必ずしも明確ではないが(なお、本願の請求項2を引用する請求項4では「座金」が介装されている)、仮にそうであるとしても、「スペーサ」を設けるかどうかは適宜の設計的事項にすぎない。
次に、引用例発明の電動機ロータ(8)とクランク軸(6)の固定の仕方は、所要の固定強度、製作の簡素化等に応じて適宜設計する事項にすぎない。そして、例えば、実願昭59-179422号(実開昭61-94296号)のマイクロフィルムには「電動要素2はステータ4とロータ5とよりなり、そのロータ5に圧縮要素3を駆動する回転軸6が焼バメ等により取り付けられる。」(明細書第5頁第9?11行参照)と記載され、特開平9-236090号公報には「ロータ部31とクランクシャフト3とは、図3に示すように、バランサ36の突起36Aをクランクシャフト3の切込み3Bに係合するように組み立てられ、焼嵌め固定される。」(第2頁右欄第45?48行参照)と記載されているように、一般に、「クランクシャフトを締め付けることで前記クランクシャフトに固定され」る「電動機ロータ」は周知である。技術分野の共通性ないし類似性からみても、引用例発明における「キー(14)により相対回動不能にされ」、「電動機ロータ(8)のスペーサ(13)側とは反対側にワッシャ(15)、回り止めワッシャ(16)、及びロータ止めナット(17)が設けられ、ロータ止めナット(17)によって第一バランス(10)、スペーサ(13)、電動機ロータ(8)が一体としてクランク軸(6)に固定され」という固定手段に替えて、周知の上記事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。このようにしたものは、実質的にみて、相違点1に係る本願発明2の上記事項を具備しているということができる。
(4-2)相違点2について
引用例発明の第一バランサ(10)が、実質的に、クランク軸(6)に固定された電動機ロータ(8)と段付部分とにより挟持されていることは上述したとおりである。第一バランサ(10)の挿入孔の形状・寸法等は、そのような構成ないし機能を実現し得る限りで適宜設計すれば足りることは明らかであって、挿入孔を「嵌挿孔」とする程度のことは適宜の設計的事項にすぎない。
また、本願発明2は、その「バランスウエイト」と「クランクシャフト」がキー結合していないものに限定されているかどうか、必ずしも明らかではないことは措くとしても、引用例発明において「キー(12)」を設けるかどうかは、第一バランサ(10)形状・大きさ・質量、挟持力等を考慮して適宜設計する事項にすぎない。
そして、本願発明2による作用効果は、引用例に記載された発明及び本周知事項に基づいて当業者が予測し得る程度のものである。
(5)むすび
以上のとおり、本願発明2は、引用例に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、審判請求人は審判請求の理由において、「第一バランス(10)はキー(12)以外ではロータ止めナット(17)を締める力でスペーサ(13)と軸受(7)とで挟まれていることになります。そのことは審査官の引用した中で引用文献1の発明者が『第一バランス(10)は、クランク軸(6)の段付部分にあたってストッパの役目を果たしている』と記していることからも明らかです。ストッパの働きをするものが相手側を支えると捉えるのが常識的で、審査官のように『第一バランス(10)はクランク軸(6)の段付部分と電動機ロータ(8)のスペーサ(13)とで挟持されていると解する』と、この関係が逆になってしまい『ストッパ』の意味が通じません
。」(ここでの「引用文献1」は本審決の「引用例」に相当する。)と主張するが、上記(お)に摘記したように、引用例には、「第2図からわかるように、第一バランス(10)は、クランク軸(6)の段付部分にあたって…」と記載されており、その記載のとおり、引用例の第2図をみると、大小2つの段付部分のうちの下側の小さな段付部分に第一バランサ(10)があたっていることが看取できるのであって、このように「クランク軸(6)に固定された電動機ロータ(8)と段付部分とにより第一バランサ(10)を挟持」していることは上述のとおりである。その場合、第一バランス(10)は、クランク軸(6)の段付部分にあたって、スペーサ(13)、電動機ロータ(8)に対するストッパの役目を果たしているといえるから、このように捉えることに審判請求人が主張するような不自然な点はない。これに対して、引用例の構成では、第一バランス(10)、スペーサ(13)、電動機ロータ(8)が一体としてクランク軸(6)に固定され、これらは一体的に回転するのであるから、請求人が主張するような「第一バランス(10)は…ロータ止めナット(17)を締める力でスペーサ(13)と軸受(7)とで挟まれている」という構成は理解困難である。
同じく、審判請求人は、「仮に引用文献1の構成が審査官の認定通り、ロータ止めナット(17)で締めることで第一バランス(10)をクランク軸(6)の段付部分とスペーサ(13)とで狭持しているとするとして、これとロータでクランク軸を締め付ける技術とをどのようにすれば本願発明と同じ構成になるのか全く理解できません。ロータ止めナット(17)で締めることで第一バランス(10)をクランク軸(6)の段付部分とスペーサ(13)とで狭持できて問題ないならば電動機ロータ(8)でクランク軸(6)を締め付ける構成にする必要はありません。また、ロータ止めナット(17)で締めることで第一バランス(10)をクランク軸(6)の段付部分とスペーサ(13)とで狭持しながら電動機ロータ(8)でクランク軸(6)を締め付ける構成とするのは当然不可能です。」と主張するが、引用例発明の電動機ロータ(8)とクランク軸(6)の固定の仕方は、所要の固定強度、製作の簡素化等に応じて適宜設計する事項にすぎないこと、引用例発明における「キー(14)により相対回動不能にされ」、「電動機ロータ(8)のスペーサ(13)側とは反対側にワッシャ(15)、回り止めワッシャ(16)、及びロータ止めナット(17)が設けられ、ロータ止めナット(17)によって第一バランス(10)、スペーサ(13)、電動機ロータ(8)が一体としてクランク軸(6)に固定され」という固定手段に替えて、周知の事項を適用することは当業者が容易に想到し得たものと認められることは、上述したとおりである。

4.結語
以上のとおり、本願発明2は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明2が特許を受けることができないものである以上、本願発明1及び本願発明3?7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-05 
結審通知日 2010-11-09 
審決日 2010-11-22 
出願番号 特願2000-170654(P2000-170654)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀之  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 常盤 務
倉田 和博
発明の名称 圧縮機  
代理人 村上 加奈子  
代理人 中鶴 一隆  
代理人 高橋 省吾  
代理人 稲葉 忠彦  

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