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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02M
管理番号 1230424
審判番号 不服2008-30487  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-01 
確定日 2011-01-12 
事件の表示 特願2002-170256「電圧変換器」拒絶査定不服審判事件〔平成15年1月10日出願公開,特開2003-9525〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は,平成14年6月11日(パリ条約による優先権主張2001年6月13日,ドイツ国)の出願であって,平成20年8月26日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年12月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に,同年12月25日付け手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正は,平成20年4月16日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲についての
「【請求項1】 被制御の半導体スイッチのハーフブリッジと,変圧器と,整流回路とを具えた電圧変換器であって,前記変圧器の1次巻線を少なくとも1つのキャパシタと直列にして前記ハーフブリッジに接続した電圧変換器において,
前記少なくとも1つのキャパシタと前記変圧器の浮遊インダクタンスとで構成される直列結合の共振周波数が,前記半導体スイッチを制御するパルス周波数の半分よりも大きくなるように,前記少なくとも1つのキャパシタを設計したことを特徴とする電圧変換器。
【請求項2】 変圧器及び前記少なくとも1つのキャパシタにコイルを直列接続し,前記少なくとも1つのキャパシタと前記浮遊インダクタンスと前記コイルとで構成される直列結合の共振周波数が,前記半導体スイッチを制御するパルス周波数の半分よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の電圧変換器。
【請求項3】 前記1次巻線と前記少なくとも1つのキャパシタとの直列結合を,前記ハーフブリッジの中点と一方の端点との間に配置したことを特徴とする請求項1または2に記載の電圧変換器。
【請求項4】 2つのキャパシタがさらなるブリッジアームを形成して,前記1次巻線を,前記ハーフブリッジの中点と前記さらなるブリッジアームの中点との間に配置したことを特徴とする請求項1または2に記載の電圧変換器。
【請求項5】 被制御の半導体スイッチのハーフブリッジと,該ハーフブリッジに接続した少なくとも1つのキャパシタに直列接続した縦コイル及び横コイルと,該横コイルに並列接続した整流回路とを具えた電圧変換器において,
前記少なくとも1つのキャパシタと前記縦コイルとの直列結合の共振周波数が,前記半導体スイッチを制御するパルス周波数の半分よりも大きくなるように,前記少なくとも1つのキャパシタを設計したことを特徴とする電圧変換器。」
を,
「【請求項1】
被制御の半導体スイッチのハーフブリッジと,変圧器と,整流回路とを具えた電圧変換器であって,前記変圧器の1次巻線を少なくとも1つのキャパシタと直列にして前記ハーフブリッジに接続した電圧変換器において,
前記少なくとも1つのキャパシタと前記変圧器の浮遊インダクタンスとで構成される直列結合の共振により,前記変圧器の1次巻線の両端の電圧が,前記半導体スイッチを制御するパルスの1周期中に,初期値の60%以下に減少するように,前記少なくとも1つのキャパシタを設計したことを特徴とする電圧変換器。
【請求項2】
変圧器及び前記少なくとも1つのキャパシタにコイルを直列接続し,前記少なくとも1つのキャパシタと前記浮遊インダクタンスと前記コイルとで構成される直列結合の共振により,前記変圧器の1次巻線の両端の電圧が,前記半導体スイッチを制御するパルスの1周期中に,初期値の60%以下に減少することを特徴とする請求項1に記載の電圧変換器。
【請求項3】
前記1次巻線と前記少なくとも1つのキャパシタとの直列結合を,前記ハーフブリッジの中点と一方の端点との間に配置したことを特徴とする請求項1または2に記載の電圧変換器。
【請求項4】
2つのキャパシタがさらなるブリッジアームを形成し,前記1次巻線を,前記ハーフブリッジの中点と前記さらなるブリッジアームの中点との間に配置したことを特徴とする請求項1または2に記載の電圧変換器。
【請求項5】
被制御の半導体スイッチのハーフブリッジと,該ハーフブリッジに接続した少なくとも1つのキャパシタに直列接続した縦コイル及び横コイルと,該横コイルに並列接続した整流回路とを具えた電圧変換器において,
前記少なくとも1つのキャパシタと前記縦コイルとの直列結合の共振により,前記縦コイルと前記横コイルとの直列結合の両端の電圧が,前記半導体スイッチを制御するパルスの1周期中に,初期値の60%以下に減少するように,前記少なくとも1つのキャパシタを設計したことを特徴とする電圧変換器。」
と補正するものである。

(2)補正事項の検討
(2-1)新規事項の追加について
上記補正事項により,補正後の請求項1に係る発明は,「直列結合の共振により,変圧器の1次巻線の両端の電圧が,半導体スイッチを制御するパルスの1周期中に,初期値の60%以下に減少する」という技術的事項を含むものとなった。

一方,本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,「当初明細書等」という。)には,次の事項が記載されている。

・「【0022】
電圧及び電流波形を図9及び図10に示す本発明による電圧変換器では,個々の半波期間中に電圧U2が目に見えて下降する。そして前記エッジが同じに留まるので,電圧U2のピーク-ピークの測定値がより大きくなるが,より低い電圧値から始まる。電圧U2の曲線のこうした変化形状の結果として,電圧U2の正の半波期間中には,I1及びI2の波形に対する強い影響はないが,負の半波期間中の波形は大きな折れ曲がりを示す。次の正のエッジでちょうど最大値に達するのではなく最大値はずっと前であり,このためキャパシタC_(0)に達する振動の周期毎に,電気量を表わす波形I2の面積が大幅に増加する。
【0023】
図9に示す電圧及び電流波形はC_(DC)=100nF及び35μFの浮遊インダクタンスにもとづくものであり,図10に示す電圧波形はC_(DC)=63nF及び76μFの浮遊インダクタンスにもとづくものである。」

これらの記載及び図示内容からすれば,当初明細書等には,変圧器の1次巻線の両端の電圧が,半導体スイッチを制御するパルスの1周期中に,初期値以下に減少することは記載されているものの,「初期値の60%以下」という数値範囲の上限値を特定することについては,記載及び示唆がされているものではない。
また,当初明細書等の記載から,上記技術的事項が,当業者に自明であるとも,当初明細書等に記載されていたに等しい事項であるともいえず,さらに,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるともいえない。
したがって,上記補正事項を含む補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

よって,上記補正事項を含む補正は,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2-2)本件補正の目的について
補正後の請求項1は,補正前の請求項1を補正対象としたものといえる。
そこで,本件補正の前後の請求項1を対比すると,補正後の請求項1は,補正前の請求項1に記載されていた,「直列結合の共振周波数が,前記半導体スイッチを制御するパルス周波数の半分よりも大きくなる」という技術的事項(以下,「補正前の技術的事項」という。)が削除され,「直列結合の共振により,変圧器の1次巻線の両端の電圧が,半導体スイッチを制御するパルスの1周期中に,初期値の60%以下に減少する」という技術的事項(以下,「補正後の技術的事項」という。)が追加されている。
上記補正後の技術的事項は,変圧器の1次巻線の両端の電圧の変動幅を特定したものであるのに対し,上記補正前の技術的事項は,共振周波数とパルス周波数との関係を特定したものである。そうすると,上記補正後の技術的事項は,上記補正前の技術的事項を異なる表現で表記したものではなく,上記補正前の技術的事項とは異なる技術的事項を特定したものといえるから,本件補正は,特許請求の範囲の減縮,明りょうでない記載の釈明を目的としたものとは認められない。
また,上記補正事項が,請求項の削除,誤記の訂正を目的としたものでないことは明らかである。

よって,上記補正事項を含む補正は,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)むすび
以上のとおり,本件補正は,却下を免れない。

3.本願発明について
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成20年4月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「被制御の半導体スイッチのハーフブリッジと,変圧器と,整流回路とを具えた電圧変換器であって,前記変圧器の1次巻線を少なくとも1つのキャパシタと直列にして前記ハーフブリッジに接続した電圧変換器において,
前記少なくとも1つのキャパシタと前記変圧器の浮遊インダクタンスとで構成される直列結合の共振周波数が,前記半導体スイッチを制御するパルス周波数の半分よりも大きくなるように,前記少なくとも1つのキャパシタを設計したことを特徴とする電圧変換器。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-304776号公報(以下,「引用例」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は産業用や民生用の電子機器に直流安定化電圧を供給するスイッチング電源装置に関するものである。」

・「【0054】(実施例3)以下本発明の第3の実施例について,図面を参照しながら説明する。図5は本発明の第3の実施例におけるスイッチング電源の構成を示すものである。図5において,図11と同じものは同一の符号を記し説明は省略する。
【0055】1は入力直流電源であり,2-2’は入力端子であり,3はトランスで1次巻線3aの一端を漏れインダクタンスまたはインダクタンス素子15とコンデンサ13を介して入力端子2に接続し他端をスイッチング素子4を介して入力端子2’に接続し,2次巻線3cの一端を出力端子10’に他端をダイオード7を介して出力端子10に接続し,バイアス巻線3bの一端を入力端子2’に接続し他端を同期発振回路6に接続している。4はスイッチング素子であり,5はダイオードであり,6は同期発振回路であり,7は整流ダイオードであり,8は平滑コンデンサであり,9は制御回路であり,10-10’は出力端子である。
【0056】11はスイッチング素子であり,制御回路9によりオンオフされる。12はダイオードである。13はコンデンサであり,一端を入力端子2に他端を前記漏れインダクタンスまたはインダクタンス素子14に接続され直流電圧を保持する。15は前記トランス3の1次巻線3aと2次巻線3c間の漏れインダクタンスまたは外付けのインダクタンス素子である。ここで漏れインダクタンスまたはインダクタンス素子15とコンデンサ13は共振し,前記トランス3の2次巻線3cを流れる電流を共振電流とするように設定される。
【0057】以上のように構成されたスイッチング電源装置について,以下にその動作を図6の各部動作波形を参照しながら説明する。
【0058】図6において(a)はスイッチング素子4の両端電圧波形V_(DS)を示しており,(b)は前記スイッチング素子4またはダイオード5に流れる1次電流I_(D)を示しており,(c)は同期発振回路6のスイッチング素子4の駆動パルス波形V_(G1)を示しており,(d)は前記スイッチング素子11または整流ダイオード12に流れる1次電流I_(C)を示しており,(e)はスイッチング素子11への駆動パルス波形V_(G2)を示しており,(f)は前記2次巻線3cに流れる2次電流I_(O)を示しており,(g)はトランス3の磁束φの変化を示している。
【0059】t1で同期発振回路6により決められたオン期間で動作するスイッチング素子4のオン期間に前記トランス3の1次巻線3aにコンデンサ13を通して入力電圧V_(IN)-V_(C)が印加され,前記1次巻線3aを介して流れる1次電流I_(D)によりトランス3に磁束が発生しエネルギーが蓄積される。同時にトランス3の2次巻線3cに誘起電圧が発生し,整流ダイオード7をターンオンして出力電流I_(O)として放出され,平滑コンデンサ8により平滑されて出力電圧V_(OUT)として出力端子10-10’に供給される。
【0060】この時コンデンサ13と漏れインダクタンスまたはインダクタンス素子15は共振し,共振周波数を十分小さく設定されているので,出力電流I_(O)は正弦波状となりゼロから立ち上がり,t_(2)で再びゼロとなる。従って整流ダイオード7はゼロ電流スイッチングとなりリカバリは発生しない。
【0061】また1次側のダイオード12は逆バイアスされ,スイッチング素子11はオフしているように構成されている。この時スイッチング素子11には入力電圧V_(IN)しか印加されない。このときトランス3の1次巻線3aにはトランス3の励磁電流と出力電流の1次側換算電流の和電流が流れる。t_(3)で同期発振回路6のオフ信号によりスイッチング素子4がオフすると前記1次巻線3aにフライバック電圧が発生し,ダイオード12が順バイアスされるとトランス3に蓄積されたエネルギーが前記1次巻線3aとダイオード12を介して1次電流I_(C)として放出され,コンデンサ13により平滑されて直流電圧V_(C)として供給される。
【0062】この時スイッチング素子11は制御回路9によりオンされるがダイオード12とスイッチング素子11のどちらを1次電流I_(C)が流れても特に動作上変化は生じない。このとき前記2次巻線3cにもフライバック電圧が発生し,整流ダイオード7は逆バイアスする方向に電圧が印加されるため整流ダイオード7はオフとなり出力に電流は供給されない。直流電圧V_(C)は実際は直流電圧分と共振電圧である変動分の和電圧となるが,共振電圧による変動分は十分小さく設定できる。
【0064】
【数5】
V_(C)=T_(OFF)/(T_(ON)+T_(OFF))×V_(IN)
(当審注:1行で表記できる式に置き換えた。)
【0065】となる。この時スイッチング素子4には入力電圧V_(IN)しか印加されないのは明らかである。t_(4)で制御回路9によってスイッチング素子11がオフするとトランス3の各巻線電圧は反転し,1次巻線3aに発生する誘起電圧はスイッチング素子4の接続端を負電圧に,入力端子2の接続端を正電圧にする方向に発生するため,ダイオード5を介して入力直流電源1を充電する方向に1次電流I_(D)が流れ,オフ期間中に蓄積されたトランス3のエネルギーを入力直流電源1に電力回生を行う。
【0066】この時に同期発振回路6はスイッチング素子4をオンさせるが,1次電流I_(D)がどちらを流れても特に動作上変化は生じない。オフ期間にトランス3に蓄積されたエネルギーがすべて放出され1次電流がゼロになると,すでにオンしているスイッチング素子4を介して入力直流電源1より前記とは逆方向に充電するように1次電流I_(D)が流れてトランス3に磁束が発生しエネルギーが蓄積される。この状態ではトランス3の各巻線に発生する誘起電圧の極性は変化せず,同期発振回路6によりスイッチング素子4はオンを持続する。これらの動作を繰り返すことで,出力電圧は連続的に出力端子10-10’より供給される。
【0067】出力電圧は第1のスイッチング手段がオンのときトランス3の2次巻線3cに発生する電圧となりトランス3の1次巻線3aには電圧V_(IN)-V_(C)が印加されているため1次巻線3aと2次巻線3cの巻数比をn:1とすると2次巻線には電圧(V_(IN)-V_(C))/nが発生する。従って出力電圧V_(OUT)は
【0068】
【数6】
V_(OUT)=T_(OFF)/n(T_(ON)+T_(OFF))×V_(IN)
(当審注:1行で表記できる式に置き換えた。)
【0069】であり第1のスイッチング手段のオンオフ比を調整することで出力電圧が制御できる。
【0070】本構成では,2次側整流ダイオードがゼロ電流スイッチングとなり,リカバリの発生をなくすことが可能である。さらにスイッチング素子4のターンオフ電流を小さくでき,スイッチングロスを小さくできるという効果もある。」

・引用例の【図5】には,スイッチング素子4とスイッチング素子11によりハーフブリッジを構成すること,整流ダイオード7と平滑コンデンサ8により整流回路を構成すること,1つのコンデンサ13と漏れインダクタンス15により直列結合を構成することがそれぞれ示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると引用例には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「制御回路9により制御されるスイッチング素子11及び同期発振回路6により制御されるスイッチング素子4のハーフブリッジと,トランス3と,整流回路とを具えたスイッチング電源装置であって,前記トランス3の1次巻線3aを1つのコンデンサ13と直列にして前記ハーフブリッジに接続したスイッチング電源装置において,
前記1つのコンデンサ13と前記トランス3の漏れインダクタンス15とで構成される直列結合の共振周波数が,トランス3の2次巻線3cを流れる電流を共振電流とするように設定されたスイッチング電源装置。」

(2)対比
そこで,本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「制御回路9により制御されるスイッチング素子11及び同期発振回路6により制御されるスイッチング素子4」と前者の「被制御の半導体スイッチ」とは,「被制御のスイッチ」との概念で共通しているから,後者の「制御回路9により制御されるスイッチング素子11及び同期発振回路6により制御されるスイッチング素子4のハーフブリッジ」と前者の「被制御の半導体スイッチのハーフブリッジ」とは,「被制御のスイッチのハーフブリッジ」との概念で共通している。
後者の「トランス3」は前者の「変圧器」に相当し,以下同様に,「スイッチング電源装置」は「電圧変換器」に,「1次巻線3a」は「1次巻線」に,「1つのコンデンサ13」は「少なくとも1つのキャパシタ」に,「漏れインダクタンス15」は「浮遊インダクタンス」にそれぞれ相当している。
後者の「1つのコンデンサ13とトランス3の漏れインダクタンス15とで構成される直列結合の共振周波数が,トランス3の2次巻線3cを流れる電流を共振電流とするように設定された」態様と前者の「少なくとも1つのキャパシタと変圧器の浮遊インダクタンスとで構成される直列結合の共振周波数が,半導体スイッチを制御するパルス周波数の半分よりも大きくなるように,前記少なくとも1つのキャパシタを設計した」態様とは,「少なくとも1つのキャパシタと変圧器の浮遊インダクタンスとで構成される直列結合の共振周波数が,所定の値に設計された」との概念で共通している。

したがって,本願発明と引用発明とは,
「被制御のスイッチのハーフブリッジと,変圧器と,整流回路とを具えた電圧変換器であって,前記変圧器の1次巻線を少なくとも1つのキャパシタと直列にして前記ハーフブリッジに接続した電圧変換器において,
前記少なくとも1つのキャパシタと前記変圧器の浮遊インダクタンスとで構成される直列結合の共振周波数が,所定の値に設計された電圧変換器。」
である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
スイッチに関し,本願発明は「半導体スイッチ」であるのに対し,引用発明の「スイッチング素子」はどのような素子であるのか明らかでない点。
[相違点2]
キャパシタと浮遊インダクタンスとで構成される直列結合の共振周波数に関し,本願発明は「半導体スイッチを制御するパルス周波数の半分よりも大きくなるように,少なくとも1つのキャパシタを設計した」ものであるのに対し,引用発明は,かかる特定がなされていない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。

・相違点1について
本願発明において,電圧変換器のハーフブリッジのスイッチとして「半導体スイッチ」を用いることの技術的な意義は,出願当初の明細書には記載されていない。
ここで,一般に,スイッチング方式の電圧変換器において,ハーフブリッジのスイッチとして半導体スイッチを用いることは、引例を挙げるまでもなく常套手段である。
そうすると,引用発明の電圧変換器のハーフブリッジのスイッチに上記常套手段を適用することは,当業者が適宜為し得る事項であり,上記常套手段の適用のために格別の技術的困難性が伴うものとも認められないから,引用発明及び上記常套手段に基づいて,上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。

・相違点2について
本願発明において,「少なくとも1つのキャパシタと変圧器の浮遊インダクタンスとで構成される直列結合の共振周波数が,半導体スイッチを制御するパルス周波数の半分よりも大きくなる」ことによる技術的な意義は,出願当初の明細書には記載されておらず,また,出願人は,平成20年4月16日付けの意見書において,「共振周波数が半導体スイッチを制御するパルス周波数の半分より大きい,即ち共振周波数≧0.5×(パルス周波数)であることの意味は,有用な大きさの出力電流(I2)が得られるおよそのしきい値」であることを主張するものの,「共振周波数がパルス周波数の半分より大きい」という数値範囲の下限値を特定するすることにより得られる出力電流(I2)が「有用な大きさ」であるという作用効果の根拠を何ら開示していない。
ところで,スイッチング方式の電圧変換器において,ハーフブリッジに接続されるキャパシタとインダクタンスとの直列結合の共振周波数を,本願発明で特定される,半導体スイッチを制御するパルス周波数の半分よりも大きくなる範囲内に設定することは,例えば,原査定の拒絶の理由で示した特開平11-215826号公報の段落【0020】には,「発振周波数<共振周波数」とする点が記載され,他にも,特開平4-88876号公報の第3頁右上欄第20行-同頁左下欄第2行には,「スイッチング素子Q1,Q2は,直列共振回路の共振周波数よりも低い周波数で・・・交互にオン・オフ制御される」点が記載され,他にも,特開平10-225122号公報の【図3】には,明らかに,「スイッチング素子11,12」の「動作周波数」である「f1」及び「f2」を,「共振回路2の共振周波数fo」より高く,該「共振周波数fo」の2倍より低い範囲内,即ち,f1/2<fo<f1及びf2/2<fo<f2とする点が記載されているように,本願の出願前において常套手段といえる。
そして,引用発明において,上記常套手段の適用のために格別の技術的困難性が伴うものとも認められず,また,共振回路の共振周波数はキャパシタ及びインダクタンスの値により決定されるものであるところ,該共振周波数の設定をキャパシタ又はインダクタンスのどちらの設計により行うかは,当業者が適宜選択すべきことである。
そうすると,引用発明において上記常套手段を踏まえることにより,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。

そして,本願発明の全体構成により奏される作用効果も,引用発明及び上記常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,本願発明は,引用発明及び上記常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び上記常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-06 
結審通知日 2010-08-17 
審決日 2010-08-31 
出願番号 特願2002-170256(P2002-170256)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02M)
P 1 8・ 561- Z (H02M)
P 1 8・ 57- Z (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安池 一貴  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 冨江 耕太郎
槙原 進
発明の名称 電圧変換器  
代理人 澤田 達也  
代理人 杉村 憲司  
代理人 英 貢  

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