• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
管理番号 1230448
審判番号 不服2007-28815  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-23 
確定日 2011-01-11 
事件の表示 平成 8年特許願第 82393号「光重合性組成物と感圧性難燃接着剤と接着シ?ト類」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月21日出願公開、特開平 9-272844〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願(以下「本願」という。)は平成8年4月4日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成19年 5月10日付け 拒絶理由通知
平成19年 7月23日 意見書・手続補正書
平成19年 9月14日付け 拒絶査定
平成19年10月23日 本件審判請求
平成19年11月 8日 手続補正書(審判請求理由補充書)
平成22年 5月10日付け 拒絶理由通知
平成22年 7月18日 意見書・手続補正書

第2 平成22年5月10日付け拒絶理由通知の概要
当審が平成22年5月10日付けで通知した拒絶理由通知は、以下の拒絶理由を含むものである。

<拒絶理由>
「1)本願の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・(中略)・・


引用文献等
1.特開平3-76703号公報
2.特開平5-271624号公報(原審における「引用文献2」)
3.特開平5-271623号公報(原審における「引用文献3」)
・・(後略)」

第3 当審の判断

1.本願に係る発明
本願に係る発明は、平成19年7月23日付け及び平成22年7月18日付けの各手続補正書で補正された明細書の記載からみて、同明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項で特定される下記のとおりのものである。
「【請求項1】 つぎのa?d成分;
a)アルキル基の炭素数が平均2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル70?100重量%とこれと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体30?0重量%とからなる単量体(またはそのオリゴマー)100重量部
b)交叉結合剤として多官能(メタ)アクリレート0.02?5重量部
c)光重合開始剤0.01?5重量部
d)融点が60℃以上の臭素系難燃剤10?180重量部
を含む光重合性組成物を基材上に塗布し、これに紫外線を照射して光重合処理したのち、100?150℃で加熱乾燥処理して、溶剤不溶分が50重量%以上の光重合物からなる、厚さが10?150μmの感圧性難燃接着剤の層を形成することにより、または上記の光重合性組成物を剥離ライナー上に塗布し、上記と同様の光重合処理および加熱乾燥処理を行って、上記と同様の感圧性難燃接着剤の層を形成したのち、これを基材上に転写することにより、基材の片面または両面に感圧性難燃接着剤の層を有する接着シート類を製造することを特徴とする接着シート類の製造方法。
【請求項2】 基材が耐熱性基材である請求項1に記載の接着シート類の製造方法。」
(以下項番にしたがい、「本願発明1」及び「本願発明2」といい、まとめて「本願発明」ということがある。)

2.上記拒絶理由通知で引用した各文献に記載された事項
上記拒絶理由通知で引用した各文献(以下「引用例1」ないし「引用例3」という。)に記載された事項につき摘示する。

(1)引用例1について
引用例1には、以下の事項が記載されている。

(ア)「1.少なくとも難燃剤、光重合性化合物および光重合開始剤からなることを特徴とするゲル形成性難燃材組成物。
2.請求項1記載のゲル形成性難燃材組成物を光により硬化することを特徴とするゲル状難燃材の製法。」(第1頁左下欄「2.特許請求の範囲」の欄)

(イ)「[産業上の利用分野]
本発明はゲル形成性難燃材組成物および製法に関する。さらに詳しくは粘着性を有するゲル状難燃材組成物およびゲル状難燃材の製法に関する。」(第1頁左下欄第11行?第14行)

(ウ)「本発明において難燃剤としてはリン化合物、臭素化合物、無機化合物およびこれらの混合物が挙げられる。・・(中略)・・臭素化合物の例としてはネオペンチルブロマイドポリエーテル、ネオペンチルブロマイドアジペート、ジブロモプロパノール、ジブロモネオペンチルグリコール、トランス-2,3-ジブロモ-2-ブチン-1,4-ジオール、臭素化ポリエーテル、臭化アンモニウム、ヘキサブロモベンゼン、臭素化フェノール、臭素化フェノール誘導体、臭素化ビスフェノールS、臭素化ジフェニルエーテル、臭素化高分子化合物等が挙げられる。
・・(中略)・・これらのうち、好ましいのはリン化合物、臭素化合物およびこれらの混合物である。」(第1頁右下欄第12行?第2頁左上欄第20行)

(エ)「本発明において光重合性化合物としては(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、ポリエンとポリチオールの組合せ、ポリシランおよびこれらの混合物が挙げられる。(メタ)アクリレートの例としては脂肪族(メタ)アクリレート(アルキル(メタ)アクリレート[メチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等]、・・(中略)・・およびこれらの誘導体が挙げられる。誘導体の具体例は多官能((メタ)アクリレート基2以上)誘導体[グリセリントリアクリレート等]、ウレタン誘導体[アクリル酸とフェニルイソシアネートの反応物等]である。」(第2頁右上欄第1行?左下欄第16行)

(オ)「光重合開始剤としてはUV、EB硬化技術[(株)総合技術センター発行]153頁?156頁記載の光開始剤および/またはラジカル開始剤があげられる。好ましい光開始剤はアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンジルジメチルケタール類およびチオキサンソン類である。」(第3頁左上欄第5行?第10行)

(カ)「好適な添加量の範囲について記述する。難燃剤は難燃剤と光重合性化合物の合計重量に基づいて通常10?90%、好ましくは65?80%である。この範囲外では難燃性が得られないか、もしくはゲル状難燃材が得られない。光重合化合物は難燃剤と光重合性化合物の合計重量に基づいて通常10?90%、好ましくは20?35%である。この範囲外ではゲル状難燃材が得られない。光重合開始剤は光重合性化合物に対し通常0.1?20重量%、好ましくは1?10重量%である。この範囲外では適度な反応性が得られない。」(第3頁左上欄第20行?右上欄第10行)

(キ)「本発明のゲル形成性難燃材組成物に光を照射して重合することによりゲル状難燃材が得られる。具体的には通常200?700nmの波長を透過する容器に組成物を充填後、又は支持体(金属、ガラス、木材、樹脂等)に該組成物をコーティング後に光を照射して硬化することにより得られる。光としては波長が通常200?700nmのもの、好ましくは200?500nmのものが使用できる。・・(中略)・・
ゲル状難燃材は単独でも基材と複合化して使用することもできる。基材としては必要に応じて金属、紙、木材、繊維、樹脂、ゴム、フォーム、コンクリート、セラミック等が使用できる。複合化は基材にゲル状難燃材を張り合わせるか、基材に該組成物をコーティング後、光を照射して硬化することにより得られる。」(第3頁右上欄第11行?左下欄第7行)

(ク)「[発明の効果]
本発明のゲル状難燃材組成物および製法は従来のネオプレンゴムの生産工程に比べ短時間で簡単に製造できるという効果を奏する。また、金属、木材、コンクリートなどと複合化できるため難燃性が要求される住宅や自動車の制振材、防音材、免震材等として特に有用である。」(第3頁右下欄第8行?第14行)

(2)引用例2及び3について
上記引用例2及び3には、それぞれ、「アルキル基の炭素数が平均2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル70?100重量%と、これと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体30?0重量%とからなる単量体100重量部」、「光重合開始剤0.01?5重量部」及び必要に応じて「交叉結合剤としての多官能(メタ)アクリレ?ト0.02?5重量部」「を含む組成物の光重合物からな」「る耐熱性にすぐれた感圧性接着剤」及び「基材の片面または両面に、」当該「耐熱性にすぐれた感圧性接着剤の層が設けられてなる接着シ?ト類」が記載されている(引用例2:【特許請求の範囲】、引用例3:【特許請求の範囲】及び【0025】をそれぞれ参照。)。
また、特に引用例2には、当該「光重合物」が、溶剤不溶分50重量%以上であること及び未反応モノマーを通常1?5重量%程度残存することも記載されており(引用例2:【特許請求の範囲】及び【0036】参照。)、当該残存モノマーにつき、100?150℃で加熱乾燥することにより除去して10000ppm未満とすることによって、残存モノマーが接着剤の高温使用時に揮散して接着面のふくれやガスによる汚染などを引き起こしたり、凝集力が低下することを防ぐことができることも記載されている(引用例2:【0036】?【0039】)。

3.拒絶理由に係る検討

(1)引用例1に記載された発明
上記引用例1には、「難燃剤、光重合性化合物および光重合開始剤からなる」「光により硬化する」「ゲル形成性難燃材組成物」が記載され(摘示(ア))、当該「難燃剤」、「光重合性化合物」及び「光重合開始剤」の量比が、それぞれ、「難燃剤と光重合性化合物の合計重量に基づいて・・10?90%」、「難燃剤と光重合性化合物の合計重量に基づいて・・10?90%」及び「光重合性化合物に対し・・0.1?20重量%」であることも記載されている(摘示(カ))。
そして、当該「難燃剤」として「ヘキサブロモベンゼン、・・臭素化ビスフェノールS、臭素化ジフェニルエーテル、臭素化高分子化合物」などの臭素化合物を使用することが記載されている(摘示(ウ))。
また、当該「光重合性化合物」として「(メタ)アクリレート・・の混合物」が挙げられており、当該「(メタ)アクリレート」の例として「脂肪族(メタ)アクリレート(アルキル(メタ)アクリレート[メチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等]」「およびこれらの誘導体」が挙げられ、当該「誘導体の具体例」として「多官能((メタ)アクリレート基2以上)誘導体[グリセリントリアクリレート等]」が例示されている(摘示(エ))。
さらに、当該「ゲル形成性難燃材組成物」は、「光により硬化すること」により「ゲル状難燃材」とすることができ(摘示(ア))、当該「ゲル状難燃材」は、「粘着性」を有することも記載され(摘示(イ))、当該「ゲル形成性難燃材組成物」を「基材に・・コーティング後、光を照射して硬化することにより」「複合化」した物を得ることも記載されている(摘示(キ))。
なお、当該「複合化」した物は、「基材」の表面に「ゲル状難燃材」の層が積層された積層体であることが自明である。
してみると、上記引用例1には、上記摘示(ア)ないし(ク)からみて、本願発明1に倣い表現すると、
「光重合性化合物と臭素化合物からなる難燃剤の合計量に対して、つぎのa?c成分;
a)アルキル(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレート誘導体との混合物などの光重合性化合物10?90重量%
b)光重合開始剤0.1?20重量%
c)ヘキサブロモベンゼン、臭素化ジフェニルエーテルなどの臭素化合物からなる難燃剤10?90重量%
を含む光重合性組成物を金属などの基材上に塗布し、これに光を照射して光重合処理して難燃剤組成物のゲル状粘着性層を形成することにより、基材の片面にゲル状粘着性難燃剤組成物のゲル状粘着性層を有する積層体を製造することを特徴とする積層体の製造方法」
に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比・検討
以下、本願発明1及び2につき、順次、上記引用発明と対比・検討する。

ア.本願発明1について

(ア)対比
本願発明1と上記引用発明とを対比すると、引用発明における「光重合性化合物」は、「アルキル(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレート誘導体との混合物」を含むものであるから、本願発明1における「(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる単量体」及び「交叉結合剤として多官能(メタ)アクリレ-ト」の組成物に相当するものといえる。
また、引用発明における「光重合開始剤」は、本願発明1における「光重合開始剤」に相当し、さらに、引用発明における「臭素化合物からなる難燃剤」は、本願発明1における「臭素系難燃剤」に相当することが明らかである。
そして、各成分の量比範囲につき検討すると、引用発明における各成分の量比範囲は、「光重合性化合物」を100重量部とすると、「難燃剤」が「11?900重量部」であり、「光重合開始剤」が「0.1?20重量部」であるといえるから、本願発明1における「a)単量体」及び「b)交叉結合剤」の合計100重量部に対する「c)光重合開始剤」及び「d)臭素系難燃剤」の量比範囲との対比において、「0.1?5重量部」及び「11?180重量部」なるそれぞれの範囲で重複している。
さらに、引用発明における「光重合性組成物を金属などの基材上に塗布し、これに光を照射して光重合処理して難燃剤組成物のゲル状粘着性層を形成することにより、基材の片面にゲル状粘着性難燃剤組成物のゲル状粘着性層を有する積層体を製造する」は、「紫外線」は「光」の一種であること、引用発明における「難燃剤組成物のゲル状粘着性層」が、本願発明1でいう「感圧性難燃接着剤の層」に相当すること及び本願発明1における「接着シート類」が、「基材からなる層」と「感圧性難燃接着剤の層」との複数の層が積層されたものであり、引用発明における「積層体」の一種であることがいずれも当業者に自明であるから、本願発明1における「光重合性組成物を基材上に塗布し、これに紫外線を照射して光重合処理し・・て、・・光重合物からなる・・感圧性難燃接着剤の層を形成する・・基材の片面・・に感圧性難燃接着剤の層を有する接着シート類を製造する」に相当するといえる。
なお、本願発明1における「接着シート類」と引用発明における「積層体」との用途上の相違については、後述する。
してみると、本願発明1と引用発明とは、
「つぎのa?d成分;
a)(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる単量体
b)交叉結合剤として多官能(メタ)アクリレート
(上記a)成分とb)成分との合計量が100重量部である。)
c)光重合開始剤0.1?5重量部
d)臭素系難燃剤11?180重量部
を含む光重合性組成物を基材上に塗布し、これに紫外線を照射して光重合処理して、光重合物からなる感圧性難燃接着剤の層を形成する基材の片面に感圧性難燃接着剤の層を有する積層体を製造する積層体の製造方法」
に係る点で一致し、下記の各点で相違する。

相違点1:光重合性を有する単量体及び交叉結合剤の成分につき、本願発明1では「a)アルキル基の炭素数が平均2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル70?100重量%とこれと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体30?0重量%とからなる単量体(またはそのオリゴマ?)100重量部」と「b)交叉結合剤として多官能(メタ)アクリレ?ト0.02?5重量部」とを併用するのに対して、引用発明では、「a)光重合性化合物と難燃剤の合計量に対して10?90重量%のアルキル(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレート誘導体との混合物などの光重合性化合物」である点
相違点2:臭素系難燃剤につき、本願発明1では「融点が60℃以上」のものであるのに対して、引用発明では、「ヘキサブロモベンゼン、臭素化ジフェニルエーテルなどの臭素化合物からなる難燃剤」であり、その融点につき特定されていない点
相違点3:本願発明1では、「光重合処理したのち、100?150℃で加熱乾燥処理」するのに対し、引用発明では、「加熱乾燥処理」につき規定されていない点
相違点4:光重合物につき、本願発明1では、「溶剤不溶分が50重量%以上」であるのに対し、引用発明では、「溶剤不溶分」につき特定されていない点
相違点5:感圧性難燃接着剤の層につき、本願発明1では、「厚さが10?150μm」であるのに対し、引用発明では、「難燃剤組成物のゲル状粘着性層」の厚さにつき特定されていない点
相違点6:本願発明1は、「接着シート類の製造方法」に係るものであるのに対し、引用発明は、「積層体の製造方法」に係るものである点

(イ)相違点についての検討

(a)相違点1について
上記引用例2及び3にもそれぞれ記載されているとおり、アルキル基の炭素数が平均2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル70?100重量%とこれと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体30?0重量%とからなる単量体100重量部及び交叉結合剤としての多官能(メタ)アクリレ?ト0.02?5重量部を光重合性の成分とし、さらに光重合開始剤0.01?5重量部を含む光重合性組成物を光重合することにより、耐熱性に優れた感圧性接着剤又は当該感圧性接着剤の層を基材表面に有する接着シートを構成することは、当業界の周知技術である。
してみると、引用発明において、粘着性層の耐熱性の改善などを意図し、上記当業界の周知技術に基づき、引用発明における「光重合性化合物」として、「アルキル基の炭素数が平均2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル70?100重量%とこれと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体30?0重量%とからなる単量体100重量部及び交叉結合剤としての多官能(メタ)アクリレ?ト0.02?5重量部」との混合物を使用することは、当業者が適宜なし得ることである。

(b)相違点2について
慣用の「臭素系難燃剤」は、一般に融点(又は軟化点)が60℃以上であることが当業者に周知の事項であるといえる(必要ならば下記参考文献参照。)から、引用発明における「ヘキサブロモベンゼン、臭素化ジフェニルエーテルなどの臭素化合物からなる難燃剤」についても融点(又は軟化点)が60℃以上であると解するのが自然である。
してみると、上記相違点2については、実質的な相違ではないか、物性により単に規定したものであり、当業者が適宜なし得ることである。

参考文献:「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品[改訂第二版]」1993年10月30日、株式会社ラバーダイジェスト社編集・発行、第368?376頁、「d.臭素系難燃剤」の欄

(c)相違点3及び4について
上記相違点3及び4につき併せて検討すると、上記引用例2にも記載されているとおり、アルキル基の炭素数が平均2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル70?100重量%とこれと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体30?0重量%とからなる単量体100重量部及び交叉結合剤としての多官能(メタ)アクリレ?ト0.02?5重量部を光重合性の成分とし、さらに光重合開始剤0.01?5重量部を含む光重合性組成物を光重合することにより得られる光重合物が、溶剤不溶分50重量%以上であること及び未反応モノマーを通常1?5重量%程度残存含有することは、いずれも少なくとも公知の技術事項であり、また、残存未反応モノマーにつき、接着剤の高温使用時の揮散による接着面のふくれやガス汚染及び凝集力低下の防止を意図し、光重合処理ののちに100?150℃でさらに加熱乾燥し当該未反応モノマーを除去することも、少なくとも公知の技術である。
してみると、引用発明において、耐熱性を有する粘着性層を構成するために、上記光重合性組成物を光重合性化合物として使用した場合に、光重合物が溶剤不溶分50重量%以上であることは、上記公知技術に基づき、当業者が予期し得ることであり、また、引用発明において、光重合処理ののちに100?150℃でさらに加熱乾燥処理することも、上記公知技術に基づき、当業者が容易になし得ることである。
したがって、上記相違点3及び4に係る事項は、いずれも当業者が適宜なし得ることである。

(d)相違点5について
上記相違点5につき検討すると、接着シート類の技術分野において、(感圧性)接着剤(粘着剤)の層の厚さを所望に応じて決定することは、当業者が適宜なし得ることであり、上記引用例2又は3にも見られるとおり、例えば50μm程度にすることも、当業者が適宜なし得ることといえる。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、「感圧性難燃接着剤の層」の厚さを「10?150μm」とすべき技術的要因となる事項につき記載ないし示唆されていない。
してみると、引用発明において、「難燃剤組成物のゲル状粘着性層」の厚さを「10?150μm」と規定することは、当業者が所望に応じて適宜なし得る事項というほかはない。

(e)相違点6について
上記相違点6につき検討すると、引用発明の製造方法により製造された「積層体」は、金属などの基材と複合化されて住宅や自動車の制振材、防音材などの用途に使用されるものであり(上記摘示(ク)参照。)、当該各用途における使用の際、「難燃剤組成物のゲル状粘着性層」の粘着性によって各種の部材に貼り付ける態様を意図していることが当業者に自明であるから、引用発明における「積層体」を「接着シート類」と用途表現することは、当業者が適宜なし得ることである。

(f)相違点1ないし6に係る検討のまとめ
以上のとおり、上記相違点1ないし6については、いずれも、実質的な相違でないか、当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)本願発明の効果について
本願発明の効果につき検討すると、引用発明の製造方法により製造された「積層体」は、十分な難燃性が付与することができるものであり(必要ならば上記摘示(キ)及び(ク)参照。)、また、上記引用例2及び3にもそれぞれ記載されている上記当業界の周知技術の「感圧性接着剤」は、「耐熱性」、すなわち高温保持力などの高温における接着性能に優れるものである(必要ならば引用例2及び3の実施例に係る記載を参照。)から、引用発明及び当業界の周知技術を組み合わせて「接着シート類の製造方法」を構成した場合、製造される接着シート類が難燃性及び耐熱性なる高温における接着性能に優れるであろうことは、当業者が予期し得ることである。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、本願発明1の構成をとることにより、他の特異な効果を奏するものとはいえない。
してみると、本願発明1が、引用発明及び上記当業界の周知技術から当業者が予期し得ない程度の格別顕著な効果を奏するものとはいえない。

(エ)小括
したがって、本願発明1は、上記引用発明及び当業界の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ.本願発明2について
本願発明1を引用する本願発明2につき検討する。
本願発明2と上記引用発明とを対比すると、引用発明における「金属などの基材」が、本願発明2における「基材が耐熱性基材である」に相当することが明らかであるから、上記ア.(ア)で指摘した相違点1ないし6以外の新たな相違点が生じるものではない。
そして、相違点1ないし6については、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、引用発明及び当業界の周知技術に基づき、当業者が適宜なし得ることである。
そして、本願発明2の効果について本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、上記ア.(ウ)で指摘したもの以外の他の特異な効果を奏するとはいえない。
したがって、本願発明2は、上記引用発明及び当業界の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.対比・検討に係るまとめ
以上のとおり、本願発明1及び2は、いずれも、上記引用発明及び当業界の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)審判請求人の主張について
なお、審判請求人(出願人)は、平成22年7月18日付け意見書において、
「引用例2,3には、本願発明と同様のa?c成分を含む光重合性組成物を使用しこれを紫外線の照射により光重合処理して、接着剤の層を形成することが開示され、また特に引用例2には、上記の光重合処理後にさらに加熱乾燥処理を施し、残存モノマー量を低減した接着剤の層を形成することが開示されています。
しかし、引用例2,3では、a?c成分を含む光重合性組成物中にラジカル連鎖禁止剤を含ませることを必要不可欠とし、これにより光重合後の保存安定性を確保することを特徴としたものであります。この場合、紫外線照射による光重合反応が阻害されるため未反応モノマーが多量に残存しやすく、引用例2ではその後に加熱乾燥処理を施すことで残存モノマー量を低減させることを教示したものであります。
これに対し、本願発明は、引用例2,3のようなラジカル連鎖禁止剤を含ませることを要件としていないため、上記のような加熱乾燥処理は本来必要のないものでありますが、d成分の臭素系難燃剤を含ませたことにより光重合反応へのなんらかの悪影響を考慮し、光重合処理後にあえて加熱乾燥処理を施して、残存する1?5重量%程度の僅かな未反応モノマーを除去することにより、十分に高い分子量を有すると共に、内部架橋により溶剤不溶分が50重量%以上となる高い架橋度を有する光重合物を形成し、これにより接着性と保持性に優れ、特に高温での保持力に優れて良好な耐熱性を備え、しかも難燃性を有する接着シート類を得るに至ったものであります。
引用例2,3には、ラジカル連鎖禁止剤を含ませる代わりに、臭素系難燃剤を含ませた光重合性組成物に対して、光重合処理後に加熱乾燥処理を施して、上記本願特有の効果を発揮させるという技術思想の開示はどこにもないのです。」
と主張する(「(3)」欄第7段落?第10段落(第2頁下段))。

しかるに、特に上記引用例2の記載につき検討すると、引用例2には、以下の事項が記載されている。
・「光重合させるべき接着剤組成物中に、ラジカル反応に起因した酸化,分解による劣化を防ぐに十分な量のラジカル連鎖禁止剤を加えて、長期高温安定性の向上を図る一方、上記連鎖禁止剤の使用に起因した重合阻害による未反応モノマ?の残存に対して、このモノマ?の減少を前記従来のような重合率の向上に求めるのではなく、光重合後に残存モノマ?を加熱乾燥によつて除去することで解決すれば、従来のような残存モノマ?と低分子量物の生成による接着阻害などの問題を本質的に回避できることを知り、本発明を完成するに至つた。」(【0015】)
・「このような紫外線の照射にて得られる光重合物は、十分に高い分子量を有していると共に、c成分の交叉結合剤によつて内部架橋されて、溶剤不溶分が50重量%以上、好ましくは70?95重量%となる高い架橋度を有している。ところが、この光重合物中には、既述のように、未反応モノマ?が通常1?5重量%程度残存している。
本発明においては、上記の残存モノマ?を加熱乾燥により除去して、未反応モノマ?を10,000ppm 未満、特に好ましくは5,000ppm 以下とすることを大きな特徴とする。こうすることにより、残存モノマ?が接着剤の高温使用時に揮散して、接着面のふくれやガスによる汚染などを引き起こしたり、凝集力が著しく低下するのを防ぐことができる。」(【0036】?【0037】)
・「比較例2
熱風循環乾燥機中での加熱乾燥を省いた以外は、実施例1と全く同様にして、接着シ?トを作製した。」(【0051】)
・「表1」(【0060】)
比較例2に係る残存モノマー量が20000ppmであったことが記載されている。

上記記載からみて、引用例2の技術では、ラジカル連鎖禁止剤を添加使用した光重合させるべき接着剤組成物の紫外線照射による光重合物が、十分に高い分子量及び高い架橋度を有するものの、未反応モノマーを通常1?5重量%(例えば20000ppm(2重量%))含有しており、当該量の未反応モノマーによる(高温時の)接着阻害などの問題を解決するために、光重合後に残存モノマーを加熱乾燥によって除去しているものと解するのが相当である。
それに対して、本願発明におけるラジカル連鎖禁止剤を添加しない「光重合物」であっても、通常1?5重量%の残存モノマー量なのである(本願明細書【0021】参照。)から、ラジカル連鎖禁止剤及び難燃剤の有無にかかわらず、同程度の残存モノマーが存在するといえる。
そして、引用例2の技術においても、感圧接着剤層の接着後の高温安定性、すなわち耐熱性を改善する点で、本願発明の解決課題と軌を一にするものであるから、技術思想上の実質的差異が存するとはいえない。
なお、請求人の「引用例2,3では、a?c成分を含む光重合性組成物中にラジカル連鎖禁止剤を含ませることを必要不可欠とし、これにより光重合後の保存安定性を確保することを特徴としたものであります。」との主張、特に「光重合後の保存安定性を確保することを特徴とする」との点は、引用例2の記載を検討しても、本願発明における「高温時の保持特性」などの耐熱(接着)性と実質的に同義の「高温での耐熱保持性」又は「厳しい条件下での長期高温安定性」なる記載があるのみであって、当該主張の基礎となる事項が記載されておらず不明であるから、引用例2の記載事項を正解しないものと解するほかはない。
してみると、上記意見書における主張は、技術的根拠を欠くものであるか、引用例2の記載に基づかないものであり、いずれにしても当を得ないものである。
したがって、審判請求人の上記意見書の主張は、当を得ないものであるから、採用する余地がなく、当審の上記(2)の検討の結果を左右するものではない。

4.拒絶理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明1及び2は、いずれも、引用発明及び当業界の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願は、同出願に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-04 
結審通知日 2010-11-09 
審決日 2010-11-22 
出願番号 特願平8-82393
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09J)
P 1 8・ 161- WZ (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中西 聡  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 橋本 栄和
井上 千弥子
発明の名称 光重合性組成物と感圧性難燃接着剤と接着シ?ト類  
代理人 祢▲ぎ▼元 邦夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ