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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1230531
審判番号 不服2007-10757  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-13 
確定日 2011-01-13 
事件の表示 特願2004-249522「高浸透性を有する生理活性水の製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 9日出願公開、特開2006- 63040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯、本願発明
本願は、平成16年8月30日の出願であって、平成18年5月9日付けで拒絶理由が通知され、平成18年11月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成18年12月5日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成19年2月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成19年3月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年4月13日に審判請求がなされるとともに同日付けの手続補正書が提出されたものである。その後、平成22年5月12日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知されたが、これに対し何ら回答がなかった。

II.平成19年4月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年4月13日付けの手続補正を却下する。

[理由]
本件補正により、次のとおり、平成19年2月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲が下記(A)に補正され、明細書の段落【0005】及び【0029】が下記(B)に補正された。

(A)「【請求項1】
水分子が水素結合によって凝集して大きい集合体となっている通常の原料水を用い、この原料水について孔径0.1?20μmである多孔質ガラスフィルターを複数回通して、水分子の集合体からほぼ均一で小さい分子集団の水を得るとともに除菌フィルターを通し、さらに水との親和性および生理活性を有する有機ゲルマニウムの粉末を添加して溶解させることにより、有機ゲルマニウムのイオン化によって、ほぼ均一で小さい分子集団の水が再凝集することを防止して安定化させる高浸透性を有する生理活性水の製造法。
【請求項2】
通常の水に比べて凝集する水分子の数が少ない集合構造の水を保存可能とするために、原料水を孔径0.1?20μmである多孔質ガラスフィルターで2回濾過してから、クッションタンクにおいて有機ゲルマニウムの結晶性粉末を混入して溶解させる請求項1記載の製造法。
【請求項3】
通常の水に比べて凝集する水分子の数が少ない集合構造の水を保存可能とするために、有機ゲルマニウムの結晶性粉末を添加して溶解させ、プレート式熱交換機によって加熱殺菌した後に、さらに孔径0.1?20μmである多孔質ガラスフィルターを通す請求項1記載の製造法。」

(B)「【0005】
特公昭63-66777号で開示された多孔質ガラス成形物で通常の水を濾過すると、水の集合構造が改質され、大きな集合構造から均一で小さい分子集団となっても、通常の化学結合と比較して1/10?1/100程度の強さである分子間力の存在により、数日間の保存で元の大きな集合構造に戻りやすく、保存が利かないため、ポリ容器などに入れてクラスター水として販売することができない。保存のためにデンプンなどを添加しても、保存が完全でないうえに、保存剤が人体に有害になる場合もしばしば発生している。
【0029】
得た生理活性水は、ナノクラスター化されており、公知の液体イオン化質量分析法(LI-MS)で測定すると凝集する水分子の数が少なく、羊水や脳水のような人体の体液とほぼ等しい集合構造の水になっており、通常の有機ゲルマニウム水溶液に比べて体内への吸収性が非常に高い。この生理活性水は、有機ゲルマニウムが溶解したナノクラスター水であるから、分子間力で集合した水の集合構造が一般に不安定で様々な不純物を取り込んで大きく凝集する性質があっても、有機ゲルマニウムのイオン化によってナノクラスター水が再凝集することを防止し、数年に亘って常温で長期間保存することが可能である。」

本件補正の上記(A)は、請求項1において「ナノクラスター水」を「小さい分子集団の水」とし、「ナノクラスター水が再凝集する」を「ほぼ均一で小さい分子集団の水が再凝集する」とし、請求項2及び3において「集合構造であるナノクラスター水を得るために」を「集合構造の水を保存可能とするために」と変更するものである。請求項1の補正は、明りょうでない記載の釈明を目的としたものとみることができなくはないが、請求項2及び3の補正は、「ナノクラスター水を得る」ことから「水を保存可能とする」に変更しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの)を目的とする補正に該当するものではなく、また、誤記の訂正や明りょうでない記載の釈明に該当するものでない。
また、上記(B)の段落【0029】における「公知の液体イオン化質量分析法(LI-MS)で測定すると」は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されておらず、同記載から自明な事項ではない。
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項、及び第3項の規定の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
平成19年4月13日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された発明は、平成19年2月7日付けで手続補正された明細書および図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。

【請求項1】
水分子が水素結合によって凝集して大きい集合体となっている通常の原料水を用い、この原料水について孔径0.1?20μmである多孔質ガラスフィルターを複数回通して、水分子の集合体からほぼ均一のナノクラスター水を得るとともに除菌フィルターを通し、さらに水との親和性および生理活性を有する有機ゲルマニウムの粉末を添加して溶解させることにより、有機ゲルマニウムのイオン化によってナノクラスター水が再凝集することを防止して安定化させる高浸透性を有する生理活性水の製造法。

IV.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、「この出願は、平成18年12月5日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶すべきものである。」であり、平成18年12月5日付け拒絶理由通知書に記載の理由2は、「この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項2号の規定する要件を満たしていない」というものである。

V.当審の判断
1.特許法第36条第6項2号(明確性)について
(1)請求項1に「水分子が水素結合によって凝集して大きい集合体となっている通常の原料水を用い、この原料水について孔径0.1?20μmである多孔質ガラスフィルターを複数回通して、水分子の集合体からほぼ均一のナノクラスター水を得る」という特定事項が記載されている。
この特定事項の「ナノクラスター水」は、一般的に「クラスター」が「原子や分子の集まりの中で、特定の一部の原子や分子が結びついて一つのかたまりとなり、物理的に安定し、かつその集まりの中で一定の役割をになっている状態。」(大辞泉)をいうものであるとしても、孔径0.1?20μmである多孔質ガラスフィルターを複数回通すことによって水の分子状態がどのようなものになるのか必ずしも判然としないことから、こうして得られた「ナノクラスター水」がどの様なものであるのか、必ずしも明らかであるとはいえない。
そこで、本願明細書をみてみると、この「ナノクラスター水」について、次の記載がある。
(ア)「前記のクラスター水とは、通常の水に比べて凝集する水分子の数が少なく、小さい集合構造の水についての名称である。・・・クラスター水は、通常の水を非常に微細な多孔質フィルターで濾過すれば比較的容易に製造できる可能性があり、この種のフィルターとして、例えば特公昭63-66777号で開示された多孔質ガラス成形物を使用すればよい。この多孔質ガラス成形物は、貫通細孔の孔径が200?10000nmであり、通常の水がこの多孔質ガラス成形物を通過すると集合構造が改質され、大きな集合構造から均一で小さい分子集団となる。」(段落【0004】)
(イ)「得た生理活性水は、ナノクラスター化されており、凝集する水分子の数が少なく、羊水や脳水のような人体の体液とほぼ等しい集合構造の水になっており、通常の有機ゲルマニウム水溶液に比べて体内への吸収性が非常に高い。この生理活性水は、有機ゲルマニウムが溶解したナノクラスター水であるから、分子間力で集合した水の集合構造が一般に不安定で様々な不純物を取り込んで大きく凝集する性質があっても、有機ゲルマニウムのイオン化によってナノクラスター水が再凝集することを防止し、数年に亘って常温で長期間保存することが可能である。」(段落【0029】)

これらの記載によれば、ナノクラスター水とは、通常の水に比べて凝集する水分子の数が少なく、小さい集合構造の水をいい、羊水や脳水のような人体の体液とほぼ等しい集合構造の水であり、通常の水が貫通細孔の孔径が200?10000nm(0.2?10μm換算)の多孔質ガラス成形物を通過することで大きな集合構造から均一で小さい分子集団となるというものである。そして、上記特定事項の技術的意義は、体内への吸収性が非常に高く、有機ゲルマニウムのイオン化によってナノクラスター水が再凝集することを防止し、数年に亘って常温で長期間保存することができるということにある。
してみると、ここでいう「ナノクラスター水」とは一応、水分子の凝集が少なく、凝集の小さい集合構造の水である、と理解はできる。しかしながら、上記記載(ア)によれば、クラスター水は、通常の水を非常に微細な多孔質フィルターで濾過すれば比較的容易に製造できることは、その可能性があることを述べたにすぎず、微細な多孔質フィルターで濾過した水が大きな集合構造から均一で小さい分子集団となっているか確認できず、また、羊水や脳水のような人体の体液がどのような集合構造であるのかも明らかであるとはいえない。
そして、特開平6-125737号公報(拒絶理由通知で提示した引用文献3、「文献a」という。)には、【特許請求の範囲】、段落【0011】によれば、平均細孔径が0.1?25.0μmの多孔質ガラス膜材に液状食用品を透過させると、水分子が呈味阻害分子を包み込んでクラスターを形成し呈味を向上させることが記載されているといえる。また、特開2002-35761号公報(拒絶理由通知で提示した引用文献5、「文献b」という。)には、「クラスターとは水が水素2個と酸素1個とからなる分子が分子間に働く電気的な力(酸素と水素間の水素結合)により形成する集団のことをいい、・・・クラスター処理とはこのクラスターを小さくすることを意味する」(段落【0015】)、「・・・クラスター処理の方法は、磁力線処理、微弱電流処理、電場処理、セラミック板処理、遠赤外線処理、高周波(電磁波)処理、機械的処理、超音波処理、起電力処理、レーザー光線処理、または天然鉱石処理のいずれかを単独でまたは組み合わせて行われ得る。」(段落【0017】)、「【発明の効果】・・・クラスター水は、油脂類の分散性に優れるとともに、細胞等への吸収性に優れる。・・・」(段落【0158】)と記載されている。
上記文献aによれば、平均細孔径が0.1?25.0μmの多孔質ガラス膜材を透過させると、水分子が呈味阻害分子を包み込んでクラスターを形成することが記載されているといえ、これはナノクラスター化とは逆の事象が生じることを意味し、上記文献bをみると、クラスター処理が磁力線処理等で行われると記載されるものの、多孔質ガラス成形物を通過させてクラスター処理されることについては一切開示されていない。そして、他に、多孔質ガラス成形物により水のナノクラスター処理ができることが一般的に自明な事項でもない。
以上のことに照らせば、ここでいう「ナノクラスター」が一体如何なるものであるか不明であるとともに、本願明細書で記載される「ナノクラスター水」が生成されているのか否かも不明であると云わざるを得ない。
また、水のクラスターについて、請求人は平成19年2月7日付け意見書(【意見の内容】2.理由(1)について、3.理由(2)について)及び平成19年4月13日付け審判請求書(【本願発明が特許されるべき理由】4.本願発明と引用発明との対比)において、次の甲第1?7号証を提示して、概ね以下のとおり主張している。
(a)液体イオン化質量分析法は、横浜国大元教授の土屋氏によって開発され(甲第1号証参照)、水のクラスターイオンの測定についても、遅くとも昭和57年に日本質量分析学会において研究発表されている(甲第2号証参照)。
(b)甲第3号証の第1頁右欄20行から第2頁左欄3行を参照すると、水のクラスターをNMRによって測定すれば個々のクラスターの大きさは測定できなくても、O^(17)のピーク幅が広いか狭いかによって、水素結合を作る2種の水のクラスターの大きさの相対的な比較は可能であることを示唆している。
(c)ナノクラスター化していることの原理的な背景は、甲第2号証第307頁右欄13行から第308頁右欄14行ならびにFig.2から明らかであり、甲第3号証から甲第5号証により詳細に開示されている。。また、測定条件は、甲第2号証第306頁左欄3行から第307頁右欄11行ならびに甲第4号証および甲第5号証に開示されており、いずれも明らかに本願出願時の技術常識にすぎない。
(d)本願発明に係る生理活性水については、甲第7号証にも詳細に説明されていおり、甲第7号証のカタログなどを用いて主としてインターネットで通信販売されている。
甲第1号証:「学会賞 土屋正彦氏(横浜国立大学、名誉教授)」と題する文献
甲第2号証:土屋正彦ほか1名、液体イオン化質量分析計によるクラスターイオンの測定「質量分析Vol.30、No.4、December1982」第305?312頁
甲第3号証:「イオン・クラスター・エアーVol.3 No.1、1996」第123?127頁
甲第4号証:「イオン・クラスター・エアーVol.3 No.2、1996」第275?284頁
甲第5号証:「イオン・クラスター・エアーVol.3 No.3、1996」第325?330頁
甲第6号証:「^(1)H-NMR法 核磁気共鳴スペクトル」と題する測定グラフ
甲第7号証:「ナノクラスターGeルルド水」と題する商品カタログ
上記主張(a)?(d)の根拠である甲各号証を検討すると、甲第1号証については、土屋氏が液体イオン化質量分析法の開発にたずさわったことは認められるが、この分析法は、液体試料をイオン化して分子量の確認ができるというものであり、甲第2号証には「大気圧下で液体試料をイオン化する方法(略称、液体イオン化法)を考案し、それをイオン源とする質量分析計を開発中であるが、この質量分析法によって種々のクラスターイオンが測定できる。・・これらのイオンから液相についてどのような情報が得られるのか、まだわかっていない。しかし、大気圧下でどのようなクラスターイオンが生成しやすいかがわかり、水素結合の重要性などを示す興味ある質量スペクトルが得られたので報告する。」(第305頁右欄2行?第306頁左欄2行)と記載され、甲第3号証には「従来、NMRまたは質量分析計(MS)を用いて測定が行われてきたが、NMRは^(17)Oのピーク幅が広いか狭いかだけなので、個々のクラスターの大きさは測定できない。」(第123頁右欄末行?第124頁左欄3行)、「クラスターが生成する理由は、勿論、水分子同士が水素結合によって結合しやすいからであるが、その結合力は弱い(・・・)ので、各集団の中ではピコ秒(・・・)という短い時間で水素結合は切れたり付いたりして絶えず結合の組み換えがおこっている。しかし、全体としては協同して動く分子の集団として、平均すると図2のような状態になっていると考えられる。」(第124頁右欄下から8行?第125頁左欄1行)及び「水分子は水素結合によって結合し、種々の大きさの集団(=クラスター)をつくり、集団の間には非結合の分子が存在する。」(図2の説明)と記載され、甲第4号証には「水やアルコールのように水素結合を作りやすい化合物は、液体中にクラスターが存在するが、どの程度の大きさのクラスターが存在するかを明らかにするのは簡単ではない。・・・液体イオン化質量分析法は、大気中で液体試料をイオン化する方法なので、クラスターや液体に関する情報が得られる、という特長がある。」(第275頁左欄2?15行)と記載されているが、液体イオン化質量分析法はあくまで大気中のイオン化した状態を分析するに留まり、水分子は水素結合によって結合し、種々の大きさの集団が推定されているが、NMRは^(17)Oのピーク幅が広いか狭いかだけなので、個々のクラスターの大きさは測定できず、水のクラスターや小さいナノクラスターがどの程度の大きさやどの様な集団であるのかその実態が明らかであるとはいえない。
そして、甲第2号証に記載の液体イオン化質量分析法が公知であるとしても、また、甲第7号証に記載の商品が販売された実績があるとしても、どのような実験条件でどの程度の大きさで、どの様な集団構造のナノクラスター水が得られているのか本願明細書に何ら記載されているものではない上、そのことが出願当時の技術常識から明らかであるともいえない。
以上のことを総合的に勘案すると、上記特定事項の「ナノクラスター水」、及び「孔径0.1?20μmである多孔質ガラスフィルターを複数回通して、水分子の集合体からほぼ均一のナノクラスター水を得る」という特定事項の技術事項を明確に把握することはできない。

(2)請求項1には「水との親和性および生理活性を有する有機ゲルマニウムの粉末を添加して溶解させることにより、有機ゲルマニウムのイオン化によってナノクラスター水が再凝集することを防止して安定化させる」という特定事項が記載されている。この特定事項は、有機ゲルマニウムのイオン化によってナノクラスター水の再凝集が防止され安定化できるというものである。
このことについて、本願明細書をみてみると、段落【0014】に、有機ゲルマニウムの粉末を添加して溶解させることによって「ナノクラスター水が再凝集することを防止するとともに、有機ゲルマニウムの溶解で水中に酸素が発生することにより、ナノスラスター水が酸素富化によって腐敗しなくなる」こと、段落【0018】には「有機ゲルマニウムは、赤血球と同じように、水に溶けてマイナスイオンになった酸素を捕捉して全身の細胞まで運ぶ」こと、段落【0022】に「有機ゲルマニウムは、水中でイオン化するとともに酸素を発生することにより、ナノクラスター水の再凝集を防いで安定化させ且つ酸素富化によって腐敗を防止し、数年に亘って常温で長期間保存することが可能になる」ことが記載されている。
これらの記載をみても、有機ゲルマニウムのイオン化とナノクラスター水の再凝集の防止の因果関係が明らかでない上、本願明細書にかかる因果関係を示す実施例もないことから、本願明細書には、そのことが確認できる程度に記載されているとはいえない。そして、実施例(段落【0033】?【0035】)の「本発明の生理活性水を飲用した前後の赤血球の変化」をみても、これが水を飲用して5分、10分程度で血液の状態が変化すること自体明らかでないことはともかくとしても、この実施例をみても上記したような「ナノクラスター水の再凝集を防止し安定化」できるか否か不明であるといわざるを得ない。
してみると、上記特定事項の「有機ゲルマニウムのイオン化によってナノクラスター水が再凝集することを防止して安定化させる」ことの技術内容が明らかであるとはいえないことから、本願発明1が明確であるとはいえない。

なお、この特定事項について、請求人は、審判請求書(第6頁「前記査定の要点(4)に対して」)で「本願発明の生理活性水について、有機ゲルマニウムを溶解させたほぼ均一で小さい分子集団の水が安定していることが参考図3?5によって明らかである。」旨主張している。
しかし、上記主張に関連して「参考図6?8は、従来の有機ゲルマニウム水溶液について・・・従来の有機ゲルマニウム水溶液は、参考図6の製造直後でも本願発明の生理活性水と比べてクタスター構造が大きく、時間の経過とともに水クラスターが再凝集してクラスター構造がさらに大きくなる傾向がある。」と述べている。以上のことに照らせば、有機ゲルマニウム水溶液によって「小さい分子集団の水を安定」させることは全く根拠足りえていないことは明らかであり、しかも、参考図3?5が上記1.(1)で述べたとおり、水中のクラスターの大きさの分布状態を表しているのか否かも定かではない。
よって、請求人のこれらの主張は採用することはできない。

(3)また、請求項1には「高浸透性を有する生理活性水」とあるが、「高浸透性」とは、何に対する浸透性を意味しているかも明確であるとはいえない。ただ、本願明細書の段落【0014】に「人体への浸透性が高まり」との記載や「生理活性」の文言から、人体に対する浸透性を意味しているとしても、上記(1)で述べたとおり、「ナノクラスター水」の技術内容が明確でなく、上記(2)で述べたとおり、実施例をみても、生理活性水の飲用と赤血球変化と浸透性の因果関係が判然としないことから、本願発明1が高浸透性を有するか否か明らかであるとはいえない。
したがって、本願発明1が明確であるといえない。

2.特許法第36条第4項(実施可能要件)について
実施可能要件として、発明の詳細な説明には、発明について当業者が容易に実施できる程度に記載されることが求められている。しかしながら、本願発明の「原料水について孔径0.1?20μmである多孔質ガラスフィルターを複数回通して、水分子の集合体からほぼ均一のナノクラスター水を得る」こと、「とともに除菌フィルターを通し、さらに水との親和性および生理活性を有する「有機ゲルマニウムのイオン化によってナノクラスター水が再凝集することを防止して安定化させる」ことについては、上記「1.(1)」で述べた理由により、当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいえない。そして、本願発明の「有機ゲルマニウムのイオン化によってナノクラスター水が再凝集することを防止して安定化させる」ことについても、上記「1.(2)」で述べたとおりの理由により、当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいえないし、本願発明の「高浸透性を有する生理活性水」についても、上記「1.(3)」の理由により、当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいえない。

なお、このことは、本願発明が本願明細書の発明の詳細な説明に、課題を解決できる程度に記載されているともいえないことから、特許法第36条第6項第1号の記載要件をも満たしていないことを付記する。

IV.むすび
したがって、原査定の、その他の拒絶の理由を検討するまでもなく、本願は、特許法36条6項2号及び同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-08 
結審通知日 2010-11-09 
審決日 2010-11-26 
出願番号 特願2004-249522(P2004-249522)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小久保 勝伊  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 中澤 登
小川 慶子
発明の名称 高浸透性を有する生理活性水の製造法  
代理人 神崎 彰夫  

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