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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B09B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B09B
管理番号 1230537
審判番号 不服2007-33583  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-13 
確定日 2011-01-13 
事件の表示 平成10年特許願第 90684号「廃棄物の熱分解ガス化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月 5日出願公開、特開平11-267608〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年3月20日の出願であって、平成19年7月26日付けで拒絶理由が通知され、平成19年10月1日付けで意見書及び明細書に係る手続補正書が提出され、平成19年11月6日付けで拒絶査定され、平成19年12月13日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成20年1月11日付けで明細書に係る手続補正書が提出されたものであり、その後、平成22年8月10日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、これに対して平成22年9月1日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成20年1月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年1月11日付けの手続補正を却下する。
[理由]
平成20年1月11日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)により、明細書の特許請求の範囲は、
「【請求項1】 長手方向の一端を入口とし他端を出口としたキルン炉内で、上記入口から供給された廃棄物を、加熱ガスによる外熱により間接的に加熱して熱分解ガス化する外熱運転方式とし、該熱分解ガスを上記出口に接続した熱分解ガスラインを通して取り出すようにする廃棄物の熱分解ガス化方法において、上記キルン炉の入口に、該入口を通してキルン炉内に酸素含有ガスを導入するための酸素含有ガス導入ラインを接続して、該酸素含有ガス導入ラインによりキルン炉の入口を通してキルン炉内に酸素含有ガスを導入して廃棄物を部分燃焼させることによる内熱により廃棄物を熱分解ガス化する内熱運転方式を採用できるようにし、上記内熱運転用の酸素含有ガスを導入するための酸素含有ガス導入ラインの途中に、流量調整弁を設け、且つ上記熱分解ガスラインの途中に、取り出される熱分解ガスの温度に基づいて上記流量調整弁に開閉指令を送るようにした温度調節計を設け、上記廃棄物の性状の違いや下流の溶融炉の形状に応じて、下流の溶融炉へ一定温度の熱分解ガスを送る場合に、上記温度調節計の温度を設定して、性状変動が大きい廃棄物に応じて該温度調節計で検出した熱分解ガスの温度が上記温度調節計の設定温度になるよう酸素含有ガス導入ライン途中の流量調整弁の開閉を制御して、加熱ガスによる外熱運転方式単独としたり、キルン炉の入口を通してキルン炉内へ酸素含有ガスを導入して外熱運転方式に内熱運転方式を併用したり、内熱運転方式単独として廃棄物を熱分解ガス化することを特徴とする廃棄物の熱分解ガス化方法。
【請求項2】 長手方向の一端を入口とし他端を出口としたキルン炉内で、上記入口から供給された廃棄物を、加熱ガスによる外熱により間接的に加熱して熱分解ガス化する外熱運転方式とし、該熱分解ガスを上記出口に接続した熱分解ガスラインを通して取り出すようにする廃棄物の熱分解ガス化方法において、上記キルン炉の入口に、該入口を通してキルン炉内に酸素含有ガスを導入するための酸素含有ガス導入ラインを接続して、該酸素含有ガス導入ラインによりキルン炉の入口を通してキルン炉内に酸素含有ガスを導入して廃棄物を部分燃焼させることによる内熱により廃棄物を熱分解ガス化する内熱運転方式を採用できるようにし、上記内熱運転用の酸素含有ガスを導入するための酸素含有ガス導入ラインの途中に、流量調整弁を設け、且つ上記熱分解ガスラインの途中に、取り出される熱分解ガスの温度に基づいて上記流量調整弁に開閉指令を送るようにした温度調節計を設け、上記廃棄物の性状の違いや下流の溶融炉の形状に応じて、下流の溶融炉へ一定温度の熱分解ガスを送る場合に、上記温度調節計の温度を設定して、性状変動が大きい廃棄物に応じて該温度調節計で検出した熱分解ガスの温度が上記温度調節計の設定温度になるよう酸素含有ガス導入ライン途中の流量調整弁の開閉を制御して、加熱ガスとして燃焼排ガス又は予熱空気による外熱運転方式単独としたり、キルン炉の入口を通してキルン炉内へ酸素含有ガスとして熱回収した予熱空気を導入して外熱運転方式に内熱運転方式を併用したり、内熱運転方式単独として廃棄物を熱分解ガス化することを特徴とする廃棄物の熱分解ガス化方法。」
と補正された。
上記補正は、本件補正前の請求項1、2の末尾に記載された「廃棄物の熱分解ガス化装置」を「廃棄物の熱分解ガス化方法」と補正することにより、請求項1、2に記載された発明のカテゴリーを変更する補正事項を含むものである。また、上記補正は、本件補正前の請求項1、2に記載された「廃棄物」についての「都市ごみの如き水分の多い低カロリーの」との限定を削除することにより、請求項1、2に記載された発明を特定するために必要な事項である「廃棄物」をかかる特定のないものに拡張する補正事項を含むものである。
そして、かかる請求項に記載された発明のカテゴリーを変更する補正事項及びかかる請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を拡張する補正事項は、いずれも、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正とはいえないものである。
さらに、これらの補正事項が、同項第1号、第3号及び第4号に規定する、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。
してみると、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に掲げるいずれの事項を目的とするものでもない補正事項を含むものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記のとおり決定する。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成20年1月11日付けの手続補正は上記2.のとおり却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明は、平成19年10月1日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
【請求項1】 長手方向の一端を入口とし他端を出口としたキルン炉内で、上記入口から供給された都市ごみの如き水分の多い低カロリーの廃棄物を、加熱ガスによる外熱により間接的に加熱して熱分解ガス化し、該熱分解ガスを上記出口に接続した熱分解ガスラインを通して取り出すようにしてある廃棄物の熱分解ガス化装置において、上記キルン炉の入口に、該入口を通してキルン炉内に酸素含有ガスを導入するための酸素含有ガス導入ラインを接続して、外熱運転方式と内熱運転方式とを単独又は併用できるようにし、上記内熱運転用の酸素含有ガスを導入するための酸素含有ガス導入ラインの途中に、流量調整装置を設け、且つ上記熱分解ガスラインの途中に温度調節計を設けて、熱分解ガスラインを通して取り出される熱分解ガスの温度に基づいて温度調節計から上記流量調整装置に開閉指令を送るようにした構成を有することを特徴とする廃棄物の熱分解ガス化装置。
なお、拒絶査定には、請求項1の記載は3点において不明確である旨の指摘があるが、これらの点は、いずれも、本願明細書及び図面の記載並びに当該技術分野における技術常識を以てすれば不明確であるとはいえない。

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭60-35086号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「有用ガスを回収するために廃物を熱分解によつて処理するための方法において、
廃物を塊体、ペレツトまたは粒体の形に突固める突固め工程と、
該突固めた廃物を気密の加熱されたドラム内へ供給してガスを生成させ、その生成ガスを、灰およびその他の固形物を含む残留物から分離する工程と、
ガス変換器内の高温燃料床の上で前記生成ガスから燃焼ガスを分離する工程とから成る方法。」(特許請求の範囲 第1項)
(イ)「有用ガスを回収するために廃物を熱分解によつて処理するための装置において、
間接的に加熱されるようになされており、廃物を受入れるための少くとも実質的に気密の入口および固形残留物を排出するための出口を有し、ガス抽出管系統に接続することができるようになされているドラムと、
該ドラムに対しその上流に接続されるようになされており、前記廃物を塊体、ペレツトまたは粒体の形に突固めるためのプレスとから成る装置。」(特許請求の範囲 第11項)
(ウ)「本発明は、一般に、有用ガスを回収するために廃物またはごみを処理する方法および装置に関し、特に破砕した廃物をガス創成用の加熱された気密ドラムまたは容器内へ導入し、熱分解(パイロリシス)またはそれと同様な熱的分解法によつて廃物から有用ガスを回収するための方法に関する。」(第2頁左下欄14?20行)
(エ)「一般に、例えば家庭の生ごみや、産業廃棄物などの廃物の熱分解中、廃物に含まれている有機成分が揮発し、ガスが放出される。そのガスを回収して更に追加の工程で処理し、ガスタービンやガスモータの駆動のために使用しうるガスとすることができる。また、このようなガスは、新しい製品を産出するための合成用ガスとして化学的操作に使用することもでき、あるいは、ボイラーや大型加熱プラントのための燃料ガスとして使用することができる。
そのようなガスの生成は、通常、水平に対して僅かに傾斜した長手軸線の周りに回転する水平配置の容器または処理ドラムによつて行われる。反応器即ちドラムは、気密であり、その内部の作動温度は、酸素の不存在下で間接的加熱によつて約450℃?600℃の範囲に維持される。」(第2頁右下欄8行?第3頁左上欄4行)
(オ)「好ましい実施例では、酸素含有ガス、例えば空気をドラム内へ供給し、それによつてドラム内の温度を約500℃以下とし、廃物の一部を理論量以下の条件で燃焼させる。この酸素含有ガスの供給は、系の温度が約500℃?約600℃の範囲に維持されるように制御する。
この特徴は、燃焼エネルギー即ち熱がエネルギー源として利用されるようにするので、簡単な態様でエネルギーの節約を可能にする。」(第4頁左下欄7?15行)
(カ)「処理ドラムまたは容器の加熱をガス変換器から排出される高温ガスによつて行うようにした場合は、更にエネルギーの節約が達成される。」(第4頁右下欄4?6行)
(キ)「第1?4図には本発明の一実施例による装置の全体構成が示されている。以下の説明では個々の処理段階について記述する。」(第5頁左下欄7?9行)として、
「家庭のごみ、産業廃棄物またはそれに類する廃物が、搬送スクリユウと、加熱手段および/または温度制御手段を有する加熱ねじプレス1内へ導入される。・・・廃物の突固めは、プレス1内で摩擦圧力により約110?約150℃の温度で行われ、約1mm?約50mmの粒子寸法の粒体を生成する。」(第5頁左下欄10?19行)
「粒体は送りスクリユウ10によつてドラム12内へ装入される。ドラム12は、化学理論量未満の条件下での燃焼に使用することができるように空気導入導管11を備えている。・・・。
ドラム12は、間接的に加熱され、出口端即ち、残留物排出端の方に向つて僅かに下向きに傾斜した長手軸線の周りにゆつくり回転される。廃物粒体は、ドラム12内で約450℃?約600℃の範囲の温度に露呈される。予熱段階で必要とされる熱は、石油またはガス炊きバーナから供給される。その後、熱は、例えば、ガス変換器の分岐管から間接加熱のために供給されるか、あるいは、導管11を通して供給される制御された量の空気によりドラム12内で行われる化学理論量未満の条件下での燃焼から供給される。ドラム12の間接的加熱は、約600℃の温度を有する加熱用ガスによつて行われる。そのような加熱用ガスは、ドラム12内に長手方向に延設された管系統を通じて通流せしめられ、ガスのカロリー値が管壁を通してドラム12内の処理すべき廃物粒体へ与えられる。その結果冷却した加熱用ガスは、再循環され、再加熱される。
廃物粒体から発生したガスは、生成ガス排出管15を通して上方へ排出され、約400℃?500℃の温度でガス変換器19へ導入される。ドラム12内に廃物の理論量未満条件下での燃焼の結果として生じた残留物(残滓)は、気密コンベヤ装置によつて排出される。このコンベヤ装置は、排出スクリユウ16と、それと協同する垂直配置の充填または詰込みスクリユウ17を含む。」(第6頁左上欄3行?同頁左下欄4行)との記載があり、さらに第8頁には「本発明の一実施例による廃物処理装置の上からみた平面図」である「第1図」、「第1図の線II-IIに沿つてみた側面図」である「第2図」、「第1図の線III-IIIに沿つてみた側面図」である「第3図」、「第1図の線IV-IVに沿つてみた側面図」である「第4図」が記載されている。

(3)対比・判断
刊行物1は、記載事項(ウ)に記載されたとおり「有用ガスを回収するために廃物またはごみを処理する方法および装置」に関し、特に「破砕した廃物をガス創成用の加熱された気密ドラムまたは容器内へ導入し、熱分解(パイロリシス)またはそれと同様な熱的分解法によつて廃物から有用ガスを回収するための方法」に関し記載されたものであり、記載事項(ア)には、「有用ガスを回収するために廃物を熱分解によつて処理するための方法において、廃物を塊体、ペレツトまたは粒体の形に突固める突固め工程と、該突固めた廃物を気密の加熱されたドラム内へ供給してガスを生成させ、その生成ガスを、灰およびその他の固形物を含む残留物から分離する工程と、ガス変換器内の高温燃料床の上で前記生成ガスから燃焼ガスを分離する工程とから成る方法」が記載され、記載事項(イ)には、「有用ガスを回収するために廃物を熱分解によつて処理するための装置において、間接的に加熱されるようになされており、廃物を受入れるための少くとも実質的に気密の入口および固形残留物を排出するための出口を有し、ガス抽出管系統に接続することができるようになされているドラムと、該ドラムに対しその上流に接続されるようになされており、前記廃物を塊体、ペレツトまたは粒体の形に突固めるためのプレスとから成る装置」が記載されている。
よって、刊行物1に記載された「有用ガスを回収するために廃物を熱分解によつて処理するための装置」は、「間接的に加熱されるようになされており、廃物を受入れるための少くとも実質的に気密の入口および固形残留物を排出するための出口を有」する「ドラム」内で、入口から供給された突固めた廃物を熱分解することによりガスを生成させ、その生成ガスをガス変換器へ導入するものであることは明らかである。
そして、記載事項(オ)には、「酸素含有ガス、例えば空気をドラム内へ供給し」、「廃物の一部を理論量以下の条件で燃焼させる」こと、及び、「この酸素含有ガスの供給は、系の温度が約500℃?約600℃の範囲に維持されるように制御する」ことが記載され、記載事項(カ)には、「処理ドラム・・・の加熱をガス変換器から排出される高温ガスによつて行う」ことが記載されている。
また、記載事項(キ)には、この「ドラム」に関し、「化学理論量未満の条件下での燃焼に使用することができるように空気導入導管11を備えている」こと、「長手軸線の周りにゆつくり回転される」ことが記載され、「廃物粒体から発生したガスは生成ガス排出管15を通して上方へ排出され、・・・ガス変換器19へ導入される」ことが記載されている。
さらに、第1図及び第2図から、ドラム12内へ突固めた廃物を装入する「送りスクリユウ10」と、ドラム12から残留物(残滓)を排出する「排出スクリユウ16」が、ドラム12の長手方向の両端に位置し、「空気導入導管11」は「送りスクリユウ10」と同じ端でドラム12に接続され、「生成ガス排出管15」は「排出スクリユウ16」と同じ端でドラム12に接続されていることが窺える。
そこで、「有用ガスを回収するために廃物を熱分解によつて処理するための装置」に注目して刊行物1の記載事項を整理すると、刊行物1には、
「間接的に加熱されるようになされており、長手方向の両端に廃物を受入れるための少くとも実質的に気密の入口と固形残留物を排出するための出口を有し、長手軸線の周りにゆつくり回転するドラム内で、上記入口から供給された突固めた廃物を熱分解することによりガスを生成させ、その生成ガスを上記出口に接続された生成ガス排出管を通して排出してガス変換器へ導入する、また、ガス変換器から排出される高温ガスによつて上記ドラムを加熱する、有用ガスを回収するために廃物を熱分解によつて処理するための装置において、上記ドラムの入口に、廃物の一部を理論量以下の条件で燃焼させる酸素含有ガスをドラム内へ供給するための空気導入導管を接続して、該酸素含有ガスの供給を、系の温度が約500℃?約600℃の範囲に維持されるように制御し、有用ガスを回収するために廃物を熱分解によつて処理するための装置。」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているものと認められる。

本願発明と刊行1発明とを対比すると、刊行1発明の「ドラム」は、本願発明1の「キルン炉」に相当し、刊行1発明の「突固めた廃物」と本願発明1の「都市ごみの如き水分の多い低カロリーの廃棄物」とは、「廃棄物」である点で共通する。
そして、刊行1発明の「熱分解することによりガスを生成させ」ることは、本願発明1の「熱分解ガス化」に相当し、刊行1発明の「間接的に加熱されるようになされて」いることは、記載事項(キ)の「ドラム12の間接的加熱は、約600℃の温度を有する加熱用ガスによつて行われる。」から加熱ガスによる外熱によりなされることは明らかであるから、刊行1発明の「間接的に加熱されるようになされて」いる「ドラム内で」、「熱分解することによりガスを生成させ」ることは、「加熱ガスによる外熱により間接的に加熱して熱分解ガス化」することに他ならない。
また、刊行1発明の「生成ガス排出管」、「空気導入導管」は、それぞれ、本願発明1の「熱分解ガスライン」、「酸素含有ガス導入ライン」に相当することは明らかである。
さらに、刊行1発明の「間接的に加熱されるようになされて」いる「ドラム内で」、「突固めた廃物を熱分解することによりガスを生成させ」ることは、本願発明1の「外熱運転方式」を意味するものに他ならず、刊行1発明の「ガス変換器から排出される高温ガスによつて上記ドラムを加熱する」ことにより、本願発明1の「外熱運転方式」による運転が行われることは明らかである。また、刊行1発明の「廃物の一部を理論量以下の条件で燃焼させる酸素含有ガスをドラム内へ供給する」ことにより、本願発明1の「内熱運転方式」による運転が行われることも明らかである。
そして、刊行1発明の「有用ガスを回収するために廃物を熱分解によつて処理するための装置」は、「廃棄物の熱分解ガス化装置」といえるものである。

してみると両者は、
「長手方向の一端を入口とし他端を出口としたキルン炉内で、上記入口から供給された廃棄物を、加熱ガスによる外熱により間接的に加熱して熱分解ガス化し、該熱分解ガスを上記出口に接続した熱分解ガスラインを通して取り出すようにしてある廃棄物の熱分解ガス化装置において、上記キルン炉の入口に、該入口を通してキルン炉内に酸素含有ガスを導入するための酸素含有ガス導入ラインを接続した構成を有する廃棄物の熱分解ガス化装置」
で一致し、次の点で相違する。
相違点a:本願発明1は、「廃棄物」が、「都市ごみの如き水分の多い低カロリーの廃棄物」であるのに対し、刊行1発明は、「突固めた廃物」である点
相違点b:本願発明1は、「外熱運転方式と内熱運転方式とを単独又は併用できるようにし」たものであるのに対し、刊行1発明は、「外熱運転方式」、また、「内熱運転方式」を採用できるものではあるが、これらの方式を「単独又は併用できるようにし」たものであるか否か特定がない点
相違点c:本願発明1は、「上記内熱運転用の酸素含有ガスを導入するための酸素含有ガス導入ラインの途中に、流量調整装置を設け、且つ上記熱分解ガスラインの途中に温度調節計を設けて、熱分解ガスラインを通して取り出される熱分解ガスの温度に基づいて温度調節計から上記流量調整装置に開閉指令を送るようにした」ものであるのに対し、刊行1発明は、内熱運転用の酸素含有ガスの供給を、「系の温度が約500℃?約600℃の範囲に維持されるように制御」するものではあるが、その具体的手段について特定がない点

そこでまず、相違点aについて検討する。
刊行物1の記載事項(キ)に「家庭のごみ、産業廃棄物またはそれに類する廃物が、搬送スクリユウと、加熱手段および/または温度制御手段を有する加熱ねじプレス1内へ導入される」との記載があることからみて、刊行1発明の「突固めた廃物」は、都市ごみの如き廃棄物を突固めたものを含むものである。しかし、都市ごみの如き廃棄物は、それを突固めたものと比較すると、水分が多く低カロリーであり、しかも、含有する水分量やカロリーが変動するものであるから、刊行1発明の「突固めた廃物」は、「都市ごみの如き水分の多い低カロリーの廃棄物」とは確かにその性状が異なる。
しかしながら、都市ごみの如き廃棄物を長手方向の一端を入口とし他端を出口としたキルン炉内で加熱し、熱分解ガス化することは、刊行物1の記載事項(エ)にも従来技術として記載され、また、例えば、特開平10-30883号公報、特開平8-49822号公報の従来の技術の欄にも記載されているとおり、本願出願前広く行われていることである。
してみれば、刊行1発明の廃棄物の熱分解ガス化装置において、ドラム、即ち、キルン炉に都市ごみの如き水分の多い低カロリーの廃棄物を突固めること無くそのまま供給して、熱分解ガス化することは、当業者が想定し得る範囲のことであると認められる。

次に、相違点bについて検討する。
刊行1発明は、キルン炉内で、入口から供給された廃棄物を、加熱ガスによる外熱により間接的に加熱して熱分解ガス化するものであり、しかも、キルン炉内に内熱運転用の酸素含有ガスを導入するための酸素含有ガス導入ラインを接続したものであって、上述したとおり、「外熱運転方式」、また、「内熱運転方式」を採用できるものである。
これらの方式をどのように採用するのか、刊行物1の記載を検討すると、記載事項(キ)に「予熱段階で必要とされる熱は、石油またはガス炊きバーナから供給される。その後、熱は、例えば、ガス変換器の分岐管から間接加熱のために供給されるか、あるいは、導管11を通して供給される制御された量の空気によりドラム12内で行われる化学理論量未満の条件下での燃焼から供給される」との記載がある。この記載は、予熱段階では「外熱運転方式」を採用し、その後は、「外熱運転方式」と「内熱運転方式」のうちいずれか一方を選択して採用することを意味するものと解される。よって、刊行物1には「外熱運転方式」と「内熱運転方式」とを単独で採用することが示唆されているといえる。しかし、「外熱運転方式」と「内熱運転方式」とを併用することに関しては、明確な記載が見いだせない。刊行物1の記載事項(オ)には、「酸素含有ガス、例えば空気をドラム内へ供給し、それによつてドラム内の温度を約500℃以下とし、廃物の一部を理論量以下の条件で燃焼させる」こと、即ち「内熱運転方式」に関し、「この特徴は、燃焼エネルギー即ち熱がエネルギー源として利用されるようにするので簡単な態様でエネルギーの節約を可能にする」との記載があり、続く記載事項(カ)には、「処理ドラムまたは容器の加熱をガス変換器から排出される高温ガスによつて行うようにした場合」、即ち「外熱運転方式」で加熱ガスとしてガス変換器から排出される高温ガスを用いた場合は、「更にエネルギーの節約が達成される」との記載がある。これらの記載は、「外熱運転方式」に加え「内熱運転方式」を採用した場合は更にエネルギーの節約が達成されることを示唆するとも解されるが、明確でない。
しかし、そもそも、廃棄物の熱分解ガス化において、酸素を遮断して外部からの伝熱加熱により熱分解を行う外熱運転方式と、キルン炉内に酸素含有ガスを直接供給して廃棄物を部分燃焼させ、その熱により熱分解を行う内熱運転方式とがあることは、前出の特開平10-30883号公報、特開平8-49822号公報の従来の技術の欄にも記載されているとおり、本願出願前周知の事項であり、それぞれの方式を採用した場合の得失も従来より広く知られていることである。さらに、外熱運転方式と内熱運転方式を併用することも原審の拒絶理由において参照文献として提示した特表平8-510788号公報に記載されているところである。
してみれば、上述したとおり、「外熱運転方式」と「内熱運転方式」とを採用することができる刊行1発明の廃棄物の熱分解ガス化装置において、特に、都市ごみの如き、水分の多い低カロリーの、しかも、含有する水分量やカロリーが変動する廃棄物を突固めること無くそのまま処理対象とする場合、処理対象である廃棄物の水分量やカロリーに応じて、「外熱運転方式」と「内熱運転方式」とを単独又は併用できるようにすることは、当業者にとって容易に想到し得たことであると認められる。

最後に、相違点cについて検討する。
刊行1発明は、内熱運転用の酸素含有ガスの供給を制御するものであるから、内熱運転用の酸素含有ガスを導入するための酸素含有ガス導入ラインの途中に酸素含有ガスの流量を調整する装置、即ち流量調整装置を設ける必要があることは、当業者にとって自明の事項である。
また、刊行1発明は、上記酸素含有ガスの供給を「系の温度が約500℃?約600℃の範囲に維持されるように制御」するものであるから、「系の温度」を求め、その温度が「約500℃?約600℃の範囲」に維持されるように、上記の流量調整装置に開閉指令を送る装置、即ち温度調節計を設ける必要があることも、当業者にとって自明の事項である。
そして、熱分解ガスラインを通して取り出される熱分解ガスの温度が「系の温度」を示すこと、そうでないとしても、熱分解ガスラインを通して取り出される熱分解ガスの温度と「系の温度」とは相関関係があることは明らかであるから、「系の温度」を求めるために熱分解ガスラインを通して取り出される熱分解ガスの温度を用いることとし、熱分解ガスラインの途中に上記の温度調節計を設けて、熱分解ガスラインを通して取り出される熱分解ガスの温度に基づいて温度調節計から流量調整装置に開閉指令を送るようにすることは、当業者にとって格別の困難性無くなし得たことであると認められる。
因みに、上記参照文献として提示した特表平8-510788号公報、特に、請求項13?15、第11頁1?9行、第1図には、熱分解炉内の廃棄物を間接的に加熱する第一の加熱装置と、空気を供給することによって熱分解炉内の廃棄物を直接的加熱する第二の加熱装置とを備える熱分解炉内で、水分量やカロリーが変動する廃棄物を低温乾留ガスと固形の熱分解残留物とに変換する廃棄物熱処理設備において、第二の加熱装置の空気ノズル54、54aに空気を供給する管路の途中に制御弁66を配置し、且つ低温乾留ガス配管29の中或いはこれに接して低温乾留ガスの温度を測定するための温度検出器或いはセンサ60を配置し、この温度検出器或いはセンサ60により検出された低温乾留ガスの温度に基づいて調節器64が上記制御弁66に指令を送るようにして、制御された空気l’を第二の加熱装置の空気ノズル54、54aに供給することが記載されているところである。

そして、本願明細書及び図面の記載を検討しても、刊行1発明において、突固めた廃物の代わりに都市ごみの如き水分の多い低カロリーの廃棄物を処理対象とし、外熱運転方式と内熱運転方式とを単独又は併用できるようにしたこと、さらには、酸素含有ガス導入ラインの途中に流量調整装置を設け、熱分解ガスラインの途中に温度調節計を設けて、熱分解ガスラインを通して取り出される熱分解ガスの温度に基づいて温度調節計から流量調整装置に開閉指令を送って酸素含有ガスの導入量を制御するようにしたことにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-11 
結審通知日 2010-11-16 
審決日 2010-11-29 
出願番号 特願平10-90684
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B09B)
P 1 8・ 57- Z (B09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増田 健司中澤 登  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 目代 博茂
斉藤 信人
発明の名称 廃棄物の熱分解ガス化装置  
代理人 坂本 光雄  

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