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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
管理番号 1230539
審判番号 不服2007-34767  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-26 
確定日 2011-01-13 
事件の表示 特願2002-248409「液晶性ポリエステル及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月18日出願公開、特開2004- 83777〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年8月28日に出願されたものであって、平成19年7月12日付けで拒絶理由が通知され、同年9月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月26日に拒絶査定不服審判が請求され、平成20年1月23日に手続補正書が提出され、同年3月17日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年4月9日付けで前置報告がなされ、当審において平成21年12月15日付けで審尋がなされ、平成22年2月16日に回答書が提出され、同年8月11日付けで当審において拒絶理由が通知され、同年10月25日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。


第2.本願発明について
本願の請求項1?2に係る発明は、平成22年10月25日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
下記式(I)で示される芳香族ヒドロキシカルボン酸と、下記式(II)で示される芳香族ジオールと、下記式(III)で示される芳香族ジカルボン酸とを、芳香族ジオール(II)と芳香族ジカルボン酸(III)とのモル比が90/100?100/90となるようにして、下記の(b)の存在下に、溶融重合する際に、エステル化試剤として下記式(IV)で示されるジアリールカーボネート類を用い、生成した液晶性ポリエステルを固化・粉砕し、さらに固層重合することを特徴とする液晶性ポリエステルの製造方法。
HO-R_(1)-COOH (I)
HO-R_(2)-OH (II)
HOOC-R_(3)-COOH (III)

(IV)
(式中、R_(1)、R_(3)は置換されていてもよいアリーレン基を表わし、R_(2)は、置換されていてもよいアリーレン基または下記式(V)

(V)
で示される基を表わし、R_(4)?R_(7)は、それぞれ独立に、水素原子またはハロゲン原子を表わすか、炭素数1?6のアシルオキシ基、または炭素数1?6のアルキル基を表わし、Xは、-O-、-S-、?SO_(2)-、-CO-、-C_(6)H_(10)-またはアルキレン基を表わす。)
(b)下記式(VII)で示されるピリジン化合物

(VII)
(R_(12)、R_(13)は、それぞれ独立に、水素原子を表わすか、炭素数1?6のアルキル基、炭素数5?10のシクロアルキル基、炭素数6?12のアリール基または炭素数6?12のアラルキル基を表わし、R_(12)とR_(13)は互いに結合していてもよく、R_(14)は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数5?10のシクロアルキル基、炭素数6?12のアリール基、または炭素数6?12のアラルキル基を表わし、nは1?4の整数を表す。) 」


第3.当審が通知した拒絶理由の概要
当審が、平成22年8月11日付けで通知した拒絶理由通知における、請求項1についての拒絶理由B(以下、「当審が通知した拒絶理由」という。」)の内容は以下のとおりである。
「B.本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



B.理由Bについて
1.刊行物
刊行物1:特開昭64-69624号公報(理由Aの刊行物1と同じ)
刊行物2:小出直之/坂本国輔 著,
「高分子新素材 One Point-10 液晶ポリマー」,
(1996年6月15日 初版8刷),共立出版株式会社 発行,
第26?29頁,第42?45頁
刊行物3:特開平10-219085号公報」


第4.当審の判断
上記の当審が通知した拒絶理由が妥当なものであるかについて、以下に検討する。

1.刊行物
刊行物1:特開昭64-69624号公報
刊行物2:小出直之/坂本国輔 著,
「高分子新素材 One Point-10 液晶ポリマー」,
(1996年6月15日 初版8刷),共立出版株式会社 発行,
第26?29頁,第42?45頁
刊行物3:特開平10-219085号公報

2.刊行物に記載された事項
2-1.刊行物1に記載された事項
1a.「1.随時置換されていてもよいp-ヒドロキシ安息香酸類及び芳香族ジカルボン酸類を、100?220℃の温度で、ジアリールカーボネートとエステル化させ、続いて得られたアリールエステルをジフエノール類及び、場合によつては更にジアリールカーボネートを用いてエステル交換させ、続いて250?330℃の範囲の温度で重縮合させることによつて、熱互変性、全芳香族性のポリエステル及びポリエステルカーボネートを製造する方法であつて、エステル化、エステル交換及び重縮合反応を窒素原子1?3個を含む複素環式化合物の存在下で行うことを特徴とする方法。」(特許請求の範囲第1項)

1b.「本発明は熱互変性(thermotropic)で、全芳香族性(fully aromatic)のポリエステル及びポリエステルカーボネート製造方法に関するものである。
成形製品、フイラメント、繊維及びフイルムの製造に使用し得る熱互変性または中間状態の(mesomorphic)芳香族ポリエステル及びポリエステルカーボネートは例えばドイツ国特許出願公開第3,325,704号及び同第3,415,530号に記載される。また「中間状態」または「熱互変性」の意味は重合体溶融物の液晶状態を研究する際の標準方法としてそこで説明されている。」(第1頁左下欄19行-右下欄10行)

1c.「ドイツ国特許出願公開第2,164,473号において、従来の議論において、米国特許第3,039,994号によるp-アセトキシ安息香酸からのポリエステルの製造における触媒として第三級アミンの使用は長い反応時間を必要とし、そして強く着色した重合体が生成するために欠点があることが指摘されている。」(第2頁左下欄8-14行)

1d.「エステル化、エステル交換及び重縮合反応を触媒するために本発明により用いる窒素原子1?3個を含む適当な複素環式化合物にはイミダゾール、4,5-ジフエニル-1H-イミダゾール、1,10-フエナントロリン、2,2’-ビピリジル、1H-ベンズイミダゾール、1,2-ジメチル-1H-ベンズイミダゾール、2-メチル-1H-イミダゾール、1-メチル-1H-イミダゾール、1H-ピラゾール、4-ジメチルアミノピリジン、・・・が含まれる。・・・
本発明によれば、触媒は用いるカルボン酸をベースとして約0.01?5重量%の濃度、好ましくは0.1?2.5重量%の濃度で用いる。」(第3頁左下欄1-右下欄1行)

1e.「本発明による方法において、用いる反応成分、即ち随時置換されていてもよいp-ヒドロキシ安息香酸(a)、ジフエノール(b)、ジカルボン酸(c)及びジアリールカーボネート(d)を所望の比で一緒に混合する。必要とされるジアリールカーボネートの量は次により計算される:
a)随時置換されていてもよいp-ヒドロキシ安息香酸
b)ジフエノール
c)ジカルボン酸
d)ジアリールカーボネート
[d]=[a]+2[c]+([b]-[c])
本発明による方法において、一方で対応するカルボン酸アリールエステルを生成させ、他方でポリエステルカーボネートを製造する場合にカーボネート基を生成させる際の試薬としてジアリールカーボネートを用いる。
従つて、カルボン酸誘導体に対するジアリールカーボネートの等価比は少なくとも1:1、好ましくは1.01?1.1:1である。
([b]-[c])項から分子ように、共縮合されるカーボネート基の含有量はジフエノールに対するジカルボン酸の等価比により求められる。」(第4頁右下欄13行-第5頁左上欄15行)

1f.「本発明による方法により製造される熱互変性ポリエステル及びポリエステルカーボネートは一般に少なくとも1.0dl/gの固有粘度(5mg重合体/mlペンタフルオロフエノールの溶液に対して60℃で測定)を有している。生成物が上記の溶媒に不溶性である場合、これらのものは示される最小の粘度を有することを仮定する。
その分子量を増加させるために、生成物-好ましくは粒状-を不活性ガス雰囲気中または真空中にて150?300℃の範囲の温度で固相後縮合に付すことができる。」(第5頁右下欄3-13行)

1g.「実施例5
4-ヒドロキシ安息香酸341.8g、ハイドロキノン72.7g、4,4’-ジヒドロキシジフエニル30.7g、テレフタル酸27.4g、イソフタル酸109.7g、ジフエニルカーボネート897.8g及び2-メチルイミダゾール1.95gを撹拌機、カラム及び蒸留ブリツジを備えた反応容器中に秤取した。内部温度160℃でCO_(2)の発生が開始した。内部温度を15分間にわたつて180℃に上昇させ、60分間一定に保持し、220℃に上昇させ、そしてCO_(2)の発生が終わるまで一定に保持した。反応混合物を250℃に加熱し、そして反応器中の圧力を1.5時間にわたつて段階的に30ミリバールに減少させた。
1時間後、蒸留速度は内部温度が275℃、そして次に300℃に上昇し得る程度に低下した。フエノールの除去がほぼ終了した場合、反応容器中の圧力を0.2ミリバールに減少させた。これらの条件下で反応を1時間後に停止した。得られた生成物は薄い色調であり、そして顕著な繊維構造を示した。このものをT=340℃の溶融温度及び70℃の成形温度で射出成形した。」(第7頁左下欄18行-右下欄19行)

1h.「実施例8
4-ヒドロキシ安息香酸209.8g、ハイドロキノン31.4g、4,4’-ジヒドロキシジフエニル17.7g、テレフタル酸15.8g、ジフエニルカーボネート435.5g及びジメチルアミノピリジン16.5gを撹拌機、カラム及び蒸留ブリツジを備えた反応容器中に秤取した。内部温度160℃でCO_(2)の発生が開始した。内部温度を15分間にわたつて180℃に上昇させ、60分間一定に保持し、220℃に上昇させ、そしてCO_(2)の発生が終わるまで一定に保持した。反応混合物を250℃に加熱し、そして反応器中の圧力を1.5時間にわたつて段階的に30ミリバールに減少させた。
1時間後、蒸留速度は内部温度が275℃、そして次に300℃に上昇し得る程度に低下した。フエノールの除去がほぼ終了した場合、反応容器中の圧力を0.2ミリバールに減少させた。これらの条件下で反応を1時間後に停止した。得られた生成物は薄い色調であり、そして顕著な繊維構造を示した。このものをT=340℃の溶融温度及び70℃の成形温度で射出成形した。」(第8頁左下欄4行-右下欄5行)

1i.「実施例1?8のLC重合体の機械特性を次の表に示す。



・・・
熱変形温度はDIN53.461(ISO75)により測定した。」(第8頁右下欄6行-第9頁左上欄10行)

2-2.刊行物2に記載された事項
2a.「新規ポリマーが新しいエンプラとして一般に使われるためには現状の成形機で成形できることが第1条件である.溶融温度を下げるためには,融点(T_(m))と熱力学的状態量との関係が参考になる.・・・
T_(m)を下げるためには式(3.2)に従ってΔH_(i)を小さくし,ΔS_(i)を大きくすることが必要である.一般に液晶ポリマーではΔS_(i)が小さいのでΔH_(i)を小さくする必要がある.そのために分子鎖を不規則性にするか,分子間結合力を弱めるような分子構造を導入する.
転移温度を下げるために以下の方法が知られている.
(1)芳香族環への置換基の導入
(2)ベントモノマー(非直線性分子)の利用
(3)屈曲鎖の導入
(4)共重合
(5)低分子液晶あるいは液晶ポリマーとのブレンド
(1),(2)に用いられる代表的な化合物を表3.2に示す.4)の共重合に用いられる化合物はほとんど表3.1に示したものである.」(第27頁下から14行?第28頁8行)

2b.「

」(第28頁)

2c.「ベントモノマーを共重合の一成分に用いると,転移温度の低下と液晶ポリマーの欠点のひとつである異方性が著しく改善される場合がある.しかし,分子全体の直線性が悪くなるので融点は下がるが液晶性も低下する場合が多い.」(第29頁下から18行?下から15行)

2d.「

」(第45頁)

2-3.刊行物3に記載された事項
3a.「(3)TDUL(荷重たわみ温度)
幅6.4mm、長さ127mm、厚さ12.7mmの棒状試験片を用いて、ASTMD648に準拠し、荷重18.6kg/cm2、昇温速度2℃/minで測定した。」(段落【0013】)

3b.「実施例1?3
液晶ポリエステル(A)にパラヒドロキシ安息香酸:4,4’-ジヒドロキシジフェニル:テレフタル酸:イソフタル酸のモル比が60:20:15:5であり、前述の方法で定義された流動温度が320℃であるLCP1を、液晶ポリエステル(B)にパラヒドロキシ安息香酸:4,4’-ジヒドロキシジフェニル:テレフタル酸:イソフタル酸のモル比が60:20:10:10であり、前述の方法で定義された流動温度が280℃であるLCP2を用い、これらとガラス繊維(旭ファイバーグラス(株)製、商品名CS03JAPx-1)とを表1に示す組成でヘンシェルミキサーで混合後、二軸押し出し機(池貝鉄工(株)製PCM-30型)を用いて、シリンダー温度330℃で造粒し、樹脂組成物を得た。この場合、液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)との流動温度の差は、40℃である。これらの樹脂組成物を120℃で3時間乾燥後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製PS40E5ASE型)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃でASTM4号引張ダンベル、棒状試験片、JIS K7113(1/2)号試験片、およびコネクターを成形した。これらの試験片を用い、引張強度、曲げ弾性率、TDUL、ハンダ耐熱性、および反り量の測定を行った。また、前述の方法でシリンダー温度を350℃、金型温度を130℃として、薄肉流動長の測定を行った。結果を表1に示す。」(段落【0014】)

3c.「比較例1、2
同様にして、LCP2を含まない樹脂組成物(比較例1)、LCP2が233重量部である樹脂組成物(比較例2)について、同様の測定を行った。結果を表1に示す。」(段落【0015】)

3d.「比較例3
LCP1とLCP2に、ガラス繊維を加えないこと以外は実施例1と同様な方法で実験を行った。結果を表1に示す。」(段落【0016】)

3e.「比較例4
液晶ポリエステル(A)にパラヒドロキシ安息香酸:4,4’-ジヒドロキシジフェニル:テレフタル酸:イソフタル酸のモル比が60:20:18:2であり、前述の方法で定義された流動温度が360℃であるLCP3を、液晶ポリエステル(B)にLCP2を用いる以外は実施例1と同様な方法で実験を行った。結果を表1に示す。」(段落【0017】)

3f.「実施例4?5
LCP1とLCP2に、ガラス繊維とタルク(日本タルク(株)製、商品名X-50)を加える以外は実施例1と同様な方法で実験を行った。結果を表1に示す。」(段落【0018】)

3g.「実施例6?7、比較例5
液晶ポリエステル(A)にLCP3、液晶ポリエステル(B)にLCP1を用い、成形温度を370℃とする以外は、実施例1と同様な方法で実験を行った。結果を表1に示す。」(段落【0019】)

3h.「【表1】

」(段落【0020】)

3.本願発明1について
3-1.刊行物1に記載された発明の認定
刊行物1には、摘示記載1aのとおりエステル化、エステル交換及び重縮合反応させることにより熱互変性、全芳香族性のポリエステル及びポリエステルカーボネートを製造する方法が示され、実施例5においては「4-ヒドロキシ安息香酸341.8g、ハイドロキノン72.7g、4,4’-ジヒドロキシジフエニル30.7g、テレフタル酸27.4g、イソフタル酸109.7g、ジフエニルカーボネート897.8g及び2-メチルイミダゾール1.95g」を反応させて顕著な繊維構造を示す生成物を得たことが示されており(摘示記載1g)、ここで各成分のモル量を計算すると、「4-ヒドロキシ安息香酸」2.47モル、「ハイドロキノン」0.66モル、「4,4’-ジヒドロキシジフエニル」0.16モル、「テレフタル酸」0.16モル、「イソフタル酸」0.66モルであって、ジフェノール成分(ハイドロキノン0.66モル+4,4’-ジヒドロキシジフエニル0.16モル=0.82モル)とジカルボン酸成分(テレフタル酸0.16モル+イソフタル酸0.66モル=0.82モル)とが等モル使用されているから、摘示記載1eに示される「([b]-[c])項」が0である場合に相当し、カーボネート基が共縮合されていないものであって、該「顕著な繊維構造を示す生成物」は「熱互変性、全芳香族性のポリエステル」に相当するものであるから、刊行物1には、摘示記載1a、1e及び1gからみて、
「4-ヒドロキシ安息香酸2.47モル、ハイドロキノン0.66モル、4,4’-ジヒドロキシジフエニル0.16モル、テレフタル酸0.16モル、イソフタル酸0.66モルを、ジフエニルカーボネート及び2-メチルイミダゾールの存在下でエステル化、エステル交換及び重縮合反応させることにより熱互変性、全芳香族性のポリエステルを製造する方法。」の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されているものと認められる。

3-2.本願発明1と引用発明Bとの対比
引用発明Bの「4-ヒドロキシ安息香酸」が本願発明1の「芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)」に、引用発明Bの「ハイドロキノン」及び「4,4’-ジヒドロキシジフエニル」が本願発明1の「芳香族ジオール(II)」に、引用発明Bの「テレフタル酸」及び「イソフタル酸」が本願発明1の「芳香族ジカルボン酸(III)」に、引用発明Bの「ジフエニルカーボネート」が本願発明1の「式(IV)で示されるジアリールカーボネート類」に相当するものであることは明らかであり、引用発明Bにおけるジフェノール成分とジカルボン酸成分は等モル使用されておりそのモル比が90/100?100/90の範囲内であることは明らかであり、引用発明Bにおけるジフエニルカーボネートがエステル化試剤として機能していることは摘示記載1eから明らかであり、引用発明Bにおける「重縮合反応」は摘示記載1aに示されるとおり250?330℃の範囲の温度で行われるものであり、実施例5においては溶媒を使用せずに250?300℃の範囲の温度で行われている(摘示記載1g)ことからみて溶融状態であることは明らかであり、また、引用発明Bにおける「熱互変性」なる用語に関し、刊行物1の摘示記載1bには「成形製品、フイラメント、繊維及びフイルムの製造に使用し得る熱互変性または中間状態の(mesomorphic)芳香族ポリエステル及びポリエステルカーボネートは例えばドイツ国特許出願公開第3,325,704号及び同第3,415,530号に記載される。また「中間状態」または「熱互変性」の意味は重合体溶融物の液晶状態を研究する際の標準方法としてそこで説明されている。」ことが記載されており、ドイツ国特許出願公開第3,325,704号及び同第3,415,530号には「熱互変性」なる用語の定義が「液晶溶融物を形成する重縮合物」であることが記載されていることからみても、該「熱互変性」なる用語がサーモトロピック液晶としての性質を指すものであって引用発明Bのポリエステルが液晶性を示すことは明らかであるから、両者は、
「下記式(I)で示される芳香族ヒドロキシカルボン酸と、下記式(II)で示される芳香族ジオールと、下記式(III)で示される芳香族ジカルボン酸とを、芳香族ジオール(II)と芳香族ジカルボン酸(III)とのモル比が90/100?100/90となるようにして、溶融重合する際に、エステル化試剤として下記式(IV)で示されるジアリールカーボネート類を用いる液晶性ポリエステルの製造方法。
HO-R_(1)-COOH (I)
HO-R_(2)-OH (II)
HOOC-R_(3)-COOH (III)

(IV)
(式中、R_(1)、R_(3)は置換されていてもよいアリーレン基を表わし、R_(2)は、置換されていてもよいアリーレン基を表わし、R_(4)?R_(5)は、それぞれ独立に、水素原子またはハロゲン原子を表わすか、炭素数1?6のアシルオキシ基、または炭素数1?6のアルキル基を表わす。)」の点で一致し、次の相違点1及び2で一応相違する。

相違点1
本願発明1では「式(VII)で示されるピリジン化合物」の存在下に溶融重合することが規定されているのに対し、引用発明Bでは「2-メチルイミダゾール」の存在下に溶融重合することが規定されている点。

相違点2
本願発明1では「生成した液晶性ポリエステルを固化・粉砕し、さらに固層重合する」ことが規定されているのに対し、引用発明Bではその点に関する規定がなされていない点。

3-3.相違点1についての判断
刊行物1の摘示記載1aには「窒素原子1?3個を含む複素環式化合物の存在下で」反応を行うことが記載され、摘示記載1dには該複素環式化合物の具体例として「イミダゾール」、「2-メチル-1H-イミダゾール」、「4-ジメチルアミノピリジン」等が挙げられており、実施例5においては「2-メチルイミダゾール」が(摘示記載1g)、実施例8においては「ジメチルアミノピリジン」が使用されているから(摘示記載1h)、刊行物1においてはイミダゾール化合物とアミノピリジン化合物とを同等のものとして認識しているといえ、引用発明Bには「2-メチルイミダゾール」に代えて同等な「窒素原子1?3個を含む複素環式化合物」である「4-ジメチルアミノピリジン」を用いる態様についても包含されているといえる。また、「4-ジメチルアミノピリジン」が本願発明1の式(VII)で示されるピリジン化合物に相当するものであることは明らかである。
なお、請求人は、平成20年3月17日提出の審判請求書の手続補正書(方式)において、刊行物1の第2ページ左下欄10行?14行に「p-アセトキシ安息香酸からのポリエステルの製造における触媒として第三級アミンの使用は長い反応時間を必要とし、そして強く着色した重合体が生成するために欠点がある」ことが記載されており、刊行物1で例示されている「4-ジメチルアミノピリジン」が第三級アミンであることは明白であるから、刊行物1の「実施例5において使用されている2-メチルイミダゾールを4-ジメチルアミノピリジンに置き換えることには阻害要因を有していることを主張している。
しかしながら、刊行物1の上記指摘箇所は摘示記載1cのとおり「ドイツ国特許出願公開第2,164,473号において、従来の議論において、米国特許第3,039,994号によるp-アセトキシ安息香酸からのポリエステルの製造における触媒として第三級アミンの使用は長い反応時間を必要とし、そして強く着色した重合体が生成するために欠点があることが指摘されている。」なる記載がなされているものであって、米国特許第3,039,994号に記載されているのは第三級アミンを「触媒及び溶媒」として使用する技術に関するものであり、その実施例においてもモノマー成分30gを第三級アミン100g中に溶解して反応を行っており、刊行物1に記載された「窒素原子1?3個を含む複素環式化合物」とは全く技術思想を異にするものである。そして、刊行物1においては、その実施例8において「ジメチルアミノピリジン」が使用されているように(摘示記載1h)、第三級アミンの使用を何ら阻害していないことは明らかであるから、上記請求人の主張は採用することができないものである。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

3-4.相違点2についての判断
刊行物1の摘示記載1fには「その分子量を増加させるために、生成物-好ましくは粒状-を不活性ガス雰囲気中または真空中にて150?300℃の範囲の温度で固相後縮合に付すことができる」ことが記載されているから、引用発明Bにおいて更に分子量の高いものを得る必要がある場合に固相後縮合を行うことは当業者であれば容易になし得ることと認められる。
また、本願発明1において、「固層重合」を行ったことにより、液晶性ポリエステルの分野において通常行われる固相重合と異なる反応等が生じているとも認められず、予測し得ない作用効果が奏されているとは認められないから、本願発明1における「固層重合」とは液晶性ポリエステルの分野において通常行われる「固相重合」及び刊行物1の摘示記載1fに記載の「固相後縮合」と同じものであると認められる。

なお、請求人は、平成19年9月13日提出の意見書において、刊行物1の実施例5のポリエステルや他の実施例のポリエステルの熱変形温度が本願発明1のポリエステルに比べて低いものである点について言及している。
しかし、液晶性ポリエステルの技術分野においては、摘示記載2aに記載されるように成形加工性の向上のため種々の方法により転移温度を下げることが広く知られており、該方法の一つとして摘示記載2aには「ベントモノマー(非直線性分子)の利用」が挙げられており、摘示記載2bの「表3.2 融点の低下方法」においては、該ベントモノマーとしてイソフタル酸を導入することにより融点が50℃程度低下した例が記載されており、このように、摘示記載2cにも記載されるとおりベントモノマーを共重合成分の一成分に用いることにより「分子全体の直線性が悪くなるので融点は下がる」ことは技術常識に過ぎないといえる。 また、このような技術常識は、例えば刊行物3(請求人と同一の出願人によるものである。)における「パラヒドロキシ安息香酸:4,4’-ジヒドロキシジフェニル:テレフタル酸:イソフタル酸のモル比が60:20:15:5であり、前述の方法で定義された流動温度が320℃であるLCP1」(摘示記載3b)、「パラヒドロキシ安息香酸:4,4’-ジヒドロキシジフェニル:テレフタル酸:イソフタル酸のモル比が60:20:10:10であり、前述の方法で定義された流動温度が280℃であるLCP2」(摘示記載3b)、「パラヒドロキシ安息香酸:4,4’-ジヒドロキシジフェニル:テレフタル酸:イソフタル酸のモル比が60:20:18:2であり、前述の方法で定義された流動温度が360℃であるLCP3」(摘示記載3e)なる記載からも確認することができる。
このような技術常識を考慮し刊行物1の実施例5の記載を検討してみると、4-ヒドロキシ安息香酸単位:ジフェノール単位(ハイドロキノン単位+4,4’-ジヒドロキシジフェニル単位の合計):テレフタル酸単位:イソフタル酸単位のモル比は60:20:4:16程度となっており、上記「ベントモノマー(非直線性分子)」に相当するものであるイソフタル酸単位のモル比がテレフタル酸単位よりも多いものであることが理解でき、また、本願明細書中の実施例におけるp-ヒドロキシ安息香酸単位:4,4’-ジヒドロキシビフェニル単位:テレフタル酸:イソフタル酸のモル比は60:20:15:5であって、該「ベントモノマー」であるイソフタル酸単位のモル比が刊行物1の実施例5に比べ相対的に少ないものであることが理解できるから、当業者であれば刊行物1の実施例5において低い熱変形温度が示されている点は該「ベントモノマー」であるイソフタル酸単位のモル比が相対的に少ないことに起因する部分をかなりの程度含むものであるとすることが自然である。
さらに、本願明細書中の実施例においては、段落【0035】に「得られた樹脂を旭ガラス製ミルドガラス(REV-8)を40重量%配合し混合した後、2軸押出機(池貝鉄工(株)PCM-30)を用いて、340℃で造粒した。得られたペレットを日精樹脂工業(株)製PS40E5ASE型射出成形機を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃で射出成形を行い、樹脂の特性(荷重たわみ温度、発生ガス量)を評価した。結果を表1に示す。」なる記載がなされているとおり、荷重たわみ温度の測定は液晶性ポリエステルに40重量%のガラス繊維を添加することにより強化し得られた成形物について行われているが、これに対して刊行物1の実施例5における熱変形温度の測定に際してはガラス繊維等の添加成分は添加しておらず樹脂そのものを成形して得られた成形物について行われており(摘示記載1g及び1i)、その点についても異なるものとなっている。そして、摘示記載2dの図5.2における「熱変形温度HDT」欄に示されるように、液晶ポリマーとそのガラス繊維充填品とでは、ガラス繊維充填品の方がより高い熱変形温度を有する傾向を持つものであることは技術常識であるといえるから、本願明細書中の実施例に示された荷重たわみ温度と、刊行物1の実施例5における熱変形温度との差としては、ガラス繊維充填の有無による差も含まれていることは明らかである。
なお、このようなガラス繊維充填の有無による加重たわみ温度の相違については、刊行物3において、実施例2(LCP1を100重量部、LCP2を43重量部、ガラス繊維を61重量部含有)の荷重たわみ温度が272℃であるのに対し、ガラス繊維を加えていない比較例3(LCP1を100重量部、LCP2を43重量部含有)の荷重たわみ温度が228℃であることが示されていることからも確認することができる(摘示記載3a?3h)。
してみると、上記意見書において請求人が述べている点は、単にベントモノマー単位の差異及びガラス繊維充填の有無という測定サンプルの差異に由来するものに過ぎないといえ、このような差異が生ずる理由は上述のとおり当業者であれば直ちに理解できる技術常識に過ぎず、本願発明1において予測し得ない作用効果が奏されているとは認められない。
したがって、相違点2は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものといえる。

3-5.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5.平成22年10月25日提出の意見書における審判請求人の主張について
審判請求人は、平成22年10月25日提出の意見書において、「1-メチルイミダゾールに代えて、N,N-ジメチルピリジンを用いることにより、その量を減らし(「1.2g」→「0.2g」)、かつ、固層重合温度を下げても(「246℃」→「235℃」)、荷重たわみ温度は同等で(「261℃」)、薄肉流動長も同等以上となるのである(「24mm」→「25mm」)。すなわち、引用発明Bの如くイミダゾール化合物を用いることに代えて、本願発明1の如くピリジン化合物(VII)を用いることにより、より温和な条件で、同等の耐熱性を有し、同等以上の薄肉成形性を有する液晶性ポリエステルを得ることができるのであり、このような本願発明1の効果は、『イミダゾール化合物とアミノピリジン化合物とを同等のものとして認識している』刊行物1に記載された発明から予測することはできない。」こと(以下、「主張1」という。)、及び、「刊行物1には、固層重合を「粒状」で行うことは記載されているが、本願発明1で規定するように「固化・粉砕」とまでは記載されていない。引用発明Bにおいて、ご摘示の記載に基づき、固層重合を「粒状」で行うこととしても、前記相違点2は解消されず、本願発明1は構成されない。」こと(以下、「主張2」という。)を主張している。

まず、上記主張1について検討すると、本願発明1においてはピリジン化合物(VII)の使用量についての規定はなされておらず、固層重合温度についての規定もなされていないから、上記主張1は本願発明1に基づかない主張である。
なお、本願明細書中には、「1-メチルイミダゾール」の使用量を「1.2g」とし、固層重合温度を「246℃」とした参考例2が記載されているものの、該使用量を1.2gより少なくした場合や該固層重合温度を246℃よりも低くした場合について、得られる液晶性ポリエステルの物性がどのように変化するかについて何ら記載がなされておらず、上記主張1において審判請求人が主張する、本願明細書中の実施例1において「N,N-ジメチルピリジン」の使用量を0.2gとし、固層重合温度を235℃としたこと、による技術的意義についても理解することができない。また、液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度が主としてそのモノマー構成(ベントモノマーの割合等)やガラス繊維充填の有無に依存するものであることは上記第4.3-4において述べたとおりであって、本願明細書中の実施例1と参考例2の液晶性ポリエステルは同じモノマー構成を有し、同じガラス繊維充填量を有するものであるから、その荷重たわみ温度が同程度となることは当然であると認められる。そして、薄肉流動長の差異はこの結果だけからは有意なものと判断できる程度のものではない。
よって、上記主張1は採用することができない。

次に、上記主張2について検討すると、本願発明1においては「生成した液晶性ポリエステルを固化・粉砕し、さらに固層重合する」ことが規定されているのみであって、粉砕したものをどの程度の粒径とするかについては規定がなされておらず、刊行物1において固相後縮合に付される「粒状」の生成物(摘示記載1f)と形態において相違するものとは認められない。また、刊行物1において固相後縮合に付される「粒状」の生成物(摘示記載1f)を得るための手段として、粉砕はきわめて一般的なものに過ぎず、そのような手段を採用することに何ら困難性は認められない。
よって、上記主張2は採用することができない。

以上のとおり、審判請求人の上記主張1及び2はいずれも採用することができない。


第6.むすび
以上のとおりであるから、当審が平成22年8月11日付けで通知した拒絶理由通知における、本願の請求項1に係る発明についての拒絶理由Bは妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-11 
結審通知日 2010-11-16 
審決日 2010-11-29 
出願番号 特願2002-248409(P2002-248409)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 芳人大熊 幸治  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 藤本 保
小野寺 務
発明の名称 液晶性ポリエステル及びその製造方法  
代理人 中山 亨  

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