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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1230560
審判番号 不服2009-3801  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-19 
確定日 2011-01-13 
事件の表示 特願2004-134570号「防水型コネクタ用シール部材及び防水型コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月10日出願公開、特開2005-317385号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、平成16年4月28日の特許出願であって、平成21年1月8日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年1月20日)、これに対し、同年2月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成21年2月19日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年2月19日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前に「平板状のシール本体に該シール本体の2主面間を延びる複数の電線挿通孔を設け、各電線挿通孔の内壁面に複数の突条を設け、隣接する各電線挿通孔の突条が相互間で前記電線挿通孔の軸方向に沿って異なる位置に設けられた防水型コネクタ用シール部材において、前記シール本体の外縁近傍の前記電線挿通孔に隣接する位置にのみ、該電線挿通孔の軸方向外側に設けられた突条側の一主面から延びる逃げ溝を形成したことを特徴とする防水型コネクタ用シール部材。」とあったものを「平板状のシール本体に該シール本体の2主面間を延びる複数の電線挿通孔を設け、各電線挿通孔の内壁面に複数の突条を設け、隣接する各電線挿通孔の突条が相互間で前記電線挿通孔の軸方向に沿って異なる位置に設けられた防水型コネクタ用シール部材において、前記シール本体の外縁近傍の前記電線挿通孔に隣接する位置にのみ、該電線挿通孔の軸方向外側に設けられた突条側の一主面から延びる逃げ溝を部分的に形成したことを特徴とする防水型コネクタ用シール部材。」(下線は当審にて付与。以下同様。)と補正することを含むものである。
上記補正について検討する。
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、逃げ溝について、「部分的に」形成したことを限定するものであり、かつ、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2.刊行物に記載された発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-141137号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a)「【発明の属する技術分野】本発明は、一括型のゴム栓を用いた防水コネクタに関する。
【従来の技術】この種の防水コネクタの構造は、図6に示すように、複数のキャビティ1が形成されたコネクタハウジング2の後面に、全キャビティ1の入口にわたるようにしてゴム栓装着孔3が設けられ、このゴム栓装着孔3内に、各キャビティ1と対応して電線挿通孔4の開口された一括型のゴム栓5が嵌着されて、ゴム栓押さえ6で保持された構造となっている。そして、電線7の端末に固着された端子金具8が、ゴム栓5の電線挿通孔4を押し広げつつ対応するキャビティ1内に挿入され、電線挿通孔4の内周面が電線7の外周面に弾性的に密着することで、各キャビティ1のシールが取られるようになっている。このような防水コネクタは、例えば特開平5-266941号に開示されている。
【発明が解決しようとする課題】ところで上記のような構造の防水コネクタにおいて、例えば図6の下段に示すように、取り回しの関係で電線7が軸線と直角方向に屈曲されて引き出され、この状態で電線7に引張力が作用すると、電線7は電線挿通孔4のうちの屈曲された側の内周面を大きく弾縮しつつ引張され、逆に反対側の内周面との間で隙間Sができて、シール性が損なわれるおそれがあった。これを回避するには、例えばゴム栓5の厚みを大きく取ることが考えられるが、そうするとゴム栓5の装着スペースが余分に必要となってコネクタの大型化を招き、また端子金具8を電線挿通孔4に通す際の抵抗も大となって挿通作業も面倒になるという問題があり、有効な解決手段が希求されていた。本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、その目的は、一括ゴム栓を用いた場合のシール機能を高めるところにある。」(段落【0001】?【0003】)
b)「【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
<第1実施形態>本発明の第1実施形態を図1ないし図4によって説明する。この実施形態では、雄側の防水コネクタを例示している。図1において、符号10はコネクタハウジングであって、ともに合成樹脂製のアウタハウジング11とインナハウジング12との2ピースから形成されている。より詳細には、アウタハウジング11内には、横長の長円形断面をなして前壁14Aを有する装置孔14が形成され、この装置孔14内の前側(図1の左側)にインナハウジング12が嵌着され、その後方に、一括型のゴム栓30が嵌着されるゴム栓装着孔15が開口されている。
インナハウジング12内には、キャビティ16が複数個ずつ上下2段に分かれて形成されている。なお図示はしないが、上段の並列方向の一端側と、下段の反対側の端部ではキャビティ16が潰され、それに代わって取付棒が後面に突出して形成されている。各キャビティ16内には、電線20の端末に固着された雄側端子金具21が後端の入口16Aから挿入され、先端のタブ22が前壁14Aの開口17から前方に突出しつつ押し込まれて、本体部23が前壁14Aに達する正規位置まで挿入されると、キャビティ16の天面または底面に設けられたランス18がアゴ部24に弾性的に係止することで、雄側端子金具21が抜け止め状態で収容されるようになっている。
上記したゴム栓装着孔15は、全キャビティ16の入口16Aにわたるようにして形成され、このゴム栓装着孔15の奥側に、一括型のゴム栓30が嵌められるようになっている。このゴム栓30は、図2及び図3に示すように、所定の厚さを有し、かつゴム栓装着孔15内に緊密に嵌合可能なように横長の長円形断面に形成されている。ゴム栓30の外周面には、図示3条の外側リップ31が周設されている。
一方、ゴム栓30の内部には、上記したインナハウジング12の各キャビティ16と対応した位置ごとに、電線挿通孔33が開口されている。なお、取付棒の突設位置と対応した箇所、すなわち上段の一端側と下段の他端側は、この取付棒を緊密に挿入可能な取付孔34が開口されている。各電線挿通孔33の内周面には、電線20の外周面に弾縮しつつ密着可能な図示3条の内側リップ35が周設されている。そして、ゴム栓30の後面における各電線挿通孔33の回りには、ゴム栓30の厚さの半分程度の深さを持った環形の凹溝37が同心に形成されている。言い換えると、電線挿通孔33の回りのほぼ後半分の領域には、比較的薄肉の筒部38が形成された状態となっている。
なお、ゴム栓30の後方には、ゴム栓押さえ40が装着されるようになっている。このゴム栓押さえ40は合成樹脂製であって、ゴム栓装着孔15の手前側の端部にほぼ緊密に嵌合される形状であり、雄側端子金具21を挿通可能な窓孔41が格子状に形成されている。このゴム栓押さえ40が、図示しない係止手段を介してゴム栓30の手前に取り付けられることによって、ゴム栓30の外れ止めが図られるようになっている。
続いて、本実施形態の作用を説明する。コネクタハウジング10側の組み付けは、アウタハウジング11の装置孔14内にインナハウジング12を組み込んだ後、取付孔34をインナハウジング12の後面の取付棒に合わせつつゴム栓装着孔15内にゴム栓30を押し込み、インナハウジング12の後面に当てる。ゴム栓30の外側リップ31は、弾縮されつつゴム栓装着孔15の奥側の内周面に密着する。一方、各電線挿通孔33は、対応するキャビティ16の入口16Aと連通した状態とされる。また、ゴム栓押さえ40が嵌められて、ゴム栓30の外れ止めがなされる。
係る(「斯かる」の誤記と認められる。)状態から、雄側端子金具21が図1の矢線に示すように対応するキャビティ16に向けて挿入される。雄側端子金具21は、ゴム栓押さえ40の窓孔41を通ったのち、ゴム栓30の電線挿通孔33を押し広げつつ通過し、入口16Aからキャビティ16内に挿入される。正規位置まで挿入されるとランス18により抜け止めされるとともに、ゴム栓30の電線挿通孔33が復元変形して内側リップ35が電線20の外周に密着する。全ての雄側端子金具21の挿入が済んだら組み付けが完了し、各キャビティ16が外部からシールされた状態となる。
このように組み付けられた雄側の防水コネクタは、図示しない相手の雌側の防水コネクタと嵌合する等により使用される。そのとき、電線20の取り回しの関係で、図4の下段に示すように電線20がその軸線方向と直角に屈曲した状態で引き出され、同図の矢線方向に引張されることがあり得る。この場合電線20は、電線挿通孔33の後端部分で引張力が作用した方向に向けて屈曲するのであるが、特に電線挿通孔33の後端側では、比較的薄肉の筒部38が嵌着された状態となっていて、凹溝37の一側を狭め、反端側を広げるようにして、筒部38が電線20に倣って屈曲し、内側リップ35と電線20の外周との密着性は確保される。
このように、電線20が軸線に対して直角方向に屈曲して引張された場合にも、筒部38が電線20の屈曲に追従するようにして、電線挿通孔33の内周面と電線20の外周面とが密着状に保持されシール性が確保される。しかも、電線挿通孔33の後面側の口縁の回りに凹溝37を切っただけの構造であるから、ゴム栓30全体の厚みは従前通りに維持でき、コネクタの大型化に繋がるおそれがない。また雄側端子金具21を挿抜する際には電線挿通孔33が広がりやすくなるから、挿抜作業も容易となる。さらに、電線挿通孔33が変形した場合にも、凹溝37で寸断されるようにしてその外側の部分には変形の影響が及び難い。したがって、ゴム栓30の外周面に設けられた外側リップ31を全周にわたってゴム栓装着孔15の内周面に密着させた状態に保持でき、ゴム栓30とゴム栓装着孔15の間のシール性も確保される。」(段落【0008】?【0016】)
c)上記bの記載事項および図面の図示内容から、一括型のゴム栓30の本体部が横長の長円形断面に形成されること、電線挿通孔33が本体部の前後面に延びるように開口形成されることが示されている。

上記a、bの記載事項、上記cの認定事項および図面の図示内容を総合勘案すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「横長の長円形断面に形成された一括型のゴム栓30本体部、該本体部の前後面に延びる複数の電線挿通孔33が、複数個ずつ上下2段に分かれて形成されたインナハウジング12の、各キャビティ16と対応した位置ごとに開口形成され、各電線挿通孔33の内周面に、電線20の外周面に弾接しつつ密着可能な3条の内側リップ35を周設した防水コネクタに用いる一括型のゴム栓30において、
一括型のゴム栓30の本体部の後面における各電線挿通孔33の回りには、一括型のゴム栓30の本体部の厚さの半分程度の深さを持った環形の凹溝37が同心に形成され、各電線挿通孔33が変形した場合にも環形の凹溝37で寸断されるようにしてその外側部分には変形の影響が及び難くした防水コネクタに用いる一括型のゴム栓30。」

(2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願平1-27226号(実開平2-119372号)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a)「一括シール本体に複数の端子挿入孔が設けられ、前記各端子挿入孔の内面にはリング状のシール突起が設けられている防水コネクタ用一括シールにおいて、隣接する前記各端子挿入孔の前記シール突起は孔の相互間で長手方向に位置をずらして設けられていることを特徴とする防水コネクタ用一括シール。」(第1ページ第3行?同第10行)
b)「本考案の目的は、隣接する端子挿入孔へ端子及び電線を従来より容易に挿通できる防水コネクタ用一括シールを提供することにある。」(第4ページ第1行?第3行)

上記a、bの記載事項および図面の図示内容を総合勘案すると、刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる。
「隣接する端子挿入孔へ端子及び電線を従来より容易に挿通できる防水コネクタ用一括シールを提供することを目的として、
一括シール本体に複数の端子挿入孔が設けられ、各端子挿入孔の内面にはリング状のシール突起が設けられている防水コネクタ用一括シールにおいて、隣接する各端子挿入孔の前記シール突起は孔の相互間で長手方向に位置をずらして設けた防水コネクタ用一括シール。」

3.対比
本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1に記載された発明の「横長の長円形断面に形成された一括型のゴム栓30の本体部」は、その構成および機能からみて、本件補正発明の「平板状のシール本体」に相当し、以下同様に、
「本体部の前後面に延びる複数の電線挿通孔33が、複数個ずつ上下2段に分かれて形成されたインナハウジング12の、各キャビティ16と対応した位置ごとに開口形成され」ることは、複数の電線挿通孔33が、インナハウジング12に設けられた各キャビティ16の位置と対応した位置に、複数個ずつ上下2段に分かれて形成されていることであるから、「シール本体の2主面間を延びる複数の電線挿通孔を設け」ることに、
「各電線挿通孔33の内周面に、電線20の外周面に弾接しつつ密着可能な3条の内側リップ35を周設した」ことは「各電線挿通孔の内壁面に複数の突条を設け」ることに、
「防水コネクタに用いる一括型のゴム栓30」は「防水型コネクタ用シール部材」に、
それぞれ相当する。
次に、刊行物1に記載された発明の「一括型のゴム栓30の本体部の後面における各電線挿通孔33の回りには、ゴム栓30の厚さの半分程度の深さを持った環形の凹溝37が同心に形成され」ることと本件補正発明の「シール本体の外縁近傍の電線挿通孔に隣接する位置にのみ、該電線挿通孔の軸方向外側に設けられた突条側の一主面から延びる逃げ溝を部分的に形成した」こととを対比する。
刊行物1に記載された発明の「各電線挿通孔33」は、上記したように、複数個ずつ上下2段に分かれて形成されるものであり、いずれも本体部の外縁近傍に開口形成されているといえる。そうすると、刊行物1に記載された発明の「環形の凹溝37」は、いずれも、本体部の外縁近傍に形成された電線挿通孔33の回りに同心に形成されたものであって、シール本体の外縁近傍に形成された各電線挿通孔33に隣接する位置にのみ、電線挿通孔33の軸方向外側の主面から延びる逃げ溝が形成されているといえる。
一方、本件補正発明の「シール本体の外縁近傍の電線挿通孔に隣接する位置」なる発明特定事項中の「隣接する位置」とは、電線挿通孔のうち、外縁近傍に位置する電線挿通孔に隣接している位置、すなわち、刊行物1に記載された発明のように、電線挿通孔が複数個ずつ上下2段に分かれて形成された場合には、各々の電線挿通孔の全周にわたって隣接する位置を含むものと解される。
そうすると、両者は、「シール本体の外縁近傍の電線挿通孔に隣接する位置にのみ、該電線挿通孔の軸方向外側に設けられた一主面から延びる逃げ溝を形成した」ことで共通する。

したがって、上記両者の一致点および相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「平板状のシール本体に該シール本体の2主面間を延びる複数の電線挿通孔を設け、各電線挿通孔の内壁面に複数の突条を設けた防水型コネクタ用シール部材において、
前記シール本体の外縁近傍の前記電線挿通孔に隣接する位置にのみ、該電線挿通孔の軸方向外側に設けられた一主面から延びる逃げ溝を形成した防水型コネクタ用シール部材。」

[相違点1]
本件補正発明では、隣接する各電線挿通孔の突条が相互間で前記電線挿通孔の軸方向に沿って異なる位置に設けられたのに対して、刊行物1に記載された発明では、当該発明特定事項を具備しない点。

[相違点2]
本件補正発明では、突条側の一主面から延びる逃げ溝を部分的に形成したのに対して、刊行物に記載された発明では、本体部の後面である一主面に、ゴム栓30の厚さの半分程度の深さを持った環形の凹溝37が同心に形成された点。

4.当審の判断
(1)相違点1および2について
まず、本件補正発明と刊行物2に記載された発明とを対比する。
刊行物2に記載された発明の「一括シール本体」は、その構成および機能からみて、本件補正発明の「シール本体」に相当し、以下同様に、
「端子挿入孔」は「電線挿通孔」に、
「各端子挿入孔の内面にはリング状のシール突起が設けられ」ることは「各電線挿通孔の内壁面に複数の突条を設け」ることに、
「防水コネクタ用一括シール」は「防水型コネクタ用シール部材」に、
「隣接する各端子挿入孔のシール突起は孔の相互間で長手方向に位置をずらして設けた」ことは「隣接する各電線挿通孔の突条が相互間で電線挿通孔の軸方向に沿って異なる位置に設けられ」ていることに、
それぞれ相当する。
したがって、刊行物2に記載された発明は、
「隣接する電線挿通孔へ端子及び電線を従来より容易に挿通できる防水型コネクタ用シール部材を提供することを目的として、
シール本体に複数の電線挿通孔が設けられ、各電線挿通孔の内壁面に複数の突条を設けられている防水型コネクタ用シール部材において、
隣接する各電線挿通孔の突条が相互間で電線挿通孔の軸方向に沿って異なる位置に設けられている防水型コネクタ用シール部材。」と言い換えることができる。
また、防水型コネクタ用シール部材の技術分野において、シール本体の外縁近傍に位置する電線挿通孔に隣接する位置にのみ、該電線挿通孔の軸方向外側に設けられた、一主面から延びる逃げ溝を部分的に形成することは、本願出願前に周知の技術事項である(例えば、米国特許第6176739号明細書のストレスを解放するmajor recess48等,minor recess56,Fig1,2,10,12,13や米国特許第5839920号明細書のrelaxation cores30,Fig1,2,5を参照。)。
そして、刊行物1に記載された発明のシール部材は、各電線挿通孔の内周面に突条を周設したものであり、隣接する電線挿通孔の相互に大きいサイズの電線を挿通しようとする場合、突条は端子および電線により拡張され、挿通に際して大きな抵抗を生じるものであるから、刊行物1に記載された発明は、隣接する電線挿通孔へ端子及び電線をより容易に挿通できるようにするという自明の課題を内在するものである。
ゆえに、刊行物1に記載された発明に、隣接する電線挿通孔へ端子及び電線をより容易に挿通できるようにするために、刊行物2に記載された発明を適用して、隣接する各電線挿通孔の突条が相互間で電線挿通孔の軸方向に沿って異なる位置に配置することは当業者が容易になし得たものである。
そして、当該適用に際して、逃げ溝が端子および電線の挿通により突条が拡張されても、拡張された突条のシール部材への影響を吸収するものであることは自明の機能であるから、上記周知の技術事項に倣って、電線挿通孔の軸方向外側に、逃げ溝を部分的に形成するとともに、逃げ溝を形成する面を、軸方向に沿って異なる位置に配置された突条が存在する側の面とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(2)小括
本件補正発明の奏する効果についてみても、刊行物1、2に記載された発明および周知の技術事項から当業者が予測できた効果の範囲内のものである。
したがって、本件補正発明は、刊行物1、2に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たものである。
ゆえに、本件補正発明は、刊行物1、2に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成21年2月19日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年7月31日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものであ。
「平板状のシール本体に該シール本体の2主面間を延びる複数の電線挿通孔を設け、各電線挿通孔の内壁面に複数の突条を設け、隣接する各電線挿通孔の突条が相互間で前記電線挿通孔の軸方向に沿って異なる位置に設けられた防水型コネクタ用シール部材において、
前記シール本体の外縁近傍の前記電線挿通孔に隣接する位置にのみ、該電線挿通孔の軸方向外側に設けられた突条側の一主面から延びる逃げ溝を形成したことを特徴とする防水型コネクタ用シール部材。」

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物1、2、刊行物1、2の記載事項および刊行物1、2に記載された発明は、前記「第2 2.刊行物に記載された発明」に記載したとおりである。

3.対比および判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本件補正発明において、逃げ溝について、「部分的に」形成したとの限定を省くものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 3.対比および4.当審の判断」に記載したとおり、刊行物1、2に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、刊行物1、2に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1、2に記載された発明、および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-15 
結審通知日 2010-11-16 
審決日 2010-12-01 
出願番号 特願2004-134570(P2004-134570)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01R)
P 1 8・ 121- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木戸 優華岡本 健太郎  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 鈴木 敏史
長崎 洋一
発明の名称 防水型コネクタ用シール部材及び防水型コネクタ  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 廣瀬 一  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 森 哲也  

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