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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1230703
審判番号 不服2009-11864  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-29 
確定日 2011-01-17 
事件の表示 特願2005-213936「非活性時の送受信局の消費電力を節約したスペクトラム拡散通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月 5日出願公開、特開2006- 5957〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成8年6月27日に出願した特願平9-505231号(優先権主張1995年6月30日、米国)の一部を平成17年7月25日に新たな特許出願としたものであって、平成21年3月27日付けで平成20年7月18日付け手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年6月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月29日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成21年7月29日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年7月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正前・補正後の本願発明
本件補正により、少なくとも特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。なお、下線部は補正された箇所を示す。

〈補正前〉(平成19年1月24日付け手続補正書)
「符号分割多元接続(CDMA)通信システム用の加入者局ユニットが前記CDMA通信システムにアクセスするために用いる方法であって、
複数の符号化ずみの信号を初期送信電力レベルで送信するとともにその送信電力レベルを前記CDMA通信システムが前記複数の符号化ずみの信号の少なくとも一つを検出するまで増加させることによってアクセス手順を開始する過程と、
前記送信電力レベルが前記加入者局ユニットに関連づけられた送信電力レベル最大値に基づく値をいつ超えるかを算定する過程と、
前記送信電力レベルが前記値を超えたとき前記アクセス手順を終了する過程と
を含む方法。」

〈補正後〉
「符号分割多元接続(CDMA)通信システムにアクセスするCDMA加入者局ユニットが使用する方法であって、
前記方法は、
符号化ずみの信号を初期送信電力レベルで送信することによって、およびCDMA通信システムが前記符号化ずみの信号の少なくとも一つを検出するまで後続の符号化ずみの信号を増加した送信電力レベルで送信することによって、アクセス手順を開始する過程であって、該符号化ずみの信号はアクセス信号及びパイロット信号を含む、過程と、
前記送信電力レベルが前記加入者局ユニットに関連づけられた最大送信電力レベルに基づく値を超えるか否かを判定する過程と、
前記送信電力レベルが前記値を超えたとき前記アクセス手順を終了する過程と
を含むことを特徴とする方法。」

本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「符号分割多元接続(CDMA)通信システム用の加入者局ユニットが前記CDMA通信システムにアクセスするために用いる方法であって、」について、意味の変わらない「符号分割多元接続(CDMA)通信システムにアクセスするCDMA加入者局ユニットが使用する方法であって、 前記方法は、」とするものであり、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「複数の符号化ずみの信号」について、「符号化ずみの信号」とするものであるが、補正後の請求項1においても「符号化ずみの信号」は、アクセスの都度送られるものであり、複数であることは明らかであるので、実質的に意味の変わらない補正であり、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「初期送信電力レベルで送信するとともに」について、意味の変わらない「初期送信電力レベルで送信することによって、および」とするものであり、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「符号化ずみの信号の少なくとも一つを検出するまで増加させる」について、「符号化ずみの信号の少なくとも一つを検出するまで後続の符号化ずみの信号を増加した送信電力レベルで送信する」と限定するものであり、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「アクセス手順を開始する過程」について、「アクセス手順を開始する過程であって、該符号化ずみの信号はアクセス信号及びパイロット信号を含む、過程」と限定するものであり、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「送信電力レベル最大値」について、意味の変わらない「最大送信電力レベル」とするものであり、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「値をいつ超えるかを算定する過程」について、「値を超えるか否かを判定する過程」とするものであるが、これは明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「含む方法」について、意味の変わらない「含むことを特徴とする方法」とするものであるから、本件補正は特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-30483号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

A.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車電話や携帯電話等の無線電話装置に関し、特に、送信電力の強度を適切な値に制御できるように構成したものである。」

B.「【0003】従来の無線電話装置は、図2に示すように、音声信号および電話制御信号を入出力すると共に、発呼・着呼等の電話機能処理を行なう電話部1と、電話部1から出力される音声および制御信号を無線周波数に変調する変調部2と、送信電力の制御を行なう送信電力制御部3と、送信信号の電力増幅を行ないアンテナから送出する送信信号電力増幅部4と、アンテナから受信された受信信号を増幅する受信信号増幅部5と、受信信号を復調し電話部1に入力する復調部6と、受信信号増幅部5の出力から受信信号の強度を測定する受信信号強度評価部7と、無線電話装置の総括制御を行なう制御部8とを備えている。」

C.「【0012】
【実施例】本発明の実施例における無線電話装置は、図1に示すように、送信電力値を記憶する送信電力値記憶部9を備えている。その他の構成は従来の装置(図2)と変わりが無い。」

D.「【0018】2回目以降の発呼では、制御部8は、送信電力値記憶部9に記憶されている前回の最適送信電力値を読み出し、その電力値を送信電力制御部3の初期値として設定する。
【0019】発呼信号は、送信信号電力増幅部4を介して、設定された送信出力によりアンテナから相手局に送信される。
【0020】この発呼信号の送信電力値が相手局との距離に比べて十分な強さである場合は、相手局は、この発呼信号を受信することができ、受信した相手局は、応答信号を返す。
【0021】応答信号を受信した無線電話装置では、従来と同様の手順で、制御部8が相手局からの受信信号強度により送信電力を最適な状態に制御し、それと同時に、その送信電力値を送信電力値記憶部9に記憶して、次回の発呼等の無線接続時の送信電力初期値として使用する。
【0022】制御部8が送信電力値記憶部9から読み出す送信電力値は、前回の通信に成功した送信電力値であるから、自局と相手局との位置関係に大きな変化がなければ、今回の通信も成功する確率が極めて高い。そして、この通信に成功した場合は、通信開始時の不必要な電力消費や近隣の他の無線システムへの妨害を避けることができる。
【0023】発呼信号の送信電力値が相手局との距離に比べて小さい場合は、相手局は、この発呼信号を受信することができず、従って相手局から応答信号が返らない。制御部8は、相手局からの応答信号が予め指定された時間内に、電話部1を介して検知できない場合は、送信電力が小さいと判断して、送信電力制御部3に設定する送信電力を予め決められた規定値(例えば、最大値)まで増やし、同時に、送信電力値記憶部9の値を更新する。
【0024】この送信電力の増加により相手局との接続が確認できれば、以後は従来と同様に、相手局から受信した信号の強度に基づいて送信電力を最適値に調整し、また、この最適値を送信電力値記憶部9に記憶する。また、相手局との接続が確認できなければ、更に送信電力を増加して、上記の処理を繰り返す。送信電力を最大電力にまで増加しても接続できない場合は、相手局が通話圏外に居るものと判断し、発呼処理を終了する。」

以上のことから、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「自動車電話や携帯電話等の無線電話装置に関し、特に、送信電力の強度を適切な値に制御できるように構成したものにおいて、
無線電話装置は、音声信号および電話制御信号を入出力すると共に、発呼・着呼等の電話機能処理を行なう電話部1と、送信電力の制御を行なう送信電力制御部3と、送信信号の電力増幅を行ないアンテナから送出する送信信号電力増幅部4と、無線電話装置の総括制御を行なう制御部8と、送信電力値を記憶する送信電力値記憶部9とを備え、
制御部8は、最適送信電力値を読み出し、その電力値を送信電力制御部3の初期値として設定し、発呼信号は、送信信号電力増幅部4を介して、設定された送信出力によりアンテナから相手局に送信されるが、発呼信号の送信電力値が相手局との距離に比べて小さい場合は、相手局は、この発呼信号を受信することができず、従って相手局から応答信号が返らないため、制御部8は、相手局からの応答信号が予め指定された時間内に、電話部1を介して検知できない場合は、送信電力が小さいと判断して、送信電力制御部3に設定する送信電力を予め決められた規定値まで増やし、この送信電力の増加により相手局との接続が確認できれば、以後は従来と同様に、相手局から受信した信号の強度に基づいて送信電力を最適値に調整し、相手局との接続が確認できなければ、更に送信電力を増加して、上記の処理を繰り返し、送信電力を最大電力にまで増加しても接続できない場合は、相手局が通話圏外に居るものと判断し、発呼処理を終了する無線電話装置。」

3.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「無線電話装置」と、本願補正発明の「符号分割多元接続(CDMA)通信システムにアクセスするCDMA加入者局ユニット」とは、通信システムにアクセスする加入者局ユニットである点で共通する。

引用発明の「初期値として設定」される「電力値」は、最初に無線電話装置から送信される発呼信号の送信電力値であり、その後相手局から応答信号が返らない場合にこの電力値から送信電力値が増加されるものであるので、本願補正発明の「初期送信電力レベル」に相当する。発呼信号は無線電話装置が回線を接続して通信を開始する際に最初に送信する信号であるので、引用発明の「発呼信号」は、本願補正発明の「アクセス信号」に相当し、引用発明において「発呼信号」を送信することは、本願補正発明の「アクセス手順を開始する」ことに相当する。そして、引用発明において、相手局からの応答信号が検知できる場合や相手局との接続が確認できることは、引用発明の通信システムが無線電話装置からの発呼信号の少なくとも一つを検出しているということができるので、引用発明の「最適送信電力値を読み出し、その電力値を送信電力制御部3の初期値として設定し、発呼信号は、送信信号電力増幅部4を介して、設定された送信出力によりアンテナから相手局に送信され」、「相手局からの応答信号が予め指定された時間内に、電話部1を介して検知できない場合は、送信電力が小さいと判断して、送信電力制御部3に設定する送信電力を予め決められた規定値まで増やし、この送信電力の増加により相手局との接続が確認できれば、以後は従来と同様に、相手局から受信した信号の強度に基づいて送信電力を最適値に調整し、相手局との接続が確認できなければ、更に送信電力を増加して、上記の処理を繰り返」すことと、本願補正発明の「符号化ずみの信号を初期送信電力レベルで送信することによって、およびCDMA通信システムが前記符号化ずみの信号の少なくとも一つを検出するまで後続の符号化ずみの信号を増加した送信電力レベルで送信することによって、アクセス手順を開始する過程」とは、信号を初期送信電力レベルで送信することによって、および通信システムが前記信号の少なくとも一つを検出するまで後続の信号を増加した送信電力レベルで送信することによって、アクセス手順を開始する過程である点で共通する。

引用発明の「発呼処理を終了する」ことは、本願補正発明の「アクセス手順を終了する」ことに相当する。引用発明の「送信電力を最大電力にまで増加しても接続できない場合」における「最大電力」は、引用発明の無線電話装置における最大電力であることは明らかであり、無線電話装置に関連づけられた最大送信電力レベルということができる。したがって、引用発明の「送信電力を最大電力にまで増加しても接続できない場合は、相手局が通話圏外に居るものと判断し、発呼処理を終了する」ことは、本願補正発明の「送信電力レベルが前記加入者局ユニットに関連づけられた最大送信電力レベルに基づく値を超えるか否かを判定する過程と、前記送信電力レベルが前記値を超えたとき前記アクセス手順を終了する過程」に相当する。

したがって、両者は、
「通信システムにアクセスする加入者局ユニットが使用する方法であって、
前記方法は、
信号を初期送信電力レベルで送信することによって、および通信システムが前記信号の少なくとも一つを検出するまで後続の信号を増加した送信電力レベルで送信することによって、アクセス手順を開始する過程と、
前記送信電力レベルが前記加入者局ユニットに関連づけられた最大送信電力レベルに基づく値を超えるか否かを判定する過程と、
前記送信電力レベルが前記値を超えたとき前記アクセス手順を終了する過程と
を含むことを特徴とする方法。」
で、一致するものであり、次の点で相違している。

[相違点]
本願補正発明では、通信システムは符号分割多元接続(CDMA)通信システムであり、加入者ユニットが送信する信号は、アクセス信号及びパイロット信号を含む符号化ずみの信号であるのに対し、引用発明では、無線電話装置は本願補正発明のアクセス信号に相当する発呼信号を送信しているものの、どうのような方式の通信システムであるか明らかではなく、無線端末装置が送信する信号もパイロット信号含む符号化ずみの信号かどうか明らかではない点。

4.判断
上記相違点について検討する。

移動体通信の技術分野において、移動局が初期アクセスの際に低送信電力から応答があるまで、徐々に出力を増加させるアクセス方法をCDMA通信システムが採用していることは周知技術(例えば、特表平6-511609号公報の第5頁左下欄16行?26行、特表平7-502398号公報の第3頁左上欄26行?右上欄20行、参照)であり、引用発明において、前記周知技術を適用して、通信システムを符号分割多元接続(CDMA)通信システムとすることは当業者が容易に想到し得たものである。

また、CDMA通信システムでは送信信号を拡散符号化して拡散符号化ずみの信号を用いることは技術常識であり、さらに移動通信システムで用いる信号の一つとしてパイロット信号があることは周知技術(例えば、安部田貞行、三瓶政一、森永規彦、「抑圧パイロットチャネルを用いたDS/CDMA同期検波方式」、電子情報通信学会論文誌、J77-B-II、No.11,1994年11月25日、p.641?648の例えばp.642左欄1行?4行の「本論文では,上り回線における同期検波の実現と高速チップタイミング同期を実現するため,トラヒックチャネルと直交し,かつその電力がトラヒックチャネルより小さいパイロットチャネルを挿入する」という記載、特開平7-123016号公報の例えば【0031】段落の「通話チャネルと制御チャネルの両方に既知信号とパイロット信号を埋め込み、上記の適応処理を各基地局と移動局の交信に対してフィルタ係数の更新を行う。」という記載、参照。)であり、引用発明において、前記周知技術を適用して、アクセスに用いる信号としてアクセス信号の他にパイロット信号を含む符号化ずみ信号とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、平成22年3月18日付け回答書(4)の中で、「本願発明の構成は、上記したとおりのものです。このような構成によれば、基地局の処理負荷を減らすことができ、基地局におけるアクセスチャネルの復号が一層容易になる、という顕著な効果を得られるようになります。具体的に言えば、本願明細書の段落[0007」・・・と記載されており、基地局の処理負荷を減らすことによって、電力制御システムを改善する必要性が述べられています。
基地局の処理負荷を減らす処理の一例が改善されたアクセス手順であり、本願明細書の段落[0069]には・・・と記載されており、発生した逆方向リンクCDMA信号は、拡散AXCHチャネル信号および逆方向パイロット信号を含んでおり、段落[0065]?[0067]および図6に記載されているように、無線搬送波局(RCS)にて受信されて使用されていきます。
したがって、本願明細書には、背景技術の欄に電力制御システム改善の必要性が述べられており、本願発明に係る構成によって、基地局の処理負荷を減らす効果も述べられていると思料します。
また、本願発明と各引用文献に記載された発明とを対比すると、・・・各引用文献には、請求項1に記載されたような「CDMA通信システムが前記符号化ずみの信号の少なくとも一つを検出するまで後続の符号化ずみの信号を増加した送信電力レベルで送信する」こと、および「該符号化ずみの信号はアクセス信号及びパイロット信号を含む」こと、について記載も示唆もされていません。
したがって、本願発明は、各引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではありません。」と主張している。

しかしながら、本願の明細書【0007】段落では、電力制御システムを改善する必要性が記載されているだけであり、本願補正発明の「該符号化ずみの信号はアクセス信号及びパイロット信号を含む」点には言及されておらず、本願補正発明の前記構成と、基地局の処理負荷を減らすことができ、基地局におけるアクセスチャネルの復号が一層容易になるという審判請求人が主張する効果との関係については全く記載されていない。そして、【0069】段落では、単に逆方向リンクCDMA信号として、拡散AXCHチャネル信号および逆方向パイロット信号が送信されることが記載されているのみで、本願補正発明の「該符号化ずみの信号はアクセス信号及びパイロット信号を含む」ことによってどのような効果が得られるのか、本願補正発明の初期送信電力を設定する過程でそれらの信号がどのように送信されるのかについては全く記載されていない。したがって、【0007】段落、【0069】段落に記載された事項からは、さらに、本願の明細書の他の部分を参照しても、「該符号化ずみの信号はアクセス信号及びパイロット信号を含む」点によって、どうして基地局の処理負荷を減らすことができ、基地局におけるアクセスチャネルの復号が一層容易になるという効果が得られるのか不明であり、本願補正発明は単にCDMAの符号化ずみの信号がアクセス信号及びパイロット信号を含むことを規定しているに過ぎない。そして、上記相違点のところで検討したように拡散符号化ずみ信号を送信するCDMA通信システムが引用発明のようなアクセス時の電力制御方法を採用していることや、移動体通信システムにおいてパイロット信号を送信することが周知技術であり、また、引用発明において、発呼信号をどのような信号で構成するかは当業者の設計的事項であるので、引用発明を符号化ずみ信号を送信するCDMAシステムとして、符号化ずみ信号に周知のパイロット信号を単に含めるように構成することに格別の困難性は認められない。よって、審判請求人の上記主張は採用できない。

5.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について

1.本願発明
平成21年7月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明という。」)は、平成19年1月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「符号分割多元接続(CDMA)通信システム用の加入者局ユニットが前記CDMA通信システムにアクセスするために用いる方法であって、
複数の符号化ずみの信号を初期送信電力レベルで送信するとともにその送信電力レベルを前記CDMA通信システムが前記複数の符号化ずみの信号の少なくとも一つを検出するまで増加させることによってアクセス手順を開始する過程と、
前記送信電力レベルが前記加入者局ユニットに関連づけられた送信電力レベル最大値に基づく値をいつ超えるかを算定する過程と、
前記送信電力レベルが前記値を超えたとき前記アクセス手順を終了する過程と
を含む方法。」

2.引用例
引用例の記載事項は、前記「II.2」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「II」で検討した本願補正発明について、本願補正発明の「符号分割多元接続(CDMA)通信システムにアクセスするCDMA加入者局ユニットが使用する方法であって、 前記方法は、」について、意味の変わらない「符号分割多元接続(CDMA)通信システム用の加入者局ユニットが前記CDMA通信システムにアクセスするために用いる方法であって」とするものであり、本願補正発明の「符号化ずみの信号」について、符号化ずみ信号は複数であることは明らかであることから実質的に意味の変わらない「複数の符号化ずみの信号」とするものであり、本願補正発明の「初期送信電力レベルで送信することによって、および」を意味の変わらない「初期送信電力レベルで送信するとともに」とするものであり、本願補正発明の「符号化ずみの信号の少なくとも一つを検出するまで後続の符号化ずみの信号を増加した送信電力レベルで送信する」について「符号化ずみの信号の少なくとも一つを検出するまで増加させる」と限定を省くものであり、本願補正発明の「アクセス手順を開始する過程であって、該符号化ずみの信号はアクセス信号及びパイロット信号を含む、過程」について「であって、該符号化ずみの信号はアクセス信号及びパイロット信号を含む、過程」との限定を省いたものであり、本願補正発明の「最大送信電力レベル」について、意味の変わらない「送信電力レベル最大値」とするものであり、本願補正発明の「値を超えるか否かを判定する過程」を実質的にその意味することが変わらない「値をいつ超えるかを算定する過程」とするものであり、本願補正発明の「含むことを特徴とする方法」について、意味の変わらない「含む方法」とするものである。

そうすると、本願発明の構成要素をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.4に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、上記引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-16 
結審通知日 2010-08-20 
審決日 2010-09-02 
出願番号 特願2005-213936(P2005-213936)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小河 誠巳丹治 彰  
特許庁審判長 江嶋 清仁
特許庁審判官 青木 健
清水 稔
発明の名称 非活性時の送受信局の消費電力を節約したスペクトラム拡散通信システム  
復代理人 濱中 淳宏  
代理人 谷 義一  
代理人 阿部 和夫  
復代理人 藤原 弘和  

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