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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01M
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01M
管理番号 1230768
審判番号 不服2009-2087  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-08 
確定日 2011-01-04 
事件の表示 特願2004-257339「二物体間摩擦系における摩耗の抑制方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月23日出願公開、特開2005-163781〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年9月3日(優先権主張平成15年10月6日)の出願であって、平成20年3月31日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対し、同年6月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月2日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、平成21年1月9日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年2月4日付けで手続補正書が提出されて明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において同年11月4日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、平成22年1月12日付けで回答書が提出され、同年5月28日付けで上記平成21年2月4日付けの明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正についての補正却下の決定がなされ、同年6月16日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対し、同年8月23日付けで意見書及び手続補正書が提出されて明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年6月9日付けで提出された手続補正書及び平成22年8月23日付けで提出された手続補正書により補正された明細書、平成22年8月23日付けで提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された図面の記載からみて、平成22年8月23日付けでなされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「二物体間の接触的な周期的相対運動における摩擦面の摩擦による摩耗を抑制する目的で潤滑油を前記二物体間に介在させた摩擦系において、前記相対運動の最大回転数に対応した不溶解分の含有率を、横軸に最大回転数nを、縦軸に含有率pを採ったグラフ上において、このグラフ上の点を(n,p)と表すとき、点(100rpm,0.5%)及び、点(750rpm,0.2%)及び、点(1200rpm,0.1%)及び、点(3000rpm,0.05%)及び、点(8000rpm,0.025%)を通る連続的な減少曲線により与えられる不溶解分の含有率pを用い、選択された回転数における不溶解分の最大含有率が±0.05%の範囲内の有効誤差範囲となるように精密濾過手段を用いて潤滑油に対する不溶解分の含有率を調整、維持し、不溶解分の含有率が前記範囲から上方に逸脱する頃合いに、潤滑油の一部又は全部を新油に交換することにより、不溶解分の含有率を前記範囲内に収めて、前記二物体間の摩擦による摩耗を抑制するようにし、前記精密濾過手段が薄い紙を多数積層したフィルターエレメントを含み、紙の積層間隙に潤滑油を流過させて潤滑油中に含有される不溶解分を分子のブラウン運動で紙の繊維に付着させて除去するようにしたものであることを特徴とする二物体間摩擦系における摩耗の抑制方法。」

第3.当審において平成22年6月16日付けで通知した拒絶の理由の概要
「1.この出願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
…(中略)…


(理由1)
・刊行物 : 特開平3-227398号公報(以下、「引用文献」という。)
・備考
引用文献には、「ペンタン不溶解分の含有率を所定範囲内(0.1wt%≦不溶解分<0.5wt%)となるように、濾過手段9を用いて不溶解分の含有率を調整、維持するようにした二物体間摩擦系における摩耗の抑制方法。」が記載されている。
引用文献記載のものにおいて、相対運動の最大回転数を考慮して上記「所定範囲」を選定することは、摩耗を抑制するためには最大回転数が大きければ大きいほど不溶解分を少なくすべきであるということが当該技術分野の技術常識であることに鑑みれば、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
なお、請求人は、平成21年11月4日付けの審尋に対する平成22年1月12日付けの回答書において、特許請求の範囲の【請求項1】についての補正案を提出している。しかしながら、当該補正案記載の発明は、依然として、上記引用文献記載のものから当業者が格別困難なく想到し得るものである。


(理由2)
(1)選定した含有率の数値、すなわち、相対運動の最大回転数(1200rpm,3000rpm,8000rpm)に応じた摩擦面の摩耗を最小限にする潤滑油中の不溶解分の含有率の数値について、どのような理論的根拠に基づいて選定したものであるのかが不明りょうである。
…(中略)…
(3)「最大回転数」の定義が不明りょうである。出力し得る最大の回転数が、例えば、自動車エンジンでは、3000rpmであるということか?
…(後略)…」

第4.当審の判断
1.特許法第29条第2項違反(上記第3.の理由1)について
1-1.当該拒絶の理由に引用した特開平3-227398号公報(以下、「引用例」という。)
1-1-1.引用例の記載事項
引用例には、次の事項が図面とともに記載されている。なお、アンダーラインは、発明の理解の一助として、当審において付したものである。
(ア)「〔産業上の利用分野〕
この発明は、潤滑油清浄装置に関するものである。」(第1ページ右下欄9ないし11行)
(イ)「〔実施例〕
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。第1図は、本発明の第1実施例の全体構成を示す概略図であり、自動車の内燃機関に本発明を適用したものである。第1図において、オイルパン1内の潤滑油を必要部位に送るポンプ93、及び配管91,潤滑油内の不純物を除去する濾過フィルタ92が既に備えられている。」(第2ページ左下欄5ないし12行)
(ウ)「不溶解分はJPI-5S-18に示すペンタン不溶解分なる成分の重量(%)をいう。」(第3ページ右下欄11及び12行)
(エ)「次に、コントローラ19はステップ116で不溶解分検出センサー27で潤滑油の不溶解分が0.5wt%以上か否かを判別し、0.5wt%以上になったときはステップ117に示す様にオイルポンプ3を駆動してオイルパン1内の潤滑油を循環させる。この時の循環量は、この循環系内の滞留時間が2時間以上になる様に設定する。
コントローラ19はこの潤滑油の循環に伴い、凝集剤補給ポンプ7を駆動して潤滑油の循環量の約1?3%程度の凝集剤6を補給する。この凝集剤6は潤滑油中に分散する不溶解分を凝集して巨大化させる。即ち、ブローバイガス劣化によって生じた含窒素重合体、熱劣化によって生じた炭化水素重合体、ブローバイガス成分内のカーボン分等で構成される数100Å程度の大きさの不溶解分を凝集し数10?数100μまで粒成長させる。そして、数10?数100μまで凝集した不溶解分が濾過フィルタ9で濾過される。
又、凝集作用に寄与しなかった過剰な凝集剤6は吸着剤10で除去され、オイルパン1内へ流れ込まない。
そして、コントローラ19はステップ118で不溶解分検出センサー27で潤滑油不溶解分が0.1wt%以下か否かを判別し、0.1wt%以下になったときはステップ119に示す様にオイルポンプ3及び凝集剤補給ポンプ7の駆動を停止し、」(第4ページ左下欄11行ないし同ページ右下欄16行)
(オ)「また、不溶解分が0.5wt%以上になったら潤滑油を凝集剤添加-濾過フィルタ-吸着フィルタの作用を行なうバイパス回路に通し、不溶解分が0.1wt%以下になったらこの潤滑油バイパス回路を停止し、」(第5ページ右上欄20行ないし同ページ左下欄4行)

1-1-2.引用例に記載された発明
上記1-1-1.によると、引用例には、
「オイルパン1内の潤滑油を必要部位に送るポンプ93,配管91,及び潤滑油内の不純物を除去する濾過フィルタ92が備えられた自動車の内燃機関において、不溶解分が0.5wt%以上になったら潤滑油を凝集剤添加-濾過フィルタ9-吸着フィルタの作用を行なうバイパス回路に通し、不溶解分が0.1wt%以下になったらこの潤滑油バイパス回路を停止する潤滑油清浄方法。」
の発明(以下、「引用例に記載された発明」という。)が記載されている。

1-2.対比
本願発明と引用例に記載された発明とを比較すると、引用例に記載された発明における「オイルパン1内の潤滑油を必要部位に送るポンプ93,配管91,及び潤滑油内の不純物を除去する濾過フィルタ92が備えられた自動車の内燃機関」は、その技術的意義からみて、本願発明における「二物体間の接触的な周期的相対運動における摩擦面の摩擦による摩耗を抑制する目的で潤滑油を前記二物体間に介在させた摩擦系」に相当し、以下同様に、「不溶解分が0.5wt%」は「不溶解分の含有率(0.5%)、不溶解分の最大含有率」に、「不溶解分が0.1wt%」は「不溶解分の含有率(0.1%)」に、「濾過フィルタ9」は「濾過手段」に、「不溶解分が0.5wt%以上になったら潤滑油を凝集剤添加-濾過フィルタ9-吸着フィルタの作用を行なうバイパス回路に通し、不溶解分が0.1wt%以下になったらこの潤滑油バイパス回路を停止する」は「濾過手段を用いて潤滑油に対する不溶解分の含有率を調整、維持し」に、「潤滑油清浄方法」は「二物体間摩擦系における摩耗の抑制方法」に、それぞれ相当する。
してみると、本願発明と引用例に記載された発明は、
「二物体間の接触的な周期的相対運動における摩擦面の摩擦による摩耗を抑制する目的で潤滑油を前記二物体間に介在させた摩擦系において、濾過手段を用いて潤滑油に対する不溶解分の含有率を調整、維持する二物体間摩擦系における摩耗の抑制方法。」
の点で一致し、次の(1)ないし(3)の点で相違している。
(1)本願発明においては、「前記相対運動の最大回転数に対応した不溶解分の含有率を、横軸に最大回転数nを、縦軸に含有率pを採ったグラフ上において、このグラフ上の点を(n,p)と表すとき、点(100rpm,0.5%)及び、点(750rpm,0.2%)及び、点(1200rpm,0.1%)及び、点(3000rpm,0.05%)及び、点(8000rpm,0.025%)を通る連続的な減少曲線により与えられる不溶解分の含有率pを用い、選択された回転数における不溶解分の最大含有率が±0.05%の範囲内の有効誤差範囲となるように濾過手段を用いて潤滑油に対する不溶解分の含有率を調整、維持」するのに対し、引用例に記載された発明においては、「濾過フィルタ9」を用いて潤滑油に対する不溶解分の含有率を実質的に0.1?0.5wt%に調整、維持するものである点(以下、「相違点1」という。)。
(2)本願発明においては、「不溶解分の含有率が前記範囲から上方に逸脱する頃合いに、潤滑油の一部又は全部を新油に交換することにより、不溶解分の含有率を前記範囲内に収めて、前記二物体間の摩擦による摩耗を抑制するように」するのに対し、引用例に記載された発明においては、当該構成に相当するものを備えているのか否か明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。
(3)本願発明においては、「濾過手段」が「精密濾過手段」であって、前記精密濾過手段が「薄い紙を多数積層したフィルターエレメントを含み、紙の積層間隙に潤滑油を流過させて潤滑油中に含有される不溶解分を分子のブラウン運動で紙の繊維に付着させて除去するようにしたもの」であるのに対し、引用例に記載された発明においては、「濾過フィルタ9」が「精密濾過手段」ではない点(以下、「相違点3」という。)。

1-3.相違点1ないし3についての判断
(1)相違点1について
摩耗を抑制するためには最大回転数が大きければ大きいほど不溶解分を少なくすべきであるということが当該技術分野における技術常識であることに鑑みれば、相対運動の最大回転数を考慮して、「不溶解分の最大含有率」を選定することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
また、選択された回転数における不溶解分の最大含有率として、どの程度の数値を選定するかは、摩擦面の許容摩耗量や摩耗速度などを考慮して、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
(2)相違点2について
潤滑油の不溶解分の増加が潤滑性能の低下をもたらすことから、不溶解分が増加した場合に潤滑油を交換すること、すなわち、潤滑油の不溶解分の含有率を低減させることにより、二物体間の摩耗の抑制をすることは、周知技術(例えば、特開平9-100712号公報の段落【0002】ないし【0005】の記載及び特開平10-82735号公報の段落【0002】の記載を参照されたい。以下、「周知技術1」という。)である。
そして、引用例に記載された発明において、上記周知技術1を適用し、もって、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
(3)相違点3について
まず、「濾過」の目的に合わせて、適宜の「濾過手段」を採用することは、設計事項にすぎない。しかも、「薄い紙を多数積層したフィルターエレメントを含み、紙の積層間隙に潤滑油を流過させて潤滑油中に含有される不溶解分を分子のブラウン運動で紙の繊維に付着させて除去するようにした精密濾過手段」は、周知技術(例えば、特開平10-263321号公報、特開平11-257038号公報、特開平11-293275号公報及び特開2000-351612号公報を参照されたい。以下、「周知技術2」という。)である。
そして、引用例に記載された発明において、「濾過フィルタ9」に代えて、上記周知技術2を適用し、もって、上記相違点3に係る本願発明のような構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願発明の作用効果も、引用例に記載された発明並びに周知技術1及び2から当業者が予測できる範囲のものである。

1-4.まとめ
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.特許法第36条第4項違反(上記第3.の理由2)について
(1)上記(理由2)(1)について
本願明細書の段落【0018】における「図2は本発明にかかる摩擦面の摩耗を最小限に抑制することが出来る不溶解分含有率とこれに対応した摩擦面の回転数との関係を不溶解分含有率/回転数平面上に示したグラフである。」の記載及び段落【0024】における「不溶解分の含有率の最適値範囲が、図2において実線の両側にグレーゾーンとして示されている。」の記載などによれば、不溶解分含有率が、図2において実線の両側にグレーゾーンとして示されている最適値範囲より少なければ、若しくは、多ければ、摩擦面の摩耗量や摩耗速度は増加するものと解される。
しかしながら、本願明細書には、上記「実線やグレーゾーン」が存在する理論的根拠や実験結果が示されておらず、依然として、不明りょうである。本願明細書において、段落【0007】に「発明者等は日夜の鋭意研究を重ねた結果」、段落【0022】に「種々のエンジンを様々な回転数で回転させて、摩耗状態が最も抑制される回転数に対する不溶解分含有率の最適値を割り出し」などと記載されているが、理論的根拠や実験結果を示すものとはいえない。
なお、選定した含有率の数値、すなわち、相対運動の最大回転数(1200rpm,3000rpm,8000rpm)に応じた摩擦面の摩耗を最小限にする潤滑油中の不溶解分の含有率の数値の選定に関連する記載である明細書の段落【0009】は平成22年8月23日付けの手続補正書によって補正されたが、補正後の段落【0009】における「選択された回転数における不溶解分の最大含有率が±0.05%の範囲内の有効誤差範囲となるように」の記載は、不明りょうである。すなわち、不溶解分の最大含有率について、+0.05%の範囲内の有効誤差範囲となるようにすることについては理解し得るが、-0.05%の範囲内の有効誤差範囲となるようにすることについては理解し得ない。

(2)上記(理由2)(3)について
請求人は、平成22年8月23日付け意見書において、「最大回転数」は、「常用回転数を意味している」旨主張している。
しかしながら、「常用回転数」そのものの定義も不明りょうであるから、仮に「「最大回転数」は、「常用回転数を意味している」」としても、「最大回転数」の定義は、依然として、不明りょうであるといわざるを得ない。また、語義からみても、「最大回転数」と「常用回転数」とは、明らかに異なるものである。したがって、請求人の上記主張を受け入れることはできない。

(3)まとめ
以上のとおり、本願明細書における発明の詳細な説明は、本願発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.むすび
上記1.のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、上記2.のとおり、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-16 
結審通知日 2010-09-21 
審決日 2010-11-10 
出願番号 特願2004-257339(P2004-257339)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F01M)
P 1 8・ 536- WZ (F01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中川 隆司平岩 正一  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 金澤 俊郎
大谷 謙仁
発明の名称 二物体間摩擦系における摩耗の抑制方法  
代理人 竹内 裕  
代理人 竹内 裕  

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