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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1230781
審判番号 不服2008-3491  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-14 
確定日 2011-01-20 
事件の表示 特願2001- 16570「ポリアミド多孔質球状粒子」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月19日出願公開、特開2002- 80629〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年1月25日(優先権主張、平成12年6月14日及び同年6月28日、日本)に出願されたものであって、平成19年3月15日付けで拒絶理由が通知され、同年5月21日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月31日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年10月2日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月9日提出の手続補正書による補正及び同年10月2日提出の手続補正書による補正について平成20年1月4日付けで補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年2月14日に拒絶査定不服審判が請求され、同年3月5日に手続補正書及び審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年4月14日付けで前置報告がなされ、同年7月2日に上申書が提出され、平成22年6月8日付けで当審において審尋がなされ、同年7月26日に回答書が提出されたものである。


第2.補正却下の決定
[結論]
平成20年3月5日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.手続補正の内容
平成20年3月5日付け手続補正(以下、「本件手続補正」という。)の内容は、平成19年5月21日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲についての補正を含む補正であって、請求項1について、
「【請求項1】
ポリアミド溶液から生成した核から成長した数平均粒子径1?30μm、BET比表面積100?80000m^(2)/kgであるポリアミド多孔質球状粒子。」を
「【請求項1】
ポリアミド0.1?30重量%と芳香族アルコールまたはギ酸99.9?70重量%とからなる溶液(A)と、沸点100℃以下の脂肪族アルコールまたはケトン(B)、および水(C)を混合する〔ただし、(C)の割合は(B)と(C)の合計に対して5?85重量%である〕ことにより形成した均一なポリアミド溶液から核を生成させ成長させた、数平均粒子径が1?30μm、BET比表面積が100?80000m^(2)/kgであるポリアミド多孔質球状粒子。」
とする事項を含むものである。

2.本件手続補正の適否について
本件手続補正は、審判請求の日から30日以内にされた補正であるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第1号から第4号に掲げるいずれかの事項を目的とするものに限られる。

本件手続補正は、次の補正事項1を含むものである。

補正事項1:補正前の請求項1に記載の「ポリアミド溶液」を「ポリアミド0.1?30重量%と芳香族アルコールまたはギ酸99.9?70重量%とからなる溶液(A)と、沸点100℃以下の脂肪族アルコールまたはケトン(B)、および水(C)を混合する〔ただし、(C)の割合は(B)と(C)の合計に対して5?85重量%である〕ことにより形成した均一なポリアミド溶液」とする補正。

補正事項1は、ポリアミド溶液が「ポリアミド」、「芳香族アルコールまたはギ酸」、「沸点100℃以下の脂肪族アルコールまたはケトン」及び「水」を混合して得られたものであることを特定するものであって、更にその一部成分の使用割合についても特定するものであるが、補正前の請求項1?7においてはポリアミド溶液が上記した各成分を含むことについて記載も示唆もなされておらず、また、上記「沸点100℃以下の脂肪族アルコールまたはケトン(B)」及び「水(C)」はポリアミドの良溶媒ではなく、これら成分をポリアミドの良溶媒である「芳香族アルコールまたはギ酸」と併用し均一な溶液を形成することはポリアミド溶液であれば通常なされるような自明のことでもない。
したがって、補正事項1は、補正前の請求項1において、発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものであるとはいえず、さらに、補正事項1は、請求項の削除、誤記の訂正、又は明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものにも該当しない。
よって、補正事項1は、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、補正事項1を含む特許請求の範囲の補正は、請求項の削除を目的とする補正、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正、誤記の訂正を目的とする補正、明りょうでない記載の釈明を目的とする補正、のいずれにも該当するものではないから、補正事項1を含む本件手続補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。


第3.本願発明について
平成20年3月5日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成19年5月21日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」ともいう。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリアミド溶液から生成した核から成長した数平均粒子径1?30μm、BET比表面積100?80000m^(2)/kgであるポリアミド多孔質球状粒子。」


第4.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由とされた、平成19年7月31日付け最後の拒絶理由通知書に記載した理由1は、次のとおりである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(省略)

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

(理由1,2について)
・請求項 1?7
・引用文献等 3又は3,4
・備考
引用文献3には、比表面積が4?30m^(2)/gである球状多孔質ポリアミド粉末が記載されており(特許請求の範囲)、ポリアミド樹脂を溶媒に溶解した後、冷却することによって製造すること(3頁左下欄1-16行。ポリアミド溶液から核が生成し、そこから成長するものと認められる。)、実施例で製造された粒子の粒径は2?20μmであることも記載されている。
(以下省略)

引 用 文 献 等 一 覧

3.特開昭62-215638号公報」


第5.当審における判断
1.刊行物の記載事項
本件優先日前に頒布されたことが明らかな、引用文献3(特開昭62-215638号公報)には、以下の事項が記載されている。

a.「1.全細孔容積が0.25cc/g以上で、比表面積が4.0m^(2)/g以上で、球状であることを特徴とする多孔性ポリアミド粉末。
3.比表面積が4.0?30.0m^(2)/gであることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の多孔性ポリアミド粉末。」(特許請求の範囲第1項及び第3項)

b.「(比表面積)
窒素吸着法により求めた。測定するポリアミド粉末を60℃で10分間乾燥したものを用いる。」(第3頁右上欄12?15行)

c.「本発明の多孔性ポリアミド粉末を製造する方法としては、例えば、次のようなポリアミド樹脂の再沈法があげられる。
(1)ポリアミド樹脂を、アルカリ土類金属の無水塩化物を含む低級アルコール溶媒に加熱溶解したのち、除冷する方法。
(2)ポリアミド樹脂、塩化カルシウムおよび水を、エチレングリコールあるいはグリセリンとともにメタノールに加熱溶解したのち、冷却する方法。
(3)ポリアミド樹脂を、塩化カルシウムを含むエチレングリコールに加熱溶解したのち、冷却する方法。
いずれの場合も、冷却により析出したポリアミド粒子を溶媒から分離し、水洗したのち乾燥することによって、本発明の多孔性ポリアミド粉末を得るものである。
本発明に用いるポリアミド樹脂は、どのようなものでもよいが、例えば、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610があげられる。」(第3頁左下欄1行?右下欄1行)

d.「実施例1
ナイロン12(宇部興産株式会社製、分子量20,000)0.9kg、無水塩化カルシウム2.7kgおよびメタノール15.3kgを容量25lのオートクレーブに入れ、窒素置換し、内容物を攪拌しながら136℃まで昇温してポリマーを溶解したのち、毎分500回転で攪拌しながら10℃/Hrの降下速度で徐冷した。沈殿物を吸引濾過して溶剤を分離し、水洗したのち減圧乾燥すると、平均粒径が12?13μmである多孔質の球状粒子からなる粉末を得ることができた。」(第3頁右下欄5?16行)

e.「上記実施例1、2並びに比較例1、2の各ポリアミド粉末について、全細孔容積、比表面積、粒子直径およびかさ比重の各測定値を第1表に示す。全細孔容積の値は、前述の方法で測定したものである。比表面積は、測定するポリアミド粉末を60℃で10分間乾燥したのち株式会社島津製作所製フローソープ2300を用いて測定した値である。粒子直径は、電子顕微鏡を用いて基準線から読み取った値であり、最小粒子と最大粒子の値を示している。」(第5頁左上欄7?16行)

f.「

」(第5頁右上欄第1表)

2.刊行物に記載された発明の認定
引用文献3の摘示事項aの多孔性ポリアミド粉末は、摘示事項cに記載の方法(1)により製造される場合を含んでいることは明らかであるから、摘示事項a及びcには、「ポリアミド樹脂を、アルカリ土類金属の無水塩化物を含む低級アルコール溶媒に加熱溶解したのち、除冷する方法により製造される、全細孔容積が0.25cc/g以上で、比表面積が4.0m^(2)/g以上で、球状であることを特徴とする多孔性ポリアミド粉末」が記載されているといえ、さらに、摘示事項d及びfの実施例1においては、摘示事項cに記載の方法(1)に相当する方法により製造された「多孔質の球状粒子」からなる粉末について「平均粒径が12?13μm」、比表面積(m^(2)/g)が「16.19」、粒子直径(μm)が「2?20」であったこと、摘示事項b及びeには、比表面積が株式会社島津製作所製フローソープ2300を用いて測定した窒素吸着法によるものであること、摘示事項eには、粒子直径が電子顕微鏡を用いて基準線から読み取った値であり最小粒子と最大粒子の値を示していることがそれぞれ記載されているから、引用文献3には、
「ポリアミド樹脂を、アルカリ土類金属の無水塩化物を含む低級アルコール溶媒に加熱溶解したのち、除冷する方法により製造される、全細孔容積が0.25cc/g以上で、株式会社島津製作所製フローソープ2300を用いて測定した窒素吸着法による比表面積が16.19m^(2)/gで、平均粒径が12?13μmで、電子顕微鏡を用いて基準線から読み取った最小粒子と最大粒子の粒子直径が2?20μmである、多孔質の球状粒子」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.対比、判断
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ポリアミド樹脂」から製造される「多孔質の球状粒子」が、本願発明の「ポリアミド多孔質球状粒子」に相当することは明らかであり、引用発明において「ポリアミド樹脂を、アルカリ土類金属の無水塩化物を含む低級アルコール溶媒に加熱溶解した」ものが、本願発明の「ポリアミド溶液」に相当することは明らかであり、引用発明の「多孔質の球状粒子」は該加熱溶解したものを「除冷する方法」によって得られたものであることから、「ポリアミド溶液から生成した」ものであることは明らかである。また、引用発明の「株式会社島津製作所製フローソープ2300を用いて測定した窒素吸着法による比表面積」が、本願発明のBET比表面積に相当するものであって「16.19m^(2)/g」なる数値をm^(2)/kgの単位系に換算すると「16190m^(2)/kg」となることは明らかであり、引用発明の「平均粒径」は数平均粒子径であるか否かは不明であるものの、「電子顕微鏡を用いて基準線から読み取った最小粒子と最大粒子の粒子直径が2?20μmである」点からみて数平均粒子径を算出したとしてもその数値が「2?20μm」の範囲内であることは明らかであるから、本願発明と引用発明とは、
「ポリアミド溶液から生成した数平均粒子径2?20μm、BET比表面積16190m^(2)/kgであるポリアミド多孔質球状粒子。」の点で一致し、以下の相違点1において一応相違している。

[相違点1]
ポリアミド多孔質球状粒子が、本願発明では「ポリアミド溶液から生成した核から成長した」ものであるのに対し、引用発明ではその点に関する規定がなされていない点。

(2)相違点1についての検討
引用発明の「ポリアミド樹脂を、アルカリ土類金属の無水塩化物を含む低級アルコール溶媒に加熱溶解したのち、除冷する方法」によれば、摘示事項cの記載から、加熱溶解したポリアミド溶液を除冷することによりポリアミド粒子が析出することは明らかであり、さらに、このように粒子が析出する際には、先ず結晶核が形成され、この核が成長することにより粒子が形成されて析出することが本願の優先日前の技術常識であるから、この粒子は本願発明の「ポリアミド溶液から生成した核から成長した」粒子に相当するということができる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(3)まとめ
よって、本願発明は、引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


第6.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由1は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-17 
結審通知日 2010-11-24 
審決日 2010-12-07 
出願番号 特願2001-16570(P2001-16570)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (C08J)
P 1 8・ 113- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 藤本 保
小野寺 務
発明の名称 ポリアミド多孔質球状粒子  
代理人 片岡 誠  

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