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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1230923
審判番号 不服2008-26812  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-20 
確定日 2011-01-19 
事件の表示 平成10年特許願第503869号「2つの異なる読み取り装置に使用できる光ディスク」拒絶査定不服審判事件〔平成10年1月8日国際公開、WO98/00842、平成11年10月12日国内公表、特表平11-511889〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成9年(1997年)6月17日(パリ条約による優先権主張 平成8年(1996年)6月28日 仏国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし6に係る発明は、平成20年11月8日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明という」。)は、次のとおりである。

「【請求項1】互いに接着された第1の基本ディスク及び第2の基本ディスクからなり、該第1及び第2の基本ディスクのそれぞれが、らせん状のトラック又は同心状のトラックにマイクロピットが分布しておりレーザビームを使用して光学的に読み取られる様にされた情報表面を有する1つの透明な基板を含む光ディスクであって、
前記第1の基本ディスクの情報表面が、透明な接着層と接している半反射層でコーティングされており、
前記第1の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザの波長よりも大きな波長のレーザを用いて読み取られる前記第2の基本ディスクの情報表面が、反射金属層でコーティングされていて、前記接着層とは反対側に置かれており、
前記半反射層が、前記第2の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザ波長のための第1の閾値以上のレーザ波長に対して95%以上の透過率を有していて、前記第1の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザ波長のための第2の閾値以下のレーザ波長に対して25%以上の反射率を有しており、
前記第1の閾値が、少なくとも100nmだけ前記第2の閾値よりも大きいことを特徴とする光ディスク。」

2 引用例

原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願の優先権主張の日前の特許出願であつて本願出願後に出願公開された特願平8-43177号(平成8年2月29日出願)の願書に最初に添付した明細書及び図面(特開平9-237438号公報参照。以下、「先願明細書等」という。)には、「光記録媒体」について、次の事項が記載されている。
(以下、下線は当審で付加した。)

ア.「【0016】
【課題を解決するための手段】本発明に従う第1の局面の光記録媒体は、情報が保存された信号層に再生光を照射し、該再生光の反射光を検出することにより該信号層に保存された情報が再生される光記録媒体であり、信号層として再生光が入射する側から順に第1の信号層と第2の信号層とを設け、第1の信号層として、第1の信号層を再生するための第1の再生光に対する反射率が、第2の信号層を再生するための第2の再生光に対する反射率よりも高くなるような色素から形成された2色性反射膜を設けたことを特徴としている。」
【0017】本発明の第1の局面では、第1の信号層として色素から形成された2色性反射膜が設けられている。2色性反射膜は、反射率が波長によって異なる反射膜であり、本発明では、第1の再生光の波長域と第2の再生光の波長域で反射率が異なる2色性反射膜を形成する。本発明に従う第1の局面では、このような2色性反射膜として、好ましくは、第1の再生光の波長域における屈折率が反射率30%以上を与えるような値であり、第2の再生光の波長域における透過率が90%以上である色素から形成された2色性反射膜を用いる。一般に、シアニン色素等の有機色素は、ある特定の吸収波長を有しており、その吸収ピークに対し長波長側に吸収が低下しはじめるところで、屈折率の極大値を示す。従って、屈折率が極大値を示す波長域が第1の再生光の波長域であるような色素を用いることにより、第1の再生光の波長域において高い反射率を示す反射膜とすることができる。また、第2の再生光の波長域において吸収がほとんどないような色素を用いることにより、第1の再生光の波長域において高い反射率を示し、第2の再生光の波長域において高い透過率を示す2色性反射膜とすることができる。
【0018】色素から形成される2色性反射膜として、さらに好ましくは、第1の再生光の波長域において反射率35%以上を与え、第2の再生光の波長域における透過率が95%以上である反射膜である。」
イ.「【0025】本発明における信号層は、光記録媒体において情報が保存される領域を示しており、例えば、コンパクトディスク(CD)のように記録ピットが形成された凹凸を有する反射面が情報の保存される領域となる場合、この記録ピットが形成された凹凸を有する反射面が信号層となる。
【0026】本発明において第2の信号層となる金属反射膜は、例えば、Al、Au等の金属膜から形成することができる。本発明の光記録媒体を、DVDプレーヤーとCDプレーヤーで再生可能な光記録媒体とする場合には、第1の再生光の光源として、例えばDVDプレーヤーにおいて一般的に用いられている赤色半導体レーザーを用いることができる。この場合、第1の再生光の波長は約630nm?約690nmとなる。
【0027】また第2の再生光の光源としては、例えば従来よりCDプレーヤーの光源として一般的に用いられている波長約780nm?約790nmの半導体レーザーを用いることができる。」
ウ.「【0030】
【発明の実施の形態】 本実施形態の光ディスクは、透明基板21と透明基板22を紫外線硬化樹脂等から形成された透明中間層25で貼り合わせることにより形成されている。基板材料としては、DVDやCD等の基板材料として用いられているものを用いることができ、例えばPC(ポリカーボネート)やPMMA(ポリメチルメタクリレート)などを用いることができる。基板21の内側面にはDVDシステムに対応した記録密度でピットが形成されており、このピットの上に2色性反射膜からなる第1の信号層23が形成されている。本実施形態において、第1の信号層23は後述する色素膜から形成されている」
【0031】基板22の外側の面の上には、CDシステムに対応した記録密度でピットが形成されており、このピットの上に、金属反射膜からなる第2の信号層24が形成されている。本実施形態において、第2の信号層24はAl膜から形成されている。第2の信号層24の上には、紫外線硬化樹脂からなる保護層26がスピンコート法等で形成されている。保護層26の外側面は平坦に形成されている。
【0032】基板21と基板22の間には、上述のように透明中間層25が設けられている。図1に示すように、第1の信号層23は、基板21の光入射面から0.6mmの厚みの位置に形成されている。また第2の信号層24は、基板21の光入射面から1.2mmの位置に形成されている。従って、第1の信号層23はDVDで規格された基板厚みの位置に形成されており、第2の信号層24はCDで規格された基板厚みの位置に形成されている。
【0033】本実施形態の光ディスクは、第1の信号層23を形成した基板21と、第2の信号層24を形成した基板22とを、図4に示すような従来のDVDディスクと同様に、透明中間層25で貼り合わせることにより形成することができる。」
エ.「【0034】本実施形態の光ディスクをDVDプレーヤーを用いて再生すると、例えば波長650nmの赤色レーザー光29は、対物レンズ27によって、第1の信号層23上に集光される。第1の信号層23は、後述するように約38%の反射率を有しているので、再生可能な強度で反射され、この反射光を検出することにより、第1の信号層23に保存された信号を再生することができる。従って、DVDプレーヤーを用いて第1の信号層23を再生することができる。
【0035】本実施形態の光ディスクを、CDプレーヤーを用いて再生すると、波長780nmのレーザー光30が対物レンズ28によって絞られ、第2の信号層24上に集光される。第1の信号層23は、後述するように、波長780nmの光に対し100%の透過率を示すため、レーザー光30が光損失を受けることなく透過し、第2の信号層24に照射される。第2の信号層24によって反射された光を検出することにより、第2の信号層24に記録された信号を再生することができる。従って、CDプレーヤーを用いて第2の信号層24を再生することができる。」

上記の記載事項によれば、先願明細書等には次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。

「情報が保存された信号層に再生光を照射し、該再生光の反射光を検出することにより該信号層に保存された情報が再生される光記録媒体であって、
信号層として再生光が入射する側から順に第1の信号層と第2の信号層とを設け、第1の信号層として、第1の信号層を再生するための第1の再生光に対する反射率が、第2の信号層を再生するための第2の再生光に対する反射率よりも高くなるような色素から形成された2色性反射膜を設けたものであり、
透明基板21と透明基板22を紫外線硬化樹脂等から形成された透明中間層で貼り合わせることにより形成されており、
基板21の内側面にはDVDシステムに対応した記録密度でピットが形成されており、このピットの上に2色性反射膜からなる第1の信号層が形成され、
基板22の外側の面の上には、CDシステムに対応した記録密度でピットが形成されており、このピットの上に、金属反射膜からなる第2の信号層が形成され、
2色性反射膜は、第1の再生光の波長域において反射率35%以上を与え、第2の再生光の波長域における透過率が95%以上であって、
第1の再生光の光源として、DVDプレーヤーにおいて一般的に用いられている赤色半導体レーザーを用い、波長は約630nm?約690nmであり、
第2の再生光の光源としては、CDプレーヤーの光源として一般的に用いられている波長約780nm?約790nmの半導体レーザーを用いる光記録媒体。」

3 対比

先願発明の「第1の信号層を形成した基板21」「第2の信号層を形成した基板22」は、それぞれ、本願発明の「第1の基本ディスク」「第2の基本ディスク」に相当する。
先願発明の光記録媒体は「第1の信号層を形成した基板」「第2の信号層を形成した基板」を透明中間層で貼り合わせることにより形成されているから、先願発明の「第1の信号層を形成した基板」「第2の信号層を形成した基板」は互いに接着されている。
先願発明の「ピット」は、本願発明の「マイクロピット」に相当する。
そして、CDやDVD等の光ディスクにおいて、ピットがらせん状又は同心円状のトラックに分布していることは、たとえば、特開平2-223030号公報の実施例(3ページ左上欄?右上欄)等をみるまでもなく、当該技術分野において本願の優先権主張の日前に周知の事項であるから、先願発明においても、らせん状のトラック又は同心状のトラックにマイクロピットが分布していることは明らかである。
先願発明の「第1の信号層」「第2の信号層」は、本願発明の「情報表面」に相当し、また、第1及び第2の信号層が設けられた基板は透明であり、それぞれ半導体レーザーで再生される。
先願発明の「光記録媒体」は、本願発明の「光ディスク」に相当する。
したがって、先願発明は、「互いに接着された第1の基本ディスク及び第2の基本ディスクからなり、該第1及び第2の基本ディスクのそれぞれが、らせん状のトラック又は同心状のトラックにマイクロピットが分布しておりレーザビームを使用して光学的に読み取られる様にされた情報表面を有する1つの透明な基板を含む光ディスクであって」との本願発明の構成を備えている。

先願発明の「透明中間層」は、本願発明の「透明な接着層」に相当する。
先願発明の第1の信号層を形成する「2色性反射膜」は、第1の信号層を再生するための第1の再生光に対する反射率が、第2の信号層を再生するための第2の再生光に対する反射率よりも高くなるような色素から形成されているから、本願発明の「半反射層」に相当する。
そして、先願発明の第1の信号層は、透明中間層で貼り合わせられる基板の内側に形成されているから、先願発明は、「前記第1の基本ディスクの情報表面が、透明な接着層と接している半反射層でコーティングされており」との本願発明の構成を備えている。

先願発明の「第2の信号層」は、透明中間層で貼り合わせられる基板の外側の面の上に形成された金属反射膜からなり、第1の信号層を再生する約630nm?約690nmよりも長波長である波長約780nm?約790nmの半導体レーザーである第2の再生光で再生されるから、先願発明は、「前記第1の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザの波長よりも大きな波長のレーザを用いて読み取られる前記第2の基本ディスクの情報表面が、反射金属層でコーティングされていて、前記接着層とは反対側に置かれており、」との本願発明の構成を備えている。

そこで、本願発明と先願発明とを比較すると、両者は
「互いに接着された第1の基本ディスク及び第2の基本ディスクからなり、該第1及び第2の基本ディスクのそれぞれが、らせん状のトラック又は同心状のトラックにマイクロピットが分布しており、レーザビームを使用して光学的に読み取られる様にされた情報表面を有する1つの透明な基板を含む光ディスクであって、
第1の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザの波長よりも大きな波長のレーザを用いて読み取られる第2の基本ディスクの情報表面が、反射金属層でコーティングされていて、接着層とは反対側に置かれている光ディスク」である点で一致する。

そして、次の点で、一応の相違がある。

一応の相違点1:
本願補正発明において、「半反射層が、第2の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザ波長のための第1の閾値以上のレーザ波長に対して95%以上の透過率を有していて、第1の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザ波長のための第2の閾値以下のレーザ波長に対して25%以上の反射率を有して」いるのに対し、先願発明では、「第1の信号層」を形成している「2色性反射膜」(半反射層)が、「第2の信号層を再生するための第2の再生光の波長域(約780nm?約790nm)における透過率が95%以上であり、第1の信号層を再生するための第1の再生光の波長域(約630nm?約690nm)における反射率が35%以上」である点。

一応の相違点2:
本願発明において、「第1の閾値が、少なくとも100nmだけ第2の閾値よりも大きい」のに対し、先願発明について、かかる事項が特定されていない点。

4 判断

以下、上記一応の相違点について検討する。

本願発明における「第2の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザ波長のための第1の閾値」及び「第1の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザ波長のための第2の閾値」とは、それぞれ、「第2の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザ波長の波長域」「第1の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザ波長の波長域」を意味することは明らかである。
一方、先願発明において「第2の信号層を再生する第2の再生光」波長域は約780nm?約790nm、「第1の信号層を再生する第1の再生光の波長域は650nm?約690nmであり、「2色性反射膜」(半反射膜)は、第1の再生光の波長域において反射率35%以上を与え、第2の再生光の波長域における透過率が95%以上である。
そうすると、先願発明は、「前記半反射層が、前記第2の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザ波長のための第1の閾値以上のレーザ波長に対して95%以上の透過率を有していて、前記第1の基本ディスクの情報表面を読み取る際に使用されるレーザ波長のための第2の閾値以下のレーザ波長に対して25%以上の反射率を有しており、」との本願発明の構成を備えている。
また、先願発明は、第1の再生光の波長が650nm、第2の再生光の波長が780nmの例(上記エ)を包含するから、先願発明は、「前記第1の閾値が、少なくとも100nmだけ前記第2の閾値よりも大きい」との本願発明の構成を備えていることは明らかである。

したがって、先願発明は本願発明を特定する事項のすべてを備えているから、上記一応の相違点1及び2によって本願発明が先願発明とは別の発明であるとすることはできず、本願発明は先願発明と同一である。

なお、請求人は、審判請求の理由等において、「本願発明1及び2に開示された反射率/透過率の関係:25%以上/95%以上は、引用文献8(先願発明)の30%以上/90%以上又は35%以上/95%以上からかけ離れており、大きく相違する規定であることが明らかである。」と主張している。
しかし、本願発明では反射率35%以上の範囲を除外していないから、本願発明は、先願発明と重なる部分を包含しており、また、反射率95%以上は先願発明と何ら異なるものではないから、請求人の上記主張を採用することはできない。

そして、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることがでない。

5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求の範囲に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-23 
結審通知日 2010-08-24 
審決日 2010-09-06 
出願番号 特願平10-503869
審決分類 P 1 8・ 161- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蔵野 雅昭  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 井上 信一
山田 洋一
発明の名称 2つの異なる読み取り装置に使用できる光ディスク  
代理人 山本 恵一  

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