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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B05D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B05D
管理番号 1231008
審判番号 不服2009-8887  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-23 
確定日 2011-01-27 
事件の表示 特願2004-198950「接着剤の塗布方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月21日出願公開、特開2004-290976〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年11月20日に出願した特願平7-301633号の一部を平成16年7月6日に新たな特許出願としたものであって、平成21年3月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年4月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成21年5月14日付けで手続補正がなされ、その後、平成22年3月24日付けで審尋を発し、これに対し、平成22年5月10日に回答書の提出がなされ、平成22年6月17日付けで当審による拒絶の理由が通知されるとともに、同日付けの補正の却下の決定により平成21年5月14日付けの手続補正が却下され、前記当審による拒絶理由通知の指定期間内である平成22年8月6日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

そして、本願請求項1?2に記載された特許を受けようとする発明は、平成22年8月6日付けの手続補正により補正された明細書(以下、当該補正後の明細書を「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?2に記載されたとおりのものであり、その請求項1に記載された特許を受けようとする発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「塗布対象物上の必要位置に、複数の塗布具を選択して使用できる塗布ヘッドによって接着剤を所定のプログラムに従って自動的に塗布するのに、同一塗布径の塗布具を複数用い、前記プログラムが有している塗布対象物上の接着剤を塗布すべき各位置、この各位置に接着剤を塗布する個数、および前記各位置で塗布される接着剤を利用してマウントされる部品に対応して決定された塗布径に関する情報から、同一塗布径を有した複数の塗布具を使用回数が等しくなるように切換え使用することにより、前記塗布対象物の1枚分あるいは適数枚分の同一塗布径での塗布回数、あるいは、1枚の前記塗布対象物における同一塗布径での塗布回数を所定数に分割した塗布回数と云った各種の特定単位の範囲内で、複数有している同一径の各塗布具の各使用回数が等しくなることを特徴とする接着剤の塗布方法。」

2.当審による拒絶の理由
平成22年6月17日付けの当審による拒絶の理由は、
理由1として、『本件出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。』という理由と、
理由3として、『本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記(3)ア.?ウ.の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。』という理由を含むものであって、
当該「刊行物1」として、本願の分割原出願の出願日前に頒布された刊行物である「特開平7-24388号公報」を提示し、
当該「(3)ア.?ウ.」の不備として、『イ.本願請求項2及び4に記載された「特定単位での必要な延べ使用回数」という発明特定事項については、その「特定単位」がどのような単位を意味するのか不明であり、その「必要な延べ使用回数」についても、どのように必要な回数であるのか明確ではなく、その「必要な延べ使用回数」についての情報をどのように活用しているのかも明確ではなく、その「使用回数」という用語と、その後段にある「除算塗布回数」との記載における「塗布回数」という用語との関係も不明確であるから、本願発明は、特許を受けようとする発明が明確ではない。』という点を指摘している。

3.理由3について
当審の拒絶理由通知の理由3においては、補正前の本願特許請求の範囲に記載された「特定単位」という発明特定事項の意味するところが明確ではないため、『その「特定単位」がどのような単位を意味するのか不明』である旨を(3)イ.の不備として指摘したところ、本願明細書の特許請求の範囲の記載においては、補正前の請求項2及び4に記載されていた当該「特定単位」という事項が、補正後の請求項1及び2の「前記塗布対象物の1枚分あるいは適数枚分の同一塗布径での塗布回数、あるいは、1枚の前記塗布対象物における同一塗布径での塗布回数を所定数に分割した塗布回数と云った各種の特定単位の範囲内で、複数有している同一径の各塗布具の各使用回数を等しく」という発明特定事項の中に組み込まれて、位置づけられた。
しかしながら、補正後の請求項1及び2に記載された「前記塗布対象物の1枚分あるいは適数枚分の同一塗布径での塗布回数、あるいは、1枚の前記塗布対象物における同一塗布径での塗布回数を所定数に分割した塗布回数と云った各種の特定単位の範囲内」という発明特定事項については、その「と云った」という語句の前段部分が、単なる例示を示したにすぎないものと解されることから、その後段部分の「各種の特定単位の範囲内」との記載における「特定単位」の意味するところは、前段部分の「前記塗布対象物の1枚分あるいは適数枚分の同一塗布径での塗布回数、あるいは、1枚の前記塗布対象物における同一塗布径での塗布回数を所定数に分割した塗布回数」という事項のみに特定されるものとは解せず、当該補正によっても、前段部分の例示以外の「各種の特定単位」の技術的な範囲ないし内容については、依然として曖昧ないし不明確なままである。
そして、当該前段部分の例示以外の「各種の特定単位」が具体的にどのような内容を意味しているのかについて精査するに、本願明細書の段落0039には、「例えば、回路基板1の1枚分あるいは適数枚分の同一塗布径での塗布回数、あるいは、1枚の回路基板1における同一塗布径での塗布回数を所定数に分割した塗布回数と云った各種の特定単位の範囲内で、複数有している同一径の各塗布具26、27の各使用回数が等しくなり、特定単位をいくら繰り返して塗布作業を行ってもこれが崩れず、それぞれの接着剤の補給タイミングは他のものを含めてほぼ同一になり、各塗布具25?27での接着剤の補給タイミングがばらばらで作業性が低下するようなことを、同一塗布径の複数の塗布具25?27を使い分けるための特別な設定操作なしに回避することができ、特別な設定操作のために余分な時間が掛かって作業性が低下するようなことも防止することができる。」との記載があるものの、当該記載を参酌しても、前記「前段部分の例示」以外の「各種の特定単位」にどのようなものまでもが含まれるのか明らかはなく、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を全体にわたって精査しても、当該「特定単位」の技術的な範囲ないし内容を、明確かつ十分に定義した記載が見当たらない。
また、平成22年8月6日付けの意見書において、審判請求人は、『請求項2,4を削除し、請求項3を新請求項2にしました。…なお、請求項の上記補正により理由3の「ア」、「イ」による拒絶理由は解消したものと考えます。』と主張しているが、当該「特定単位」という発明特定事項の技術的な範囲ないし内容が具体的にどのようなものまでをも意味するのか、明確かつ十分な説明がなされていないので、先に指摘した(3)イ.の『その「特定単位」がどのような単位を意味するのか不明』である旨の記載不備については、依然として解消し得ていないと結論づけざるを得ない。
したがって、本願特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではなく、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

4.理由1について
(1)引用文献及びその記載事項
刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「複数本のノズルを備え所望のノズルを介してプリント基板にシリンジ内の塗布剤を塗布して該ノズルに対応するシリンジ内の塗布剤の残量が所定量となった後は自動運転を停止することなしに別のノズルで代替運転させて塗布動作を継続させる塗布装置に於いて、前記代替運転開始前に捨打ち塗布動作を行うように制御する制御装置を設けたことを特徴とする塗布装置。」

摘記1b:段落0011?0012及び0014
「本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
図2に示す(1)はX軸モータ(2)及びY軸モータ(3)の駆動によりXY移動されるXYテーブル(4)上に載置されるプリント基板である。…
(5)はノズル(6)を介してシリンジ(7)内に貯蔵された塗布剤としての接着剤を前記基板(1)上に塗布する塗布ユニットで、前記ノズル(6)を4本備えている。…
図1に示す(15)は塗布動作に関するNCデータ等の各種データを記憶する記憶装置としてのRAMで、(16)は塗布動作に関する各種プログラムを記憶する記憶装置としてのROMである。(17)は塗布装置を統括制御する制御装置としてのCPUである。」

摘記1c:段落0020、0023?0024、0026及び0028
『この「運転方法設定」の画面で「材料切れ自動停止機能設定」の操作スイッチ部をタッチすると、図8に示す「材料切れ自動機能設定」の画面が表示される。…
「代替ノズル」の表示部にはノズル番号4のノズル(6)と同一タイプのノズル番号3のノズル(6)を表すノズル3が前述の代替運転を「する」と設定した際に自動的に表示される。…そして、「テンキー」により所望の塗布回数(9999)を入力すると前記表示部「----」が「9999」と表示され、右下の「設定」キーをタッチすることにより「9999」と設定され、前記スイッチ部が9999と表示される。…
また、ノズル番号4のノズル(6)に対し材料切れ予告がなされた後、9999回塗布動作が行われたら以降の塗布動作はノズル番号4のノズル(6)に替わってノズル番号3のノズル(6)により塗布動作が続けられる。…
操作スイッチ部をタッチすると図11に示す「ノズルメンテナンス」の画面が表示される。…
操作スイッチ部に表示された「ノズル1 → ノズル2」及び「ノズル3 ← ノズル4」は、前述の「材料切れ自動停止機能設定」の画面(図8参照)で設定した内容に基づいて自動的に設定表示される。』

摘記1d:段落0037?0038、0040及び0042?0043
『塗布作業は、図18に示す塗布動作に関するNCデータに基づき行われる。即ち、ステップ0001ではX座標データ[mm]やY座標データ[mm]で示す基板(1)上の座標位置(X1,Y1)に角度データZで示す角度Z1で接着剤を図16で示す塗布条件データで示される塗布条件で塗布する。…
次に、ステップ0002では同じく基板(1)上の座標位置(X2,Y2)に角度Z2でノズル番号1のノズル(6)にゲージ2の圧力で塗布時間T2だけシリンジ(7)内を加圧して、吐出された接着剤を塗布直径D2で塗布する。この場合、塗布径認識選択データには「しない」と設定されているため、そのまま本塗布動作が行われるが、前述したステップ0001で塗布径がD1となるように調整した場合には、その分を加味して塗布径D2となるように塗布動作される。…
CPU(17)は本塗布動作時に前記許容範囲からのズレ分を補正して接着剤を塗布する。また、今度使用するノズル(6)が例えばノズル番号4のノズル(6)である場合、図14に示すように塗布径認識自動補正動作条件が「全条件」であるため、「実塗布回数」、「実塗布時間」、「基板枚数」のいずれかが条件を満たした場合に塗布径認識自動補正が行われる。…
CPU(17)はノズル番号4のノズル(6)が材料切れ予告された場合、以降該ノズル(6)で「塗布回数」に設定された所定回数(9999回)だけ塗布作業を行った後、「代替ノズル」に設定されたノズル番号3のノズル(6)で装置を停止することなしに塗布動作を続ける。…
また、代替運転させる場合に同一のノズル同士でなく、例えばノズル径の異なるノズルでその吐出圧や吐出時間を変更して対処するものでも良い。』

摘記1e:図2


摘記1f:図8


摘記1g:図16


摘記1h:図18


(2)刊行物1に記載された発明
刊行物1の「複数本のノズルを備え所望のノズルを介してプリント基板にシリンジ内の塗布剤を塗布して該ノズルに対応するシリンジ内の塗布剤の残量が所定量となった後は自動運転を停止することなしに別のノズルで代替運転させて塗布動作を継続させる…制御装置を設けた…塗布装置」との記載(摘記1a)、「図2に示す(1)は…XYテーブル(4)上に載置されるプリント基板である。…(5)はノズル(6)を介してシリンジ(7)内に貯蔵された塗布剤としての接着剤を前記基板(1)上に塗布する塗布ユニットで、前記ノズル(6)を4本備えている。… 図1に示す(15)は塗布動作に関するNCデータ等の各種データを記憶する記憶装置としてのRAMで、(16)は塗布動作に関する各種プログラムを記憶する記憶装置としてのROMである。(17)は塗布装置を統括制御する制御装置としてのCPUである。」との記載(摘記1b)、『図8に示す「材料切れ自動機能設定」の画面が表示される。…「代替ノズル」の表示部にはノズル番号4のノズル(6)と同一タイプのノズル番号3のノズル(6)を表すノズル3が前述の代替運転を「する」と設定し…所望の塗布回数(9999)を入力…ノズル番号4のノズル(6)に対し材料切れ予告がなされた後、9999回塗布動作が行われたら以降の塗布動作はノズル番号4のノズル(6)に替わってノズル番号3のノズル(6)により塗布動作が続けられる。』との記載(摘記1c)、『塗布作業は、図18に示す塗布動作に関するNCデータに基づき行われる。即ち、…接着剤を図16で示す塗布条件データで示される塗布条件で塗布する。…ステップ0002では同じく基板(1)上の座標位置(X2,Y2)に角度Z2でノズル番号1のノズル(6)にゲージ2の圧力で塗布時間T2だけシリンジ(7)内を加圧して、吐出された接着剤を塗布直径D2で塗布する。…前述したステップ0001で塗布径がD1となるように調整した場合には、その分を加味して塗布径D2となるように塗布動作される。…CPU(17)はノズル番号4のノズル(6)が材料切れ予告された場合、以降該ノズル(6)で「塗布回数」に設定された所定回数(9999回)だけ塗布作業を行った後、「代替ノズル」に設定されたノズル番号3のノズル(6)で装置を停止することなしに塗布動作を続ける。』との記載(摘記1d)、及び図8の「塗布回数…ノズル1…9999回…ノズル2…9999回…ノズル3…9999回…ノズル4…9999回」との記載(摘記1f)からみて、刊行物1には、
『基板(1)上の座標位置に、複数本のノズル(6)を備えた塗布ユニット(5)で塗布剤としての接着剤を塗布し、塗布装置を統括制御する制御装置としてのCPU(17)と、塗布動作に関する各種プログラムを記憶する記憶装置としてのROM(16)と、塗布動作に関するNCデータ等の各種データを記憶する記憶装置としてのRAM(15)とを備えた塗布装置で自動運転をさせて、塗布作業は、図18に示す塗布動作に関するNCデータに基づき、接着剤を図16で示す塗布条件データで示される塗布条件で塗布し、図8に示す「塗布回数」に所定回数(9999回)を設定し、ノズル番号4のノズル(6)と同一タイプのノズル番号3のノズル(6)を表すノズル3が代替運転を「する」と設定し、9999回塗布動作が行われたら以降の塗布動作はノズル番号4のノズル(6)に替わってノズル番号3のノズル(6)により塗布動作が続けられる接着剤の塗布。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
なお、前記3.において検討したように、本願発明の「…と云った各種の特定単位の範囲内」という発明特定事項については、その技術的な範囲ないし内容が不明確ではあるが、その「各種の特定単位」については、回数、個数、枚数、ロット数、稼働時間、塗布面積などの各種の単位が含まれるものと解して、以下において判断する。
引用発明の「基板(1)上の座標位置」、「複数本のノズル(6)」、「塗布ユニット(5)」及び「塗布剤としての接着剤」の各々は、本願発明の「塗布対象物上の必要位置」、「複数の塗布具」、「塗布ヘッド」及び「接着剤」に相当し、
引用発明の「複数本のノズル(6)」は、ノズル番号4及び3のノズル(6)を選択して使用できるものであるから、引用発明の「複数本のノズル(6)を備えた塗布ユニット(5)」は、本願発明の「複数の塗布具を選択して使用できる塗布ヘッド」に相当し、
引用発明の「塗布動作に関する各種プログラムを記憶する記憶装置としてのROM(16)…を備えた塗布装置で自動運転をさせ」は、本願明細書の段落0030の「所定のプログラムに従って自動的に行う。このために…マイクロコンピュータ28を利用した制御装置を利用する。」との記載をも参酌するに、本願発明の「所定のプログラムに従って自動的に塗布する」に相当し、
引用発明の「ノズル番号4のノズル(6)と同一タイプのノズル番号3のノズル(6)」は、摘記1dの「代替運転させる場合に同一のノズル同士でなく、例えばノズル径の異なるノズルでその吐出圧や吐出時間を変更して対処するものでも良い。」との記載からみて、その「ノズル径」が同一のものと解されるから、本願発明の「同一塗布径の塗布具を複数用い」に相当し、
引用発明の「図18に示す塗布動作に関するNCデータ」及び「図16で示す塗布条件データ」は、摘記1dの「図18に示す塗布動作に関するNCデータ…X座標データ[mm]やY座標データ[mm]で示す基板(1)上の座標位置…図16で示す塗布条件データで示される塗布条件…塗布径がD1となるように調整した場合には、その分を加味して塗布径D2となるように塗布動作される。…図14に示すように…「実塗布回数」、「実塗布時間」、「基板枚数」のいずれかが条件を満たした場合に塗布径認識自動補正が行われ」との記載、並びに摘記1gの図16の「塗布直径…9.99mm」及び摘記1hの図18の「X(mm)」との記載からみて、基盤(1)上の座標位置に関するデータと、塗布される接着剤について調整を加味した塗布径に関するデータに関するものであって、引用発明の「塗布動作に関するNCデータ等の各種データ」は「記憶装置としてのRAM(15)」に記憶され、「記憶装置としてのROM(16)」に記憶された「各種プログラム」とは異なる記憶装置に記憶されているものの、当該「各種プログラム」を実行する引用発明の「CPU(17)」においては、当該「RAM(15)」に記憶された図18及び図16に示される「各種データ」や「基板枚数」等のデータを活用して、当該「各種プログラム」を実行しているものと解され、本願明細書の段落0030の「マイクロコンピュータ28は内部の記憶手段31に…各部品の寸法等を含む動作プログラムを記憶する。このようなプログラムおよびデータの設定は、操作盤36からの入力操作による内部記憶手段31への入力…によっても行える。」との記載をも参酌するに、本願発明の「プログラムが有している…情報」については、当該「情報」が、プログラムそれ自体に予めプログラミングされている場合に限られず、外部インターフェース(操作盤36)からの入力によっても行える場合をも均等に含むものと解されるので、引用発明の「図18に示す塗布動作に関するNCデータ」及び「図16で示す塗布条件データ」等についての「塗布動作に関する…各種データ」は、本願発明の「前記プログラムが有している塗布対象物上の接着剤を塗布すべき各位置…に関する情報」に相当し、
引用発明の『図8に示す「塗布回数」に所定回数(9999回)を設定し、ノズル番号4のノズル(6)と同一タイプのノズル番号3のノズル(6)を表すノズル3が代替運転を「する」と設定し、9999回塗布動作が行われたら以降の塗布動作はノズル番号4のノズル(6)に替わってノズル番号3のノズル(6)により塗布動作が続けられる』は、同一タイプの「ノズル番号4」及び「ノズル番号3」の複数のノズル(6)の塗布回数が等しく「9999回」に設定され、「ノズル番号4」の塗布動作が所定回数で行われたら「ノズル番号4」に替わって「ノズル番号3」が所定回数の塗布動作をするものであるから、本願発明の「同一塗布径を有した複数の塗布具を使用回数が等しくなるように切換え使用する」に相当し、
引用発明の「接着剤の塗布」は、本願発明の「接着剤の塗布方法」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、『塗布対象物上の必要位置に、複数の塗布具を選択して使用できる塗布ヘッドによって接着剤を所定のプログラムに従って自動的に塗布するのに、同一塗布径の塗布具を複数用い、前記プログラムが有している塗布対象物上の接着剤を塗布すべき各位置等に関する情報から、同一塗布径を有した複数の塗布具を使用回数が等しくなるように切換え使用する接着剤の塗布方法。』である点において一致し、
ア.プログラムが有している情報が、「塗布対象物上の接着剤を塗布すべき各位置」に加えて、本願発明においては、「この各位置に接着剤を塗布する個数、および前記各位置で塗布される接着剤を利用してマウントされる部品に対応して決定された塗布径に関する情報」を更に含むのに対して、引用発明においては、「実塗布回数」、「実塗布時間」、「基板枚数」のいずれかが条件を満たした場合に自動補正される「塗布径」などのデータを更に含むものの、当該「この各位置に接着剤を塗布する個数、および前記各位置で塗布される接着剤を利用してマウントされる部品に対応して決定された塗布径に関する情報」を更に含むことについて明確には規定していない点、及び
イ.複数有している同一径の各塗布具の各使用回数が、本願発明においては、「前記塗布対象物の1枚分あるいは適数枚分の同一塗布径での塗布回数、あるいは、1枚の前記塗布対象物における同一塗布径での塗布回数を所定数に分割した塗布回数と云った各種の特定単位の範囲内」で等しくなるのに対して、引用発明においては、ノズル番号4のノズル(6)の所定回数(9999回)と、ノズル番号3のノズル(6)の所定回数(9999回)の、合計回数(19998回)の塗布動作の単位の範囲内で、同一径の各塗布具〔ノズル番号4及び3の各ノズル(6)〕の各使用回数(各9999回)が等しくなるのである点、
の2つの点においてのみ相違する。

(4)判断
上記相違点について検討する。

ア.の点について、平成22年8月6日付けの意見書における『請求項1及び2の「この各位置に接着剤を塗布する個数」とは、基板の各位置における接着剤の塗布回数を意味しております。』との釈明を参酌するに、本願発明の「この各位置に接着剤を塗布する個数」は「塗布回数」を意味するものと認められ、摘記1dの『CPU(17)は本塗布動作時に前記許容範囲からのズレ分を補正して接着剤を塗布する。また、今度使用するノズル(6)が例えばノズル番号4のノズル(6)である場合、図14に示すように塗布径認識自動補正動作条件が「全条件」であるため、「実塗布回数」、「実塗布時間」、「基板枚数」のいずれかが条件を満たした場合に塗布径認識自動補正が行われる。』との記載を参酌するに、刊行物1には、接着剤を塗布する「実塗布回数」をカウントしたデータを利用することが記載されているものと認められる。
また、摘記1gの図16においては、「塗布直径」を「9.99mm」に決定したデータが記載されているので、マウントされる部品に対応して決定された塗布径に関するデータを利用することも記載されているものと認められる。
してみると、この点について両者に相違する点はない。

イ.の点について、本願発明の「各種の特定単位」は、「前記塗布対象物の1枚分あるいは適数枚分の同一塗布径での塗布回数、あるいは、1枚の前記塗布対象物における同一塗布径での塗布回数を所定数に分割した塗布回数」と云ったものに限られるものではないところ、引用発明は、同一径の各塗布具〔ノズル番号4及び3の各ノズル(6)〕の合計回数(19998回)を本願発明の「各種の特定単位」に相当する特定単位としているものと解され、しかも、この合計回数(19998回)は、本願発明の「塗布対象物の適数枚分の同一塗布径での塗布回数」に実質的に相当することから、この点について両者に相違する点はない。

したがって、本願発明は、本願の分割原出願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。

(5)平成22年8月6日付けの意見書における主張について
平成22年8月6日付けの意見書において、審判請求人は、『これに対し引用文献には上記事項が記載されておりますが、本願発明が有する上記補正後の特徴的構成については開示も示唆もありません。より詳しく述べると、引用文献のものは上記のとおり、切換え前後に使用する同一塗布径を有した複数の塗布具の使用回数を等しくさせているのに対し、本願発明は同時に使用する同一塗布径を有した複数の塗布具の使用回数を等しくさせており、この点で両発明は具体的構成が著しく相違しております。そしてこの構成の相違により、引用文献には「特定単位の範囲内で、複数有している同一径の各塗布具の各使用回数が等しくなる」点についての記載がありません。したがって、引用文献のものでは本願発明が奏する上記格別の作用効果を得ることができません。』と主張している。
しかしながら、上記主張における「本願発明は同時に使用する同一塗布径を有した複数の塗布具の使用回数を等しくさせており」との主張について、本願請求項1の記載には当該「同時に使用する」という事項が発明特定事項として明記されておらず、本願明細書の段落0038の「除算塗布回数に達する都度、同一径を有した複数の塗布具26、27を順次に切替え使用されるように、前記プログラムにデータ設定する。」等の記載を参酌しても、本願発明の「同一径を有した複数の塗布具」は「順次に切替え使用」されるものであって、同時に使用されるものとは言い難い。
また、上記主張における『引用文献には「特定単位の範囲内で、…各使用回数が等しくなる」点についての記載がありません。』との主張について、引用発明は、合計回数(19998回)という「特定単位」の範囲内で、各使用回数(9999回)が等しくなるものであるから、引用文献には「特定単位の範囲内で、複数有している同一径の各塗布具の各使用回数が等しくなる」点についての記載があるものと認められる。
したがって、当該意見書における審判請求人の主張は採用きない。

(6)小括
以上のとおりであるから、本願発明は、本願の分割原出願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条の規定により特許を受けることができないものである。

5.まとめ
以上総括するに、本願発明は特許法第29条の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願は特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-25 
結審通知日 2010-11-30 
審決日 2010-12-13 
出願番号 特願2004-198950(P2004-198950)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (B05D)
P 1 8・ 537- WZ (B05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 健史  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 木村 敏康
松本 直子
発明の名称 接着剤の塗布方法および装置  
代理人 藤井 兼太郎  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 永野 大介  

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