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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1231017
審判番号 不服2009-24684  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-14 
確定日 2011-01-27 
事件の表示 特願2001-212186「多ビーム半導体レーザ素子及び半導体レーザ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月31日出願公開、特開2003- 31905〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年7月12日の出願であって、平成21年7月16日に手続補正がなされたが、同年9月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年12月14日に審判請求がされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである。

そして、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成21年12月14日になされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認められる。

「【請求項1】
端面からレーザ光を出射するビームが上面に複数並んでいる半導体基板を備えた多ビーム半導体レーザ素子であって、
前記半導体基板は前記ビームの他に、光を出射しない、前記ビームと同じ高さのダミービームを備え、
前記ビーム及びダミービームは、その上面部分の絶縁膜と、前記絶縁膜の開口部に設けられた電極とを備えていることを特徴とする多ビーム半導体レーザ素子。」

2.引用刊行物

(1)引用刊行物1
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平2-103987号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付与)。

ア 「【特許請求の範囲】
同一半導体基板上に、活性層を内包する多層成長層を有し、溝で互いに電気的に分離された複数のレーザ素子をアレイ状に備え、さらに、このレーザアレイの少なくとも一方の最も外側のレーザ素子の発光点より外側に、レーザ素子の間隔よりも広い半導体領域を設けたレーザアレイ素子と、そのレーザアレイ素子の各レーザ素子に形成された電極と同じ中心間隔で電気的に分離されたパーターン電極(審決注、「パターン」の誤記と認められる。)を有し、最も外側の電極が素子間隔より広い電極領域を有するヒートシンクとを、互いの分離された電極を向かい合わせてろう材により電気的、熱的に接着したことを特徴とする半導体レーザアレイ装置。」

イ 「第1図本発明の一実施例のレーザアレイ装置を示した図である。レーザアレイ素子は、n形GaAs2を基板とし、AlGaAsを材料として多層成長層3に100μm間隔でレーザ発光点1が形成されるように、多層成長層3にp電極6側から活性層4まで至る溝30を形成し、溝30で電気的に完全に分離されているレーザ素子を複数個基板2上に備えた構成になっている。両端の最も外側のレーザ素子31aの発光点の外側には300μmの長さで半導体領域100が設けられている。レーザアレイ素子の半導体材料としては他にGaAsを基板とするAlGaInPを材料とするレーザ素子でもよいし、InPを基板とするInGaAsPを材料とするレーザ素子でもよい、また半導体の伝導型(pとn)は逆転してもよい、電気的絶縁性のSiCから成るヒートシンク7の上にはTi,Pt,Auの順に金属を積層して形成したパターン電極8が中心間隔100μm、電極幅60μmで形成されている。最も外側のパターン電極101は図のようにレーザの発光点の位置より外側に300μmの広がりを持っている。レーザアレイ素子とヒートシンク7を互いの分離された電極を向かい合わせてPbSnのろう材9により電気的、熱的に接着させ、レーザアレイ装置とする。レーザアレイ素子の最も外側の発光点より外側の半導体領域100にAuを材料とするコンタクトワイヤー10を圧着し電気的な接触を形成する。こうすることによリレーザ素子に欠陥などが導入されることがなくレーザアレイ素子の信頼性を向上させることができる。また、最も外側のレーザ素子の外側にも半導体領域を設け、ヒートシンクと熱的に接着させることにより最も外側のレーザ素子において発生する熱の外側横方向への放散を促進し、素子の温度上昇を抑え、信頼性が向上すると同時に隣接する他の素子への熱的な干渉を低減することができる。ろう材としては他にInでもよいし、Snでもよい。また最も外側に設ける半導体領域はレーザアレイの両側に限らずレーザアレイ素子のいずれか一方の側でもよい。」

ウ 「第2図は本発明の別の実施例を示した図である。レーザアレイ素子の最も外側の素子の発光点により(審決注、「発光点より」の誤記と認められる。)50μm外側にp電極6側から素子間に活性層4まで至る溝を形成し、ヒートシンク7にもその溝に対応する部分のパターン電極にも電気的な分離を施すことにより、最も外側のレーザ素子31aとその外側に設けた半導体領域100は電気的に完全に分離されている。これにより外側の半導体領域で発生する漏れ電流がレーザ素子に流れ込まない構造となる。」

エ 第2図は次のとおりである。



ここで、第2図におけるp電極6を見ると、発光点を有する部分と半導体領域の両方に渡って面一で設けられていることは明らかであるから、引用発明の「半導体素子」と「レーザ素子」は同じ高さに設けられており、いずれも電極を有しているといえる。
以上を踏まえると、引用刊行物1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「同一半導体基板上に、活性層を内包する多層成長層を有し、複数のレーザ素子をアレイ状に備え、さらに、このレーザアレイの少なくとも一方の最も外側のレーザ素子の発光点より外側に、レーザ素子の間隔よりも広く、電極が形成された半導体領域を設けたレーザアレイ素子と、そのレーザアレイ素子の各レーザ素子に形成された電極と同じ中心間隔で電気的に分離されたパターン電極を有し、最も外側の電極が素子間隔より広い電極領域を有するヒートシンクとを、互いの分離された電極を向かい合わせてPbSnのろう剤により電気的、熱的に接着した半導体レーザアレイ装置であって、レーザ素子と半導体領域は同じ高さに設けられており、レーザ素子の最も外側の素子の発光点より外側に溝を形成し、最も外側のレーザ素子とその外側に設けた前記半導体領域とを電気的に分離するようにした半導体レーザアレイ装置。」

(2)引用刊行物2
同じく、特開平11-274634号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付与)。

オ 「【0071】つぎに、図9に示すように、電極導出部26の外れに電極分離溝23を形成する。この電極分離溝23は、N-GaAsバッファー層32の表層部分にまで到達する。この電極分離溝23の形成によって、電極分離溝23とアイソレーション溝21との間にメサ部24が形成される。リッジ42はこのメサ部24の部分に位置している。
【0072】つぎに、図9に示すように、N-GaAs基板30の表面に選択的にSiO2膜やPSG膜等からなる一層または多層の絶縁膜29を形成するとともに、メサ部24上にアノード電極25を形成し、電極導出部26上にカソード電極27を形成する。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明における「レーザ素子」は、本願発明の「ビーム」に相当する。ここで、引用発明の「レーザ素子」は、いずれの方向にレーザ光を出射するのか明記はないが、引用刊行物1の第2図に示されている断面図を参照すると、レーザ素子を構成する発光点の上下は電極や基板で挟まれている形状となっていることから、その端面からレーザ光を出射していることは明らかである。
また、引用発明の「複数のレーザ素子」が「アレイ状に備え」られた「同一半導体基板」は、引用刊行物1の第2図も参照すると、本願発明の「ビームが上面に複数並んでいる半導体基板」に相当する。
以上を踏まえると、引用発明の「半導体レーザアレイ装置」は、本願発明の「多ビーム半導体レーザ素子」に相当する。
さらに、引用発明における「半導体領域」は、「最も外側のレーザ素子の発光点より外側」に設けられたものであり、引用刊行物1の第2図に示されるとおり、発光点がない領域であるから、本願発明の「光を出射しない」「ダミービーム」に相当する。

してみると、両者は、
「端面からレーザ光を出射するビームが上面に複数並んでいる半導体基板を備えた多ビーム半導体レーザ素子であって、
前記半導体基板は前記ビームの他に、光を出射しない、前記ビームと同じ高さのダミービームを備え、
前記ビーム及びダミービームは、電極を備えている多ビーム半導体レーザ素子。」
の点で一致し、

以下の点で相違する。

本願発明は、ビーム及びダミービームに設けられている電極が、ビーム及びダミービームの上面部分に絶縁膜を設けた上で、かかる絶縁膜の開口部に設けられているのに対し、引用発明では、ビーム間及びビームとダミービーム間に溝を設けて電気的に分離するようにしてはいるものの、絶縁膜を有するものかどうか不明である点。

4.判断
上記相違点について検討する。

複数のビームを備えた多ビーム半導体レーザ素子において、ビーム間を電気的に分離するために、ビーム間に溝を設けた上で、ビームの上面に絶縁膜を設けて、かかる絶縁膜に設けた開口部に電極を設けることは、前記2(2)の引用刊行物2の記載にみられるように、本願出願時に周知の事項である。
してみると、レーザ素子同士ないしレーザ素子と半導体領域、すなわちビーム間及びビームとダミービーム間を電気的に分離する引用発明において、確実に電気的分離を行うための手段として、上記周知技術を適用して、引用発明に設けられている溝、ビーム、ダミービームの上面に絶縁膜を設け、かかる絶縁膜に開口部を設けて電極を設けることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、本願発明が奏する効果についても、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る域を超える程の格別顕著なものとは認められない。

したがって、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.請求人の主張について
請求人は審判請求の理由及び平成22年10月20日提出の回答書において、以下の主張をしている。

(1)ビーム上面部分の絶縁膜の開口部に設けられた電極については引用文献2に記載があると述べたのみであり、ダミービーム上の絶縁膜の開口部について周知技術だとは認めていない(以下「主張1」という。)。

(2)何れの引用文献1,2にも高さを等しくするという課題について記載されていない。特に引用文献1は、段差の有無に関係なく接合面積を増やすことができれば、熱の拡散ができるものである(以下「主張2」という。)。

(3)引用文献1には、溝を設けることによって絶縁が十分足りることが記載されており、当然、外側の半導体領域で発生する漏れ電流がレーザ素子に流れ込まないようにする絶縁膜について記載も示唆もない(以下「主張3」という。)。

上記請求人の主張について検討する。

(1)主張1及び主張3について
主張1及び主張3について併せて検討する。
上記4.で検討したとおり、引用発明において、確実に電気的分離を行うことを考慮した当業者であれば、上記周知技術を適用して、絶縁膜を設けるようにすることは、適宜なし得ることである。その際に、引用発明のダミービーム部にも電極が設けられている以上、そこに周知技術の溝及び絶縁膜を適用した場合には、ダミービーム部に設けられている電極については、絶縁膜に開口部を設けて電極を設けるようにすることは当然のことであるといえる。

(2)主張2について
請求人が主張するように、引用文献1,2のいずれにも高さを等しくするという課題については記載されていない。
しかしながら、一般的な半導体プロセスにおける電極等の形成にあたっては、同一の部材は同一平面上で一度に作るようにすることが一般的であり、引用発明の電極を、敢えて異なった高さとする特段の理由はなく、上記4.で検討したとおり、引用刊行物1の第2図に基づけば、引用発明はビーム部とダミービーム部において、高さは等しくされているといえるのであって、上記課題の記載の有無は、かかる認定を左右するものではない。

以上のとおりであって、請求人の主張は上記4.の判断を左右するものではない。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-25 
結審通知日 2010-11-30 
審決日 2010-12-13 
出願番号 特願2001-212186(P2001-212186)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 角地 雅信  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 一宮 誠
田部 元史
発明の名称 多ビーム半導体レーザ素子及び半導体レーザ装置  
代理人 秋田 収喜  

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