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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23K
管理番号 1231076
審判番号 不服2009-14834  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-17 
確定日 2011-01-26 
事件の表示 特願2003-520456「イヌの心臓のための治療食」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月27日国際公開、WO03/15695、平成17年 2月10日国内公表、特表2005-503788〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年8月9日(パリ条約に基づく優先権主張 平成13年8月10日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年4月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月17日に拒絶査定に対する審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1ないし11に係る発明は、平成20年8月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである。
「ビタミンC、タウリン、ビタミンE、一種類以上の多価不飽和脂肪酸およびL-カルニチンを含むイヌ用の食品。」(以下「本願発明」という。)

2 引用刊行物記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、国際公開第00/44375号(以下、「刊行物1」という。対応公表公報 特開2002-535364号公報)には、概略以下の事項が記載されている。
(1a)「本発明は、特に、ペット用のネコおよびイヌにおける酸化ストレスの問題を克服するための方法を提供する。」(1頁15?16行)、
(1b)「したがって、本発明の第一の態様により、ペット用のネコまたはイヌにおける血漿ビタミンEレベルを増加する方法であって、血漿ビタミンEレベルを増加させるのに十分な量のビタミンEを前記ネコまたはイヌに投与する工程を含む方法が提供される。」(1頁18?21行)
(1c)「好ましくは、本発明の第一の態様によるビタミンEの投与は、25IU/400kcalからのレベルの食餌である。」(5頁17?18行)、
(1d)「本発明の第一の態様について、本発明の方法には、ある量のビタミンC(アスコルビン酸)の投与が含まれる。・・・
本発明により、ネコまたはイヌにおけるビタミンCレベルは補助により増加できることが示される。このことは、ビタミンC補助後の血漿値における増加により示される。ビタミンCレベルにおける増加は、遊離基の減少、したがって動物における酸化ストレスの減少の一因となり得る。」(6頁1?13行)、
(1e)「・・・本発明の第一の態様によるビタミンCのレベルには、10、・・・48から約50mg/400kcalの食餌が含まれる。・・・イヌについては12から50mg/400kcalまでの上述の選択である。55mg/400kcalより上のレベルは追加の利益を提供せず、通常は避けるのがよい。」(7頁9?14行)
(1f)「本発明の第一の態様には、ある量のタウリンの投与が含まれてもよい。タウリンは、上述される補助されたビタミンCに加えて、またはその代わりでもよい。
タウリンは、様々の種類の動物において見られる変わったアミノ酸である。・・・タウリンは、酸化剤を含む毒性組成物から細胞膜を保護すると考えられている。動物の食餌中のビタミンタウリンレベルの増加は、特に本発明の他の成分と組み合わせて、遊離基の減少およびしたがって動物における酸化ストレスの減少の一因となり得る。」(7頁16?26行)、
(1g)「本発明の第一の態様にはさらに、ある量のカロチノイドの投与が含まれる。カロチノイドは、上述のように補助されたビタミンCおよび/またはタウリンに加えて、またはその代わりでもよい。」(8頁24?26行)、
(1h)「組み合わせたカロチノイドの好ましい供給源に含まれるもの;
赤パーム油およびマリゴールド粉餌
トマト粉末、マリゴールド粉餌およびムラサキウマゴヤシ
トマトのしぼりかすおよびマリゴールド粉餌。
上述のように、本発明には、ビタミンEおよび必要に応じて他の成分が含まれる。成分の有用な組合せ(好ましくは缶詰にされたまたは乾燥したペットフード中の)に含まれるもの;
ビタミンE、ビタミンC、タウリン、赤パーム油およびマリゴールド粉餌
・・・
ビタミンE、ビタミンC、タウリン、トマト粉末およびマリゴールド粉餌」(10頁9?20行)、
(1i)「本発明の第2の態様に基づき、動物の抗酸化剤状態を高めるのに十分な濃度の成分をイヌまたはネコに供給する食品を提供する。」(11頁25?27行)、
(1j)「本発明の第5の態様は、酸化的ストレスによる要因を有する任意の疾患を予防または治療するのに用いるための、本発明の第2、第3、第4または第9の態様に基づくイヌまたはネコ用の食品を提供する。その使用は、「病気」または「疾患」の要因としての酸化的ストレスを予防または治療するためである(従って、酸化的ストレスによる要因を(少なくともある程度)軽減することによって、病気または疾患が緩和され得る)。そのような疾患として、老化、癌、心疾患、・・・免疫性疾患(例えば免疫低下)が挙げられる。」(13頁7?14行)。
(1k)実施例19には、雌雄混合の40匹の若い成犬および老犬に対して、完全栄養食に、トマトの絞りかす、ビタミンC、タウリン、ビタミンE及びマリゴールドミールを添加した試験食と、完全栄養食のみでこれらを添加しない対照食を8週間与えた試験をした結果、試験食を与えたイヌは、血漿の第二鉄還元能(FRAP)及び、血漿ビタミンEレベルは、対照群よりも有意に高かったこと、完全栄養食の組成は、米、全トウモロコシ、全小麦、鶏肉副製品、トウモロコシグルテンミール、醸造用酵母、乾燥卵、ヨウ素を添加していない塩、予混合ビタミン、ヒマワリ油、牛脂、鶏内臓からなることが記載されている(47頁1行?50頁9行、FIG.8,9)。

これらの記載事項によれば、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「ビタミンE、ビタミンC、タウリン、カロチノイドを含むイヌ用の食品。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

(2)同、特許第2926820号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】飼いならされた犬または猫に予防量のL-カルニチンを毎日投与する工程から成ることを特徴とする犬または猫の食餌誘因カルニチン欠乏症の防止方法。
【請求項2】前記L-カルニチンが、該L-カルニチンを前記犬または猫のペット・フードに添加して混合物を作り、該混合物を前記犬または猫に与えることによって投与される請求項1記載の方法。」
(2b)「捕乳動物種において、心臓及び骨格の筋肉のL-カルニチン濃度は血清における濃度より著しく高い。これらの組織における脂肪酸は主なエネルギー源として利用される。L-カルニチンは脂肪酸を酸化部位へ輸送するのに中心的役割を果たすために、捕乳動物の心臓における正常な脂肪酸およびエネルギーの代謝には適当なレベルのL-カルニチンが必要である。これは、L-カルニチン欠乏患者の筋肉ホモジネートにおける脂肪酸酸化の正常な回復によつて立証される。心筋のL-カルニチン欠乏水準と心筋症との関係がハムスターおよび犬において観察され、かかるL-カルニチン欠乏水準の正常値への回復は両方の種における心筋機能を改善することが示されている。」(2頁3欄10?22行)、
(2c)「本発明は、飼いならされた犬及び猫における食餌からもたらされたカルチニンの欠乏を予防量のL-カルニチンを含有する食餌補給によつて防ぐ方法に関するものである。本発明は、ミオパシー心臓疾患、高脂血症、ケトン症、筋肉弱化および早期老化を含む多数の状態をもたらす恐れのあるL-カルニチン欠乏の防止に有用である。」(2頁4欄8?14行)。
(2d)実施例1には、6匹の健康なグレーハウンド犬に1ケ月の対照期間の標準の市販ドツグ・フード規定食を与え、2日続けて8時間の絶食の後に対照血漿試料を採って、全体、遊離およびエステル化L-カルニチン濃度を分析したこと、対照期間に続いて、全ての犬にL-カルニチンを補足した標準の市販ドツグ・フード規定食を2週間続けたこと、血漿試料は7日と8日後(平均して1週間後の測定)および13日と14日後(平均して2週間後)に採取してL-カルニチンの分析をした結果、規定食にL-カルニチンを補足すると血漿の全カルニチン濃度が著しく増加したことが記載されている(4頁7欄43行?5頁10欄36行)。

3 対比・判断
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、
「ビタミンE、ビタミンC、タウリンを含むイヌ用の食品。」である点で一致し、下記の点で相違している。
〈相違点〉
本願発明は、イヌ用の食品が、一種類以上の多価不飽和脂肪酸およびL-カルニチンを含むのに対し、刊行物1記載の発明は、これらを含むものに限定されていない点。

上記相違点について検討する。
刊行物1には、カロチノイドの供給源として、「赤パーム油」を採用することが記載されているところ「赤パーム油」は、リノール酸等の多価不飽和脂肪酸を含むものであり、刊行物1記載の発明において、カロチノイドの供給源として多価不飽和脂肪酸を含む「赤パーム油」を採用することは、当業者が容易になしうることである。
また、刊行物1の実施例19で採用した完全栄養食に含まれるヒマワリ油は、多価不飽和脂肪酸であるリノール酸を含むものであり、刊行物1の実施例19には、ビタミンE、ビタミンC、タウリンを含み、さらに一種類以上の多価不飽和脂肪酸を含む食品が実質的に記載されており、このようにイヌ用の食品に多価不飽和脂肪酸を含有させることは周知であって、刊行物1記載の発明においてビタミンE、ビタミンC、タウリン等を多価不飽和脂肪酸を含有する周知のイヌ用食品に含有させることは当業者が容易になしうることである。
そして、刊行物1には、ビタミンE、ビタミンC、タウリン等を添加した食品により、血漿の第二鉄還元能(FRAP)及び、血漿ビタミンEレベルを増加させ、酸化ストレスを低減することにより心疾患を緩和することが記載されている。
一方、刊行物2には、L-カルニチンは、心臓における正常な脂肪酸およびエネルギーの代謝に必要な物質であり、イヌ用の食品にL-カルニチンを含有させることにより、血漿のカルニチン濃度が増加すること、及び心筋機能を改善することが記載されている。
そうすると、刊行物1記載の発明において、さらに、心筋機能を改善する効果のあるL-カルニチンを含有させることは、当業者が容易に想到しうることである。

次に、本願発明の効果について検討する。
本願明細書には、本願発明の効果について、次の記載がある。
「タウリンは、拡張型心筋症などの心臓血管疾患を患っている動物に利益を与える。」(段落【0006】)
「ビタミンCには、健康な歯、歯肉および骨の維持に極めて重要な役割がある。ビタミンCは、創傷、瘢痕組織および骨折の治癒を助け、血管を強化する。ビタミンCは、感染に対する抵抗を築き、風邪の予防と治療に役立つ。ビタミンCは、重要な抗酸化栄養素の内の一つでもある。」(段落【0007】)、
「ビタミンEは免疫系の機能において重要な役割を果たすことも示唆されている。」(段落【0011】)、
「ビタミンEは、主要な抗酸化栄養素であり、体内でフリーラジカルスカベンジャーとして働く。アルファ-トコフェロールは、ビタミンEの最も活性の高い抗酸化生物学的形態である。」(段落【0013】)、
「n-3系多価不飽和脂肪酸の補給は、炎症性エイコサノイド(例えば、2系および4系エイコサノイド)の産生を減少させ、したがって、炎症を減少させることにより、動物に利益を与える。」(段落【0017】)、
「L-カルニチンは骨格筋および心筋中に多く存在する。カルニチン欠乏症は、多くのイヌの種類における一次性心筋疾患に関連している。」(段落【0026】)、
「実施例4
イヌへの食品の効果
健康なイヌのパネルに給餌試行を行って、本発明の食品の給餌の効果を対照の治療食と比較した。対照の治療食は、ビタミンC、ビタミンE、タウリンおよび一種類以上の多価不飽和脂肪酸を含まないことを除いて本発明の食品と同じ成分を含有していた。本発明の食品を給餌したイヌは、対照の治療食を与えたイヌと比較して、利点を示した。さらに、本発明の食品について、有害な副作用は観察されなかった。」(段落【0086】)。

ビタミンE、ビタミンC、タウリンが抗酸化機能を有し、血管や組織を維持し、心疾患に効果を奏することは刊行物1に記載されており、多価不飽和脂肪酸が、心血管系疾患の予防等の効果があることは周知であり(例えば、特開平6-319465号公報の段落【0002】、原審の拒絶理由で引用された国際公開00/49889号の2?3頁参照)、刊行物1の実施例19に示されるイヌ用食品、あるいは、刊行物1記載の発明から容易に想到しうる、ビタミンE、ビタミンC、タウリン及び多価不飽和脂肪酸を含むイヌ用食品も、これらの心疾患予防効果を奏するものといえる。
さらに、L-カルニチンが、心筋機能を改善する効果を有することは刊行物2に記載されており、本願明細書に記載の上記の本願発明の作用効果は、刊行物1及び2記載の発明から当業者が予測できることであり、これらの成分を組合わせたことにより、格別の効果を奏するともいえない。

なお、請求人は、平成19年12月17日意見書において、慢性心臓弁膜症のイヌに、ビタミンE、ビタミンC、タウリン、多価不飽和脂肪酸を特定量含む「初期心臓支援食」を与えた場合に拡張期の左心室内径及び最大左心房径が対照と比較して減少したことを示す実験データを提出しているが、本願明細書に記載された治療食(実施例1、2)とは異なる特定の「初期心臓支援食」を慢性心臓弁膜症のイヌに与えた場合の特有の効果を示すにすぎず、ビタミンE、ビタミンC、タウリン、多価不飽和脂肪酸、L-カルニチンの含有量が限定されず、健康なイヌに給餌する場合も含む(実施例4参照)、本願発明の特有の効果ということはできない。

したがって、本願発明は、刊行物1及び2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1及び2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-30 
結審通知日 2010-08-31 
審決日 2010-09-14 
出願番号 特願2003-520456(P2003-520456)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 隆彦  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮崎 恭
草野 顕子
発明の名称 イヌの心臓のための治療食  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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