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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1231078
審判番号 不服2009-18006  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-25 
確定日 2011-01-26 
事件の表示 特願2003-587996「機能表面を有する工作物およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月 6日国際公開、WO03/91474、平成18年 3月23日国内公表、特表2006-509967〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成15年4月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2002年4月25日 (CH)スイス連邦)を国際出願日とする特許出願であって、平成21年5月21日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年9月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後、当審において、平成22年1月6日(起案日)付けで審尋がなされ、平成22年4月7日に審尋に対する回答書が提出されたものである。

2.本願発明

本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成16年10月22日付け特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書、平成21年1月29日付け手続補正、及び平成21年9月25日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認めるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも1の機能表面と、前記機能表面のうち少なくとも一部に堆積させた層システム(4)とを備えてさらに構造パターンを含む工作物(1)であって、前記構造パターンが前記層システム(4)のうち少なくとも一部を含み、かつ構造深さsを有する少なくとも1つの3次元微細構造(5)からなる、工作物において、
前記堆積させた層システムが、PVD方法、CVD方法あるいは組合わされたPVD/CVD方法によって析出されるものであり、前記堆積させた層システム(4)が形成された後に前記3次元微細構造(5)が形成され、かつ前記3次元微細構造(5)が前記層システム(4)の表面から前記工作物の中にまで延びることで前記工作物が前記微細構造(5)の下部領域においてコーティングされずにあることを特徴とする、工作物。」

3.引用刊行物とその記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物及びその記載事項は次のとおりである。

刊行物1 西独国特許出願公開第3634708号明細書
刊行物2 国際公開第01/79585号

(1)刊行物1に記載された発明

刊行物1(西独国特許出願公開第3634708号明細書)には、図面とともに次の記載がある。なお、刊行物1は、当審による日本語訳を刊行物1の翻訳文として採用するとともに、原文の摘記を省略し、原文の摘記事項に対応する翻訳文を以下に記載する。

(ア)「特許請求の範囲
【請求項1】
保油量を改善するために鉢状凹部を有し、摺動面に電気メッキの硬質クロム層を有する、特に内燃機関のピストンリングなどの、摺動面に耐摩耗性コーティングを備えた摺動摩擦に晒される機械部材であって、コーティング(1)前に機械的方法、エッチング法、および/または熱的方法によって基材(8)に穴状凹部が穿設され、これにより被膜(1)の析出時に、被膜材料において、基材(8)内まで達する穴(6、7)が形成されることを特徴とする、機械部材。
【請求項2】
前記穴(6、7)は、レーザビームによって前記基材(8)に焼き付けられることを特徴とする、請求項1に記載の機械部材。
【請求項3】
前記耐摩耗性コーティング(1)は、層肉厚が0.300mmまでのガルバニック析出される硬質クロム層(1)からなることを特徴とする、請求項1および2に記載の機械部材。
【請求項4】
前記穴(6、7)は、円錐状から円筒状の形状を有することを特徴とする、請求項1?3に記載の機械部材。
【請求項5】
前記穴(6、7)は、層材料(1)と基材(8)との境界領域に0.100mmを超える直径を有することを特徴とする、請求項1?4の少なくとも1つに記載の機械部材。
【請求項6】
前記穴(6、7)は、前記層材料(1)内に0.200mmの深さまで延びることを特徴とする、請求項1?5の少なくとも1つに記載の機械部材。
【請求項7】
前記穴(6、7)は、前記摺動面(1)において1?3mmの間隔で編目状に配置されることを特徴とする、請求項1?6の少なくとも1つに記載の機械部材。
【請求項8】
前記穴(6、7)に、固体潤滑剤が充填されることを特徴とする、請求項1?7の少なくとも1つに記載の機械部材。
【請求項9】
前記穴(6、7)に、潤滑油を吸収する多孔質材料が充填されることを特徴とする、請求項1?7の少なくとも1つに記載の機械部材。」(原文の第1欄第1?48行の日本語訳)

(イ)「明細書
本発明は、保油量を改善するために鉢状凹部を有し、摺動面にガルバニック析出される硬質クロム層(galvanisch abgeschiedene Hartchromschicht)を有する、鋳鉄または鋼製の、特に内燃機関のピストンリングなどの、摺動面に耐摩耗性コーティングを有する摺動摩擦に晒される機械部材に関する。」(原文の第1欄第50?59行の日本語訳)

(ウ)「内燃機関のピストンリングにおいて、とりわけ耐摩耗性を高めるために、摺動面に電気メッキ(galvanisch)の硬質クロム層が設けられる。これらの層は、高耐摩耗性を有し、ピストンリングの寿命を著しく延ばす。その一方で、クロム層のオイル塗れ性は悪い。非常に平滑なクロム層に、運転中、必要な油膜を形成することが難しいので、とりわけ限界状態において潤滑油不足が生じて損傷を発生させる可能性がある。
それゆえ、潤滑状態を改善するために、もしくはオイル塗れ性を改善するために、クロム層を粗化したり、鉢状凹部、いわゆるオイルポケットを設けたりすることが公知である。そうして例えば、析出させた硬質クロム層は、その自然にできる亀裂ネットワーク(Rissnetzwerke)を拡張するために、熱処理されるか、または後からエッチングされ、これにより多孔質のクロム層が改善されたオイル塗れ性を得る。さらに、クロム層表面を特殊な研磨プロセスまたは砂の吹き付けによって粗化し、また機械的に、とりわけローレット加工(Raendeln)によりクロム層にオイルポケットとしての凹部を作製する。最近の方法では、高エネルギーの電子ビームによって、またはレーザビームによってオイルポケットを熱でクロム層に焼き付ける。
このように粗化されたか、またはオイルポケットを備えた表面は、製造技術上、大抵の場合、どうしても製作コストがかかり、とりわけクロム層表面の粗化またはエッチングの深さが、大抵の場合、小さいので、すでに慣らし運転でクロム層が研磨され、オイル塗れ性の悪い未処理層のようになるという機能技術上本質的な欠点を有する。粗化法もオイルポケットを作製する方法もクロム層の組織構造を損なう。クロム層部分が脱落し、硬質の砥粒としてピストンリングおよびシリンダ壁の摩耗損傷を引き起こす可能性がある。」(原文の第1欄第60行?第2欄第33行の日本語訳)

(エ)「したがって、本発明は、好ましくは電気メッキの摺動面コーティング(galvanische Laufflaechenbeschichtung)が全耐用期間の運転中に良好なオイル塗れ性および潤滑油膜形成を行い、同時に、擦傷性の摩耗損傷下で層が脱落する危険を著しく低減する、主請求項の前提部に記載の機械部材を提供するという課題に基づく。さらに機械部材の製造方法は、簡単かつコスト節減的でなければならない。
本発明によると、上記課題は、摺動面に耐摩耗性コーティングを被着する前に、機械的方法、エッチング法および/または熱的方法によって穴を設けた機械部材によって解決される。次の、好ましくは電気メッキによる摩耗保護層の被着時に、穴の領域に被覆材料は析出せず、機械部材の摺動面が、基材内にまで達する穴を摩耗層に有する。これらの穴は、オイルポケットとして機能し、収容されたオイルが、運転中に潤滑油膜の形成を容易にする。さらに、収容された潤滑油は、限界状態において潤滑不足が生じた場合にオイルリザーバとして機能する。とりわけ、本発明により、基材内にまで達するオイルポケットは長寿命に保たれる。摩耗層が完全に磨滅した後でも、運転中、機械部材の摺動面は、潤滑不足時にオイルリザーバ効果を有するオイルポケットをなお有している。」(原文の第2欄第34?63行の日本語訳)

(オ)「本発明の趣旨では、基材における穴は、摩耗層を被着する前にローレット加工または穿孔などの機械的方法によって、化学的または電気化学的エッチング法によって、または、熱的方法によって作製することができる。しかし、穴は、高エネルギービームにより、しかも好ましくはレーザビームにより熱的に特に良好に作製できることがわかった。レーザビームパルスは、制御に応じて基材の所定深さに入り込み、基材を溶かし、母材料の蒸発下で、内部に向かって細くなる略円錐状から円筒状の凹部を形成する。これにより凹部の溶けた周縁域の領域のみが平滑になるので、次の電気メッキによる層の被着において、金属の析出がほとんど生じないか、場合によっては、析出された材料が付着せず、後続の加工において容易に除去することができる。
本発明により、このようにして耐摩耗性および電気メッキの硬質クロム層が基材中にまで達する穴を備えることが好ましい。この場合、0.300mmまでの一般的な肉厚のクロム層厚さでは、穴が、基材内に0.070?0.200mmの深さに達するべきであることがわかった。クロム層表面まで穴が空いた状態にするには、基材における穴の直径が0.100mmを超えるようにする。クロム層厚さを変更する場合、穴の深さおよび直径は、クロム層厚さが薄い場合はこれに対応して小さくし、クロム層厚さが厚い場合には、これに対応して大きくする。
レーザビームにより母基材に焼き付けられた穴は、好ましくは、深みに向かって細くなる、略20?30°の開口角度を有する円錐状の形状を有する。しかし、穴が略円筒状の形状でも、円錐状の形状の穴と同じ機能的挙動を有することもわかった。」(原文の第2欄第64行?第3欄第35行の日本語訳)

(カ)「本発明に係る穴は、クロムメッキする前にレーザビームによりピストンリングの摺動面に焼き付けられることが好ましい。しかし、基本的に、シリンダ、ライナ、走行リング、摺動リング、シャフトなどの摺動面には、電気メッキにより、または場合によっては射出成形または溶接した層を被着する前に、本発明に係る穴を設けることも可能である。
本発明により、摺動面に穴を備えたピストンリングを製造するために、ピストンリングは、クロムメッキの前に円筒状ブロックに固定され、このブロックを回転させてレーザビームを摺動面に導く。レーザビームパルス、レーザビーム強度、およびレーザビームの収束を制御することによって、所望の寸法の穴が、好ましくは、1?3mmの間隔で格子状にピストンリング摺動面に焼き付けられる。続く未加工のピストンリングを洗浄した後にピストンリングのクロムメッキと仕上げ加工とが通常の態様で行われる。クロム層として、次に、多孔質にエッチングされた硬質クロム層をピストンリング表面に被着させることが好ましい。
本発明の趣旨では、場合によっては、穴に、とりわけ固体の潤滑剤または潤滑油を貯蔵する多孔質材料などの物質を充填することができる。
したがって、本発明によると、機械部材は、耐摩耗性のコ-ティングにオイルポケットを有し、このオイルポケットは、長寿命のコーティングが摩耗しても、層の脱落の危険なく完全に機能を果たすことができる。さらに、最新のレーザビーム装置を用いることによって、十分な数のオイルポケットを簡単かつ経済的に製作することができる。」(原文の第3欄第36行?第4欄第3行の日本語訳)

(キ)「図1は、本発明に係るピストンリング片のクロムメッキされた摺動面を示し、
図2および図3は、本発明に係るクロムメッキされたピストンリングの横断面図を示す。
図1には、ピストンリングのクロム層1が編目状に2つの並設されたクロム層領域2、3を備え、これらがピストンリングのエッジ4から、かつ互いに略2mmの間隔をおいて配置されている。
図2の横断面図は、図1の切断線II-IIにおける穴6、7を示す。穴6、7は、円錐状の横断面を有し、略250μm厚さのクロム層を通って基材8内の略150μmの深さに達する。
図3の横断面図において、穴6'、7'の形状は円筒状であり、穴は、図2と同様に250μm厚さのクロム層1'を通って基材8内の150μmの深さに延びる。」(原文の第4欄第4?22行の日本語訳)

そうすると、上記記載事項(ア)?(キ)及び図面の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「内燃機関のピストンリングなどの摺動面に耐摩耗性コーティングを備え、所望の寸法の穴が格子状にピストンリング摺動面に焼き付けられた機械部材であって、オイルポケットとして機能し、収容されたオイルが、運転中に潤滑油膜の形成を容易にする基材内にまで達する穴を有する機械部材において、
上記耐摩耗性コーティングは電気メッキによるものであり、コーティング(1)前にレーザービームによって基材(8)に穴状凹部が穿設され、これによりコーティング(1)の被膜の析出時に、基材(8)内まで達する穴(6、7)が形成され、電気メッキによるコーティング時に穴の領域に被覆材料は析出せず、機械部材の摺動面が基材内にまで達する穴を摩耗層に有する機械部材。」

(2)刊行物2に記載された発明

刊行物2(国際公開第01/79585号)には、図面とともに次の記載がある。なお、刊行物2は、刊行物2に対応する日本国内での公表特許公報である特表2004-501793号公報を翻訳文として採用するとともに、原文の摘記を省略し、原文の摘記事項に対応する翻訳文を以下に記載する。

(ク)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩耗保護、腐食保護、および滑り特性の向上などのための層システムであって、基板の上に配置される接着層と、接着層の上に配置される遷移層と、DLCまたはダイヤモンド層とを有しており、層システムは、DLCまたはダイヤモンド層の上に、DLCまたはダイヤモンド層の組成とは異なる化学組成を有する滑り層が配置されることを特徴とする、層システム。」

(ケ)「【0068】
基板へのDLC層システムの接着を確実にする目的で、好ましくは金属の接着層、特にクロムまたはチタンからなる層が、アーク気化またはさまざまなイオンめっきプロセスなどの公知のPVDまたはプラズマCVDプロセスによって、しかしながら好ましくは少なくとも1つのターゲットのカソードスパッタリングによって堆積される。・・・(以下、省略)」

(コ)「【0104】
ここに記載されたコーティングプラントと前述のプロセスとを用いて、優れた接着性を有する純粋なDLCの厚い層を生成することが、ここで初めて可能となる。また、プロセスパラメータを変更することにより、公知のプラズマプロセスの大部分を実行して、金属-カーボン層、または他の元素、たとえばシリコンまたはフッ素との混合層を生成すること、および、PVDおよび/またはCVDプロセスによって堆積された多層層システムまたは簡単な公知の層システムを生成することも、可能である。」

上記記載事項(ク)?(コ)及び図面の記載からみて、上記刊行物2には次の発明が記載されているものと認められる。

「PVDおよび/またはCVDプロセスによって、基板に堆積された層システムを生成する方法。」

4.発明の対比

(1)一致点
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明における「内燃機関のピストンリングなどの摺動面に耐摩耗性コーティングを備え」は、「摺動面」が「機能表面」といえるものであり、「耐摩耗性コーティング」が「堆積させた層システム」といえるものであるから、実質的に、本願発明の「少なくとも1の機能表面と、前記機能表面のうち少なくとも一部に堆積させた層システム(4)とを備えて」に相当する。
刊行物1発明における「所望の寸法の穴が格子状にピストンリング摺動面に焼き付けられた」は、「穴が格子状」に存在するから、実質的に、本願発明の「構造パターンを含む」に相当する。
刊行物1発明における「機械部材」は、本願発明の「工作物(1)」に相当する。
刊行物1発明における「オイルポケットとして機能し、収容されたオイルが、運転中に潤滑油膜の形成を容易にする基材内にまで達する穴を有する」は、格子状の「穴」が微細といえるものであるかどうかを別途相違点において検討することとすると、当該穴が耐摩耗性コーティングした基材内まで達する3次元構造であり、所定の深さを有するものであるから、本願発明の「前記構造パターンが前記層システム(4)のうち少なくとも一部を含み、かつ構造深さsを有する少なくとも1つの3次元微細構造(5)」と対比して、少なくとも、「前記構造パターンが前記層システムのうち少なくとも一部を含み、かつ構造深さsを有する少なくとも1つの3次元構造」である点で共通するものである。
刊行物1発明における「上記耐摩耗性コーティングは電気メッキによるものであり」は、本願発明が「PVD方法、CVD方法あるいは組合わされたPVD/CVD方法」によるものである点を別途相違点において検討することとすると、本願発明の「前記堆積させた層システムが、PVD方法、CVD方法あるいは組合わされたPVD/CVD方法によって析出されるものであり」と対比して、少なくとも、「前記堆積させた層システムが、析出されるものであ」る点で共通するものである。
刊行物1発明における「機械部材の摺動面が基材内にまで達する穴を摩耗層に有する」は、上記のとおり、当該「穴」が微細といえるものであるかどうかを別途相違点において検討することとすると、本願発明の「前記3次元微細構造(5)が前記層システム(4)の表面から前記工作物の中にまで延びることで前記工作物が前記微細構造(5)の下部領域においてコーティングされずにある」と対比して、少なくとも、「前記3次元構造が前記層システムの表面から前記工作物の中にまで延びることで前記工作物が前記構造の下部領域においてコーティングされずにある」点で共通するものである。

したがって、両者は、本願発明の表記にならえば、
「少なくとも1の機能表面と、前記機能表面のうち少なくとも一部に堆積させた層システムとを備えてさらに構造パターンを含む工作物であって、前記構造パターンが前記層システムのうち少なくとも一部を含み、かつ構造深さsを有する少なくとも1つの3次元構造からなる、工作物において、
前記堆積させた層システムが、析出されるものであり、前記3次元構造が前記層システムの表面から前記工作物の中にまで延びることで前記工作物が前記構造の下部領域においてコーティングされずにある、工作物。」である点において一致している。

(2)相違点
一方、両者の相違点は、以下のとおりである。

[相違点1]
上記3次元構造は、本願発明が「3次元微細構造」であるのに対し、刊行物1発明は、微細といえるものであるか明らかではない点。

[相違点2]
上記層システムを析出する方法は、本願発明が「PVD方法、CVD方法あるいは組合わされたPVD/CVD方法」であるのに対し、刊行物1発明は、「電気メッキ」である点。

[相違点3]
上記3次元構造は、本願発明が「前記堆積させた層システム(4)が形成された後に前記3次元微細構造(5)が形成され」るものであるのに対し、刊行物1発明が「コーティング(1)前にレーザービームによって基材(8)に穴状凹部が穿設され、これによりコーティング(1)の被膜の析出時に、基材(8)内まで達する穴(6、7)が形成され、電気メッキによるコーティング時に穴の領域に被覆材料は析出せず」形成されるものである点。

5.当審の判断

(1)相違点1について
刊行物1発明の穴は、内燃機関のピストンリングなどの摺動面に設けたものであり(上記記載事項(イ))、基材内まで達するものであって、オイルポケットとして機能し、収容されたオイルが、運転中に潤滑油膜の形成を容易にし、摩耗層が完全に磨滅した後でも、運転中、機械部材の摺動面は、潤滑不足時にオイルリザーバ効果を有するオイルポケットをなお有している機能を有するものである(上記記載事項(エ))。本願発明は、滑り応力がかかる部品においては「潤滑剤の不足状態が生じた場合、表面特性に関し類似あるいは同一の2つの材料同士がなお接触する可能性があるという問題がある。そのような条件下においては、金属などの材料対(たとえば封止リング/相手物体)同士の冷間溶接あるいは食い込みが常に確実に回避され得るわけではない。このことは特に摩擦学的(tribologisch)な応力のかかる部材を有する複雑な機械について当てはまる。このような部材においては、高い相対速度および/または面圧に起因して潤滑剤の不足状態およびこれに対応した摩耗の増加が生じるおそれがある。そのエンジン組立てでの例として現在の高出力設計の内燃機関内の弁ギア(Ventiltriebe)が挙げられる。ここではとりわけカップタペットおよびピストンリングが部分的に極度の高荷重に晒される。」(本願明細書の段落【0005】)ことを課題とし、その解決手段として「驚くべきことに、工作物の機能表面上に少なくとも部分的に塗布された層システムに微細構造を導入する際、(3次元的な)微細構造の垂直延長が層システムの表面から層を通って工作物の中にまで延びるようにして工作物を構造の下部領域でコーティングされないままにしておく」(同明細書の段落【0008】)ようにしたものである。すなわち、刊行物1発明と本願発明は、工作物の摺動表面に層システムの表面から層を通って工作物の中にまで延びるような3次元構造を形成することによって、高い相対速度および/または面圧に起因して潤滑剤の不足状態およびこれに対応した摩耗の増加が生じるおそれを改善するという技術思想において軌を一にするものである。
そうすると、上記潤滑剤の不足状態を補うための3次元構造の具体的大きさは、工作物の摺動表面に作用する面圧や摺動する部材間の相対速度、さらには潤滑剤の材質や粘度など摺動特性に影響を与えるさまざまな因子を考慮して当業者が決定できる設計事項というべきものであって、常に特定の大きさが最適なわけではない。さらに、微細であることは、摺動表面の大きさや構造パターンに対する3次元構造の直径や深さなどの相対的な大小関係をいうものであって、当該相対的な大小関係が単に微細であるということによって異質な特性や顕著な特性を生み出すものではない。しかも、上記相違点1に係る本願発明の構成は、上記摺動特性に影響を与えるさまざまな因子との関係で3次元構造の寸法関係が微細であることを特定したものでもない。
したがって、刊行物1発明の3次元構造に適宜設計変更を加えて3次元微細構造とすることにより、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
工作物や基板等の対象物に堆積させる層システムとして、刊行物2の記載事項(ク)?(コ)に例示されているとおり、PVDおよび/またはCVDプロセスによって析出する方法は従来周知であり、刊行物1発明の電気メッキに代えて、PVDおよび/またはCVDプロセスを用いること、すなわち「PVD方法、CVD方法あるいは組合わされたPVD/CVD方法」を用いることは、上記堆積させる層システムの材料や物性と対象物の材料や物性との関連において当業者が適宜選択できる事項にすぎなく、上記方法を特定して得られる機能や特性も自明のものである。
したがって、刊行物1発明に刊行物2に記載された発明を適用して上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
本願発明は、製造方法の発明ではなく、物の発明であることは、上記特許請求の範囲の請求項1の記載から明らかであるところ、上記相違点3に係る本願発明の構成は、上記3次元構造が「前記堆積させた層システム(4)が形成された後に前記3次元微細構造(5)が形成され」ることを特定したものであるから、「工作物」という物(プロダクト)の発明の構成を当該物に関する製法(プロセス)で特定したものである。そうすると、本願発明は、物の発明である以上、上記製法に係る要件は、物の構成を特定するために規定されたものという以上の意味は有し得ないものである。したがって、上記相違点3に係る本願発明の構成を検討するに当たっては、果たしてそれが本願発明の対象である物の構成を特定した要件としてどのような意味を有するかを検討する必要はあるものの、物の製造方法自体としてその特許性を検討する必要はないということができる(参考判決:平成13年(行ケ)第84号、及び平成11年(行ケ)第437号)。
そこで、上記相違点3について検討するに、「微細」構造か否かについては上記相違点1において判断したとおりであり、層システムを析出する方法の差異は上記相違点2において判断したとおりであるから、上記相違点3は、「前記3次元構造が前記層システムの表面から前記工作物の中にまで延びることで前記工作物が前記構造の下部領域においてコーティングされずにある」構成について、堆積させた層システムが形成された後に3次元構造が形成されるか、堆積させた層システムが形成される前に3次元構造が形成されるか、に帰着する。そうすると、いずれにおいても上記相違点3に係る物としての発明の構成は、本願発明と刊行物1発明において実質的に同一といえるものである。
仮に、上記層システムと上記3次元構造を形成する製法の前後関係によって、構成上何らかの差異が生じることがあるとしても、摺動部材の表面を形成する手段として、上記層システムのような被覆層と上記3次元構造のような潤滑剤を保持する穴とを、刊行物1発明のように被覆層を形成する前に穴を形成するか、本願発明のように層システム(「被覆層」に相当する。)が形成された後に3次元構造(「穴」に相当する。)を形成するかは設計事項にすぎないというべきところ、本願発明のように上記のような被覆層が形成された後に上記のような穴を形成することは従来周知(例えば、特開平4-41679号公報の第4ページ左上欄第7行?左下欄第19行、第1図(a)(b)の工程、及び特開平10-131969号公報の段落【0012】、図2を参照。)であるから、刊行物1発明の上記層システムと上記3次元構造を形成する製法について上記周知の技術を採用して上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)本願発明の効果について
本願発明が奏する効果は、いずれも刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の技術から当業者が予測できるものである。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の平成21年10月15日付け手続補正書において、「層がコーティングされた後に、その層に3次元構造を形成することは、上記2件の先行文献によって知られていると言えますが、これらの先行文献は、本願発明が対象とする、『PVD方法、CVD方法あるいは組合わされたPVD/CVD方法によって堆積させた層システムが形成された後に形成された3次元微細構造』、あるいはそのような3次元微細構造を形成する工程が、本願出願日前に周知であったことを裏付けるものではありません。」(審判請求書の手続補正書の【本願発明が特許されるべき理由】「(3)引用文献との対比」の項参照)と主張するなど、本願は特許されるべき旨主張している。
しかしながら、層がコーティングされた後にその層に3次元構造を形成することは、上記「(3)相違点3について」に例示したとおり、広く知られていることであり、審判請求人も自認するところである。そして、3次元構造の具体的大きさは、工作物の摺動表面に作用する面圧や摺動する部材間の相対速度、さらには潤滑剤の材質や粘度など摺動特性に影響を与えるさまざまな因子を考慮して当業者が決定できる設計事項というべきものであるところ、微細であることは、摺動表面の大きさや構造パターンに対する3次元構造の直径や深さなどの相対的な大小関係をいうものであって、当該相対的な大小関係が単に微細であるということによって異質な特性や顕著な特性を生み出すものではないことは、上記に説示したとおりである。さらに、上記層のコーティングの方法としてPVD方法、CVD方法あるいは組合わされたPVD/CVD方法を選択することは、上記相違点2に対する判断において説示したとおり、当業者が容易に想到し得たことである。
また、審判請求人は、審尋に対する平成22年4月7日付けの回答書において、上記相違点1で判断した「微細」についての補正案を提示しているが、当該補正案は相対的な大小関係を別の表現で定性的に表現するものにすぎず、上記の判断を左右するものではない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

(6)まとめ
本願発明は、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし請求項10に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2010-08-27 
結審通知日 2010-08-31 
審決日 2010-09-13 
出願番号 特願2003-587996(P2003-587996)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 高弘  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 山岸 利治
藤村 聖子
発明の名称 機能表面を有する工作物およびその製造方法  
代理人 森田 俊雄  
代理人 酒井 將行  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 堀井 豊  
代理人 仲村 義平  
代理人 野田 久登  
代理人 深見 久郎  
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