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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C01B
管理番号 1231079
審判番号 不服2009-25464  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-24 
確定日 2011-01-26 
事件の表示 特願2009- 22088「カーボンナノチューブを安全に充填する方法と,充填システムと,それを用いた工業プラント」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月20日出願公開,特開2009-184911〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は,平成21年2月3日(パリ条約による優先権主張2008年2月4日,フランス共和国(FR))の出願であって,同年5月8日付けで拒絶理由が通知され,同年8月6日付けで意見書が提出されたが,同年8月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年12月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後,当審において,平成22年3月1日付けで拒絶理由が通知され,これに対して同年5月28日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本件出願の請求項1?11に係る発明は,平成22年5月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項4に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりである。

「【請求項4】
直径が0.4?50ナノメートルで,長さが直径の100倍以上である粒子であるカーボンナノチューブ(CNT)の粉末を安全に充填または移送するする工業的なシステムであって,
移送中および移送後の環境への安全性を確保するために,CNTの粉末を収容した第1の容器と,このCNTの粉末を上記第1の容器から受ける第2の容器との間に配置される密封シール型の二重弁装置(30)を有し,この二重弁装置(30)は一対のシャッター(34,35)を有する弁(31,32)を備えた蝶型二重弁装置(31,32)であり,この蝶型二重弁装置(31,32)は上記2つの容器が互いに連結した時にのみ開き,各シャッター(34,35)は互いに独立して閉じて各容器を密封し,各シャッター(34,35)の空気中に露出した部分はCNTの粉末の輸送中に汚染されることはないことを特徴とするシステム。」

なお,請求項4の「移送するする工業的なシステム」との記載は,「移送する工業的なシステム」の明らかな誤記であると認められるので,以下の検討では誤記を訂正したものとして扱う。

3.平成22年3月1日付け拒絶理由
当審において,平成22年3月1日付けで,出願当初の特許請求の範囲の請求項1?12に係る発明(以下,「本願補正前発明1?12」という。)について,以下の理由を含む拒絶理由を通知した。

本願補正前発明1?12は,以下の引用例1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

引用例1:特表2005-501789号公報
引用例2:特開平8-2510号公報
引用例3:特開平9-2418号公報

4.引用例
(1)引用例1: 特表2005-501789号公報
当審の拒絶理由に引用された,本件出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例1には,以下の事項が記載されている。

(1-ア)「発明の背景
本発明は,フラーレンなどのカーボンナノ材料についての分野にあり,特にこのような物質の連続合成に関連する。更に具体的には,本発明は連続稼動を促進するその場での(insitu )クリーニングを提供する,カーボンナノ材料回収のためのフィルター装置及び方法に関連する。」(【0001】)
(1-イ)「ここでは「カーボンナノ材料」という用語は,一般的には炭素原子の位置によって形成される6角形の間に5員環を含むことにより,グラファイト平面の曲面化を示す6員環を有し,少なくとも一寸法がナノメートルオーダーである如何なる炭素材料にも本質的に及ぶものである。カーボンナノ材料の例は,これらに限定されているわけではないが,フラーレン,単層カーボンナノチューブ(SWNTs),多層カーボンナノチューブ(MWNTs),ナノチューブル,及びナノメートル程度の寸法を有するネステッドカーボン構造体を含む。
・・・
当業者の間では,カーボンナノ材料の商業的応用において大きな可能性が認められているが,コストが高く,用途開発のために必要な大量のカーボンナノ材料を入手するのが難しいことが,これらの材料を実用化するうえで大きな障害となっている。
・・・
当該分野では,カーボンナノ材料の実用化を促進するために,カーボンナノ材料のより大規模な生成とより低価格での製造が必要とされている。カーボンナノ材料合成の連続処理の開発は,合成を拡大しコストを下げる一つの手段である。より低コストでのカーボンナノ材料製造を可能にするには,合成工程を中断せずに操作出来る装置及び回収方法が必要である。また当該分野では,当業者には周知の様々なカーボンナノ材料合成方法と概して相性の良い回収器及び方法も必要とされている。本発明の装置及び方法は,このような汎用性を提供し連続処理を容易にする。」(【0002】)
(1-ウ)「図1は,カーボンナノ材料を回収するため,パルスジェットでクリーニングされるフィルター装置を示す。フィルター室(1)はカーボンナノ材料合成反応炉(10)に接続する注入口(3)を有する。
・・・
図1ではカーボンナノ材料は,フィルター室の底部にあるバルブ(9)を通じてフィルター室から除去される。図で示した実施例では,フィルター室の底部又は床部が生成物受容器又は回収器として機能する。ジェットパルスがフィルターからカーボンナノ材料を解放すると,カーボンナノ材料は重力によってフィルター室の底部に落下する。そしてバルブ(9)を開き,回収された生成物を排除する。例えば生成物はバルブ(9)を介し密閉回収容器に移される。
・・・人体がカーボンナノ材料にさらされるのを避け,エアロゾル(・・・)形成によってカーボンナノ材料が失われるのを最小限にするために,カーボンナノ材料は密閉容器に移す。回収器が交換され,バルブが再開され,合成を中断せずにより多くのカーボンナノ材料を受け取ることが出来る。」(【0005】)

(2)引用例2:特開平8-2510号公報
当審の拒絶理由に引用された,本件出願の優先権主張の日前に頒布された引用例2には,以下の事項が記載されている。

(2-ア)「本発明は,実質的に円形横断面の接続嵌め管をそれぞれ1つ有する2つの容器を連結する装置であって,各嵌め管が,それを担持する容器に背向した末端の近傍に,実質的に円形横断面の閉じフラップを有し,該フラップが,嵌め管の直径の周りを実質的に90°旋回可能であり又その直径が嵌め管の内径に実質的に一致しており,且つ,当該嵌め管の長手中心軸に対して実質的に横向きとなる閉位置から,当該嵌め管の長手中心軸に対して実質的に平行となる開位置へと,旋回駆動装置によって移動できるようになったものに関するものである。」(【0001】 )
(2-イ)「【従来技術】例えば化学工業又は特に薬品産業では,製品が外気と接触することなく,一方の容器内に存在する流動性製品を別の容器に移すことができるように,接続嵌め管を備えた容器を互いに連結することがしばしば必要となる。両方の容器が互いに連結されてはじめて,連結すべき容器の内部が開かれるように保証するために,各容器に設けられた嵌め管内に閉じフラップが設けられており・・・。
・・・
本発明の課題は,連結操作を簡素化して,外気と接触することなく両方の容器間に結合を実現し,又,結合を再び解消することができるように,類似概念に係わる装置を改良することである。その際,外部の汚れが嵌め管内に侵入する問題も,又,例えば毒性製品が外気に流出する点も防止されねばならない。」(【0002】?【0004】)
(2-ウ)「・・・両方の閉じフラップが互いに押し付け合わされたなら,旋回駆動装置によって一方の閉じフラップと他方の閉じフラップを一緒に移動させることができる。」(【0008】)
(2-エ)「【実施例】図1に示された2つの容器10,12が,容器10から容器12へと製品を移すために互いに連結される。容器10は固定容器であり,容器12は・・・輸送容器である。容器10が・・・第1嵌め管16を有し,該管16は容器10の本来の収容部と遮断装置18によって連絡しており,遮断装置18は遮断駆動装置20によって開閉することができる。空気圧シリンダ22,24によって嵌め管16の高さが調整可能である。図1において嵌め管16の下端に設けられた第1閉じフラップ26は,・・・旋回駆動装置28によって,嵌め管16の図1において下側にある正面側開口を閉鎖する閉位置から,嵌め管16を基準に該嵌め管16の直径方向にある旋回軸の周りを90°回転して開位置に移動可能にもうけられている。・・・
・・・容器12が,上面に,第1嵌め管16に対して相補的な第2嵌め管32を有しており,該管32は容器10に対向した正面に第2閉じフラップ34を備えており,該フラップ34は,・・・第1閉じフラップ26と同様に90°回転することによって閉位置から開位置に移動することができる。・・・
図2は,空気圧シリンダ22,24の操作によって上側の第1嵌め管16が下降し,これにより両方の閉じフラップ26,34が押し付け合わされている機能状態における,図1に示す本装置と両方の容器10,12を示す。両方の閉じフラップ26,34は図2に示した機能状態のとき嵌め管16,32の長手中心軸に対してなお垂直であり,容器10の内部と容器12の内部との間にはまだ結合が実現していない。
図3に示した機能状態のとき,遮断駆動装置20と旋回駆動装置28は,遮断装置18が開き且つ両方の閉じフラップ26,34が旋回駆動装置28によって嵌め管16,32の長手中心軸に対して平行な位置に移動されるように,操作されている。この位置において製品流38は外気に対して密閉されて容器10から容器12へと移すことができ,・・・製品流38の移送終了後,遮断駆動装置20と旋回駆動装置28が再び操作され,これにより容器10の内部は,・・・第1閉じフラップ26によって・・・閉鎖されている状態において,外方に対して密封されている。同様に,この状態において容器12・・・は・・・第2閉じフラップ34によって外方に対して密封されており,容器10,12の分離後,両容器の内部空間は,嵌め管16又は32も含め,付加的防塵蓋等を装着する必要もなしに外的影響から保護されている。」(【0011】?【0014】)
(2-オ)「図1?図3・・・図4乃至図7から認めることができるように,・・・両方の閉じフラップ26,34は,・・・第1軸受胴40と,・・・第2軸受胴42とで支承されており,第1閉じフラップ26と強固に結合された半軸44と,第2閉じフラップ34と強固に結合された第2半軸46は,・・・前記軸受胴40,42内にある。・・・両方の半軸44,46は1つの完全旋回軸へとまとめられており,この状態において,互いに厳密に調心された閉じフラップ26,34の端面は互いに密に隣接する。これに続いて,・・・旋回駆動装置28の操作によって,両方の閉じフラップ26,34で形成された「完全閉じフラップ」の旋回が起き,・・・直接には駆動されない閉じフラップ34は・・・閉じフラップ26によって,図7に示した位置において閉じフラップ26,34が製品流を開放するまで,連動される。
図8から・・・閉じフラップ34は,・・・押圧がまだ行われていない図示の閉位置において,その周辺縁が密封突起52によって封止される。密封突起52は,半径方向斜め外方に上昇した環状正面密封面54を有する。密封突起52は,全体が,弾性材料からなる。
図9に示すように・・・押圧されると,密封突起52の正面密封面54が他方の密封突起58の端面56と接触する。・・・閉じフラップ26,34が互いに隣接する状態において,いまや形成された「完全閉じフラップ」26,34の周辺縁は,正面密封面54,56の傾斜位置によって,もはや密封突起52,58によって旋回を妨げられなくなる。同時に,正面密封面54,56が互いに密に隣接して・・・突合せ箇所を外気から確実に密封する。
・・・閉じフラップ26,34が図9に示した位置に再び回転移動した後離間すると,・・・正面密封面54,56は内側に湾曲して図8に示した位置に戻り,外気が突合せ箇所に侵入するよりも以前に,閉じフラップ26,34をそれぞれ・・・封止状態に保持する。」(【0015】?【0019】)
(2-カ)「本発明に係る容器を連結する装置によれば,連結操作が簡素化されて両方の容器間における結合を良好に実現するとともに,外部の汚染等の嵌め管内への侵入を阻止し,又,毒性製品の外部への流出も防止できる。」(【0020】)

(3)引用例3:特開平9-2418号公報
当審の拒絶理由に引用された,本件出願の優先権主張の日前に頒布された引用例3には,以下の事項が記載されている。

(3-ア)「流動性の材料を移すための装置であって,2つのケーシング(1,2)を備えており,各ケーシングが開口(16,56)を有していて,蓋(3,4)を旋回軸(7,8)の回りで旋回可能に保持しており,両方のケーシング(1,2)が選択的に互いに分離可能並びに結合位置へ移動可能であって,該結合位置で前記開口(16,56)を取り囲む当接領域(14,54)を互いに当接させるようになっており,各蓋(3,4)が選択的に,蓋(3,4)によって当該ケーシング(1,2)の開口(16,56)を閉じる閉鎖位置と,蓋(3,4)によって前記開口(16,56)を少なくとも部分的に開放する開放位置とに旋回可能であり,蓋(3,4)がケーシング(1,2)の結合位置で互いに接触しており,両方の旋回軸(7,8)がケーシング(1,2)の結合位置で互いに合致している形式のものにおいて,各蓋(3,4)が旋回ピン(27,67)を用いてケーシング(1,2)内に支承されており,旋回ピン(27,67)の各旋回軸(7,8)が当該ケーシング(1,2)内を延び,かつ当該ケーシング(1,2)の開口(16,56)を通って該ケーシングから外側へ延びていることを特徴とする,流動性の材料を移すための装置。」(【請求項1】)
(3-イ)「【従来の技術】例えば多かれ少なかれ堅い粒子から成る流動性の材料(・・・)を製造及び又は処理及び又は搬送する際に,材料を収容する材料放出装置を一時的に材料受容装置に接続し,即ち両方の装置を重ね合わせて,材料を材料放出装置から材料受容装置に移し,次いで両方の装置を再び分離する必要がある。
・・・
・・・公知の多くの装置において,・・・蓋が・・・閉鎖位置に旋回させられ,かつ両方のケーシングが互いに分離されると,ケーシング内面・・・及び,蓋・・・に付着する材料が周囲に現れ・・・装置の周囲のこのような汚染は,薬剤的に有効若しくは毒性の物質を有する材料においては重大な結果を生ぜしめる。」(【0002】?【0004】)
(3-ウ)「【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は,流動性の材料を移すための装置を改善して,公知の装置の欠点を避け・・・蓋が・・・ケーシングに対して良好に密閉され,ケーシングの互いに分離された状態でも簡単な構造の手段を用いて安定的に旋回可能に支承され,ケーシングも簡単な形式で互いに結合可能及び互いに分離可能・・・であるようにしたい。
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために本発明の構成では,各蓋が旋回ピンを用いてケーシング内に支承されており,旋回ピンの各旋回軸が当該ケーシング内を延び,かつ当該ケーシングの開口を通って該ケーシングから外側へ延びている。」(【0008】?【0009】)
(3-エ)「ケーシング1及び該ケーシングに保持された蓋3は,図14,図17,図18に示す材料放出装置(・・・)101の一部分として用いられ得る。
・・・
第2のケーシング2及び該ケーシングによって保持された蓋4は,図15,図16,図17及び図18に部分的に示す材料受容装置121の一部分として用いられてよい。
・・・
次に,材料放出装置101の搬送可能な容器102内に収容された流動性の粒子状の図示してない材料を材料受容装置121の定置の容器138内に移すための接続兼閉鎖装置の利用及び機能を説明する。
走行可能な容器102はまず,両方のケーシング1並びに2が図1,図2,図14,図15に示すように分離位置を占めるように配置されており,分離位置ではケーシングが互いに分離されている。蓋3,4は図1,図2,図3,図7,図8,図12乃至図18に示す閉鎖位置にある。
・・・
・・・ケーシング1,2が互いに分離され,かつ蓋3,4が閉じられた場合,蓋はケーシング1,2・・・を開口15,56において閉鎖して・・・両方のケーシングの内面11g,51gが実質的に完全に周囲に対して閉じられている。
・・・
このような過程によって両方のケーシング1,2が図7,図12,図13,図18に示す結合位置に達する。・・・両方の蓋3,4の・・・両方のプレート23,63は・・・互いに圧着され,これによって特に旋回に際しても互いに堅く結合されていて,その結果,一緒にいわば1つのプレートを形成してかつ互いに補強している。
・・・次いで,両方の蓋3,4が一緒に旋回駆動装置80を用いてほぼ90゜,図4及び図5に示す開放位置に旋回させられる。
・・・
両方のケーシング1,2の中空室15,55がケーシングの結合位置で垂直な軸線の1つの通路を形成して,該通路を介して,容器102内の搬送された材料が蓋3,4の開放位置で容器138内に落下する。両方の蓋のプレート23,63が互いに接触しているので,材料は両方のプレートの端面23a,63aに接触することはない。
材料が材料放出装置101の容器102から材料受容装置121の容器138内に移されると,両方の蓋3,4が一緒に旋回駆動装置80によって再び閉鎖位置に旋回させられる。」(【0028】?【0040】)
(3-オ)「移された材料はプレート23,63の端面23a,63aに決して接触せず,かつプレートが中空室15,55を閉鎖位置で実質的に開口縁部16a,56aまで密閉しているので,材料を移した後も,実質的に内面11g,51g若しくは蓋に付着する材料がケーシングの周囲に達することはない。逆に閉鎖位置では,汚れ物質が周囲からケーシングの中空室15,55内及び移された材料に達することもない。」(【0041】)

5.対比・判断
(1)まず,引用例1の記載事項について検討する。
引用例1には,
記載事項(1-ア)に,「本発明は,・・・カーボンナノ材料回収のためのフィルター装置・・・に関連する。」と記載され,
記載事項(1-ウ)に,「図1は,カーボンナノ材料を回収する・・・フィルター装置を示す。・・・図1ではカーボンナノ材料は,フィルター室の底部にあるバルブ(9)を通じてフィルター室から除去される。・・・フィルター室・・・が生成物受容器又は回収器として機能する。・・・カーボンナノ材料は重力によってフィルター室の底部に落下する。そしてバルブ(9)を開き,回収された生成物を排除する。例えば生成物はバルブ(9)を介し密閉回収容器に移される。」と記載されている。
これらの記載事項によれば,記載事項(1ーア)でいう「フィルター装置」は,「フィルター室と,密閉回収容器とを有し,カーボンナノ材料をフィルター室から密閉回収容器へバルブを介して移して回収するもの」であるといえる。

よって,引用例1の(1-ア)及び(1-ウ)の記載事項を,本願発明の記載ぶりに則して表現すると,引用例1には,
「カーボンナノ材料を生成物受容器又は回収器として機能するフィルター室から密閉回収容器に移して回収する装置であって,上記フィルター室と上記密閉回収容器との間にバルブを有する装置。」
の発明(以下,「引用1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)次に,本願発明と引用1発明とを対比する。
(a)引用例1には,記載事項(1-イ)に,「カーボンナノ材料の例は,・・・単層カーボンナノチューブ(SWNTs),多層カーボンナノチューブ(MWNTs),・・・を含む。」と記載され,「単層カーボンナノチューブ(SWNTs)」,「多層カーボンナノチューブ(MWNTs)」がいずれも「カーボンナノチューブ(CNT)」であることは明らかであるから,引用1発明の「カーボンナノ材料」は,「カーボンナノチューブ」を含むものといえる。そして,カーボンナノチューブが,通常直径が0.4?50ナノメートルで,長さが直径の100倍以上の大きさであることがは周知であるから(要すれば,株式会社東レリサーチセンター調査研究部門編,「エレクトロニクス分野のカーボン材料」,2002年7月20日,株式会社東レリサーチセンター発行,51?53頁(特に53頁1?6行)参照のこと),引用1発明の「カーボンナノ材料」である「カーボンナノチューブ」において,個々のナノサイズのカーボンナノチューブに着眼すれば,直径が0.4?50ナノメートルで,長さが直径の100倍以上の大きさの粒子とみることができ,また,引用1発明の「密閉回収容器」に回収される集合体は,カーボンナノチューブの粉末とみることができる。
してみると,引用1発明の「カーボンナノ材料」は,本願発明の「直径が0.4?50ナノメートルで,長さが直径の100倍以上である粒子であるカーボンナノチューブ(CNT)の粉末」に相当するということができる。
(b)引用1発明の「装置」は,「カーボンナノ材料を・・・フィルター室から密閉回収容器に移して回収する」ものであり,「容器」に「移」すことは,「容器」に「移送」するということができ,「容器」に「回収」することは,「容器」に「充填」するとみることができるから,引用1発明の「装置」は,カーボンナノ材料を「充填または移送」するものといえる。また,引用1発明の「装置」は,本願発明の「システム」と表現上の違いがあるが,「充填または移送」するものであるから,本願発明の「充填または移送するシステム」と実質的な差異はない。
(c)引用1発明の「フィルター室」は,「生成物受容器又は回収器」として機能するから,カーボンナノ材料を「収容した容器」といえる。また,引用1発明は,前記「フィルター室」から「密閉回収容器」にカーボンナノ材料を移して回収するから,この「密閉回収容器」は,カーボンナノ材料を「収容した容器」から,カーボンナノ材料を「受ける容器」といえる。よって,引用1発明の「フィルター室」,「密閉回収容器」は,それぞれ,本願発明の「第1の容器」,「第2の容器」に相当する。
(d)引用1発明は,「フィルター室」と「密閉回収容器」との間に「バルブ」を有するものであり,この「バルブ」は「弁」ということができるから,引用1発明は,「フィルター室」と「密閉回収容器」の間に「弁」を配置したものといえる。
また,本願発明において,「第1の容器」と「第2の容器」との間に配置される「密封シール型の二重弁装置(30)」が,弁を有することは明らかであるから,上記(c)の検討を踏まえると,引用1発明の「バルブ」と本願発明の「二重弁装置」は,「第1の容器」と「第2の容器」との間に配置され,「弁を有する」点で共通する。

以上の(a)?(d)の検討を踏まえると,本願発明と引用1発明とは,
「直径が0.4?50ナノメートルで,長さが直径の100倍以上である粒子であるカーボンナノチューブ(CNT)の粉末を充填または移送するシステムであって,
CNTの粉末を収容した第1の容器と,このCNTの粉末を上記第1の容器から受ける第2の容器との間に配置される弁を有するシステム。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)本願発明は,「工業的」なシステムであるのに対して,引用1発明は,「工業的」であることについて記載がない点。
(相違点2)本願発明は,「安全」に充填または移送するシステムであるのに対して,引用1発明は,「安全」であることについて記載がない点。
(相違点3)「弁」につき,本願発明は,「移送中および移送後の環境への安全性を確保するため」に,「密封シール型の二重弁装置(30)」として配置し,「この二重弁装置(30)は一対のシャッター(34,35)を有する弁(31,32)を備えた蝶型二重弁装置(31,32)であり,この蝶型二重弁装置(31,32)は上記2つの容器が互いに連結した時にのみ開き,各シャッター(34,35)は互いに独立して閉じて各容器を密封し,各シャッター(34,35)の空気中に露出した部分はCNTの粉末の輸送中に汚染されることはない」ものであるのに対して,引用1発明は,「バルブ」を配置しているが,「移送中および移送後の環境への安全性を確保するため」に「密封シール型の二重弁装置(30)」として配置すること及び該二重弁装置自体の構造について特定されていない点。

(3)上記相違点1?3について検討する。
A.相違点1について
引用例1には,記載事項(1-イ)に,「当業者の間では,カーボンナノ材料の商業的応用において大きな可能性が認められ・・・カーボンナノ材料のより大規模な生成とより低価格での製造が必要とされている」こと,そして,「カーボンナノ材料合成の連続処理の開発は,合成を拡大しコストを下げる一つの手段」であり,「より低コストでのカーボンナノ材料製造を可能にする・・・装置及び回収方法」及び「周知の様々なカーボンナノ材料合成方法と概して相性の良い回収器」が必要であることが記載されているといえ,引用1発明は,商業的応用に適し,大規模でより低価格で,周知の合成方法と相性の良い汎用性の連続処理が容易なシステムに関するものとみることができるから,引用1発明は,「工業的」なシステムに他ならない。
よって,相違点1は,実質的な相違点とはならない。

B.相違点2,3について
これらの相違点については,何れも「安全」に充填または移送するための事項に関することから,併せて検討する。
B-1.まず,引用例2に記載される発明について検討する。
引用例2には,記載事項(2-ア)に,「本発明は,・・・嵌め管をそれぞれ1つ有する2つの容器を連結する装置であって,各嵌め管が・・・末端の近傍に・・・閉じフラップを有し,該フラップが,嵌め管の直径の周りを実質的に90°旋回可能で・・・且つ,当該嵌め管の長手中心軸に対して実質的に横向きとなる閉位置から,当該嵌め管の長手中心軸に対して実質的に平行となる開位置へと,旋回駆動装置によって移動できるようになったものに関する」と記載されている。
この「2つの容器を連結する装置」の実施例として,記載事項(2-エ)に,
1)「2つの容器10,12」が,「容器10から容器12へと製品を移すため」に互いに連結されること,
2)「閉じフラップ」として,「第1閉じフラップ」,「第2閉じフラップ」を有し,これらのフラップは,「嵌め管」の「開口を閉鎖」する「閉位置」から「開位置」に移動できること,
3)上側の容器10の嵌め管が下降し,これにより容器10,12の「両方の閉じフラップが押し付け合わされている」とき「容器10の内部と容器12の内部との間にはまだ結合が実現していない」こと,
4)容器10,12の「両方の閉じフラップ」が「旋回駆動装置」によって「嵌め管の長手中心軸に対して平行な位置」に移動され,「この位置において製品流は外気に対して密閉されて容器10から容器12へと移」されること,
5)製品流の移送終了後,旋回駆動装置が再び操作され,容器10の内部は,第1閉じフラップによって閉鎖されている状態において,外方に対して密封され,同様に,容器12は,第2閉じフラップによって外方に対して密封され,容器10,12の分離後,両容器の内部空間は,嵌め管も含め,外的影響から保護されていること,が記載されているといえる。
そして,記載事項(2-エ)の上記3)の「両方の閉じフラップが押し付け合わされている」ときの位置,同4)の「嵌め管の長手中心軸に対して平行な位置」は,それぞれ,同2)の「閉位置」,「開位置」であるといえ,記載事項(2-ウ)及び(2-オ)によると,「両方の閉じフラップが互いに押し付け合わされたなら」,旋回駆動装置によって,「両方の閉じフラップ」で形成された「完全閉じフラップ」の旋回が起きるといえる。
また,記載事項(2-エ)の上記1),4),5)の「製品」は,記載事項(2-イ)でいう「流動性製品」を指すといえる。
さらに,記載事項(2-ア)の「2つの容器を連結する装置」について,記載事項(2-カ)に,「外部の汚染等の嵌め管内への侵入を阻止し,又,毒性製品の外部への流出も防止できる」と記載されている。

これらの記載から,引用例2には,
「容器から容器へと流動性製品を移すために,嵌め管をそれぞれ1つ有する2つの容器を連結する装置であって,各嵌め管がその末端の近傍に第1,第2閉じフラップを有し,該第1,第2閉じフラップが互いに押し付け合わされたなら,両方の閉じフラップで形成された完全閉じフラップが,旋回駆動装置によって,閉位置から開位置へと当該嵌め管の直径の周りを実質的に90°旋回し,前記閉位置では,該第1,第2閉じフラップは当該嵌め管の長手中心軸に対して実質的に横向きとなって各嵌め管の開口を閉鎖して容器の内部と容器の内部との間にまだ結合が実現しておらず,前記開位置では,該第1,第2閉じフラップは当該嵌め管の長手中心軸に対して実質的に平行となって流動性製品流は外気に対して密閉されて容器から容器へと移され,流動性製品流の移送終了後に旋回駆動装置の操作によって各容器の内部は該第1,第2閉じフラップによってそれぞれ閉鎖されて外方に対して密封され,各容器の分離後に各容器の内部空間は各嵌め管も含め外的影響から保護されており,外部の汚染等の嵌め管内への侵入を阻止し,また毒性の流動性製品の外部への流出も防止できる,2つの容器を連結する装置。」
の発明(以下,「引用2発明」という。)が記載されていると認められる。

引用2発明と本願発明の相違点3に係る「二重弁装置」とを対比する。この対比に当たり,本願発明の相違点3に係る「二重弁装置」の特定事項を,(i)「一対のシャッター(34,35)を有する弁(31,32)を備えた蝶型二重弁装置(31,32)であ」ること,(ii)「蝶型二重弁装置(31,32)は上記2つの容器が互いに連結した時にのみ開」くこと,(iii)「各シャッター(34,35)は互いに独立して閉じて各容器を密封し,各シャッター(34,35)の空気中に露出した部分はCNTの粉末の輸送中に汚染されることはない」こと,(iv)「移送中および移送後の環境への安全性を確保するため」に「密封シール型」であること,に分けて,引用2発明が,これらの特定事項を満たすか否かについて,順に検討することにする。

(i)「一対のシャッター(34,35)を有する弁(31,32)を備えた蝶型二重弁装置(31,32)であ」ること,について
本願発明の「二重弁装置」は,「蝶型二重弁装置」であり,本願明細書【0009】によれば,「バタフライバルブ(蝶弁)」のことであって,「弁棒に円板状弁体を取付け,弁棒を回転して弁体を作動して開閉」し,弁体が「流路に並行になると,全開となり,直角で全閉となる」もの(要すれば,社団法人化学工学協会編「化学装置便覧」昭和52年3月20日第2版第2刷発行,丸善,第1281頁の図C・8・31,第1282頁,「11)バタフライ弁」の項参照のこと。)である。一方,引用2発明の「第1,第2閉じフラップ」は,「閉位置から開位置へと当該嵌め管の直径の周りを実質的に90°旋回し,前記閉位置では,該第1,第2閉じフラップは当該嵌め管の長手中心軸に対して実質的に横向きとなって各嵌め管の開口を閉鎖して・・・前記開位置では,該第1,第2閉じフラップは当該嵌め管の長手中心軸に対して実質的に平行となって」おり,ここで「嵌め管の長手中心軸に対して実質的に横向き」であれば「流路に直角」で「全閉」となり,「嵌め管の長手中心軸に対して実質的に平行」であれば「流路に並行」で「全開」になるといえるから,この「第1,第2閉じフラップ」は,2つの容器を開閉するための「蝶弁」の「弁体」に他ならず,本願発明の「一対のシャッター」に相当するということができる。そして,この「一対のシャッター」を弁体とする「蝶弁」は,一方の容器を開閉する「シャッター(第1閉じフラップ)を弁体とする弁」と,他方の容器を開閉する「シャッター(第2閉じフラップ)を弁体する弁」との「2重弁」とみることができる。
したがって,引用2発明は,「一対のシャッター(34,35)を有する弁(31,32)を備えた蝶型二重弁装置(31,32)であ」るということができる。

(ii)「蝶型二重弁装置(31,32)は上記2つの容器が互いに連結した時にのみ開」くこと,について
上記(i)の検討を踏まえると,引用2発明の「蝶型二重弁装置」は,「一対のシャッター」(第1,第2閉じフラップ)により開閉されるといえる。そして,引用2発明では,「一対のシャッター」が「互いに押し付け合わされたなら」,すなわち,2つの容器が連結してから,「一対のシャッター」が「閉位置から開位置へと旋回」するといえるから,引用2発明における「蝶型二重弁装置」は,「2つの容器が互いに連結した時にのみ開」くということができる。このことは,流動性製品を移送する連結装置では,従来より「両方の容器が互いに連結されてはじめて,連結すべき容器の内部が開かれるように保証」(記載事項(2-イ))されていたことからみても妥当である。

(iii)「各シャッター(34,35)は互いに独立して閉じて各容器を密封し,各シャッター(34,35)の空気中に露出した部分はCNTの粉末の輸送中に汚染されることはない」こと,について
引用2発明において,流動性製品流の移送終了後,「各シャッター」(第1,第2閉じフラップ)によって「各容器の内部はそれぞれ閉鎖されて外方に対して密封され,各容器の分離後に各容器の内部空間は各嵌め管も含め外的影響から保護されており,外部の汚染等の嵌め管内への侵入を阻止し,また毒性の流動性製品の外部への流出も防止できる」。そうすると,引用2発明において,「各シャッター」は分離された各容器を,別々に閉鎖し密封するといえるから,引用2発明の「各シャッター」は,「互いに独立して閉じて各容器を密封」するものといえる。
また,引用2発明の「一対のシャッター」が「押し付け合わされ」る「面」は,流動性製品流が容器から容器へと移される開位置では,流動性製品と接触せず,流動性製品には汚染されないといえ,このことは引用例2の図1?3からも窺うことができる。そして,該図1?3からは,上記「押し付け合わされ」る「面」は,容器と容器が分離している時に,容器の外部に露出する部分であることを視認でき,容器の外部は空気中であると推認され,さらに,引用2発明では,「流動性製品の外部への流出も防止できる」ことをあわせてみると,引用2発明は,「各シャッター」の「空気中に露出した部分は流動性製品の輸送中に汚染されることはない」ということができる。
一方,本願発明の二重弁装置は,「各シャッター(34,35)」の「空気中に露出した部分はCNTの粉末の輸送中に汚染されることはない」ものであり,この「CNTの粉末」は,「粉末」が流動性製品といえるから,引用2発明の「流動性製品」に含まれる。

(iv)「移送中および移送後の環境への安全性を確保するため」に「密封シール型」であること,について
引用2発明が,「外部の汚染等の嵌め管内への侵入を阻止し,また毒性の流動性製品の外部への流出も防止できる」ものであること,及び,上記(ii),(iii)の検討から,引用2発明が,毒性の流動性製品の「移送中および移送後」に,該毒性の流動性製品を外部へ流出しない「密封シール型」の装置であることは明らかである。そして,毒性の流動性製品が外部に流出すれば,外部の環境(例えば,外部の生物)にとって有害で危険であるから,このように毒性の流動性製品を外部へ流出しない引用2発明は,外部の「環境への安全性」が確保された「密封シール型」の装置ということができる。

(v)引用2発明と本願発明の「二重弁装置」の対比のまとめ
以上の検討から,引用2発明は,本願発明の二重弁装置と,
(i)「一対のシャッター(34,35)を有する弁(31,32)を備えた蝶型二重弁装置(31,32)であ」ること,(ii)「蝶型二重弁装置(31,32)は上記2つの容器が互いに連結した時にのみ開」くこと,(iii)「各シャッター(34,35)は互いに独立して閉じて各容器を密封し,各シャッター(34,35)の空気中に露出した部分は流動性製品の輸送中に汚染されることはない」こと,(iv)「移送中および移送後の環境への安全性を確保するため」に「密封シール型」であること,で一致する。
よって,引用2発明は,移送する流動性製品がCNTの粉末に特定されず,毒性の流動性製品ではあるものの,残余の点で本願発明の相違点3に係る二重弁装置と同じものといえる。そして,記載事項(2-イ)から,引用2発明は,2つの容器間に結合を実現し,又,結合を再び解消することができ,工業的に使用し得る装置とみることができる。

B-2.次に,引用例3に記載される発明について検討する。
引用例3には,記載事項(3-ア)に,「流動性の材料を移すための装置であって,2つのケーシング(1,2)を備えており,各ケーシングが開口(16,56)を有していて,蓋(3,4)を旋回軸(7,8)の回りで旋回可能に保持しており,・・・各蓋(3,4)が選択的に,蓋(3,4)によって当該ケーシング(1,2)の開口(16,56)を閉じる閉鎖位置と,蓋(3,4)によって前記開口(16,56)を少なくとも部分的に開放する開放位置とに旋回可能であり,蓋(3,4)がケーシング(1,2)の結合位置で互いに接触し・・・流動性の材料を移すための装置。」と記載されている。
この装置の具体例として,記載事項(3-エ)に,
1)「容器102」に収容された「流動性の材料」を「容器138」に移すための「接続兼閉鎖装置」であること,
2)各「ケーシング1,2」が「互いに分離」され,かつ各「蓋3,4」が「閉じ」られた場合,「両方のケーシングの内面」が「実質的に完全に周囲に対して閉じられている」こと,
3)各ケーシングが「結合位置」に達すると,各「蓋3,4」は互いに「圧着」され「1つのプレート」を形成し,次いで,「両方の蓋3,4」が一緒に開放位置に旋回させられ,容器102内の材料が該開放位置で容器138内に落下し,両方の蓋のプレートが互いに接触しているので,材料は両方のプレートの端面に接触することはないこと, が記載されているといえる。
また,引用例3には,記載事項(3-イ)に,従来の技術について「流動性の材料・・・を収容する材料放出装置を一時的に材料受容装置に接続し・・・材料を材料放出装置から材料受容装置に移し,次いで両方の装置を再び分離する ・・・公知の多くの装置において,・・・互いに分離されると,・・・付着する材料が周囲に現れ・・・このような汚染は,薬剤的に有効若しくは毒性の物質を有する材料においては重大な結果を生ぜしめる。」という課題があることが記載されている。そして,記載事項(3-ウ)に,記載事項(3-ア)の上記「流動性の材料を移すための装置」は,上記課題を解決したことが記載され,記載事項(3-オ)に,上記「流動性の材料を移すための装置」は「材料を移した後も,・・・材料がケーシングの周囲に達することはない」ことが記載されているといえる。

これらの記載から,引用例3には,
「容器に収容された流動性材料を容器に移すための接続兼閉鎖装置であって,2つのケーシング(1,2)を備えており,各ケーシング(1,2)が開口(16,56)を有していて,蓋(3,4)を旋回軸(7,8)の回りで旋回可能に保持しており,各ケーシング(1,2)が互いに分離され,かつ各蓋(3,4)が該開口(16,56)を閉じる閉鎖位置では両方のケーシング(1,2)の内面が実質的に完全に周囲に対して閉じられており,各ケーシング(1,2)が結合位置に達すると,各蓋(3,4)が互いに接触し圧着されて1つのプレートを形成し,次いで,両方の蓋(3,4)が一緒に該開口(16,56)を開放する開放位置へ旋回させられ,容器内の材料が該開放位置で容器内に落下し,両方の蓋(3,4)のプレートが互いに接触しているので,材料は両方のプレートの端面に接触することはなく,毒性の流動性材料を移した後も毒性の流動性材料の汚染が周囲に達することのない接続兼閉鎖装置。」
の発明(以下,「引用3発明」という。)が記載されていると認められる。

引用3発明と本願発明の相違点3に係る「二重弁装置」と対比する。ここで,対比に当たり,本願発明の相違点3に係る「二重弁装置」の特定事項を,上記B-1.と同様に,上記(i)?(iv)のとおりに分けて,引用3発明が,これらの特定事項を満たすか否かについて,順に検討することにする。

(i)「一対のシャッター(34,35)を有する弁(31,32)を備えた蝶型二重弁装置(31,32)であ」ること,について
本願発明の「二重弁装置」は,「蝶型二重弁装置」であり,上記B-1.で検討したとおりのものである。一方,引用3発明の「蓋(3,4)」は,「旋回軸(7,8)の回りで旋回可能に保持」され,各「ケーシング(1,2)」の「開口(16,56)」を閉じる「閉鎖位置」から該「開口(16,56)」を開放する「開放位置」へ旋回され,この「閉鎖」及び「開放」は,引用例3の蓋の閉鎖位置及び開放位置に係る図3?5から「流路に直角」な「全閉」及び「流路に並行」な「全開」であることが見て取れるから,この「蓋(3,4)」は,接続される各容器を開閉するための「蝶弁」の「弁体」に他ならず,本願発明の「一対のシャッター」に相当するということができる。そして,この「一対のシャッター」を弁体とする「蝶弁」は,一方の容器を開閉する「シャッター(蓋(3))を弁体する弁」と,他方の容器を開閉する「シャッター(蓋(4))を弁体とする弁」との「2重弁」とみることができる。
したがって,引用3発明は,「一対のシャッター(34,35)を有する弁(31,32)を備えた蝶型二重弁装置(31,32)であ」るということができる。

(ii)「蝶型二重弁装置(31,32)は上記2つの容器が互いに連結した時にのみ開」くこと,について
上記(i)の検討を踏まえると,引用3発明の「蝶型二重弁装置」は,「一対のシャッター」(蓋(3,4))により開閉されるといえる。そして,引用3発明では,「結合位置に達すると」,「一対のシャッター」が「接触し圧着され」,すなわち,2つの容器が連結し,次いで,「一対のシャッター」が「開放位置へ旋回させられ」るといえるから,引用3発明の「蝶型二重弁装置」は,「2つの容器が互いに連結した時にのみ開」くということができる。

(iii)「各シャッター(34,35)は互いに独立して閉じて各容器を密封し,各シャッター(34,35)の空気中に露出した部分はCNTの粉末の輸送中に汚染されることはない」こと,について
引用3発明において,「各ケーシング(1,2)が互いに分離され」,かつ,「各シャッター」(蓋(3,4))が「開口(16,56)を閉じる閉鎖位置では両方のケーシング(1,2)の内面が実質的に完全に周囲に対して閉じられており」,「毒性の流動性材料を移した後も毒性の流動性材料の汚染が周囲に達することのない」。そうすると,引用3発明において,「各シャッター」は分離された各容器を,別々に閉鎖し密封するといえるから,引用3発明の「各シャッター」は,「互いに独立して閉じて各容器を密封」するものといえる。
また,引用3発明の「各シャッター」は「互いに接触し圧着されて1つのプレートを形成し」,開放位置で「互いに接触しているので,材料は両方のプレートの端面に接触することはな」いから,引用3発明において,「各シャッター」が「互いに接触し圧着され」る「面」は,流動性材料が移送される開放位置では流動性材料と接触せず,流動性材料には汚染されないといえる。そして,引用例3の図14,15,18から,「各シャッター」が「互いに接触し圧着され」る「面」は,容器と容器が分離している時に,容器の外部に露出する部分であることを視認でき,容器の外部は空気中であると推認され,さらに,引用3発明では,「毒性の流動性材料を移した後も毒性の流動性材料の汚染が周囲に達することのない」ことをあわせてみると,引用3発明は,「各シャッター」の「空気中に露出した部分は流動性材料の輸送中に汚染されることはない」ということができる。
一方,本願発明の二重弁装置は,「各シャッター(34,35)」の「空気中に露出した部分はCNTの粉末の輸送中に汚染されることはない」ものであり,この「CNTの粉末」は,「粉末」が流動性材料といえるから,引用3発明の「流動性材料」に含まれる。

(iv)「移送中および移送後の環境への安全性を確保するため」に「密封シール型」であること,について
引用3発明が,「毒性の流動性材料を移した後も毒性の流動性材料の汚染が周囲に達することのない」ものであること,及び上記(ii),(iii)の検討から,引用3発明が,毒性の流動性材料の「移送中および移送後」に,該毒性の流動性材料を外部へ流出しない「密封シール型」の装置であることは明らかである。そして,毒性の流動性材料が外部に流出すれば,外部の環境(例えば,外部の生物)にとって有害で危険であるから,このように毒性の流動性材料を外部へ流出しない引用3発明は,外部の「環境への安全性」が確保された「密封シール型」の装置ということができる。

(v)引用3発明と本願発明の「二重弁装置」の対比のまとめ
以上の検討から,引用3発明は,本願発明の二重弁装置と,
(i)「一対のシャッター(34,35)を有する弁(31,32)を備えた蝶型二重弁装置(31,32)であ」ること,(ii)「蝶型二重弁装置(31,32)は上記2つの容器が互いに連結した時にのみ開」くこと,(iii)「各シャッター(34,35)は互いに独立して閉じて各容器を密封し,各シャッター(34,35)の空気中に露出した部分は流動性材料の輸送中に汚染されることはない」こと,(iv)「移送中および移送後の環境への安全性を確保するため」に「密封シール型」であること,で一致する。
よって,引用3発明は,移送する流動性材料がCNTの粉末に特定されず,毒性の流動性材料ではあるものの,残余の点で本願発明の相違点3に係る二重弁装置と同じものといえる。そして,記載事項(3-イ)から,引用3発明は,容器から容器へ材料を移送する際に,両方の容器を一時的に接続し,移送後に,その結合を再び解消して分離することができ,材料の製造及び又は処理及び又は搬送といった工業的に汎用的な工程に使用できることは明らかであるから,工業的に使用し得る装置とみることができる。

B-3.上記B-1.,B-2.の検討を踏まえて,相違点2,3について検討する。
引用例1には,記載事項(1-ウ)に,「人体がカーボンナノ材料にさらされるのを避け」ることが記載されている。また,引用1発明の「カーボンナノ材料」に含まれる「カーボンナノチューブ」について,人体にダメージを与えるという有害情報があり,安全性に配慮すべきことは周知の事項である(平成18年度特許出願技術動向調査報告書 ナノテクロノジーの応用-カーボンナノチューブ,光半導体,走査型プローブ顕微鏡-(要約版),平成19年4月,特許庁,第14-15頁)。
そうすると,引用1発明において,「カーボンナノチューブ(CNT)」を「容器」から「容器」へ「移して回収する」際に,(1ーイ)で示されるように,「商業的応用」を図り,「大規模でより低価格」なシステム,すなわち,相違点1でも検討した工業的なシステムを提供するのであれば,人体に有害との情報があるカーボンナノチューブが,外部へ流出することを防止するように配慮することは当業者が当然に行うことといえる。そして,ここで「人体に有害」であることは,上記B-1.,B-2.で検討した引用2発明の「流動性製品」,引用3発明の「流動性材料」における「毒性」と同義であることは明らかである。
そして,工業的なシステムにおいて,容器から容器へ材料を移送する際に,容器と容器の接続・分離が可能な連結手段を用いることが汎用手段であるところ(記載事項(2-イ),記載事項(3-イ)),上記B-1.,B-2.で検討した引用2,3発明は,工業的なシステムにおいて,材料を移送する際に,容器と容器を接続・分離でき,しかも,毒性を有する物質の外部への汚染を防止できる安全な装置ということができる。

以上の点から,引用1発明において,工業的なシステムにおいて使用でき,毒性を有する物質の外部への流出を防止できる安全な引用2,3発明の装置,すなわち,本願発明の相違点3に係る二重弁装置と同じ構造の装置を,バルブに代えて採用することは当業者が困難なくなし得ることであり,このように毒性を有する物質の外部への流出を防止できる二重弁装置を備えたシステムが,相違点2に係る「安全な」システムであることは明らかである。
よって,引用1発明において,引用2,3発明を採用し,本願発明の相違点2,3に係る事項を特定することは当業者が容易になし得ることである。

(4)したがって,本願発明は,引用例1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また,本願発明の効果も,引用例1?3の記載事項から予測し得るものである。

(5)なお,請求人は,平成22年5月28日付け意見書において,以下のように主張する。
「引例1(注:審決の引用例1)に記載のフィルター室(1)が本発明の第1の容器に相当とするとしても,回収したカーボンナノチューブをこのフィルター室(1)(第1の容器)から他の容器(例えば,本発明の第2の容器)へ移す手段は記載がありません。引例1には本発明が解決しようとする課題(第1の容器から第2の容器へカーボンナノチューブを移す際の汚染をなくす)ととその解決策は記載も示唆もありません。
・・・
引例2(注:審決の引用例2)・・・には二重弁装置の一つが記載されています。
・・・
しかし,この二重弁装置の遮断装置(18)を必要とし,2つのフラップ(26,34)は本発明の「一対のシャッター(34,35)を有する弁(31,32)を備えた蝶型二重弁装置(31,32)」ではなく,本発明の構成「各シャッター(34,35)の空気中に露出した部分はCNTの粉末の輸送中に汚染されることはなく」は有しません。従って,この二重弁装置の本発明で定義するCNTに適用することはできません。
引例3(注:審決の引用例3)・・・は本発明で使用する蝶型二重弁装置に一番近い二重弁装置を示しています。
・・・
しかし,引例3の装置(1)は2つの容器(101,121)の間に独立して配置される連結装置を意図しているため大型になり,複雑な機構を必要とします。本発明は簡単な装置で,CNT粉末を確実に密封できるという大きな利点があります。」(第2?3頁「引例1?3と本発明との対比」の項)

この主張について検討すると,
引用例1には,上記のとおり,カーボンナノチューブをフィルター室(第1の容器)から密閉回収容器(第2の容器)へ移すことや,人体がカーボンナノ材料にさらされるのを避けることが記載されており,また,カーボンナノチューブの安全性に配慮すべきことは上記B-3.で述べたように周知の事項であることから,第1の容器から第2の容器へカーボンナノチューブを移す際の汚染をなくすという課題は,当業者に自明なものである。
また,引用例2には,記載事項(2-エ)に,遮断装置(18)を用いる記載があるが,本件出願の明細書には,計量装置を有する制御弁を介して,容器と二重弁装置を接続するものが記載されているから(【0032】,図5),本願発明は,二重弁装置以外に,他の弁(計量弁や遮断弁等)を用いるものを含むとみることができ,上記遮断装置(18)は遮断弁といえるから,上記遮断装置(18)は相違点にはならない。仮に相違するとしても,引用2発明は,かかる遮断装置がなくても,2つの閉じフラップの開閉により,一方の容器内に存在する流動性製品を外気と接触することなく別の容器に移すことができ,容器内の毒性の流動性製品が外部へ流出することを防止できることを,当業者は理解できるから,上記遮断装置(18)を採用するか否かは当業者が適宜選択できることである。そして,上記のとおり,引用2発明は,移送する流動性製品がカーボンナノチューブに特定されない点はともかく,残余の点で本願発明の二重弁装置と同じものである。
さらに,引用3発明についても,同様に流動性材料がカーボンナノチューブに特定されないものの,本願発明の二重弁装置とその特定事項に差異はない。また,仮に,引用例3に実施例として記載された装置が,容器の間に独立して配置され,大型であるとみることができたとしても,本願発明の弁31,32も,本件出願の図3,4から各容器から取り外しができる独立の装置ともみることができ,さらに,本願発明には,大きさは特定されておらず,しかも,引用3発明の装置の大きさは当業者が適宜変更し得るものであるから,このことによる実質的な差異が生じるということはできない。
したがって,請求人の主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり,請求項4に係る発明は,依然として,引用例1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-25 
結審通知日 2010-08-31 
審決日 2010-09-14 
出願番号 特願2009-22088(P2009-22088)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 若土 雅之  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 木村 孔一
安齋 美佐子
発明の名称 カーボンナノチューブを安全に充填する方法と、充填システムと、それを用いた工業プラント  
代理人 越場 隆  
代理人 越場 洋  

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