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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2009800243 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
無効2010800100 審決 特許
無効2010800191 審決 特許
無効200580021 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1231214
審判番号 無効2009-800029  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-02-18 
確定日 2011-02-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第3547755号発明「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.本件発明
本件特許第3547755号に係る発明(平成7年8月7日(優先権主張1994年8月8日 スイス)国際出願、平成16年4月23日設定登録)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】 濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり、医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである、腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
【請求項2】オキサリプラティヌムの濃度が約2mg/ml水であり、水溶液のpHが平均値約5.3である、請求項1記載の製剤。
【請求項3】オキサリプラティヌム水溶液が+74.5°ないし+78.0°の範囲の比旋光度を持つ、請求項1または請求項2記載の製剤。
【請求項4】すぐ使用でき、密封容器に入れられたオキサリプラティヌム水溶液の形である、請求項1ないし3の何れか1項記載の製剤。
【請求項5】容器がオキサリプラティヌム50ないし100mgの単位有効用量を含み、それが注入で投与できることを特徴とする、請求項4記載の製剤。
【請求項6】容器が医薬用ガラスバイアルであり、少なくともバイアルの内側に広がる表面が上記溶液に不活性な栓で閉じられていることを特徴とする、請求項4または請求項5記載の製剤。
【請求項7】上記溶液と上記栓の間の空間に不活性ガスが充填されていることを特徴とする、請求項6記載の製剤。
【請求項8】上記容器が輸液用可撓性袋またはアンプルであることを特徴とする、請求項4または請求項5記載の製剤。
【請求項9】容器が注射用マイクロポンプを持つ輸液装置の構成部分であることを特徴とする、請求項4または請求項5記載の製剤。

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、「特許第3547755号特許は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の無効理由1及び2により、本件特許は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。

(無効理由1)
本件発明1ないし9は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証に記載されているから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。
(無効理由2)
本件発明1ないし9は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(証拠方法)
甲第1号証:薬学雑誌105 (10) 909-925 (1985)
甲第2号証:Hafez Abdel-Kaderの陳述書(韓国審決2006タン826の乙第9号証)
甲第3号証:乙第3号証の抄訳(乙第3号証、第2頁下から第2行?第3頁下から第4行の日本語訳文)
甲第4号証:第十二改正日本薬局方1991年4月17日発行、製剤総則第15?19頁、廣川書店
甲第5号証:平成13年(行ケ)第67号判決文、第1頁及び第8頁
甲第6号証:平成17年(行ケ)第10189号判決文、第1頁及び第7頁
(参考資料)
(1)韓国審判番号2006タン826の審決書(韓国語)
(2)上記(1)の審決書の日本語訳
(3)韓国審決取り消し訴訟2007ホ7532の判決書(韓国語)
(4)上記(3)の判決書の日本語訳
(5)韓国上告2008フ2299の判決書(韓国語)
(6)上記(5)の判決書の日本語訳
(7)韓国審判番号2006タン826における甲第4号証
(8)韓国審判番号2006タン826における甲第5号証

3.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人が主張する無効理由1,2はいずれも成り立たないと主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証:Salvatore Turco, M. S.and Robert E. King,“Sterile Dosage Forms”,3rd Edition, Lea&Febiger, Philadelphia,1987,pages 32-33
乙第2号証:Gilbert S.Banker and Christopher T.Rhodes,“Modern Pharmaceutics”,Second Edition, Revised and Expanded Marcel Dekker, INC., New York and Basel, 1990, pages 514-516
乙第3号証:国際公開94/12193号パンフレット
乙第4号証:米国特許第6,673,805B2号明細書
乙第5号証:米国特許出願2006/0063833A1号公報

4.当審の判断
(1)無効理由1について
(ア)請求人の主張
請求人の主張する具体的理由は、甲第1号証には、オキサリプラティヌムの水溶液が記載されており、この水溶液と同一の発明である本件特許発明1ないし9は無効とされるべきものであるというものである。

(イ)甲第1号証の記載
甲第1号証には以下の記載がある。
「つぎにPt(oxalato)(trans-l-dach)(l-OHP)の開発を行った(Fig.10)。この錯体は溶解度、7.9mg/mlでシスプラチンの約8倍水に溶け、たいへん安定であり、腎毒性、嘔き気、嘔吐もほとんどみられず、マウスのM5076卵巣腫瘍に著効を示す。LD_(50)はラット(i.p)15.6mg/kg(♂)、14.3mg/kg (♀)、マウス(i.p)19.8mg/kg(♂)で制癌性は高い(Fig.11)。シスプラチン耐性のL1210白血病にはたいへん有効である。ルイス肺癌、B16黒色腫、結腸癌26及び38、移植乳癌にも有効である。
BUN、クレアチニン値は対照と変わらず、血中インシュリン分泌も対照と変わらず、毒性は低い。
HPLCによる安定性の測定では、水溶液中1週間以上放置しても安定であり、また生理食塩水中では、半減期は約11時間である。
アドリヤマイシン、シクロホスファミドとの併用効果も高い。
フランスのMathe博士はこのl-OHPにたいへん興味を持ち、試料の提供を求め、現在第I相臨床試験を行っており、腎毒性は全くみられず、嘔吐もなく転移の乳癌、黒色腫、小腸癌、特に肝臓癌に著効を示すことが認められている。ハイドレーションなどの前処置の必要もなく、シスプラチンを凌駕する第二世代の白金錯体であると考えている。フランスのロジエ・ペロン社がOxaplatinとして開発しており、アメリカにおいても開発する予定である。」(甲第1号証、第906頁、3?16行)
ここで上記l-OHP(L-OHP)はオキサリプラテンのことで、本件特許のオキサリプラティヌムと同一物質である(例えば、Wikipedia、オキサリプラチンの項を参照)。

(ウ)対比
甲第1号証には、「オキサリプラティヌムの水溶液からなる製剤」が記載されている。
一方、本件特許発明1は、本件の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項である「pHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」であること、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」ことにより特定されるものである。
そこで、これらの事項について甲第1号証に記載された「オキサリプラティヌムの水溶液からなる製剤」がこれらの事項を満たすものであるか否かについて検討する。

(エ)pHについて
まず、甲第1号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液からなる製剤が「pHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」であるとの事項を満たすものであるかどうかについて検討する。
甲第1号証には、オキサリプラティヌムの水溶液のpHについての記載はない。請求人は、2mg/mlの濃度のオキサリプラチンの水溶液のpHは5.1ないし5.4の値であることが記載されている甲第2号証を提出し、オキサリプラティヌムの水溶液のpHはオキサリプラテイヌムの濃度が決まればそれに付随(依存)する固有の値であるから、甲第1号証に記載された濃度が2mg/mlのオキサリプラティヌムの水溶液は、pHが5.1ないし5.4であり、「pHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」であるとの事項を満たすものである旨の主張をしている。
そこで、この主張について検討する。甲第1号証及び甲第2号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液において、使用したオキサリプラティヌムの純度、水の純度、温度等の調製条件が全く同じであれば、甲第1号証記載の濃度が2mg/mlのオキサリプラティヌムの水溶液はpHが5.1ないし5.4であるとの請求人の主張は首肯し得るものであるが、両者の調製条件が同じであることを示す証拠あるいは理由を請求人は提出していない。
そこで、甲第2号証について検討するに、同号証記載の実験は、オキサリプラチン医薬物質として、「田中貴金属工業株式会社、batch no;LO03T050」を使用するものである。甲第2号証は、本件特許に対応する韓国特許No.365171の無効審判の審理の中で本件被請求人が提出した陳述書であり、上記韓国特許明細書に記載されている濃度が2mg/mlのオキサリプラティヌムの水溶液はpH4.6?6の範囲内の安定なpH値を示すこと、溶液は安定性試験条件下、12ヶ月後も澄明・無色のままであることを実験データとして示そうとするものであり、韓国特許明細書にはオキサリプラティヌムとして、田中KKによって特許になった方法で得られた製品と同じ、薬学的に良質であり光学的に純粋な(>99.9%)発熱物質を含まない製品を使用している(請求人が提出した参考資料(5)韓国審決取消訴訟2007ホ7532の判決書の日本語訳4-4頁参照)。そうすると、甲第2号証の実験で使用したオキサプラチン医薬物質は、田中KKによって特許になった方法で得られた製品と同じ、薬学的に良質であり光学的に純粋な(>99.9%)発熱物質を含まない製品を使用していると考えるのが自然である。
これに対して、甲第1号証は上記韓国特許の優先日である1994年8月8日のおおよそ9年前の1985年に出版された総説である。
ところで、いずれも本願出願日以降に頒布された刊行物であるが、乙第4号証の第8欄38?64行の記載によれば、オキサリプラチン(オキサリプラティヌム)の2mg/mlの水溶液のpHは6.7であり、乙5号証の3頁段落0033?0035の記載によれば、20?25℃で保存したオキサリプラチン(オキサリプラティヌム)の2mg/mlの水溶液のpHは6.6であるから、オキサリプラチン(オキサリプラティヌム)の2mg/mlの水溶液といっても、調製条件の違いによって種々のpHの値を取るものがある。また、一般に医薬は不純物を含まない方が好ましいこと、光学異性体であるときは、光学的に純粋である方が好ましいことは当然のことであり、医薬の純度を高めることは通常行われていることである(オキサリプラティヌムについては,例えば特開平5-194332号公報、特開平6-211883号公報、特開平6-329692号公報参照)。
これらの点を勘案すると、1985年に出版された総説である甲第1号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液において使用したオキサリプラティヌムの純度等の調製条件が、甲第2号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液と同じであるとはいえない。
そうすると、当業者は、水溶液の調製に使用されたオキサリプラティヌムの純度の違いにより、両者の水溶液のpHが異なることも想定されるので、甲第1号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液のpHが、甲第2号証に記載された水溶液のpHと同じであると結論づけることはできないと理解するものといえる。
したがって、請求人の主張する理由及び証拠では、甲第1号証に記載のオキサリプラティヌムの水溶液のpHが4.5ないし6であるとはいえない。

(オ)貯蔵後の物性について
次に、甲第1号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液からなる製剤が「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」との事項を満たすものであるかどうかについて検討する。
請求人は、この事項は発明の構成要件ではなく、発明の効果に相当するものであり、更には公知文献の甲第1号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液も当然に具備する同一の効果に過ぎないものであると主張している。
そこで、この主張について検討する。まず、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」との事項は、特許請求の範囲の請求項1に記載されている技術的に意味のある事項であり、本件特許発明1を特定する事項であることは明らかである。
請求人は、甲第1号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液は当然にこの事項を満たすものであるとも主張するが、甲第1号証には、「水溶液中1週間以上放置しても安定であり」と記載されているだけであり、上記の貯蔵後の水溶液の物性に関する事項は記載されていないし、甲第2号証を参酌しても、上記のとおり、甲第2号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液と甲第1号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液が同一の水溶液であるとはいえないのであるから、甲第1号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液が「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」との事項を満たすものであるとはいえない。

(カ)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

そして、本件特許発明1をさらに限定するものである本件特許発明2ないし9も同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

(2)無効理由2について
(ア)請求人の主張
請求人の主張する具体的理由は、下記(a)?(c)のとおり、本件特許発明1ないし9は、甲第1号証に記載されているオキサリプラティヌムの水溶液の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるというものである。
(a) 本件特許発明は、オキサリプラティヌムの濃度を1?5mg/mlの範囲に設定しただけであり、この最適な範囲を決定することは所謂ルーティンワークであり何ら特許性のないことは明らかである。
(b) pH値は、オキサリプラテイヌムの濃度が決まればそれに付随(依存)する固有の値であり、結局、濃度=pH値であり、pH値に特許性があるものでない。
(c) 本件特許の請求項1にある「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」という規定は、オキサリプラティヌムの安定性を表現したものであり、オキサリプラティヌムの安定性の表現は発明の構成要件ではないけれども、このようなことも甲第1号証から明らかなものである。

(イ)対比
上記4の(1)「無効理由1について」で述べたとおり、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明は、少なくとも以下の点で相違する。
(相違点1)本件特許発明1は、「pHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」であるが、甲第1号証にはpHについては記載されていない。
(相違点2)本件特許発明1は、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」ものであるが、甲第1号証にはこの点については記載されていない。
そして、甲第1号に記載されているオキサリプラティヌムの水溶液のpHが4.5ないし6であるとは、請求人が主張した理由と提出した証拠からはいえないこと、そして、甲第1号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液が「医薬的に許容される期間の貯蔵後に、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」との事項を満たすものであるとは、請求人が主張した理由と提出した証拠からはいえないことは、上記4の(1)「無効理由1について」で述べたとおりである。
そこで、以下、これらの相違点について、当業者が容易に想到し得るものであるかどうかについて検討する。

(ウ)pHについて
水溶液である医薬品の製剤化に際して、水溶液のpH値は有効成分の濃度とともに検討すべき事項の1つである。
しかし、甲第1号証には、水溶液のpH値について何ら記載がなく、また、請求人の提出したいずれの証拠にも、オキサリプラティヌムの水溶液は酸性である方が好ましいということを示唆する記載はない。
そして、オキサリプラティヌムは抗がん剤であり、通常、静脈内に注入されるものであるが、一般に静脈に注入する薬剤のpHは、血清と同じく微アルカリ性であるpH7.2?8が好適であることが技術常識である(「薬剤学」改訂第9版(南山堂昭和33年発行)第342、343頁参照)から、この好ましいとされる微アルカリ性領域から外れる4.5ないし6という微酸性領域の値を採用することは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
なお、請求人は、「注射剤の製造時に血しょうと類似の程度でpHを調整することは、本件発明1の属する技術分野における技術常識であるため、製剤のpHを4.5?6に限定したことも当業者が容易に導出できるものであって、技術構成の困難性は認められない。」と主張しているが、血しょうと血清はほぼ同じものであり、pHはいずれも微アルカリ性であるので、上記請求人の主張は採用できない。

(エ)貯蔵後の物性について
抗がん剤であるオキサリプラティヌムの水溶液について、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」ものであることが望まれる物性であることは明らかである。
しかしながら、甲第1号証には、「水溶液中1週間以上放置しても安定であり」と記載されているだけであり、甲第1号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液が上記の貯蔵後の水溶液の物性を満たすものであるとはいえないことは上記「(1)無効理由1について (オ)貯蔵後の物性について」に記載したとおりである。そして、このような物性を有するオキサリプラティヌムの水溶液を調製する方法については甲第1号証及び請求人の提出したいずれの証拠にも記載されていないし、技術常識であるともいえない。
したがって、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」という物性を有するオキサリプラティヌムの水溶液を調製することは当業者が容易になし得ることとはいえない。

(オ)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

そして、本件特許発明1をさらに限定するものである本件特許発明2ないし9も同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(3)その他の主張について
(ア)請求人は「正に単にオキサプラティヌムの水溶液を特許として請求するが如き本件特許は、甲第1号証に既に開示されたもの」であると主張しているが、本件特許発明は、オキサプラティヌムの水溶液ではなく、一定の範囲のpH値及び貯蔵後の物性を有するオキサプラティヌムの水溶液に関する医薬的に安定な製剤の発明である。
したがって、請求人の上記主張は、本件特許発明を、「正に単にオキサプラティヌムの水溶液」であるとした点で誤ったものである。

(イ)請求人は、濃度及びpH値に関して数値限定したすべての範囲で「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」ことが本件特許明細書において確認することができないのでこれらの数値限定の臨界的意義が示されておらず、本件特許発明1は進歩性が無い旨主張するが、本件特許発明1は、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」ことにより特定される発明であるから、数値限定したすべての範囲で「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」ことが本件特許明細書において確認することができるか否かは、進歩性に関する上記当審の判断に影響するものではない。

(ウ)請求人は、「被請求人は、・・・オキサリプラティヌムを水に1ないし5mg/mlの濃度で溶解させることで、必ずしも、pHが自動的に4.5ないし6になり、安定な水溶液になるわけではなく、残留したシュウ酸の量、用いる注射用水の水質、医薬用品質の光学純度品を用いること等の諸条件が必要であると述べているが、・・・」と主張しているが、本件特許発明1は、「pHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」であること及び「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」ことにより特定される発明であるから、オキサリプラティヌムを水に1ないし5mg/mlの濃度で溶解させること以外にさらに諸条件が必要か否かは、進歩性に関する上記当審の判断に影響するものではない。

(エ)請求人側参加人は、甲第1号証には、オキサリプラティヌムの溶解度が7.9mg/mlであると記載されているが、この値を得るためには当然に0?7.9mg/mlの範囲の各種の濃度のオキサリプラティヌムの水溶液が調製されており、濃度が1ないし5mg/mlのオキサリプラティヌムの水溶液は公知であると主張するが、この主張の適否は、「pHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」である、及び、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」との本件特許発明を特定する事項に関する上記当審の判断に影響するものではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-15 
結審通知日 2010-03-17 
審決日 2010-03-26 
出願番号 特願平8-507159
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61K)
P 1 113・ 113- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田名部 拓也  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 井上 典之
弘實 謙二
登録日 2004-04-23 
登録番号 特許第3547755号(P3547755)
発明の名称 オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤  
代理人 田中 洋子  
代理人 齋藤 房幸  
代理人 齋藤 房幸  
代理人 津国 肇  
代理人 田中 洋子  
代理人 小國 泰弘  
代理人 小澤 圭子  
代理人 津国 肇  
代理人 小國 泰弘  
代理人 小澤 圭子  
復代理人 葦原 エミ  

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