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審決分類 |
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60R |
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管理番号 | 1231345 |
審判番号 | 不服2009-24534 |
総通号数 | 135 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-12-11 |
確定日 | 2011-02-03 |
事件の表示 | 特願2004- 66377号「エアバッグ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月22日出願公開、特開2005-254882号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願の発明 本願は、平成16年 3月 9日の特許出願であって、平成21年 9月10日付けで拒絶査定がなされ、この査定を不服として、同年12月11日に本件審判請求がなされた。 一方、当審において、平成22年 8月17日付けで拒絶理由を通知し、これに対して、応答期間内である平成22年10月25日に手続補正書とともに意見書が提出されたところである。 そして、この出願の請求項1?6に係る発明は、上記平成22年10月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 ガスの流入により膨張展開可能なるエアバッグと、該エアバッグにガスを供給可能なるインフレータと、折り畳み状態のエアバッグが収納され且つエアバッグが膨出する開口部を有するケースとを備え、 前記ケースにおける開口部の幅寸法は、保護対象の幅寸法の2.0倍以上で、3.0倍以下に設定され、且つ前記ケースの底面部は、該ケースの幅方向に周辺機器を配設可能なスペースを確保可能なるよう幅方向両側部が中央部よりも浅くなる傾斜面が形成されていることを特徴とするエアバッグ装置。」 2.先願明細書の記載事項 これに対して、当審の拒絶の理由に引用された本願の出願の日前のパリ条約の優先権主張を伴う他の出願であって、本願の出願後に国際公開された特願2007-500089号(特表2007-523006号公報参照)(パリ条約による優先権主張2004年(平成16年) 2月17日、米国)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、「エアバッグ装置」に関し、以下の事項が記載又は示されている。なお、ここで、先願明細書の記載内容及び箇所は、便宜上、上記他の出願の国内公表により発行された特許公報のもので示す。 (ア)「【0001】 本発明は、エアバッグ安全システムの分野、特にエアバッグ装置に関する。 【背景技術】 【0002】 エアバッグ安全システムは、自動車及びトラックにおいて広く使われるようになった。たとえば、現代の自動車は運転者エアバッグ、助手エアバッグ、膝エアバッグ、サイドエアバッグ及び/又はその他のエアバッグのような種々のエアバッグを持っていることができる。 【0003】 このようなエアバッグシステムは、一般に「エアバッグ」と称される膨張可能なクッションを含み、このエアバッグは畳まれた状態で保管容器に保管され、車両の衝突をセンサが検知した際、火薬によるカス発生器ガス(当審注:「ガス発生器ガス」の誤記)によりきわめて迅速に膨らまされる。それによりエアバッグは運転者又は助手の衝撃を吸収する位置に展開される。」 (イ)「【0008】 本発明の目的は、特に乗員が子供である時、傷害の危険を減少するため、乗員に及ぼされる最大の力を減少する改善されたエアバッグ装置を提供することである。 ・・・ 【0009】 本発明によれば、衝突の検知の際膨らまされて助手室内へ展開されるように、畳まれたエアバッグと畳まれたエアバッグが膨らまされる時それを案内するシュートとを含むエアバッグ装置が提供され、シュートは畳まれたエアバッグと展開用開口との間に延び、シュートが横方向へ広くなっている。 【0010】 シュートが横方向へ広くなることは、エアバッグが助手室内へ展開される時、その中央区域の前でエアバッグが側部で膨らまされるという効果を持っている。エアバッグを外部区域へ押すことにより、エアバッグの直前に位置する乗員にかかる最大の力が減少され、従って傷害の危険を減少する。最大の力の減少は、子供をエアバッグの前に置くことを可能にする。 【0011】 本発明の実施形態によれば、シュートが、少なくとも1つの傾斜した側壁を持っている。例えばシュートは、頂壁、底壁、左及び右の側壁をもっている。この場合少なくとも左又は右の側壁が傾斜している。左及び右の側壁は、同じ又は異なる傾斜角で傾斜している。更に頂壁及び/又は底壁も、左及び/又は右の側壁と同じ又は異なる傾斜で傾斜していてもよい。 【0012】 本発明の実施形態によれば、少なくとも1つの傾斜した側壁の傾斜角が20°?70°である。望ましくは、傾斜角は約45°である。 【0013】 少なくとも1つの傾斜した側壁は、エアバッグが助手室内へ展開される時、エアバッグへ流入するガスの流れを、エアバッグの側部が中央区域の前で膨らまされるように向ける、という効果を持っている。」 (ウ)「【0029】 図6(当審注:図7の誤記)は、本発明による助手エアバッグ装置702の別の実施例を示している。助手734は、エアバッグ展開用扉736によって覆われるエアバッグ展開用開口の前の助手席にすわっている。シュート708は傾斜した側壁712及び714を持っている。畳まれたエアバッグ704は、シュート708の後部開口に置かれている。衝突が検知されると、助手エアバッグが膨らまされ、シュート708に沿って広がる。 【0030】 膨らむ助手エアバッグ704がエアバッグ展開用扉を打つと、エアバッグ展開用扉736が開いて、助手エアバッグ704が助手室内へ入り込むことができる。図7の破線は、助手734へ向かって助手室内へ展開する間における助手エアバッグ704の輪郭を示している。シュート708の傾斜した側壁712及び714のため、助手エアバッグ704の側方部分738,740は、助手エアバッグ704の中央区域742より高いガス圧力で満たされる。助手エアバッグ側方部分738の膨張の方向は矢印746により示され、側方部分740の膨張の方向は矢印744により示されている。中央区域742の膨張の方向は矢印748により示されている。 【0031】 傾斜した側壁712及び714のため、側方部分における圧力確立は中央区域742におけるより急速である。従って中央区域742が助手734を打つ力が減少される。これは助手734の傷害の危険を少なくし、子供を助手エアバッグ装置702の前に置くのを容易にする。」 (エ)図7から「シュート708におけるエアバッグ展開用開口の幅寸法は、助手の頭部の幅寸法の数倍に設定したもの」及び「シュート708の側壁712、714は、幅方向両側部が後部開口からなる中央部よりも浅くなる傾斜面を形成しているもの」が看取できる。 これらの記載からみて、先願明細書の特に図7の実施例には、 「ガスの流入により膨らみ展開するエアバッグ704と、畳まれたエアバッグ704がその後部開口に置かれかつエアバッグ704の展開用開口を有するシュート708とを備え、 前記シュート708におけるエアバッグ展開用開口の幅寸法は、助手の頭部の幅寸法の数倍に設定され、かつ前記シュート708の側壁712、714は、幅方向両側部が中央部よりも浅くなる傾斜面を形成している助手エアバッグ装置702」 の発明が記載されているものと認められる。 3.発明の対比 そこで、本願発明と先願明細書に記載された発明(以下「先願明細書記載の発明」という。)とを対比すると、先願明細書記載の発明の「助手エアバッグ装置702」は本願発明の「エアバッグ装置」に相当し、以下同様に、「ガスの流入により膨らみ展開するエアバッグ704」は「ガスの流入により膨張展開可能なエアバッグ」に、「シュート708」は「ケース」に、「助手の頭部」は「保護対象」に、「シュート708の側壁712、714」は「ケースの底面部」にそれぞれ相当する。 また、本願発明の「折り畳み状態のエアバッグが収納され且つエアバッグが膨出する開口部を有するケースとを備え」と、先願明細書記載の発明の「畳まれたエアバッグ704がその後部開口に置かれかつエアバッグ704の展開用開口を有するシュート708とを備え」とは、「折り畳み状態のエアバッグが置かれ且つエアバッグが膨出する開口部を有するケースとを備え」である限りにおいて共通する。 そして、本願発明の「ケースにおける開口部の幅寸法は、保護対象の幅寸法の2.0倍以上で、3.0倍以下に設定され」と、先願明細書記載の発明の「シュート708におけるエアバッグ展開用開口の幅寸法は、助手の頭部の幅寸法の数倍に設定され」とは、「ケースにおける開口部の幅寸法は、保護対象の幅寸法の数倍に設定され」る限りにおいて共通する。 そうすると、両者は、 「ガスの流入により膨張展開可能なエアバッグと、折り畳み状態のエアバッグが置かれ且つエアバッグが膨出する開口部を有するケースとを備え、 ケースにおける開口部の幅寸法は、保護対象の幅寸法の数倍に設定され、且つ、前記ケースの底面部は、幅方向両側部が中央部よりも浅くなる傾斜面を形成しているエアバッグ装置」 である点で一致し、以下の各点で形式的に相違するものと認められる。 <相違点1> 本願発明では、「エアバッグにガスを供給可能なるインフレータ」を備えるとともに、「ケース」に「折り畳み状態のエアバッグが収納され」るのに対して、先願明細書記載の発明では、エアバッグ704にガスを供給しているものの、「インフレータ」についての明記がなく、シュート708の後部開口に折り畳み状態のエアバッグ704を置くものの、それ以上のものでない点。 <相違点2> ケースにおける開口部の幅寸法は、保護対象の幅寸法の「数倍」に設定されるものにおいて、「数倍」が、本願発明では、「2.0倍以上で、3.0倍以下」であるのに対して、先願明細書記載の発明では、そのような具体的な記載がない点。 <相違点3> ケースの底面部は、幅方向両側部が中央部より浅くなる傾斜面を形成していることにより、本願発明では、「ケースの幅方向に周辺機器を配設可能なスペースを確保可能なる」のに対して、先願明細書記載の発明では、そのような記載がない点。 4.相違点の検討・当審の判断 <相違点1について> 先願明細書の摘記事項(ア)の段落【0003】に背景技術として記載されるように、一般的に、エアバッグは、折り畳まれた状態で保管容器(ケース)に保管(収納)され、火薬によるガス発生器(インフレータ)によるガス(の供給)により迅速に膨らまされるものであるから、上記相違点1に係る本願発明の構成は、当業者に一般的に知られている技術(技術常識)であり、上記他の出願の出願時の技術常識を参酌することにより先願明細書に記載されている事項から導き出せる事項であって、先願明細書に記載されているに等しい事項である。 <相違点2について> ケースの開口部の幅寸法を、保護対象の幅寸法の2.0倍以上で3.0倍以下に設定した点については、エアバッグの直前に位置する乗員にかかる最大の力を減少して(保護対象の加わる衝撃を抑制して)傷害の危険を減少するという先願明細書に記載された課題や、装置の小型化という周知の課題を解決するための具体化手段における微差に過ぎない。 <相違点3について> 元々、エアバッグ装置は、狭隘なスペースに設置されるものであって、小型化等により周辺機器を配設可能なスペースを確保しようとすることは自明の課題である。 そして、先願明細書記載の発明においても、ケースの底面部は、幅方向両側部が中央部よりも浅くなる傾斜面を形成しているが、該傾斜面によりできたケースの幅方向のスペースに周辺機器を配設可能であることは、技術上の経験則から明らかであり、上記他の出願の出願時の技術常識を参酌することにより先願明細書に記載されている事項から導き出せる事項であって、先願明細書に記載されているに等しい事項である。 5.むすび したがって、本願発明(請求項1に係る発明)は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-11-17 |
結審通知日 | 2010-11-24 |
審決日 | 2010-12-07 |
出願番号 | 特願2004-66377(P2004-66377) |
審決分類 |
P
1
8・
16-
WZ
(B60R)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石原 幸信 |
特許庁審判長 |
林 浩 |
特許庁審判官 |
栗山 卓也 藤井 昇 |
発明の名称 | エアバッグ装置 |
代理人 | 三好 秀和 |