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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1231410
審判番号 不服2008-1775  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-23 
確定日 2011-02-04 
事件の表示 平成10年特許願第164171号「反り防止化粧材」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月7日出願公開、特開平11-333985〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成10年5月27日に出願したものであって、平成19年6月26日付けで拒絶理由が通知された後、同年9月3日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月18日付けで拒絶査定され、これに対し、平成20年1月23日付けで審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、さらに同年2月13日付けで審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成22年7月23日付けで審尋がされたのち同年9月10日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成20年1月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年1月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成20年1月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項3の
「【請求項2】表面側より表面保護層、印刷絵柄層、紙質系防湿層、木質系基材、紙質系防湿層の順で積層一体化した積層体において、前記木質系基材が厚さ10?20mmの木質合板よりなり、前記木質系基材の上下面側に設けた紙質系防湿層が2枚の紙層をポリオレフィン系樹脂の押出しコート層を介して接着してなる紙質系防湿シートよりなることを特徴とする反り防止化粧材。
【請求項3】前記表面保護層が電離放射線硬化性樹脂よりなることを特徴とする請求項1または2に記載の反り防止化粧材。」
を、新たな請求項1とした上で、
「【請求項1】表面側より電離放射線硬化性樹脂よりなる表面保護層、印刷絵柄層、紙質系防湿層、木質系基材、紙質系防湿層の順で積層一体化した積層体において、前記木質系基材が厚さ10?20mmの木質合板よりなり、前記木質系基材の上下面側に設けた紙質系防湿層が2枚の紙層をポリオレフィン系樹脂の押出しコート層を介して接着してなる紙質系防湿シートよりなり、前記印刷絵柄層は前記紙質防湿層の紙層の上面に予め設けられたことを特徴とする反り防止化粧材。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否について
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的について
上記補正は、請求項1、2及び4を削除し、請求項1を引用する請求項3を新たな請求項1とした上で、さらに印刷絵柄層について、「前記紙質防湿層の紙層の上面に予め設けられた」ものに限定するものである。
この補正事項は、願書に最初に添付した明細書の段落【0023】の「・・・模様形成層2として、反り防止化粧材の紙質系防湿層3の紙層32の上面に印刷絵柄層22を設け・・・」との記載及び段落【0026】の「【実施例】実施例2 秤量30g/m^(2) の紙間強化紙(三興製紙(株)製、FIX-30)の表面に硝化綿系インキによりオーク板目柄を印刷し印刷紙を得た。この印刷紙と同様の秤量30g/m^(2) の紙間強化紙(三興製紙(株)製、FIX-30)とをTダイ押出機から30μmの厚さにポリエチレンフイルムを押出しラミネートし、チルロールで冷却して紙層が2層構造となる防湿化粧シートを作製した。」の記載に基づくものである。
そうすると、上記補正は、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。
また、上記補正は、本願補正前の請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、補正前の請求項3に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

ア 本願補正発明
本願補正発明は、平成19年9月3日付けの手続補正及び平成20年1月23日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願補正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

イ 刊行物等
刊行物1:特開平9-314520号公報(拒絶査定時の引用文献1)
刊行物2:実願昭60-98060号(実開昭62-5902号)の
マイクロフィルム(拒絶査定時の引用文献2)
刊行物3:特開平8-58016号公報(拒絶査定時の引用文献3)
刊行物4:特開平9-188997号公報(審尋時の引用文献7、
周知技術であることを補完するための文献)
刊行物5:特開平10-080980号公報(審尋時の引用文献5)

ウ 刊行物の記載事項
本願出願前に頒布された刊行物1ないし5には、以下の事項が記載されている。
(ア)刊行物1
・摘示事項1-a:「【請求項1】密度が0.35g/cm^(3 )以上0.80g/cm^(3) 未満の木質繊維板(以下、MDFという)又はパーティクルボードからなる基板の表面に、不織布又は強化紙の間に耐透湿性フィルムを介在させたシートを介して化粧材を一体的に積層貼着することを特徴とする木質系化粧板。」(【特許請求の範囲】)
・摘示事項1-b:「【発明の属する技術分野】本願発明は、主として壁材や床材等住宅用に使用する木質系化粧板に関する。」(段落【0001】)
・摘示事項1-c:「【発明が解決しようとする課題】本願発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、水分や湿度に対する寸法安定性が良く、施工した後に伸縮による段差や隙間、突き上げ等の問題が発生しないMDF又はパーティクルボードを基板とした木質系化粧板を提供することを目的とする。」(段落【0003】)
・摘示事項1-d:「【課題を解決するための手段】前記目的に沿う請求項1記載の木質系化粧板は、MDF又はパーティクルボードからなる基板に耐透湿性シートを介して化粧材を一体的に積層貼着してなる。耐透湿性シートは、目付20?60g/m^(2) のポリエステル樹脂製やポリプロピレン樹脂製等の不織布又は目付30?50g/m^(2) の強化紙の間に耐透湿性樹脂であるポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン等をサンドイッチ構成として、はさみ込んである。はさみ込む方法は、耐透湿性樹脂を280?300℃に加熱溶融してT型ダイスで2枚の不織布又は強化紙の間に25?35μmの厚みで流し込み熱ロールで押え込んでラミネートするか、あるいはフィルム状のものをポリウレタン系樹脂系やクロロプレンゴム系接着剤を介して一体的に積層貼着する。」(段落【0004】)
・摘示事項1-e:「図1に示すように、本願発明の請求項1の実施の形態に係る木質系床材10は、基材として厚さ12mmのMDF11を使用する。その両面にロールコーターやスプレッダー等で酢酸ビニル樹脂接着剤13を20?60g/m^(2) 程度塗布し、耐透湿性シート12を両面に載置、さらにその表面側に同様に接着剤を塗布後、突板13を載置、ホットプレスにて一体的に一度で熱圧締する。なお、裏面にはクラフト紙にポリプロピレン樹脂を塗布したり、樹脂含浸したような安価なシート等でもよい。表面材は0.3mm厚の樹種がナラである突板を使用する。なお、突板以外にも、印刷した化粧シート等が使用できる。ホットプレス熱圧締条件は、温度150?180℃、圧力8?14kgf/cm^(2) 、プレスタイムは1?2分程度である。」(段落【0006】)
・摘示事項1-f:「【発明の効果】請求項1記載のMDF又はパーティクルボードを基板とした木質系化粧板は、水分や湿度に対する寸法安定性が良く、施工した後に伸縮による段差や隙間、突き上げ等の問題が発生しない。」(段落【0008】)

(イ)刊行物2
・摘示事項2-a:「(1)突板の表面に紫外線硬化性樹脂の皮膜が形成されて成る化粧突板。」(実用新案登録請求の範囲)
・摘示事項2-b:「また、化粧突板1をその皮膜2が表面側となるように芯材3に貼着することにより、紫外線の樹脂皮膜2でクリヤー塗装を兼ねることができるために、耐摩耗性、耐汚染性の良好な化粧板8を作成することができる利点がある。」(第4ページ第2?6行)

(ウ)刊行物3
・摘示事項3-a:「【従来の技術】本発明の従来の技術として、プラスチックフィルム等の表面に絵柄印刷した化粧シートの表面に電離放射線硬化型樹脂組成物を塗布し、紫外線や電子線等の電離放射線を照射して表面保護層を形成する方法が知られている。更に特公昭62-21815には、無機質装填材料を含む光重合組成物からなる耐摩耗性の透明又は半透明フィルムで支持体をコートする光硬化組成物が開示されている。」(段落【0002】)

(エ)刊行物4
・摘示事項4-a:「【請求項1】紙に印刷層を設け、その上に硬化した活性エネルギー線硬化型水性樹脂層から成る表面保護層を設けて成る表面強化化粧紙。」(【特許請求の範囲】)
・摘示事項4-b:「【発明の属する技術の分野】本発明は家具、住宅機器等に使用する化粧板に使用する化粧紙の製造方法に関し、特に表面硬度が高く、耐久性に優れた高級化粧板に使用する化粧紙に関するものである。」(段落【0001】)
・摘示事項4-c:「【発明の効果】上述の実施例の説明からも明らかなように、本発明による表面強化化粧紙は表面保護層として活性エネルギー線硬化型水性樹脂を主成分とする塗工剤を使用することにより、水性インキ層との密着力が向上し、且つ水性塗工剤の硬化性樹脂成分の紙への浸透によって良好な紙層の強化も達成できることから、水平面に使用可能な硬度や耐摩耗性を備えた高級化粧紙を能率的にかつ安価に製造することができる。」(段落【0024】)

(オ)刊行物5
・摘示事項5-a:「【請求項1】 ホルムアルデヒドキャッチャー剤を含有することを特徴とする防湿シート。
【請求項2】 紙層と防湿性の樹脂層から成り、前記ホルムアルデヒドキャッチャー剤は前記紙層に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の防湿シート。
【請求項3】 紙層と防湿性の樹脂層から成り、前記ホルムアルデヒドキャッチャー剤は前記防湿性の樹脂層に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の防湿シート。
【請求項4】 アンカーコート層を介して貼着された紙層と防湿性の樹脂層から成り、前記ホルムアルデヒドキャッチャー剤は前記アンカーコート層に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の防湿シート。
【請求項5】 接着層を介して貼着された紙層と珪素酸化物を蒸着した樹脂層から成り、前記ホルムアルデヒドキャッチャー剤は前記紙層または前記接着層に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の防湿シート。
【請求項6】 2つの紙層が前記樹脂層の両面に設けられていることを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の防湿シート。
【請求項7】 2つの紙層が前記樹脂層の両面に設けられており、前記ホルムアルデヒドキャッチャー剤はこれら2つの紙層の両方に含まれていることを特徴とする請求項2または請求項5に記載の防湿シート。
【請求項8】 請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の防湿シートを木質系基材に貼着して成ることを特徴とする化粧板。」(【特許請求の範囲】)
・摘示事項5-b:「【発明の属する技術分野】本発明は木質系の基材を用いる化粧板に関するものであり、特に、木質系基材の吸湿や放湿による反りと木質系基材からのホルムアルデヒドの放出を防止した化粧板に関するものである。」(段落【0001】)
・摘示事項5-c:「木質系基材を用いる化粧板の反りを防止する簡便な方法として、本出願人は、紙層と防湿性樹脂層から成る防湿シートを木質系基材の裏面に貼着することを、特願平7-206644号公報にて提案した。この防湿シートは、カールし難いため木質系基材への貼着作業が容易な上、火気に対して安全なエマルジョン型接着剤によって基材への貼着ができるという特徴を有するものであった。」(段落【0006】)
・摘示事項5-d:「本発明の第6の実施形態の化粧板60の構造を模式的に図6に示す。化粧板60は、防湿性樹脂31を薄葉紙32a、33aで挟んで成る防湿シート3eを備えており、薄葉紙32aおよび33aにホルムアルデヒドキャッチャー剤が含まれている。この化粧板60は、第2の実施形態の化粧板20に類似した構成であるが、外界に面した薄葉紙33aにもキャッチャー剤を含有している点で相違する。・・・(中略)・・・本実施形態では木質系基材1の上面に化粧シート2を設けているが、印刷処理を施した防湿シート3eは美感が向上するから、化粧シート2に代わるものとしても使用することができる。このように、木質系基材1の両面にキャッチャー剤含有防湿シート3eを接着した化粧板では、両面の水分透過性が同一になって反りが生じ難く、しかも、環境のホルムアルデヒドを捕捉する効果が一層高いものとなる。第1?第5の実施形態の化粧板10?50の化粧シート2を、印刷処理を施した防湿シート3eに代えることもできる。」(段落【0053】?【0056】)

エ 刊行物に記載された発明
刊行物1には、「・・・床材等住宅用に使用する木質系化粧板」(摘示事項1-b)に関し、「・・・水分や湿度に対する寸法安定性が良く、施工した後に伸縮による段差や隙間、突き上げ等の問題が発生しないMDF又はパーティクルボードを基板とした木質系化粧板を提供することを目的とする。」(摘示事項1-c)ものであって、「・・・前記目的に沿う請求項1記載の木質系化粧板は、MDF又はパーティクルボードからなる基板に耐透湿性シートを介して化粧材を一体的に積層貼着してなる。耐透湿性シートは、・・・強化紙の間に耐透湿性樹脂であるポリプロピレン、ポリエチレン・・・をサンドイッチ構成として、はさみ込んである。はさみ込む方法は、耐透湿性樹脂を・・・T型ダイスで2枚の・・・強化紙の間に・・・流し込み・・・ラミネートする・・・」(摘示事項1-d)と記載されている。そして、その具体例として、「図1に示すように、本願発明の請求項1の実施の形態に係る木質系床材10は、基材として厚さ12mmのMDF11を使用する。その両面に・・・耐透湿性シート12を両面に載置、さらにその表面側に・・・突板13を載置・・・」(摘示事項1-e)と記載されている。
そうすると、刊行物1には、
「基材として厚さ12mmのMDFの両面に、耐透湿性樹脂であるポリプロピレン、ポリエチレンをT型ダイスで2枚の強化紙の間に流し込みラミネートしサンドイッチ構成とした耐透湿性シートを介して突板を一体的に積層貼着してなる、水分や湿度に対する寸法安定性が良く、施工した後に伸縮による段差や隙間、突き上げ等の問題が発生しない木質系化粧板。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
また、刊行物1には、「・・・表面材は・・・突板以外にも、印刷した化粧シート等が使用できる。」(摘示事項1-e)と記載されている。
そうすると、刊行物1には、
「基材として厚さ12mmのMDFの両面に、耐透湿性樹脂であるポリプロピレン、ポリエチレンをT型ダイスで2枚の強化紙の間に流し込みラミネートしサンドイッチ構成とした耐透湿性シートを介して印刷した化粧シートを一体的に積層貼着してなる、水分や湿度に対する寸法安定性が良く、施工した後に伸縮による段差や隙間、突き上げ等の問題が発生しない木質系化粧板。」
の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

オ 対比・判断
(ア)対比
本願補正発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「MDF」、「印刷」、「木質系化粧板」は、それぞれ本願補正発明の「木質系基材」、「印刷絵柄層」、「化粧材」に相当する。また、引用発明2の「ポリプロピレン、ポリエチレン」、「強化紙」、「T型ダイスで・・・流し込みラミネートし」は、各々、本願補正発明の「ポリオレフィン系樹脂」、「紙層」、「押出しコート」に相当する。そうすると、引用発明2の「耐透湿性シート」は、本願補正発明の「紙質系防湿層」に相当する。
さらに、引用発明2の「水分や湿度に対する寸法安定性が良く、施工した後に伸縮による段差や隙間、突き上げ等の問題が発生しない」とは、本願補正発明の「反り防止」と同義である。
そうすると、両者は、
「表面側より印刷絵柄層、紙質系防湿層、木質系基材、紙質系防湿層の順で積層一体化した積層体において、前記木質系基材が厚さ12mmの木質合板よりなり、前記木質系基材の上下面側に設けた紙質系防湿層が2枚の紙層をポリオレフィン系樹脂の押出しコート層を介して接着してなる紙質系防湿シートよりなる反り防止化粧材。」である点で一致し、下記の点で相違する。
i)本願補正発明は、印刷絵柄層の上に「電離放射線硬化性樹脂よりなる表面保護層」が設けられていると規定されているのに対し、引用発明2はそのような規定がされていない点(以下、「相違点i)」という。)
ii)印刷絵柄層が、本願補正発明は、「前記紙質防湿層の紙層の上面に予め設けられた」と規定されているのに対し、引用発明2は、「化粧シート」に設けられていると規定されている点(以下、「相違点ii)」という。)

(イ)相違点の検討
・相違点i)について
例えば、刊行物2(摘示事項2-a、摘示事項2-b)、刊行物3(摘示事項3-a)又は刊行物4(摘示事項4-a?摘示事項4-c)に示すように、耐摩耗性、対汚染性等を向上させるために、突板や絵柄印刷した化粧シート等の表面に電離放射線硬化性樹脂よりなる表面保護層を設けることは周知慣用技術であるから、引用発明2においても、耐摩耗性、対汚染性等を向上させるために、印刷絵柄層の上に「電離放射線硬化性樹脂よりなる表面保護層」を設けることは当業者が容易になし得ることである。

・相違点ii)について
刊行物5には、「・・・本発明は木質系の基材を用いる化粧板に関するものであり、特に、木質系基材の吸湿や放湿による反り・・・を防止した化粧板に関するもの・・・」(摘示事項5-b)であって、「・・・防湿シートを木質系基材に貼着して成ることを特徴とする化粧板。」(摘示事項5-a)と記載され、その防湿シートについて、「・・・防湿性樹脂31を薄葉紙32a、33aで挟んで成る防湿シート3eを備えており・・・」(摘示事項5-d)と記載されている。さらに、「本実施形態では木質系基材1の上面に化粧シート2を設けているが、印刷処理を施した防湿シート3eは美感が向上するから、化粧シート2に代わるものとしても使用することができる。」(摘示事項5-d)と記載されている。
すなわち、刊行物5には、防湿性樹脂31を薄葉紙32a、33aで挟んで成る防湿シート3eを木質系基材に貼着するとともに、木質系基材1の上面に化粧シート2を設け反りを防止した化粧板であって、化粧シート2の代わりに、印刷処理を施した防湿シート3eを使用すると、美感が向上する技術が記載されている。
そうしてみると、引用発明2においても、刊行物5に記載されている、美感が向上するという有利な効果に着想を得て、印刷した化粧シートに代えて、化粧材を構成する紙質系防湿層の紙層の上面に印刷処理を施したものとすることは当業者が容易になし得ることである。
ところで、本願補正発明における、前記印刷絵柄層は前記紙質防湿層の紙層の上面に「予め」設けられた、なる発明特定事項は、製造方法により物を特定する規定となっている。しかしながら、本願補正発明は、「物を生産する方法」の発明ではなく、「物」の発明である。そうすると、製造方法により物を特定する発明特定事項により、本願補正発明が引用発明と「物」として構造等が相違しない限り、その点は同一のものと見るのが相当である。
そして、本願補正発明と、引用発明2に刊行物5に記載の技術を適用して得られた、紙質系防湿層の紙層の上面に印刷処理を施したものとを、当業者の技術常識を参酌して比較してみても、本願補正発明に規定される印刷絵柄層を紙質防湿層の紙層の上面に「予め」設けた発明特定事項によって、両者に「物」としての差異があるとする合理的な理由はない。
よって、引用発明2において、刊行物5に記載の技術を適用して、「印刷絵柄層は前記紙質防湿層の紙層の上面に予め設けられた」と規定することは当業者が容易になし得ることと認められる。

(ウ)効果について
本願補正発明の効果は、本願補正明細書の段落【0027】?【0029】からみて、長期間の使用において干割れや反りの発生が見られず、さらに、耐汚染性、耐擦傷性、耐摩耗性等の表面物性により優れた床材とすることが出来るものである。
これに対し、引用発明2は、「・・・水分や湿度に対する寸法安定性が良く、施工した後に伸縮による段差や隙間、突き上げ等の問題が発生しない木質系化粧板」であるから、反りの発生が見られないものと認められる。そして、本願補正発明は、「・・・貼着される紙質系防湿シートは、熱可塑性合成樹脂層を芯層としてその表裏に紙層が積層一体化されてなる3層構造よりなるため、芯層の熱可塑性合成樹脂層による防湿効果に加えて、表裏面における紙層が干割れの原因となる歪の吸収効果をもつものである。」(段落【0027】)と記載されているところ、引用発明2も、本願補正発明と同じく耐透湿性シートは、3層構造よりなっているのであるから、当然に長期間の使用において干割れや反りの発生が見られない効果を奏するものと認められる。
さらに、引用発明2において、印刷絵柄層の上に、耐摩耗性、対汚染性等の向上のために周知慣用技術である電離放射線硬化性樹脂よりなる表面保護層を設けたのであるから、耐汚染性、耐擦傷性、耐摩耗性等の表面物性により優れた床材となることは当業者が予測し得るものである。
よって、本願補正発明の効果は、引用発明2、刊行物5に記載の技術及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に予測しうる範囲のものである。

(エ)請求人の主張について
請求人は、
i)審判請求書の手続補正書(方式)の「[4]本願発明と引用文献との対比」において、「本願発明は、引用文献1のように、木質系基材下面の紙質系防湿層は安価なシート等でよいものではなく、該基材の上面のみでなく下面の紙質系防湿層も〔紙/オレフィン系樹脂/紙〕の三層構造を必須とした構成とすることで、長期耐久性の向上という課題に対して、木質系基材の膨張・収縮が抑えられるために、長期間の使用において干割れや反りの発生が見られないという、効果が得られる。」(以下、「主張i」という。)
ii)審判請求書の手続補正書(方式)の「[4]本願発明と引用文献との対比」において、「前記印刷絵柄層は前記紙質防湿層の紙層の上面に予め設けられてたものであることによって、均一な色、柄に優れた化粧材を多量にしかも安定して供給することができる構成の化粧材となるので、床材など安価な化粧材となり、引いては天然資源の保護にも繋がるという、効果も得られる。」、さらに回答書の「[3]本願発明と引用文献との対比の[3.2]」において、「しかも、本願の様に、印刷絵柄層を、紙質系防湿層の紙層の上面に予め設けた構成とすることで、2枚の紙層をポリオレフィン系樹脂の押出しコート層を介して接着してなる紙質系防湿シートとなった状態の紙質系防湿層の上面に設けた構成に比べて、たとえ印刷絵柄層印刷時に印刷不良が生じても、積層されてしまっている紙層の2層と押出しコート層との合計3層を無駄にすることなく、紙層の1層のみの無駄で済むという経済的、省資源的な利点を備えた構成となり得ます。」(以下、「主張ii」という。)と主張しているので以下検討する。

・主張i)について
上記「エ」、「(ア)」で述べたように、引用発明2は、本願補正発明と同じく、基材の上面のみでなく下面の紙質系防湿層も〔紙/オレフィン系樹脂/紙〕の三層構造である構成となっている。
よって、請求人の上記主張i)は失当である。

・主張ii)について
上記「(イ)」でも述べたように、本願補正発明は、「物を生産する方法」の発明ではなく、あくまでも「物」の発明である。
そして、上記主張ii)における経済的、省資源的な効果は、「物」の構成に起因する効果ではなく、あくまでも「物を生産する方法」としての効果である。
よって、請求人の上記主張ii)は採用できない。

カ 小括
以上より、本願補正発明は、引用発明2、刊行物5に記載の技術及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

キ 補正案について
請求人は回答書において、「なお、新たな拒絶理由を発せられたときは、本願の特徴的な要件(A)及び(B)について、上記相違点を、より明りょうにする為に、文言上の表現を次の様に補正する意思があります。
『〔請求項1〕 表面側より電離放射線硬化性樹脂よりなる表面保護層、印刷絵柄層、紙質系防湿層、木質系基材、紙質系防湿層の順で積層一体化した積層体において、前記木質系基材が厚さ10?20mmの木質合板よりなり、前記木質系基材の上下面側に設けた紙質系防湿層が2枚の紙層をポリオレフィン系樹脂の押出しコート層を介して接着してなる紙質系防湿シートよりなり、木質系基材の上面側の紙質系防湿シートに於いては、押出しコート層を介して接着される2枚の紙層のうち表面側とする紙層は、前記印刷絵柄層が上面に予め設けられた紙層であることを特徴とする反り防止化粧材。』」と補正案を示している。
しかしながら、上記「オ(イ)、(エ)」でも述べたように、本願補正発明は、「物を生産する方法」の発明ではなく、あくまでも「物」の発明である。そして、この補正案は、印刷絵柄層の印刷時期をより明りょうにするためのものではあるが、本願補正発明と実質的に相違するものでははない。
よって、この補正案の発明も、引用発明2、刊行物5に記載の技術及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
本件補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年9月3日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「表面側より表面保護層、突板、紙質系防湿層、木質系基材、紙質系防湿層の順で積層一体化した積層体において、前記木質系基材が厚さ10?20mmの木質合板よりなり、前記木質系基材の上下面側に設けた紙質系防湿層が2枚の紙層をポリオレフィン系樹脂の押出しコート層を介して接着してなる紙質系防湿シートよりなることを特徴とする反り防止化粧材。」

第4 当審の判断
1 原査定の理由及び刊行物
原査定の理由は、「この出願については、平成19年6月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その拒絶の理由は、「この請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
そして、本願発明は、平成19年9月3日付けの意見書のとおり、「旧請求項1を、旧請求項2(模様形成層が突板)と旧請求項3(熱可塑性樹脂層がポリオレフィン系樹脂)と、旧請求項4の一部(表面保護層)で減縮し、更に木質系基材下面の防湿層も上面側同様の紙質系防湿層に減縮した」ものであるところ、本願発明に対応する旧請求項4に対する拒絶の理由の概要は、「例えば、引用文献2(第4頁第2?6行目)及び引用文献3(【0002】)にも記載されるように、模様層上面に表面保護層を適用し、耐摩耗性等の性能を向上させる技術は周知である。」というものである。

刊行物1:特開平9-314520号公報(拒絶査定時の引用文献1)
刊行物2:実願昭60-98060号(実開昭62-5902号)
のマイクロフィルム(拒絶査定時の引用文献2)
刊行物3:特開平8-58016号公報(拒絶査定時の引用文献3)
刊行物4:特開平9-188997号公報(前置審尋時の引用文献7、
周知技術であることを補完するための文献)

2 刊行物の記載
上記刊行物1ないし4は、それぞれ上記「第2 2(2)イ」の刊行物1ないし4である。そして、それらの記載事項は、上記「第2 2(2)ウ」に記載したとおりである。

3 刊行物に記載された発明
上記「第2 2(2)エ」に示したとおり、刊行物1には、引用発明1が記載されている。

4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「MDF」、「木質系化粧板」は、それぞれ本願発明の「木質系基材」、「化粧材」に相当する。また、引用発明1の「ポリプロピレン、ポリエチレン」、「強化紙」、「T型ダイスで・・・流し込み」は、各々本願発明の「ポリオレフィン系樹脂」、「紙層」、「押出しコート」に相当する。そうすると、引用発明1の「耐透湿性シート」は、本願発明の「紙質系防湿層」に相当する。
さらに、引用発明1の「水分や湿度に対する寸法安定性が良く、施工した後に伸縮による段差や隙間、突き上げ等の問題が発生しない」とは、本願発明の「反り防止」と同義である。
そうすると、両者は、
「表面側より突板、紙質系防湿層、木質系基材、紙質系防湿層の順で積層一体化した積層体において、前記木質系基材が厚さ12mmの木質合板よりなり、前記木質系基材の上下面側に設けた紙質系防湿層が2枚の紙層をポリオレフィン系樹脂の押出しコート層を介して接着してなる紙質系防湿シートよりなる反り防止化粧材。」である点で一致し、下記の点で相違する
i’)本願発明は、印刷絵柄層の上に「電離放射線硬化性樹脂よりなる表面保護層」が設けられていると規定されているのに対し、引用発明1はそのような規定がされていない点(以下、「相違点i’)」という。)

(2)相違点i’の検討
刊行物2(摘示事項2-a、2-b)、刊行物3(摘示事項3-a)又は刊行物4(摘示事項4-a?摘示事項4-c)に示すように、耐摩耗性、耐汚染性等を向上させるために、突板や絵柄印刷した化粧シート等の化粧シートの表面に電離放射線硬化性樹脂等の表面保護層を設けることは周知慣用技術であるから、引用発明1においても、耐摩耗性、耐汚染性等を向上させるために、突板の上に電離放射線硬化性樹脂よりなる表面保護層を設けることは当業者が容易になし得ることである。

(3)効果の検討
本願発明の効果は、本願明細書の段落【0027】?【0029】からみて、長期間の使用において干割れや反りの発生が見られず、さらに、耐汚染性、耐擦傷性、耐摩耗性等の表面物性により優れた床材とすることができるものである。
しかしながら、本願補正の効果は、上記「第2 2(2)オ(ウ)」に示したのと同様、引用発明1及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に予測しうる範囲のものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、本願は、その余を検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-24 
結審通知日 2010-11-30 
審決日 2010-12-13 
出願番号 特願平10-164171
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B32B)
P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河原 肇  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 木村 敏康
細井 龍史
発明の名称 反り防止化粧材  
代理人 金山 聡  

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