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審決分類 審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1231411
審判番号 不服2008-1898  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-24 
確定日 2011-02-04 
事件の表示 特願2005- 7299「老年症候群の危険性の判定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月25日出願公開、特開2005-228305〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年1月14日(優先権主張平成16年1月15日)の出願であって、平成19年12月17日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成20年1月24日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同年2月25日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明が特許法の定める「発明」に該当するかについて
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年2月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「下記条件1?21:
1.ふだん、自分は健康でないと思う。
2.現在、複数種類の薬を飲んでいる。
3.この1年間に入院したことがある。
4.この1年間に転んだことがある。
5.現在、転ぶのが怖いと感じる。
6.ひとりで外出又は遠出することができない。
7.不自由なくひとりで所定距離を続けて歩くことができない。
8.不自由なくひとりで階段の上り下りができない。
9.物につかまらないで、つま先立ちができない。
10.トイレに行くのに間に合わなくて、失敗することがある。
11.尿がもれることがある。
12.趣味や稽古ごとをしない。
13.肉類、卵、魚介類、又は牛乳のいずれも食べない日がある。
14.現在、食事づくりを行う日が、1週間に3日以下である。
15.これまでやってきたことや、興味があったことの多くを、最近やめてしまった。
16.貯金の出し入れや公共料金の支払い、家計のやりくりができない。
17.自分で電話番号を調べて、電話をかけることができない。
18.薬を決まった分量、決まった時間に、自分で飲むことができない。
19.握力が、予め統計学的に決定した閾値未満である。
20.目を開いて片足で立つことができる時間が、予め統計学的に決定した閾値未満である。
21.所定距離を普通に歩くときの所要時間が、予め統計学的に決定した閾値以上である。
に基づいて、身体虚弱、転倒、尿失禁、低栄養、及び軽度の痴呆のリスクを包括的に判定する方法であって、
(A)前記身体虚弱に関して、
(A1)前記条件1、6、7、9、10、12?14、16、17、及び19?21からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ、
(A2)条件1、7、9、10、12?14、及び17からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数a1を与え、条件16、19、及び20からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数b1を与え、条件6及び21からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数c1を与え(但し、a1<b1<c1であるものとする)、その合計点が予め設定した閾値以上である
場合に、身体虚弱のリスクがあると判定し、
(B)前記転倒に関して、
(B1)前記条件2?6、9、10、13、15、及び19?21からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ、
(B2)条件2、3、6、9、10、13、及び15からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数a2を与え、条件5、19、及び20からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数b2を与え、条件4及び21からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数c2を与え(但し、a2<b2<c2であるものとする)、その合計点が予め設定した閾値以上である
場合に、転倒のリスクがあると判定し、
(C)前記尿失禁に関して、
(C1)前記条件1、4?6、8?11、15?17、19、及び21からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ、
(C2)条件1、4?6、8、9、15、及び16からなる群から選択される条件を満足する場合、あるいは、条件11を満足し、且つ尿がもれる回数が1週間に1回未満である場合、満足した条件毎に点数a3を与え、条件17、19、及び21からなる群から選択される条件を満足する場合、あるいは、条件11を満足し、且つ尿がもれる回数が1週間に1回以上である場合、満足した条件毎に点数b3を与え、条件10を満足する場合、点数c3を与え(但し、a3<b3<c3であるものとする)、その合計点が予め設定した閾値以上である
場合に、尿失禁のリスクがあると判定し、
(D)前記低栄養に関して、
(D1)前記条件3、4、12?14、16、及び19?21からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ、
(D2)条件13、14、及び16からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数a4を与え、条件3、4、12、19、及び20からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数b4を与え、条件21を満足する場合、点数c4を与え(但し、a4<b4<c4であるものとする)、その合計点が予め設定した閾値以上である
場合に、低栄養のリスクがあると判定し、
(E)前記軽度の痴呆に関して、
(E1)前記条件6及び16?18からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ
(E2)条件6及び16?18からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数a5を与え、その合計点が予め設定した閾値以上である場合に、軽度の痴呆のリスクがあると判定する
ことを特徴とする、前記判定方法。」

ここで、特許法第29条第1項柱書きには「産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。」と規定され、特許法第2条第1項に「この法律で『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定められている。
そこで、本願発明が特許法の定める「発明」、すなわち「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するかどうかを検討する。
本願発明は、問診を受ける人間が自らの健康状態について条件1?21に該当するかどうかを何らかの手段を用いて回答し、その回答内容に基づいて予め定めておいた所定の点数を与え、その合計点数により、身体虚弱、転倒、尿失禁、低栄養、及び軽度の痴呆のリスクを判定するものである。本件審判請求人は審判請求の理由において、本願発明は「本願発明者等が有する、多人数かつ長期間に亘る膨大なデータを統計学的に解析することにより、初めて明らかとなった」条件1?21という、「判定対象者の状態を科学的かつ客観的に示すことのできる検出指標」に基づいて、「身体虚弱、転倒、尿失禁、低栄養、及び軽度の痴呆」という5種類の老年症候群のリスクの有無、あるいは程度を算出するものであるから、単なる人為的取り決めではなく、自然法則を利用するものであると主張する。しかしながら、上記条件と上記老年症候群のリスクとの関連付けそれ自体は、多数の問診及びその後の診断の結果得られた医師による経験則ないし医学的知識を利用した人間の精神活動をいわば、独自の計算方法を施して具現化したものであるといえ、数学的方法・計算方法であり、特許法でいう自然法則を利用した「技術」的思想の創作とはいえない。そして、上記関連付けを用いてリスクを判定する方法である本願発明は、全体としてみれば人間の医学的知識そのものを対象とした数学的解法の創作、換言すれば医師などの経験ないし知識に基づいて創作された取り決めの数学的解法であるという他はなく、自然法則を利用した技術的思想の創作ということはできない。
また、本願発明が、条件1?21に基づいて5種類の老年症候群のリスクを包括的に判定することができるという格別の効果があるとしても、上記効果は、特許法でいう自然法則の利用とは別の医師による経験則ないし医学知識を前提とした効果にすぎない。

次に、一般にコンピュータ・ソフトウェアを利用した創作は、特許法第2条第1項で定められた「自然法則を利用した技術的思想の創作」であると評価されうるが、本願発明の「老年症候群の危険性の判定方法」は、例えば紙に書かれた21の質問事項について被験者が回答した内容を見て、人間がコンピュータを全く用いずに安易な計算でリスクの判定結果を得ることができることからも明らかなように、コンピュータ・ソフトウェアを利用して判定を行う方法に限定された発明ではなく、さらにコンピュータ・ソフトウェアを利用することによって初めて有用な意義を有するに至る発明であるともいえないから、本願発明はコンピュータ・ソフトウェアを利用した創作、すなわち「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるともいえない。

したがって、本願発明は、特許法第2条第1項が定める「発明」に該当するとはいえず、よって、本願発明は、特許法第29条第1項柱書きの規定により特許を受けることができない。

3.本願発明が進歩性を有するかについて
仮に、本願発明が特許法第2条第1項の定める「発明」に該当するとした場合に、本願発明が進歩性を有するかどうか、以下に検討する。

(1)本願発明
本願発明は、平成20年2月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記2.に記載したとおりのものである。

(2)引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された「特開2002-41663号公報」(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インターネットを用いて健康管理の支援を行うインターネットを用いた健康管理支援システム及びその方法に係わる。
【0002】
【従来の技術】従来、被験者に対して健康管理の支援サービスを行う場合、アンケート用紙を被験者に対して配布し、このアンケート用紙の回答内容に基づいてコンピュータ処理により健康管理指導を導出し、紙面により健康管理指導を被験者に報告していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このような支援サービスの形態では、以下に示す不都合が生じる。被験者は原則としてすべてのアンケートに回答しなければならない。またアンケートの配布を受けてから健康管理指導を受け取るまでのタイムラグは非常に大きい。
【0004】本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、被験者が簡便に利用可能なインターネットを用いた健康管理支援システム及びその方法を提供することにある。」

(イ)「【0005】
【課題を解決するための手段】この発明の第1の観点によれば、インターネットを用いて健康管理の支援サービスを行う健康管理支援システムであって、被験者に対してインターネットを介して健康管理を行うための質問を送信し、回答を促す健康管理情報処理部と、前記被験者からインターネットを介して送信された回答に基づいて健康管理指導を導出し、該健康管理指導を被験者にインターネットを介して送信する健康管理指導報告情報生成部とを具備してなることを特徴とするインターネットを用いた健康管理支援システムが提供される。
【0006】ここで、健康管理には、例えば高血圧等の病気に直結するような被験者の状態を管理して健康を保持することのみならず、病気を予防するための生活習慣の改善も含まれる。
【0007】また、健康管理指導とは、例えば被験者の健康度の評価や被験者に必要な保健行動の勧告等が含まれる。」

(ウ)「【0022】健康管理情報データベース132はさらに、回答判定重み情報データテーブル132a,回答判定情報データベース132b及び検査値判定情報データベース132cから構成される。回答判定情報データテーブル132aは、図7に示すように、被験者から取得された回答情報(各回答を症状1?mとする)と、被験者に提供する健康管理指導の要素としての病態1?nについて、それぞれマトリクス状に重み情報が与えられている。回答判定情報データベース132bは、図2(c)に示すように、被験者について導出された各病態1?nに対する重み合計値に対する回答判定情報が対応づけられて格納されている。検査値判定情報データベース132cは、図2(d)に示すように、被験者から取得された検査値に対する検査値判定情報が対応づけられて格納されている。」

(エ)「【0032】特殊数値診断法とは、症状と病態とからなるマトリクスに固有の数値を配し、病態毎に数値の合計の大きさの順に罹患確率を計算する手法である。具体的な罹患確率計算のためのマトリクスの一例を図7に示す。図7に示すように、症状i、病態jに対して重み情報a_(ij)が与えられている。ここで、重み情報a_(ij)は病態jに対する症状iの重み情報であり、以下の式(1)、(2)を満たす。
【0033】
【数1】

【0034】例えば、各症状iには、各質問項目毎にYesと回答した場合には1を、Noと回答した場合には0を割り当てる。この割当て値を症状値r_(i)とする。そして、割り当てた数値に重み情報a_(ij)を乗算する。このような乗算処理を症状1?mまで行い、各病態毎に重み情報を加算する。その加算した合計値が各病態の評価値となる。病態jの評価値s_(j)は、
s_(j)=a_(1j)×r_(1)+a_(2j)×r_(2)+…+a_(ij)×r_(i)+…+a_(mj)×r_(m)となる。
【0035】より具体的な評価値算出例を図8を用いて説明する。図8に示すように、回答判定重み情報データテーブル132aで、例えば病態“高血圧症1”に対して、症状13“よく口が?”、症状14,15,20に重み情報0.24が与えられ、症状45に重み情報0.04が割り当てられ、他の症状の重み情報は0であるとする。ここで、例えば被験者端末2からの回答情報が、症状13,14に対してYesが、症状15,20,45にNoであった場合、病態“高血圧症1”の評価値s_(1)は、s_(1)=0.24×2=0.48となる。ここで、回答判定情報データベース132b内の“高血圧症1”の評価導出範囲は、?0.3未満が正常、0.3以上0.5未満が危険、0.5以上が確定であるとすると、0.3<0.48<0.5である。従って、病態“高血圧症1”については、被験者は危険であると判定される。
【0036】以上の回答判定結果導出後、検査値判定結果の導出を行う。検査値判定結果の導出は、被験者端末2から取得された検査値と検査値判定情報データベース132cの検査値判定情報を照合し、その検査値に対応する検査値判定情報を抽出する。例えば、被験者から取得された最高血圧が160の場合、検査値判定情報データベース132cには最高血圧に対応して与えられた検査値判定情報は140未満は正常、140以上160未満は境界域、160以上は高血圧である。この場合、被験者の判定は高血圧という判定結果が導出される。このような検査値判定情報の抽出を各検査値に対して行い、検査値判定結果が得られる。」

上記(ア)乃至(エ)及び関連する図面の記載事項によれば、引用例1には以下の発明(以下「引用例1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
「被験者の症状1?mに基づいて、被験者に提供する健康管理指導の要素としての病態1?nについて判定する方法であって、
各症状iには、各質問項目毎にYesと回答した場合には1を、Noと回答した場合には0を割り当て、この割当て値を症状値r_(i)とし、割り当てた数値に重み情報a_(ij)を乗算し、このような乗算処理を症状1?mまで行い、各病態毎に重み情報を加算し、その加算した合計値を各病態の評価値とし、上記各病態の評価値と各病態の評価導出範囲(例えば病態『高血圧症1』については『?0.3未満が正常、0.3以上0.5未満が危険、0.5以上が確定』)とを比較することによって各病態について判定する判定方法。」

(3)対比
本願発明と引用例1記載の発明を対比すると、以下の対応関係が認められる。
(あ)本願発明の条件1?21と、引用例1記載の発明の「被験者の症状1?m」とは、ともに「被験者の症状」である点で共通する。
(い)本願発明の「身体虚弱、転倒、尿失禁、低栄養、及び軽度の痴呆のリスク」と、引用例1記載の発明の「被験者に提供する健康管理指導の要素としての病態1?n」とは、ともに「被験者の病態」である点で共通する。
(う)本願発明の「満足した条件毎に点数を与え、その合計点が予め設定した閾値以上である場合に、身体虚弱等のリスクがあると判定する」ことと、引用例1記載の発明の「各質問項目毎にYesと回答した場合には1を、Noと回答した場合には0を割り当て、この割当て値を症状値r_(i)とし、割り当てた数値に重み情報a_(ij)を乗算し、このような乗算処理を症状1?mまで行い、各病態毎に重み情報を加算し、その加算した合計値を各病態の評価値とし、上記各病態の評価値と各病態の評価導出範囲とを比較することによって各病態について判定する」こととは、ともに、「被験者の症状ごとに所定の点数を与え、その合計点と被験者の病態ごとに予め設定した値とを比較することで、上記被験者の病態を判定する」点で共通する。

したがって、本願発明と引用例1記載の発明との間には、以下の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「被験者の症状に基づいて、被験者の病態を判定する方法であって
被験者の症状ごとに所定の点数を与え、その合計点と被験者の病態ごとに予め設定した値とを比較することで、上記被験者の病態を判定する判定方法」である点。
(相違点1)
本願発明においては、被験者の症状は
「下記条件1?21:
1.ふだん、自分は健康でないと思う。
2.現在、複数種類の薬を飲んでいる。
3.この1年間に入院したことがある。
4.この1年間に転んだことがある。
5.現在、転ぶのが怖いと感じる。
6.ひとりで外出又は遠出することができない。
7.不自由なくひとりで所定距離を続けて歩くことができない。
8.不自由なくひとりで階段の上り下りができない。
9.物につかまらないで、つま先立ちができない。
10.トイレに行くのに間に合わなくて、失敗することがある。
11.尿がもれることがある。
12.趣味や稽古ごとをしない。
13.肉類、卵、魚介類、又は牛乳のいずれも食べない日がある。
14.現在、食事づくりを行う日が、1週間に3日以下である。
15.これまでやってきたことや、興味があったことの多くを、最近やめてしまった。
16.貯金の出し入れや公共料金の支払い、家計のやりくりができない。
17.自分で電話番号を調べて、電話をかけることができない。
18.薬を決まった分量、決まった時間に、自分で飲むことができない。
19.握力が、予め統計学的に決定した閾値未満である。
20.目を開いて片足で立つことができる時間が、予め統計学的に決定した閾値未満である。
21.所定距離を普通に歩くときの所要時間が、予め統計学的に決定した閾値以上である。」
の条件1?21であるのに対し、引用例1記載の発明においては被験者の症状は上記条件1?21ではない点。

(相違点2)
本願発明においては、被験者の病態は「身体虚弱、転倒、尿失禁、低栄養、及び軽度の痴呆のリスク」であるのに対し、引用例1記載の発明においては被験者の病態は「身体虚弱、転倒、尿失禁、低栄養、及び軽度の痴呆のリスク」ではない点。

(相違点3)
本願発明においては、被験者の症状(条件1?21)から被験者の病態(身体虚弱、転倒、尿失禁、低栄養、及び軽度の痴呆のリスク)を判定するのに
「(A)前記身体虚弱に関して、
(A1)前記条件1、6、7、9、10、12?14、16、17、及び19?21からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ、
(A2)条件1、7、9、10、12?14、及び17からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数a1を与え、条件16、19、及び20からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数b1を与え、条件6及び21からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数c1を与え(但し、a1<b1<c1であるものとする)、その合計点が予め設定した閾値以上である
場合に、身体虚弱のリスクがあると判定し、
(B)前記転倒に関して、
(B1)前記条件2?6、9、10、13、15、及び19?21からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ、
(B2)条件2、3、6、9、10、13、及び15からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数a2を与え、条件5、19、及び20からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数b2を与え、条件4及び21からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数c2を与え(但し、a2<b2<c2であるものとする)、その合計点が予め設定した閾値以上である
場合に、転倒のリスクがあると判定し、
(C)前記尿失禁に関して、
(C1)前記条件1、4?6、8?11、15?17、19、及び21からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ、
(C2)条件1、4?6、8、9、15、及び16からなる群から選択される条件を満足する場合、あるいは、条件11を満足し、且つ尿がもれる回数が1週間に1回未満である場合、満足した条件毎に点数a3を与え、条件17、19、及び21からなる群から選択される条件を満足する場合、あるいは、条件11を満足し、且つ尿がもれる回数が1週間に1回以上である場合、満足した条件毎に点数b3を与え、条件10を満足する場合、点数c3を与え(但し、a3<b3<c3であるものとする)、その合計点が予め設定した閾値以上である
場合に、尿失禁のリスクがあると判定し、
(D)前記低栄養に関して、
(D1)前記条件3、4、12?14、16、及び19?21からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ、
(D2)条件13、14、及び16からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数a4を与え、条件3、4、12、19、及び20からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数b4を与え、条件21を満足する場合、点数c4を与え(但し、a4<b4<c4であるものとする)、その合計点が予め設定した閾値以上である
場合に、低栄養のリスクがあると判定し、
(E)前記軽度の痴呆に関して、
(E1)前記条件6及び16?18からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ
(E2)条件6及び16?18からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数a5を与え、その合計点が予め設定した閾値以上である場合に、軽度の痴呆のリスクがあると判定する」
というように包括的に判定するのに対し、引用例1記載の発明においては上記のように包括的に判定しない点。

(4)判断
(相違点1)について
引用例1記載の発明が利用する「被験者の症状1?m」は、その具体的な例が引用例1の図8に以下のように示されている。
(オ)「 ・・・
13 よく口がもつれることがある
14 脈と同じリズムで耳鳴りがする
15 体がフラッとする程度のめまいがする
16 階段を上がるとき息切れや動悸がする
・・・
20 頭が重い感じがする
21 頭痛がする(特に後頭部)
・・・
45 血圧を下げる薬をのんだことがある
46 脳卒中にかかったことがある
・・・」

被験者の病態を判定するために、被験者のどの症状に基づいて行うかは、多数の問診及びその後の診断の結果得られた医師による経験則ないし医学的知識に基づいて、最終的に当業者が取り決める事項である。それが多人数かつ長期間に亘る膨大なデータを統計学的に解析することにより、初めて明らかになるような事項であったとしても、結局は、統計の結果などに基づいて取り決められる事項であるといえる。そして、引用例1には以下のようにも記載されている。
(カ)「【0041】健康管理サービスの提供終了後、サーバ1はさらに利用者登録情報に基づいて健康管理情報の更新等を行うことができる(s13)。プロセッサ12内に設けられた情報更新処理部124は、複数の被験者端末2に対して健康管理サービスを提供した後、被験者端末2毎に関連づけられ、被験者端末2の回答により取得された健康管理情報に基づいて統計計算を行い、健康管理指導の生成アルゴリズムを変更することができる。例えば、質問内容の内、質問1,3,8について「いいえ」と回答した被験者端末2について同じような症状、病気が発現する確率が高いことが判断された場合、質問1,3,8について「いいえ」と回答した場合の健康管理指導報告画面に、その発現する確率が高い症状、病気等の警告メッセージを追加することができる。また、発現する確率が高い場合、各質問内容(症状i)に対する重み情報a_(ij)を高めることもできる。もちろん、このような情報更新を行う前に、被験者登録情報から健康管理指導生成に不要な氏名等の個人情報を除いた被験者の回答情報等を抽出し、これに基づいて統計情報データベース134に蓄積してもよい。」

上記(カ)の記載によれば、引用例1には、被験者の回答により取得された健康管理情報などの統計情報に基づいて、健康管理指導の生成アルゴリズムを変更することが開示されていると認められる。そして上記記載を参酌すれば、引用例1記載の発明において、統計などの情報に基づいて被験者の症状と病態の関連付けや重み情報を適宜変更することは当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
してみると、引用例1記載の発明の被験者の症状1?mとして、上記(オ)に例示される症状を採用する代わりに、下記条件1?21を採用することは、当業者が統計などの情報に基づいて適宜なし得る設計的事項であるといえるから、引用例1記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
「下記条件1?21:
1.ふだん、自分は健康でないと思う。
2.現在、複数種類の薬を飲んでいる。
3.この1年間に入院したことがある。
4.この1年間に転んだことがある。
5.現在、転ぶのが怖いと感じる。
6.ひとりで外出又は遠出することができない。
7.不自由なくひとりで所定距離を続けて歩くことができない。
8.不自由なくひとりで階段の上り下りができない。
9.物につかまらないで、つま先立ちができない。
10.トイレに行くのに間に合わなくて、失敗することがある。
11.尿がもれることがある。
12.趣味や稽古ごとをしない。
13.肉類、卵、魚介類、又は牛乳のいずれも食べない日がある。
14.現在、食事づくりを行う日が、1週間に3日以下である。
15.これまでやってきたことや、興味があったことの多くを、最近やめてしまった。
16.貯金の出し入れや公共料金の支払い、家計のやりくりができない。
17.自分で電話番号を調べて、電話をかけることができない。
18.薬を決まった分量、決まった時間に、自分で飲むことができない。
19.握力が、予め統計学的に決定した閾値未満である。
20.目を開いて片足で立つことができる時間が、予め統計学的に決定した閾値未満である。
21.所定距離を普通に歩くときの所要時間が、予め統計学的に決定した閾値以上である。」

(相違点2)について
上記「(相違点1)について」に記載したように、引用例1記載の発明において、統計などの情報に基づいて被験者の症状と病態の関連付けや重み情報を適宜変更することは当業者が容易に想到し得たことであるといえる。してみると、引用例1記載の発明の被験者の病態1?nとして、「身体虚弱、転倒、尿失禁、低栄養、及び軽度の痴呆のリスク」を採用することは、当業者が統計などの情報に基づいて適宜なし得る設計的事項であるといえるから、引用例1記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点3)について
引用例1記載の発明は、「各症状iには、各質問項目毎にYesと回答した場合には1を、Noと回答した場合には0を割り当て、この割当て値を症状値r_(i)とし、割り当てた数値に重み情報a_(ij)を乗算し、このような乗算処理を症状1?mまで行い、各病態毎に重み情報を加算し、その加算した合計値を各病態の評価値とし、上記各病態の評価値と各病態の評価導出範囲(例えば病態『高血圧症1』については『?0.3未満が正常、0.3以上0.5未満が危険、0.5以上が確定』)とを比較することによって各病態について判定する」ものであるが、上記「(相違点1)について」に記載したように、引用例1記載の発明において、統計などの情報に基づいて被験者の症状と病態の関連付けや重み情報を適宜変更することは当業者が容易に想到し得たことであるといえる。してみると、引用例1記載の発明において、被験者の症状として上記「(相違点1)について」に記載した条件1?21、被験者の病態として上記「(相違点2)について」に記載した「身体虚弱、転倒、尿失禁、低栄養、及び軽度の痴呆のリスク」をそれぞれ採用した場合、下記のように包括的に判定することは、当業者が統計などの情報に基づいて適宜なし得る設計的事項であるといえるから、引用例1記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
「(A)前記身体虚弱に関して、
(A1)前記条件1、6、7、9、10、12?14、16、17、及び19?21からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ、
(A2)条件1、7、9、10、12?14、及び17からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数a1を与え、条件16、19、及び20からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数b1を与え、条件6及び21からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数c1を与え(但し、a1<b1<c1であるものとする)、その合計点が予め設定した閾値以上である
場合に、身体虚弱のリスクがあると判定し、
(B)前記転倒に関して、
(B1)前記条件2?6、9、10、13、15、及び19?21からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ、
(B2)条件2、3、6、9、10、13、及び15からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数a2を与え、条件5、19、及び20からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数b2を与え、条件4及び21からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数c2を与え(但し、a2<b2<c2であるものとする)、その合計点が予め設定した閾値以上である
場合に、転倒のリスクがあると判定し、
(C)前記尿失禁に関して、
(C1)前記条件1、4?6、8?11、15?17、19、及び21からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ、
(C2)条件1、4?6、8、9、15、及び16からなる群から選択される条件を満足する場合、あるいは、条件11を満足し、且つ尿がもれる回数が1週間に1回未満である場合、満足した条件毎に点数a3を与え、条件17、19、及び21からなる群から選択される条件を満足する場合、あるいは、条件11を満足し、且つ尿がもれる回数が1週間に1回以上である場合、満足した条件毎に点数b3を与え、条件10を満足する場合、点数c3を与え(但し、a3<b3<c3であるものとする)、その合計点が予め設定した閾値以上である
場合に、尿失禁のリスクがあると判定し、
(D)前記低栄養に関して、
(D1)前記条件3、4、12?14、16、及び19?21からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ、
(D2)条件13、14、及び16からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数a4を与え、条件3、4、12、19、及び20からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数b4を与え、条件21を満足する場合、点数c4を与え(但し、a4<b4<c4であるものとする)、その合計点が予め設定した閾値以上である
場合に、低栄養のリスクがあると判定し、
(E)前記軽度の痴呆に関して、
(E1)前記条件6及び16?18からなる群から選択される条件の内、少なくとも2つを満足し、且つ
(E2)条件6及び16?18からなる群から選択される条件を満足する場合、満足した条件毎に点数a5を与え、その合計点が予め設定した閾値以上である場合に、軽度の痴呆のリスクがあると判定する」

したがって、本願発明は、引用例1記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項柱書きの規定により特許を受けることができず、また特許法第29条第2項の規定によっても特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-01 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-20 
出願番号 特願2005-7299(P2005-7299)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
P 1 8・ 1- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 篠原 功一  
特許庁審判長 田口 英雄
特許庁審判官 池田 聡史
長島 孝志
発明の名称 老年症候群の危険性の判定方法  
代理人 山口 健次郎  
代理人 森田 憲一  

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