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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1231437
審判番号 不服2009-14963  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-18 
確定日 2011-02-04 
事件の表示 特願2005-237663「トナーの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月 1日出願公開、特開2007- 52274〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年8月18日の出願であって、平成21年6月9日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

2.平成21年8月18日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年8月18日付の手続補正を却下する。
[理由]
平成21年8月18日付け手続補正により、新たに請求項2が付け加えられ、さらに、補正前の請求項2は請求項3とされて、特許請求の範囲は請求項1?請求項3の総計3項となった。
しかしながら、当該、新たに請求項2を付け加える補正は、特許請求の範囲の限縮にはあたらない。
また、上記補正は請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものでもないから、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成21年8月18日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成20年12月22日付手続補正により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
テトラヒドロフラン不溶解分を0.5重量%以上30重量%以下含む架橋ポリエステル樹脂と着色剤とを乾式混練し、得られた樹脂混練物をポリアクリル酸塩含有水溶液と混合するとともに加熱または加圧下に加熱して該混合物中に着色剤含有樹脂粒子を生成させ、ついで該混合物を冷却し、着色剤含有樹脂粒子を分離することを特徴とするトナーの製造方法。」
(以下、「本願発明」という。)

4.引用刊行物記載の発明

4-1.引用例1記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-127752号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。

[1a]「2.特許請求の範囲
1)クロロホルム不溶分が5重量%以上のポリエステルを主構成樹脂とするトナー用バインダー樹脂中にトナー成分を含有させてトナー原料を得る工程と、
このトナー原料を液体分散媒中に分散させてなる分散系を、前記トナー原料が溶融する温度以上の温度に加熱した状態で、当該分散系に剪断力を加えて、分散された前記トナー原料を分割する工程を含むことを特徴とする静電像現像用トナーの製造方法。
2)液体分散媒が分散安定剤を含有する特許請求の範囲第1項記載の静電像現像用トナーの製造方法。
3)分散されたトナー原料を分割する工程で得られた分散液を冷却した後大量の不溶性液体と混合してサスペンジョンを形成させ、その後トナー微粒子を分離する工程を含む特許請求の範囲第1項記載の静電像現像用トナーの製造方法。
4)液体分散媒が水系分散媒であり、分散安定剤が界面活性剤、水溶性高分子物質および無機塩類から選ばれた少なくとも1種である特許請求の範囲第1項記載の静電像現像用トナーの製造方法。」(特許請求の範囲・第1?4項)

[1b]
「3.発明の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
本発明は、電子写真法、静電印刷法、静電記録法などにおいて形成される静電潜像を現像するためのトナーの製造方法に関するものである。
〔発明の背景〕
・・・
しかして、熱ローラ定着方式においてトナー像の定着を高速で行うためには、現像に供されるトナーが良好な低温定着性を有することが要求され、そのためにはトナー用バインダー樹脂の軟化点を低下させる必要がある。しかしながら、このバインダー樹脂の軟化点を低下させると、定着時に像を構成するトナーの一部が熱ローラの表面に転移し、これが次に送られて来る転写紙などに再転移して画像を汚す、いわゆるオフセット現象が生じやすくなる傾向がある。
〔発明が解決しようとする問題点〕
これに対して、クロロホルム不溶分が5重量%以上のポリエステルをバインダー樹脂として用いる技術手段が開発された。・・・
この技術手段は、バインダー樹脂においてクロロホルム不溶分すなわち高分子量部分を特定以上の割合で有するものとすることにより、溶融時の凝集エネルギーを高めて非オフセット性を得ようとするものである。
一方、トナーとしては、一般にその平均粒径が約10μm程度のものが用いられているが、最近において特にその必要性が高まっている高画質画像を形成したり、あるいは色重ねによる多色カラー画像を鮮明に形成するためには、トナーとして平均粒径が数μm程度に微細化されたものを用いることが必要である。」
(1頁右下欄16行?2頁左下欄2行)

[1c]
「〔発明の目的〕
本発明は以上の如き事情に基いてなされたものであって、その目的は、非オフセット性および低温定着性が優れているうえ、小径でかつ粒子径が揃っていて黒色画像あるいは多色カラー画像を高画質で形成することができる静電像現像用トナーを高い収率で得ることができる静電像現像用トナーの製造方法を提供することにある。
〔問題点を解決するための手段〕
・・・
〔作用〕
本発明においてトナー用バインダー樹脂として用いるポリエステルは特定割合以上のクロロホルム不溶分を含み通常の機械的な粉砕方法によっては微粉砕しにくいものであるが、本発明の方法によれば、トナー用バインダー樹脂中にトナー成分を含有させてトナー原料を得、このトナー原料を、液体分散媒中に分散してこれを特定の温度以上の温度に加熱しながら剪断力を加えて当該トナー原料を分割してトナー粒子を得るため、平均粒径が数μm程度でしかも粒子径の揃ったトナー粒子を高い収率で得ることができる。すなわちトナー原料の分割工程においては、加熱と剪断力によりトナー原料の微小液滴が形成されるが、これらの微小液滴の周囲にはこれを溶解しない液体分散媒が存在しているので、剪断力によるトナー原料の分割と、溶融したトナー原料の液滴の合体という相反する現象が同時に進行し、従って過大粒子が優先的に剪断力の作用を受けて分割されると共に、過小粒子は互いに集合して合体するようになるので、平衡状態においては剪断力の大きさに応じて、平均粒径が数μmと小径でしかも極めて粒子径の揃った液滴が形成されることとなり、結局小径のトナー粒子を効率的に得ることができる。しかも各液滴は、液体分散媒中において液滴自身の凝集力により球形となるので、得られるトナー粒子も球形となる。従ってトナー粒子を特に球形化するための別工程を必要とせず分割工程において同時にトナーの球形化を達成することができ、球形のトナー粒子を有利に得ることができる。
そして得られるトナーにおいては、トナー用バインダー樹脂が、クロロホルム不溶分すなわち高分子量成分を特定割合以上含むポリエステルを主構成樹脂としてなるものであるので、溶融時の弾性が高くて優れたオフセット防止性能が得られると共に、溶融時の転写紙に対する漏れ性がよいうえ当該ポリエステルは軟化点の低いものとすることが容易であるので十分な低温定着性を得ることができる。そして得られるトナー粒子は球形であるので流動性が高く、現像時においては潜像担持体へのトナーの付着量が高くてコントラストの優れた画像を形成することが可能である。」
(3頁左上欄6行?同頁右下欄5行)

[1d]
「液体分散媒としては、トナー用バインダー樹脂が通常親油性であることから、水またはアルコールを主成分とし、必要に応じて少量の他の成分が含有されたいわゆる水系分散媒を一般に好ましく用いることができる。この分散媒中には、通常分散安定剤を含有させることが好ましく、この分散安定剤としては界面活性剤、水溶性高分子物質、無機塩類等のうちから選んだものを好ましく用いることができる。
・・・
以上の処理により、トナー原料は分散系において数μm程度の粒子径に分割され、そしてこの分割された溶融粒子が液体分散媒中に分散して存在する分散液が得られるから、この分散液を冷却し、その後当該分散液を大量の不溶性液体中に投入し、あるいは当該分散液中に大量の不溶性液体を加えてサスペンシジョンを形成させ、このサスペンジョンについて固液分離操作を施して固形物であるトナー粒子を得る。
・・・
この後段の処理において用いる不溶性液体としては、分散系のための液体分散媒として用いたものと同じ液体、あるいは液体分散媒として用いたものに溶解するがトナー原料を溶解しない他の液体が用いられる。
液体分散媒中に添加される安定剤の具体例としては、次のものを挙げることができる。○界面活性剤
・・・
○水溶性高分子物質 メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、ポリアクリル酸およびその塩、ポリビニルアルコール、・・・
○無機塩類
・・・
以上の如き分散安定剤はその1種または2種以上を組合わせて用いることができる。」
(3頁右下欄末行?5頁右上欄9行)

[1e]
「本発明においては、前記トナー用バインダー樹脂の主構成樹脂として、クロロホルム不溶分が5重量%以上のポリエステルを用いる。
・・・
前記ポリエステル樹脂としては、以上の二官能性単量体のみによる重合体のみでなく、三官能以上の多官能性単量体による成分を含有する重合体を用いることも好適である。斯かる多官能性単量体である三価以上の多価アルコール単量体としては、例えばソルビトール、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、・・・
三価以上の多価カルボン酸単量体としては、例えば1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、・・・およびこれらの酸無水物、その他を挙げることができる。
・・・
本発明において用いるポリエステル樹脂は、クロロホルム不溶分が5重量%以上、好ましくは5?30重量%のものである。クロロホルム不溶分が過小のポリエステル樹脂をバインダー樹脂として用いる場合には、十分な非オフセット性を得ることができない。またクロロホルム不溶分が過大のときにはトナーの軟化点が高くなるので十分な低温定着性が得られない場合がある。
・・・
このようにして求められるクロロホルム不溶分は、ポリエステル樹脂においては、高分子量の重合体成分もしくは架橋された重合体成分であり、その分子量はおよそ200,000以上であると考えられる。」
(5頁右上欄10行?6頁左下欄8行)

[1f]
「〔実施例〕
以下本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(バインダー樹脂の製造)
(1)バインダー樹脂A
・テレフタル酸 299重量部
・ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-
ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン 211重量部
・ペンタエリスリトール 82重量部

以上の物質を・・・温度200℃で反応させ、もってクロロホルム不溶分が17重量%、軟化点が131℃のポリエステルを得た。
・・・
実施例1
・バインダー樹脂Aの粉砕物
(口径2mmのメッシュスクリーンを通過したもの 100重量部
・カーボンブラック「モーガルL」(キャボット社製) 10重量部
・ポリプロピレンワックス「ビスコール660P」
(三洋化成工業社製) 3重量部

以上の物質を予備混合し、次いで溶融練肉し、冷却後ハンマーミルにより粗粉砕し、この粗粉砕物を口径2mmのメッシュスクリーンにより分別し、当該スクリーンを通過した不定形粒子からなるトナー原料を得た。
このトナー原料500gを分散安定剤としてポリビニルアルコールを1.25重量%の割合で含有する水溶液300gよりなる液体分散媒中に分散させ、この分散系を気密状態で温度150℃に加熱し、処理容器に設けた高速回転剪断型撹拌装置によって30分間処理した。なお、温度150℃における前記トナー原料の粘度は5×10^(3)ポイズである。得られた分散液を温度100℃に冷却した後、これを液体分散媒と同じ不溶性液体1.5lを入れた容器内に投入して分散させた。
この分散体の一部をサンプルとして採取し、粒子の形状を電子顕微鏡で観察し、粒径分布をコールターカウンターで測定したところ、重量平均粒子径は5μmで粒径分布はシャープであり、粒子はいずれも球形であった。
そして分散体を濾過処理して固形物を分離し、水洗を繰り返した後、乾燥して球形の粒子からなるトナー粒子粉末を得た。
このトナー粒子粉末の収率、すなわちトナー原料の仕込み量に対する得られたトナー粒子粉末の割合は90%と極めて高いものであった。
このトナー粒子粉末に、流動化剤として疎水性シリカ微粉末「R-972」(日本アエロジル社製)を0.60重量%となる割合で添加混合し、もってトナーを得た。これを「トナ-1」とする。

このトナー1について、最低定着温度およびオフセット発生温度を求め、また静カサ密度を測定した。結果を後述の第1表に示す。
・・・
第1表の結果から理解されるように、本発明方法を適用して得られたトナー1?4においては、収率が極めて高く、しかも粒子形状が球形で流動性が高くて一次付着量および画像濃度が高く、そして最低定着温度が低いうえオフセット発生温度が高くて実用定着可能温度範囲が格段に広く、そのうえ耐ブロッキング性の優れたものであり、結局、良好な現像および十分な高速定着を併せて達成することができ、高画質画像を極めて経済的に形成することが可能となる。」
(9頁右下欄18行?14頁右上欄10行)

[1g]
転記を省略した第1表には、「トナー1」について、収率:90%、最低定着温度:160℃、オフセット発生温度:240℃以上、静カサ密度:0.49g/cc、一次付着量:0.91mg/cm^(2)、画像濃度Dmax:1.32であったことが記載されている。

[1h]
「〔発明の効果〕
・・・そしてトナー用バインダー樹脂の主構成樹脂として用いる樹脂が、クロロホルム不溶分を特定割合以上含むポリエステルよりなるものであるので、溶融時の弾性が高くてトナーが優れたオフセット防止性能を有すると共に、トナーの軟化点を低くすることが可能であってしかも溶融時においては転写紙に対する濡れ性がよいため十分な低温定着を達成することができ、結局熱ローラ定着方式によりオフセット現象の発生を伴わずに十分な高速で良好な定着を達成することができる。」
(14頁左下欄1行?15頁左上欄5行)

・上記[1a]?[1h]の記載によれば、引用例1には、実施例1を中心に下記の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポリエステル樹脂の架橋重合体成分であるクロロホルム不溶分を17重量%含む架橋ポリエステル樹脂と、カーボンブラックを溶融練肉し粉砕して得たトナー原料を、
水溶性高分子物質の分散安定剤であるポリビニルアルコールを含有する水溶液よりなる液体分散媒中に分散させ、
この分散系を気密状態で温度150℃に加熱し、高速回転剪断型撹拌装置によって30分間処理してカーボンブラック含有樹脂のトナー粒子を生成させ、
ついでこの分散系を冷却し濾過処理して固形物を分離し、水洗・乾燥して、重量平均粒子径:5μmで粒径分布がシャープな球形の粒子からなり、最低定着温度が160℃、オフセット発生温度が240℃以上のトナーを製造する方法。」

4-2.引用例2記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-319159号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。

[2a]「【特許請求の範囲】
【請求項1】キャリアとトナーとからなる静電潜像現像剤において、該キャリアが芯材上に樹脂微粒子及び導電材料を分散した樹脂被覆層を有しており、該トナーが結着樹脂、及び着色剤を含有しており、且つ、該トナーが結着樹脂におけるTHF不溶分を1?25重量%含有することを特徴とする静電潜像現像剤。
【請求項2】 前記結着樹脂がTHF不溶分を5?30重量%含有したポリエステル樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の静電潜像現像剤。」

[2b]「【0021】本発明者らは、上記トナーの結着樹脂として、THF不溶分を1?25重量%含有すること、好ましくは、結着樹脂としてTHF不溶分を5?30重量%含有したポリエステル樹脂を使用することにより、低温定着性に優れ、かつ耐オフセット性にも優れた、定着可能温度域の広いトナー・・・に成功した。」

4-3.引用例3記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-70756号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の記載がある。

[3a]「【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、着色剤を少なくとも含有するトナー粒子と無機微粒子からなるトナーにおいて、該トナー粒子のフロー式粒子像測定装置で計測される円相当径3μm以上400μm以下のトナー粒子における平均円形度が0.935以上0.970未満であり、該トナー粒子の走査型プローブ顕微鏡で測定される平均面粗さが5.0nm以上35.0nm未満であることを特徴とし、
前記結着樹脂は、ポリエステルユニットを少なくとも含有し、トナーのテトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーの分子量分布において、分子量1万未満の成分M1の含有量が40?70質量%であり、分子量1万乃至5万の成分M2の含有量が25?50質量%であり、分子量5万を超える成分M3の含有量が2?25質量%であり、分子量10万以上の成分の含有量が10質量%末満であり、かつ分子量1万未満の成分の含有量をM1とし、分子量1万乃至5万の成分の含有量をM2とし、分子量5万を超える成分の含有量をM3としたときにM1≧M2>M3を満足することを特徴とするトナー。
・・・
【請求項8】
前記結着樹脂は、ポリエステル樹脂またはポリエステル樹脂とハイブリッド樹脂との混合物を含有し、かつトナーのテトラヒドロフラン不溶分の含有量が1?50質量%であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のトナー。」

[3b]
「【0098】ポリエステル樹脂単体及び第二の形態において、トナーは、THF不溶分の含有量が1?50質量%であることが好ましく、2?40質量%であることがより好ましく、5?30質量%であることがさらに好ましい。THF不溶分の含有量が1質量%未満であると、耐高温オフセット性に影響を与えるようなことがあり、50質量%を超える場合には、定着性が劣る傾向が出てくる。」

5.対比
・本願発明と引用例1発明とを対比する。
・引用例1発明の「カーボンブラック」は、本願発明の「着色剤」に相当する。
・引用例1発明の「架橋ポリエステル樹脂と、カーボンブラックを溶融練肉し粉砕して得たトナー原料」は、本願発明の「架橋ポリエステル樹脂と着色剤とを乾式混練し、得られた樹脂混練物」に相当する。
・引用例1発明の「高速回転剪断型撹拌装置」は、本願発明の製造例の「ロータステータ式撹拌手段」(【0129】参照)に相当するから、引用例1発明の「トナー原料を、水溶性高分子物質の分散安定剤を含有する水溶液よりなる液体分散媒中に分散させ、この分散系を気密状態で温度150℃に加熱し、高速回転剪断型撹拌装置によって30分間処理してカーボンブラック含有樹脂のトナー粒子を生成させ、」は、本願発明の「樹脂混練物を水溶性高分子物質の分散安定剤を含有する水溶液と混合するとともに加圧下に加熱して該混合物中に着色剤含有樹脂粒子を生成させ、」に相当する。
・引用例1発明の「分散系を冷却し濾過処理して固形物を分離し、重量平均粒子径:5μmで粒径分布のシャープな球形の粒子からなるトナーを製造する方法」は、本願発明の「該混合物を冷却し、着色剤含有樹脂粒子を分離するトナー製造方法」に相当する。

・したがって、両者は、
「架橋ポリエステル樹脂と着色剤とを乾式混練し、得られた樹脂混練物を水溶性高分子物質の分散安定剤を含有する水溶液と混合するとともに加圧下に加熱して、該混合物中に着色剤含有樹脂粒子を生成させ、ついで該混合物を冷却し、着色剤含有樹脂粒子を分離するトナーの製造方法。」で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
架橋ポリエステル樹脂が、本願発明では「テトラヒドロフラン不溶解分を0.5重量%以上30重量%以下含む」のに対し、引用例1発明では「クロロホルム不溶分を17重量%含む」点。

[相違点2]
樹脂混練物を混合する対象の、分散安定剤を含有する水溶液における水溶性高分子物質が、本願発明では「ポリアクリル酸塩」であるのに対し、引用例1発明では「ポリビニルアルコール」である点。

6.判断
・まず[相違点1]について検討する。
引用例2、引用例3には、それぞれ、ポリエステル系樹脂をバインダー樹脂とするトナーでは、低温定着性と耐オフセット性を両立させるために、ポリエステル系樹脂バインダーのテトラヒドロフラン不溶解分の含有量を所定範囲に調整することが記載されている。(上記[2a]?[3b]参照)
そして、引用例1には、テトラヒドロフランと同様に樹脂の良溶媒であるクロロホルムに対するポリエステル樹脂不溶分を所定範囲量含有させると加熱溶融時の弾性率が高くなって、熱ローラ定着方式でオフセット現象が抑制されることが示されているのであるから、引用例1発明の架橋ポリエステル樹脂について、引用例2、引用例3に示されるテトラヒドロフラン不溶解分の含有量を調整する技術を考慮して調節することは当業者が容易に想到することである。
そして、「0.5重量%以上30重量%以下含む」との数値規定は、テレフタル酸、無水トリメリット酸、エチレングリコール等を主要原料モノマーとする特定構造の架橋ポリエステル樹脂でのみ意義が確認されているに過ぎないところ、特許請求の範囲には、そのような数値規定の意義の前提条件などが一切伴われていないので、特段の臨界的意義があるものとは認められない。

・次いで[相違点2]について検討する。
引用例1には、湿式法で造粒するトナー粒子の製造方法に於ける「液体分散媒」が水系分散媒である場合、その水系分散媒に分散安定剤として「水溶性高分子物質」を含有させることが好ましいこと、その具体例として、「ポリビニルアルコール」と「ポリアクリル酸及びその塩」が併記されていること(前掲[1d]参照)、そして、両者は典型的な水溶性高分子物質として極めて良く知られているものでもあるから、引用例1の実施例の分散安定剤の「ポリビニルアルコール」を「ポリアクリル酸塩」に替えてみることは当業者にとって容易である。

・そして、上述の検討から明らかなように、本願発明の効果は、引用例1?3に記載された発明から当業者が予測しうる範囲のものであって、格別なものであるとはいえない。

7.むすび

・以上のとおり、本願発明は引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

・なお、当審では、審判請求人から提示された、回答書中の「補正提案」(「加熱または加圧下に加熱する温度が150℃である」を【請求項1】に組み込む補正)についても、慎重に検討した。
しかし、該組み込み補正内容は、引用例1の実施例1で「気密状態で温度150℃に加熱し、」と記載されているものに過ぎないから(前記「4-1.」を参照のこと)、組み込まれた後も、依然として、「引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもの」であり、且つ、特許を受けることができないものであるから、更なる補正の機会を設けることは無しとした。
 
審理終結日 2010-11-24 
結審通知日 2010-11-30 
審決日 2010-12-15 
出願番号 特願2005-237663(P2005-237663)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄江口 州志  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
一宮 誠
発明の名称 トナーの製造方法  
代理人 西教 圭一郎  

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