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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01G
管理番号 1231439
審判番号 不服2009-15591  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-25 
確定日 2011-02-04 
事件の表示 特願2004-330734「水中植生工法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 1日出願公開、特開2006-136282〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯及び本願発明
本願は,平成16年11月15日の出願であって,平成21年6月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年8月25日に審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。
また,当審において,平成22年4月22日付けで審査官による前置報告書に基づく審尋がなされたところ,同年6月1日付けで回答書が提出されたものである。
さらに,同年8月31日付けで当審において拒絶理由を通知したところ,同年11月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

そして,その請求項1に係る発明は,平成22年11月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
ポット内の生育基盤材に水生植物を植生して水生植物生育体を構成し、
前記水生植物生育体を栽培水域に配置して前記水生植物を十分に生育し、
前記水生植物生育体を水中に位置させた状態で被修復水域に移動し、
前記被修復水域の水中生態系を修復可能なように、前記水生植物生育体を該被修復水域の水中に浮体に吊り下げて浮遊させた状態で配置したことを特徴とする、
水中植生工法。」
(以下,「本願発明」という。)


2.引用刊行物に記載された発明
刊行物1:特開昭63-141523号公報
刊行物2:特開2002-330652号公報

(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された上記刊行物1には,以下の点が記載されている。
(1a)「ロックウールマットにアマモの種子を播種し、水槽内の前記ロックウールマット上で前記アマモの発芽・育苗を行い、育成された前記アマモの苗を前記ロックウールマットと共に海中又は海底に移植することを特徴とするアマモ場の造成工法。」(特許請求の範囲の欄)
(1b)「本実施例では、第1図に示すように、ロックウールマット1にアマモの播種を行い、この状態で陸上の水槽2内に設置し、ポンプ3で海水を循環或いはかけ流しにして発芽・育苗の管理を行う。」(明細書2頁左下欄13?16行)
(1c)「第5図(A)(B)はアマモ苗4を育成したロックウールマット1を海中に移植した例を示したものである。第5図(A)では、浮体構造物10をワイヤー11を介してアンカー12で海底5につなぎ止め、該浮体構造物10上にアマモ苗4を育成したロックウールマット1を移植したものである。第5図(B)は構造物13をブイ14で海中に浮かせ、ワイヤー11を介してアンカー12で海底につなぎ止め、該構造物13上にアマモ苗4を育成したロックウールマット1を移植した例を示したものである。
第4図及び第5図のようにしてロックウールマット1の海底5からの高さを変えると、アマモが光合成を行い、生存するに必要な水深を容易に得ることができる。また、ケーソン7、人口海底9、浮体栴造物10、構造物13等は漁礁ともなる。」(明細書2頁右下欄17?3頁左上欄12行)

以上の記載事項(1a)?(1c)から見て,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。

「水槽内のロックウールマット上でアマモの発芽・育苗を行い,ブイで海中に浮かせ,ワイヤーを介してアンカーで海底につなぎ止めた構造物上に,前記アマモ苗を育成したロックウールマットを移植したアマモ場の造成工法。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

(2)刊行物2
本願出願前に頒布された上記刊行物2には,以下の点が記載されている。
(2a)「・・・このプランター1はアマモなどによる藻場を造成するのに適したタイプのものである。
〔A.藻草育成プランターの構造〕藻草育成プランター1は、プランター本体3と、植生ベースとしての砂5と、流失防止ネット7と、海草S等から構成されている。
プランター本体3はコンクリート製のもので、・・・
プランター本体3の中には、その深さの半分程度まで海砂などの砂5が入れてある。この砂5は海草Sの植生ベースとなるもので、これには海草Sの養分となる肥料等を混ぜてある。砂5の上表面には木綿製の流失防止ネット7が被せてある。・・・
砂5にはアマモなどの海草Sが根を下ろしていて、流失防止ネット7の網目を通して上に適度な丈で延びている。海草Sをこのように育てる方法としては幾つかあるが、例えば、プランター1を製作する際、流失防止ネット7を設ける前に砂5に所望の海草の種子を播いておき、流失防止ネット7を被せた後、プランター1を養生池に数ケ月から半年程度入れておいて、その種子から海草が生長するのを待つ方法をとるのが良い。この養生池は、陸上に施設したものでも良いが、藻場を造成しようとする場所に近い入り江などに波静かな場所があれば、そこを適当な大きさに囲って養生池として利用するのが望ましい。藻草育成プランター1は以上のように構成されている。」(段落【0011】?【0014】)
(2b)「藻草育成プランター1を設置する手順は、例えば次のように行う。養生池から取り出した藻草育成プランター1を直ちに現場の海岸に運び、その吊フック9にワイヤーを掛けて大型のクレーンなどで目的の海底に水平な姿勢で降ろす。・・・海底に降ろされた藻草育成プランター1どうしを互いに連結させる。 ・・・藻草育成プランター1を設置する水深は、当該水中植物が光合成する限界深さも考慮して選択することになる。・・・」(段落【0016】?【0017】)

以上の記載事項(2a)?(2b)から見て,刊行物2には,以下の発明が記載されているものと認められる。

「コンクリート製のプランター本体3と,植生ベースとしての砂5と,流失防止ネット7と,アマモなどの海草S等から構成されている藻草育成プランター1を,藻場を造成しようとする場所に近い入り江など波静かな場所を適当な大きさに囲った養生池に数ケ月から半年程度入れて種子から海草が生長するのを待ち,養生池から取り出し,直ちに現場の海岸に運び,海底に水平な姿勢で降ろし,該藻草育成プランター1どうしを互いに連結させた藻場造成方法。」(以下,「刊行物2記載の発明」という。)

3.対比
本願発明と上記刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「アマモ」が本願発明の「水生植物」に相当し,以下「ブイ」が「浮体」に,「アマモ場の造成工法」が「水中植生工法」に,それぞれ相当する。
また,刊行物1記載の発明は,水槽内でアマモの発芽・育苗を行っているから,刊行物1記載の発明の「水槽」が本願発明の「栽培水域」に相当する。
さらに,アマモ苗を育成したロックウールマットを海中の構造物に移植することにより,アマモ場が海中に造成され,水中の生態系が改善されることは当然であり,水中生態系を修復可能であることは,当業者にとって自明の事項であるから,刊行物1記載の発明の「海中の構造物が設置された部分」が本願発明の「被修復水域」にそれぞれ相当する。
そして,刊行物1記載の発明の「アマモの発芽・育苗を行うロックウールマット」及び「アマモ苗を育成したロックウールマット」が,本願発明の「水生植物生育体」に相当する。

よって,両者は,
「水生植物を植生して水生植物生育体を構成し,
前記水生植物生育体を栽培水域に配置して前記水生植物を十分に生育し,
前記水生植物生育体を,被修復水域に移動し,
前記被修復水域の水中生態系を修復可能なように,前記水生植物生育体を前記被修復水域の水中に浮体に吊り下げて浮遊させた状態で配置した水中植生工法。」
である点で一致し,以下の点で相違している。

(相違点1)
水生植物生育体について,本願発明は,ポット内の生育基盤材に水生植物を植生したものであるのに対し,刊行物1記載の発明は,アマモの発芽・育苗を行う,あるいはアマモを育成したロックウールマットである点。

(相違点2)
水生植物生育体を栽培水域から被修復水域に移動する際,本願発明は,水中に位置させた状態で行うのに対し,刊行物1記載の発明は,移動手段が不明である点。

4.判断
相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物2記載の発明は,プランター本体と,植生ベースとしての砂と,流失防止ネットと,アマモなどの海草等から構成されている藻草育成プランターを養生池に入れて海草を生育させ,生長したら海底に運んで藻場を形成する方法であり,プランター本体が本願発明のポットに,植生ベースとしての砂が本願発明の生育基盤に,アマモなどの海草が本願発明の水生植物に,藻草育成プランターが本願発明の水生植物生育体に,それぞれ相当する。ここで,刊行物2記載の発明におけるプランター本体はコンクリート製であり,海底に設置されるものであるが,軽量で浮遊可能な材質としてポーラスコンクリートは一般に知られており,また,海草等を成育するための基盤の材料としてポーラスコンクリートを採用することは周知の技術(特開2002-171854号公報,特開2000-279051号公報等参照)である。
そして,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明はいずれも,アマモなどの藻場の造成方法である点で共通しており,同一の技術分野に属するものであるから,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明,並びに周知の技術に基づいて,本願発明の相違点1に係る事項のようにすることは,当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
一般的に,通常の生育環境とは異なる環境におかれた植物では,その環境に応答して,さまざまな生理的変化が起こり,例えば,環境変化が激しければ,生育自体が阻害され,場合によっては枯死することもあり得ることが知られている。したがって,植物に過度なストレスを与えないよう,できるだけ環境を激しく変化させないようにすることは,当業者であれば当然に認識している事項である。
一方,海中の構造物等を移動する手段として,曳航等の手段を用いて,移動対象物を水中に位置させた状態で移動することは,例示するまでもなく,周知の手段であり,刊行物2記載の発明のプランターを水中に位置させた状態で移動させることを阻害する要因はない。
よって,ポット内の生育基盤材に水生植物を植生した水生植物生育体を,栽培水域から被修復水域に移動するに際し,水中に位置させた状態で移動することは,当業者が容易になし得たことである。

そして,本願発明の効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明,並びに周知の技術から予測することができる程度のことである


5.むすび
したがって,本願発明は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明,並びに周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-25 
結審通知日 2010-11-30 
審決日 2010-12-14 
出願番号 特願2004-330734(P2004-330734)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 隆彦  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮崎 恭
草野 顕子
発明の名称 水中植生工法  
代理人 山口 朔生  

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