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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1231443 |
審判番号 | 不服2009-21180 |
総通号数 | 135 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-11-02 |
確定日 | 2011-02-04 |
事件の表示 | 特願2004-252500「窒化物系化合物半導体発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月16日出願公開、特開2006- 73619〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成16年8月31日に特許出願したものであって、平成21年5月15日に手続補正がなされたが、同年7月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年11月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされた後、同年12月1日付けで特許法第162条の規定に基づき拒絶の理由が通知され、これに対して平成22年2月2日に手続補正がなされたものである。 第2 平成21年12月1日付けで通知された拒絶の理由 平成21年12月1日付けで通知された拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。 1 特許法第36条第4項第1号及び同第36条第6項第1号について 請求項1に記載された「窒化物系化合物半導体発光素子周辺部分に前記第二のオーミック電極の露出部分を有する」点は、装置の発明として意義が不明であるから、請求項1に係る発明はその意義が不明であると同時に、サポート要件を満たしていない。 2 特許法第29条第2項について 引用文献1(特開平9-8403号公報)記載の発光素子は、本願発明における「露出部分」を備えていないが、「露出部分」を設けることは、引用文献2(国際公開第03/065464号、図3)、同3(特開2001-85736号公報、図6?9)、同4(特開2004-158872号公報、図1?6)、同5(特開2000-106473号公報、図2,3,5)に記載されているように、様々な箇所に対してこの出願前行われていることであり、引用文献1記載の発光素子に「露出部分」を設けることは、単なる設計的事項である。 なお、明細書【0006】欄に記載された課題は、製造方法に対する課題であって装置の発明に対するそれではない。 第3 当審の判断 1 本願発明 本願の請求項に係る発明は、平成22年2月2日になされた手続補正後の特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。 「導電性基板上に、第一のオーミック電極、第一の接着用金属層、第二の接着用金属層および第二のオーミック電極をこの順番で備え、該第二のオーミック電極上に窒化物系化合物半導体層を備える窒化物系化合物半導体発光素子であって、該窒化物系化合物半導体層は、少なくともP型層、発光層およびN型層をこの順番で備え、上面から見て、前記窒化物系化合物半導体発光素子周辺部分に前記第二のオーミック電極の主面の一部を露出させた溝形成部を有し、前記第二のオーミック電極の主面が前記P型層の主面よりも大きいことを特徴とする、窒化物系化合物半導体発光素子。」(以下「本願発明」という。) 2 特許法第36条第4項第1号について (1)判断 ア 本願発明には、「上面から見て、前記窒化物系化合物半導体発光素子周辺部分に前記第二のオーミック電極の主面の一部を露出させた溝形成部を有し、前記第二のオーミック電極の主面が前記P型層の主面よりも大きい」との構成がある。 しかしながら、該構成が、窒化物系化合物半導体発光素子という物の発明において、いかなる機能・作用・効果を有するものなのかについて、発明の詳細な説明に、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていない。 イ 本願の発明の詳細な説明には、発明の解決しようとする課題として「【0006】本発明は上記従来の技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、窒化物系化合物半導体の製造プロセスにおいて、チップ分割する際に剥がれなどを発生させず、また、半導体層において短絡が発生せず、良好な特性および高い信頼性を有する窒化物系化合物半導体発光素子を提供する。」と記載されている。 しかしながら、本願発明は物の発明であり、本願発明の構成からは、窒化物系化合物半導体の製造プロセスにおいて、チップ分割する際に剥がれなどを発生させないのか、また、半導体層において短絡が発生しないのかを特定することができない。さらに、良好な特性および高い信頼性を有しているのかを特定できない。 発明の詳細な説明の他の部分を見ても、本願発明の構成から特定される物について、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていない。 (2)小括 以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の技術的意義を当業者が理解できる程度に記載したものということはできないから、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところにより記載されたものであるということはできない。 (3)請求人の主張について なお、請求人は平成22年10月1日に提出した回答書において、「装置(=チップ化された発光素子)が『第二のオーミック電極の主面の一部を露出させた溝形成部』を有することにより、第一のオーミック電極と第二のオーミック電極の間で剥がれが生じるという問題を解決することが可能となります(本願明細書段落0004)。」と主張している。しかし、第一のオーミック電極と第二のオーミック電極の間の剥がれとは、両者間に存在する接着用金属層の剥がれ、剥離によるものと解されるところ、発明の詳細な説明の「図7に示すように、N型層6上にレジスト12を形成し、反応性イオンエッチング(RIE)を用いて、N型層6側からP型層4まで完全に除去し、第二のオーミック電極3の一主面50を露出させて溝を形成する。」(0042段)、「図9に示すように、矢印の方向にYAG-THGレーザ(波長355nm)を照射して、第二のオーミック電極3の一主面50から導電性基板1の途中までに溝13を形成する。次に、図10に示すように、赤外線透過型スクライブ装置を用いて、溝13に対向するように導電性基板裏面側からケガキ線14を入れる。このケガキ線14に沿って分割するとチップ化工程を完了することができる。」(0044段)及び「露出したオーミック電極層を、レーザを用いて溝を形成し、さらにその溝に対向するように導電性基板側からも溝を形成しているため、接着用金属層の剥がれ、剥離等がなくなりチップ分割が容易になりチップの取れ率が向上する。なお、導電性基板裏面側からのケガキ線14は導電性基板の裏面からSiをエッチングにより除去しそこにケガキ線を入れるとさらにチップ化が容易になる。」(0046段)との記載によれば、N型層6側からP型層4まで完全に除去して溝を形成することで露出されたオーミック電極にレーザを用いて溝を形成し、さらにその溝に対向するように導電性基板側からも溝を形成してからチップ分割をする製造方法により剥がれがなくなることが理解できるにとどまり、「第二のオーミック電極の主面の一部を露出させた溝形成部」を有することが、第一のオーミック電極と第二のオーミック電極の間で剥がれが生じるという問題を解決するものと理解することはできない。 また、請求人は同回答書において、「本願明細書段落0005に記載されるように、本願発明によれば、『第二のオーミック電極の主面の一部を露出させた溝形成部』を有することにより、すべてのプロセスが終了し、装置として完成した半導体発光素子の第1オーミック電極と第2のオーミック電極の間に水分が入り込むことを防止しています。さらに、『第二のオーミック電極の主面の一部を露出させた溝形成部』を有することにより、すべてのプロセスが終了し、装置として完成した半導体発光素子の第1オーミック電極と第2のオーミック電極の間に、ランプ発光素子に加工する際の、樹脂や水分の混入を防止する効果があります」と主張している。しかし、本願明細書には請求人主張に係る上記効果は記載されていないし、本願発明が、かかる効果を奏するものに特定されているとも認められない。 したがって、請求人の上記各主張は採用できない。 3 特許法第29条第2項について (1)刊行物の記載 平成21年12月1日になされた拒絶理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である国際公開第03/065464号(以下「引用例」という。)には、図とともに、以下の記載がある(下線は、審決で付した。以下同じ。)。 ア「技術分野 本発明は発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)等の発光素子、太陽電池、光センサー等の受光素子、あるいはトランジスタ、パワーデバイス等の電子デバイスに使用される窒化物半導体素子及びその製造方法に関するものである。製造方法の一つとして貼り合わせ構造を用いる。」(第1頁第5行から第9行) イ「本発明における窒化物半導体素子は、支持基板上に少なくとも導電層、第1の電極、発光層を有する窒化物半導体、第2の電極とを順に備えた窒化物半導体素子であって、前記導電上には第1の電極、及び第1絶縁性の保護膜を介して第1導電型の窒化物半導体層を有する。前記窒化物半導体は支持基板側から第1導電型の窒化物半導体層、発光層、第2導電型の窒化物半導体層の順に構成され、第2導電型の窒化物半導体層上には第2の電極を形成している。前記支持基板は導電性を示すことで対向電極構造を有する窒化物半導体素子を可能とする。また、第1の電極をp型電極とすれば光の取り出し効率は向上する。これは、窒化物半導体層の上部となる第2の電極(n型電極)側に形成される第2導電型の窒化物半導体層はn型窒化物半導体となることを意味する。つまり、n型窒化物半導体側が光取り出し面となる。窒化物半導体(特にGaN系半導体)はn型層の抵抗が低いため、第2の電極であるn型電極のサイズを小さくできる。光の取り出し効率の向上はn型電極を小さくすることで光を遮る領域を低減できるからである。さらに、従来の窒化物半導体素子は同一面に両電極を有する構造であったため、p型電極にはpパッド電極が必要であったが、本発明では導電性の支持基板を用い、リードフレームなどのパッケージに導電性材料でダイボンディングすることにより導通が可能となるためpパッド電極が不要となり、発光面積を大きくできる。また第1絶縁性の保護膜を備えることでショート等を防ぐことができるため、歩留まりや信頼性を向上することができる。製造工程を簡略化することができる。 前記第1の電極、及び第1絶縁性の保護膜が、第1導電型の窒化物半導体層と接していることを特徴とする。第1の電極は第1導電型の窒化物半導体層に全面形成することもできるが部分的に形成し、開口部を第1絶縁性の保護膜で埋めることで第1の電極と第1導電型の窒化物半導体層との接触面積を調整することができる。」(第2頁第26行から第3頁第21行) ウ「サファイア等の異種基板1上に少なくとも第2導電型の窒化物半導体層、発光層、第1導電型の窒化物半導体層を有する窒化物半導体2を成長させる(図1A)。その後、窒化物半導体層上第1の電極(例えばp型電極)3を形成する。次に、第1の電極の開口部であって、前記窒化物半導体の露出部に第1絶縁性の保護膜4を形成する(図1B)。さらに貼り合わせ時に合金化させるための導電層5を形成する(図1C)。導電層は密着層、バリア層、共晶層から成る3層構造が好ましい。他方、支持基板11を用意する。この支持基板の表面にも導電層12を形成することが好ましい(図2A)。その後、窒化物半導体素子と支持基板とを加熱圧接により貼り合わせる(図2B)。貼り合わせ面を導電層同士として合金化させ、貼り合わせ後の導電層13とする。その後、異種基板を除去する(図2C)。異種基板を除去後、チップ状に窒化物半導体層を分割し、第2導電型の窒化物半導体層の露出面に第2の電極を形成する(図3A)。・・・その後、ワイヤーボンディング領域を除いて窒化物半導体素子の上面を第2絶縁性の保護膜で覆い(図3B、図4B)、ダイシングによりチップ化することで窒化物半導体素子とする。・・・ 前記異種基板1は、窒化物半導体2をエピタキシャル成長させることができる基板であればよく、異種基板の大きさや厚さ等は特に限定されない。この異種基板としては、C面、R面及びA面のいずれかを主面とするサファイアやスピネル(MgAl_(2)O_(4))のような絶縁性基板、また炭化珪素(6H、4H、3C)、シリコン、ZnO、Si、GaAs、ダイヤモンド、及び窒化物半導体と格子整合するニオブ酸リチウム、ガリウム酸ネオジウム等の酸化物基板が挙げられる。また、デバイス加工ができる程度の厚膜(数十μm以上)であれば、GaNやAlN等の窒化物半導体基板を用いることもできる。異種基板はオフアングルしていてもよく、サファイアC面を用いる場合には、0.1°?0.5°、好ましくは0.05°?0.2°の範囲とする。 また異種基板上に成長させる窒化物半導体はバッファ層を介して成長する。バッファ層としては、一般式Al_(a)Ga_(1-a)N(0≦a≦0.8)で表される窒化物半導体、より好ましくは、Al_(a)Ga_(1-a)N(0≦a≦0.5)で示される窒化物半導体を用いる。・・・ 上に低温成長させたバッファ層を形成後、以下に示す第2導電型の窒化物半導体層を形成する。バッファ層上に高温成長させた高温成長層を形成することが好ましい。・・・ 次に、n型コンタクト層を成長させる。n型コンタクト層としては、活性層のバンドギャップエネルギーより大きくなる組成であり、Al_(j)Ga_(1-j)N(0<j<0.3)が好ましい。・・・また、Alの組成傾斜をつけることでキャリアの閉じ込めのためのクラッド層としても機能する。 本発明に用いる発光層(活性層)は、少なくとも、Al_(a)In_(b)Ga_(1-a-b)N(0≦a≦1、0≦b≦1、a+b≦1)から成る井戸層と、Al_(c)In_(d)Ga_(1-c-d)N(0≦c≦1、0≦d≦1、c+d≦1)から成る障壁層と、を含む量子井戸構造を有する。・・・ ・・・ 次に、前記発光層上に第1導電型の窒化物半導体層を形成する。ここでは、p型窒化物半導体層であって、以下の複数層を形成する。まずp型クラッド層としては、活性層のバンドギャップエネルギーより大きくなる組成であり、活性層へのキャリアの閉じ込めができるものであれば特に限定されないが、Al_(k)Ga_(1-k)N(0≦k<1)が用いられ、特にAl_(k)Ga_(1-k)N(0<k<0.4)が好ましい。・・・ 次に、p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成する。p型コンタクト層は、Al_(f)Ga_(1-f)N(0≦f<1)が用いられ、特にAl_(f)Ga_(1-f)N(0≦f<0.3)で構成することによりオーミック電極である第1の電極と良好なオーミックコンタクトが可能となる。・・・ ・・・ その後、第1導電型の窒化物半導体層であるp型窒化物半導体表面とオーミック接触が得られる第1の電極を形成する。該第1の電極3はNi、Au、W,Pt、Ti、Al、Ir、Rh、Ag、Ni-Au、Ni-Au-RhO、Rh-Ir、Rh-Ir-Pt等である。好ましくは反射率の高いRh、Ag、Ni、Auなどで第1の電極を形成する。次に、酸素を含む雰囲気で熱処理を行う。第1の電極の膜厚は0.05?0.5μmである。 次に、第1の電極3を形成した窒化物半導体2の露出面に第1絶縁性の保護膜4を形成する(図1B)。この第1絶縁性の保護膜の材料はSiO_(2)、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)、TiO_(2)などの単層膜または多層膜を用いることができる。更にその上の支持基板との貼り合わせ面にAl、Ag、Rhなどの高反射率の金属膜を形成してもよい。この金属膜により反射率が高くなるから光の取り出し効率を良くすることができる。その後、Au、Sn、Pd、Inから成る群から選ばれる少なくとも1つを含有する合金から成る導電層5を支持基板との張り合わせ面に形成する(図1C)。・・・ 他方、上記窒化物半導体素子の導電層形成面に貼り合わせる支持基板11を準備する(図2A)。具体例としては、Cu-W、Cu-Mo、AlSiC、AlN、Si、SiC、Cu-ダイヤ等の金属とセラミックの複合体などである。・・・前記貼り合わせ面には密着層、バリア層、共晶層を備えた構造が好ましい。第1の電極との拡散を防ぐからである。これらは支持基板側の導電層12である。例えばTi-Pt-Au、Ti-Pt-Sn、Ti-Pt-Pd又はTi-Pt-AuSn、W-Pt-Sn、RhO-Pt-Sn、RhO-Pt-Au、RhO-Pt-(Au、Sn)等の金属膜を形成する。前記金属膜は共晶により合金化され、後工程で導電層13となる。・・・ 次に支持基板11の導電層形成面と窒化物半導体素子の導電層形成面の表面とを向かい合わせて、加熱圧接をする(図2B)。・・・貼り合わせで共晶させるには支持基板側と窒化物半導体側との接着面にそれぞれ密着層、バリア層、共晶層とを備えていることがこのましい。密着層は第1の電極との間に高い密着性を確保する層であり、好ましくはTi、Ni、W及びMoのいずれかの金属である。・・・貼り合わせ時には第1の電極/Ti-Pt-AuSn-Pt-Ti/支持基板、その他に、第1の電極/RhO-Pt-AuSn-Pt-Ti/支持基板、第1の電極/Ti-Pt-PdSn-Pt-Ti/支持基板、第1の電極/Ti-Pt-AuSn-Pt-RhO/支持基板となる。・・・ その後、異種基板側からエキシマレーザを照射するか、又は研削により異種基板を取り除く(図2C)。・・・その後、窒化物半導体素子をチップ化するためにRIE等で外周エッチングを行い、外周の窒化物半導体層を除去する。 次に、前記第2導電型の窒化物半導体層の露出面に第2の電極6を形成する(図3A)。・・・ さらに、窒化物半導体素子をダイシングなどでチップ状に分離を行う。」(第25頁第12行から第34頁第15行。「・・・」は審決にて省略した部分。以下同じ。) エ 図3Aから3Cから、窒化物半導体素子をチップ化するためにRIE等で外周エッチングを行い、外周の窒化物半導体層を除去した部分が、結果的に、窒化物半導体層の周辺部分に窒化物半導体層に接する層(保護膜4)の一部が露出した部分となり、窒化物半導体層に接する層の主面がp型窒化物半導体層の主面より大きいことが見てとれる。 (2)引用発明 上記(1)によれば、引用例には、次の発明が記載されているものと認められる。 「異種基板上に成長させたバッファ層上に、Alの組成傾斜をつけることでキャリアの閉じ込めのためのクラッド層としても機能するn型コンタクト層を形成し、発光層(活性層)を形成し、p型クラッド層を形成し、p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成し、p型窒化物半導体表面とオーミック接触が得られる第1の電極を形成し、第1の電極の開口部であって、前記窒化物半導体の露出部に第1絶縁性の保護膜4を形成し、貼り合わせ時に合金化させるための密着層、バリア層、共晶層から成る3層構造の導電層5を形成し、 他方、Si等からなる導電性を示す支持基板11の貼り合わせ面に密着層、バリア層、共晶層を備えた構造を備えTi-Pt-AuSn等からなる導電層12を形成し、 次に支持基板11の導電層形成面と窒化物半導体素子の導電層形成面の表面とを向かい合わせて、加熱圧接をし、 その後、異種基板側からエキシマレーザを照射するか、又は研削により異種基板を取り除き、窒化物半導体素子をチップ化するためにRIE等で外周エッチングを行い、外周の窒化物半導体層を除去し、第2導電型(n型)の窒化物半導体層の露出面に第2の電極6を形成し、窒化物半導体素子をダイシングなどでチップ状に分離を行い、外周の窒化物半導体層を除去した部分が窒化物半導体層の周辺部分に窒化物半導体層に接する層の一部が露出した部分となり、窒化物半導体層に接する層の主面がp型窒化物半導体層の主面より大きくなる製造方法において、第1の電極を第1導電型の窒化物半導体層(p型窒化物半導体)に全面形成して製造された窒化物半導体素子。」(以下「引用発明」という。) (3)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「第1の電極」は「p型窒化物半導体表面とオーミック接触が得られる」ことから、本願発明の「第二のオーミック電極」に相当する。 イ 本願の発明の詳細な説明の「【0040】次に、図5に示すように、図3に示した構成体と図4に示した構成体とを、第二の接着用金属層31と第一の接着用金属層21とが接合するようにして接合させる。具体的には、第一の接着用金属層21としてのAu層と第二の接着用金属層31としてのAuSn層上のAu層とを対向させ、共晶接合法を用いて、温度290℃、圧力300Nにて貼り付ける。」との記載から、本願発明の「第一の接着用金属層」及び「第二の接着用金属層」は、共晶接合により接着するための金属層を含むものと認められるから、引用発明の「密着層、バリア層、共晶層を備えた構造を備えTi-Pt-AuSn等からなる導電層12」における「共晶層」、及び、「密着層、バリア層、共晶層から成る3層構造の導電層5」における「共晶層」は、それぞれ、本願発明の「第一の接着用金属層」及び「第二の接着用金属層」に相当する。 ウ 引用発明の「Si等からなる導電性を示す支持基板11」及び「窒化物半導体層」は、それぞれ、本願発明の「導電性基板」及び「窒化物系化合物半導体層」に相当する。 エ 引用発明の「密着層、バリア層、共晶層を備えた構造を備えTi-Pt-AuSn等からなる導電層12」における「密着層」と本願発明の「第一のオーミック電極」とは、「導電性基板」上であって、「導電性基板」と「第一の接着用金属層」との間に設けられた「第一の」「電極」である点で共通する。 オ 引用発明の「窒化物半導体素子」は「発光層」を備えるものであるから、本願発明の「窒化物系化合物半導体発光素子」に相当する。 カ 引用発明では、「異種基板上に成長させたバッファ層上に、Alの組成傾斜をつけることでキャリアの閉じ込めのためのクラッド層としても機能するn型コンタクト層を形成し、発光層(活性層)を形成し、p型クラッド層を形成し、p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成し、p型窒化物半導体表面とオーミック接触が得られる第1の電極を形成し、第1の電極の開口部であって、前記窒化物半導体の露出部に第1絶縁性の保護膜4を形成し、貼り合わせ時に合金化させるための密着層、バリア層、共晶層から成る3層構造の導電層5を形成し、他方、Si等からなる導電性を示す支持基板11の貼り合わせ面に密着層、バリア層、共晶層を備えた構造を備えTi-Pt-AuSn等からなる導電層12を形成し、次に支持基板11の導電層形成面と窒化物半導体素子の導電層形成面の表面とを向かい合わせて、加熱圧接をし」ていること、及び、上記イないしオでの認定から、引用発明は、「導電性基板上に、第一の電極、第一の接着用金属層、第二の接着用金属層および第二のオーミック電極をこの順番で備え、該第二のオーミック電極上に窒化物系化合物半導体層を備える窒化物系化合物半導体発光素子であ」る点において、本願発明と一致する。 キ 引用発明では、「異種基板上に成長させたバッファ層上に、Alの組成傾斜をつけることでキャリアの閉じ込めのためのクラッド層としても機能するn型コンタクト層を形成し、発光層(活性層)を形成し、p型クラッド層を形成し、p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成し、・・・、次に支持基板11の導電層形成面と窒化物半導体素子の導電層形成面の表面とを向かい合わせて、加熱圧接をし」ていることから、引用発明は、「窒化物系化合物半導体層は、少なくともP型層、発光層およびN型層をこの順番で備え」る点において、本願発明と一致する。 ク 引用発明では、「窒化物半導体素子をチップ化するためにRIE等で外周エッチングを行い、外周の窒化物半導体層を除去し」た後に「窒化物半導体素子をダイシングなどでチップ状に分離を行」った結果、「外周の窒化物半導体層を除去した部分が窒化物半導体層の周辺部分に窒化物半導体層に接する層の一部が露出した部分となり、窒化物半導体層に接する層の主面がp型窒化物半導体層の主面より大きくな」る。一方、本願の発明の詳細な説明の「図7に示すように、N型層6上にレジスト12を形成し、反応性イオンエッチング(RIE)を用いて、N型層6側からP型層4まで完全に除去し、第二のオーミック電極3の一主面50を露出させて溝を形成する。」(0042段)との記載から、本願発明は、第二のオーミック電極がp型層4に接する層であり、N型層6側からP型層4まで完全に除去した結果、第二のオーミック電極の主面の一部が露出していることを含むと認められる。 したがって、引用発明は、「上面から見て、前記窒化物系化合物半導体発光素子周辺部分に」窒化物系半導体層に接する層「の主面の一部を露出させた溝形成部を有し、」窒化物系半導体層に接する層「の主面が前記P型層の主面よりも大きい」点において、本願発明と一致する。 ケ 以上によれば、両者は、 「導電性基板上に、第一の電極、第一の接着用金属層、第二の接着用金属層および第二のオーミック電極をこの順番で備え、該第二のオーミック電極上に窒化物系化合物半導体層を備える窒化物系化合物半導体発光素子であって、該窒化物系化合物半導体層は、少なくともP型層、発光層およびN型層をこの順番で備え、上面から見て、前記窒化物系化合物半導体発光素子周辺部分に窒化物系半導体層に接する層の主面の一部を露出させた溝形成部を有し、窒化物系半導体層に接する層の主面が前記P型層の主面よりも大きいことを特徴とする、窒化物系化合物半導体発光素子。」 である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。 (ア)導電性基板上の第一の電極が、本願発明では、オーミック電極であるのに対して、引用発明では、オーミック電極かどうか不明な点(以下「相違点1」という。)。 (イ)窒化物系半導体発光素子周辺部分で主面を露出している窒化物系半導体層に接する層が、本願発明では、第二のオーミック電極であるのに対して、引用発明では、窒化物半導体層に接している第1の電極を第1導電型の窒化物半導体層(p型窒化物半導体)に全面形成するものであるが、第1の電極を第1導電型の窒化物半導体層に全面形成する場合の具体的な製造方法が不明であるために、どの層が露出されることになるのか不明な点(以下「相違点2」という。)。 (4)判断 ア 相違点1について 引用発明は、導電性基板を採用するものであり、上記(1)イより「支持基板は導電性を示すことで対向電極構造を有する窒化物半導体素子を可能とする」ものであるから、導電性基板とそこに設ける電極との間の電気抵抗が小さいことが好ましいことは自明の事項であるので、導電性基板に設ける電極としてオーミック電極を採用することは、当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。 イ 相違点2について 引用発明において、第1の電極(第二のオーミック電極)をp型窒化物半導体層に全面形成することを実施する場合は、第1の電極を部分的に形成した場合に開口部を埋めるための第1絶縁性の保護膜4は不要であるといえる。そうすると、p型窒化物半導体層上に第1の電極を形成する際に、窒化物半導体素子をチップ化するためにRIE等で外周エッチングされる位置も含めて全面に形成することは、当業者が適宜なし得る設計事項である。そして、この場合、窒化物半導体素子をチップ化するためにRIE等で外周エッチングを行い、外周の窒化物半導体層を除去すれば、第1の電極の主面が露出することとなる。したがって、引用発明において、p型窒化物半導体層上に第1の電極を形成する際に、全面に形成し、その結果として相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。 (5)小括 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (4)請求人の主張について なお、請求人は平成22年10月1日に提出した回答書において、「引用文献2(審決注、「引用例」を指す。)に記載の窒化物半導体素子において、本願の『第二のオーミック電極の主面の一部を露出させた溝形成部』に相当する部分には、『第1の電極3』は存在せず、『第1導電型の窒化物半導体の露出部』(第1の電極の開口部)上には『第1絶縁性の保護膜4』が形成されているのみです(引用文献2の第16頁第17?19行、図1Bおよび図3)。すなわち、引用文献2は、『第二のオーミック電極の主面の一部を露出させた溝形成部』を開示、示唆するものではありません。 そして、引用文献2の第5頁第34?36行の記載および引用文献2が第1の電極を第1導電型の窒化物半導体層に部分的に形成する具体例しか開示していないことに鑑みれば、引用文献2に接した当業者が、『第1の電極の主面の一部を露出させた溝形成部』を有するように、第1の電極の構造、さらには第1絶縁性の保護膜の構造を変更してみようという動機付けは全く見当たらず、ましてやこのような構造変更によって本願所定の作用効果が得られるであろうという期待も全く示唆されません。 上記第5頁第34?36行の記載とは下記のとおりであり、引用文献2に記載の発明においては、窒化物半導体層上に部分的に第1の電極を形成することを前提にしており、全面に形成することが想定されていないことは明白であります。 『第1の電極は第1導電型の窒化物半導体層に全面形成することもできるが部分的に形成し、開口部を第1絶縁性の保護膜で埋めることで第1の電極と第1導電型の窒化物半導体層との接触面積を調整することができる。』(第5頁第34?36行) さらに、第8頁第2?5行における下記記載のとおり、引用文献2に記載の発明においては、第1の電極による光吸収を減らすために、積極的に保護膜を用いることが記載されており、このことは、第1の電極を窒化物半導体層上に全面形成しようと試みることの阻害要因になると考えます。 『第1の電極3は光吸収するため、この光吸収を減らすためには積極的に第1の保護膜4へ光を透過させて、第1の保護膜4の下に形成した反射膜または導電層13との界面bで光反射を行うことで光取り出し効率を高める(図12E)。』(第8頁第2?5行) 」と主張している。 しかし、引用例には「第1の電極は第1導電型の窒化物半導体層に全面形成することもできる」と明確に記載されている以上、阻害要因について論じる余地はない。 4 むすび 以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の技術的意義を当業者が理解できる程度に記載したものということはできないから、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところにより記載されたものであるということはできない。 また、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-12-02 |
結審通知日 | 2010-12-07 |
審決日 | 2010-12-20 |
出願番号 | 特願2004-252500(P2004-252500) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 536- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 土屋 知久 |
特許庁審判長 |
服部 秀男 |
特許庁審判官 |
橿本 英吾 吉野 公夫 |
発明の名称 | 窒化物系化合物半導体発光素子 |
代理人 | 荒川 伸夫 |
代理人 | 仲村 義平 |
代理人 | 佐々木 眞人 |
代理人 | 深見 久郎 |
代理人 | 酒井 將行 |
代理人 | 堀井 豊 |
代理人 | 森田 俊雄 |