• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1231507
審判番号 不服2008-14375  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-09 
確定日 2010-11-17 
事件の表示 特願2007-174291「副甲状腺ホルモンの類似体」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月22日出願公開、特開2007-302682〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯・本願発明
本願は、平成8年7月3日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年7月13日 米国、1995年9月6日 米国、1996年3月29日 米国)とする特願平9-505897号の一部を、特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願とした特願2003-8027号の一部を、さらに特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって、その請求項2に係る発明は、平成20年2月13日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項2】[Cha^(7)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(11)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,11)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Aib^(16),Tyr^(34)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Aib^(19)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Aib^(16,19)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,ll),Aib^(16)]hPTHrP(1-34)NH2;[Cha^(7,1l),Aib^(19)]hPTHrP(l-34)NH_(2);[Cha^(22),Leu^(23,28,31),Glu^(25,29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26,27,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(22,23),Glu^(25,29),Leu^(28,31),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25,29),Lys^(23,26,30),Leu^(28,31)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26),Cha^(30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26),Aib^(30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25,29),Leu^(23,31),Lys^(26,28,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(22,23,24,27,28,31),Glu^(25,29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25,29),Cha^(23,24,28,31),Lys^(26,27,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25,29),Cha^(23,24,27,31),Lys^(26,28,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25,29),Lys^(23,26,30),Cha^(24,27,28,31)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(22),Leu^(23,28,31),Glu^(25,29),Lys^(26,27,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(22),Leu^(23,31),Glu^(25,29),Lys^(26,28,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(22),Lys^(23,26,30),Glu^(25,29),Leu^(28,31)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(22),Leu^(23,28,31),Glu^(25),Lys^(26,30),Aib^(29)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(22),Leu^(23,28,31),Glu^(25,29),Lys^(26),Aib^(30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25),Leu^(23,28,31),Lys^(26,27,30),Aib^(29)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25),Lys^(23,26,30),Leu^(28,31),Aib^(29)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25),Leu^(23,31),Lys^(26,28,30),Aib^(29)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,11),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH2;[Cha^(7,11,22),Leu^(23,28,31),Glu^(25,29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,11),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26,27,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,11,22,23),Glu^(25,29),Leu^(28,31),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,11),Glu^(22,25,29),Lys^(23,26,30),Leu^(28,31)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,11),Glu^(22,25,29),Leu^(23,31),Lys^(26,28,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,11),Glu^(22,25),Leu^(23,28,31),Aib^(29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,11),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26),Aib^(30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(15),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(15,22),Leu^(23,28,31),Glu^(25,29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(15),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26,27,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(15,22,23),Glu^(25,29),Leu^(28,31),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(15),Glu^(22,25),Leu^(23,28,31),Aib^(29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(15),Glu^(22,25,29),Lys^(23,26,30),Leu^(28,31)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(15),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26),Aib^(30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(15),Glu^(22,28,29),Leu^(23,31),Lys^(26,28,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(15,30),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,8,22),Leu^(23,28,31),Glu^(25,29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,8),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26,27,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,8,22,23),Glu^(25,29),Leu^(28,31),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,8),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,8),Glu^(22,25),Leu^(23,28,31),Aib^(29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,8),Glu^(22,25,29),Lys^(23,26,30),Leu^(28,31)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,8),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26),Aib^(30)]hPTHrP(1-34)NH2;[Cha^(7,8),Glu^(22,25,29),Leu^(23,31),Lys^(26,28,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Cha^(7,8,30),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Cha^(7,11,22),Met^(8),Asn^(10),His^(14),Leu^(23,28,31),Glu^(25,29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Cha^(7,11),Met^(8),Asn^(10),His^(14),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26,27,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Cha^(7,11),Met^(8),Asn^(10),His^(14),Glu^(22,25,29),Leu^(23,31),Lys^(26,28,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);Ser^(1),Ile^(5),Cha^(7,11),Met^(8),Asn^(10),His^(14),Glu^(22,25,29),Lys^(23,26,30),Leu^(28,31)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Cha^(7,11),Met^(8),Asn^(10),His^(14),Glu^(22,25),Leu^(23,28,31),Aib^(29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Cha^(7,11),Met^(8),Asn^(10),His^(14),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26),Aib^(30)]PTHrP(1-34)NH2;[Ser^(1),Ile^(5),Cha^(7,11,22,23),Met^(8),Asn^(10),His^(14),Glu^(25,29),Leu^(28,31),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Cha^(7,11,15),Met^(8),Asn^(10),His^(14)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Met^(8),Asn^(10),,Leu^(11),His^(14),Aib^(16)]hPTHrP(1-34)NH2;[Ser^(1),Ile^(5),Met^(8),Asn^(10),,Leu^(11,28,31),His^(14),Cha^(22,23),Glu^(25,29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH2;[Ser^(1),Ile^(5),Cha^(7,11),Met^(8),Asn^(10),His^(14),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Met^(8),Asn^(10),His^(14),Cha^(15),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Cha^(7,8),Asn^(10),His^(14),Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Lys^(24,26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Aib^(22),Leu^(23,28,31),Glu^(25,29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,29),Leu^(23,28,31),Aib^(25),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25,29),Leu^(23,28,31),Aib^(26),Lys^(30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Glu^(22,25,29),Leu^(23,28),Lys^(26,30,31)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Met^(8),Asn^(10),Leu^(11,23,28,31),His^(14),Cha^(22),Glu^(25,29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Met^(8),Asn^(10),Leu^(11,28,31),His^(14),Glu^(22,25,29),Lys^(23,26,30)]PTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Met^(8),Asn^(10),Leu^(11,23,28,31),His^(14),Glu^(22,25,29),Lys^(26,27,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Met^(8),Asn^(10),Leu^(11,23,31),His^(14),Glu^(22,25,29),Lys^(26,28,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Met^(8),Asn^(10),Leu^(11,23,28,31),His^(14),Glu^(22,25),Aib^(29),Lys^(26,30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);[Ser^(1),Ile^(5),Met^(8),Asn^(10),Leu^(11,23,28,31),His^(14),Glu^(22,25,29),Lys^(26),Aib^(30)]hPTHrP(1-34)NH_(2);または[Ser^(1),Ile^(5),Met^(8)]hPTHrP(1-34)NH_(2)からなる群より選択されるペプチド、またはこれらの製薬上許容できる塩。」(以下、「本願発明」という。)
第2 特許法第29条第2項
1.引用例
(1-1)
原審の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるBiochemistry(1990),Vol.29,p.1580-1586(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-1-1)
「この研究は、より強力なPTH及びPTHrPのアンタゴニストをデザインするための合理的なアプローチのための基礎を提供するものであって、これは、既に構造的な操作に対する寛容性が確立されたアンタゴニストの配列に対して、受容体の親和性を増加させるような疎水性残基を導入することに基づいている。」(1580頁要約欄下から3-最終行)
(1-1-2)
「副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)と副甲状腺ホルモン(PTH)とは、N末端ドメインに相同性がある。いくつかの研究室においてin vitroやin vivoで得られた結果が示唆しているのは、従来からPTH受容体と考えられていた受容体とこのホルモンとの相互作用によって、PTHrPの生物学的活性の発現が生じるということである。PTHrPとPTHの両方のN末端フラグメント(34アミノ酸長)は、同様の生物学的特徴を示す(Horinouchi et.al.,1987;Kemp et.al.,1987)。・・・N末端13アミノ酸ドメイン以外の無視できないほどの構造的な相違にもかかわらず、生物学的活性の類似性が生じている。」(1580頁左欄11-23行)
(1-1-3)


図1:ヒトPTHとヒトPTHrPのN末端配列1-34の比較。両配列の共通残基は、六角形の中心に一文字表記をしている。アミノ酸が異なる部位は、2つの一文字表記で表している。六角形の上側角の文字はPTHに対応し、下側角の文字はPTHrPに対応している。・・・」(1581頁左欄 図1)
(1-1-4)
「Table II:ウシ腎臓皮質膜を用いたPTH及びPTHrP由来のアゴニストアナログ及びアンタゴニストアナログの結合活性及びシクラーゼ活性

」(1583頁 Table II)
(1-1-5)
「Ala12、D-Ala12、Aib12を含むアゴニストアナログ(1-3)のKb及びKmは、それぞれ、0.7-1.0nM及び0.6-1.5nMである。これらの値は、元のアナログである(I)で得られた値(0.7nM)と近い。Pro12アナログ(4)は、結合活性及びシクラーゼ活性の点で、[Tyr^(34)]hPTH(1-34)NH_(2)(I)より約840-3500倍、小さな値を示した。」(1583頁左欄4-10行)
(1-2)
また、同じく原審の拒絶の理由に引用文献7として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるJournal of Biological Chemistry(1995 Mar),Vol.270,No.12,p.6584-6588(以下、「引用文献7」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-2-1)
「副甲状腺ホルモン(PTH)及び副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)は、共通のPTH/PTHrP受容体に結合する。これらリガンドにおける構造活性相関を探索するため、我々は、構造類似性の高い1-14部分を交換したPTH-PTHrPハイブリッドペプチドを合成し、機能的な評価を行った。」(6584頁左欄1-6行)
(1-2-2)
「概して、結果は、PTHとPTHrPの双方とも、受容体に結合する際に1-14ドメインと15-34ドメインが相互作用し、5、19、21残基が直接的間接的にこの相互作用に寄与しているという仮説と一致した。」(6584頁左欄23-27行)
(1-2-3)
「アミノ末端及びカルボキシル末端の修飾を組み合わせた効果
・・・
[Ile^(5)、Glu^(19)]PTHrP(1-34)がAR-40細胞に結合する際のアフィニティは、[Glu^(19)]PTHrP(1-34)及びそれとほぼ等しいPTHrP(1-34)そのものより140倍も大きいことから見いだされた(表2)。Ile^(5)の修飾はGlu^(19)/Val^(21)の修飾が合わさることによる影響を是正することもできるのかもしれない(表2)。これらの結果は、ハイブリッドペプチドを用いた観測と一致するものである。Ile^(5)の修飾のアフィニティ強化効果は、19位および21位を置換したアナログに限らない。PTHrP(1-34)そのものや[Glu^(24)]PTHrP(1-34)の結合アフィニティも、Ile^(5)の修飾によって格段に向上した。なお、[Glu^(24)]PTHrP(1-34)は、24位の変えることを想定していないロイシンをグルタミン酸に置換することによって、結合アフィニティが非常に弱くなったアナログである。」(6585頁右欄下から7行-6586頁左欄14行)
(1-2-4)
「表II
5、19及び21位におけるリガンド修飾の受容体結合に対する効果
リガンドは、AR-40細胞への^(125)I-[Nle^(8,18)、Tyr^(34)]bPTH(1-34)NH_(2)の結合を阻害する能力についての放射線受容体競合アッセイによって測定した。IC50値は、3回以上の実験から得られたデータの平均±SEである。


」(6586頁右欄)
(1-3)
さらに、同じく原審の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平06-184198号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-3-1)
「【産業上の利用分野】
本発明は、副甲状腺ホルモン(PTH)の変異型、それらの製造方法、それらを含む薬学的調製物および医薬としてのそれらの用途に関するものである。」(【0001】)
(1-3-2)
「本明細書中使用される「PTH」という語は、84個のアミノ酸を含む、例えばヒト、ブタ、ラット、ウシ、ニワトリのような所定の脊椎動物のPTH種の成熟型、ならびにそれらのフラグメント、ならびにPTH様活性を有するそれらの類似体および誘導体を包含する、任意の遺伝学的にコード化された型の副甲状腺ホルモンを意味する。PTH配列に含まれる各アミノ酸の位置は国際的に容認されている方法にしたがって番号を付ける。以下の記載において、一貫性のため、且つそれが常套的であるが、同じ番号付けの系を、当該分子中の置換パターンのPTH配列のアミノ酸に独立して適用する。」(【0002】)
(1-3-3)
「該PTH配列がPTHフラグメントから誘導される時、これはPTH様活性を有し、且つ、PTHの少なくとも最初の27のN-末端アミノ酸単位、好ましくはPTHの最初の38までのN-末端アミノ酸単位、例えば1-34ないし1-38、例えば1-34、1-36、1-37または1-38PTH、を含み、α-アミノ酸のうち少なくとも1個が本発明に従って置換されている、PTHフラグメントである。天然に存在するPTH配列中に通常存在する1またはそれ以上のα-アミノ酸単位もまた削除することができる。hPTHフラグメント、特にhPTH(1-34)およびhPTH(1-36)が好ましい。」(【0007】)
(1-3-4)
「該PTH化合物のC-末端は-COOH、エステル化された-COOH、例えば-COORa[式中、Raは低級アルキル、例えばC1-4アルキルである]、-CONH_(2)または一もしくは二置換アミド、例えば-CONRbRc[式中、RbおよびRcの一方がHであり他方が脂肪族残基、例えばC1-6アルキルであり、または、両方が脂肪族残基であり、またはRbおよびRcはこれらの結合している窒素原子と合してヘテロ環基、例えばピロリジニルまたはピペリジニルを形成する]であってよい。」(【0008】)
(1-3-5)
「「非天然アミノ酸」単位という語は、遺伝的にコード化されていないアミノ酸単位を意味する。非天然アミノ酸単位の例は、例えば上記のような天然α-アミノ酸のD異性体、Aib(アミノ-イソ酪酸)、bAib(3-アミノイソ酪酸)、Nva(ノルバリン)、β-Ala、Aad(2-アミノアジピン酸)、bAad(3-アミノアジピン酸)、Abu(2-アミノ酪酸)、Gaba(γ-アミノ酪酸)、Acp(6-アミノカプロン酸)、Dbu(2,4-ジアミノ酪酸)、TMSA(トリメチルシリル-Ala)、aIle(アロ-イソロイシン)、Nle(ノルロイシン)、t-Leu、Cit(シトルリン)、Orn、Dpm(2,2’-ジアミノピメリン酸)、Dpr(2,3-ジアミノプロピオン酸)、α-またはβ-Nal、Cha(シクロヘキシル-Ala)、ヒドロキシ-プロリン、Sar(サルコシン)等、環状アミノ酸単位およびNα-アルキル化アミノ酸単位、例えばMeGly(Nα-メチル-グリシン)、EtGly(Nα-エチルグリシン)、EtAsn(Nα-エチル-アスパラギン)を包含する。」(【0012】)
(1-3-6)
「実施例2
[Lys(Nε-イソプロピル)^(26,27)]hPTH(1-34)NH_(2)。
このペプチドは、13位への導入のためにLys(Fmoc)を、そして末端1位にFmoc-Ser(tBu)を使用する外は実施例1に記載のようにして組み立てる。」(【0094】)
(1-3-7)
「・・・
実施例179 [Thr^(33),Ala^(34)]hPTH(1-34)NH_(2)。
・・・
実施例185 [Phe^(23),His^(25),His^(26),Leu^(27)]hPTH(1-34)NH_(2)。
・・・ 」(【0128】)
(1-3-8)
「実施例187 [Phe^(23),His^(25),His^(26),Leu^(27),Ile^(28),Ala^(29),Glu^(30),Ile^(31),Thr^(33),Ala^(34)]hPTH(1-34)NH_(2)(IS-MS:3934)。
・・・
実施例191 [Leu^(8),Asp^(10),Lys^(11),Thr^(33),Ala^(34)]hPTH(1-34)NH_(2)。
実施例192 [Ala^(1),His^(5),Leu^(8),Asp^(10),Lys^(11),Thr^(33),Ala^(34)]hPTH(1-34)NH_(2)。
実施例193 [Ser^(14),Ile^(15),Gln^(16),Asp^(17),Leu^(18),Arg^(19),Thr^(33),Ala^(34)]hPTH(1-34)NH_(2)。
・・・」(【0129】)
(1-3-9)
「・・・
実施例226 [D-Asp^(30)]hPTH(1-34)NH_(2)[MS(IS):4118]。」(【0132】)
(1-3-10)
「・・・
実施例230 [Lys^(32)]hPTH(1-34)NH_(2)[MS(IS):3832]。
・・・」(【0133】)
(1-3-11)
「実施例237 Ip-[Nle^(8,18),Lys(Ip)^(13,26,27),D-Asn^(33),D-Phe^(34)]hPTH(1-34)NH_(2)。
実施例238 Ip-[Nle^(8,18,27),Lys(Ip)^(13,26)]hPTH(1-36)NH_(2)。
実施例239 [Nle^(8,18),D-Asn^(33),D-Phe^(34)]hPTH(1-34)NH_(2)[MS(IS):4080]。
・・・」(【0134】)
(1-3-12)
「・・・
実施例256 [Ala^(1),His^(5),Leu^(8),Asp^(10),Lys^(11),Gln^(18),Phe^(22),Phe^(23),His^(25),His^(26),Leu^(27),Thr^(33),Ala^(34)]-hPTH(1-34)NH_(2)。
・・・」(【0135】)
(1-3-13)
「・・・
実施例263 [D-Leu^(7)]-hPTH(1-36)NH_(2)[MS(IS):4288]。
・・・」(【0136】)
(1-3-14)
「・・・
実施例284 [D-Leu^(24)]-hPTH(1-36)NH_(2)[MS(IS):4288]。
・・・」(【0138】)
(1-3-15)
「・・・
実施例289 [Lys^(26/27)(For)]-hPTH(1-34)NH_(2)。
・・・」(【0139】)
2.引用文献7との対比
本願発明に係るペプチドは、hPTHrP(1-34)NH_(2)のペプチドの改変体であって、上記第1に記載したとおりのものである。
一方、引用文献7に記載されたペプチドは、hPTHrP(1-34)NH_(2)の5位をIleに、19をGluに、21位をValに置換したペプチドであると認められる。
本願発明と引用文献7に記載された事項とを対比すると、両者は、「構成アミノ酸のいくつかを置換したhPTHrP(1-34)NH_(2)のペプチド」である点で一致し、前者では、1位をSer、5位をIleに、7位をChaに、8位をCha又はMetに、10位をAsnに、11位をCha又はLeuに、14位をHisに、15位をChaに、16位をAibに、19位をAibに、22位をAib、Cha又はGluに、23位をCha、Leu又はLysに、24位をChaに、25位をAib又はGluに、26位をAib又はLysに、27位をCha又はLysに、28位をCha、Leu、Lys又はGluに、29位をAib又はGluに、30位をAib、Cha又はLysに、31位をCha又はLeuに、34位をTyrに置換するアミノ酸残基の置換から選択される1ないし16箇所のアミノ酸残基の置換を施したものであるのに対し、後者では、5位をIleに、19位をGluに、21位をValに置換したものである点で相違する。
3.当審の判断
(3-1)
副甲状腺ホルモン(PTH)及び副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)は、ともにPTH/PTHrP受容体に結合することができるものであり、ともにホルモン関連疾患等の治療に用いることができるため、より受容体への結合活性や安定性に優れたPTH及びPTHrPの改変体を探索して、より優れた医薬の開発につなげることは、引用文献7、引用文献1及び引用文献2並びに原審の拒絶の理由で引用文献3として引用された特開昭63-313800号公報、引用文献5として引用された特開平05-320193号公報、及び、引用文献6として引用された国際公開第93/06846号に記載されているように、本願優先日当時当業者にとって自明の技術課題であった。
また、PTHとPTHrPの34アミノ酸からなるN末端フラグメントは、N末端13アミノ酸ドメイン以外の配列が大きく異なるにもかかわらず、同様の生物学的特徴を示すものであるから、PTH又はPTHrPのアナログの構造活性相関や生体内動態を検証するための実験系において、PTHとPTHrPとを同等に取り扱うこと、及び、当該改変に用いる置換アミノ酸として、天然のアミノ酸のほか、非天然のアミノ酸も用いることができることは、引用文献7、引用文献1及び引用文献2並びに原審の拒絶の理由で引用された上記引用文献3、5-6に記載されているように、本願優先日当時当業者にとって周知の事項であった。
(3-2)
このような技術水準の下、PTHrPの更なる改変体を製造しようとすること、そして、その際、PTHとPTHrPとでアミノ酸残基の異なる部位に着目することは、引用文献7に接した当業者であれば、容易に想到し得たことであり、引用文献7に記載のhPTHrP(1-34)NH_(2)の改変体において、PTHとPTHrPとで共通するアミノ酸が占める部位以外の部位である1位、5位、8位、10位、11位、14位、15位、16位、19位、22位、23位、25位、26位、27位、28位、29位、30位、31位及び34位のアミノ酸を置換しようとすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、引用文献2には、PTHとPTHrPとで共通するアミノ酸が占める部位以外の部位である7位及び24位のアミノ酸を改変することが記載されている(上記摘記1.(1-3-13)及び同(1-3-14)参照)から、7位及び24位のアミノ酸を置換しようとすることも、当業者が容易になし得たことである。
(3-3)
一方、本願明細書の表1においては、PTH又はPTHrPの改変体である30ペプチドが列記されており、それぞれペプチドの奏する効果として、PTHレセプターへの結合及びアデニル酸シクラーゼ活性の刺激に関する具体的なデータが記載されているものの、本願発明のペプチドについては、上記表1には記載されておらず、【0014】にその名称が記載されているだけであって、上記PTHレセプターへの結合及びアデニル酸シクラーゼ活性の刺激に関する効果については不明であるから、本願発明が格別の効果を奏するとはいえない。
4.審判請求人の主張
(4-1)
審判請求人は、平成20年2月13日付意見書、平成20年9月3日付審判請求の理由の手続補正書及び平成平成22年2月19日付回答書において、引用文献1-9には、非常に多くの置換部位及び置換アミノ酸が開示されており、これらの組合せもさらに広範であるから、特定位置で特定のアミノ酸へ置換した本願発明のペプチドは、当業者が容易に想到できないものである旨主張している。
しかしながら、当業者が本願ペプチドを容易に想到した点については、上記第2 3.(3-2)で述べたとおりであるから、審判請求人の上記主張は採用することができない。
なお、審判請求人の主張する「非常に多くの置換部位及び置換アミノ酸」や「組合せが広範」については、客観的な主張ではないため、その主張の意図が不明である。
(4-2)
審判請求人は、平成20年9月3日付審判請求の理由の手続補正書及び平成22年2月19日付回答書において、特定位置で特定のアミノ酸へ置換した本願発明のペプチド自体は当業者に知られていなかったから、その効果も予測できたものではなく、また、本願明細書の表1に列記されたペプチドは、本願発明のペプチドと相互に特定の関係を満たしているから、本願発明のペプチドも、表1に列記されたペプチドと同様の効果を奏する旨、主張している。
しかしながら、本願発明の効果が当業者に予測できない優れたものとはいえない点については、上記第2 3.(3-3)で述べたとおりであり、審判請求人の上記主張は採用することができない。
なお、本願発明のペプチドが、hPTHrP(1-34)NH_(2)の置換部位を1位、5位、7位、8位、10位、11位、14位、15位、16位、19位、22位、23位、24位、25位、26位、27位、28位、29位、30位、31位及び34位に限った点、及び、当該部位のアミノ酸を所定の特定アミノ酸に置換した点については、本願明細書、平成20年2月13日付意見書、平成20年9月3日付審判請求の理由の手続補正書及び平成22年2月19日付回答書のいずれにおいても、技術的に合理的な説明がなされていないため、その技術的意義が不明である。
そもそも、当初明細書において何の具体的な説明もなく、多くの化学物質のリスト中に名称だけが記載されていた化学物質を、当初明細書の記載からは予測できない後出しの効果の存在を主張することによって、進歩性の存在を推認することは、先願主義の原則にもとるものである。すなわち、仮にそのようなことが認められるとしたら、当初明細書には数多くの化学物質を列挙しておき、その中から後に格別の効果を奏することが判明したものを分割出願する等により、特許を取得することが可能となるが、そのような結果は、出願当初の明細書の公開による十分な技術開示の代償として特許権を付与するという特許制度の趣旨からは、到底認めるべきではない。
したがって、審判請求人の上記主張はいずれも採用することができない。
5.小括
以上のとおり、本願発明は、引用文献7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第3 特許法第36条第4項
1.本願発明
本願発明は、上記第1に記載したとおりのものであって、hPTHrP(1-34)NH_(2)のペプチドにおいて、所定のアミノ酸残基の置換、すなわち、1位をSer、5位をIleに、7位をChaに、8位をCha又はMetに、10位をAsnに、11位をCha又はLeuに、14位をHisに、15位をChaに、16位をAibに、19位をAibに、22位をAib、Cha又はGluに、23位をCha、Leu又はLysに、24位をChaに、25位をAib又はGluに、26位をAib又はLysに、27位をCha又はLysに、28位をCha、Leu、Lys又はGluに、29位をAib又はGluに、30位をAib、Cha又はLysに、31位をCha又はLeuに、34位をTyrに置換するアミノ酸残基の置換から選択される1ないし16箇所のアミノ酸残基の置換を施したものである。
一方、本願明細書には、2つの一般式(【化1】及び【化2】参照)で表されるPTH改変体のペプチドが列記されており(【0011】及び【0014】)、そのうちの30のPTH改変体のペプチドについては、PTHレセプターへの結合やアデニル酸シクラーゼ活性の刺激の点で効果を示すことが、表1において具体的に記載されているが、本願発明のペプチドを含むそれ以外の上記列記されたPTH改変体については、所定の効果を示すことが具体的に記載されていない。
2.当審の判断
一般に、ペプチドを含む化学物質の発明は、物の構造や名称からその物をどのように作り、どのように使用するかを理解することが困難な技術分野に属するものであり、例えばペプチドのアミノ酸残基の置換によって、その高次構造が変化したり、あるいは高次構造が変化せずとも生理活性に重要な部位が不活化したりすることによって、生理活性の消失などの大きな活性の変化が生じるものであるから、当業者がその発明の実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには、本願明細書において代表的な実施例が記載されている必要がある。
しかしながら、本願明細書においては、本願発明のペプチドが奏する効果についての具体的な記載はなく、また、表1に列記されたペプチドと本願ペプチドとは、改変前のペプチドも置換部位・置換ペプチドも異なるものであるから、本願明細書の表1に列記されたペプチドの実施例が、本願発明のペプチドを代表する実施例であるとはいえない。
たとえ一般に、2つの異なるペプチドにおいて、両者のアミノ酸配列の相同性が高く2次構造やアミノ酸の物性が類似していれば、両者のアミノ酸配列の相同性が低く2次構造やアミノ酸の物性も類似していない場合と比較して、両者が類似の活性を示す可能性が高いとしても、本願明細書に本願発明のペプチドに関する具体的なデータを伴った開示がなされていない以上、表1に列記されたペプチドと類似の活性を示すか否か、依然として真偽不明である。
そして、本願明細書には、上記2つの一般式で表されるあらゆるPTH改変体が所定の効果を示すことについて、具体的な技術的説明も記載されておらず、かつ、表1に列記された30のPTH改変体のペプチドにおける構造と活性の相関を考慮しても本願発明のペプチドに至るための合理的な説明が見いだせないことから、上記2つの一般式で表される多数のPTH改変体の中から本願発明のペプチドを見いだすためには、当業者に過度な実験や試行錯誤を課すものである。
したがって、本願発明の詳細な説明には、本願発明について当業者が実施することができるように明確かつ十分に記載されていない。
3.審判請求人の主張
審判請求人は、平成20年2月13日付意見書、平成20年9月3日付審判請求の理由の手続補正書及び平成22年2月19日付回答書において、本願の出願当初の特許請求の範囲では、本願のPTHrP(1-34)NH_(2)のペプチドを一般式で表わしていたことから、本願発明のペプチドは全く関係のないものの集まりではなく、相互に特定の関係を有するものの集まりであって、この集まりに含まれる本願明細書の表1に列記されたペプチドについては優れた効果が記載されているから、同じ集まりに含まれる本願発明のペプチドについても、同様の効果を奏する旨、主張している。
しかしながら、本願発明のペプチドは、本願明細書において具体的なデータを伴った開示がなされていないから、2つの一般式で表される多数のPTH又はPTHrPのペプチドの改変体の中から本願発明のペプチドを見いだすためには、当業者に過度な実験や試行錯誤を課すものである点については、上記第3 2.で述べたとおりであり、審判請求人の上記主張は採用することができない。
4.小括
以上のとおり、本願発明の詳細な説明には、本願発明について当業者が実施することができるように明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項2に係る発明は、引用文献7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、かつ、本願発明の詳細な説明には、本願請求項2に記載の発明について当業者が実施することができるように明確かつ十分に記載されていないものであって、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をするものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-16 
結審通知日 2010-06-22 
審決日 2010-07-05 
出願番号 特願2007-174291(P2007-174291)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07K)
P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高 美葉子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 田中 耕一郎
鵜飼 健
発明の名称 副甲状腺ホルモンの類似体  
代理人 八田 幹雄  
代理人 宇谷 勝幸  
代理人 奈良 泰男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ