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審決分類 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1231852
審判番号 不服2007-33190  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-10 
確定日 2011-02-09 
事件の表示 特願2003-514597「フラッシュアニール」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月30日国際公開,WO03/09350,平成16年12月 2日国内公表,特表2004-536457〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成14年7月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年7月20日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成19年8月7日に意見書及び手続補正書が提出され,同年9月3日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年12月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,平成20年1月8日に手続補正書が提出されたものである。

2.平成20年1月8日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正という。)について
本件補正は,請求項1,13,17,19を補正するものであって,請求項1,13,17,19についての補正は,いずれも,補正前の「アクティブ層のみ」を補正後の「アクティブ層全体を含む最小限の領域のみ」と補正するものである。
この補正は,拒絶査定で請求項の記載と発明の詳細な説明の記載との不整合が指摘された点について,発明の詳細な説明の開示内容を反映する記載として特許請求の範囲をより明確にするための補正と理解できるから,平成14年法律24号改正附則2条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項4号に掲げる「明りょうでない記載の釈明」に該当する。

3.本願発明の新規性について

3-1.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものである。
「基板の熱処理方法であって,
放射エネルギー源及びリフレクタを含む室を提供する過程と,
前記基板のアクティブ層全体を含む最小限の領域のみを加熱するべく,放射エネルギーが基板表面に衝当するように前記放射エネルギー源をフラッシュする過程とを含む方法。」

3-2.引用例の記載と引用発明
(1)引用例とその記載内容
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開昭55-75224号公報(以下「引用例」という。)には,第1?3図とともに,次の記載がある。(下線は当審で付加したもの,以下同じ。)
ア.「ところで,レーザー発振用ガラスロッドや半導体素子のように,不純物の濃度や分布が所定のものでなければならないような物質においては,長時間加熱では,不純物の濃度や分布に変化が生ずる場合があり,通常の加熱によるアニール処理が全々適用できないことがある。例えば,シリコン半導体製造過程において,不純物をイオン打ち込みで注入した時に生ずる照射損傷の除去には,従来既知の加熱法,加熱炉は使用できない。」(1頁右下欄2?10行)
イ.第1?3図を参照して,
「第1図は,閃光放電灯のアーク長方向からみた炉の要部略図,第2図はアーク長方向と直角の方向からみた炉の要部略図であって,1は直管状の閃光放電灯,Lはそのアーク長,dは同じくその内径を示し,L×dが閃光放電灯のアーク軸を含む閃光放電灯の断面積となる。2はミラー,3は筐体を示し,筐体3は,組立や取扱いの便利さから上部体3aと下部体3bとの2分割となし,図示の例では,上部体3a内にミラー2,閃光放電灯1を配置,試料台4を下部体3b内に配置している。そして,試料台4の上面積を,閃光放電灯1による被照射区域面積と等しくしてある。
こゝで,閃光放電灯1やミラー2は,上部体3a内に支持固定されているが,支持構造には,通常の物の構造物の支持構造各種のものが適用できるので,図では省略してある。
さて,上記アニール炉において,閃光放電灯1として,d=6mm,L=160mm,したがってL×d=9.6cm^(2),キセノンガス充填圧0.2気圧(25℃)のものを選定し,発火電圧1600V,放射エネルギー約800joulで発火せしめる一方,試料台の方は,アーク長に沿って長い矩形とし,16cm×6cm,つまり閃光放電灯のアーク軸を含む閃光放電灯の断面積9.6cm^(2)の10倍の広さ96cm^(2)とし,1インチシリコンウエハー5 12ケを第3図の通り,2列に配置して,上記発火による閃光照射を受けるようにする。
上記の場合,シリコンウエハーの表層部は,閃光によって瞬間昇温せしめられるので,不純物の濃度や分布を変えることなく,シリコンの格子欠陥等の損傷をアニール的に除去できる。結局のところ,不純物の存在する区域,大体数千オングストローム程度の厚みの表層及びその近傍のみアニールすれば良いので,閃光照射による瞬間昇温アニールが有効と推定される。」(1頁右下欄19行?2頁右上欄16行)
ウ.「本発明は上記の通り,閃光放電灯を含む瞬間加熱のアニール炉であって,被照射区域を前記の通り規定することによって好結果を得るものである。そして,シリコンウエハーのように,薄層になったもの,もしくは,表層のみで良いもの等のアニール炉として優れている。」(2頁左下欄10?15行)

(2)引用発明
上記(1)イの下線部の記載によれば,引用例には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「シリコンウエハーを閃光照射により瞬間昇温アニールする方法であって,
筐体3の上部体3a内にミラー2,閃光放電灯1を配置し,
筐体3の下部体3b内に配置された試料台4にシリコンウエハーを配置して,閃光放電灯1の発火による閃光照射を受けるようにし,不純物の存在する区域及びその近傍のみアニールして,シリコンウエハーの表層部が,閃光によって瞬間昇温せしめられるようにする方法。」

3-3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「シリコンウエハー」,「アニール」は,それぞれ,本願発明の「基板」,「熱処理」に相当するから,引用発明の「シリコンウエハーを閃光照射により瞬間昇温アニールする方法」は,本願発明の「基板の熱処理方法」に相当する。
(2)引用発明の「閃光放電灯1」,「ミラー2」,「筐体3の上部体3a」は,それぞれ,本願発明の「放射エネルギー源」,「リフレクタ」,「室」に相当するから,引用発明の「筐体3の上部体3a内にミラー2,閃光放電灯1を配置」することは,本願発明の「放射エネルギー源及びリフレクタを含む室を提供する過程」に相当する。
(3)引用発明の「閃光放電灯1の発火」により「閃光照射」をすることは,本願発明の「前記放射エネルギー源をフラッシュする」ことに相当する。
また,引用発明の「筐体3の下部体3b内に配置された試料台4にシリコンウエハーを配置して,閃光放電灯1の発火による閃光照射を受けるように」することは,本願発明の「放射エネルギーが基板表面に衝当するように」することに相当する。
さらに,本願発明の「前記基板のアクティブ層全体を含む最小限の領域のみを加熱する」ことと,引用発明の「不純物の存在する区域及びその近傍のみアニールして,シリコンウエハーの表層部が,閃光によって瞬間昇温せしめられる」こととは,少なくとも,「前記基板の」所定の「領域のみを加熱する」点で共通する。
(4)そうすると,本願発明と引用発明との一致点及び一応の相違点は,次のとおりとなる。

《一致点》
「基板の熱処理方法であって,
放射エネルギー源及びリフレクタを含む室を提供する過程と,
前記基板の所定の領域のみを加熱するべく,放射エネルギーが基板表面に衝当するように前記放射エネルギー源をフラッシュする過程とを含む方法。」
《一応の相違点》
「所定の領域」が,本願発明では「アクティブ層全体を含む最小限の領域」であるのに対し,引用発明では「不純物の存在する区域及びその近傍」である点。

3-4.一応の相違点についての検討
(1)上記3-2.(1)ア及びイによれば,引用例には,「シリコン半導体製造過程において,不純物をイオン打ち込みで注入した時に生ずる照射損傷の除去」の場合の問題点として,「不純物の濃度や分布が所定のものでなければならない」にもかかわらず「長時間加熱では,不純物の濃度や分布に変化が生ずる場合があり,通常の加熱によるアニール処理が全々適用できない」点を指摘し,これを受けて,「不純物の存在する区域,大体数千オングストローム程度の厚みの表層及びその近傍のみアニール」することにより,「シリコンウエハーの表層部は,閃光によって瞬間昇温せしめられ」,「不純物の濃度や分布を変えることなく,シリコンの格子欠陥等の損傷をアニール的に除去できる」ようにすることが開示されている。
よって,「不純物の存在する区域」とは,不純物がイオン打ち込みで注入された区域であり,イオン注入時に照射損傷が生じている区域であり,当該照射損傷の除去が必要な区域であるから,同時にアニール(による損傷の除去)の直接対象となる区域にも該当する。
そうすると,引用発明の「不純物の存在する区域及びその近傍」における「不純物の存在する区域」は,アニールされることが真に必要な範囲を定めるものであるから,本願発明の「アクティブ層全体」に相当する。

(2)また,引用発明において,「不純物の存在する区域」の境界近傍を確実にアニールするために,多少の余裕を見込んでその近傍をもアニールしておく必要が生じることは,当業者における技術常識であるから,引用発明の「不純物の存在する区域及びその近傍」における「その近傍」は,「不純物の存在する区域」以外にアニールが必要となる最小限の領域に該当する。

(3)上記(1)及び(2)によれば,引用発明の「不純物の存在する区域及びその近傍」は,本願発明の「アクティブ層全体を含む最小限の領域」に相当するから,本願発明と引用発明との一応の相違点は実質的なものではない。

(4)なお,審判請求人は,審判請求書の請求の理由において,「引用例1には,基板の0.02-0.03μm程度の深さの表層を加熱することが記載されているが,本願発明におけるアクティブ層は,本願明細書段落[0031]にも記載のように0.05μm-1mm程度の深さを指し,従って引用例1の表層のみの加熱は,「アクティブ層全体を含む」領域を加熱するものではない。」と主張するが,以下のア?ウの理由により,採用できない。

ア.本願発明(本願の請求項1に記載された発明)は,「アクティブ層」の深さについて特定されておらず,また,「アクティブ層」の深さは,デバイス,処理内容,処理対象,デザインルール等の様々な条件によって大きく異なるものであるから,本願発明の「アクティブ層」は,「0.05μm-1mm程度の深さ」のものに限定されない。
イ.引用発明の「不純物の存在する区域」の寸法として引用例に示された「大体数千オングストローム程度」という値も例示であって,本願発明と同様に,デバイス,処理内容,処理対象,デザインルール等の様々な条件によって大きく異なることは明らかであるから,引用発明の「不純物の存在する区域」は,「大体数千オングストローム程度」のものに限定されない。
ウ.本願の発明の詳細な説明に例示された「約0.05μmから1mmの間」をnm単位に換算すると,約50nmから10^(6)nmの間であり,引用例に例示された「大体数千オングストローム程度」をnm単位に換算すると,数百nm程度であるから,両者は共通する値を含むものである。

したがって,ア?ウのいずれの点から検討しても,「アクティブ層」(「不純物の存在する区域」)の深さが,本願発明と引用発明との相違点となることはない。

4.結言
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明(本願発明)は,引用例に記載された発明(引用発明)であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許法29条1項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-08 
結審通知日 2010-09-14 
審決日 2010-09-27 
出願番号 特願2003-514597(P2003-514597)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和瀬田 芳正  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 西脇 博志
安田 雅彦
発明の名称 フラッシュアニール  
代理人 大島 陽一  

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