ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F25B |
---|---|
管理番号 | 1231859 |
審判番号 | 不服2008-12719 |
総通号数 | 136 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-05-19 |
確定日 | 2011-02-09 |
事件の表示 | 特願2001-552034号「高温超伝導機械のための冷却システム」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月19日国際公開、WO01/51863、平成15年 6月24日国内公表、特表2003-519772号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、2001年1月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年1月11日、米国)を国際出願日とする出願であって、 平成20年2月13日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、平成20年5月19日に本件審判が請求されるとともに、同年6月18日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成20年6月18日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年6月18日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の請求項1に記載された発明 本件補正により、特許請求の範囲の【請求項1】は、 「【請求項1】 少なくとも1つの低温冷却表面と、該低温冷却表面と遠隔の熱負荷との間で熱輸送流体を移動させるための機械力の少なくとも一部を提供するために冷凍機内に設けられた少なくとも1つの低温流体輸送装置とを有した前記冷凍機からなることによって、前記熱輸送流体が単一の相に保持されている間に、前記遠隔の熱負荷は前記冷却表面に対して相対回転している、遠隔の熱負荷を冷却するための低温冷却システム。」 と補正された。 上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「熱輸送流体はほぼ単一の相に保持され」について、「熱輸送流体が単一の相に保持されている間に」と限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定の規定に適合するか)について、以下に検討する。 2.引用刊行物とその記載事項 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平8-222429号公報(以下「刊行物1」という。)には、極低温装置に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】被冷却体と,前記被冷却体を冷却するための冷却手段と,前記被冷却体及び前記冷却手段を内装する断熱真空容器で構成され、前記被冷却体は前記冷却手段内を循環する冷媒流路外に位置し、前記被冷却体と前記冷却手段とが熱的に接触した直冷式の極低温装置において、前記冷却手段が、予冷用の寒冷発生回路と,循環する冷媒の流路となる配管と,配管を内蔵した一連の熱交換器と,冷媒を循環させるための冷媒循環駆動手段とから成り、低温の冷媒が流れる配管の少なくとも一部が、前記被冷却体と熱的に接触していることを特徴とする極低温装置。」 (イ)「【0004】しかし、液体ヘリウムを使用する冷却方法は、取り扱いに特別な技能を持つ人が必要であり、さらに液体ヘリウムタンクを設置するため装置が複雑かつ大規模となってしまう。 ・・(略)・・ 【0007】 【発明が解決しようとする課題】上記に示した従来例では、超電導マグネットを冷却するための液体ヘリウムタンクが不必要であるため、装置が簡単であるが、核磁気共鳴装置や磁気分離装置等ボア径が1m近くあるいは1m以上にもなるような磁石を冷却する場合には以下のような問題点があるため、実用化が困難であった。磁石が大きくなると、冷凍機が接続している冷却部と磁石の先端部との間の熱抵抗が大きくなり、磁石内部で温度差がつくため、冷却部から離れた位置では温度が高くなり、超電導状態が破壊する危険性がある。・・(略)・・ 【0008】 【課題を解決するための手段】予冷用の寒冷発生回路にG・M冷凍機を用い、熱交換器と絞り弁及び配管で構成されるジュール・トムソン(J・T)液化回路とを組み合わせた(GM+JT)液化機の冷凍サイクルに、熱交換器と絞り弁とを1つずつ追設することにより低温のヘリウムガスを発生させ、前記低温ヘリウムガスが流れる配管を超電導磁石と熱的に接続することによって、上記問題点は解決できる。 【0009】 【作用】冷凍機で発生させた低温のヘリウムガスが流れる配管を、超電導マグネット等の被冷却体に熱接触させることにより、冷却を行う。これにより、液体ヘリウムタンク無しで冷却を行うことができる。」 (ウ)「【0030】以上の実施例では、冷媒の循環駆動手段として常温で作動する圧縮機と膨張弁であるJ・T弁とで構成した例を示したが、低温で作動する圧縮機と膨張弁とで構成した場合や、ファンにより冷媒を循環させた場合でも効果は同様である。 【0031】図12に、低温で作動するファンにより冷媒を循環させた場合の実施例を示す。低温で作動するファン33は、真空断熱容器(クライオスタット)22中に挿入され、ファン33により送られるヘリウムガスは、予冷用寒冷発生回路1の第二ステージ4で約4?6Kに冷却される。極低温に冷却されたヘリウムガスは冷却配管16c内部を通り、超電導磁石の冷却を行う。外部からの熱負荷を受けて若干温度上昇したヘリウムガスは再びファン33に戻り回路内を循環する。」 (エ)記載事項(ア)の「冷却手段が、予冷用の寒冷発生回路と,循環する冷媒の流路となる配管と,配管を内蔵した一連の熱交換器と,冷媒を循環させるための冷媒循環駆動手段とから成り」の「予冷用の寒冷発生回路」は、記載事項(ウ)の図12に示された「低温で作動するファンにより冷媒を循環させた場合の実施例」において、ヘリウムガスを「予冷用寒冷発生回路1の第二ステージ4で約4?6Kに冷却」する予冷用寒冷発生回路1であって、冷却する第二ステージ4を有するものであるので、記載事項(ア)の「冷却手段」は、予冷用寒冷発生回路1の第二ステージ4を有した冷却手段(前記冷凍機)といえる。 また、同じく、「冷却手段が、予冷用の寒冷発生回路と,循環する冷媒の流路となる配管と,配管を内蔵した一連の熱交換器と,冷媒を循環させるための冷媒循環駆動手段とから成り」の「冷媒を循環させるための冷媒循環駆動手段」は、記載事項(ウ)の「低温で作動するファンにより冷媒を循環」するものの「ファン」を実施例とするものであって、その「ファン33により送られるヘリウムガス」が、「予冷用寒冷発生回路1の第二ステージ4で約4?6Kに冷却される。極低温に冷却されたヘリウムガスは冷却配管16c内部を通り、超電導磁石の冷却を行う。外部からの熱負荷を受けて若干温度上昇したヘリウムガスは再びファン33に戻り回路内を循環する」ものであって、ファン33が、予冷用寒冷発生回路1の第二ステージ4で約4?6Kに冷却され、冷却配管16c内部を通り、超電導磁石の冷却を行うヘリウムガスを循環させるためのファン33といえるものであるので、記載事項(ア)の「冷却手段」は、予冷用寒冷発生回路1の第二ステージ4で約4?6Kに冷却され、冷却配管16c内部を通り、超電導磁石の冷却を行うヘリウムガスを循環させるためのファン33を有した冷却手段ともいえる。 (オ)記載事項(ア)の「極低温装置」は、「被冷却体と,前記被冷却体を冷却するための冷却手段と,前記被冷却体及び前記冷却手段を内装する断熱真空容器で構成され」るものであって、記載事項(ウ)の図12に示された「低温で作動するファンにより冷媒を循環させた場合の実施例」において、「ヘリウムガスは冷却配管16c内部を通り、超電導磁石の冷却を行う」ものであるので、ヘリウムガスが超電導磁石を冷却するための極低温装置といえる。 すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているものということができる。 「予冷用寒冷発生回路1の第二ステージ4と、予冷用寒冷発生回路1の第二ステージ4で約4?6Kに冷却され、冷却配管16c内部を通り、超電導磁石の冷却を行うヘリウムガスを循環させるためのファン33とを有した冷却手段からなることによって、ヘリウムガスが超電導磁石を冷却するための極低温装置。」 3.本願補正発明と引用発明との対比 (1)両発明の対応関係 (a)引用発明の「予冷用寒冷発生回路1の第二ステージ4」は、ヘリウムガスを約4?6Kに冷却する部分であるので、本願補正発明の「少なくとも1つの低温冷却表面」に相当する。 (b)引用発明の「冷却手段」は、本願補正発明の「冷凍機」に相当する。 (c)引用発明の「超電導磁石」、「ヘリウムガス」は、それぞれ本願補正発明の「熱負荷」、「熱輸送流体」に相当する。 また、引用発明の「冷却手段」が、「ファン33とを有した冷却手段」であって、ファン33は、冷却手段に設けられているといえるものであるので、引用発明の「ファン33」は、本願補正発明の「冷凍機内に設けられた少なくとも1つの低温流体輸送装置」に相当する。 そして、引用発明のファン33によるヘリウムガスの循環が、ファン33がヘリウムガスを移動させるための機械的な力(すなわち、機械力)を提供することでなされることが技術常識であるので、引用発明の「予冷用寒冷発生回路1の第二ステージ4で約4?6Kに冷却され、冷却配管16c内部を通り、超電導磁石の冷却を行うヘリウムガスを循環させるためのファン33」と、本願補正発明の「該低温冷却表面と遠隔の熱負荷との間で熱輸送流体を移動させるための機械力の少なくとも一部を提供するために冷凍機内に設けられた少なくとも1つの低温流体輸送装置」とは、低温冷却表面と熱負荷との間で熱輸送流体を移動させるための機械力の少なくとも一部を提供するために冷凍機内に設けられた少なくとも1つの低温流体輸送装置である点で共通する。 (d)引用発明の「極低温装置」は、それぞれ本願補正発明の「低温冷却システム」に相当する。 そして、引用発明の「ヘリウムガス」は、記載事項(ウ)の循環中のいずれの局面でも一貫して「ヘリウムガス」と表現され、かつ、ガス以外の相とする必然も、そのための構成も存在しないものであり、単一の相に保持されているといえるものであるので、引用発明の「ヘリウムガスが超電導磁石を冷却するための極低温装置」と、本願補正発明の「前記熱輸送流体が単一の相に保持されている間に、前記遠隔の熱負荷は前記冷却表面に対して相対回転している、遠隔の熱負荷を冷却するための低温冷却システム」とは、熱輸送流体が単一の相に保持されている間に熱負荷を冷却するための低温冷却システムである点で共通する。 (2)両発明の一致点 「少なくとも1つの低温冷却表面と、該低温冷却表面と熱負荷との間で熱輸送流体を移動させるための機械力の少なくとも一部を提供するために冷凍機内に設けられた少なくとも1つの低温流体輸送装置とを有した前記冷凍機からなることによって、前記熱輸送流体が単一の相に保持されている間に熱負荷を冷却するための低温冷却システム。」 (3)両発明の相違点 (ア)本願補正発明の熱負荷は、「遠隔の熱負荷」であるのに対して、引用発明の熱負荷である超電導磁石は、「遠隔の」ものでない点。 (イ)また、本願補正発明の熱負荷は、「前記熱輸送流体が単一の相に保持されている間に、前記遠隔の熱負荷は前記冷却表面に対して相対回転している」ものであるのに対して、引用発明の超電導磁石は、「冷却表面に対して相対回転している」ものでない点。 4.本願補正発明の容易推考性の検討 (1)相違点(ア)について まず、熱負荷を冷却するための低温冷却システムの、熱負荷を配置する場所としては、被冷却体と被冷却体を冷却するための冷却手段とを同じ断熱真空容器に内装した引用発明のように被冷却体を冷却手段近傍に配置する形態のみならず、例えば、本願優先日前に頒布された刊行物である実公平7-37099号公報の「(従来の技術)」や、特開平1-247965号公報の「(産業上の利用分野)」「(従来の技術)」「(発明が解決しようとする課題)」にも記載されている様に、熱負荷となる被冷却体を、該被冷却体を冷却するための冷却手段から離れた遠隔位置に配置する形態も周知である。 一方、引用発明は、記載事項(イ)記載の「冷凍機が接続している冷却部」から「離れた位置では温度が高く」なるという課題を解決するものであって、冷却手段から離れた場所の冷却を課題としたものであるので、引用発明において熱負荷を配置する場所として、上記周知の冷却手段から離れた遠隔位置を選択することに特段の困難性が存在するものでもない。 そうすると、引用発明の熱負荷である超電導磁石を配置する場所として、上記周知の冷却手段から離れた遠隔位置を選択して、相違点(ア)に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点(イ)について 熱負荷を冷却するための低温冷却システムの熱負荷をとして電動機のローター等、回転運動するものは、例えば、本願明細書の【0002】及び【0003】にも、複数の文献(米国特許5482919号明細書、米国特許第5848532号明細書)を挙げて例示されているように、また、本願優先日前に頒布された刊行物である特開昭51-127403号公報第1頁右下欄第6?12行や、特開平1-160356号公報「[従来の技術]」にも記載されている様に、周知のものである。 そして、引用発明は、記載事項(イ)記載の「液体ヘリウムタンク無しで冷却を行うことができ」、装置が複雑かつ大規模になるのを防げるという効果を生ずるものであって、該効果は、上記回転運動するものを熱負荷とする低温冷却システムにおいても望ましいものであるので、引用発明の熱負荷として該周知の回転運動するものを選択して、相違点(イ)に係る発明特定事項とすることも当業者が容易に想到し得たことである。 なお、上記回転運動する熱負荷の例示文献の熱輸送流体は、常に単一の相に保持されている形式のものではないが、引用発明の「熱輸送流体が単一の相に保持されている間に熱負荷を冷却する」形式を、上記熱負荷の選択に伴って、例示文献の様な態様に変更しなければならない必然性が存在するものではないので、例示文献の熱輸送流体が、常に単一の相に保持されている形式のものではないことにより、上記引用発明の熱負荷として該周知の回転運動するものを選択して、相違点(イ)に係る発明特定事項とすることが困難になるものでもない。 (3)総合判断 そして、本願補正発明の作用効果は、引用発明、上記周知事項から、当業者であれば予測できた範囲のものである。 したがって、本願補正発明は、引用発明、上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成20年6月18日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?23に係る発明は、平成19年10月24日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 少なくとも1つの低温冷却表面と、該低温冷却表面と遠隔の熱負荷との間で熱輸送流体を移動させるための機械力の少なくとも一部を提供するために冷凍機内に設けられた少なくとも1つの低温流体輸送装置とを有した前記冷凍機からなることによって、前記熱輸送流体はほぼ単一の相に保持され、前記遠隔の熱負荷は前記冷却表面に対して相対回転している、遠隔の熱負荷を冷却するための低温冷却システム。」 2.引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1とその記載事項は、前記の「第2 2.」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明の構成を全て含むとともに、本願発明の構成に更に限定を付加した本願補正発明が、前記「第2 3.」、「4.」に記載したとおり、引用発明、上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も本願補正発明と同様の理由により、引用発明、上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。 4.むすび したがって、本願発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-09-02 |
結審通知日 | 2010-09-07 |
審決日 | 2010-09-29 |
出願番号 | 特願2001-552034(P2001-552034) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F25B)
P 1 8・ 575- Z (F25B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 清水 富夫、田々井 正吾 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
鈴木 敏史 中川 真一 |
発明の名称 | 高温超伝導機械のための冷却システム |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 本田 淳 |
代理人 | 池上 美穂 |
代理人 | 恩田 博宣 |