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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C
管理番号 1231866
審判番号 不服2008-31613  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-15 
確定日 2011-02-09 
事件の表示 特願2001-542254「薄く色付けられたレンズとその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月 7日国際公開、WO01/40846、平成15年 5月 7日国内公表、特表2003-515787〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件は、2000年10月23日を国際出願日とする出願(優先権主張 米国 1999年11月1日および2000年7月17日)であって、平成20年9月4日付で拒絶査定がなされ、これに対して同年12月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。また、当審において審尋したところ、平成22年6月30日付で回答書が提出されたものである。

2.平成20年12月15日付手続補正について
平成20年12月15日付手続補正は、平成20年8月5日付手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲のうち、請求項1?14を削除して補正前の請求項15?29を新たな請求項1?15とするものである。したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除に該当する補正と認められる。

3.本願発明
この出願の請求項1?15に係る発明は、平成20年12月15日付手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項によって特定されるとおりのものであると認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「【請求項1】少なくとも一つの第一の印刷された画像(第一印刷画像)を含むポリマー・レンズの製造方法であって、
1)デジタルで符号化された画像(デジタル符号化画像)を供給する手順、および、
2)該ポリマー・レンズ上か、
ポリマーであって、該ポリマーから該ポリマー・レンズが形成される、ポリマーの上、または
鋳型であって、該鋳型内で該ポリマー・レンズが形成される、鋳型の上、
のうち、少なくともいずれか一つの上に、
熱インクジェット・印刷か圧電インクジェット・印刷かの少なくともいずれか一つを用いて、
少なくとも部分的に多色インクジェット・プリンタ画像を印刷することにより、
前記デジタル符号化画像を元にして前記少なくとも一つの第一印刷画像を形成し、
それにより、該少なくとも一つの第一印刷画像が、前記ポリマー・レンズと、化学結合、自己接着結合またはポリマー-ポリマー結合を成すようにする手順を備えることを特徴とする、少なくとも一つの第一印刷画像を含むポリマー・レンズの製造方法。」

4.引用例の記載
原査定における拒絶の理由で引用された特開平8-112566号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

(1a)「【0008】本発明は上記のような従来技術の欠点を克服するためのもので、その目的とするところは含水性コンタクトレンズの染色において、レンズの所望の部分に、インクジェット装置を用いて所望の文字、記号等の形状に染色液を塗布してレンズに染着させる含水性コンタクトレンズの染色方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明の含水性コンタクトレンズへの染色方法は、含水性コンタクトレンズの所望の部分に、所望の文字、図形、記号等を染着する際、染色液をインク・ジェット装置によって乾燥状態のコンタクトレンズの所望の位置に塗布することを特徴とするものである。」

(1b)「【0012】 本発明手法に用いられる染色操作は染色液をインク・ジェット装置によってコンタクトレンズ表面に塗布した後、通常用いられる固着操作を施すものである。さらにインク・ジェット装置を電子制御することによって所望の文字、記号、図形をグラフィックパターンとしてレンズ表面上に描くことが可能になり、オンラインでレンズ1枚ずつに異なったパターンを描くことが容易に出来るようになる。
【0013】本発明に用いるインク・ジェット装置は一般に使われているインク・ジェット装置を応用することが出来る。また、2種類以上の染色液溜めとその染色液を噴霧させるための微小ノズルを2本以上装着したインク・ジェット装置を用いることによって多色で染着することが可能である。本発明で対象とする含水性コンタクトレンズは、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、N-ビニルピロリドン、グリセリルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド等のモノマーを主要成分とし、これに上記モノマーと共重合し得るモノマーとの共重合体からなるコンタクトレンズである。
【0014】本発明においては乾燥状態の含水性コンタクトレンズに対して染色操作が行われる。この乾燥状態の含水性コンタクトレンズは、レンズ形状加工を非含水の重合体に対して行ったときには、コンタクトレンズの形状に加工されたもの、そのものを指すが、膨潤状態で形状加工が行われたコンタクトレンズにあっては、その染色操作に先立って、乾燥状態とされたものを指す。
【0015】本発明における染色操作は、染色液を塗布する際、インクジェット装置に別に載置された微小ノズルから少量の水を、前もってあるいは同時に、乾燥状態のレンズ上に所望の文字や図形等の形状に噴霧してレンズを部分的に膨潤させる操作を伴う。本操作はレンズ表面に塗布された染色液のレンズ内部への浸透を助ける目的で為される。」

(1c)「【0022】増粘剤は染色液をインク・ジェット装置を使ってレンズ表面に塗布する時に噴霧量を制御する目的で染色液の粘性を調整するために用いるものである。その例として、アルギン酸ナトリウム、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、グリセリン、ポリエチレングリコール等が用いられる。」

(1d)「【0041】
【発明の効果】本発明に従えば予め所望の文字、記号等を型どったスクリーンやパッドを用意する必要がなく、それらをレンズ表面の所望の位置にセットする操作も簡略化することが出来るのであり、また、刻印方式でないために、破損等を生じさせることも少なくなる。そして、従来の方法では非常に困難であった2色以上での染色が容易になり、作業性が格段に良くなる。」

以上の記載事項から、引用例には以下の発明(以下「引用例発明」という。)が記載されている。

「文字、記号、図形をグラフィックパターンとしてレンズ表面上に描かれた共重合体からなるコンタクトレンズの染色方法であって、 所望の文字、記号、図形をグラフィックパターンとしてコンタクトレンズ表面に、2種類以上の染色液溜めとその染色液を噴霧させるための微小ノズルを2本以上装着したインク・ジェット装置を電子制御することによって描き、コンタクトレンズ表面に塗布した後、通常用いられる固着操作を施すコンタクトレンズの染色方法」

5.対比
引用例発明の「文字、記号、図形をグラフィックパターンとしてレンズ表面上に描かれた共重合体からなるコンタクトレンズの染色方法」は、本願発明の「第一の印刷された画像(第一印刷画像)を含むポリマー・レンズの製造方法」に相当する。 引用例発明の「コンタクトレンズ表面」は、本願発明の「ポリマー・レンズ上」に相当する。
「電子制御」された「インクジェット装置」に用いられる「グラフィックパターン」は明らかにデジタル化された画像であるから、引用例発明の「所望の文字、記号、図形をグラフィックパターンとして」「染色液溜めとその染色液を噴霧させるための微小ノズルを装着したインク・ジェット装置を電子制御することによって描く」ことは、本願発明の「デジタルで符号化された画像(デジタル符号化画像)を供給する」ことと「インクジェット・印刷を用いて」「インクジェット・プリンタ画像を印刷することにより」「前記デジタル符号化画像を元にして前記少なくとも一つの第一印刷画像を形成」することに相当する。
引用例発明の「 所望の文字、記号、図形を」「2種類以上の染色液溜めとその染色液を噴霧させるための微小ノズルを2本以上装着したインク・ジェット装置を電子制御することによって描」くことは、本願発明の「少なくとも部分的に多色インクジェット・プリンタ画像を印刷すること」に相当する。
したがって、本願発明と引用例発明とは、
「少なくとも一つの第一の印刷された画像(第一印刷画像)を含むポリマー・レンズの製造方法であって、
1)デジタルで符号化された画像(デジタル符号化画像)を供給する手順、および、
2)該ポリマー・レンズ上に、
インクジェット・印刷を用いて、
少なくとも部分的に多色インクジェット・プリンタ画像を印刷することにより、
前記デジタル符号化画像を元にして前記少なくとも一つの第一印刷画像を形成するようにする手順を備える、少なくとも一つの第一印刷画像を含むポリマー・レンズの製造方法。」で一致し、
以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明が「熱インクジェット・印刷か圧電インクジェット・印刷かの少なくともいずれか一つを用いて」「印刷する」のに対して、引用例発明は「染色液を噴霧させるための微小ノズルを装着したインク・ジェット装置」を用いて「描く」ものの、インクジェット装置が「熱インクジェット・印刷か圧電インクジェット・印刷かの少なくともいずれか一つ」かどうか、明らかではない点。

(相違点2)
本願発明が「画像を形成」した後に、「少なくとも一つの第一印刷画像が、前記ポリマー・レンズと、化学結合、自己接着結合またはポリマー-ポリマー結合を成す」ようにしているのに対して、引用例発明は「コンタクトレンズ表面に塗布した後、通常用いられる固着操作を施す」ようにしているに過ぎない点。

6.判断
6-1.相違点1について
「熱インクジェット」「圧電インクジェット」は、従来周知のプリンタ(特開平11-25850号公報【0043】「バブルジェット方式」「ピエゾジェット方式」、国際公開99/12743号の図5に関する明細書の説明の記載参照。)である。
したがって、相違点1に係る構成を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

6-2.相違点2について
コンタクトレンズにおける染料の通常の固着方法は、たとえば、特開平4-270312号公報に記載される、レンズを構成するポリマー骨格のモノマー単位と共有結合によって結合する反応性染料をレンズ表面部分に塗布あるいは浸透させた後、アルカリ処理を施して固着させる方法でも知られるように、従来周知である。
したがって、相違点2に係る構成を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

6-3.請求人の主張について
審判請求人は、平成21年3月5日付の審判請求書に対する手続補正書において、以下のように主張する。(下線は、当審にて付与。)
『このような「ポリマー・レンズ等に対する」印刷手法として、デジタル符号化画像を元とすることは、当業者に周知ではありません。
実際、審査官殿より頂いた拒絶理由通知書、拒絶査定のいずれにおいても、
「ポリマー・レンズ等に対する」印刷手法として、デジタル符号化画像を元とする事が周知である」とのご指摘は頂いておりません。また、かかる周知例の例示も全くなされておりません。
さらに、平成20年8月5日付けの意見書で既にご説明致しましたように、拒絶理由通知書において引用された各引用文献においても、「ポリマー・レンズ等に対する」印刷手法として、「デジタル符号化画像」を元とする事は、全く記載がなされておりません。
従いまして、平成20年8月5日付けの意見書における出願人の主張は認められるべきであり、本願の前記補正後の請求項1-15に係る発明は、特許法第29条第2項に規定されている進歩性の要件を満たしているものであると信じます。』
また、平成22年6月30日付の回答書で、以下のように主張する。
『なお、審査官殿は、前置報告書において「紙以外でも種々の物体に印刷することは当業者に周知であり、印刷の際にデジタル符号化画像を元とすることも当業者に周知である。」とのご判断をなさっておられますが、当該「種々の物体」なる物体に、上記「ポリマー・レンズ等」が含まれることについての立証を、審査官殿は全く行っておりません。
すなわち、「種々の物体」に対する印刷手法ではなく、「ポリマー・レンズ等」に対する印刷手法として、「デジタル符号化画像を元とする」事が本願請求項1に発明特定事項として明記されているにも関わらず、当該発明特定事項による限定を全く無視して判断が行われてしまっているため、審査官殿の上記判断は、請求項の記載に基づかない誤った判断であり、採用するに値しないものです。』

しかしながら、インクジェットプリンタによる印刷の際にデジタル符号化画像を用いることは、すでに前記「5.」でも言及したように、引用例に記載されている事項である。
したがって、上記主張は採用できない。

6-4.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例発明及び従来周知の技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-25 
結審通知日 2010-08-31 
審決日 2010-09-17 
出願番号 特願2001-542254(P2001-542254)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴野 幹夫  
特許庁審判長 柏崎 康司
特許庁審判官 木村 史郎
一宮 誠
発明の名称 薄く色付けられたレンズとその製造方法  
代理人 太田 恵一  

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