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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1231884
審判番号 不服2009-10166  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-05-22 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 特願2002-205758「インクジェット式印刷システム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月13日出願公開、特開2003- 39674〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年7月15日(パリ条約による優先権主張2001年7月13日、独国)の出願であって、平成20年9月25日に手続補正がなされ、平成21年2月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月22日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成21年5月22日付け手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成21年5月22日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成21年5月22日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、本件補正前の請求項1に、
「ノズルチャンバ(2)、ノズル開口(3)、およびピエゾ素子(4)をそれぞれが備えるノズル(1)の配列と、前記ピエゾ素子(4)を制御する制御装置を有するインクジェット式印刷システムにおいて、
前記各ピエゾ素子(4)は、前記制御装置によって個別に動作させられる少なくとも2つの制御電極(5)を備え、
前記制御装置は、
少なくとも2つの個別に導通させることができるノズル(1)毎の信号経路と、
それぞれ異なる信号を生成する、ノズル(1)1個についての前記信号経路の数と同じ数の信号発生源(9,10)と、
前記ピエゾ素子(4)への前記信号経路を導通させるスイッチ基板(8)とを備えていることを特徴とする、インクジェット式印刷システム。」とあったものを、

「ノズルチャンバ(2)、ノズル開口(3)、およびピエゾ素子(4)をそれぞれが備えるノズル(1)の配列と、前記ピエゾ素子(4)を制御する制御装置を有するインクジェット式印刷システムにおいて、
前記各ピエゾ素子(4)は、前記制御装置によって個別に動作させられる少なくとも2つの制御電極(5)を備え、
前記制御装置は、
少なくとも2つの個別に導通させることができるノズル(1)毎の信号経路と、
それぞれ異なる信号を生成する、ノズル(1)1個についての前記信号経路の数と同じ数の信号発生源(9,10)と、
前記ピエゾ素子(4)への前記信号経路を導通させるスイッチ基板(8)とを備え、
前記2つの制御電極(5)は、2つの制御電極(5)を同一の信号で動作させた際に前記ピエゾ素子(4)が異なる変形をし、それによって異なる大きさのインク滴が生成されるように、前記ピエゾ素子(4)の異なる表面を覆っていることを特徴とする、インクジェット式印刷システム。」と補正する内容を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)本件補正後の請求項1に係る発明についての上記(1)の補正内容は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「2つの制御電極(5)」、「ピエゾ素子(4)」及び「信号」の相互の関係について、「前記2つの制御電極(5)は、2つの制御電極(5)を同一の信号で動作させた際に前記ピエゾ素子(4)が異なる変形をし、それによって異なる大きさのインク滴が生成されるように、前記ピエゾ素子(4)の異なる表面を覆っている」ことを限定するものである。

2 補正の目的
本件補正後の請求項1に係る上記1(1)の補正は、上記1(2)に記載したとおり、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-128970号公報(以下「引用例」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
(1)「【請求項1】 複数のノズル開口が穿設されたノズルプレートと、外部からインクの供給を受けるリザーバ、リザーバとインク供給口を介して接続するとともにノズル開口の各々に連通する複数の圧力発生室とを備えた流路形成基板と、圧力発生室内のインクを加圧するたわみ変形可能な駆動手段とからなるインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記駆動手段が弾性変形可能な下電極と、圧力発生室に対向する領域に形成された圧電材料層と、各圧力発生室毎に前記圧電材料層に駆動信号を供給する上電極とから構成され、前記上電極が電気的に独立するように複数の領域に分割され、かつ前記圧電材料層が前記分割された上電極に対応して溝により分離されているインクジェット式記録ヘッド。
【請求項2】 圧力発生室毎に形成された上電極がその幅を違えて分割されている請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。」

(2)「【0010】
【発明の実施の形態】図1、図2はそれぞれ本発明の一実施例を1つの圧力発生室の長手方向、及び圧力発生室の幅方向との断面構造を示すものであって、図中符号1はシリコン単結晶基板をエッチングして形成された流路形成基板で、圧力発生室2と、圧力発生室2にインクを供給するリザーバ3と、圧力発生室2とリザーバ3とを一定の流体抵抗で連通させるインク供給口4とを形成して構成されている。
【0011】圧力発生室2が大きく開いた面には圧力発生室2の一端側で連通するようにノズル開口5を備えたノズルプレート6が液密に固定され、また他方の面には酸化ジルコニウム等の電気絶縁性を備えた材料からなる弾性膜7が液密に固定されている。
【0012】弾性膜7の表面にはスパツタリングにより厚さ0.2μm程度の白金(Pt)の膜を形成して下電極8が形成され、その表面にPZT等の圧電体材料をスパッタリング等により1.0μm厚の圧電材料層9が形成されている。
【0013】圧電材料層9の表面には、スパッタリング等により厚さ0.2μm程度のアルミニウム(Al)の上電極10が形成されている。
【0014】この上電極10は、図3に示したように1つの圧力発生室2と対向する領域に、電気的に独立した複数のパターン、この実施例ではそれぞれ圧力発生室の幅方向の幅W1、W2が異なる第1、第2上電極11、12として形成されており、それぞれの一端側がリードパターン13、14により端子側に引き出されて、図示しない外部駆動回路に接続可能に構成されている。
【0015】再び図2に戻って、これら第1、第2上電極11、12が形成された圧電材料層9には少なくとも相互の領域の変位が圧電材料層9を伝搬することを防止できる程度の深さdの溝13により分離されてている。
【0016】このように1つの圧力発生室2に複数の上電極11、12の形成や、圧電材料層9に溝13を形成する手法には、それぞれを蒸着などにより独立して形成したり、また1つの圧力発生室全体を覆うサイズに形成した後、所定のサイズにトリミングする等の方法を採ることができる。
【0017】この実施例において、下電極8とインク滴を吐出させるべきノズル開口5に連通する圧力発生室2の第1上電極11とに駆動信号を印加すると、圧力発生室2に対向する圧電材料層9の第1上電極11の領域だけがたわみ振動し、第1上電極11のたわみ変位量に対応したインク量のインク滴が吐出する。
【0018】もとより、第1上電極11と第2上電極とが形成された圧電材料層9には溝13が形成されているから、第1上電極11の領域の圧電材料層9aは、第2上電極に阻害されること無く、変位することができ、第1上電極11が単独で存在する場合と同程度の低い電圧で十分に変位する。
【0019】また下電極8と第2上電極12とに駆動信号を印加すると、第2上電極12に相当する領域の圧電材料層9b(審決注:「9a」は「9b」の明らかな誤記なので訂正して摘記した。)だけが第1上電極11の領域とは独立にたわみ振動する。この第2上電極12は第1上電極11よりも面積が小さいため、たわみ量が少なく、したがって第1上電極11に駆動信号を印加した場合よりも少ない量のインク滴が吐出する。
【0020】第2上電極が形成されている領域の圧電材料層9bは溝13により第1上電極11の領域の圧電材料層9aと独立しているから、第1上電極11の形成されている領域の圧電材料層9aに阻害されること無く、駆動信号に対応して変位することができ、第2上電極12が単独で存在する場合と同程度の低い電圧で十分に変位する。
【0021】さらに第1上電極11と第2上電極12とに同時に駆動信号を印加すると、第1、第2上電極11、12の合計の面積に相当する領域がそれぞれ、隣接する領域の振動の影響を受けることなく独立にたわみ変位して、上電極11、及び上電極12にそれぞれ単独に駆動信号を印加した場合に吐出するインク滴の合計に相当する量のインク滴が吐出する。
【0022】したがって、1つの圧力発生室2に形成されている第1上電極11及び第2上電極12の2つの上電極10への信号の印加形態を選択することにより、インク滴のインク量を制御できて階調印刷ができる。
【0023】さらには、第1上電極11を第1の駆動回路に、また第2上電極12を第2の駆動回路に接続すると、第1上電極11にインク滴を吐出させるための駆動信号を供給してインク滴が吐出された直後に、第1の駆動回路の応答を待つことなく、制振に適したタイミングで第2の駆動回路から第2上電極12に振動を打ち消すような信号を印加することができるから、インク滴吐出後の無用な残留振動を速やかに減衰させて印字速度を向上することができる。
【0024】すなわち、下電極8とインク滴を吐出させるべきノズル開口5に連通する圧力発生室2の第1上電極11に図4(イ)に示したような台形状の駆動信号を印加すると、圧力発生室2に対向する第1上電極11の領域の圧電材料層9aだけが圧力発生室側を凸とするようにたわみ変位して、圧力発生室2のインクを加圧する。これにより、図4(ハ)に示したようにノズル開口のメニスカスが外側に大きく変位し、ノズル開口5からインク滴Dが吐出する。
【0025】インク滴吐出後、メニスカスは圧力発生室等の流路特性により決まる振動特性ににより圧力発生室側に大きく後退し、以後減衰率で残留振動(図4(ハ)において点線により示す変位)を継続する。
【0026】一方、インク滴吐出後に生じたメニスカスの残留振動が中立点を通過した時点t1(審決注:図4(ロ)の記載からみて、「t0」は「t1」の明らかな誤記であるので、訂正して摘記した。)で、第2上電極12に前述の駆動信号を印加すると(図4(ロ))、第2上電極12がそのサイズに比例して小さく変位するから、圧力発生室2が微小量収縮する。
【0027】これにより圧力発生室側にさらに移動しようとしていたメニスカスがノズル開口側に押し戻されて、図4(ハ)において実線で示すようにインク滴吐出後の残留振動が急速に減衰する。
【0028】このように、第2上電極12は、そのサイズがインク滴を吐出させる第1上電極11に比較してサイズが小さく構成されているため、インク滴吐出のための駆動信号と同一の信号を、単にタイミングをずらせて印加するだけで、メニスカスの残留振動を抑制して印刷速度を向上することができる。
【0029】なお、上述の実施例においては、第1上電極と第2上電極を2列に配列しているが、図5に示したようにメインとなる第1電極15を中央部に、また副となる第2上電極16を第1上電極15を3方から取り囲むように形成し、両者の境界に相互の変位の伝搬を防止する溝17を「コ」の字状に形成すると、比較的たわみ易い中央部の領域をインク滴吐出のための変位領域として使用でき、また比較的たわみ難い周縁部をインク量の少ないインク滴の発生や、また振動抑制に使用することができ、インク滴吐出のための駆動信号のレベルを下げることができる。なお、図中符号18、19はリードパターンを示す。」

(3)図1ないし図3の記載から、次のア及びイのことが見て取れる。
ア ノズルプレート6に形成されている1つのノズル開口(5)と、流路形成基板1に形成されている1つの圧力発生室(2)と、1組の上電極(11、12)と、1組の圧電材料層(9a、9b)と、弾性膜7の1つの圧力発生室(2)に対向する領域と、下電極8の1つの圧力発生室(2)に対向する領域とで、インク滴を吐出するための機構の最小単位(以下「インク吐出機構」という。)を構成していること。
イ 記録ヘッドは上記アのインク吐出機構の配列を備えていること。

(4)図4の記載から、第1上電極に印加される第1駆動信号と第2上電極に印加される第2駆動信号とは、台形状パルスで同様の波形であるが、パルスのタイミング(位相)が時間t1だけ異なっているから異なる駆動信号であることが見て取れる。

(5)上記(1)ないし(4)の記載から、引用例には、次の発明が記載されているものと認められる。
「シリコン単結晶基板をエッチングして、圧力発生室と、該圧力発生室にインクを供給するリザーバと、前記圧力発生室と前記リザーバとを一定の流体抵抗で連通させるインク供給口とを形成した流路形成基板と、
該流路形成基板の前記圧力発生室が大きく開いた面に液密に固定され前記圧力発生室の一端側で連通するようにノズル開口を備えたノズルプレートと、
前記流路形成基板の他方の面に液密に固定された弾性膜と、
該弾性膜の表面に形成された下電極と、
該下電極の表面にPZT等の圧電体材料をスパッタリング等により形成した圧電材料層と、
該圧電材料層の表面の1つの圧力発生室と対向する領域に電気的に独立した複数のパターンとして形成され、圧力発生室の幅方向の幅が異なる、幅W1の第1上電極及び幅W2の第2上電極からなる上電極と、
第1上電極及び第2上電極のそれぞれの一端から端子側に引き出される第1及び第2リードパターンとを備え、
第1及び第2上電極が形成された前記圧電材料層には少なくとも相互の領域の変位が圧電材料層を伝搬することを防止できる程度の深さdの溝により、第1上電極が形成されている領域の第1圧電材料層と第2上電極が形成されている領域の第2圧電材料層とに分離されており、
前記ノズルプレートに形成されている1つのノズル開口と、前記流路形成基板に形成されている1つの圧力発生室と、1組の第1及び第2上電極と、1組の分離された第1及び第2圧電材料層と、前記弾性膜の1つの圧力発生室に対向する領域と、前記下電極の1つの圧力発生室に対向する領域とで、インク滴を吐出するための機構の最小単位であるインク吐出機構を構成し、該インク吐出機構の配列を備えたインクジェット式記録ヘッドであって、
第1及び第2上電極はそれぞれ第1及び第2リードパターンにより外部駆動回路に接続可能に構成され、
下電極と第1上電極とに第1駆動信号を印加すると、圧力発生室に対向する圧電材料層の第1上電極の領域である第1圧電材料層だけがたわみ振動し、第1上電極のたわみ変位量に対応したインク量のインク滴が吐出し、
下電極と第2上電極とに第1駆動信号を印加すると、第2上電極に相当する領域の第2圧電材料層だけが第1上電極の領域とは独立にたわみ振動し、この第2上電極は第1上電極よりも面積が小さいため、たわみ量が少なく、したがって第1上電極に駆動信号を印加した場合よりも少ない量のインク滴が吐出し、
第1上電極と第2上電極とに同時に第1駆動信号を印加すると、第1及び第2上電極の合計の面積に相当する領域がそれぞれ、隣接する領域の振動の影響を受けることなく独立にたわみ変位して、第1上電極及び第2上電極にそれぞれ単独に駆動信号を印加した場合に吐出するインク滴の合計に相当する量のインク滴が吐出し、1つの圧力発生室に形成されている第1上電極及び第2上電極の2つの上電極への駆動信号の印加形態を選択することにより、インク滴のインク量を制御できて階調印刷ができるようにすることができ、
さらには、第1上電極を第1の駆動回路に、また第2上電極を第2の駆動回路に接続すると、第1上電極にインク滴を吐出させるための第1駆動信号を供給してインク滴が吐出された直後に、第1の駆動回路の応答を待つことなく、制振に適したタイミングで第2の駆動回路から第2上電極に振動を打ち消すような第2駆動信号を印加することができるから、インク滴吐出後の無用な残留振動を速やかに減衰させて印字速度を向上することができる、
インクジェット式記録ヘッド。」(以下「引用発明」という。)

4 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「圧力発生室」、「ノズル開口」、「インク滴を吐出するための機構の最小単位であるインク吐出機構」、「インク吐出機構の配列」、「第1上電極及び第2上電極」及び「第1及び第2リードパターン」は、それぞれ、本願補正発明の「ノズルチャンバ(2)」、「ノズル開口(3)」、「ノズル(1)」、「ノズル(1)の配列」、「2つの制御電極(5)」及び「少なくとも2つの個別に導通させることができるノズル(1)毎の信号経路」に相当する。

(2)本願明細書の発明の詳細な説明には「ピエゾ素子4は必ずしも空間的に繋がったユニットとして構成する必要はない。ピエゾ素子4は複数の部分部材から構成してもよく、この場合は、ノズル1の全ての部分部材が全体でピエゾ素子4として示される。これは、例えば、複数の制御電極5を有するピエゾ素子4を1つのノズル1の複数の部分部材にそれぞれ1つの制御電極5を備えた装置として実現できることを意味する。」(【0041】参照。)との記載がある。
この記載からみて、引用発明の「『少なくとも相互の領域の変位が圧電材料層を伝搬することを防止できる程度の深さdの溝により、第1上電極が形成されている領域の第1圧電材料層と第2上電極が形成されている領域の第2圧電材料層とに分離されて』いる『PZT等の圧電体材料をスパッタリング等により形成した圧電材料層』」は、本願補正発明の「ピエゾ素子(4)」に相当することが明らかである。

(3)引用発明の「インクジェット式記録ヘッド」と本願補正発明の「インクジェット式印刷システム」とは、「インクジェット式印刷装置」である点で一致するといえる。

(4)引用発明において、「2つの制御電極(5)(第1上電極及び第2上電極)」は、圧電材料層の表面の1つの圧力発生室と対向する領域に電気的に独立した複数のパターンとして形成され、圧力発生室の幅方向の幅が異なる、幅W1の第1上電極及び幅W2の第2上電極であり、「インクジェット式印刷装置(インクジェット式記録ヘッド)」は、「下電極と第1上電極とに第1駆動信号を印加すると、圧力発生室に対向する圧電材料層の第1上電極の領域である第1圧電材料層だけがたわみ振動し、第1上電極のたわみ変位量に対応したインク量のインク滴が吐出し、下電極と第2上電極とに第1駆動信号を印加すると、第2上電極に相当する領域の第2圧電材料層だけが第1上電極の領域とは独立にたわみ振動し、この第2上電極は第1上電極よりも面積が小さいため、たわみ量が少なく、したがって第1上電極に駆動信号を印加した場合よりも少ない量のインク滴が吐出」するものであるから、引用発明の「2つの制御電極(5)」と本願補正発明の「2つの制御電極(5)」とは、「2つの制御電極(5)を同一の信号で動作させた際に前記ピエゾ素子(4)が異なる変形をし、それによって異なる大きさのインク滴が生成されるように、前記ピエゾ素子(4)の異なる表面を覆っている」ものである点で一致する。

(5)上記(1)ないし(4)によれば、本願補正発明と引用発明とは、
「ノズルチャンバ(2)、ノズル開口(3)、およびピエゾ素子(4)をそれぞれが備えるノズル(1)の配列を有するインクジェット式印刷装置において、
前記各ピエゾ素子(4)は、2つの制御電極(5)を備え、
2つの個別に導通させることができるノズル(1)毎の信号経路を備え、
前記2つの制御電極(5)は、2つの制御電極(5)を同一の信号で動作させた際に前記ピエゾ素子(4)が異なる変形をし、それによって異なる大きさのインク滴が生成されるように、前記ピエゾ素子(4)の異なる表面を覆っている、インクジェット式印刷装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
前記インクジェット式印刷装置が、本願補正発明では、「前記ピエゾ素子(4)を制御する制御装置を有するインクジェット式印刷システム」であって、前記2つの制御電極(5)は、前記「制御装置」によって「個別に動作」させられ、前記「制御装置」は、前記信号経路と、「それぞれ異なる信号を生成する、ノズル(1)1個についての前記信号経路の数と同じ数の信号発生源(9,10)」と、「前記ピエゾ素子(4)への前記信号経路を導通させるスイッチ基板(8)」とを備えているのに対して、引用発明では、制御装置を有していないインクジェット式記録ヘッドである点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)コントローラ、駆動波形生成部及びスイッチ手段を備えた制御手段を有し、該制御手段によりインクジェットヘッドの圧電素子を制御するインクジェットプリンタは、本願の優先日前周知であり(以下「周知技術1」という。例.特開2001-129991号公報(図8参照。「プリンタコントローラ61」、「駆動波形生成部62」及び「デバイス駆動回路54」が、それぞれ「コントローラ」、「駆動波形生成部」及び「スイッチ手段」に相当する。)、特開2001-63017号公報(図2参照。「制御部46」、「駆動信号生成回路8」及び「スイッチ16」が、それぞれ「コントローラ」、「駆動波形生成部」及び「スイッチ手段」に相当する。)、特開2000-225691号公報(図2参照。「制御部6」、「駆動信号発生回路8」及び「スイッチ16」が、それぞれ「コントローラ」、「駆動波形生成部」及び「駆動回路」に相当する。)、特開平11-129470号公報(図1及び図2参照。「制御部4」、「駆動源信号発生回路10」及び「ゲート回路8a?8d」が、それぞれ「コントローラ」、「駆動波形生成部」及び「スイッチ手段」に相当する。))、また、インクジェットヘッドを駆動する多数のスイッチをシリコン基板に形成した集積回路や該集積回路を基板に備えたものは本願の優先日前周知である(以下「周知技術2」という。例.特開平11-170512号公報(【0023】、図6?図8参照。「ICチップ100」及び「制御基板101上にICチップ100をバンプ接続したもの」が、それぞれ、「集積回路」及び「集積回路を基板に備えたもの」に相当する。)、特開平11-42779号公報(【0014】、図4及び【0029】参照。「半導体集積回路25」及び「電子基板上に半導体集積回路25を実装したもの」が、それぞれ、「集積回路」及び「集積回路を基板に備えたもの」に相当する。)、特開平10-278283号公報(【0060】及び図9参照。「駆動IC49D」及び「小型のプリント基板32Dに駆動IC49Dを取り付けたもの」が、それぞれ、「集積回路」及び「集積回路を基板に備えたもの」に相当する。))。

(2)引用発明の「インクジェット式記録ヘッド」は、制御手段とともに搭載されてインクジェットプリンタを構成するものであることが当業者に自明であるから、引用発明の「インクジェット式記録ヘッド」を用いて、印字速度が向上したインクジェットプリンタを構成するために、多数のスイッチをシリコン基板に形成した集積回路あるいは該集積回路を基板に備えたものと、コントローラと、第1駆動信号を生成する第1の駆動波形生成部と、第2駆動信号を生成する第2の駆動波形生成部とを用意し、第1の駆動波形生成部を第1の駆動回路に電気的に接続するとともに第1のスイッチ及び第1リードパターンを介して第1上電極に接続し、第2の駆動波形生成部を第2の駆動回路に電気的に接続するとともに第2のスイッチ及び第2リードパターンを介して第2上電極に接続し、前記コントローラにより、第1上電極に第1駆動信号を供給し、その直後のタイミングで第2上電極に第2駆動信号を供給するように、第1及び第2のスイッチを制御するようにして、制御手段を構成し、該制御手段と前記インクジェット式記録ヘッドとを搭載してインクジェットプリンタを構成することは、当業者が周知技術1及び2に基づいて容易に想到することができた程度のことである。

(3)引用発明において、「ノズル(1)(インク吐出機構)」1個についての前記「信号経路(リードパターン)」の数は、「2」であるから、上記(2)における「制御手段」、「インクジェットプリンタ」、「『第1駆動信号を生成する第1の駆動波形生成部』及び『第2駆動信号を生成する第2の駆動波形生成部』」及び「多数のスイッチをシリコン基板に形成した集積回路あるいは該集積回路を基板に備えたもの」は、それぞれ、本願補正発明の「ピエゾ素子(4)を制御する制御装置」、「インクジェット式印刷システム」、「それぞれ異なる信号を生成する、ノズル(1)1個についての前記信号経路の数と同じ数の信号発生源(9,10)」及び「前記ピエゾ素子(4)への前記信号経路を導通させるスイッチ基板(8)」に相当する。
また、上記(2)において、第1上電極及び第2上電極には個別に駆動信号が供給されているから、「2つの制御電極(5)(第1上電極及び第2上電極)」は「個別に動作させられている」といえる。
したがって、引用発明において、上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは、上記(2)からみて、当業者が周知技術1及び2に基づいて容易に想到することができた程度のことである。

(4)本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術1の奏する効果及び周知技術2の奏する効果から、当業者が予測できた程度のものである。

(5)まとめ
したがって、本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 小括
以上のとおり、本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年9月25日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したものであると認められる。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2〔理由〕2」で述べたとおり、本願補正発明は、本願発明を特定するために必要な事項について限定を付加したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕5」に記載したとおり、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-06 
結審通知日 2010-09-08 
審決日 2010-09-27 
出願番号 特願2002-205758(P2002-205758)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 義仁  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 笹野 秀生
星野 浩一
発明の名称 インクジェット式印刷システム  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 石橋 政幸  
代理人 緒方 雅昭  

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