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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1231918
審判番号 不服2009-22532  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-18 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 特願2004- 41370「薄膜太陽電池製造システムおよび薄膜太陽電池製造システムにおける検査方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 2日出願公開、特開2005-235920〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年2月18日の出願であって、平成21年3月16日に手続補正がなされたが、同年8月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされた(以下平成21年11月18日になされた手続補正を「本件補正」という。)。


第2 本件補正についての却下の決定
1 結論
本件補正を却下する。

2 理由
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲につき、補正前(平成21年3月16日になされた手続補正後のもの)の
「【請求項1】
基板に透明電極、シリコン系薄膜および裏面電極を製膜し、モジュール化した後パネル化する薄膜太陽電池製造システムにおいて、
基板に設けられた個別マーカと、
透明電極製膜後に連続的に基板の中間検査を行う透明電極検査装置と、
前記透明電極検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理する品質管理装置と、
モジュール完成後に発電検査を行う発電検査装置とを備え、
前記品質管理装置は、前記発電検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理し、
パネル完成後に発電検査を行う発電検査装置を備えていることを特徴とする薄膜太陽電池製造システム。
【請求項2】
基板に透明電極、シリコン系薄膜および裏面電極を製膜し、モジュール化した後パネル化する薄膜太陽電池製造システムにおいて、
基板に設けられた個別マーカと、
シリコン系薄膜製膜後に連続的に基板の中間検査を行うシリコン系薄膜検査装置と、
前記シリコン系薄膜検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理する品質管理装置と、
モジュール完成後に発電検査を行う発電検査装置とを備え、
前記品質管理装置は、前記発電検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理し、
パネル完成後に発電検査を行う発電検査装置を備えていることを特徴とする薄膜太陽電池製造システム。
【請求項3】
透明電極製膜後に連続的に基板の中間検査を行う透明電極検査装置を備え、
前記品質管理装置は、前記透明電極検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理することを特徴とする請求項2に記載の薄膜太陽電池製造システム。
【請求項4】
レーザエッチング後のセルの段間抵抗を連続的に計測する段間抵抗計測装置を、モジュール完成後に発電検査を行う前記発電検査装置の前に備え、
前記品質管理装置は、前記段間抵抗計測装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の薄膜太陽電池製造システム。
【請求項5】
前記品質管理装置は、各基板の履歴、各工程での検査結果、発電性能のデータベースを構築することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の薄膜太陽電池製造システム。
【請求項6】
モジュール完成後に発電検査を行う前記発電検査装置は、クリーンルーム内に設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の薄膜太陽電池製造システム。
【請求項7】
前記基板には、前記個別マーカとともに、該個別マーカの内容を目視により読み取り可能な状態に表した文字列マーカが設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の薄膜太陽電池製造システム。
【請求項8】
前記個別マーカは、前記基板のシリコン系薄膜面とは逆の基板裏面側の周縁部であってセンター振り分け位置近傍の片側に設けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の薄膜太陽電池製造システム。
【請求項9】
基板に透明電極、シリコン系薄膜および裏面電極を製膜し、モジュール化した後パネル化する請求項1から8のいずれかに記載の薄膜太陽電池製造システムの検査方法において、
薄膜太陽電池製造の品質にばらつきが発生しやすい工程について、連続的に中間検査を行い、該検査結果を基板のIDと対応させて管理することを特徴とする薄膜太陽電池製造システムにおける検査方法。
【請求項10】
プラズマCVD装置により製膜された基板について、定期的に基準製品との比較を行い、該基板が管理基準範囲にあるか否かを検査することを特徴とする請求項9に記載の薄膜太陽電池製造システムにおける検査方法。
【請求項11】
定期的確認を行えば比較的処理が安定している工程について手動で基板の抜き取り検査を行うことを特徴とする請求項9または10に記載の薄膜太陽電池製造システムにおける検査方法。」
を、
「【請求項1】
基板に透明電極、シリコン系薄膜および裏面電極を製膜し、モジュール化した後パネル化する薄膜太陽電池製造システムにおいて、
基板に設けられた個別マーカと、
透明電極製膜後に連続的に基板の中間検査を行う透明電極検査装置と、
前記透明電極検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理する品質管理装置と、
モジュール完成後に少なくとも電流、電圧および出力の発電検査を行う発電検査装置とを備え、
前記品質管理装置は、前記発電検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理し、
パネル完成後に発電検査を行う発電検査装置を備えていることを特徴とする薄膜太陽電池製造システム。
【請求項2】
基板に透明電極、シリコン系薄膜および裏面電極を製膜し、モジュール化した後パネル化する薄膜太陽電池製造システムにおいて、
基板に設けられた個別マーカと、
シリコン系薄膜製膜後に連続的に基板の中間検査を行うシリコン系薄膜検査装置と、
前記シリコン系薄膜検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理する品質管理装置と、
モジュール完成後に少なくとも電流、電圧および出力の発電検査を行う発電検査装置とを備え、
前記品質管理装置は、前記発電検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理し、
パネル完成後に発電検査を行う発電検査装置を備えていることを特徴とする薄膜太陽電池製造システム。
【請求項3】
透明電極製膜後に連続的に基板の中間検査を行う透明電極検査装置を備え、
前記品質管理装置は、前記透明電極検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理することを特徴とする請求項2に記載の薄膜太陽電池製造システム。
【請求項4】
レーザエッチング後のセルの段間抵抗を連続的に計測する段間抵抗計測装置を、モジュール完成後に発電検査を行う前記発電検査装置の前に備え、
前記品質管理装置は、前記段間抵抗計測装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の薄膜太陽電池製造システム。
【請求項5】
前記品質管理装置は、各基板の履歴、各工程での検査結果、発電性能のデータベースを構築することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の薄膜太陽電池製造システム。
【請求項6】
モジュール完成後に発電検査を行う前記発電検査装置は、クリーンルーム内に設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の薄膜太陽電池製造システム。
【請求項7】
前記基板には、前記個別マーカとともに、該個別マーカの内容を目視により読み取り可能な状態に表した文字列マーカが設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の薄膜太陽電池製造システム。
【請求項8】
前記個別マーカは、前記基板のシリコン系薄膜面とは逆の基板裏面側の周縁部であってセンター振り分け位置近傍の片側に設けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の薄膜太陽電池製造システム。
【請求項9】
基板に透明電極、シリコン系薄膜および裏面電極を製膜し、モジュール化した後パネル化する請求項1から8のいずれかに記載の薄膜太陽電池製造システムの検査方法において、
薄膜太陽電池製造の品質にばらつきが発生しやすい工程について、連続的に中間検査を行い、該検査結果を基板のIDと対応させて管理することを特徴とする薄膜太陽電池製造システムにおける検査方法。
【請求項10】
プラズマCVD装置により製膜された基板について、定期的に基準製品との比較を行い、該基板が管理基準範囲にあるか否かを検査することを特徴とする請求項9に記載の薄膜太陽電池製造システムにおける検査方法。
【請求項11】
定期的確認を行えば比較的処理が安定している工程について手動で基板の抜き取り検査を行うことを特徴とする請求項9または10に記載の薄膜太陽電池製造システムにおける検査方法。」
に補正する内容を含むものである。

(2)補正の目的
上記(1)の補正の内容は、補正前の請求項1及び2における「モジュール完成後に発電検査を行う発電検査装置とを備え」を「モジュール完成後に少なくとも電流、電圧および出力の発電検査を行う発電検査装置とを備え」と限定するものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当すると認められる。

(3)独立特許要件についての検討
本件補正後の請求項1に係る発明 (以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かについて、以下に検討する。

ア 刊行物の記載
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2001-102604号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の記載がある(下線は、審決で付した。以下同じ。)。

a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光電変換装置の製造工程管理方法に係り、特に、光電変換装置製造工程のすべての工程において、工程管理を、簡易な方法で、迅速に行うことを可能とする光電変換装置の製造工程管理方法に関する。」

b「【0005】また、太陽電池モジュールは、製造後にIV特性、絶縁抵抗特性、耐電圧特性等が測定され、検査されるが、それらの検査結果と、個々の太陽電池モジュールの製造工程とが統一して管理されなければならない。」

c「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記問題点を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、成膜、スクライブ工程前の基板の表面の所定の位置にマークを付し、以後の工程においてこのマークを読取ることにより、以後の工程のすべての工程の管理を行うことが可能であることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0009】即ち、本発明は、透光性基板の一方の面に透明電極層、半導体層、および裏面電極層を順次成膜し、これらを各成膜ごとに各層をレーザースクライブして複数の太陽電池セルを形成し、これら太陽電池セルを集積化して太陽電池モジュールを形成し、これら各層の透光性基板の周辺部をレーザースクライブして太陽電池モジュールの発電領域と周縁領域とを電気的に分離し、得られた光電変換装置を検査する光電変換装置の製造工程において、前記透光性基板の他方の面の周縁領域または側面の、前記各層に対するレーザースクライブのためのレーザー光が照射されない領域に、製造工程の管理のためのマークを付し、以後の各製造工程において、前記マークを読取り、読取られたマークを利用して各製造工程の管理を行うことを特徴とする光電変換装置の製造工程管理方法を提供する。」

d「【0028】二次元コード3が付されたガラス基板は、その後、種々の工程、例えば透明電極層の成膜およびスクライブ工程、半導体層の成膜およびスクライブ工程、裏面電極層の成膜およびスクライブ工程、発電部と周縁部とを分離するためのスクライブ工程、封止工程、検査工程等に供されるが、これらの各工程の幾つかまたはすべてには、二次元コード読み取り装置が配置され、ガラス基板に付された二次元コード3は、二次元コード読み取り装置により読み取られ、それによって各工程の管理が行われる。」

e「【0031】次いで、成膜された金属酸化膜をレーザスクライブし、基板の一方向に延びた複数個の短冊状の第1の電極層12を、隣設し合う領域間の分離帯によって隔てられた状態で、基板のほぼ全面にわたって形成する。
【0032】続いて、この第1の電極層上に、p型の水素化非晶質炭化シリコン(以下p型のa-SiC:Hと記す)、i型の水素化非晶質シリコン(以下i型のa-Si:Hと記す)、n型の水素化非晶質シリコン(以下n型のa-Si:Hと記す)の3層を順次プラズマCVD法により堆積して半導体層を形成する。
【0033】レーザスクライブによって半導体層の一部を除去して接続用開口部を設ける。この段階において、一つの半導体層領域13は二つの第1の電極層にまたがって形成された構造となる。このレーザスクライブの後には二次元コードリーダが配置されており、この二次元コードリーダにより、通過する基板に付された二次元コードが読取られるとともに、処理系列に関する情報や処理日時がサーバーに追加される。
【0034】続いて、この複数の半導体層領域13の上に、アルミニウム(Al)や銀(Ag)などの金属材料からなる第2の電極層14を形成する。」

f「【0037】このレーザスクライブの後にも二次元コードリーダが配置されており、この二次元コードリーダにより、通過する基板に付された二次元コードが読取られるとともに、処理系列に関する情報や処理日時がサーバーに追加される。」

g「【0039】最後に、このようにして得られた太陽電池のIV特性および絶縁抵抗の測定を行い、太陽電池が所望の特性を有するかどうかを検査する。この検査工程において、基板に付された二次元コードが読取られ、これによる基板の情報、各製造工程の情報とともに、測定値の情報も記録され、工程管理および品質管理が統一して行われる。
【0040】即ち、測定値が所望の範囲から外れる場合には、その製品の履歴を容易に知ることが出来るとともに、その原因の究明を行うことが可能となる。」

(イ)原査定に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、高橋清、外2名編著、「太陽光発電」、第1版、森北出版株式会社、1982年11月、p.466-470(以下「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。

a「図14.3に想定した全工程を示す。図では各工程が独立して描かれているが、全工程とも連続自動処理工程となっている。用いる自動化装置は集積回路用のものが多種類あるので、これらに改良を加えたものとする。」(第467頁第4行から第6行)

b 図14.3の丸4(審決注、表記の都合上、丸数字をこのように表す。以下同じ。)から丸15は、以下のとおりである。


c 上記bの図14.3の丸11は素子アレイ配線を行う前の段階で、素子のソーラーシュミレータを光源にして実用変換効率が測定されることが記載されており、さらに、電圧及び電流を測定することが見てとれる。

d 上記bの図14.3の丸15では、大型ソーラーシミュレータを光源に、パネルの実用変換効率が測定されることが記載されている。さらに、丸13でガラス面接着がされ、丸14で背面保護がされた後であることから、丸15の実用変換効率の測定は完成後のパネルに対して行われていると認められる。

イ 引用発明
(ア)上記ア(ア)によれば、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「透光性基板の一方の面に透明電極層、p型の水素化非晶質炭化シリコン、i型の水素化非晶質シリコン、n型の水素化非晶質シリコンの3層を順次プラズマCVD法により堆積した半導体層、および裏面電極層を順次成膜し、これらを各成膜ごとに各層をレーザースクライブして複数の太陽電池セルを形成し、これら太陽電池セルを集積化して太陽電池モジュールを形成する光電変換装置の製造工程管理方法において、
透光性基板に基板番号を表すマーク(二次元コード3)が設けられ、
マークが設けられた透光性基板は、種々の工程、例えば透明電極層の成膜及びスクライブ工程、半導体層の成膜及びスクライブ工程、裏面電極層の成膜及びスクライブ工程、発電部と周縁部とを分離するためのスクライブ工程、封止工程、検査工程等に供され、これらの各工程の幾つかまたはすべてには、二次元コード読み取り装置が配置され、ガラス基板に付された二次元コード3は、二次元コード読み取り装置により読み取られ、それによって各工程の管理が行われ、
得られた太陽電池のIV特性及び絶縁抵抗の測定を行い、太陽電池が所望の特性を有するかどうかを検査し、この検査工程において、基板に付された二次元コードが読取られ、これによる基板の情報、各製造工程の情報とともに、測定値の情報も記録され、工程管理および品質管理が統一して行われる
光電変換装置の製造工程管理方法。」

(イ)光電変換装置の製造工程が製造装置を用いて行われることは当業者にとって明らかであるから、上記(ア)の発明は、該方法を適用して光電変換装置を製造する装置として理解することができる。

(ウ)以上によれば、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「透光性基板の一方の面に透明電極層、p型の水素化非晶質炭化シリコン、i型の水素化非晶質シリコン、n型の水素化非晶質シリコンの3層を順次プラズマCVD法により堆積した半導体層、および裏面電極層を順次成膜し、これらを各成膜ごとに各層をレーザースクライブして複数の太陽電池セルを形成し、これら太陽電池セルを集積化して太陽電池モジュールを形成する光電変換装置の製造工程管理方法において、
透光性基板に基板番号を表すマーク(二次元コード3)が設けられ、
マークが設けられた透光性基板は、種々の工程、例えば透明電極層の成膜及びスクライブ工程、半導体層の成膜及びスクライブ工程、裏面電極層の成膜及びスクライブ工程、発電部と周縁部とを分離するためのスクライブ工程、封止工程、検査工程等に供され、これらの各工程の幾つかまたはすべてには、二次元コード読み取り装置が配置され、ガラス基板に付された二次元コード3は、二次元コード読み取り装置により読み取られ、それによって各工程の管理が行われ、
得られた太陽電池のIV特性及び絶縁抵抗の測定を行い、太陽電池が所望の特性を有するかどうかを検査し、この検査工程において、基板に付された二次元コードが読取られ、これによる基板の情報、各製造工程の情報とともに、測定値の情報も記録され、工程管理および品質管理が統一して行われる
光電変換装置の製造工程管理方法を適用して光電変換装置を製造する装置。」(以下「引用発明」という。)

ウ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「透光性基板」、「透明電極層」、「p型の水素化非晶質炭化シリコン、i型の水素化非晶質シリコン、n型の水素化非晶質シリコンの3層を順次プラズマCVD法により堆積した半導体層」及び「裏面電極層」は、それぞれ、本願補正発明の「基板」、「透明電極」、「シリコン系薄膜」及び「裏面電極」に相当する。

(イ)引用発明の「透光性基板の一方の面に透明電極層、p型の水素化非晶質炭化シリコン、i型の水素化非晶質シリコン、n型の水素化非晶質シリコンの3層を順次プラズマCVD法により堆積した半導体層、および裏面電極層を順次成膜し、これらを各成膜ごとに各層をレーザースクライブして複数の太陽電池セルを形成し、これら太陽電池セルを集積化して太陽電池モジュールを形成する光電変換装置」及び「光電変換装置を製造する装置」は、それぞれ、本願補正発明の「薄膜太陽電池」及び「薄膜太陽電池製造システム」に相当する。

(ウ)引用発明の「透光性基板に」設けられた「基板番号を表すマーク(二次元コード3)」は、本願補正発明の「基板に設けられた個別マーカ」に相当する。

(エ)引用発明では、「マークが設けられた透光性基板は」、「検査工程」「に供され」、「二次元コード読み取り装置により読み取られ、それによって各工程の管理が行われ」ることから、引用発明は、「基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理する品質管理装置」を備える点において、本願補正発明と一致する。

(オ)引用発明では、「得られた太陽電池のIV特性および絶縁抵抗の測定を行い、太陽電池が所望の特性を有するかどうかを検査する」ことから、引用発明は、「発電検査を行う発電検査装置」を備える点において、本願補正発明と一致する。

(カ)引用発明では、「得られた太陽電池のIV特性および絶縁抵抗の測定を行い、太陽電池が所望の特性を有するかどうかを検査する。この検査工程において、基板に付された二次元コードが読取られ、これによる基板の情報、各製造工程の情報とともに、測定値の情報も記録され、工程管理および品質管理が統一して行われる」ことから、引用発明は、「発電検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理」する点において、本願補正発明と一致する。

(キ)以上によれば、両者は、
「基板に透明電極、シリコン系薄膜および裏面電極を製膜する薄膜太陽電池製造システムにおいて、
基板に設けられた個別マーカと、
基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理する品質管理装置と、
発電検査を行う発電検査装置とを備え、
前記品質管理装置は、前記発電検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理する薄膜太陽電池製造システム。」
である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

a 本願補正発明では、透明電極製膜後に連続的に基板の中間検査を行う透明電極検査装置を備えており、この検査結果を個別マーカに対応させて管理しているのに対して、引用発明では、透明電極成膜後に連続的に基板の中間検査を行う透明電極検査装置を備えているか不明であり、また、引用発明は、二次元コード3(個別マーカ)を備えており検査工程においても二次元コード3を読み取ることで管理しているが、中間検査との関係が不明な点(以下「相違点1」という。)。

b 本願補正発明では、モジュール化した後パネル化しているが、引用発明では、その点が不明であり、また、発電検査について、本願補正発明では、モジュール完成後に少なくとも電流、電圧および出力について発電検査を行う発電検査装置を備え、さらに、パネル完成後に発電検査を行う発電検査装置を備えているのに対して、引用発明では、発電検査の実施回数と内容が不明であり、実施時期とモジュール完成及びパネル完成との関係も不明な点(以下「相違点2」という。)。

エ 判断
(ア)相違点1について
a 製品の品質管理において、途中工程後に連続して中間検査を行い、その結果を管理することは、当業者が必要に応じて適宜行う事項というべきところ(例えば、特開平9-105895号公報の特に0011段及び0022段、特開平11-232370号公報の特に0016段参照。)、連続的な中間検査に使用し得る透明電極検査装置は本願の出願時において周知の装置であるから(例えば、特開2004-20254号公報、特開平9-273997号公報、特開平4-282441号公報参照。)、中間検査として透明電極検査装置を用いることに困難性は認められない。

b してみれば、引用発明において、透明電極層成膜後に中間検査として透明電極層の検査を行うこととし、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
a 太陽薄膜電池を製造する際に、モジュール化した後パネル化することは慣用手段である。

b 引用例2には、パネルの製造工程途中でソーラーシュミレータを光源にして素子の実用変換効率が測定され、且つ、該測定において電流及び電圧を測定し、また、完成後のパネルに対して大型ソーラーシミュレータを光源に実用変換効率が測定される技術が記載されているものと認められる。
そして、引用例2において、パネルの製造工程途中でソーラーシュミレータを光源にして素子の実用変換効率が測定されるのは、少なくとも電流、電圧および出力の発電検査が可能な程度進んだ段階であるモジュール完成後であるといえる。
また、IV特性(電流電圧特性)から出力が求められることは、太陽電池の技術分野において技術常識であることを鑑みれば、実用変換効率の測定において、電流と電圧を測定すれば結果として出力も測定しているといえる。

c 引用発明と引用例2記載の上記技術とは、いずれも光電変換装置の製造に係るものであり、太陽電池の検査を行う点でも共通するものであるから、引用発明において、上記aの慣用手段を採用しつつ、引用例2記載の上記技術を適用して、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

オ 小括
以上の検討によれば、本願補正発明は、引用発明及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成21年3月16日になされた手続補正後の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認められる。

「基板に透明電極、シリコン系薄膜および裏面電極を製膜し、モジュール化した後パネル化する薄膜太陽電池製造システムにおいて、
基板に設けられた個別マーカと、
透明電極製膜後に連続的に基板の中間検査を行う透明電極検査装置と、
前記透明電極検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理する品質管理装置と、
モジュール完成後に発電検査を行う発電検査装置とを備え、
前記品質管理装置は、前記発電検査装置による基板の検査結果を前記個別マーカに対応させて管理し、
パネル完成後に発電検査を行う発電検査装置を備えていることを特徴とする薄膜太陽電池製造システム。」

2 判断
前記第2、2(2)によれば、本願補正発明は、本願発明に係る特許請求の範囲を減縮したものと認められるところ、前記第2、2(3)で検討したとおり、本願発明に係る特許請求の範囲を減縮したものである本願補正発明が、引用発明及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、減縮前の本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、引用発明及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-08 
結審通知日 2010-12-14 
審決日 2010-12-28 
出願番号 特願2004-41370(P2004-41370)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 田部 元史
橿本 英吾
発明の名称 薄膜太陽電池製造システムおよび薄膜太陽電池製造システムにおける検査方法  
代理人 藤田 考晴  
代理人 上田 邦生  

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