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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E01D
管理番号 1231919
審判番号 不服2009-23024  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-25 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 平成11年特許願第228033号「落橋防止装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年2月20日出願公開,特開2001-49619〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続きの経緯
本願は,平成11年8月11日の出願であって,平成21年8月19日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月25日に審判請求がなされ,同時に手続補正がなされたものである。
その後,当審において,平成22年6月21日付けで審査官の前置報告書に基づく審尋がなされ,同年8月19日付けで回答書が提出された。

第2.本願発明
本願発明は,不明りょうな記載の釈明を目的とする平成21年11月25日付けの手続補正により補正された,特許請求の範囲の請求項1?2に記載されたとおりのものと認められ,そのうち,請求項1に係る発明は,次のとおりのものである。

「【請求項1】
橋桁と橋脚の間にアンカーバーを嵌合させた落橋防止装置において,
アンカーバーの所望箇所の周囲に弾性材と天然繊維,合成繊維,金属繊維もしくはこれらを混合した繊維からなる織布や不織布からなる拘束材を交互に積層させた構造を有する緩衝材を密着させると共にその緩衝材の外周面を嵌合箇所の内周面に密着させて配置したことを特徴とする落橋防止装置。」
(以下,「本願発明」という。)

第3.引用刊行物
刊行物1:実願昭54-114636号(実開昭56-33308号)
のマイクロフィルム
刊行物2:特開平10-140524号公報

1.刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に日本国内において頒布された上記刊行物1には,次の事項が記載されている。
(1a)「2.実用新案登録請求の範囲
一端に開口部を有するケーシングに棒状体が挿入されてなる緩衝装置において,該ケーシングの底部にゴムなどよりなる調整部材を配して棒状体の一端を挿入し,かつケーシングと棒状体とで形成される橋軸および橋軸直角方向の間隙にはゴムなどの弾性体と金属板とを交互に積層した緩衝体を該橋軸および橋軸直角方向・・・に配するとともに,該間隙には粘性体を介在せしめ,かつ棒状体にはケーシングの開口部を密閉するフランジ部を形成せしめ,ケーシングを下部構造に・・・埋設固定することを特徴とした橋梁などの緩衝装置。」
(1b)「本考案は橋梁などの構造物において,橋桁などの上部構造に作用する地震などの水平力および従荷重すなわち制動,始動などの荷重および風荷重を吸収,かつ緩和して橋脚などの下部構造に分散伝達することを目的とする防振ゴムなどの弾性体を内蔵して構成された緩衝装置に係わるものである。」(1頁18行?2頁4行)
(1c)「本考案は,・・・橋梁などの構造物に作用する橋軸方向のみならず,橋軸直角方向の水平力に対しても緩衝作用をなす緩衝装置を得るものである。」(3頁7?10行)
(1d)「第1図,第2図において,1は緩衝装置で,該緩衝装置1はケーシング2と棒状体3および該棒状体3とケーシング2との間に配される緩衝体4より構成されている。
該ケーシング2は一端に開口部を他端に底部を有する箱型に形成され,橋脚などの下部構造Bに開口部を上方に向けて埋設固定される。
棒状体3は一端をケーシング2に挿入され,他端を橋桁などの上部構造Gに埋設固定される。
5は,該棒状体に形成され,ケーシング2の開口端部を覆うフランジ部で,該フランジ部5にはケーシングの開口部側にシール作用をなすゴム板6が配されている。
緩衝体4は,板状の硬度の異なるゴムなどよりなる弾性体7a.7bと板状の金属板8との交互層すなわち弾性体7aと金属板8および弾性体7bと金属板8よりなる緩衝片4a.4bより構成されている。」(4頁4行?5頁1行)
(1e)「10は粘性体で,該粘性体10はケーシング2と棒状体3間に配された緩衝体4と調整部材9によって形成される間隙11に介在せしめられる。
また,粘性体10はケーシング2および棒状体3ならびに緩衝体4の金属板8の防蝕作用と緩衝作用をなすものである。」(5頁17行?6頁2行)
(1f)「本考案の緩衝装置は,ケーシング2の内周面に一定の厚みを有し,硬度の異なる弾性体7a.7bと金属板8を,たとえば接着剤などで交互に数層積み重ねた緩衝体4,すなわち上部構造Gの温度変化による伸縮を逃がすための変形が容易な低硬度のゴムなどの弾性体7aを用いた緩衝片4aを橋軸方向の内周面に,かつ緩衝片4bを橋軸直角方向の内周面に配し,さらに該ケーシングの底部には調整部材9を配する。」(6頁3?11行)
(1g)第2図には,上記(1e)及び(1f)の記載事項からみて,「ケーシング2と棒状体3との間隙の橋軸および橋軸直角方向に緩衝体4を粘性体10を介して位置させると共に,その緩衝体4の外周面をケーシング2の内周面に粘性体10を介して位置させて」いることが,記載されている。

そうすると,上記記載事項及び当業者の技術常識からみて,刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。
「橋桁Gと橋脚Bのケーシング2の間に棒状体3を嵌合させた橋梁などの緩衝装置において,
ケーシング2と棒状体3との間隙の橋軸および橋軸直角方向に弾性体7a,7bと金属板8を交互に数層積み重ねた緩衝体4を粘性体10を介して位置させると共に,その緩衝体4の外周面をケーシング2の内周面に粘性体10を介して位置させて配置した橋梁などの緩衝装置。」
(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

2.刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に日本国内において頒布された上記刊行物2には,次の事項が記載されている。
(2a)「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項2】 弾性体内に積層材を弾性体と交互となるように積層埋設し,鉛直方向に所定の荷重が作用した場合に積層材が破断するようにその破断荷重を予め定めた構造としたことを特徴とする支承材。
・・・
【請求項4】 請求項1,請求項2もしくは請求項3において,積層材を織布や不織布による布としたことを特徴とする支承材。
・・・
【請求項10】 請求項1,請求項2もしくは請求項3において,弾性体をゴムとしたことを特徴とする支承材。」
(2b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,橋脚と橋桁間等の構造物間に設置する高耐震性能を有する支承材に関する。」
(2c)「【0011】・・・ゴム材の内部に布等の積層材を接着して多層積層した実施の形態を以下に説明する。図1は基本的は形態の断面図であり,3は天然繊維,化学繊維,金属繊維もしくはこれらの混合繊維等による織布や不織布による積層材であり,天然ゴム,合成ゴムもしくは合成樹脂等の弾性材4中にその弾性材4と交互になるように積層埋設して支承材5が構成されている。
【0012】この積層は圧縮方向に直交する方向に配置するもので,積層材3と弾性材4は接着することは勿論である・・・」
(2d)「【0013】・・・圧縮荷重が作用した場合について述べると,荷重の進行と共に積層材3間の弾性材4の横歪が進行し,内部に埋設した積層材4には鉛直荷重に加えて弾性材3の歪力が作用することとなり,さらに,荷重を加え歪変位が進行した場合には埋設した積層材3が変形限界に達して図3に示す如く破断することになる。
【0014】積層材3の破断が開始すると,内部の積層材3が連鎖的に進行するため,鉛直荷重の上昇はなくなり変形のみが進行するとになる。実験の結果では同じ積層材3を積層した場合には破断応力と積層枚数の関係は図4に示す如く比例的であることから,1枚当たりの積層材3の破断応力は一定で,最大受圧荷重はこの破断応力値を示した場合がピークであることを示し,最大受圧荷重を明確化および制御した支承材5の提供を可能としている。
【0015】図5に弾性体に積層材を埋設した本支承材5と通常の弾性体の充実体や中空体の支承材の圧縮性能特性を示す。・・・」
(2e)「【0020】・・・本支承材5によると,例えば図11に示す如く,橋脚8と橋桁9の間の支承材5として使用した場合には,鉛直方向荷重に対して荷重が過大な場合には内部の積層材3が破壊することによりエネルギー吸収効果を発揮し,衝撃荷重の発生を抑止する・・・」

第4.対比
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると,
刊行物1記載の発明の「橋脚のケーシング」が本願発明の「橋脚」に相当し,以下同様に,「棒状体」が「アンカーバー」に,「橋梁などの緩衝装置」が「落橋防止装置」に,「ケーシングと棒状体の間隙の橋軸および橋軸直角方向」が「アンカーバーの所望箇所の周囲」に,「弾性体」が「弾性材」に,「交互に数層積み重ねた」が「交互に積層させた構造」に,「緩衝体」が「緩衝材」に,「ケーシングの内周面」が「嵌合箇所の内周面」に,それぞれ相当する。
また,刊行物1記載の発明の「金属板」と本願発明の「拘束材」は,「非弾性材」である点で共通し,
さらに,刊行物1記載の発明の「粘性体10を介して位置させ」と本願発明の「密着させ」は,「位置させ」る点で共通する。

そうすると,両者は,
「橋桁と橋脚の間にアンカーバーを嵌合させた落橋防止装置において,
アンカーバーの所望箇所の周囲に弾性材と非弾性材を交互に積層させた構造を有する緩衝材を位置させると共にその緩衝材の外周面を嵌合箇所の内周面に位置させて配置した落橋防止装置。」である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点)
緩衝材が,本願発明では,非弾性材として「天然繊維,合成繊維,金属繊維もしくはこれらを混合した繊維からなる織布や不織布からなる拘束材」を有し,かつ,アンカーバーの所望箇所の周囲及び嵌合箇所の内周面に「密着させ」られるのに対して,
刊行物1記載の発明では,非弾性材として金属板を有し,さらに,アンカーバーの所望箇所の周囲及び嵌合箇所の内周面には,粘性体を介して位置させられている点。

第5.判断
上記相違点について検討する。
刊行物2には,橋脚と橋桁間の支承材として用いられる「弾性材と天然繊維,合成繊維([化学繊維]:[ ]内は刊行物2での用語を示す。以下同様。),金属繊維もしくはこれらを混合した繊維([混合繊維])からなる織布や不織布からなる拘束材([積層材3])を交互に積層させた構造を有する緩衝材([支承材5])」(以下,「刊行物2記載の発明」という。)が記載されている。
一方,刊行物1記載の発明の粘性体は,上記(1e)の記載事項からみて,金属板の防蝕作用とともに緩衝作用を有するものであるから,弾性材と非弾性材(金属板)からなる緩衝材の一部を成すものであるということができる。
そうすると,刊行物1記載の発明の粘性体を含めた緩衝材と,刊行物2記載の緩衝材は,構造物において緩衝作用を有する部材としてその機能を同一とするものであるから,刊行物1記載の発明の粘性体を含めた緩衝材に代えて,刊行物2記載の発明を適用し,緩衝材を「天然繊維,合成繊維,金属繊維もしくはこれらを混合した繊維からなる織布や不織布からなる拘束材」を有するものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
そして,刊行物1記載の発明の緩衝材を,粘性体を含めて刊行物2記載の発明に代えれば,粘性体がアンカーバーの所望箇所の周囲及び嵌合箇所の内周面に当然密着していたのであるから,置換した緩衝材を当該周囲及び当該内周面に「密着させ」た構成とすることは自然なことである。
したがって,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して,上記相違点に係る事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本願発明が奏する効果は,刊行物1及び2記載の発明から予測できる範囲内のものであって,格別なものとはいえない。

よって,本願発明は,刊行物1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第6.むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-03 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-22 
出願番号 特願平11-228033
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳元 八大  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 山本 忠博
伊波 猛
発明の名称 落橋防止装置  
代理人 金倉 喬二  

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