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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B66C
管理番号 1231921
審判番号 不服2009-23291  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-27 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 平成11年特許願第274584号「クレーンの操作装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月10日出願公開、特開2001- 97677〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本件出願は、平成11年9月28日の出願であって、平成21年4月22日付けの拒絶理由通知に対して平成21年6月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年9月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年11月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に同日付けで手続補正書が提出され、その後、平成22年4月12日付けで当審より書面による審尋がなされたものである。

[2]平成21年11月27日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成21年11月27日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1.本件補正の内容
平成21年11月27日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年6月29日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記a)に示す請求項1を、下記b)に示す請求項1と補正するものである。

a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】 ブーム先端部の下部とフック上部との間の距離を所定長確保した位置でフックが巻過状態になるとクレーンの危険側への作動を自動停止させる巻過検出手段を備えるクレーンの操作装置であって、
前記巻過状態で前記自動停止後に更にブームの起立操作又は伸長操作が行なわれたときに、前記巻過検出手段からの巻過信号に基づいて、フックの巻下作動と共にブームの起立作動又は伸長作動を行わせる制御部を備えたことを特徴とするクレーンの操作装置。」

b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】 ブーム先端部の下部とフック上部との間の距離を所定長確保した離隔位置でフックの巻過状態を検出し、前記離隔位置でクレーンの危険側への作動を自動停止させる巻過検出手段を備えるクレーンの操作装置であって、
前記巻過状態で前記自動停止後に更にブームの起立操作又は伸長操作が行なわれたときに、前記巻過検出手段からの巻過信号に基づいて、前記離隔位置でフックの巻下作動と共にブームの起立作動又は伸長作動を通常状態のときと同様に行わせる制御部を備えたことを特徴とするクレーンの操作装置。」(下線は、補正箇所を示すために審判請求人が付した。)

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項について限定を付加するものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、単に「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2.本件補正の適否についての判断

2-1.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平6-144788号公報(以下、単に「引用刊行物」という。)には、図面とともに、例えば、次のような事項が記載されている。

ア)「【0002】
【従来の技術】一般に、クレーンには、ワイヤロープの切断を防止するため、巻過防止手段が設けられている。巻過防止手段は、図5に示すように、巻過検出用ウェイト8を、ブーム2の先端部に取付けた巻過検出スイッチ7の作動リンクから、巻過用ワイヤロープ9で吊下している。フック巻上用ワイヤロープ5によりフック6がブーム先端近くまで巻上げられると、巻過検出用ウェイト8がフック6上端部に当接して持上げられ、巻過用ワイヤロープ9が弛んで巻過検出用ウェイト8により引下げられていた作動リンクが元の位置に復帰し、巻過検出スイッチ7がフック6の巻過状態を検出する。そこで、巻過防止手段は警報を発し自動的にウインチ4の巻上動作を停止させると共に、ブーム2の先端とフック6との間の距離が短くなるようなブーム2の伸長動作、ブーム2の起立動作も停止させる。但し、ブーム2の先端とフック6との間の距離が長くなるような、ウインチ4の巻下動作、ブーム2の短縮動作、ブーム2の倒伏動作は可能となるよう構成されている(実公平2-42707号参照)。」(段落【0002】)

イ)「【0003】また、近年、トラック走行時前にクレーン1のフック6を格納する際の格納操作を簡易化自動化するため、ブーム2の先端部にフック6を格納するようにしたフックの自動格納装置が用いられるようになっている。このフック6の自動格納装置は、図6に示すように、ブーム2先端部に弧状の案内面15Fを形成したフックガイド15を取付け、フック6の上端にフックガイド15の案内面15Fに接して転動するローラ16を設けて、フック6を格納する場合には、巻過検出スイッチ7が作動した後も更にフック6を巻上げ、巻上げられたフック6が上昇してローラ16がフックガイド15の案内面15Fに当接し、ローラ16が案内面15Fに沿って転動して、ブーム2先端部の格納位置に格納されてフック格納確認スイッチ17に当接するまで巻上操作を継続する(特願平3-323288号参照)。」(段落【0003】)

ウ)「【0005】また、ブーム伸油路21の途中には、巻過状態となったときブーム伸長動作を停止させるためのブーム伸ストップ弁31、ブーム起油路24の途中には、巻過状態となったときブーム起立動作を停止させるためのブーム起ストップ弁32、ウインチ巻下油路28の途中には、巻過状態となったときウインチ巻上動作を停止させるための巻上ストップ弁33が設けられている。これらのストップ弁31、32、33は、ベント回路を具えたリリーフ弁であり、巻過検出器7の巻過検出信号により作動するストップ弁作動用電磁弁34でベント回路を遮断することにより、ブーム伸油路21、ブーム起油路24、及びウインチ巻下油路28を遮断するようになっている。」(段落【0005】)

エ)「【0006】更に、ウインチ用油圧モータ12には、フック格納制御弁35から、ウインチ巻下油路28の巻上ストップ弁33をバイパスさせるバイパス油路36と、フック格納油路37とが接続されている。フック格納時には油圧ポンプ18からフック格納油路37、ウインチ巻上油路27を経てウインチ用油圧モータ12に圧油が供給され、バイパス油路36からタンク19へ圧油が排出される。フック格納油路37には、ブーム起伏、伸縮、旋回、ウインチ巻上、巻下、アウトリガ伸縮等のクレーン作動用の主回路38に挿入されている主リリーフ弁39より低圧に設定したフック格納用リリーフ弁40が設けられており、フック格納時にワイヤロープの切断等の事故を防止することができる。」(段落【0006】)

オ)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このような、巻過状態となったとき自動的にウインチ4の巻上動作を停止させると共に、ブーム2の伸長、起立動作を停止させる巻過防止機構と、巻過状態検出後更に巻上げを継続してフック6を格納するフックの自動格納機構とを備えたクレーン1では、例えば図8に示すように、トラック13の荷台14に荷Wを高く積んで、フック6を格納しブーム2を荷台14と平行な走行状態として目的の場所までトラック13を走行させた後、クレーン1を作業状態にする場合、先ずブーム2を起立させなければならないが、巻過状態となっているので起立動作は不能である。そこで、巻過状態を解除するため、ウインチ4の巻下動作を行わねばならないが、荷Wが高く積まれているのでフック6が荷Wに当たって下がらず巻過状態を解除できない。ブーム2の伸長も同様に不能である。
【0008】一旦、フック6が荷Wに当たらない位置までクレーン1を旋回させ、ウインチ4を巻下げて巻過状態を解除した後、ブーム2を起立させクレーン1を再度旋回させて戻すことは可能であるが操作が面倒で作業能率が悪い。また狭隘箇所ではフック6が荷Wに当たらない位置までクレーン1を旋回できないこともある。本発明は、クレーンにおけるかかる問題を解決するものであって、フックの格納状態からブームの起伏動作やブームの伸長動作を行うことができるクレーンのブーム制御装置を提供することを目的とする。」(段落【0007】及び【0008】)

カ)「【0010】
【作用】フックを格納した状態から、ブームの起立動作を行う場合、ブーム起伏制御弁からブーム起油路に供給される圧油は、ブーム起伏シリンダに流入すると共に、連絡油路を通ってウインチ用油圧モータにも流入するため、ブームの起立動作とウインチ巻下動作が同時に行われる。
【0011】フックを格納した状態から、ブームの伸長動作を行う場合、ブーム伸縮制御弁からブーム伸油路に供給される圧油は、ブーム伸縮シリンダに流入すると共に、連絡油路を通ってウインチ用油圧モータにも流入するため、ブームの伸長動作とウインチ巻下動作が同時に行われる。」(段落【0010】及び【0011】)

キ)「【0012】
【実施例】図1は本発明の一実施例であるクレーンのブーム制御装置の油圧回路図、図2はその電気回路図である。この実施例においてクレーンの基本的構成は図5に示す従来のクレーン1と同様であり、ブーム2の起伏動作を行うブーム起伏シリンダ11と、ブーム2の伸縮動作を行うブーム伸縮シリンダ3と、ブーム2の先端部から吊下されるフック6の巻上巻下動作を行うウインチ4と、フック6の巻過状態を検出する巻過検出手段とを備えている。
【0013】巻過防止手段は、巻過検出用ウェイト8を、ブーム2の先端部に取付けた巻過検出スイッチ7の作動リンクから、巻過用ワイヤロープ9で吊下している。巻過検出スイッチ7は、図2に示すように、電源をON-OFFするメインスイッチ50に接続されており、メインスイッチ50と巻過検出スイッチ7との間には、ストップ弁作動用電磁弁34と警報用のブザー51とが並列に接続されている。ウインチ4によりフック巻上用ワイヤロープ5が巻上げられフック6がブーム先端近くまで上昇すると、巻過検出用ウェイト8がフック6上端部に当接して持上げられ、巻過用ワイヤロープ9が弛んで巻過検出用ウェイト8により引下げられていた作動リンクが元の位置に復帰し、巻過検出スイッチ7がONとなってフック6の巻過状態を検出する。」(段落【0012】及び【0013】)

ク)「【0014】また、クレーン1はブーム2の先端部にフック6を格納するようにしたフックの自動格納装置を備えている。このフックの自動格納装置は、図6に示すように、ブーム2先端部に弧状の案内面15Fを形成したフックガイド15を取付け、フック6の上端にフックガイド15の案内面15Fに接して転動するローラ16を設けて、巻過検出スイッチ7が作動した後も更にフック6を巻上げ、巻上げられたフック6が上昇してローラ16がフックガイド15の案内面15Fに当接し、ローラ16が案内面15Fに沿って転動して、ブーム2先端部の格納位置にフック6を格納する。ブーム2先端部の格納位置には、フック6の格納状態を検出するフック格納確認スイッチ17が取付けられている。」(段落【0014】)

ケ)「【0015】このような、クレーン1において、ブーム伸縮シリンダ3には、ブーム伸縮制御弁20からブーム伸油路21とブーム縮油路22とが接続されており、伸長時には油圧ポンプ18からブーム伸油路21を経て圧油が供給され、ブーム縮油路22からタンク19へ圧油が排出され、縮小時にはその逆の流れとなる。ブーム起伏シリンダ11には、ブーム起伏制御弁23からブーム起油路24とブーム伏油路25とが接続されており、起立時には油圧ポンプ18からブーム起油路24を経て圧油が供給され、ブーム伏油路25からタンク19へ圧油が排出され、倒伏時にはその逆の流れとなる。ウインチ用油圧モータ12には、ウインチ制御弁26からウインチ巻上油路27とウインチ巻下油路28とが接続されており、巻上時には油圧ポンプ18からウインチ巻上油路27を経て圧油が供給され、ウインチ巻下油路28からタンク19へ圧油が排出され、巻下時にはその逆の流れとなる。」(段落【0015】)

コ)「【0016】ブーム伸油路21の途中には、巻過状態となったときブーム伸長動作を停止させるためのブーム伸ストップ弁31、ウインチ巻下油路28の途中には、巻過状態となったときウインチ巻上動作を停止させるための巻上ストップ弁33が設けられている。これらのストップ弁31、33は、ベント回路を具えたリリーフ弁であり、巻過検出スイッチ7の巻過検出信号により作動するストップ弁作動用電磁弁34がベント回路を遮断することにより、ブーム伸油路21、及びウインチ巻下油路28を遮断するようになっている。従って、巻過状態となると、ブザー51が警報を発し、且つ自動的にウインチ4の巻上動作を停止させると共に、ブーム2の先端とフック6との間の距離が短くなるようなブーム2の伸長動作も停止させる。但し、ブーム2の先端とフック6との間の距離が長くなるような、ウインチ4の巻下動作、ブーム2の短縮動作は可能である。」(段落【0016】)

サ)「【0017】ウインチ用油圧モータ12には、フック格納制御弁35から、ウインチ巻下油路28の巻上ストップ弁33をバイパスさせるバイパス油路36と、フック格納油路37とが接続されている。フック格納時には油圧ポンプ18からフック格納油路37、ウインチ巻上油路27を経てウインチ用油圧モータ12に圧油が供給され、バイパス油路36からタンク19へ圧油が排出される。フック格納油路37には、ブーム起伏、伸縮、旋回、ウインチ巻上、巻下、アウトリガ伸縮等のクレーン作動用の主回路38に挿入されている主リリーフ弁39より低圧に設定したフック格納用リリーフ弁40が設けられており、フック格納時にフック巻上用ワイヤロープ5の切断等の事故を防止することができる。」(段落【0017】)

シ)「【0018】また、ブーム起伏制御弁23からブーム起伏シリンダに接続されるブーム起油路24とバイパス油路36とは連絡油路41で接続され、連絡油路41の途中には切換弁42が設けられている。この切換弁42は図2に示すように、メインスイッチ50とフック格納確認スイッチ17との間に接続されており、フック6が格納位置に格納されてフック格納確認スイッチ17に当接し、フック格納確認スイッチ17がONとなると連通側に切換えられる。従って、フック格納状態では、ブーム起油路24とバイパス油路36とは互いに連通しており、この状態でブームの起立動作を行うと、ブーム起伏制御弁23からブーム起油路24に供給される圧油は、ブーム起伏シリンダ11に流入すると共に、連絡油路41を通ってウインチ用油油圧モータ12にも流入するため、ブーム2の起立動作とウインチ4の巻下動作が同時に行われる。ウインチ4の巻下動作によりフック6が下降すると、フック格納確認スイッチ17がOFFとなって切換弁42は遮断状態に戻りウインチ4の巻下動作は停止する。更にブーム2の起立動作が継続されてブーム2の先端部とフック6との間のフック巻上用ワイヤロープ5の長さが短くなると、フック6は再び格納位置に格納されてフック格納確認スイッチ17に当接し、フック格納確認スイッチ17がONとなるため、ブーム起油路24に供給される圧油は、ウインチ用油油圧モータ12に流入してフック6が下降する。このようにして、クレーン1はブーム2を起立させ作業姿勢にすることができる。」(段落【0018】)

ス)「【0019】図3は本発明の他の実施例の油圧回路図である。この実施例では、ブーム起油路24の途中に、巻過状態となったときブーム起立動作を停止させるためのブーム起ストップ弁32が設けられており、また、ブーム伸縮制御弁20からブーム伸縮シリンダ3に接続されるブーム伸油路21とバイパス油路36とが連絡油路41で接続されて、連絡油路41の途中に切換弁42が設けられている。
【0020】従って、フック格納状態から、ブームの伸長動作を行うと、ブーム伸縮制御弁20からブーム伸油路21に供給される圧油は、ブーム起伏シリンダに流入すると共に、連絡油路41を通ってウインチ用油圧モータ12にも流入するため、ブーム2の伸長動作とウインチ4の巻下動作が同時に行われる。このようにして、クレーン1はフック格納状態からブーム2を伸長させることができる。」(段落【0019】及び【0020】)

セ)「【0022】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のクレーンのブーム制御装置は、フックの格納状態からブームの起伏動作やブームの伸長動作を行って作業姿勢にすることができ操作が容易で作業能率が向上する。」(段落【0022】)

ソ)「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例であるクレーンのブーム制御装置の油圧回路図である。
【図2】クレーンのブーム制御装置の電気回路図である。
【図3】他の実施例の油圧回路図である。
【図4】更に他の実施例の油圧回路図である。
【図5】従来のクレーンの説明図である。
【図6】フック格納装置の説明図である。
【図7】従来のクレーンのブーム制御装置の油圧回路図である。
【図8】トラックの走行状態のの説明図である。
【符号の説明】
1 クレーン
2 ブーム
3 ブーム伸縮シリンダ
4 ウインチ
6 フック
7 巻過検出スイッチ
11 ブーム起伏シリンダ
12 ウインチ用油圧モータ
17 フック格納確認スイッチ
20 ブーム伸縮制御弁
21 ブーム伸油路
23 ブーム起伏制御弁
24 ブーム起油路
26 ウインチ制御弁
28 ウインチ巻下油路
33 巻上ストップ弁
35 フック格納制御弁
36 バイパス油路
41 連絡油路
42 切換弁」(【図面の簡単な説明】及び【符号の説明】)

タ)「【手続補正書】
【提出日】平成5年1月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正内容】
【0018】また、ブーム起伏制御弁23からブーム起伏シリンダに接続されるブーム起油路24とバイパス油路36とは連絡油路41で接続され、連絡油路41の途中には切換弁42が設けられている。この切換弁42は図2に示すように、メインスイッチ50とフック格納確認スイッチ17との間に接続されており、フック6が格納位置に格納されてフック格納確認スイッチ17に当接し、フック格納確認スイッチ17がONとなると連通側に切換えられる。従って、フック格納状態では、ブーム起油路24とバイパス油路36とは互いに連通しており、この状態でブームの起立動作を行うと、ブーム起伏制御弁23からブーム起油路24に供給される圧油は、ブーム起伏シリンダ11に流入すると共に、連絡油路41を通ってウインチ用油圧モータ12にも流入するため、ブーム2の起立動作とウインチ4の巻下動作が同時に行われる。ウインチ4の巻下動作によりフック6が下降すると、フック格納確認スイッチ17がOFFとなって切換弁42は遮断状態に戻りウインチ4の巻下動作は停止する。更にブーム2の起立動作が継続されてブーム2の先端部とフック6との間のフック巻上用ワイヤロープ5の長さが短くなると、フック6は再び格納位置に格納されてフック格納確認スイッチ17に当接し、フック格納確認スイッチ17がONとなるため、ブーム起油路24に供給される圧油は、ウインチ用油圧モータ12に流入してフック6が下降する。このようにして、クレーン1はブーム2を起立させ作業姿勢にすることができる。」(【手続補正書】の【手続補正1】)

チ)「【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】従って、フック格納状態から、ブームの伸長動作を行うと、ブーム伸縮制御弁20からブーム伸油路21に供給される圧油は、ブーム伸縮シリンダに流入すると共に、連絡油路41を通ってウインチ用油圧モータ12にも流入するため、ブーム2の伸長動作とウインチ4の巻下動作が同時に行われる。このようにして、クレーン1はフック格納状態からブーム2を伸長させることができる。」(【手続補正書】の【手続補正2】)

ツ)【手続補正書】の【手続補正4】ないし【手続補正6】において、補正された図1、図3及び図4が記載されている。

テ)上記ア)、オ)、キ)、ク)、コ)及び図5の記載からみて、ブーム2の先端部の下部とフック6上部との間の距離を所定長確保した離隔位置でフック6の巻過状態を検出しているといえる。

ト)上記ア)、ウ)、オ)、キ)、ク)、コ)、図1、図2及び図5の記載からみて、巻過状態となったときクレーン1のブーム伸長動作及びウインチ巻上動作を自動停止させる巻過検出手段を備えているといえる。

ナ)上記ア)、ウ)、オ)、キ)、ク)、コ)、シ)図1、図2、図5及び図6の記載からみて、巻過状態で自動停止後に更にフック6を巻上げたフック6の格納状態で更にブーム2の起立動作が行なわれたときに、フック6の格納状態を検出するフック格納確認スイッチ17のONに基づいて、フック6の格納位置でフック6の巻下動作と同時にブーム2の起立動作をブーム2の起立動作により行わせる制御部を備えているといえる。

ニ)上記ア)ないしウ)、オ)ないしク)、コ)、シ)、図5及び6の記載からみて、巻過状態であるフック6の格納状態からブーム2の起伏動作やブーム2の伸長動作を行うことができるクレーンのブーム制御装置であるといえる。

上記ア)ないしニ)及び図面の記載を総合すると、引用刊行物には、次の発明(以下、単に「引用刊行物記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ブーム2の先端部の下部とフック6上部との間の距離を所定長確保した離隔位置でフック6の巻過状態を検出し、前記巻過状態となったときクレーン1のブーム伸長動作及びウインチ巻上動作を自動停止させる巻過検出手段を備えるクレーンのブーム制御装置であって、
前記巻過状態で前記自動停止後に更にフック6を巻上げたフック6の格納状態で更にブーム2の起立動作が行なわれたときに、フック6の格納状態を検出するフック格納確認スイッチ17のONに基づいて、フック6の格納位置でフック6の巻下動作と同時にブーム2の起立動作をブーム2の起立動作により行わせる制御部を備えたクレーンのブーム制御装置。」の発明であって、
『巻過状態であるフック6の格納状態からブーム2の起伏動作やブーム2の伸長動作を行うことができるクレーンのブーム制御装置。』

2-2.本願補正発明と引用刊行物記載の発明との対比
本願補正発明と引用刊行物記載の発明とを対比するに、引用刊行物記載の発明における「ブーム2」は、その技術的意義からみて、本願補正発明における「ブーム」に相当し、以下同様に、「ブーム2の先端部」は「ブーム先端部」に、「フック6」は「フック」に、「クレーン1」は「クレーン」に、「ブーム伸長動作及びウインチ巻上動作」は「危険側への作動」に、「クレーンのブーム制御装置」は「クレーンの操作装置」に、「起立動作」は「起立操作又は伸長操作」及び「起立作動又は伸長作動」に、「巻下動作」は「巻下作動」に、「同時に」は「共に」に、それぞれ相当する。

また、本願補正発明において「『離隔位置で』クレーンの危険側への作動を自動停止させる」とする補正の根拠として、平成21年11月27日付けの審判請求書において「補正の根拠は、願書に最初に添付した明細書の段落[0021]の記載である。」とし、本件出願の明細書の段落【0020】には「この制御部37は、フック11の巻上操作中に巻過状態になって巻過検出スイッチ12からの巻過信号が入力されると、・・・(略)・・・ブーム起伏制御弁31、フック巻上巻下制御弁32、ブーム伸縮制御弁33へ停止信号を送り、フック11をブーム7の先端部に接近させるクレーン1の危険側作動、即ちブーム起立、フック巻上げ、ブーム伸長の各作動を自動停止させる。」と記載され、また、同審判請求書において「補正の根拠は、段落0023には、「巻過検出スイッチ12からの巻過信号が入力されると、制御部37は、・・・・クレーン1の危険側作動、即ちブーム起立、フック巻上げ、ブーム伸長の各作動を自動停止させ、巻過状態では危険側作動ができないようにする。」と記載され、また、段落0024に、「巻過状態でブーム7を起立させる必要がある場合には、通常状態のときと同じブーム起立操作をする。巻過状態でブーム起立操作を行うと、制御部37がフック巻下作動と共にブーム起立作動を行わせる。」と記載されている。つまり、巻過信号が入力されると(巻過状態となり)、自動停止され、この位置は、上記離隔位置であるのが明らかである。」としていることからみて、引用刊行物記載の発明における「巻過状態となったときクレーン1のブーム伸長動作及びウインチ巻上動作を自動停止させる巻過検出手段」は、本願補正発明における「離隔位置でクレーンの危険側への作動を自動停止させる巻過検出手段」に相当する。

さらに、引用刊行物記載の発明における「フック6の格納状態を検出するフック格納確認スイッチ17のON」は、「フック格納確認スイッチ17」が「ON」となるときには、巻過状態で更にフック6を巻上げたフック6の格納状態であるので、既に巻過状態となって巻過検出手段からの巻過信号が入力された状況であり、また、フック6の格納状態は巻過の状態にあるので、「フック格納確認スイッチ17」の「ON」は、巻過の状態を表す信号であるといえることから、「巻過検出手段からの巻過信号が入力された状況下における巻過の状態を表す信号」という限りにおいて、本願補正発明における「巻過検出手段からの巻過信号」に相当する。
さらにまた、引用刊行物記載の発明における「フック6の格納位置でフック6の巻下動作と同時にブーム2の起立動作をブーム2の起立動作により行わせる」は、「巻過検出手段からの巻過信号が入力された状況下における巻過の状態を表す信号を検出した位置でフックの巻下作動と共にブームの起立作動又は伸長作動を行わせる」という限りにおいて、本願補正発明における「離隔位置でフックの巻下作動と共にブームの起立作動又は伸長作動を通常状態のときと同様に行わせる」に相当する。
そして、引用刊行物記載の発明における「巻過状態で自動停止後に更にフック6を巻上げたフック6の格納状態で更にブーム2の起立動作が行なわれたときに、フック6の格納状態を検出するフック格納確認スイッチ17のONに基づいて、フック6の格納位置でフック6の巻下動作と同時にブーム2の起立動作をブーム2の起立動作により行わせる制御部」は、「巻過状態で前記自動停止後に更にブームの起立操作が行なわれたときに、巻過検出手段からの巻過信号が入力された状況下における巻過の状態を表す信号に基づいて、巻過検出手段からの巻過信号が入力された状況下における巻過の状態を表す信号を検出した位置でフックの巻下作動と共にブームの起立作動又は伸長作動を行わせる制御部」という限りにおいて、本願補正発明における「巻過状態で自動停止後に更にブームの起立操作又は伸長操作が行なわれたときに、巻過検出手段からの巻過信号に基づいて、離隔位置でフックの巻下作動と共にブームの起立作動又は伸長作動を通常状態のときと同様に行わせる制御部」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用刊行物記載の発明とは、
「ブーム先端部の下部とフック上部との間の距離を所定長確保した離隔位置でフックの巻過状態を検出し、前記離隔位置でクレーンの危険側への作動を自動停止させる巻過検出手段を備えるクレーンの操作装置であって、
前記巻過状態で前記自動停止後に更にブームの起立操作又は伸長操作が行なわれたときに、巻過検出手段からの巻過信号が入力された状況下における巻過の状態を表す信号に基づいて、巻過検出手段からの巻過信号が入力された状況下における巻過の状態を表す信号を検出した位置でフックの巻下作動と共にブームの起立作動又は伸長作動を行わせる制御部を備えたクレーンの操作装置。」である点で一致し、次の点で相違している。

<相違点>
「巻過状態で自動停止後に更にブームの起立操作又は伸長操作が行なわれたときに、巻過検出手段からの巻過信号が入力された状況下における巻過の状態を表す信号に基づいて、巻過検出手段からの巻過信号が入力された状況下における巻過の状態を表す信号を検出した位置でフックの巻下作動と共にブームの起立作動又は伸長作動を行わせる制御部」が、本願補正発明においては、「巻過状態で自動停止後に更にブームの起立操作又は伸長操作が行なわれたときに、『巻過検出手段からの巻過信号』に基づいて、『離隔位置で』フックの巻下作動と共にブームの起立作動又は伸長作動を『通常状態のときと同様に』行わせる制御部」であるのに対して、引用刊行物記載の発明においては、「巻過状態で自動停止後」ではあるものの、「『更にフック6を巻上げたフック6の格納状態で』更にブーム2の起立動作が行なわれたとき」に、「『フック6の格納状態を検出するフック格納確認スイッチ17のON』に基づいて、『フック6の格納位置で』フック6の巻下動作と同時にブーム2の起立動作を『ブーム2の起立動作により』行わせる制御部」である点(以下、単に「相違点」という。)。

2-3.上記相違点についての判断
上記各相違点について検討する。

<相違点>について
引用刊行物記載の発明における「フック6の格納状態」は、巻過検出手段による巻過状態の検出後更に巻上げを継続したときの巻過の状態である。
また、引用刊行物記載の発明は「巻過状態であるフック6の格納状態からブーム2の起伏動作やブーム2の伸長動作を行うことができる」ようにすることを課題としており、本願補正発明と同様に、巻過状態でブームの起立操作又は伸長操作を行うものである。
しかも、本願補正発明においては、本件出願の明細書の段落【0011】には、【従来の技術】として「例えば、フックを格納してブームを水平にした走行状態からクレーン作業を開始するとき、積荷によってフックの巻下が妨げられるため、まずブームを起立させたい場合等、作業の内容によっては、巻過状態でブーム7を起立させたい場合がある。」とした上で「巻過状態でも、通常の状態と同様にブームの起立操作又は伸長操作を行うだけでブームを起立又は伸長させることができ、オペレータの操作を容易にするクレーンの走査装置を提供することを目的とする。」のように、巻過状態でブームを起立操作させる場合の巻過状態として、引用刊行物記載の発明のような、フックの格納状態が例示されている。

また、引用刊行物記載の発明における「フック6の巻下動作と同時にブーム2の起立動作をブーム2の起立動作により行わせる」は、例えば、上記タ)の「フック格納確認スイッチ17がONとなると・・・フック格納状態では、ブーム起油路24とバイパス油路36とは互いに連通しており、この状態でブームの起立動作を行うと、・・・ブーム起伏シリンダ11に流入すると共に、・・・ウインチ用油圧モータ12にも流入するため、ブーム2の起立動作とウインチ4の巻下動作が同時に行われる。」の記載からみて、オペレータによる別異の操作を敢えて意図するものとは認められない。
他方、本願補正発明における「『通常状態のときと同様に』行わせる」ことについて、本願補正発明において「『通常状態のときと同様に』行わせる」とする補正の根拠として、平成21年11月27日付けの審判請求書において「当該補正の根拠は、願書に最初に添付した明細書の段落[0024]の第1?2行目の「巻過状態でブーム7を起立させる必要がある場合には、通常状態のときと同じブーム起立操作をする。」等の記載に基づいている。」としているとし、そのほか、本件出願の明細書の段落【0001】には「フックの巻過状態でも通常の状態と同じ操作でブームの起立作動又は伸長作動を可能とする」と、段落【0013】には「巻過状態でも、通常の状態と同様にブームの起立操作又は伸長操作を行うだけでブームを起立又は伸長させることができ、オペレータの操作を容易にする」と、段落【0015】には「通常状態のときと同じブーム起立操作又はブーム伸長操作をするだけで安全にブームを起立又は伸長させることができ、オペレータの操作が容易になる」と、段落【0025】には「オペレータは通常状態のときと同じブーム起立操作をするだけでブーム7を起立させることができるので、操作が容易である。」と、段落【0027】には「巻過状態でも、通常の状態と同様にブームの起立操作又は伸長操作を行うだけで安全にブームを起立又は伸長させることができ、オペレータの操作が容易になる。」と記載され、いずれも「オペレータの操作」を通常状態と同様なブームの起立操作又は伸張操作とするときのことであるといえ、本願補正発明における「『通常状態のときと同様に』行わせる」は、オペレータは通常と同様な「ブームの起立動作を行う」ものといえる。

そうすると、引用刊行物記載の発明において、フックの巻下作動及びブームの起立作動を、巻過状態の検出自体に基づいて、すなわち、巻過状態を検出する巻過検出手段からの巻過信号に基づいて、その巻過状態を検出した離隔位置で行わせるとともに、フックの巻下作動及びブームの起立作動を、通常状態のときと同様に行わせることにより、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たものである。

そして、本願補正発明を全体として検討しても、引用刊行物記載の発明から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

なお、平成21年11月27日付けの審判請求書における本願補正発明の発明特定事項に基づくものではなく発明の詳細な説明に記載された事項でもない事項についての主張は、採用することができない。

2-4.まとめ
以上のように、本願補正発明は、引用刊行物記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.むすび
よって、結論のとおり決定する。

[3]本願発明について
1.本願発明
平成21年11月27日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明は、平成21年6月29日付けの手続補正書により補正された明細書及び願書に最初に添付した図面の記載からみて、平成21年6月29日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、前記[2]の〔理由〕1.a)に記載したとおりのものである。

2.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平6-144788号公報の記載事項及び引用刊行物記載の発明は、前記[2]の〔理由〕2.2-1.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願補正発明は、前記[2]の〔理由〕1.に記載したように、本願発明における発明特定事項を減縮したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記[2]の〔理由〕2.2-3.で検討したように、引用刊行物記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用刊行物記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-03 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-20 
出願番号 特願平11-274584
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66C)
P 1 8・ 575- Z (B66C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 杏子青木 良憲  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 河端 賢
中川 隆司
発明の名称 クレーンの操作装置  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 森 哲也  

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