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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1231923
審判番号 不服2009-23708  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-02 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 特願2004-154307「車輪用軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月8日出願公開、特開2005-337311〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成16年5月25日の出願であって、平成21年9月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成21年12月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年12月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材および前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備え、前記内方部材または外方部材のいずれか一方に車輪取付フランジが一体に設けられると共に、この車輪取付フランジにボルト挿通孔が穿設され、首部にセレーションが形成されたハブボルトがこのボルト挿通孔に圧入された車輪用軸受装置において、
前記ハブボルトの表面硬さが少なくとも35HRCに設定されると共に、前記ボルト挿通孔の内周面の表面硬さが前記ハブボルトの表面硬さよりも低く、かつ前記ハブボルトとボルト挿通孔の内周面との硬度差が12HRC以上に設定されていることを特徴とする車輪用軸受装置。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材および前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備え、前記内方部材または外方部材のいずれか一方に車輪取付フランジが一体に設けられると共に、この車輪取付フランジにボルト挿通孔が穿設され、首部にセレーションが形成されたハブボルトがこのボルト挿通孔に圧入された車輪用軸受装置において、
前記車輪取付フランジの円周に穿設された前記ボルト挿通孔の周辺を避けて該ボルト挿通孔間に、このボルト挿通孔のピッチ円直径より内径側まで切欠きが形成され、前記ハブボルトの表面硬さが少なくとも35HRCに設定されると共に、前記ボルト挿通孔の内周面の表面硬さが前記ハブボルトの表面硬さよりも低く、かつ前記ハブボルトとボルト挿通孔の内周面との硬度差が12HRC以上に設定され、当該ハブボルトの降伏締付トルクが122Nm以上確保されていることを特徴とする車輪用軸受装置。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明特定事項である「車輪取付フランジ」を「前記車輪取付フランジの円周に穿設された前記ボルト挿通孔の周辺を避けて該ボルト挿通孔間に、このボルト挿通孔のピッチ円直径より内径側まで切欠きが形成され」として、その構成を限定的に減縮するとともに、同じく「ハブボルト」を「当該ハブボルトの降伏締付トルクが122Nm以上確保されている」として、その構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「前記車輪取付フランジの円周に穿設されたボルト挿通孔の周辺を避けて該ボルト挿通孔間に、このボルト挿通孔のピッチ円直径より内径側まで切欠きが形成されている」(段落【0016】参照)、「前記車輪取付フランジに穿設されたボルト挿通孔の周辺を避けて該ボルト挿通孔間に、このボルト挿通孔のピッチ円直径より内径側まで切欠きが形成される」(段落【0020】参照)、及び「ハブボルト7のスリップトルクの基準値を、この種のボルトの降伏締付トルク122Nmと設定した場合、図2から解るように、ハブボルト7とボルト挿通孔6aの内周面との硬度差が12HRC以上であれば、所望の固定力を確保することができる。」(段落【0029】参照)と記載され、また、図2には、ハブボルトとボルト挿通孔の内周面との硬度差とハブボルトのスリップトルクとの関係を示すグラフが図示されている。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に該当するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開2003-341302号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「軸受装置」に関して、図面(特に、図1及び2の記載を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明は、軸受装置に関する。」(第2頁第1欄第24及び25行、段落【0001】参照)
(b)「図1から図4に本発明の一実施形態を示している。ここでは、自動車の駆動輪側に用いられる軸受装置を例に挙げる。図例の軸受装置1は、中空形状のハブ軸2と、複列外向きアンギュラ玉軸受3とを有している。
つまり、上記ハブ軸2の一方軸端寄りには、径方向外向きに延びるフランジ21が設けられており、このハブ軸2においてフランジ21よりも車両インナー側の領域に複列外向きアンギュラ玉軸受3が外装されている。
複列外向きアンギュラ玉軸受3は、二列の軌道溝を有する単一の外輪31と、ハブ軸2の小径外周面22に外嵌される一列の軌道を有する単一の内輪32と、二列で配設される複数の玉33と、二つの冠形保持器34,35とを備えており、前述のハブ軸2の大径外周面23を一方内輪とする構成になっている。外輪31の外周には、径方向外向きに延びるフランジ36が設けられている。
上記ハブ軸2のフランジ21の円周数ヶ所には、貫通孔24が設けられており、この貫通孔24に対しボルト10が軸方向ならびに周方向に引っ掛かりを持つ状態でかつ突出する状態で挿入されている。なお、上記ボルト10は、例えば円筒形の頭部11と、軸部12とを有している。軸部12において、頭部11寄りの領域の外周にはセレーション13が、また、先端寄りの領域の外周にはねじ溝14がそれぞれ設けられている。セレーション13の歯先円径は、ねじ溝14の歯先円径よりも大きく設定されている。
そして、上記複列外向きアンギュラ玉軸受3の外輪31のフランジ36が、車体の一部となるキャリア(またはナックル)7に対してボルト8で非回転に取り付けられ、上記ハブ軸2の内周にドライブシャフト4がスプライン嵌合されてナット5により一体的に結合される。また、ハブ軸2のフランジ21の外側面(図1における右側で、車両アウター側の面)と、ボルト10に対して螺合されるナット15とで、ディスクブレーキ装置のディスクロータ6および車輪のホイール9が挟持されて固定されている。なお、ディスクロータ6および車輪のホイール9には、ボルト10が挿入される孔6a,9aがボルト10に対応する位置にそれぞれ形成されている。(中略)
具体的に、上記ハブ軸2は、JIS規格S55Cなどを母材として鍛造加工により整形した後、ハブ軸2において複列外向きアンギュラ玉軸受3の取付面(22,23)やハブ軸2のフランジ21においてディスクロータ6が当接される外側面に対して、切削加工を施すことにより製作される。」(第2頁第2欄第28行?第3頁第3欄第27行、段落【0012】?【0018】参照)
(c)「試料として、ボルト10の頭部11の最大直径を18mm、軸部12のセレーション13の軸方向中心点から軸部12の先端までの軸長を32mm、ボルト10の軸部12の硬度をビッカース硬さ(Hv)で350?550、フランジ21の硬度をビッカース硬さ(Hv)で200?300にそれぞれ設定している。ボルト10の圧入時の加圧力は、約4〔t〕に設定している。ボルト10のセレーション13と貫通孔24のはめ合い中央値は、約0.27mmに設定している。」(第3頁第4欄第17?26行、段落【0024】参照)
(d)「ボルト10の軸部12の硬度は、ビッカース硬さ(Hv)で350?550、ハブ軸2のフランジ21の硬度は、ビッカース硬さ(Hv)で200?300に設定するのが好ましい。ボルト10の圧入時の加圧力は、4?5〔t〕に設定するのが好ましい。」(第4頁第5欄第44行?第6欄第1行、段落【0032】参照)
(e)「本発明は上記実施形態のみに限定されるものではなく、例えば図7に示すような従動輪用の軸受装置1とすることができる。要するに、本発明は、自動車の車輪を支持する軸受装置において、図1や図7で示したもの以外で、ハブ軸2のフランジ21にボルト10を取り付ける構造を有するもの全般に適用できる。また、本発明は、外輪に形成されたフランジにボルトを取り付ける構造を有するものにも適用できる。」(第4頁第6欄第2?9行、段落【0033】参照)
(f)図2の記載から、フランジ21の円周に穿設された貫通孔24の周辺を避けて貫通孔24間に、この貫通孔24のピッチ円直径より内径側まで切欠きが形成されている構成が看取できる。
刊行物1には、セレーション13が形成されたボルト10をフランジ21の貫通孔24に圧入する記載があり、ボルト10の軸部12の硬度をビッカース硬さ(Hv)で350?550、フランジ21の硬度をビッカース硬さ(Hv)で200?300に設定しているとの記載があることからみて(上記摘記事項(c)参照)、ボルト10の軸部12の硬度がビッカース硬さ(Hv)で550、フランジ21の硬度がビッカース硬さ(Hv)で200の時に、ボルト10と貫通孔24の内周面との硬度差が最も大きくなり、ビッカース硬さ(Hv)で350となること、また、ボルト10の軸部12の硬度がビッカース硬さ(Hv)で350、フランジ21の硬度がビッカース硬さ(Hv)で300の時に、ボルト10と貫通孔24の内周面との硬度差が最も小さくなり、ビッカース硬さ(Hv)で50となることは技術的に明らかである。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
内周に複列の外側転走面が形成された外輪31と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成されたハブ軸2及び内輪32と、このハブ軸2及び内輪32並びに前記外輪31のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の玉33とを備え、前記ハブ軸2及び内輪32にフランジ21が一体に設けられると共に、このフランジ21に貫通孔24が穿設され、軸部12の頭部11寄りの領域の外周にセレーション13が形成されたボルト10がこの貫通孔24に軸方向ならびに周方向に引っ掛かりを持つ状態で挿入された軸受装置1において、
前記フランジ21の円周に穿設された前記貫通孔24の周辺を避けて該貫通孔24間に、この貫通孔24のピッチ円直径より内径側まで切欠きが形成され、前記ボルト10の表面硬さが少なくともビッカース硬さ(Hv)で350に設定されると共に、前記貫通孔24の内周面の表面硬さが前記ボルト10の表面硬さよりも低く、かつ前記ボルト10と貫通孔24の内周面との硬度差がビッカース硬さ(Hv)で50以上に設定されている軸受装置1(車輪用軸受装置)。

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「外輪31」は本願補正発明の「外方部材」に相当し、以下同様に、「ハブ軸2及び内輪32」は「内方部材」に、「玉33」は「転動体」に、「フランジ21」は「車輪取付フランジ」に、「貫通孔24」は「ボルト挿通孔」に、「軸部12の頭部11寄りの領域の外周」は「首部」に、「セレーション13」は「セレーション」に、「ボルト10」は「ハブボルト」に、「軸方向ならびに周方向に引っ掛かりを持つ状態で挿入」は「圧入」に、「軸受装置1」は「車輪用軸受装置」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「ビッカース硬さ(Hv)で350」は、「第1の所定値」である限りにおいて、本願補正発明の「35HRC」に対応し、引用発明の「ビッカース硬さ(Hv)で50」は、「第2の所定値」である限りにおいて、本願補正発明の「12HRC」に対応するので、両者は、下記の一致点、及び相違点1?3を有する。
<一致点>
内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材および前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備え、前記内方部材または外方部材のいずれか一方に車輪取付フランジが一体に設けられると共に、この車輪取付フランジにボルト挿通孔が穿設され、首部にセレーションが形成されたハブボルトがこのボルト挿通孔に圧入された車輪用軸受装置において、
前記車輪取付フランジの円周に穿設された前記ボルト挿通孔の周辺を避けて該ボルト挿通孔間に、このボルト挿通孔のピッチ円直径より内径側まで切欠きが形成され、前記ハブボルトの表面硬さが少なくとも第1の所定値に設定されると共に、前記ボルト挿通孔の内周面の表面硬さが前記ハブボルトの表面硬さよりも低く、かつ前記ハブボルトとボルト挿通孔の内周面との硬度差が第2の所定値以上に設定されている車輪用軸受装置。
(相違点1)
前記第1の所定値に関し、本願補正発明は、「前記ハブボルトの表面硬さが少なくとも35HRCに設定される」のに対し、引用発明は、ボルト10の表面硬さが少なくともビッカース硬さ(Hv)で350に設定されている点。
(相違点2)
前記第2の所定値に関し、本願補正発明は、「前記ハブボルトとボルト挿通孔の内周面との硬度差が12HRC以上に設定され」ているのに対し、引用発明は、ボルト10と貫通孔24の内周面との硬度差がビッカース硬さ(Hv)で50以上に設定されている点。
(相違点3)
本願補正発明は、「当該ハブボルトの降伏締付トルクが122Nm以上確保されている」のに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。
以下、上記相違点1?3について検討する。
(相違点1について)
刊行物1には、セレーション13が形成されたボルト10をフランジ21の貫通孔24に圧入する記載があり、上記摘記事項(c)の記載から、ボルト10の軸部12の硬度をビッカース硬さ(Hv)で350?550(HRC35.5?52.3)、フランジ21の硬度をビッカース硬さ(Hv)で200?300(HRC11.0?29.8)に設定しているとの記載がある。 刊行物1の上記記載からみて、引用発明のボルト10の表面硬さは、HRC35.5?52.3の範囲内の値を取り得ることが記載又は示唆されているのであるから、本願補正発明のように、「少なくとも35HRC」(上限値については特定されていない)とすることは、ボルト10の機械的強度を確保すべく、当業者が適宜設計変更をする範囲内の事項にすぎない。
してみれば、引用発明において、ボルト10の表面硬さを少なくとも35HRCに設定することにより、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
刊行物1の上記記載からみて、引用発明のボルト10と貫通孔24の内周面との硬度差は、HRC5.7?41.3の範囲内の値を取り得ることが記載又は示唆されているのであるから、引用発明のボルト10と貫通孔24の内周面との硬度差を、本願補正発明のように、「12HRC以上」(上限値については特定されていない)に設定することは、ボルト10に形成されたセレーション13が貫通孔24に食い込むように、硬度差を持たせて、強固な結合力が得られるように、当業者が適宜設計変更をする範囲内の事項にすぎない。
また、本願の明細書にも従来技術として記載されているように、ハブボルトのセレーションがボルト挿通孔の内周面に確実に食い込むように硬度差を持たせる構造とし、組立作業性を阻害することなく、また、ハブボルトの固定力を高め、ブレーキジャダーに起因するNVHを防止し、軽量で信頼性の高い車輪用軸受装置を得るという技術的課題は、従来周知の技術的課題(例えば、本願の明細書に従来技術として記載された特開2001-191715号公報には、「車両の低速走行時にブレーキを作動させると、ブレーキ部において車輪回転方向の振動が発生し低周波の不快な騒音を生じることがある。この現象はブレーキジャダー(brake judder)と呼ばれ、ブレーキジャダーの発生に伴い約100Hz前後の騒音に加えてグローン(groan)騒音なども発生する場合がある。
ブレーキジャダーの原因は複雑であって、その原因究明のために一般に実車によるテスト走行が行われるが、一つの大きな要因として、ホイールハブないしブレーキロータの固定力不足が指摘されている。ホイールハブないしブレーキロータは複数本のハブボルトによって車輪軸受装置の車輪取付けフランジ部に固定されているが、この固定力が弱いと低速走行時の比較的弱いブレーキ操作によってブレーキ装置にビビリ振動が発生し、この振動が原因でブレーキジャダーが発生するものと考えられる。」[第2頁第1欄第34?49行、段落【0002】及び【0003】参照]と記載されている。また、特開2002-187403号公報には、「近年の低コスト、軽量化、さらには剛性アップといった一方では相反する要求をも満足しつつ、軸受は余肉を排除して車輪取付フランジも薄肉化されている。従って、このブレーキロータ側面の振れをゼロにすることが困難で、それぞれの部位の精度を高めることで対策を講じてきた。車輪およびブレーキロータは複数本のハブボルトによって車輪取付フランジに締着されるが、この固定力が弱いとびびり振動が発生し、この振動が起因してブレーキジャダーが発生するということも解明されてきた。」[第2頁第2欄第13?22行、段落【0004】参照]と記載されている。)にすぎない。
してみれば、引用発明において、従来周知の技術的課題に鑑みて、ボルト10と貫通孔24の内周面との硬度差を12HRC以上に設定することにより、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点3について)
通常使用されるボルト(JISの並目ねじにおけるねじの呼びDがM12、強度区分10.9)の降伏締付トルクは122Nmであり、ハブボルトのスリップトルクの基準値を122Nmとすることは、当業者が普通に採用する従来周知の技術手段にすぎない。ちなみに、本願の明細書には、「ハブボルト7のスリップトルクの基準値を、この種のボルトの降伏締付トルク122Nmと設定した場合」(本願明細書の段落【0029】参照)と記載されている。
してみれば、引用発明のボルト10に、従来周知の技術手段を適用して、ボルト10の降伏締付トルク(スリップトルク)を122Nm以上確保することにより、ナット15を締付けた際にも貫通孔24に対してボルト10が回転し、ナット15とボルト10が供回りすることがないようにし、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、当審における審尋に対する平成22年7月2日付けの回答書(以下、「回答書」という。)において、「本願発明では、このような肉厚の薄いフランジを有する車輪用軸受装置におけるハブボルトとボルト挿通孔の内周面の硬度差に着目し、ボルト挿通孔の内周面の表面硬さをハブボルトの表面硬さよりも12HRC以上軟らかくすることで、ボルトに形成されたセレーションがボルト挿通孔に食い込み、強固な結合力が得られると共に、ナットを締付けた際にもボルト挿通孔に対してハブボルトが回転し、ナットとハブボルトが供回りすることがないよう、ハブボルトのスリップトルクを122Nm以上とした。
ボルト挿通孔の内周面の表面硬さが高い場合、ハブボルトのセレーションがこのボルト挿通孔の入り口によって削り取られてしまい、所望のスリップトルクを得ることができない。なお、ハブボルトの表面硬さは少なくとも35HRC以上として機械的強度が確保されている。本願発明では、ハブボルトのセレーションがボルト挿通孔の内周面に確実に食い込むように硬度差を持たせる構造とし、組立作業性を阻害することなく、また、ハブボルトの固定力を高め、ブレーキジャダーに起因するNVHを防止し、軽量で信頼性の高い車輪用軸受装置としている。」(「2.本願発明の内容」の項参照)と本願補正発明が奏する作用効果について主張している。
しかしながら、本願補正発明は、上記(相違点1について)?(相違点3について)において述べたように、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成21年5月13日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材および前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備え、前記内方部材または外方部材のいずれか一方に車輪取付フランジが一体に設けられると共に、この車輪取付フランジにボルト挿通孔が穿設され、首部にセレーションが形成されたハブボルトがこのボルト挿通孔に圧入された車輪用軸受装置において、
前記ハブボルトの表面硬さが少なくとも35HRCに設定されると共に、前記ボルト挿通孔の内周面の表面硬さが前記ハブボルトの表面硬さよりも低く、かつ前記ハブボルトとボルト挿通孔の内周面との硬度差が12HRC以上に設定されていることを特徴とする車輪用軸受装置。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「車輪取付フランジ」について「前記車輪取付フランジの円周に穿設された前記ボルト挿通孔の周辺を避けて該ボルト挿通孔間に、このボルト挿通孔のピッチ円直径より内径側まで切欠きが形成され」を削除することにより拡張するとともに、同じく「ハブボルト」について「当該ハブボルトの降伏締付トルクが122Nm以上確保され」を削除することにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?6に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-15 
結審通知日 2010-09-16 
審決日 2010-12-24 
出願番号 特願2004-154307(P2004-154307)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西尾 元宏津田 真吾  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
藤村 聖子
発明の名称 車輪用軸受装置  
代理人 越川 隆夫  
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