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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1231925
審判番号 不服2009-24347  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-09 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 特願2006- 57856「携帯型無線電話装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月15日出願公開、特開2006-157965〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、平成5年4月30日に出願した特願平5-104151号の一部を平成7年11月28日に新たな特許出願とした特願平7-309278号の一部を平成15年7月31日に新たな特許出願とした特願2003-284283号の一部を平成15年12月9日に新たな特許出願とした特願2003-410787号の一部を平成17年10月14日に新たな特許出願とした特願2005-300317号の一部を平成18年3月3日に新たな特許出願としたものであって、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年12月9日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

(本願発明)
「アンテナによって、複数の国の公衆通信回線に無線によって接続され、該複数の国の公衆通信回線を経由して発信、または受信を行う無線通信手段と、
上記複数の国の公衆通信回線への接続仕様を記憶する接続仕様記憶手段と、
上記無線通信手段に対する制御指令の出力、上記無線通信手段を経由して上記複数の国の公衆通信回線から送られてくるデータの入力、または上記無線通信手段を経由して上記複数の国の公衆通信回線へのデータの送出を制御する通信制御手段と、
上記接続仕様記憶手段の記憶内容に基づいて、上記無線通信手段、又は上記通信制御手段に、上記無線通信手段が上記複数の国の公衆通信回線に接続するための接続仕様に関する信号を出力する接続仕様信号出力手段と、
上記複数の国の公衆通信回線から送られてくるデータで示される音声を出力するイヤー通話器と、
上記複数の国の公衆通信回線から送られてくるデータと上記複数の国の公衆通信回線へ送出するためのデータとの少なくとも何れかを記憶するメモリと、
上記アンテナと、上記無線通信手段と、上記接続仕様記憶手段と、上記通信制御手段と、上記接続仕様信号出力手段と、上記イヤー通話器と、上記メモリとを収容する第1の筐体と、
情報を表示するディスプレイを収容する第2の筐体と、
上記ディスプレイに、上記無線通信手段が、データ受信中であれば「データ受信中」の画像を表示させ、データ送信中であれば「データ送信中」の画像を表示させ、データ受信待機中であれば「受信待機中」の画像を表示させる表示制御手段と、
現在位置している無線電話サービス網の属する国名を調査して、その調査した国名を上記ディスプレイに表示させる手段とを備えていることを特徴とする携帯型無線電話装置。」

2.引用発明および周知技術
(1)原審の拒絶理由に引用された特開平4-255122号公報(以下、「引用例」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
イ.「【請求項1】 無線通信サービスサポートエリア区分の送受信仕様に合った通信仕様で電話通話を行う自動車電話端末と、自車位置を検出する自車位置検出装置と、無線通信サービスサポートエリア区分地図データを記憶し、前記自車位置検出装置によって検出された自車位置データを入力して、その位置で自動車電話が可能な無線通信サービスサポートエリア区分を検出する車載ロケーション装置と、前記自動車電話端末の通信仕様を、検出された無線通信サービスサポートエリア区分の送受信仕様に合うように自動的に設定変更させる制御手段とからなることを特徴とする自動車電話装置。」(2頁1欄、請求項1)
ロ.「【0002】
【従来の技術】従来のこの種の自動車電話装置は、図6に示すような構成になっていた。すなわち、自動車電話を備えた車両は、自動車電話の通信サービスを行っている例えばA社の通信サービスエリアA内に位置しているときは、その自動車電話端末3の無線機はA社の送受信仕様に合った通信仕様に設定されている。そして、車両が移動してA社の通信サービスエリアAから、B社の通信サービスエリアBへ進入したときは、自動車電話端末3の通信仕様をB社の送受信仕様に合うように設定変更する必要がある。この設定変更操作がいわゆるローミングであり、従来は、自動車電話端末受話器4を使用して設定表示や、電波状態表示内容を確認しながら、プッシュボタンを押すことにより操作していた。」(2頁1欄、段落2)
ハ.「【0010】さらに、この実施例の自動車電話装置20は通信サービスエリア区分毎の通信仕様を記憶し、自動ローミングを行うマイクロコンピュータからなる制御装置2、自動車電話端末3とを備え、自動車電話端末3は自動車電話無線機3aおよび自動車電話用アンテナ3bを介して自車位置で受発信できるよう構成されている。
【0011】そして、自車両が現在位置で例えばA社の無線通信サービスエリア区分から、他社(例えばB社)の無線通信サービスエリア区分内へ進入したときは、前記車載ロケーション装置1に表示された地図データおよび自車位置と前記通信サービスエリア区分地図記憶装置1dに記憶された無線通信サービスエリア区分地図データとを重ね合せて比較し、自車位置において自動車電話通信が可能な無線通信サービスエリア区分を検出し、制御装置2を介し、自動車電話端末3の通信仕様を検出された無線通信サービスエリア区分の送受信仕様に合った通信仕様に自動的に設定変更する。」(2頁2欄?3頁3欄、段落10?11)
ニ.「【0022】通信サービスエリアが重なっている場合、サービス料金の安価な通信サービスエリア区分を選択して、自動車電話端末の通信仕様の設定変更(ローミング)を自動的に行い、自動車電話の通話料を節約することができる。」(3頁4欄、段落22)

上記引用例の記載及び添付図面ならびにこの分野の技術常識を勘案すると、上記「通信サービス」は自動車電話のための通信サービスであるから、自動車電話網としての無線通信回線と当該無線通信回線に接続される一般の公衆通信回線を介して発呼先端末との間で音声の送受信を行うサービスである。また上記「自動車電話装置」は「通信サービスエリア区分毎の通信仕様を記憶」し、「自動車電話端末の通信仕様を、検出された無線通信サービスサポートエリア区分の送受信仕様に合うように自動的に設定変更させる制御手段」を備えているのであるから、当該「自動車電話装置」が接続可能な公衆通信回線は「複数」であり、また「アンテナ」及び「受話器」を備えている。したがって、上記「自動車電話装置」は「アンテナによって、複数の公衆通信回線に無線によって接続され、該複数の公衆通信回線を経由して発信、または受信を行う無線通信手段」及び「上記無線通信手段に対する制御指令の出力、上記無線通信手段を経由して上記複数の公衆通信回線から送られてくる音声の入力、または上記無線通信手段を経由して上記複数の公衆通信回線への音声の送出を制御する通信制御手段」を備えており、また「上記複数の公衆通信回線への接続仕様を記憶する接続仕様記憶手段」及び「上記接続仕様記憶手段の記憶内容に基づいて、上記無線通信手段、又は上記通信制御手段に、上記無線通信手段が上記複数の公衆通信回線に接続するための接続仕様に関する信号を出力する接続仕様信号出力手段」を当然に備えるものである。
したがって、上記引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「アンテナによって、複数の公衆通信回線に無線によって接続され、該複数の公衆通信回線を経由して発信、または受信を行う無線通信手段と、
上記複数の公衆通信回線への接続仕様を記憶する接続仕様記憶手段と、
上記無線通信手段に対する制御指令の出力、上記無線通信手段を経由して上記複数の公衆通信回線から送られてくる音声の入力、または上記無線通信手段を経由して上記複数の公衆通信回線への音声の送出を制御する通信制御手段と、
上記接続仕様記憶手段の記憶内容に基づいて、上記無線通信手段、又は上記通信制御手段に、上記無線通信手段が上記複数の公衆通信回線に接続するための接続仕様に関する信号を出力する接続仕様信号出力手段と、
音声を出力する受話器と、
とを備えている自動車電話装置。」

(2)原審の拒絶査定に引用された国際公開WO92/22174号公報(平成4年12月10日公開、以下、「引用例2」という。以下の邦訳は対応する特表平6-500683号公報による)には図面とともに以下の事項が記載されている。
イ.「In the following, the method according to the invention will be explained in conjunction with the digital GSM mobile telephone system, which, in fact, is the primary field of application of the invention.
However, the method according to the invention may also be applied in other similar mobile telephone systems or modifications of the GSM system. The basic configuration and operation of the GSM mobile telephone system are well known to those skilled in the art and are relatively precisely determined in the GSM system specifications.
Hereinbelow some of the basic concepts and elements of the GSM system, significant for the description of the invention, will be defined with reference to FIG. 1. An area within which GSM mobile telephone services are available is called a GSM network (GSM service area) and may cover several countries. The GSM network may be divided into national GSM networks (PLMN service area), which means the area of one operator providing GSM services. There may also be several GSM networks in one country, and their coverage areas may overlap geographically. In the following exposition, the mobile telephone system refers mainly to such a "national" mobile telephone network which may communicate with other national mobile telephone networks or other telecommunication systems, such as a public switched telephone network.
The national GSM network may comprise one or more MSC service areas, which means an area in which a single mobile services switching centre (MSC) provides services. The MSC service area may further be divided into one or more location areas, a location area being an area covered by several radio cells. A cell refers to the smallest geographic area of the system, comprising one or more fixed radio stations or base stations and utilizing predetermined traffic channels.」(5頁25行目?6頁24行目)

(邦訳)
「以下の説明において、本発明による方法は、実際上本発明の主たる応用分野であるデジタルGSM移動電話システムに関連して説明する。しかしながら、本発明による方法は、他の同様の移動電話システム又はGSMシステムの変形態様にも適用することができる。GSM移動電話システムの基本的な構成及び動作は、当業者に良く知られており、GSMシステムの仕様に比較的正確に決定されている。以下、図1を参照し、本発明の説明に重要なGSMシステムのある基本的な概念とエレメントについて定義する。GSM移動電話サービスを利用できるエリアをGSMネットワーク(GSMサービスエリア)と称し、これは多数の国々をカバーすることができる。GSMネットワークは、国家GSMネットワーク(PLMNサービスエリア)に分割することができ、これは1人のオペレータがGSMサービスを提供するエリアを意味する。又、1つの国に多数のGSMネットワークがあってもよく、それらのカバーエリアが地理的に重畳してもよい。以下の説明において、移動電話システムは、主としてこのような「国家」移動電話システムを指すものとし、これは、他国の移動電話ネットワークと通信することもできるし、或いは公衆交換電話ネットワークのような他の通信システムと通信することもできる。
国家GSMネットワークは、1つ以上のMSCサービスエリアを備えることができ、これは1つの移動サービススイッチングセンター(MSC)がサービスを提供するエリアを意味する。MSCサービスエリアは更に1つ以上の位置エリアに分割され、これは多数の無線セルによってカバーされるエリアである。セルとは、システムの最小の地理的エリアを指すもので、これは1つ以上の固定の無線ステーション即ちベースステーションを備え、所定のトラフィックチャンネルを使用するものである。」(3頁左下欄19行?右下欄12行)

例えば上記引用例2に記載されているように「GSM移動電話システムの基本的な構成及び動作は、当業者に良く知られて」おり、「GSM移動電話サービス」で利用できるエリアは「GSMネットワーク(GSMサービスエリア)と称し、これは多数の国々をカバーする」ものであり、「移動電話システムは、主としてこのような「国家」移動電話システムを指すものとし、これは、他国の移動電話ネットワークと通信することもできるし、或いは公衆交換電話ネットワークのような他の通信システムと通信することもできる」ものである。

(3)同じく原審の拒絶理由に引用された特開平4-242353号公報(以下、「引用例3」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
イ.「【0004】
【課題を解決するための手段】この発明は、複数の無線インターフェイスを有し、無線インターフェイスと関連して、共通のマンマシンインターフェイスのハードウエアおよび制御部を設けた無線通信端末である。また、この発明は、複数の無線インターフェイスを有する無線通信端末において、無線インターフェイスを指定することなく、予め設定した順に発信処理を行い、通信チャンネルが獲得できない時には、自動的に次に設定された無線インターフェイスへ発信処理を行うようにした無線通信端末である。
【0005】
【作用】一つの端末が複数の無線インターフェイスを持っているので、携帯する必要がある端末が一台で良い。
また、複数の無線インターフェイスの中で優先順位を設定しておくことで、操作時に無線インターフェイスの違いを意識する必要がなく、空きチャンネルを獲得できない時でも、再発信の操作が不要とできる。
【0006】
【実施例】以下、この発明の一実施例について、図面を参照して説明する。図1は、この発明が適用された携帯通信端末例えばコードレス電話と携帯電話とに兼用の子機の例である。コードレス電話の一つの例は、小電力型の家庭内コードレス電話であるが、ここでは、屋外で使用できるものが好ましい。その一例は、既に英国で実用化されているようなテレポイント(CT-2)のように、屋外で使用される発信専用の簡易携帯電話である。
その他の例は、準マイクロ波を使用した次世代のコードレス電話である。一方、携帯電話は、移動中であっても、発信のみならず、一般加入者からの着信が可能なものである。ここでは、2種類の無線通信端末を容易に区別できるように、コードレス電話と携帯電話との呼び方を使用するが、二つ以上の無線通信システムに兼用されることが重要である。」(2頁1?2欄、段落4?6)
ロ.「【0027】以上の実施例は、通信端末として、コードレス電話或いは携帯電話の例であるが、この発明は、電話に限らず、無線ファクシミリ装置、データ端末等の無線通信端末に対しても適用できる。また、無線インターフェイスの個数は、2個に限らず、3個以上であっても良い。更に、無線インターフェイスのハードウエアの一部、例えばアンテナを複数の無線インターフェイスで共用しても良い。」(5頁7欄、段落27)

上記引用例3に記載されたコードレス電話と携帯電話の兼用技術はコードレス電話と携帯電話間の自動ローミング技術に他ならない。
したがって、上記引用例3には「コードレス電話と携帯電話のような無線通信端末でも自動ローミング技術が採用されること」、「これらの端末は自動ローミング手段を含んで1台で構成されること」、「自動ローミング技術は電話に限らず、無線ファクシミリ装置、データ端末等の無線通信端末に対しても適用できること」が開示されている。

(4)例えば特開平5-30230号公報(以下、「周知例1」という。)又は特開平4-340681号公報(以下、「周知例2」という。)又は例えば特開平3-181252号公報(以下、「周知例3」という。)又は特開平3-114344号公報(以下、「周知例4」という。)又は特開平4-245837号公報(以下、「周知例5」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
(周知例1)
イ.「電波により送受信を行い回線網を介して通信を行う通信機能部と、該通信機能部に接続され、ボタン部、マイク部、スピーカー部を有し携帯電話として動作する電話機能部と、前記通信機能部に接続され、キー入力部、表示部、記憶部、データ制御部を有する電子手帳機能部とを併せ備えた集合端末装置。」(2頁1欄、【特許請求の範囲】)
ロ.「【0010】
【作用】本発明によれば、通信機能部、電話機能部、電子手帳機能部とを併せ備えることで、無線通信により音声あるいはデータの送受信ができ、また同時に電子手帳の機能を利用でき、ネットワーク・ツールとして使用できる携帯に便利な端末が実現される。」(2頁2欄、段落10)
ハ.「【0013】上記通信機機能部12は、アンテナ12aを介して無線電波の送受信を行う送受信部12bと、この送受信部12bと電話機能部13及び電子手帳機能部14との間にあって、音声及びデータに応じた制御を行う制御部12cとから構成される。そして、この通信機機能部12は、センタ-計算機(ホスト)のリモート端末としての機能を有し、後述の各種電子手帳機能を伴って、無線電子メール、無線掲示板機能、メッセージ交換機能が使用でき、また、、センタ-計算機の一部機能としてリモート使用ができる。」(2頁2欄、段落13)
ニ.「電子手帳機能を用いたワープロの文章もメッセージとして送ることが可能になる。また、データの送受信は、テキストファイルだけでなく、バイナリデータも転送すれば、地図情報や手書きデータ等のイメージデータの転送が可能になる。」(3頁4欄、28?32行目)
ホ.周知例1の図2、図3には「アンテナ12a」が記載されており、図3には「アンテナによって、公衆回線網に無線によって接続され、該公衆回線網を経由して音声あるいはデータの発信、または受信を行う無線通信手段を備えた集合端末装置」が記載されている。

(周知例2)
イ.「【0027】次に、携帯部Bは図3に示すように構成される。すなわち、携帯部インタフェイス(I/F)31は、携帯部B側の本体部Aとのインタフェイスで、たとえば、赤外線あるいは無線などによるワイヤレスインタフェイスである。制御部32(図1の制御部8に相当)は、携帯部Bのみで使用する際、あるいは、本体部Aと携帯部Bとを連結して使用する際に、携帯部Bの各部の動作をそれぞれ制御するもので、たとえば、マイクロプロセッサを主体として構成される。
【0028】位置入力部33(図1の位置入力部7に相当)は、携帯部Bを使用して、指定された位置座標情報を入力するもので、たとえば、透明タブレットなどによって構成され、ペン34(図1のペン6に相当)を使用して手書きでタブレットの上で図形および文字の入力を行なうことが可能であり、後述するディスプレイ部40上に載置される。なお、マウスの代わりにペン34をタブレット上に触れることにより、位置座標情報を入力することもできる(以下、ポインティングと称する)。
【0029】オンライン文字認識部35(図1のオンライン文字認識部4に相当)は、携帯部Bを使用して文字入力するためのものである。イメージ入力部36は、静止画などの各種イメージ情報を入力するもので、たとえば、イメージスキャナや電子カメラなどにより構成される。音声入力部37は、音声情報を入力するもので、たとえば、マイクロフォンなどにより構成される。バスコントローラ38は、バス39を介して行なわれる各部間の情報転送を制御する。バス39は、携帯部Bの各部の間での必要な情報転送を行なうために用いられる。
【0030】ディスプレイ部40(図1の表示部5に相当)は、文字,図形,画像などを表示するもので、たとえば液晶ディスプレイなどからなり、その表示画面上に位置入力部33が載置される。通信部41は、携帯部Bと電話回線、あるいは、ファクシミリ回線などの通信回線を介して他の電話機、ファクシミリ装置、あるいは、個人複合化OA機器や端末装置などとの情報通信を行なう。
【0031】音声出力部42は、音声情報を出力するもので、たとえば、スピーカなどからなる。メモリカード部43は、メモリカードが装着され、メモリカードとの間で必要な情報を入出力する。メモリ部44は、各種処理、データ蓄積のためのメモリである。テキストデータ処理部45は、テキストデータの各種編集処理などを行なう。
【0032】本実施例に係る個人複合化OA機器は、基本的には上述した各部を備えた本体部Aと携帯部Bとで構成され、上述した各部がそれぞれ持つ機能を有効に利用して、全体的にインテリジェントな機能を呈するものとなっている。また、この個人複合化OA機器のイメージ入力部、位置入力部、音声入力部、ディスプレイ部、音声出力部などの各入出力部については、必ずしも本体部Aおよび携帯部Bそれぞれに持つ必要はなく、本体部Aのみ、あるいは、携帯部Bのみに装備し、それぞれのバスおよび本体部インタフェイス、携帯部インタフェイスを介して、必要なセクションに情報を伝送して使用するようにしても何等かまわない。さらに、幾つかの特徴的な構成要素について詳細に述べる。」(4頁5?6欄、段落27?32)
ロ.「【0059】まず、音声情報記録機能について説明する。音声入力部23や通信部30による電話機能から得られる音声を音声圧縮/伸長部57で圧縮処理し、音声バス16cを介してデータベース部21に音声情報として記録することができる。」(7頁11欄、段落59)
ハ.「【0068】電話機能の制御も、当然のことながら制御部14において行なわれる。制御部14では、時分割制御や電話機能専用の制御部を持つことにより、たとえば、ワープロなど別の機能を使用しているときでも、電話機能を使用することができるようになっている。電話機能の操作メニューは、「電話」メニューをタッチするか、または、送受話器71が取られた状態をフックスイッチで検知することにより、ディスプレイ部27の表示画面上にマルチウィンドウ表示で、たとえば、図15に示すように表示される。操作メニューをタッチすることにより、主な操作は実行される。」(7頁12欄、段落68)
ニ.「【0071】(・・・中略・・・)なお、留守録機能や伝言板機能などは、音声合成部56による応答メッセージの読上げや、先に説明した音声情報記録機能により実現される。」(8頁13欄、段落71)
ホ.「【0073】次に、ファクシミリ機能について説明する。ファクシミリ機能は、イメージ入力部13、イメージ出力部29、イメージ圧縮/伸長部53、メディア変換部22、および通信部30を用いて実現される。ファクシミリ機能の制御も、当然のことながら制御部14において行なわれる。制御部14では、時分割制御やファクシミリ機能専用の制御部を持つことにより、たとえば、ワープロなど別の機能を使用しているときでも、ファクシミリ機能を使用することができるようになっている。ファクシミリ機能の操作メニューは、「FAX]メニューをタッチすることにより、ディスプレイ部27の表示画面上にマルチウィンドウ表示で、たとえば、図16に示すように表示される。操作メニューをタッチすることにより、主な操作は実行される。
【0074】ファクシミリ機能の受信動作は以下のようになされる。通信部30がファクシミリの受信を検知すると、制御部14は受信したファクシミリ情報をとりあえずデータベース部21のイメージ領域に蓄える。ファクシミリ情報ヘッダには、図17に示すように受信日時などの情報が格納される。同時に、制御部14は、ディスプレイ部27の表示画面上の特定領域に、現在行なっている操作の妨げにならないように、たとえば、「ファックス受信中」の表示を行なう。以上の受信動作は、制御部14の制御により自動的に行なわれる。」(8頁13?14欄、段落73?74)

(周知例3)
イ.「(1)それぞれ薄型の直方体形状に形成され、ヒンジ部を軸に左右に開閉可能な左側ユニットと右側ユニットとを有し、
前記左側ユニットの対角線上の角部にそれぞれレシーバとマイクロホンが配置され、前記レシーバに対向する右側ユニットの角部が切り欠かれるとともに、前記マイクロホンに対向する右側ユニットの角部に音孔が設けられた携帯電話機。」(1頁左下欄、特許請求の範囲第1項)
ロ.「拡張ユニット20は、ダイヤルメモリ機能を有するユニットや、留守番機能等の他の機能を有するユニットが予め準備され、ユーザの所望の機能を有するユニットが選択されて本体ユニット10に取り付けられる。」(2頁左下欄18行目?右下欄2行目)
ハ.「また、本体ユニット10と拡張ユニット20を開けるとともに、レシーバ13を本体ユニット10から引き出して耳に係止し、マイクロホン15を口に対向させることにより通話を行うことができる。」(3頁右下欄8?12行目)

(周知例4)
イ.「側音回路10はデジタル携帯電話機に用いられるもので、一般の電話機の防側音回路と違い、送話器1と受話器2の間に接続される簡単な抵抗回路から構成される。」(2頁左上欄9?12行目)
ロ.「第1図に示すように、電話機は蝶番11で折り畳みができる構造のケース12に納められ、携帯時はケース12をコンパクトに折り畳み、通話時には開いて使用する。」(2頁左下欄11?14行目)
ハ.「また受話スピーカ16の代わりに、可変抵抗器9の出力側に接続した(第2図)イヤホン17を用いてハンズフリー通話を行なうこともできる。」(2頁右下欄2?5行目)

(周知例5)
イ.「【0014】図4は実施例における他の信号処理部の構成を示している。この信号処理部はデジタル電話機用である。この例はデジタル無線公衆回線を利用するものであり、ホイップアンテナ70に送受信に共用するための図示しないデュープレクサが接続され、これを介して、所定周波数における受信信号、例えば、増幅、周波数変換等の処理を行う受信部72と、周波数変換および電力増幅等を行う送信部74が接続されている。この受信部72、および送信部74には変調、復調処理を行う周知のモデム76が接続されており、さらに、デジタル無線公衆回線におけるホーマットのBチャネル、Dチャネルのデコードおよびエンコードの処理を行うBチャネル処理部78とDチャネル処理部79が接続されている。またBチャネル処理部78にはスピーカ12とマイクロホン13が接続されている。またDチャネル処理部79は、この装置の制御を行うCPU61に接続されている。
CPU61にはスピーカ75が接続されており、このスピーカ75で着信時の呼び出し等が行われる。他の構成は前記の図3に示す構成と同様であり、さらに、この部分の動作も、また同様である。
【0015】図5は本発明の電話機用入力装置の他の外観構成を示している。この例は図1に示す電話機に対して、特に小型化した携帯電話機の例である。この携帯電話機は外装体70にホイップアンテナ71が設けられている。さらにLCD72、マイクロホン74が設けられるとともに、スピーカの代わりにイヤホーン76が接続されている。また電話番号、オフフック、オンフックを入力するための入力部78が外装体80の横側に設けられている。入力部78は図2を用いて説明した構成と同様である。また内部の信号処理部等は図4をもって説明したデジタル電話機の場合と同様である。このように入力部78を配置した構成においては、より小型化、軽量化されるものとなり、携帯電話機としての利便性が向上する。」(4頁5?6欄、段落14?15)

例えば上記周知例1、2に記載されているように「携帯電話機能にワープロやファクシミリ等のデータ通信機能を付加し、公衆回線回線を経由して音声あるいはデータの発信、または受信を行う携帯型電話装置」は周知であり、また例えば上記周知例2、3に開示されているように「携帯電話機に留守番機能を付加する」ことも周知である。
また例えば上記周知例3?5に開示されているように「携帯電話機の受話器としてイヤホンを用いる」ことや上記周知例4、5に開示されているように「携帯電話機がデジタル無線公衆回線に接続される(即ち、音声がデジタルデータとして送受信される)」ことも周知である。
また例えば上記周知例1、3、4に開示されているように「表示器付き携帯電話機を折り畳み型に構成する」ことも周知である。

(5)例えば特開平4-245763号公報(以下、「周知例6」という。)又は例えば特開平3-127546号公報(以下、「周知例7」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
(周知例6)
イ.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、複数の機能を同時に実行することが可能であり、実行中の機能に関する動作状態をファクシミリ装置の表示部に表示するファクシミリ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のファクシミリ装置として、送受信、コピー、電話等の複数の機能を有し、それら複数の機能を同時に実行可能なファクシミリ装置が知られている。たとえば、2つの回線と接続され、1つの回線を介して画像原稿を送信中に、もう1つの回線を介して画情報を受信することが可能な装置が存在する。また、この従来のファクシミリ装置が、画像原稿を送信中であれば、「送信中です」というメッセージが上記装置のLCDに表示され、画像原稿を送信中であることをオペレータが認識できる。そして、このとき、画情報を受信したならば、上記LCDに表示されていた「送信中です」というメッセージが消えて、「受信中です」というメッセージが上記LCDに表示され、画情報を受信中であることをオペレータが確認できる。」(2頁1欄、段落1?2)
ロ.「【0025】そして、送信が終了したことをCPU60が判断し(S40)、回線1を介しての送信が終了したことをパネル制御部40が判断し(S52)、バッファ51aの格納内容「送信中です」と、バッファ51との格納内容が等しいことをパネル制御部30が判断したら(S53)、パネル制御部40が、バッファ51aの格納内容「送信中です」を消去するとともに、カウンタ52の値を1から0にし(S54)、バッファ51bの格納内容をバッファ51に上書きし(S55)、上書きされたバッファ51の格納内容をLCD31に表示する(S46)。ところが、バッファ51bの格納内容は既に消去されているので、バッファ51の格納内容が消去されることになり、LCD31は、待機中の画面となる。
このときのLCD31の表示例を図4(1)に示す。」(3頁4欄、段落25)

(周知例7)
イ.「次に上記構成において、フアクシミリ装置が電源SW ONされ、待機状態((注)動作/待機中の待機はメモリー蓄積してあるとの意味でこの意味とは異なる)にある時には、LCD液晶偏光板は、時刻あるいは前述した各種の状態エラー情報を表示する。この時、バツクライトは主電源にあるため、待機状態の待機電源では光らせず、ハーフミラー19cによって、第4図の如く、外光を光線Aの如く読取可能とする。
また、原稿をうけつけてから、スタートボタンを押されて送信中となった、あるいは電話をするため、ダイヤルキーを押した、受信中である、メモリーに画情報を蓄積した、リダイヤル待機中の時には、それぞれの状態を示す言葉をLCD偏光板に表示し、バツクライト照明を発灯する。この時第4図に示す如く、一点鎖線Bの光線を見ることができる。したがって動作/待機中には、通常よりも明るく表示を見ることができ、通常の表示状態と判別することが可能である。」(3頁左上欄17行目?右上欄15行目)

例えば上記周知例6、7に開示されているように「送信中や受信中、待機中等の実行中の動作状態を画像表示する通信装置」は周知である。

(6)例えば実願昭62-22304号の願書に添付した明細書と図面を撮影したマイクロフィルム(実開昭63-129348号参照、以下「周知例8」という。)又は特表平4-504934号公報(以下、「周知例9」という。)又は例えば特開平4-137961号公報(以下、「周知例10」という。)又は例えば特開平1-264044号公報(以下、「周知例11」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
(周知例8)
イ.「2.実用新案登録請求の範囲
複数の無線通信システムについてそれぞれ移動無線機および各移動無線機を通じて検出される各無線通信システムの状態情報を表示する表示器をそなえ、上記の各表示器が共通の表示パネル上に配設されたことを特徴とする複数無線通信システム状態表示装置。」(1頁、実用新案登録請求の範囲)
ロ.「また、上記実施例では、無線通信システムを3種類とし、各システムの使用空間を自動車内としているが、本考案の装置はこれに限定されるものではない。」(9頁11?14行目)
ハ.「以上のように、この考案によれば、複数の無線通信システムについての状態情報を共通の表示パネル上の表示器により集中的に表示するように構成したので、通話者は、各システムの稼働状態を一目で判別できるようになつて、適宜、最適の無線通信システムを選択使用でき、電波の有効利用をはかれるとともに、低料金の無線通信システムを選択できる効果がある。」(9頁16行目?10頁3行目)

(周知例9)
イ.「希望により、通信ユニット(104)は、未選択のトランシーバを随時用いて、他の利用可能なシステムを短い間監視することもできる。このような利用可能なシステムの識別は、メニュー・メソセージ(501)により通信ユニット(104)に通知される。この機構により、通信ユニット(104)は掲示板コントローラ(206)により支配されている地理的範囲内にあるさまざまなシステムの利用可能状況をその地理的な位置により随時判定することができる。この情報により、通信ユニット(104)が地域全体にわたって移動したためにより望ましいシステムが利用可能になると、通信ユニット(104)はそれ自体のシステム状態を優先順位にしたがって自動的に変更することができ、あるいは他の情報の利用可能状態をオペレータに単に知らせることができる。
第4図では、通信ユニットの1つの実施例はメニュー・メツセージに示されるシステムを英数字で表示するディスプレイ(309)を有している。たとえば、上記のような場合、掲示板コントローラ(206)は、3つのシステム。すなわちページング・システム(101)、SMRトランキング・システム(102)およびオンサイト・システム(103)の利用可能状態を示す。3種類すべてのシステムが表示されて、これらのシステムの全体的な利用可能状態に関する情報をオペレータに提供することができる。ベージング・システムとSMRトランキング・システムとは、ボールド体で表示されており、両方のシステムが現在通信ユニット(104)の利用圏内にあり、かついずれかをユニットにより選択することができることを示している。オンサイト・システム(103)は、通常はその地域内で利用できることがディスプレイ上に示されるが、ボールド体で表示されていないので、現時点で通信ユニット(104)はアクセスできないことを示しでいる。この場合、これは地理的範囲の制約によるものである。
ディスプレイには、通信ユニット(104)により選択された単数または複数のシステムを示すインジケータ(401)があり、これによって通信ユニット(104)は、掲示板コントローラ(206)を介して登録されている。第4図では、このインジケータ(401)は、通信ユニット(104)が現在SMRトランキング・システム(102)内で動作するトランク陸上移動無線装置として機能していることを示している。」(5頁左上欄5行目?右上欄20行目)

(周知例10)
イ.「1)通信網に接続され、通信先が属する領域を指定する番号を含む通信先番号を入力することにより指定した相手先と通信を行なう発信制御部(5)を有する通信端末装置において、
通信先番号を入力するデータ入力部(1)と、加入者が属する領域の指定番号とこの番号に対応する領域情報とを格納した領域情報格納部(2)と、
データ入力部(1)から入力した相手先番号を領域情報格納部(2)に格納した領域情報と比較し該当する領域情報を判定する比較判定部(3)と、
比較判定部(3)で判定した領域情報を表示する領域表示部(4)とを備えたことを特徴とする通信端末装置。」(1頁左下欄、特許請求の範囲第1項)
ロ.「尚、上記の実施例によれば、入力される通信先番号は市外局番を含む電話番号として、表示する領域情報を市外局名としたが、これは通信先番号を国別番号を含む国際電話番号して領域情報を上記国別番号に対応する国名としたり、通信網を企業内の専用通信網とし、通信先番号を当該専用通信組における特定相手先番号として、領域情報を特定相手先番号に対応する事業所等の相手先名とするようにしてもよい。
また、上記の実施例においては通信端末装置としてファクシミリ装置を例として説明したか、電話器その他の通信端末装置に適用することができる。」(3頁右下欄15行目?4頁左上欄7行目)

(周知例11)
イ.「特許請求の範囲
1.表示機能を有する電話機等の有線通信宅内端末装置、又は自動車電話機等の移動体通信端末装置(以下電話機等と言う)に於いて、時計機能を内蔵したマイクロコンピューターを用い、ダイヤルボタンから入力されるか、予め記憶装置に保持されている選択信号(ダイヤル番号)中の国コード、又は国コード+地域コードをキーとして、半導体記憶素子等からなるテーブルを検索して求めたデータを処理し、対地の日付、曜日、時刻(以下対地時刻等と言う)、又は国名、国名+地域名(以下国名等と言う)を表示装置を介する視覚的手段、又は音声出力装置を介する聴覚的手段の何れか一方、又は双方の手段により表示(アナウンス)することを特徴とする電話機等の表示装置。」(1頁左下欄、特許請求の範囲第1項)

例えば上記周知例8、9に開示されているように「表示器を備え、接続可能な無線通信サービス網の名称を、上記画面に表示するとともに、その無線通信サービス網の名称の中から選択された無線通信サービス網について、現状で接続可能か否かを表す情報を上記画面に表示する手段を備えた複数の無線通信システムに接続できる携帯型電話装置」は周知であり、
また例えば上記周知例10、11に開示されているように「領域又は選択信号中の国コードに対応する国名を表示する通信装置」は周知である。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明の「複数の国の公衆通信回線」と引用発明の「複数の公衆通信回線」はいずれも「複数の公衆通信回線」である点で一致している。
また本願発明の「データ」と引用発明の「音声」はいずれも「信号」である点で一致している。
また本願発明の「上記複数の国の公衆通信回線から送られてくるデータで示される音声を出力するイヤー通話器」と引用発明の「音声を出力する受話器」はいずれも「音声を出力する受話装置」である点で一致している。
また本願発明の「上記複数の国の公衆通信回線から送られてくるデータと上記複数の国の公衆通信回線へ送出するためのデータとの少なくとも何れかを記憶するメモリ」、「上記アンテナと、上記無線通信手段と、上記接続仕様記憶手段と、上記通信制御手段と、上記接続仕様信号出力手段と、上記イヤー通話器と、上記メモリとを収容する第1の筐体」、「情報を表示するディスプレイを収容する第2の筐体」、「上記ディスプレイに、上記無線通信手段が、データ受信中であれば「データ受信中」の画像を表示させ、データ送信中であれば「データ送信中」の画像を表示させ、データ受信待機中であれば「受信待機中」の画像を表示させる表示制御手段」を引用発明が備えているか否かは不明である。
また、本願発明の「携帯型無線電話装置」と引用発明の「自動車電話装置」はいずれも「無線電話装置」である点で一致している。
したがって、本願発明と引用発明は以下の点で一致ないし相違している。

<一致点>
「アンテナによって、複数の公衆通信回線に無線によって接続され、該複数の公衆通信回線を経由して発信、または受信を行う無線通信手段と、
上記複数の公衆通信回線への接続仕様を記憶する接続仕様記憶手段と、
上記無線通信手段に対する制御指令の出力、上記無線通信手段を経由して上記複数の公衆通信回線から送られてくる信号の入力、または上記無線通信手段を経由して上記複数の公衆通信回線への信号の送出を制御する通信制御手段と、
上記接続仕様記憶手段の記憶内容に基づいて、上記無線通信手段、又は上記通信制御手段に、上記無線通信手段が上記複数の公衆通信回線に接続するための接続仕様に関する信号を出力する接続仕様信号出力手段と、
音声を出力する受話装置と、
を備えている無線電話装置。」

<相違点>
(1)「複数の公衆通信回線」に関し、本願発明は「複数の国の公衆通信回線」であるのに対し、引用発明は単に「複数の公衆通信回線」である点。
(2)「信号」に関し、本願発明は「データ」であるのに対し、引用発明は「音声」である点。
(3)「音声を出力する受話装置」に関し、本願発明は「上記複数の国の公衆通信回線から送られてくるデータで示される音声を出力するイヤー通話器」であるのに対し、引用発明は「音声を出力する受話器」である点。
(4)本願発明は「上記複数の国の公衆通信回線から送られてくるデータと上記複数の国の公衆通信回線へ送出するためのデータとの少なくとも何れかを記憶するメモリ」を備えているのに対し、引用発明は「メモリ」に関する構成が不明である点。
(5)本願発明は「上記アンテナと、上記無線通信手段と、上記接続仕様記憶手段と、上記通信制御手段と、上記接続仕様信号出力手段と、上記イヤー通話器と、上記メモリとを収容する第1の筐体」を備えているのに対し、引用発明は「第1の筐体」に関する構成が不明である点。
(6)本願発明は「情報を表示するディスプレイを収容する第2の筐体」を備えているのに対し、引用発明は「第2の筐体」に関する構成が不明である点。
(7)本願発明は「上記ディスプレイに、上記無線通信手段が、データ受信中であれば「データ受信中」の画像を表示させ、データ送信中であれば「データ送信中」の画像を表示させ、データ受信待機中であれば「受信待機中」の画像を表示させる表示制御手段」を備えているのに対し、引用発明は「表示制御手段」に関する構成が不明である点。
(8)本願発明は「現在位置している無線電話サービス網の属する国名を調査して、その調査した国名を上記ディスプレイに表示させる手段」を備えているのに対し、引用発明は当該手段に関する構成が不明である点。
(9)「無線電話装置」に関し、本願発明は「携帯型無線電話装置」であるのに対し、引用発明は「自動車電話装置」である点。

4.当審の判断
(1)上記相違点(1)の「複数の公衆通信回線」について
例えば上記引用例2に記載されているように「GSM移動電話サービス」で利用できるエリアは「GSMネットワーク(GSMサービスエリア)と称し、これは多数の国々をカバーする」ものであり、「移動電話システムは、主としてこのような「国家」移動電話システムを指すものとし、これは、他国の移動電話ネットワークと通信することもできるし、或いは公衆交換電話ネットワークのような他の通信システムと通信することもできる」ものであることは周知であり、引用発明の複数の公衆通信網としてこのような「国家移動電話システム」を利用する上での阻害要因は何ら見あたらないから、当該周知の「GSMネットワーク移動電話システム」に基づいて、引用発明の「複数の公衆通信回線」を本願発明のような「複数の国の公衆通信回線」とする程度のことは当業者であれば適宜なし得ることである。

(2)上記相違点(2)の「信号」及び上記相違点(3)の「音声を出力する受話装置」について
例えば上記周知例1、2に記載されているように「携帯電話機能にワープロやファクシミリ等のデータ通信機能を付加し、公衆回線回線を経由して音声あるいはデータの発信、または受信を行う携帯型電話装置」は周知であり、また例えば上記周知例3?5に開示されているように「携帯電話機の受話器としてイヤホンを用いる」ことや上記周知例4、5に開示されているように「携帯電話機がデジタル無線公衆回線に接続される(即ち、音声がデジタルデータとして送受信される)」ことも周知である。
そしてこれらの周知技術を引用発明に適用する上での阻害要因は何ら見当たらないから、これらの周知技術に基づいて、引用発明の信号である「音声」を本願発明のような「デジタルデータとしての音声」を含む「データ」に変更する(相違点(2))とともに、引用発明の受話装置である「受話器」を、上記相違点(1)及び前記相違点(2)の検討結果を踏まえ、本願発明のような「上記複数の国の公衆通信回線から送られてくるデータで示される音声を出力するイヤー通話器」とする(相違点3)程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。

(3)上記相違点(4)の『本願発明は「上記複数の国の公衆通信回線から送られてくるデータと上記複数の国の公衆通信回線へ送出するためのデータとの少なくとも何れかを記憶するメモリ」を備えているのに対し、引用発明は「メモリ」に関する構成が不明である点』について
例えば上記周知例2、3に開示されているように「携帯電話機に留守番機能を付加する」ことは周知であり、当該機能の付加により携帯電話機は留守録用のメモリを必然的に備えることとなるものである。また接続される公衆通信回線が複数の国を対象とする通信システムが周知であることは上記相違点(1)で検討したとおりである。
したがって、これらの周知技術に基づいて、引用発明の無線電話装置に「上記複数の国の公衆通信回線から送られてくるデータと上記複数の国の公衆通信回線へ送出するためのデータとの少なくとも何れかを記憶するメモリ」を備える構成を付加する程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。

(4)上記相違点(5)の『本願発明は「上記アンテナと、上記無線通信手段と、上記接続仕様記憶手段と、上記通信制御手段と、上記接続仕様信号出力手段と、上記イヤー通話器と、上記メモリとを収容する第1の筐体」を備えているのに対し、引用発明は「第1の筐体」に関する構成が不明である点』、及び、上記相違点(6)の『本願発明は「情報を表示するディスプレイを収容する第2の筐体」を備えているのに対し、引用発明は「第2の筐体」に関する構成が不明である点』について
引用発明にイヤー通話器やメモリを備えるように構成することが適宜なし得ることであることについては上記相違点(1)?(3)で指摘したとおりである。
一方、例えば上記周知例1、3、4に開示されているように「表示器付き携帯電話機を折り畳み型に構成する」ことは周知であり、当該周知技術を引用発明に適用する上での阻害要因も何ら見あたらず、また上記引用例3には「コードレス電話と携帯電話のような無線通信端末でも自動ローミング技術が採用されること」、「これらの端末は自動ローミング手段を含んで1台で構成されること」、「自動ローミング技術は電話に限らず、無線ファクシミリ装置、データ端末等の無線通信端末に対しても適用できること」が開示されているから、前記周知技術及び上記引用例2に記載された技術手段に基づいて、引用発明の無線電話装置を二つの筐体からなる1台の折り畳み型の携帯電話装置として構成するとともに、前記引用発明にかかる無線電話装置の構成要素及び所望により新たに付加される構成要素を前記二つの筐体に適宜振り分けることにより、本願発明のような「上記アンテナと、上記無線通信手段と、上記接続仕様記憶手段と、上記通信制御手段と、上記接続仕様信号出力手段と、上記イヤー通話器と、上記メモリとを収容する第1の筐体」を備える(相違点(5))とともに、「情報を表示するディスプレイを収容する第2の筐体」を備える(相違点(6))ように構成する程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。

(5)上記相違点(7)の『本願発明は「上記ディスプレイに、上記無線通信手段が、データ受信中であれば「データ受信中」の画像を表示させ、データ送信中であれば「データ送信中」の画像を表示させ、データ受信待機中であれば「受信待機中」の画像を表示させる表示制御手段」を備えているのに対し、引用発明は「表示制御手段」に関する構成が不明である点』について
例えば上記周知例6、7に開示されているように「送信中や受信中、待機中等の実行中の動作状態を画像表示する通信装置」は周知であり、当該周知技術を引用発明に適用する上での阻害要因は何ら見あたらないから、当該周知技術に基づいて、引用発明の無線電話装置(自動車電話)に前記周知のその時々の動作状態を画像表示する動作表示手段を付加し、本願発明のような「上記ディスプレイに、上記無線通信手段が、データ受信中であれば「データ受信中」の画像を表示させ、データ送信中であれば「データ送信中」の画像を表示させ、データ受信待機中であれば「受信待機中」の画像を表示させる表示制御手段」を備えるように構成する程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。

(6)上記相違点(8)の『本願発明は「現在位置している無線電話サービス網の属する国名を調査して、その調査した国名を上記ディスプレイに表示させる手段」を備えているのに対し、引用発明は当該手段に関する構成が不明である点』について
例えば上記周知例8、9に開示されているように「表示器を備え、接続可能な無線通信サービス網の名称を、上記画面に表示するとともに、その無線通信サービス網の名称の中から選択された無線通信サービス網について、現状で接続可能か否かを表す情報を上記画面に表示する手段を備えた複数の無線通信システムに接続できる携帯型電話装置」は周知であり、また例えば上記周知例10、11に開示されているように「領域又は選択信号中の国コードに対応する国名を表示する通信装置」も周知であるところ、上記相違点(1)で検討したように「多数の国々をカバーする国家移動電話システム」も周知であり、前記接続可能な(即ち現在位置している)通信サービス網の名称にサービス網が属する「国名」が含まれていれば当然に国名を含む通信サービス網の名称が表示されるものである。また前記「領域又は選択信号中の国コードに対応する国名を表示する」ための手段には国名の検索(即ち、調査)を行うことが含まれるから、これらの周知技術に基づいて、表示すべきサービス網の名称又はコード若しくは識別データ等に国名又は国コード等の国名データが含まれていればこれを検出して表示することにより、引用発明に「現在位置している無線電話サービス網の属する国名を調査して、その調査した国名を上記ディスプレイに表示させる手段」を付加するように構成する程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。

(7)上記相違点(9)の「無線電話装置」について
上記引用例3、周知例8、9に開示されているように「複数の無線通信システムに接続できる携帯型電話装置」は周知であり、当該周知技術を引用発明に適用する上での阻害要因は何ら見あたらないから、当該技術手段に基づいて、引用発明の自動ローミング技術を備えた「自動車電話」を本願発明のような「携帯型無線電話装置」とする程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明および引用例2、3に記載された技術手段並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-02 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-22 
出願番号 特願2006-57856(P2006-57856)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 勝広  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 高野 洋
石井 研一
発明の名称 携帯型無線電話装置  
代理人 足立 勉  

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