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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1231932
審判番号 不服2010-2374  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-04 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 特願2004-126432「定着ローラおよび定着装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月4日出願公開、特開2005-309113〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年4月22日の出願であって、平成21年5月21日付の拒絶理由通知に対し、同年7月16日付で意見書、手続補正書が提出され、同年10月23日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月4日付で拒絶査定に対する審判請求がなされたものであり、その請求項1に係る発明は、平成21年7月16日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲・請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
(以下「本願発明」という。)

「【請求項1】
未定着像を坦持した記録材に上記未定着像を溶融定着させるための電磁誘導発熱式の定着ローラであって、
電磁誘導発熱層と、
この電磁誘導発熱層の径方向の内側に距離を隔てて配置された芯金層とを備え、
上記電磁誘導発熱層の厚さT_(1)μmは、上記電磁誘導発熱層の表皮深さδ_(1)μmよりも小さく、
上記電磁誘導発熱層と上記芯金層との間の距離T_(2)は、
T_(2)>0.04×(T_(1))^(2)/δ_(1)を満たすことを特徴とする定着ローラ。」

2.引用された刊行物1に記載の発明

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された国際公開第03/043379号(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。(アンダーラインは当審で付与した。)

《1a》
「また、本発明の画像形成装置は、被記録材に未定着画像を形成し担持させる画像形成手段と、前記未定着画像を前記被記録材に熱定着させる像加熱装置とを有し、前記像加熱装置が上記本発明の像加熱装置である。
これにより、ウォームアップ時間が短く、定着画質の優れた画像形成装置を得ることができる。
以下に、本発明の加熱ローラと、上記定着装置15として使用される本発明の像加熱装置の実施の形態を、具体例(実施例)を示しながら詳細に説明する。
(実施の形態I-1) 図1は図5に示した上記画像形成装置に用いられる、本発明の実施の形態I-1の定着装置としての像加熱装置の断面図である。・・・図4は加熱ローラ21の発熱層22を含む表層部の層構成を示す断面図である。
21は加熱ローラで、表面側から順に、薄肉導電材よりなる発熱層22、低熱伝導材よりなる断熱層23、及び回転軸となる支持層24が互いに密着して構成されている。 図4に示すように、発熱層22は、断熱層23側の第1の発熱層51と、その外側の第2の発熱層52とからなり、第2の発熱層52の表面には薄肉の弾性層26が形成され、さらにその表面に離型層27が形成されている。
第1の発熱層51は磁性材料からなり、好ましくは磁性金属からなる。実施例では第1の発熱層51として、磁性ステンレス鋼SUS430(固有抵抗:6×10^(-7)Ωm)を厚さ40μmの薄肉無端ベルト状に形成したものを用いた。なお、第1の発熱層51はSUS430に限らず、ニッケル、鉄、クロムなどの金属又はこれらの合金であっても良い。
第2の発熱層52は非磁性材料からなり、第1の発熱層51よりも小さな固有抵抗を有し、第1の発熱層51よりも薄い肉厚を有する層である。実施例では、第1の発熱層51の表面に銅(固有抵抗:1.7×10^(-8)Ωm)を5μmの厚さでメッキすることにより形成した。なお、第2の発熱層52は銅に限らず、銀、アルミニウム等で形成しても良く、メッキに限らずメタライジング等で形成しても良い。
また、磁性ステンレス鋼SUS430と銅とを予め接合したクラッド材を、無端ベルト状に形成して、発熱層22としても良い。
弾性層26は被記録材との密着をよくするために設けられる。実施例ではシリコーンゴムよりなり、厚さ200μm、硬度20度(JIS-A)とした。弾性層26は設けなくても支障はないが、カラー画像の場合には設けることが望ましい。弾性層26の厚さは200μmに限定されるものではなく、50μmから500μmの範囲が望ましい。上記の範囲より厚いと、熱容量が大きくなりすぎてウォームアップ時間が遅くなる。上記の範囲より薄いと、被記録材との密着性の効果がなくなる。弾性層26の材質は、シリコーンゴムに限らず、他の耐熱性のゴムや樹脂を使用しても良い。
離型層27はPTFE(四フッ化エチレン)、やPFA(四フッ化工チレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP (四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素系の樹脂よりなる。実施例では厚さ30μmのフッ素系樹脂層とした。
支持層24は好ましくは非磁性金属からなる。実施例では、支持層24は、固有抵抗2.65×10^(-8)Ωmのアルミニウムからなり、その直径は20mmとした。
断熱層23は低熱伝導性の発泡状の弾性体からなり、硬度は20?55度(ASKER-C)が望ましい。実施例では、断熱層23はシリコーンゴムの発泡体(熱伝導率:0.24W/m・K)よりなり、硬度45度(ASKER-C)、厚さ5mmとし、弾力性を有していた。
実施例において、加熱ローラ21の直径は30mmであり、その有効長はJIS規格のA4用紙の幅(短辺長さ)に対して余裕を持たせた長さとした。発熱層22の幅(加熱ローラ21の回転軸中心方向の長さ)は断熱層23の幅より僅かに短く形成されている(図3参照)。
実施例では、発熱層22を断熱層23に接着した。」
(「実施の形態I-1」説明欄、14頁13行?16頁22行)

《1b》
「また、発熱層22として、肉厚40μmのSUS430層上に形成する銅メッキ層の厚みを変化させた場合の発熱量変化を解析により求めた。・・・特に銅メッキ層厚さが1?20μmの範囲で発熱層22の全体発熱量が大きく増加している。また、銅メッキ層厚さが厚くなるにしたがって、SUS430層の発熱量が減少している。これは、SUS430層を通過する磁束が減少していることを意味する。従って、支持層24に達する磁束も減少し、支持層24の発熱量が減少する。即ち、発熱層22が効率よく加熱されていることを意味する。・・・
本実施の形態では、ウォームアップ時間を短縮するという目的を達成するために、発熱層22の厚さを表皮深さ以下に薄くし、この発熱層22を外部から電磁誘導により効率よく加熱した。発熱層22を薄肉(実施例では合計厚さで45μm)に形成したので、発熱層22の剛性が小さい。従って、加圧ローラ31の外周面に沿って変形が容易で、被記録材11との剥離性が極めて良好である。・・・
また、一般に、加熱ローラの熱容量が少なくなるほど、ニップ部を通過するときの加熱ローラの表面温度は被記録材等に吸熱されて激しく低下する。ところが、本実施の形態では、発熱層22より外側の弾性層26と、発熱層22より内側の断熱層23とがある程度の熱量を蓄えるので、温度低下が少なく均一な温度で定着が可能である。 また、本実施の形態では、励磁コイル36や背面コア37よりなる励磁手段は加熱ローラ21の外側に設置されているので、励磁手段等が発熱部の温度の影響を受けて昇温しにくく、発熱量を安定に保つことができる。 また、一般に、プロセス速度が大きくなると、定着に必要なニップ長Lnとニップ圧力とを確保するために、加熱ローラ21と加圧ローラ31との間に強い圧力が必要となってくる。本実施の形態では、この圧力を弾性体からなる断熱層23を介して、支持層24で受けるため、支持層24のたわみは比較的小さくニップ長Lnが幅方向に均一で、かつ広いニップ領域が得られる。 以上により、本実施の形態では、ウォームアップ時間が短く、かつ十分なニップ長とニップ圧とにより優れた定着性の得られる加熱ローラおよび像加熱装置を提供できる。また、発熱層22が断熱層23及び支持層24と一体として回転するので、発熱層22の摩耗や動作抵抗が低減され、また、発熱層22の蛇行も生じない。」
(「実施の形態I-1」説明欄、23頁20行?26頁8行)

・これら記載によれば、刊行物1には、「実施の形態I-1を中心に以下の発明が記載されているものと認められる。
(以下、「刊行物1発明」という。)

「未定着画像を被記録材に担持させ熱定着させる像加熱装置の加熱ローラであって、励磁コイル36や背面コア37よりなる励磁手段は加熱ローラ21の外側に設置されており、
加熱ローラの層構成は、表面側から順に離型層27、弾性層26、発熱層22、断熱層23、回転軸となるアルミニウムからなる支持層24であって、
発熱層22の厚さを表皮深さ以下に薄く45μmとし、この発熱層22を外部から電磁誘導により効率よく加熱、一方、
発熱層22と支持層24との間に介在する断熱層23は5mm(=5000μm)で低熱伝導性の発泡状の弾性体からなり、支持層24には、ニップ圧や発熱層22の温度が伝わりにくく、たわみの小さい加熱ローラ。」

3.対比・判断

3-1.対比・判断

本願発明と刊行物1発明とを対比するに、
刊行物1発明の
「加熱ローラ21」、
「外側に設置されている励磁コイル36や背面コア37よりなる励磁手段で電磁誘導により加熱される(加熱ローラ21)」、
「未定着画像を被記録材に担持させ熱定着させる」、
「発熱層22」、
「アルミニウムからなる支持層24」、
「発熱層22の厚さ」、
「発熱層22の表皮深さ」、
「発熱層22の内側で支持層24との間に介在する断熱層23の厚さ」
「発熱層22の厚さを表皮深さ以下に薄くし」
は、それぞれ、
本願発明の
「定着ローラ」、
「電磁誘導発熱式の(定着ローラ)」、
「未定着像を坦持した記録材に上記未定着像を溶融定着させる」、
「電磁誘導発熱層」、
「芯金層」、
「電磁誘導発熱層の厚さT_(1)」、
「電磁誘導発熱層の表皮深さδ_(1)」、
「電磁誘導発熱層と芯金層との間の距離T_(2)」、
「電磁誘導発熱層の厚さT_(1)μmは、上記電磁誘導発熱層の表皮深さδ_(1)μmよりも小さく」に相当する。
そして、刊行物1発明の「発熱層22と支持層24との間の距離=断熱層23の厚さ=5000μm」は、
刊行物1発明の「発熱層22の厚さ」(=45μm)や、
刊行物1発明の「表皮深さ」(≧発熱層22の厚さ=45μm)との間で、
「発熱層と支持層間の距離>0.04×(発熱層厚さ)^(2)/表皮深さ」
なる関係式を満たしているから、
本願発明の
「電磁誘導発熱層と芯金層との間の距離T_(2)に係る関係式
T_(2)>0.04×(T_(1))^(2)/δ_(1) を満たす」といえる。

してみると、本願発明と刊行物1発明とは、すべての点で一致し、相違するところは無い。

3-2.審判請求人の主張について

なお、審判請求人は、【請求の理由】欄で、
《ア》「刊行物1では、・・・発熱層22と支持層24との間の距離(T_(2))と、発熱層22の厚さ(T_(1))と、発熱層22の表皮深さ(δ_(1))との互いの関係について、全く開示がありません。」、
《イ》「(刊行物1では、)発熱層22と支持層24との間の距離(T_(2))と、定着ローラの昇温時間および発熱効率との関係について、全く開示がありません。」、
《ウ》「刊行物1では、・・・「ウォームアップ時間を短縮する」という効果のみを有することが記載されているだけであります。・・・これに対して、本願請求項1では、・・・「昇温時間の短縮および発熱効率の低下の防止を同時に満たす」という刊行物1とは異質で予期しない顕著な効果を得ているのであります。 」といい、
本願発明の新規性進歩性を主張しているので、それら諸点の検討結果をまとめて下記に示す。

《ア》について
刊行物1発明では、(実施の形態I-1)という単一の実施例の中で、「ウォームアップ時間を短縮するという目的を達成するために、発熱層22の厚さを表皮深さ以下に薄くし、この発熱層22を外部から電磁誘導により効率よく加熱した。」として、「発熱層22の厚さ(T_(1))<発熱層22の表皮深さ(δ_(1))」の必須構成を示し、且つ、
「加熱ローラの熱容量が少なく・・・ニップ部を通過するとき・・・表面温度は被記録材に吸熱されて激しく低下する。ところが、・・・発熱層22より内側の断熱層23とがある程度の熱量を蓄えるので、温度低下が少なく均一な温度で定着が可能である。」、
「ニップ・・・圧力を弾性体からなる断熱層23を介して、支持層24で受けるため、支持層24のたわみは比較的小さくニップ長Lnが幅方向に均一で、かつ広いニップ領域が得られる。」として、「発熱層22の厚さ(T_(1))<<断熱層23の厚さ=発熱層22と支持層24との間の距離(T_(2))」の必須構成を示しているのであるから、3つのパラメータの相互関係が開示されていることは明白であり、審判請求人の主張は認められない。

《イ》について
刊行物1発明では、上述《ア》の検討からも明らかな様に、発熱層22と支持層24との間の距離(T_(2))(=断熱層23の厚さ)を大きくすることが、ローラ昇温時間を短縮しつつ発熱効率、定着性能を高める上で重要である点について示されているといえるから、審判請求人の主張は認められない。

《ウ》について
刊行物1発明では、上述《ア》の検討からも明らかな様に、「ウォームアップ時間を短縮する」効果のみならず、発熱効率が高い、定着画質が優れるなどの効果が奏される作用や理由が詳述されているから、審判請求人の主張は認められない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-01 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-22 
出願番号 特願2004-126432(P2004-126432)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 目黒 光司  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
一宮 誠
発明の名称 定着ローラおよび定着装置  
代理人 山崎 宏  
代理人 田中 光雄  
代理人 仲倉 幸典  

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