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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1231973
審判番号 不服2007-32769  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-05 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 特願2000- 83962「プロピレンオキサイドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月 2日出願公開、特開2001-270877〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年3月24日の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成19年10月15日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成19年11月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年12月5日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願請求項1に係る発明は、平成19年10月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された次のとおりのものである。
「【請求項1】 下記の工程を含むプロピレンオキサイドの製造方法であって、エポキシ化工程終了時におけるクミルアルコールを含む溶液中のイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドの濃度が3重量%以下であるプロピレンオキサイドの製造方法。
酸化工程:イソプロピルベンゼンを酸化することによりイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドを得る工程
エポキシ化工程:酸化工程で得たイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドとプロピレンとを反応させることによりプロピレンオキサイド及びクミルアルコールを得る工程
水素化分解工程:エポキシ化工程で得たクミルアルコールを温度180℃以上で水素化分解することによりイソプロピルベンゼンを得、該イソプロピルベンゼンを酸化工程の原料として酸化工程へリサイクルする工程」

3.引用例
原査定の拒絶理由に引用された本願出願前の刊行物であるチェコスロバキア特許発明明細書第140743号公報(1971年)(以下、「引用例」という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、チェコスロバキア語であるため翻訳文で摘示し、下線は当審で付した。
(1-i)「エポキシ化反応は主に25?200℃の温度下、1?140気圧の状態で行われる。ヒドロパーオキサイドの97?100%は転化し、その内エポキシ選択性は80?95%になる。エポキシ反応では副産物として第2級、第3級のアルコール類が生成され、例えば、エチルベンゼンヒドロパーオキサイドからはメチルフェニル・カルビノール、クメンヒドロパーオキサイドからはジメチルフェニル・カルビノール、第3級ブチルヒドロパーオキサイドからは第3級ブタノールが生成される。アルコール以外には少量のケトンが得られる。・・・」(第3欄3?18行参照)
(1-ii)「本発明に基づく芳香族ヒドロパーオキサイドを用いてのオレフィンのエポキシ化による酸化オレフィンの生産方法の反応温度は25?200℃、1?140気圧下で、反応混合物のオレフィンと芳香族ヒドロパーオキサイド比率が1を超えるモル比であり、それに続く含酸素脂肪族芳香族生成物の接触水素化分解による芳香族炭化水素の生成では反応温度は30?300℃、水素圧0.1?300気圧、水素添加触媒を使用し、銅の含有触媒がもっとも適切である。」(第3欄41?53行参照)
(1-iii)「酸化プロピレンの技術的生産(図1)では、酸化性芳香族の副産物の分離に続いて触媒性水素化分解と蒸留法が行われることにより、同時に生産過程中の芳香族炭化水素のサイクルが完成される。」(第3欄54?59行参照)
(1-iv)「芳香族の酸化物の水素化分解は気相及び液相下で高圧状態で行われる。酸化物のほぼ完全な転化が得られる高性能の触媒は銅を基にした触媒である、例えば、クレメライン銅(kremeline copper)、骨格状金属銅触媒及びアドキンソン銅・クロム触媒である。炭化水素の再生には、以下に例が挙げられている通り、その他の水素添加触媒の使用が可能である。以下に記載されている酸化プロピレンの製造法が本発明に基づいた例の全てではない。」(第3欄60行?第4欄6行参照)
(1-v)「例1
3.5kgのクメンは酸素と反応、120℃で酸化し、クメンヒドロパーオキサイドの選択性は94.0%で、全転化率は21.5%である。0.89kgのクメンヒドロパーオキサイドと2.75kgのクメンと少量の副産物の混合物が1.22kgのプロピレンのエポキシ化に使用された。エポキシ反応温度は110℃、反応混合物中のプロピレンとクメンヒドロパーオキサイドのモル比は5である。ヒドロパーオキサイドの量に比例して、プロピレンのエポキシ化反応抽出量は理論値の78.4%に達し、プロピレンの選択性は95.6%であった。0.26kgの酸化プロピレン及び未反応のプロピレンとクメンの他に、蒸留法により0.61kgのジメチルフェニル・カルビノールが分離された。
気相のジメチルフェニル・カルビノールは、0.2気圧、反応温度140℃で、触媒としてクレメライン銅が使用され水素化分解が行われた。転化率は100%、クメンの水素化分解の選択性99.8%では0.53kgのクメンが再生され、このクメンはクメンヒドロパーオキサイド生産に必要なプロピレンオキサイド生成サイクルに戻され使用された。」(第4欄7?31行参照)

4.対比、判断
そこで、本願発明と引用例に記載された発明とを対比する。
引用例には、上記「3.」の引用例の摘示事項からみて、クメンを酸化してクメンヒドロキシパーオキサイドを製造し(摘示(1-v)参照)、得られたクメンヒドロキシパーオキサイドによってプロピレンを酸化しプロピレンオキサイドとジメチルフェニル・カルビノールが製造され(摘示(1-i),(1-v)参照)、ジメチルフェニル・カルビノールを水素化分解してクメンを製造し、該クメンがプロピレンオキサイド生成サイクルに戻されること(摘示(1-ii)?(1-iv),(1-v)参照)が明らかであるから、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。
「下記の工程を含むプロピレンオキサイドの製造方法。
酸化工程:クメンを酸化してクメンヒドロキシパーオキサイドを得る工程
エポキシ化工程:酸化工程で得たクメンヒドロキシパーオキサイドによってプロピレンを酸化させプロピレンオキサイド及びジメチルフェニル・カルビノールを得る工程
水素化分解工程:エポキシ化工程で得たジメチルフェニル・カルビノールを水素化分解することによりクメンを得、該クメンをプロピレンオキサイド生成サイクルに戻す工程」

そして、両発明には、次の対応関係が認められる。
(a)引用例発明の「クメン」、「クメンヒドロキシパーオキサイド」、「ジメチルフェニル・カルビノール」は、それぞれ順に、化合物の命名法が違っているものの本願発明の「イソプロピルベンゼン」、「イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド」、「クミルアルコール」に相当する。
(b)引用例発明の「酸化工程:クメンを酸化してクメンヒドロキシパーオキサイドを得る工程」は、前記(a)の対応を勘案し、本願発明の「酸化工程:イソプロピルベンゼンを酸化することによりイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドを得る工程」に相当する。
(c)引用例発明の「エポキシ化工程:酸化工程で得たクメンヒドロキシパーオキサイドによってプロピレンを酸化させプロピレンオキサイド及びジメチルフェニル・カルビノールを得る工程」は、前記(a)の対応を勘案し、本願発明の「エポキシ化工程:酸化工程で得たイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドとプロピレンとを反応させることによりプロピレンオキサイド及びクミルアルコールを得る工程」に相当する。
(d)引用例発明の「水素化分解工程:エポキシ化工程で得たジメチルフェニル・カルビノールを水素化分解することによりクメンを得、該クメンをプロピレンオキサイド生成サイクルに戻す工程」は、前記(a)の対応を勘案し、本願発明の「水素化分解工程:エポキシ化工程で得たクミルアルコールを」「水素化分解することによりイソプロピルベンゼンを得、該イソプロピルベンゼンを酸化工程の原料として酸化工程へリサイクルする工程」に相当する。

してみると、両発明は、
「下記の工程を含むプロピレンオキサイドの製造方法。
酸化工程:イソプロピルベンゼンを酸化することによりイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドを得る工程
エポキシ化工程:酸化工程で得たイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドとプロピレンとを反応させることによりプロピレンオキサイド及びクミルアルコールを得る工程
水素化分解工程:エポキシ化工程で得たクミルアルコールを水素化分解することによりイソプロピルベンゼンを得、該イソプロピルベンゼンを酸化工程の原料として酸化工程へリサイクルする工程」
で一致し、次の相違点A,Bで一応相違している。
<相違点>
A.本願発明では、「エポキシ化工程終了時におけるクミルアルコールを含む溶液中のイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドの濃度が3重量%以下である」と特定されているのに対し、引用例発明ではそのような表現では特定されていない点。
B.水素化分解の温度について、本願発明では、「温度180℃以上で」と特定されているのに対し、引用例発明ではそのように特定されていない点

そこで、これらの相違点について検討する。
(1)相違点Aについて
引用例では、(イ)「酸化性芳香族の副産物の分離に続いて触媒性水素化分解と蒸留法が行われること」(摘示(1-iii)参照)、また、(ロ)引用例の実施例1では、クメンヒドロキシパーオキサイドを用いたプロピレンのエポキシ化の後、「蒸留法により0.61kgのジメチルフェニル・カルビノールが分離されたこと」、及び、(ハ)該実施例1では、「ジメチルフェニル・カルビノールは、・・・水素化分解が行われた。転化率は100%、クメンの水素化分解の選択率99.8%で0.53kgのクメンが再生され」とされていることが記載されている。そして、ジメチルフェニル・カルビノール即ちクミルアルコール4.48モル(≒0.61kg/分子量136.19)の水素化分解によりクメン4.41モル(≒0.53kg/分子量120.19)が得られていることになり、少なくとも98.5%(≒4.41モル/4.48モル)の割合でクメン(即ちイソプロピルベンゼン)が得られたことが理解でき、この割合98.5%は、クメンへの転化率99.8%と整合しているし、いずれの数値(98.5%,99.8%)でも、本願明細書の実施例1の水素化分解液組成におけるイソプロピルベンゼンの割合97.5重量%とほぼ同程度かそれ以上のものであることを示している。
一方、本願発明の「エポキシ化工程終了時におけるクミルアルコールを含む溶液中のイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドの濃度が3重量%以下である」点について本願明細書を検討すると、「エポキシ化工程終了時におけるクミルアルコールを含む溶液とは、常温・常圧において液体である成分からなる溶液を示しており、主にイソプロピルベンゼン、クミルアルコールからなる溶液であって、未反応のプロピレンは含まれていない。」(本願明細書段落【0013】参照)と説明され、「イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドの濃度を抑える方法としては、エポキシ化工程において反応によりクミルアルコールへ転化する方法、エポキシ化工程以降で反応により別の化合物へ転化する方法、蒸留、抽出等によりイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドの全て又は一部を発明の工程から系外へ除去する方法、吸着剤等により濃度を減少させる方法等のいずれを用いてもよい。」(同書段落【0014】参照)と説明されていることから、エポキシ化反応直後の溶液ではなく蒸留などの処理を行った後のものも対象と解するのが相当である。
してみると、引用例の実施例では、蒸留法でジメチルフェニル・カルビノール(即ちクミルアルコール)を分離した後に水素化分解に供されていること、及び、引用例の実施例での水素化分解の反応の物質収支(上記参照)からみて、水素化分解物の組成中に含まれるクメン(イソプロピルベンゼン)の濃度が本願実施例1のイソプロピルベンゼンの濃度と同程度以上と認められることから、「エポキシ化工程終了時におけるクミルアルコールを含む溶液中のイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドの濃度が3重量%以下である」と解するのが相当である。なお、引用例の実施例において、ジメチルフェニル・カルビノール(即ちクミルアルコール)は蒸留されているところ、収量を0.61kgと測定していることから、溶液になっているものと推定できるし、また、水素化分解を液相で行うことも示されている(摘示(1-iv)参照)から、そして、本願発明でも「液相」または気相中で実施できる。」(本願明細書段落【0012】参照)とされているのであるから、「溶液中の」との用語によって両発明の間に実質的な差異が生じるものではない。
更に、引用例では、「エポキシ化反応は・・・・。ヒドロパーオキサイドの97?100%は転化し」(摘示(1-i)参照)と説明されているのであるから、パーオキサイドの分子量(イソプロピルベンゼンをリサイクルする場合を想定し、イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドの分子量152.19)と転化後のアルコールの分子量(クミルアルコールの分子量136.19)の差を考慮しても、エポキシ化反応終了後のヒドロパーオキサイド(イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド)の濃度は、3重量%程度以下になることは引用例発明でも想定されているものというべきである。
以上のとおりであるから、相違点Aは、実質的に相違するものではない。

(2)相違点Bについて
本願発明では、補正によって水素化分解温度について「温度180℃以上で」と特定されたが、本願当初明細書の段落【0012】では「30?400℃の温度が好ましい」とされていたにすぎず、180℃での実施例があるものの、180℃以上とすることによって技術的に格別優れたものとなることは何ら言及されていなかったものであり、また、反応温度が180℃以上とそれ以下(180℃未満)とで格別の差異が生じること示すデータも示されてない。
一方、引用例の実施例1では、水素化分解の温度は「反応温度140℃」(摘示(1-v))とされているが、一般的説明での水素化分解は「反応温度は30?300℃」(摘示(1-ii)参照)と説明されているように、実施例に限定すべき理由はなく、引用例発明においても例えば180℃以上でも適宜乃至は容易に実施されるものというべきである。そして、水素化分解の反応温度を「温度180℃以上で」と特定したことによって格別予想外の作用効果を奏しているとは認められない。

なお、請求人は、意見書(平成19年10月15日付け)及び審判請求理由(平成19年12月5日付けの審判請求書)において、(α)「引用例1では水素化分解を140℃で行っているので,クメンハイドロパーオキサイドの分解が微量であった可能性もある。」との主張や、(β)「エポキシ化工程後に残存しているクメンハイドロパーオキサイドが蒸留あるいは水素化分解工程でどのように変化しクメン(イソプロピルベンゼン)の損失を生じているかの記載も示唆もない。」との主張をしている。
しかし、(α)の点については、その主張を裏付ける具体的根拠が明らかにされていないし、また、本願当初明細書では単に「30?400℃の温度が好ましい」とされていただけで、180℃以上と特定することにより技術的意議に格別の差異があることはなんら言及されていなかったものであるから、(α)の主張は採用できない。なお、単に「30?400℃の温度が好ましい」との記載しかなく且つ180℃との一点の実施例しか無い状況で、技術的意義があるとして「180℃以上」に特定することは新規事項の追加に相当することになる。
次に、(β)の点については、エポキシ化工程後に残存しているクメンハイドロパーオキサイドの濃度がクメンの損失に影響があることを明らかにしたところで、引用例発明では、上記「(1)相違点Aについて」で検討のとおり既にその影響が少ない程度の濃度でプロピレンオキサイドの製造サイクルが行われていると認められるから、勘案することはできない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-02 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-21 
出願番号 特願2000-83962(P2000-83962)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 恵  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 荒木 英則
内藤 伸一
発明の名称 プロピレンオキサイドの製造方法  
代理人 中山 亨  

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